やちるちゃんと尸魂界公安調査員   作:クスいち

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BLEACHプロローグ。読み返したらやちるちゃんしか出てない。


ブラック企業、公安調査員

 尸魂界の朝は早い。

 

 特に自分のような下っ端は、朝一番に出勤。そして掃除や先輩たちの使う道具の手入れもしなければいけない。そこから朝礼。護廷十三隊だとその後訓練やパトロールになる。

 

 しかし、私は技術開発局の事務員なのでパトロールも訓練もせず、刀もお飾りになっている。ちなみに刀が重くて家に忘れたことにして置いて来ようと思ったこともある。実際やったらマユリ隊長に無言で爆弾組み込まれそうになったのでもうやめる。

 

 何あの隊長。パワハラってレベルじゃない。

 

 ともかく、戦っていなくても代わりに毎日紙と乱雑な字と格闘しているのだから許してほしい。

 私の仕事は主に、尸魂界の壊れた建物の把握、破壊された理由を精査し、どこに責任があるのかを調べること、多くは『尸魂界公安調査員』と呼ばれている。

 

 平和に平凡に。もう二度と死ぬことがないようにこの職を選んだのに。

 

 

「っあぁ!もう全然読めないんだけど!?」

 いやもう字が汚い。ミミズにインク付けただけでも、もう少しマシな字が書ける。

 

「アハ、うちの隊長がごめんねぇめるめる~」

 

「めるめる!?昨日まで私のことめるりんって呼んでなかった?」

 

「んー…お饅頭、めるめるも食べる?」

 振り向いたらやちるちゃんはもぐもぐとお饅頭を食べていた。小動物みたいで可愛いけど、持ってきている書類の束を見て眩暈がする。

 

 あと私の名前は巳繰メルなので、今めるめると呼ばれている。もうしょっちゅうあだ名が変わるので諦めることにした。

 やちるちゃんは普段は剣八隊長の肩に乗ってるが、よくこうやって書類を届けに来てくれる。あまりにも来る回数が多すぎて今ではすっかりただの友達になった。

 

「お饅頭はいいよ。ねえやちるちゃん、なんでこんなに壊したの…?」

 

「えーっとね、近道!しようと思った!」

 

「近道っていうのは近い道を選ぶことだからね!?壁を突き破って道を作っちゃいけません!」

 

 十一番隊はバカ…いや血気盛んな人が多すぎてしょっちゅう建物を壊す。しかもろくに書類を書いてくれない。

 

 ナルシストの僕っ子が建物を壊した理由で『美しくない』と書いてあった時は書類を引き裂こうかと思った。

 美しくないって何だよ。黄金比にでも沿って建物作れってことか?こっちはいつも君たちが壊すから経費カツカツなんだよ。

 

 

「あとなんで自分の隊の道場まで壊したの?もう10回目だよ?」

 

「えへへ」

 

 何故か得意気なやちるちゃんにイライラする。その時、コンコンと控え目なノックが響いた。

 

「あのぅ、すみません……」

 

「あ!ひなっちだー!」

 

「やちる副隊長。ご、ご無沙汰してます」

 

 おどおどした様子で入ってきたのは五番隊副隊長の雛森さんだった。

 別に雛森さん自体は全く嫌いでないが、これ以上仕事を増やされたくなくて思わず眉をひそめる。

 

「ごめんなさい!あの、シロくんと一緒に屋根に上って話してたら、瓦が落ちちゃって……急いで見に行ったんですけど、粉々に割れてて……すみません。私のお給料から引いてもらって大丈夫なので、お願いします……!」

 

 なんて可愛いんだろう。

 瓦一枚でわざわざ書類を書いてここまで持ってきてくれるなんて。

 しかも隊に迷惑をかけまいとこんな朝早くにこっそり来てくれて。同じ副隊長のやちるちゃんにも見習って欲しい。

 

「はあ~……」

 

「めるめる、今失礼なこと考えたでしょ」

 

「雛森さん、書類確かに受理しました。多分お給料にも影響出ないと思いますよ。やちるちゃん、とりあえず一緒に壊したところ確認しに行くよ!」

 

「じゃあやちるが運んであげるー!」

 

「いやそれはいい!ねえ、いいってば!」

 

 後ずさる私の首根っこを掴むと、とても外見には似つかわしくない力で引っ張り上げる。

 

「ちょうど剣ちゃんもいるから!楽しみだね!」

 

「聞いてない――――――!!」

 

 そしてやちるちゃんはそのまま私ごと十階から飛び降りた。

 

 

 

 その後もやちるちゃんは近道なんだよ!と叫びながら屋根の上を猛ダッシュし、ざっと見ただけでも瓦が30枚ほど落ちて割れてた。

 おかしいな、仕事がどんどん増えていく。

 

 結局迷子になり立ち止まった隙をついて頭を思いっきり叩き、普通に下ろして一緒に歩いて行くことにした。

 

 

 その後も仕事をサボって昼寝してる京楽隊長を見たり、ニヤニヤしてるギン隊長にからかわれたり松本副隊長に捕まって愚痴を聞かされたり愛染隊長にアメをもらったりしたけど、なんとか五番隊の道場まで来ることが出来た。

 

「おう、来たかやちる」

 

 頭ツンツンしてる眼帯の隊長が出てくる。相変わらず大きいし怖いし苦手だなあ。あと鈴の音がうるさい。

 

「とりあえず壊した理由を聞きますよ」

 

「アァ?書類に書いてあっただろが」

 

「読めないんですよ!これ!」

 

 どう考えても書類の文字は『かゆ……うま……』くらいしか読めない。

 

「久しぶりに剣道したら壊れちまったんだよ」

 

「もう両手で剣握らないでもらっていいですか?」

 

 そもそも隊長が全力で稽古なんてしないでほしい。どこぞの十三番隊なんて隊長は稽古場でお茶飲みながら見学してるのに。

 

「とりあえずあそこ直してくれや」

 

 剣八隊長の指した方には見事に折れた柱があった。そして何人かで支えている。屈強な男たちが一つの柱に集まって縮こまっている様子はなんだか笑えるが、笑っていられる状況ではない。

 

「なんで人力でどうにかなると思っちゃったんですか……」

 

 本日何回目かのため息が出る。

 

「隊長ォ!そろそろ限界です!」

「僕もそう思うよ……!」

 

 ハゲとナルシストが必死に下から支えていたが、多分道場がぺしゃんこになるのも時間の問題だろう。

 そもそも一週間前に道場を全壊させた罰としてここの道場は雑な掘っ立て小屋のような作りになっていたはずだ。

 

「疲れるからやりたくないのに」

 ブツブツ文句を言いながらも私は刀をぬく。

 別にこれから剣八隊長と戦おうなんて微塵も思っていない。そんなことしたらミンチになっちゃう。

 私はただ応急処置をするだけだ。

 折れた柱に刀身を当て、息を吸い込む。

 

 

「―――集え、『標剣(しるつぎ)』」

 

 

 なんの変哲もない私の刀がじんわりと青白い煙を帯びた。

 ちなみに待っても特にこれ以上の変化はない。伸びたりとか砂になったりとか破壊光線みたいなのが出たりもしない。

 

 ところで、尸魂界に存在するものは霊子というもので出来ている。

 一番贅沢に霊子が使われているのが我々死神だったり霊体である。それが消える、つまり死ぬことで霊子が解けて拡散し、現世へと向かう。

 そして現世で新たな命となって生を受け、寿命を迎え、尸魂界へと戻ってくることでこの世は循環している。

 その霊子は尸魂界の食べ物などにも含まれているので摂取することも出来るが、常に空気中に霊子が満ちているので呼吸するだけでも生きてはいける。

 

「めるめるがんばー!」

 

 やちるちゃんの声援にも応えてあげたいが今そんな余裕はない。

 

 私の斬魄刀≪標剣≫は空気中の霊子を集め、新しく創造する刀だ。

 じゃあ何でも直せるじゃん!最強!と思うが、刀自体は触れた霊子を可視化し刀身の周りに留めるまでしか出来ない。

 あとは気合でその霊子を組み立てている。

 

目を閉じて刀の周りに集まっている霊子を一つ一つ、木に張り付けて固定していく。体感的には30分ほど、この地味で冴えない作業を続けていく。

 

「で、出来たぁ~!」

 

 疲れた。腕立て300回と腹筋300回した時並に疲れた。

 柱は見た限りでは綺麗に元の姿に戻った。

 

「めるめる、前よりも早く直せるようになったね!」

「そうかな」

 

 実は毎晩特訓してもらっているのだ。友達の前でその成果をお披露目出来て少し嬉しい。

 思わず笑顔で振り向いた瞬間、空を切り裂くようなサイレンが鳴った。

 

 

 

『―――緊急警報‼緊急警報‼瀞霊廷内に侵入者有り‼各隊、守護配置について下さい‼』

 

 

 

 あぁ、また仕事が増える。

 私はまたため息をついて空を見上げた。

 




どう考えてもブラック企業
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