もし一人のオリキャラが増えることで、ユウキが生きるルートが生まれるなら   作:葦束良日

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06 グランドクエスト

 

 ソウマがSAOからの生還者である、というのは薄々感じていたことだった。そして、キリトもそうだろうと。

 何故なら、ユウキは自分の腕に自信があったからだ。VR世界で、という条件付きであるなら自分の運動能力はそこそこ高い位置にあると彼女は自負していた。

 そしてそれは過信ではなかった。VR世界で行動するには、脳への電気信号を一度堰き止めてアミュスフィア等へと信号を流す必要がある。そうすることで本来脳へと向かい、後に現実に反映されていたであろう意識からの命令を、VR世界で反映させることが出来るのだ。

 それはつまり、肉体的な要因に関わらず、VR世界では意識したそのままに体(アバター)を動かせるということになる。

 ゆえに、現実世界でのハンデは無意味となる。そして、肉体に依らない感覚――とりわけ反射神経に関しては、ユウキは元々高いレベルにあった。そしてその感覚を何の枷もなく解放して動き回ることが出来るVR世界に、ユウキは絶えずログインしていた。

 それは、現実の肉体で過ごすことが過度の負担になるための仕方ない処置であったが、しかしそれゆえにユウキの反射神経、反応速度はVR世界の中で磨かれ続けた。

 常にログインしていると言っていいような状態で過ごすことにより、ユウキはVR世界での体の動かし方なども無意識のうちに熟知していた。そのうえ、絶えず動くことにより感覚はどんどんと鍛えられていき、いつしかそれはユウキにとっての最大の武器にまでなっていた。

 

 スリーピング・ナイツの面々と冒険をした時も、ユウキの役目は決まって切り込み隊長兼メインアタッカーであった。戦闘力という意味では姉である藍子に一歩及ばないとユウキ自身は思っていたが、藍子にはリーダーとして指揮を執るという役割もあったため、自然と攻撃はユウキの役目であった。

 通常の活動に加えて戦闘を行うことにより、ユウキのそれはもはや常人の及ばない域にまで達しようとしていた。同じ境遇で過ごすギルドメンバーでさえ、ユウキと勝負ができる者は姉の藍子以外にはいなかったほどである。

 その培ってきた自負があるこそ、ユウキは思っていた。自分を超える存在がいるとすれば、それは自分以上にVR世界で生きた存在だろうと。

 

 だからこそ、SAO生還者であるという結論に至ったのだ。

 ナーヴギアの開発から二年以上。ユウキもほぼ同時期にフルダイブを始めたため、SAOプレイヤーとはほぼ同時間ダイブしていたことになる。

 そして、ユウキとSAOプレイヤーに差があるとすれば、それはSAOに生きる彼らは本当に「勝つか死ぬか」の生き方をしていたということだろう。

 ユウキとてVR世界で生きていると言っても過言ではなかったが、それでもHPがなくなったところでユウキ自身がどうこうなるわけではなかった。しかし、HP全損がイコール死に直結していた彼らは、ユウキ以上に必死に感覚と技を磨いてきたはずだった。

 実戦に勝る経験なし、とは誰の言葉だったか。ともあれ、本物の実戦で常に背水の陣を敷いて生きてきた彼らならば、自分が負けることも当然あるだろうとユウキは思っていた。

 尤もユウキ自身がそう思っているだけで、ソウマとキリトに聞けば「ユウキの反応速度は天性のもの。間違いなく攻略組のトップレベルにいないと勝てない」と言っただろう。

 更に言えば彼女もSAOにいたなら、その卓越した反応速度はより一層、加速度的に磨かれていたに違いなかった。それこそ、全プレイヤー中最も反応速度が優れた者に送られるユニークスキル《二刀流》は、キリトではなくユウキのものになっていたかもしれない。

 ともあれ、そういった理由からユウキはソウマとキリトをSAO生還者であると察していた。ソウマは自分を下した事があるし、キリトの動きは自分と遜色ないか上に位置するほどの速さだったからだ。

 

 彼女はそのことを理解して、不意にある衝動に駆られるようになっていた。

 SAOを生きてきた彼らに聞いてみたいことがあったのだ。

 それがゆえ、彼らの正体に関する推測がぽろりと口から出た。それが彼――ソウマにとっては触れられたくない記憶であるかもしれなかったのに。

 しかし、ソウマは怒らなかった。そしてむしろ認めたのだ。自分は確かにSAOプレイヤーだったと。

 そして今、ユウキは手近なベンチにソウマと隣り合って腰を下ろしていた。ちらちらと横目で見れば、本当にソウマには気にした様子がない。

 少し安心したユウキだったが、ふとソウマが顔を自分へと向けてきてどきりとする。そして、「何か、訊きたいことがあるんじゃないのか?」とソウマのほうから尋ねてきた。

 ユウキにとっては、ありがたい言葉だった。自分から尋ねるのは、少し気が引けていたからだ。案外、そんな自分の様子を見てソウマが気を使ってくれたのかもしれない。そう思って、ユウキは心の中でソウマに頭を下げた。

 そして、今度はソウマに見える形で一度頭を下げた。「今から、答えにくいことを訊くかもしれないけど……」と前置きをして。

 それに対して苦笑し、「気にするな。それより、時間がないぞ」と言ってメニューを開いて時間を見るソウマ。確かに、キリトとリーファからいつ連絡があるかもしれないのだ。時間はあまりなかった。

 だから、まずユウキは彼のそんな何でもないような態度に感謝し、そして意を決すると口を開いた。

 

 ――ソウマにとって、SAOってどうだった?

 

 ソウマはなんとも言いづらそうな顔で黙り込み、そして一つ頷く。

 

「……そうだな……。――楽しかった」

 

 ソウマの口から出てきたのは、一言だった。

 ユウキは予想外な言葉に驚いて目を見開く。

 

「楽しかったの?」

「ああ。確かに、SAOはひどいもんだった。自殺者だって出たし、モンスターとの戦闘は命がけ。果てにはHPがなくなれば死ぬとわかっていながらPKを繰り返す奴もいた。現実での将来なんかは取り返しがつかなくなったし、家族には心配かけたし、それに――」

 

 そこで、ソウマは少し表情を歪めた。

 

「仲間もたくさん死んだし、俺だって何度も死にそうになったし、死にたくもなった」

 

 それを言う時のソウマの顔を、ユウキはなんと表現していいかわからなかった。

 悲しさ、寂しさ、悔しさ、怒り、情けなさ、そんな何もかもが混ざり合っているのに溶け合ってはいないような表情。ただ、ソウマの中で多くの負の感情を呼び起こすものがやはりSAOにはあったのだとユウキは知る。

 しかし、それでもソウマは言っていた。

 

「…………けど……、けど、楽しかったの?」

「ああ」

 

 もう一度確認をしても、ソウマの答えは変わらなかった。

 それどころか、更に力強く断言していた。その表情もどこか柔らかくなり、ソウマは世界樹の枝葉が茂る天空へと顔を向けた。

 

「SAOがなかったら、その死んだ仲間たちにだってそもそも出会えてなかった。あいつらと笑い合った時間は本物で、後悔なんてするはずもない大切なものだ。キリトやアスナ、クライン、エギル、リズ、アルゴ……あそこに行かなきゃ会えなかった奴らが大勢いる」

 

 上を向いていた視線は降ろされ、ユウキと向き直る。ユウキの目から見るソウマの顔には後悔など見つけられなかった。ただ微かに湛えられた笑みが印象的だった。

 

「だから、楽しかった。皆との出会いをくれたのは間違いなくアインクラッドだったし、その場を作ってくれた茅場晶彦には、そういう意味じゃ感謝してる」

 

 尤も許したつもりはないけどな、とソウマは言った。

 それは当然だろうとユウキも思う。茅場晶彦がやったことは例えどんな理由を並べたところで許されるべきものではない。

 けれど、その中でしか手に入れられなかったものもある。そういうものもあるのだと、ユウキは理解した。

 しかし、納得はできなかった。何故なら、ユウキにとってはそこまで割りきれそうにない事柄だったからだ。

 

「仲間が、その……だったのに?」

 

 言葉を濁して、ユウキは言った。その仲間たちの結末を言葉にするのは、ユウキにとっては重過ぎた。しかし、それでも聞かなくてはいけないことだった。ユウキにとっても仲間とは特別で、譲れないものだったからだ。

 ソウマはユウキが濁した部分も察してくれたようで、頷いて言葉を続けた。

 

「それでもだ。俺は、あいつらの分も生きなきゃ、とか、自分だけが生き残って、とか、今は思ってないしな」

 

 自分の鼓動がひときわ大きく跳ねたのを、ユウキは感じた。

 今、ソウマが言ったのはまさしく自分が抱えている悩みの一つであり、同時に聞いてみたいことでもあったからだ。自分だけが生き残ってしまう、そのことこそがユウキの悩みの根幹にある部分であるのがその理由だった。

 ユウキは一度口の中の唾液を呑みこむ仕草をする。アバターに唾液はないためモーションのみであるが、それだけ慎重になるだけの理由がユウキにはあった。

 恐る恐る、といった様子でユウキは唇を動かした。

 

「えっと……それは、どうして?」

「どうしてか……。あいつらの人生はあいつらのもので、俺に肩代わりなんて出来るわけないからだよ」

 

 よくわからない。ユウキはソウマの言葉の意味を理解しようと頭を働かせようとするが、その前にソウマ自身が「何て言えばいいか……」と言葉を探しつつ続けた。

 

「いくら俺があいつらの分も生きるって思っても、あいつら本人はもういない。けど、あいつら本人じゃないと出来ない事が、きっと世界には有ったはずなんだ。それはあいつらだから必要とされる事で、俺じゃどうにも出来ない事だ。そういうことが、きっとあったはずなんだ」

 

 例えば家族の気持ちがそうだとソウマは言う。それはいくら自分が「あいつらの分も生きる」と言ったところで、彼ら自身ではない自分にはどうすることも出来ない限界なのだと。

 だからこそ、ソウマはそんなことを言わない。

 ただ、そういう考えに至るには結構な時間がかかったとソウマは苦笑した。ユウキにも少しわかる。それだけ仲間という存在が大切なものだったのだ。

 

「自分だけが生き残って、っていうのもな。思ったことはない。最初は確かにちらっと思ったけど、すぐに気付いたんだよ」

 

 ユウキは問う。一体なにに気付いたのか、と。

 ソウマは答えた。

 

「俺が逆の立場だったら、そんなこと思ってほしいか、ってさ」

 

 ユウキは目を見開いた。

 

「で、思ったんだ。俺だったら違うな、って。生きてくれたことを喜んで、俺が死んだことなんて気にせずに、どうか笑って生きてくれますようにと祈る。死んだら祈るぐらいしか出来なからな。いや、それも出来ないか?」

 

 首を傾げるソウマだったが、まぁいいかと呟いて更に続ける。

 

「あいつらもそうだったと俺は信じてる。お人好しの集団みたいなもんだったからな……。それに、そのぐらいの信頼はあった。お互いにな」

 

 ソウマはそう言って笑った。それは、仲間の死を受け入れただけではない。その死を乗り越えたからこそ浮かべることが出来る笑顔だった。

 ユウキはそれを見て純粋に、いいな、と思った。何がかはわからない。けれど、そんな笑みを浮かべることが出来たなら、きっと自分も前を向いて生きていけるような、そんな気がした。

 

「っと、なんか湿っぽい話になっちゃったな。悪い、ユウキ」

「そ、そんなことないよ! ボクのほうこそごめん、変なこと聞いちゃって……」

「気にするなって。俺もあいつらのこと思い出せて楽しかったし」

 

 懐かしいなぁ、と変わらず笑っているソウマは、その記憶を過去のものとして割り切っているわけではない。既に受け入れて、乗り越えたからこそ、こうして笑顔でその思い出を語ることが出来るのだろう。

 それがまるでユウキが抱える悩みを越えた先にある姿に見えたからだろうか。思わずその笑顔をじっと見つめていたユウキは、はっと我に返ると意識して視線を逸らした。 なんだかソウマの顔をじっと見ていたことが、気恥ずかしく思えたからだった。

 その時、ふとソウマがメニューを操作する。そして「あっ」と声を上げたかと思うと、改めてユウキに向き直った。先程の動揺もあって、少しだけユウキの鼓動が早くなる。

 

「キリトからだ。気を遣わせてごめん、世界樹前で待ってる……だとさ」

「そ、そっか。じゃあ、もう行かないとね!」

「だな」

 

 ソウマが立ち上がり、ユウキもそれを追って立ち上がる。そして歩き出したソウマの横に並びながら、ユウキは思う。

 自分の仲間はどうだろうかと。ソウマが言っていた彼の仲間たちと比べて、自分たちはと。

 スリーピング・ナイツの皆と過ごしてきた時間が頭の中を巡る。様々な場所を様々な感情と共に生きてきた、これまでの軌跡。一人一人の顔を脳裏に思い浮かべて、ユウキはふと込み上げてくる感情に逆らわず、口元を綻ばせた。

 そうだ、自分たちだって一緒だ。お互いに掛け替えのない、大切な仲間だ。自分がそう思っているように、皆もそう思ってくれていると自信を持って言うことが出来る。

 ユウキがもし逆の立場なら、生きる道を往くことになる仲間に何て言うだろう。……そんなこと、考えるまでもないことだった。

 

「ね、ソウマ」

「ん?」

 

 視線を下げて自分を見た彼に、ユウキは満面の笑みを向ける。

 大切なことに気がつくことが出来た。その感謝と、思いを込めて。

 

「ありがとう!」

「は? お、おう」

 

 いきなり感謝を笑顔で告げられたソウマは居心地悪そうだった。ユウキは困惑する姿にまた少し笑みを深めた。

 ソウマの手を握る。驚く彼を気にしないようにして、ユウキは繋がれた手を大きく振りながら走り出した。つられて走ることとなったソウマから若干非難の声が上がったが、すぐに止む。急いでいるのは間違いなかったので、別にいいかと思ったのかもしれない。

 頭上から降り注ぐ陽光が照らし出す道を、ユウキは高揚した気分のまま駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 ユウキに手を引かれつつ世界樹を守護する像が鎮座する広場まで戻ってきてみれば、そこにはキリトとリーファが並んで立っていた。どうやら仲直りできたようで、ひとまずは胸を撫で下ろす。

 そしてその横に立つシルフの少年。見覚えがある……確か、リーファの友人でレコンといったはずだ。

 隣のユウキがリーファに駆け寄っていき、笑顔で話しかけている。それを見つつ、俺はキリトに顔を向けた。そしてその顔に浮かぶ、刻み込まれたかのように決然とした表情を見て、俺は全てを悟った。

 今からこいつは、このメンバーだけで、世界樹の攻略を始めるつもりなのだと。

 しかし、そうなると……。俺はレコンに向き合った。

 

「俺たちはこれから世界樹の攻略に挑む。君も参加してくれるのか?」

「えっ?」

 

 後ろでリーファが「そいつも参加するわ」と言っているが、俺は「人手は多い方がいいが、本人の気持ち次第だろ」と返した。

 特に世界樹攻略なんて、本当は他種族も絡めた超大規模なパーティを組んで挑戦するものだ。たかだか数人で挑むのは自殺行為に近い。俺とキリトには理由がある。リーファとユウキもついてきてくれると言った。しかし、レコンは違うはずだった。

 消費する時間、アイテム、場合によってはデスペナルティをどれだけ重く考えるかは人によって違う。人手が欲しいからと無理やり連れて行くのは、性分ではなかった。

 だからこその問いだったが、レコンは僅かに逡巡を見せるもすぐに目に力を込めた。

 

「ぼ、僕も行くよ! リーファちゃんを守るのは、ぼ、僕の役目だし!」

「いつからあんたの役目になったのよ!」

 

 レコンの情熱的な宣言にすかさずリーファからの訂正が入るが、その隣のユウキはにんまりと笑って「へぇ~」とリーファの脇腹をつついていた。

 それに「違うからね!」と答えるリーファと、にやにやとした笑いを崩さないユウキ。そんな気の抜けるようでいながらも頼もしい仲間たちに苦笑しつつ、俺はレコンに手を差し出した。

 

「じゃあ、俺たちは一蓮托生の仲間ってわけだ。よろしくな、レコン」

「あ、は、はい!」

 

 差し出された手を握り返し、レコンは力強く頷いた。

 

「よし。それじゃあ――行くか」

 

 空気が切り替わる。キリトの気迫がこもった一言が周囲に溶け、一気に戦場の空気がこの場を満たしていく。

 リーファ、ユウキ、レコンの表情も変わる。戦いを決めた者の顔、立ちはだかる障害を打倒しようという決意に満ちた頼もしい姿だった。

 彼らを見つつ、俺はもう一度だけメニューを開く。祈るような気持ちでその中に表示されるアイコンを見ると、そのうちの一つに小さな光が灯っているのが見えた。メッセージ受信を示すアイコンである。

 それに気づくと同時に、背後から聞こえてくる翅の音にも気がついた。

 

「――間に合ったか」

 

 思わず呟いた言葉に、前を向いていたキリトが振り返る。

 そしてその視線は俺へ、さらに徐々に持ち上がって空へ。俺の背後に広がる空へと向けられ、その瞳が驚愕のままに見る見る丸くなっていく。

 そして、遠くから聞こえてくる懐かしい声。俺もまたキリトと同じように振り返った。

 

「ぅおーい! キリト、ソウマー! ひっさしぶりじゃねぇかよぉ!」

 

 陽気な声。若干しがれたような声は、俺にとってもキリトにとっても馴染み深いものだ。その容貌はサラマンダー。赤い鎧に身を包み、同じく赤い髪を逆立ててバンダナを巻いた男が、ぶんぶんと手を振りながらこちらに向かって飛んできていた。

 その後ろに、シルフ、ウンディーネ、レプラコーンなど、多様な種族で構成された十数人のプレイヤーを引き連れて。

 

「なっ、な……!」

 

 キリトが驚きのあまり言葉に詰まっている。

 リーファとユウキ、レコンもいきなりのことに何事かとその一団に目を向けていた。

 俺だけはその一団を見て驚くでもなく、安堵の溜め息を漏らしていると、ついにキリトがその驚愕を思う存分声に乗せて爆発させた。

 

「クラインッ!?」

「おうよ! お前の頼れる親友クライン様が来てやったぜ、キリの字よぉ!」

 

 俺たちの前に降り立ったサラマンダーの男――かつてSAOにて《風林火山》という名の攻略組ギルドを率いた俺たちの親友は、にかっと精悍な顔に人懐っこい笑みを浮かべて、呆然としているキリトの肩を勢いよく叩いた。

 

 

 

 

 ――俺に出来ることは何かないのか。そう思った時に思い付いたのが、SAOでの仲間に力を借りるというものだった。

 当時、俺は数人ではあるがリアルでの連絡先を知っているプレイヤーがいた。俺はそのプレイヤーに声をかけ、キリトへの協力を仰いだ。俺がやったことなど、簡単に言えばそれだけである。

 しかし、これが意外と曲者だった。中にはキリトのことを知っていてOKしてくれる奴もいたが、当然もうVRMMOには触りたくもないという奴もいた。

 俺はそんな彼らからも連絡先を知っているプレイヤーはいないかと聞いて回った。そして知っているプレイヤーがいれば、再び声をかけ、という感じでひたすら声をかけ続けたのだ。

 もちろん、途中でプレイヤーを辿ることは出来なくなったりもした。エギルや協力してくれると言ったプレイヤーとも力を合わせ、どこかにプレイヤーらしき情報が見つかれば連絡をして確認をし、SAO未帰還者救出のためにどうかと協力を仰ぎつづけた。

 運がよかったのは、その途中で偶然にもクラインへと連絡がいったことであろう。俺もエギルも大層驚愕した。まさかクラインの現実世界での連絡先に当たるとは思ってもみなかったからだ。

 俺たちから事情を聴いたクラインはすぐに協力を快諾。しかもクラインはALOをプレイしているといい、リアルでの伝手も辿って仲間を集めてみると申し出てくれた。

 そうしてどうにか連絡がつき、更にALOにログインして協力をしてもいいと言ってくれたのが十数人だった。クラインは一度彼らをALO内で集めて、こちらに合流すると約束してくれた。俺がメニューを確認していたのは、その連絡を待っていたからだ。

 そして今、なんとか彼らは間に合ってくれたようだ。元SAOプレイヤーという繋がりの為、種族はバラバラかつ皆装備も取り立てて良いわけではないが、その身に纏う空気は歴戦のそれだ。

 二年もの間を生死をかけた戦いに費やした事実が、無意識のうちに独特な雰囲気を感じさせるのかもしれない。クラインを筆頭にキリトを知っているプレイヤーもいたようで、キリトを囲むようにして彼らは挨拶を交わしていた。

 その輪を眺めていると、不意にクラインがこちらにやって来る。俺は片手を上げて応えた。

 

「や、クライン。助かった」

「へ、水くせぇこと言うなよソウマ。キリトの危機とあっちゃあ、駆けつけねぇわけにゃいかねぇだろうが」

 

 言って、クラインは世界樹を見上げた。俺も釣られて空を仰ぐ。

 

「……ここに、アスナさんがいるってか」

「ああ。なんとしてでも助け出すぞ、クライン。キリトのためにも、俺たちのためにもな」

 

 俺がそう言うと、クラインは頷いた。

 

「エギルも言ってたな。まだ俺たちのSAOは終わってないってよ。……同感だぜ。まだ帰って来てない奴らがいるってんだ、立ち止まっちゃあいられねぇよなぁ!」

 

 クラインが振り返りながら、全員に呼びかける。それに「おう!」と声を返す面々には問答無用の頼もしさがあった。それはやはり、攻略組として俺たちも知っている顔がいることもあるし、何よりあの世界で共に生きたという言葉にはしがたい仲間意識がそうさせるのだろう。

 

「キリトやソウマには世話になった奴もいるだろう! それに、アスナさんは俺たちのアイドルにして血盟騎士団の副団長! 知らねぇ奴はいねぇ! ここでお前ら、いっちょ恩返しといこうじゃねぇか!」

 

 クラインが言っているのは、キリトこそがゲームクリアをもたらした男であるからだろう。俺については、まぁついでみたいなものか。アスナに関しては、まぁ、あいつは男プレイヤーから絶対的な人気を誇っていたからな。その立場もあって、知らない奴はいないし、助けられた奴も多いはずだ。

 それに再び大声で腕を振り上げ、応える元SAOプレイヤーたち。彼らを入れても少勢なのは変わらないというのに、この士気の高さは頼もしい。頼もしすぎて感謝の念しか湧き出てこないほどに。

 

「ソウマ」

 

 いつの間に横に来ていたのか、キリトが俺の名前を呼ぶ。

 

「キリト」

「ありがとう」

 

 頭を下げるキリトに、小さく笑みを返した。

 

「まだ早いだろ。礼は後で受け取るさ。アスナを助け出した後でな」

「……ああ!」

 

 と、これでついに世界樹攻略スタートかと思ったその時。

 

「う、わぁ!?」

 

 ユウキの驚愕の声が響き、俺たちは顔を見合わせることになった。

 周囲の全員がなんだなんだとユウキを見て、ユウキがそろそろと指を街のほうへと向けると、全員が指の先を追って顔を動かし、

 

「ぶっ!?」

 

 噴き出したのは一体誰だったのか。それはわからないが、そうなってしまう気持ちはわかる。なにせ、俺たちは揃って口をあんぐりと開けて呆然と目の前に広がる光景を眺めるしかなかったのだから。

 一言でいうなら、それは軍団だった。シルフ、ケットシーがとてつもない大編成で空を覆い、更にはモンスターのテイムに優れた種族だというケットシーが従えているのか、ファンタジーの王道であるドラゴンまでもが何体もその戦列に加わって翼を広げていた。

 シルフ・ケットシー同盟の軍であることは疑うべくもないが、まさかこれほどの大軍で押し寄せてくるとは思ってもみなかった。同じシルフであるリーファとレコンですら驚きのあまり言葉を失っているぐらいなのだ。

 っていうか、領主の二人サクヤとアリシャの横に並んで飛んでるのってユージーン将軍じゃねぇの。なんで敵対していたあの人もいるんだ。

 そうこうしている間に世界樹前広場まで接近していた彼らは、広場には納まりきらないほどの大軍勢を空中で待機させると、そこから領主の面々とユージーン将軍だけが俺たちの目の前へと降りてきた。

 

「遅くなったが、間に合ったようだな」

「ごめんネ、装備を揃えるのに手間取っちゃってネー。スプリガンの彼からもらったお金も、領のお金も使い切っちゃった」

 

 そう言って笑うのはサクヤとアリシャの二人だ。それにキリトとリーファがとんでもないとばかりに首を振って、感謝の言葉を二人にかけていた。

 またリーファにレコンが呼ばれ、何事かを話している。レコンは何やら喚いていたが、リーファが一言二言言うと、やがて騎士団のほうに走っていった。どうやらレコンは俺たちのパーティではなく、シルフの騎士団のメンバーとして参加することになったようだ。

 それを見届けてから、俺はもう一人の有力者に顔を向けた。

 

「ユージーン将軍は、いいのか? 世界樹攻略に協力しても」

 

 同盟を阻止しようと襲撃した、というのはかなり外聞の悪い話で、サラマンダーは暫く大人しくしているだろうと考えていただけに本当に予想外だった。ここで協力すると言っても、どの面提げてと叩かれるのが関の山だろうに。

 そんな疑問を含んだ俺の問いに、ユージーンはその厳つい顔を歪ませることで応えた。笑っているのだろうが、ちょっと怖い。

 

「むしろALOプレイヤーとしては、協力せねばなるまい。とはいえ、俺の兄はユージーン将軍が義によって助太刀した、という話にするようだがな。それならサラマンダー全体の意志ではなく俺個人の話で済むうえに、サラマンダーの印象の回復にもつながる」

「ぶっちゃけすぎだろ」

 

 呆れたように言えば、ユージーンは肩をすくめた。

 

「だが、グランドクエストを攻略したいという思いは、いちALOプレイヤーとしての嘘偽りのない本音だ。暴れさせてもらおう」

 

 今度こそにやりと不敵に笑ったユージーンの姿は、ゲーマーとしての興奮に満ちていた。そこに嘘はないと俺は思う。

 

「……ありがとう」

 

 グランドクエストはALOプレイヤー全員の悲願だ。俺個人がその攻略に礼を言うのは彼にしてみれば変な話かもしれないが、それでも言わずにはいられなかった。

 ユージーンはそれに変な顔をするでもなく、ただ頷くだけだった。

 そして今度はキリトのところに歩いていくユージーンを見送る。すると、不意に俺の手が握られた。白く細い手……ユウキだった。

 

「始まるんだね」

 

 それは、世界樹攻略のことか。それとも、アスナ救出のことか。

 いや、それを含めたこの流れ全てか。

 

「ああ」

 

 今、ALOで最も大きなイベントが始まろうとしている。起こすのは、俺たちだ。ALOの多くのプレイヤーを巻き込み、種族さえも超えて今、俺たちはグランドクエストに挑む。

 

 

 

 

 

 

 厳かな文言を口にした後、世界樹への扉を守護する像は沈黙した。

 大扉が開かれる。開くのは、たった一つのパーティである。その背後には幾人もの妖精が種族に関係なく連なり、更に後ろには妖精に従うドラゴンがその威容を見せびらかすかのように控えている。

 その大軍勢の先頭をきるのは、スプリガンの少年――キリト。続くのはシルフの少女とインプの少年少女。つまりは俺たち四人のパーティを筆頭に、ついにALOのグランドクエスト攻略戦は幕を開けた。

 

 飛び込むように中に入る。意外なことに、世界樹の中は光に満ちていた。頭上からは太陽の光が降り注ぎ、半球状のドームを覆うステンドグラスが眩しく煌めいている。

そして、確かに見た。ステンドグラスの中央に見える、十字に切れ目が入った円形の石扉。あの向こうこそが俺たちの、キリトの目指す先だ。

 俺たちの後から雪崩れ込んでくる大軍勢が、各領主の指揮の下瞬時に隊列を整える。突入前に決めた手筈通りだ。俺とキリトは頷き合い、リーファやユウキも了解したとばかりに上を見た。クラインを見る。任せろとばかりに俺たちを見るその視線に、俺は何も憂いなどなく剣を抜いた。

 上空、ステンドグラスから異形が生まれ落ちようとしているのが見えた。侵入者を感知したからだろう。話に聞く、扉を守る者――ガーディアンだ。四枚の輝く翅、白銀の鎧に全身を包んだ巨躯の騎士。俺たちの身の丈よりもでかい大剣を手に持ったそいつが現れたその時には、こちらの準備は整っていた。

 

「ドラグーン隊! ブレス攻撃用意!」

 

 アリシャの声がドーム内に響き渡る。十騎のドラゴンが入ってなお余裕のある広大な空間に整然と並んだ竜たちと、それを駆るケットシーの騎士たちが手綱を引く。

 それだけで、僅かに覗くドラゴンの口内がぼうっと赤く光を帯びた。

 

「シルフ隊! エクストラアタック用意!」

 

 サクヤの声に応え、密集方形陣を組んだシルフの騎士たちが、エメラルド色の輝きを燦然と放つ剣を掲げた。

 その頃には、既に頭上は敵で埋め尽くされていた。最初に生まれたガーディアンがどれかなど、もう見分けがつかない。まったく同じ造形をした巨大な守護騎士たちが、肉の壁を形成して天蓋への道を塞いでいたのだ。

 半端ではないPOP率、いやPOP速度だった。これではグランドクエストが攻略不能といわれるのもわかる。手数がどうやってもプレイヤーの限界を超えているのだ。

 しかし、今は違う。こちらにはALO最高戦力が揃っている。更に二種族の同盟軍までもが轡を並べて戦おうというのだ。

 ゆえに、突き進む。そう決意を新たにした瞬間、頭上を埋め尽くしていた白銀の騎士たちが奇声を上げながら降り注いできた。

 

「ファイアブレス、撃てぇ――ッ!!」

 

 この時を待っていた。そう言わんばかりにアリシャの大きな声が響き、そしてそれは寸分の差もなくドラグーン隊へと伝わり、十のドラゴンの口から灼熱の火球が上空目がけて殺到した。

 競うように迫りくる白銀の壁へと向かった火球は、接触するとともに大爆発を起こし、爆炎となってガーディアンたちに襲い掛かった。

 守護騎士たちは千切れ飛び、いくつもの破片がポリゴン状の残滓をこぼしながら地上へと落ちていく。数十はこれで倒したはずだが、それでもなお敵の数は多く、それでいてPOPが止まる様子もない。

 すぐさま増援が送られてくるも、しかし今度は緑色の光が視界を覆った。

 

「フェンリルストーム、放てッ!!」

 

 シルフの大集団がその剣をかざすと、迸る緑光が雷撃となって縦横無尽に空間を奔った。自由な軌道を描きながらも確実に天へと向かったそれらは、過たず白い壁へとぶつかる。

 激しいスパークが上空で発生すると、雷に貫かれた守護騎士の一団が塊となって落ちていった。

 二度の大攻撃。それによって白い壁に穿たれた、僅かな隙間。その恐ろしいまでのPOP速度を以ってなお塞がれることのないその隙間は、間違いなくこの戦いの活路そのものだった。

 

「全員、突撃ィ――ッ!!」

 

 瞬間、雄叫びと共に全ての妖精が翅を広げて飛び出した。

 

「ぬぉお、おおおおッ!!」

 

 ユージーン将軍が先陣を切り、その類稀な豪剣で守護騎士の体を切り伏せていく。魔剣グラムを操るその姿はまさに一騎当千。ALO最強という称号は伊達ではないと証明するかのような、激しい戦闘だった。

 しかし、それも長くは続かない。あちらとは体の大きさも違えば数も違うからだ。ユージーン将軍の動きもさすがに鈍る。その時。

 

「スイッチぃ!」

 

 事前に教えてあった合図をユージーン将軍が叫ぶ。それに反応するのは、その合図に慣れ親しんだ者たちだ。

 

「待ってましたぁ! いくぜ、野郎どもぉ!!」

「おぉおおおおお――ッ!」

 

 クラインが先導し、元SAOプレイヤーたちがユージーンと代わる形で突撃していく。

 ドラグーン隊のブレス、シルフの騎士団による雷撃、ユージーン将軍の猛攻によって隙間は更に奥へと掘り進んでいっているが、まだ足りない。

 すぐさまその穴を塞ぐように守護騎士が生まれ落ちていたからだ。しかし、突破口はそこしかない。だからこそ、後に続く者を何が何でも通すために、彼らはその剣を振るった。

 

「おぉおりゃあぁあああッ!」

 

 気合裂帛。さすがは二年もの間をSAOという極限世界で過ごしてきた者たちだった。その攻勢はユージーン将軍の単独突撃にも劣らず、邪魔となる守護騎士たちを次々と切り伏せていった。

 もっと奥へ、もっと奥へ。全ての力を振り絞り、キリトという最高戦力にして扉の向こうに最も行くべき者をただ送り届けるためだけに、彼らはかつて磨いたその武をもう一度披露していた。

 しかし、多勢に無勢という圧倒的不利だけは覆しようのない現実であった。

 元SAOプレイヤーの精鋭たちも、一人、また一人と力を失って地上へと落ちていく。それでも諦めることなく剣を振るい続けているのはさすがと言えるだろう。まるで恐れるものなど無いというように立ち向かう彼らに、守護騎士の大剣が群れを成して振り下ろされた。

 

「へッ、こちとら元SAOの攻略組よ……!」

 

 クラインは、だからよ、と続けて剣を構えた。

 

「死なねぇゲームなんて、ヌルすぎんだよぉおおお――ッ!」

 

 一閃。いや、二閃、三閃とクラインの手に握られた刀が瞬いた。そのたびに体勢を崩し、あるいは倒された守護騎士たちの列が乱れる。その取りこぼしを他のSAOプレイヤーたちが確実に仕留め、更に奥へと道は広がった。

 しかし、そこが限界だった。今の大攻撃で体勢が崩れたのはこちらも同じ。そこに再び守護騎士が迫ってきていたのだ。

 クラインの口元が僅かに笑んだ。そして、思いっきり刀を振って振り下ろされた大剣を弾くと、大声でその合図を叫ぶ。

 

「スイッチぃッ!!」

「てやぁあああっ!」

 

 クラインの後に続き、リーファが突撃する。その手に握られた剣がクラインに襲い掛かっていた守護騎士を瞬時のうちに幾度も斬りつけ、ついにはその体をポリゴンに還すことに成功した。

 しかし、その守護騎士の背後からもう一体。いきなりのことにその攻撃を受け止めるしかなかったリーファは、苦しそうに剣を頭上に掲げて耐えていた。

 単騎で挑むにはユージーンほどの技量がなければきつい相手だ。しかし、単騎で敵わないならば、仲間と立ち向かえばいい。

 リーファが気合と共に大剣を弾いた。それを見計らい、俺は背中の翅に力を込めた。

 

「スイッチッ!」

 

 リーファの声に導かれるように、俺とユウキが弾丸のように飛び出した。

 

「ぅおおぉおおおッ!」

「やぁああああっ!」

 

 剣を構え直せていない守護騎士を、高速で斬り付けてポリゴンに還す。再び迫っていた一体を俺がどうにか切り伏せ、ユウキの目の前に現れた一体へと向かう。

 

「ユウキ、あわせろッ!」

「っ、うんッ!」

 

 剣を振りかぶり、力を溜める。攻撃を続けるユウキへと飛びながらその剣を振るい始め、それを見て取ったユウキもまた同じタイミングで剣を振る。

 そうして俺の剣が届くときには、ユウキの剣もまた相手に届いていた。同時に斬られて大きくのけぞった守護騎士を返す刃で今度こそ倒し、俺は振り返った。

 今の攻撃で、目の前にもう守護騎士はいない。あの白い壁は突破したのだ。円状の石扉は再び俺たちの目に晒されている。後は、俺たちがここで奮闘し、なるべく追撃を防ぐだけだ。

 だから。

 

「いけっ――キリトォッ!!」

「――おぉおおおおおッ!!」

 

 咆哮を上げ、キリトが剣を構えて俺たちがこじ開けた穴の向こうへと飛び込んでいく。

 あの扉の周囲から再び生まれるだろうガーディアンは、キリトならば何とかするだろう。そして、その先に待つだろうアスナも。俺はそう信じていた。

 

 

 ……さて。俺はてっきり門をプレイヤーが抜ければこのガーディアンたちは消えてなくなると思っていた。何故ならこのモンスターはあくまでプレイヤーのグランドクエスト突破を阻む障害として設定されたイベントモンスターであって、通常のモンスターとは異なるからだ。

 その役割から考えれば、プレイヤーが突破した時点でガーディアンとしての役割は失敗。消えてしまうというのがRPGのセオリーではないだろうか。

 だというのに、今俺たちの目の前にはまだひしめき合うガーディアンたちが見えていた。今もまだこちらに襲い掛かろうとしているのだから、面倒どころの騒ぎではない。

 

「POPはしなくなったみたいだが……GMは性格悪いだろ絶対」

「あはは、そうかもね。でも――」

 

 呆れたように言う俺に、ユウキは笑いながら剣を構え直した。

 

「この世界を作ってくれたことにだけは、ボクは感謝してるよ」

 

 俺はその言葉に、にっと笑った。

 

「同感だ」

 

 俺もまた剣を構える。

 確かにこの世界があったからアスナは帰ってこなかった。恐らくは他の未帰還者も。

 けれど、この世界があったから、ユウキにも、リーファにも出会うことが出来たのだ。だから、この世界そのものを憎むことだけは何があっても出来そうにない。

 俺はそんなことを思いながら、再び翅に力を入れる。迫るこいつらを斬り伏せて世界樹から脱出するために剣も構えて、俺は空を走った。

 

 キリトならば絶対にやり遂げる。アスナとの再会も、この世界の攻略も。

 

 その信頼を胸に抱きつつ、頭上に広がる世界樹を見上げてもう一度、俺は剣を振った。

 

 

 

 




ALO攻略完了。
キリトは原作通りに一人でアスナの元へと向かいます。
今回、ソウマはキリトを通す礎として戦うことを選んだからですね。

まだ後日談的にもう少し続くと思います。

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