プロローグ
飛び散る火花。
剣と剣がぶつかり合う度に響く重い鉄の音。
ドラゴンの中でも最大級の大きさを誇る種、エルドレンドドラゴンが丸々一頭入る程の空洞の中でその戦闘は行われていた。
空洞内部は、まともな神経の人間ならば思わず目を背けてしまうであろう、異常な光景が広がっていた。
硬い地面の上には、腐敗した体から黒ずんだ骨を数本はみ出させた、酷く醜悪な風貌をした異形の死体がいくつも転がっていた。彼らの死体は死してなお、生者を“あちら側”へ引き摺りこもうと、時折ピクリ、ピクリと痙攣していた。そして、そんな彼らの下には彼らが流したのであろう、タールの様な黒い粘着質の液体──魔血が巨大な沼を作り出していた。
一方、その異常空間を作り出した者たちは、死体の山から少し離れた場所で相対していた。
全身に朱殷の鎧を纏った人物は、一切装飾のない無骨な黒の大剣を構え、油断なく相手を見据えていた。鎧と同じく朱殷の兜を被っていて風貌は分からないが、兜の隙間から覗く琥珀色の双眸は戦闘用ホムンクルスのように酷く無機質なものだった。
対峙するは干からびた体に錆びた鉄の鎧を纏った不気味な怪物だった。本来目があった部分は落ち窪んでいて、口からは絶えず、聞くに耐えない冒涜的な言葉の数々を吐き出していた。よく聞けばそれは数百年前に、海を挟んだ大陸に君臨していたと伝わる魔国で使用されていた言語だったが、干からびた体から発せられる声は空気混じりで掠れており、数メートルの距離を持って対峙していた男に伝わることは無かった。
鎧の人物と怪物は互いに睨み合った状態のまま中々動かない。鎧の人物は兎も角として、怪物は見た目以上の知性はあるようで、下手に懐に突っ込むことはせず、得物である槍を巧く使い大剣と渡り合っていた。
空洞を静寂が支配する。
互いに動かぬ状態のまま数十秒。痺れを切らした鎧の人物は一瞬の内に間合いを詰め、大剣を振るう。怪物の錆びた鎧は砕け、その体は真っ二つに切断される──に思えたが、音が置いていかれる程の速さで、怪物の持つ槍が大剣の進行方向に飛び出し、耳障りな重い音が響くと同時に大剣の軌道が逸らされる。
軌道を逸らされ、叩き斬る対象を失った大剣は虚空を斬る。重心が急に移動したために鎧の人物はふらついてしまう。急いで態勢を直す。が、その一瞬の隙に怪物は再び槍を振るい、鎧の継ぎ目の僅かな隙間を突こうとしていた。硬い鎧の上からなら兎も角、そんな所を怪物の腕力で突かれてしまえば、最悪戦闘不能に陥るだろう。
鎧の人物は当たってしまうにしてもせめて鎧の上から、と必死に体を捻り、当たりどころを調整しようとする。
その甲斐あってか、槍は鎧の胸部辺りを少し陥没させるにとどまった。
危なかった、と小さく息を吐き出し、鎧の人物は距離を取る。追撃しても良かったが幾度かの攻防の内に怪物は剣筋を読んでくるようになった。無理矢理突っ込んでも勝利はもぎ取れない。
一度距離をとって体勢を立て直してからの方が確実だろう。そう考えさらに距離を取ろうとするが、怪物はそれを許さない。先程同様に音を置き去りにした突きで鎧の人物の命を狙ってくる。
鎧の人物が気付いた時には槍の切っ先は目の前に迫っていた。この距離からでは流石に避けられそうに無い。
遂に決着がつく──かに思えた瞬間、怪物は足元の小さな“土”の塊に足を引っ掛けて大きく転倒する。体が傾いた瞬間、己の死を直感した怪物は置き土産に、ほぼゼロ距離に達していた槍を倒れゆく中で一押しする。
が、置き土産が意味をなすことは無かった。
鎧の継ぎ目に突き刺さる前に、槍は黒い“ナニカ”に包み込まれたのだ。ソレは槍の推進力をゼロにすると同時に、穂先の方から、槍を無に還していた。
そして槍が完全に無に還されると、鎧に男は地面に倒れた怪物に向かって大きく大剣を振り被る。怪物は起き上がることも、動くこともなく、甘んじて大剣による死を受け入れた。
大剣が怪物に深く、深く突き刺さる。
数秒の後に、大剣を引き抜くと、怪物の体内から溢れ出てきた魔血が勢い良く鎧の人物にかかる。元々黒っぽくなっていた鎧はすっかり黒く染まり、下の朱殷の色が見えない程になっていた。
しかし鎧の人物が小さな声で何か呟くと、鎧は一瞬のうちにして元の色を取り戻す。再び何か呟くと、今度は大剣が綺麗になる。
一仕事終えた鎧の人物は、辺りを見回して他に脅威がいないことを再確認すると、兜を外し、軽く頭を振る。
厳めしい兜の下から現れた顔は、その身なりに似合わぬ端正な顔立ちをしていた。年は15、16程だろうか。アッシュブロンドの髪に琥珀色の瞳。顔のつくりにはどこか幼さを感じさせられるが、目には獲物を狙う鷹の如き鋭さがあった。
そして、丁度鎧の少年が兜を外したタイミングで、少年の背後にあった巨大な扉が勢いよく開かれ、五人の少年少女が飛び込んできた。
深夜テンションって怖いねっていうだけの話です。
基本“日常”です。......戦闘狂の日常がいかなるものかは読者の皆様にお任せします。
あと、説明書くとgdるので、初めて出てきた言葉は基本後書きか幕間か何かで簡単に解説します。今回出てきた魔血については閑話やろうと思ってます。