ダンジョンにユグドラシルの極悪PKがいるのは間違っているだろうか?   作:龍華樹

4 / 32
第4話

キル子はヘスティア・ファミリアのホームである廃教会の屋根の上で、煙草をふかしていた。

行儀悪く足を組み、やさぐれた顔で煙管を口にくわえつつ、スパスパと白い煙を吐き出す。煙草の種類は今の気分を反映してか、いつもの甘ったるいバニラミントではなく、キツめのメンソールだ。

既に人間種への擬態化も解除しており、ゾンビの本性をむき出しにした醜悪な外装に戻っているため、アンデッドの特殊能力やステータスも存分に活用することができる。

 

あの後、別れたフリをしてこっそりヘスティアの後をつけ、寝ぐらを特定したまでは良かった。

ヘスティアが如何にもうらびれた廃教会に入っていった時には少し驚いたが、その地下に拠点を構える貧乏ファミリアらしいと納得もした。

だが、問題はヘスティア・ファミリア唯一の眷属、ベル・クラネルが帰って来てからのことだ。

まずは様子見と、ヘファイストスとの商談で役立った聞き耳スキルを使い、さらに《千里眼(クレヤボヤンス)》の魔法も使って、今回は映像もバッチリだった。もちろん、情報系魔法に対するカウンター対策も実施済みである。正直、ヘファイストス・ファミリアで確認したザル振りを思えば、過剰な気がしないでもないが、この辺りの対策はやっておいて損はない。

 

で、現在にいたるのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、夕暮れ時をやや過ぎ、夜闇の帳が降りてきた刻限を迎えた頃、ベル・クラネルはファミリアのホームへと帰ってきた。

 

「帰ってきましたー!ただいまー!神様ー!」

 

「やぁやぁお帰りー。今日はどうだったんだい?」

 

今日はちょっと不意を突かれて危なかった、と馬鹿正直に報告するベルに、ヘスティアは驚いた。

なにせ、ベルはつい先日、高レベル冒険者に追い立てられて低階層に乱入してきた、ミノタウルスというモンスターに殺されかけたばかりなのだ。

それ以降、前代未聞のレアスキルに目覚めたベルは飛躍的にステイタスを伸ばしているのだが、以前よりずっと貪欲にダンジョンに潜り、危険に身を晒してもいる。

表沙汰になったら確実に暇を持て余した暇神どものオモチャになるだろうレアスキルについては本人にも秘匿せざるを得ず、しかも最近では夜中にダンジョンに潜りっぱなしという無茶をやらかしもしていたので、ヘスティアとしてはハラハラしっぱなしである。

この愛しい眷属のために何ができるか、それがここ最近のヘスティアの密かな悩みだった。

今日はそれを多少なりとも緩和できそうなお土産を手に入れていたのだが…

 

「もう、無茶ばかりして!ボクは君の体が心配だよ…」

 

「すみません、神様…」

 

体に異常がないことを確認すると、ヘスティアはバツの悪そうなベルに抱きつき、全身をペチペチ叩いて抗議していたのだが、その時、不意に廃教会全体がわずかに揺れた。

 

「ん?地震かな」

 

「みたいですね、神様。珍しいですね」

 

幸い揺れは大したものではなく、すぐに収まったので、二人は気にせず夕食の支度をすることにした。

 

未だ駆け出し冒険者として満足な稼ぎのないベルと、糊口をしのぐためにバイトに明け暮れるヘスティアである。食事は粗末なもので、大抵はヘスティアがバイト先からもらってくる売れ残りのジャガ丸くんや、クズ野菜のスープなどがメインになる。

それでも二人は部屋に一つしかないソファに並んで腰掛け、食事を楽しみながら仲睦まじく、お互いに今日あった出来事を報告しあうのだった。

 

「そう言えば、今日は君にお土産があるのさ!」

 

「何ですか、神様?」

 

ジャジャーンと掛け声も勇ましく、ヘスティアがソファの下から取り出したのは、革の鞘に収まった、一本の剣だった。サプライズを演出するために隠しておいたらしい。

 

「今日、屋台のお客さんからもらったんだ。オラリオに来たばかりだというのでね、成り行きで街を案内することになったら、そのお礼に譲り受けたのさ」

 

その剣は、若草色の鞘にも所々凝った模様の刺繍がしてあり、あまり蘊蓄のないベルにも一眼で高価な品だと思わせた。

 

「これは…すごいですね」

 

鞘から抜き放ってみると、不思議としっくりと手に馴染む。

長さも厚みもこれといって特徴のない、両刃の剣だ。形状からして片手で振り回すタイプだが、未だレベル1のベルが片手で扱うにはやや重量があり、両手で振るのが精一杯だった。

その刀身は油も塗っていないのに艶やかな光沢を放ち、凄まじい切れ味を想像させる。それだけではなく、刃全体に薄く紫電の光を纏っていた。まるでお伽話の英雄が携える伝説の武器のように。

 

…それは、雷属性の上級クリスタルをありったけ詰め込まれ、攻撃時に属性ダメージと感電によるスタン効果を併せ持ったユグドラシルの伝説級装備だったのだが、そこまでのことはベルには分からない。

また、武器の名前が【感電びりびり丸】であることを知る日も、来ないのかもしれない。

 

「すごい!とてもすごい剣ですよ、神様!」

 

明日、実際にダンジョンで試してみるのが楽しみだ、とベルは興奮しきりである。

 

「そうだろう、そうだろう。何せ1億ヴァリスだからね!」

 

ヘスティアは胸を張って言い放ったが、ベルは半信半疑である。

 

「1億ヴァリス、ですか…?」

 

「あっ、その目は信じてないね!本当なんだよ!ヘファイストスが鑑定してくれたんだから!」

 

ツインテールを荒ぶらせて抗議するヘスティアだが、いくら主神の言葉とはいえ、さすがに1億ヴァリスというのは無理がある、とベルは思った。

 

「でも、そんな高価な武器なら、本当にもらってもいいんでしょうか?」

 

未だに冒険者登録をした際にギルドから支給された、大量生産の安物を使っているベルにしてみれば、当然の疑問だ。

 

「う〜ん、実はボクもそう思ったんだけどね。『自分からしてみればガラクタでしかない』ってさ、強引に渡されてしまったんだよ。だから、いいんじゃないかな?」

 

そこまで言われたのなら、是非もない。

基本的に冒険者は同じファミリアでパーティを組むのが当たり前であり、そのためベルは未だにソロ以外でダンジョンに潜った経験がなかった。

低階層とはいえ、ダンジョンでは四方八方からモンスターの押し寄せる危険があるので、ソロは大変危険だ。そのため、ギルドの担当アドバイザーからは、未だに深く潜る許しを得ていない。だが、この武器があれば、もう少し戦闘が楽になるだろう。

 

「すごく気前のいいお客さんだったんですね。そういうことなら、遠慮なく使わせて貰います。これがあれば、もっと楽に戦えますよ。ありがとうございます、神様」

 

その言葉に、ヘスティアは顔を曇らせた。

 

「…やっぱりソロはきついよね…ううう、キルコくんの言うとおり、眷属を増やすのがベルくんのためには一番だってわかってはいるんだけどさぁ…」

 

ヘスティアは「成長速度が段違いだから、下手な人間とは組ませられないしぃ…」等と言いつつ、ジャガ丸くんを口いっぱいに詰め込んでもきゅもきゅと咀嚼する。

 

「それにしても…ボクのファミリアに加わりたいという人は、今日も変わらず皆無だったよ」

 

ジャガ丸くんの屋台でバイトをしつつ、店に来た人間に声をかけてはいるのだが、反応はサッパリである。当然だが、誰もが主神がバイトしないと食べていけないファミリアに入るのは躊躇する。

本音を言えば、今日出会ったキル子には自分のファミリアに入ってくれないかと、内心で少し期待していたのだが、ヘファイストス・ファミリアでのやり取りを見て諦めた。あれほどのアイテムを大量に抱えているのだ。おそらくは、とっくに何がしかの神と契約しているのだろう。

 

「ごめんね、こんなヘッポコな神と契約させちゃって…」

 

「神様、それは言わない約束ですよ」

 

ベルは困ったように頬をかいた。

 

「いつも言ってるじゃないですか、ボクらのファミリアはまだ始まったばかり。発展途上なだけです。今は苦しくても、ここを乗り切れば生活も楽になるし、ファミリアに入ってくれる人もいますよ!」

 

嫌みの欠片もない、内面のさわやかさがにじみ出た笑顔でそう断言した。…実はそれはベル自身がギルドの担当に言われた台詞そのままだったりするのだが。

しかし、一見して男の子らしい前向きさと、明日への希望に満ちあふれた精神的イケメン発言に、ヘスティアの目は一撃でハートマークに変わってしまった。即堕ちである。

 

「べ、ベルくん!君ってやつは…!!」

 

「がんばりましょう、神様!」

 

二人は感涙にむせび、がっしりと抱きしめ合う。なお、ここまでがほぼ毎日繰り返されるお約束であった。

 

「…あれ?また地震ですね、神様」

 

「さっきの余震かな?」

 

天井から舞い落ちた埃がスープに入らないように、二人は慌てて喉に流し込んだ。

 

「ご馳走さま。それじゃあ、ボクらの未来のために、ステイタスの更新をしてしまおうか!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…とまあ、キル子の視点でこの状況を一言で言い表すと、こうなる。

 

『何このキャッキャうふふのラブ空間』

 

思春期にしか許されざるプラトニックとかいうフィクションの中にしか存在しない、処女と童貞のスウィーツなスメル。

何かキッカケがあれば、それこそ若い獣達の背徳空間へとまっしぐらになりそうな微妙なバランスに成り立っているそれは、喪女を拗らせて◯年、リアルの出会いに恵まれず、ゲームの世界で憂さを晴らしていたどこぞのOLに実際よく効く。

 

「チキショウ、羨ましいな、おい!」

 

ステイタスの更新とか称して、半裸のベルにヘスティアがまたがった瞬間などは、目から血涙ものである。

 

ていうか、キル子はヘスティアのお相手のベル・クラネル某にも声を大にして言いたかった。

お前は本当に性欲と煩悩に塗れた10代なのか、と。

あれやぞ、ロリで巨乳で際どい衣装の主神様があんなあからさまにアッピールしてるというのに!チキンだよ、もげろ、ホモ野郎!

 

だいたいなんぞ、あの美少年ぶりは。

まず、若い。輝きと可能性に満ちた10代半ばの少年。しかも、童顔系のハニーフェイスで顔がとても良い!

体つきはひょろりとした印象があるが、冒険者をしているだけあって、着替えをガン見していたら意外に筋肉質な体つきをしていることに気がついた。だが、決してむくつけきマッチョではない。いわゆる細マッチョだ。お肌もすべすべつーやつや。しかも、アッチはフランクフルトときたもんだ…グヘヘへへ!

清潔感があるのもポイントが高い。町で見かけた低レベル層の冒険者達は、ほとんどダンジョン帰りの汗や土汚れを気にせず町に繰り出していたが、ベルはシャワーでも浴びてきているのか、最低限は身綺麗にしている。

何より性格がよい。よく躾されたのだろう、粗野でも野卑でもなく、礼儀正しい爽やか系のイケメンだ!

おい、ヘスティア、ちょっとそこ代われ!!!

 

キル子は廃教会の屋根の上を無様に転がり、バッシンバッシン叩いて悔しがった。

内心、単なるアホの子だと侮っていたヘスティアに完全敗北を認めた瞬間である。

 

 

 

「…また地震だよ」

 

「今日は地震が多いですね、神様」

 

 

 

レベル100の異形種のステータスでそれをやれば、軽く地震も起きようというもの。

もう、やってることは単なる壁ドンである。それもイケメンに壁際でやられて嬉しいアレではなく、リアルの壁薄いアパートで隣の部屋から毎夜聞こえる馬鹿ップルのギシギシアンアンうるせー声に対して行うソレだ。

 

もしや、神とはみんなそうなのか。昼間に会った、見た目クールビューティなヘファイストスも、実は影でこっそり若い子を囲っていて、今頃は…!

 

「クケー!!」

 

神とかユグドラシルでは割と弱めのイベントボス程度の扱いなので、いっそ皆殺しにした方が良い気がしてきた。アイテムも素材もドロップしなさそうなのがネックだが。

 

リア充な女神達への遣る瀬無い妬みが頂点に達した瞬間、ピカピカと発光するエフェクトとともに、キル子は不自然なほどに心が落ち着くのを感じた。

おそらくはアンデッドの精神鎮静作用だ。まさか、こんなことで確認するなど思いもよらなかった。ていうか確認したくなかった。

 

しかし、おかげでキル子は多少の冷静さを取り戻した。

結局のところ、ここに来たのはヘスティアに渡した片手剣を、彼女の眷属が装備できるかどうかの確認のためだ。

ユグドラシルでは良い装備品にはレベル制限がかけられていて、一定以上のレベルに達しなければ装備することはできない。

だが、ユグドラシルとは異なる、神の恩恵に依ったレベルを持つオラリオの冒険者に対して、それがどのように働くか一応確認しておこうかと思ったのだ。そのせいで極めて強力な精神攻撃を受けるはめになってしまったが。本来、精神系魔法の効果が無いアンデッドのキル子に、耐性貫通して致命傷を負わせたのだから効果は抜群である。

結果として、どうやらオラリオの冒険者はユグドラシルの装備制限を無視できるのではないか、という情報を得たが全然嬉しくない。

 

もういっそのことあの場に乱入してサクッとPKしたるかと思わないでもないが、大したアイテムも持っていない低レベルの若葉ちゃん相手にそれをするのは、キル子のPKとしてのポリシーに反する。

何より、そんなことをしたら、完璧にただの負け犬じゃないか!

 

「勝ち組のバカヤロー!!」

 

結局、そう叫んでキル子はオラリオの闇に逃げた。逃げざるをえなかった。

 

ユグドラシルでも音に聞こえた極悪PKを、人知れず叩き返した偉業はまさしく超越存在(デウスデア)たる神の面目躍如。

ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの面々に知られたら、驚愕の声と共に、満面の笑みを浮かべながら満場一致(少なくとも41人中40人は)で、拍手喝采にてヘスティアは讃えられたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うい〜、ひっく。女将さん、お湯割り、もういっぱい」

 

その後、夜の歓楽街をあてもなく放浪し、アルコールの匂いにつられてキル子は適当なお店の戸をくぐった。

カウンターに掛けて強い酒を所望し、延々と飲み続けている。

 

アンデッドのクソッタレな精神鎮静作用を無効化し、〈酩酊〉のバッドステータスをわざと受けるためだけに、【擬態/ポリモリフ】のスキルで人間種に化けての飲酒だ。

なお、ユグドラシルでは〈酩酊〉状態に陥ると、朦朧と視界不良に加え、回避率と命中率にマイナス補正を受ける厄介なバッドステータスであり、本来は毒無効の基本能力を持つアンデッドには全く縁のないものなのだが、とにかく今はそうせずにはいられなかった。

 

本来のゾンビ面を晒して酒場に突撃しないだけの分別はあったので、再び【変身/メタモルフォーゼ】のスキルを使って外装を誤魔化しているのだが、【変身】スキルのデフォルトに登録されている人間種としての顔の造作は、ゲームキャラ特有のバランスの良さでそれなりに美形である。

加えて、人型アンデッドであるキル子の体型は、ユグドラシルの平均的な女性型アバターのデフォルトからほとんどいじられておらず、リアルとは乖離したボンキュッボンなナイスバディだ。

しかも、装備を変える精神的な余裕がなかったので、着ているのは愛用の神器武装である白単衣なのだが、生地の薄い衣装の上から豊満な体のラインが浮き出ている。

 

そんな美女がカウンター席に一人腰掛けて、先程からウワバミのように酒をカパカパと空けていくのである。おまけに今は〈酩酊〉のバッドステータスを得て、肌はほんのりピンクに色づき、瞳は潤みきっている。

 

…酒場のどこかで、誰かがゴクリと生唾を飲み込む音がした。

 

「ちょいとあんた、いい加減にしときなよ」

 

飲んで飲んで、また飲んで、たまに煙草を吸い出すという一人酒無限ループ。

そんなキル子に苦言を呈したのは、店の店主らしき中年女性だった。

筋肉質な体を他の店員と同じウェイトレス服に包んでいるが、見た目は如何にも肝っ玉母さんといった感じの女傑だ。

キル子が見たところ、レベルにして50台の半ばはあるだろう。オラリオに来てから見た中では、ステータス的に一番強いと思われたが、今のキル子にはどうでも良い。

 

「なにおう、金はあんのよ、金は。こちとら1億ホルダーよ。店ごと買っちゃうぞ〜」

 

女店主は、これだから女の酔っ払いはタチが悪いとでも言いたそうな顔で、それでも空いたグラスにお湯割りを注いでやった。

お湯9に酒1の思いやり比率である。まあ、店の会計にも優しい比率なので、なんの問題もないだろう。代金は定価通りに頂くが。

 

キル子はその思いやりが注がれたグラスを引っ掴み、一息に飲み干すと、ゲフーと息を吐く。

女店主も措置なしとばかりに頭を振った。

 

「悪い酒だよ。閉店時間になったら外に叩きだすからね、いいかい?」

 

「ほっといてよ。飲まなきゃやってられねーの。もうね、眷属とかファミリアとか若いツバメとか青田買いとか、そんなチャチなものじゃ断じてない、童顔で巨乳でツインテールの勝ち組っぷりを見せつけられましたよチキショウくそう!汚い流石神様汚い!」

 

「…ああ、そういうことかい」

 

キル子の支離滅裂な戯言をどう受け取ったのか、女店主は納得がいったとばかりに盛大なため息をついた。

 

「おおかた、どっかの女神様に想い人を掻っ攫われた、ってとこだろ?」

 

別にキル子は恋に破れたわけでも、恋人を寝取られたわけでもない。単に独り身の悲しさを拗らせ爆発させただけであり、盛大な誤解なのだが、特にそれを解く必要は感じなかった。

…だって、説明したら余計に惨めになるから。

 

「…まあ、似たようなもんです」

 

「やっぱりねぇ…」

 

実はこの女店主、半ば引退しているが元はレベル6の第一級冒険者。

しかも、オラリオでも最大規模ではあるのだが、気になった男を恋人がいようが構わずに魅了し、自らのファミリアに引きずり込むというタチの悪い女神が率いるファミリアに籍を置いている。

そのため、この手のトラブルには非常に理解が深かった。

 

「いいかい、神と人は寿命が違う。いずれ男の方が耐えきれなくなるか、先に飽きられて顧みられなくなるかさ…それでもいいって馬鹿なら散々見てきたがね。どっちにしろさっさと諦めて別の、もっといい男を捕まえな。若さは待っちゃくれないんだ」

 

「いのち短し恋せよ乙女、ですか?」

 

「そうさ、わかってるじゃないか」

 

「…こんなんですけどね、もういい年なんですよ、私」

 

それを聞くと女店主は、ハンッと鼻を鳴らした。

 

「な〜に言ってんだい。まだまだ全然若いじゃないか。あんた、そんなこと年季明け間近のダイダロス通りの姐さん連中に聞かれてみな、引っ叩かれるくらいじゃ済まないから」

 

「ううう…女将さんありがとう。もう一杯くだひゃい」

 

「あいよ」

 

女店主はもうキル子を止めようとはしなかった。他の店員が不安そうな顔をして袖を引いたが、無言で酒を注いでやる。

 

「…ミア母さん、いいんですか?」

 

「いいんだよ、もう好きなだけ飲ませてやんな。潰れたら店の奥で寝かせてやればいい。人生、酒の力が必要な時もあるさ」

 

特に、恋に破れたその時には、と。

店主は自分も一杯だけ、キル子に注いだのと同じ酒を口に含んだ。

 

「人の情けがしみるよぅ…お酒美味しいよぅ…男ほしーよぅ…若くてカッコいいイケメンかもん…」

 

涙の味は苦かった。

 

と、その時。

 

カランカランと、店の入り口の戸が音をたて、何人もの男女が店内に入ってきた。

店の客達の注意が店主とキル子からそちらに逸れ、一瞬にして空気が変わる。

 

「チッ…ロキ・ファミリアだ。また来やがった」

 

「ついこの間、宴だって派手にやったばかりなのに、良いご身分だぜ」

 

入ってきたのは、人気と実力を兼ね揃えた冒険者が数多く名前を連ねているオラリオ屈指の探索系ファミリア、ロキ・ファミリアの主要メンバー。

 

稼ぐ同業者に好意的な視線が集まるはずもなく、さりとてオラリオの勢力を二分する最大規模のファミリアに表立って喧嘩を売ることも出来ない。店にいた中小ファミリアの構成員から、そんな嫉妬と嫌悪の入り交じった複雑な視線が彼らに集まった。

だが、ロキ・ファミリアの方も分かったもので、有象無象の視線などいちいち相手する必要もないとばかりに、奥の空きテーブルを占拠する。

 

「相変わらず、雑魚どもの視線がうざってーな」

 

「ベート、今日は喧嘩は御法度の約束だよ」

 

「わーってるよ」

 

この店は料理と店員の質の良さで前々からロキ・ファミリアが贔屓にしているのだが、過日、彼らはこの店でちょっとした騒ぎを起こした。

ファミリアの一人、レベル5冒険者のベート・ローガが酒に酔い、迷宮内で起こった"とある出来事"について、同じくレベル5冒険者にして『剣姫』の二つ名を持つアイズ・ヴァレンシュタインに絡んだのだ。

結果として、派手に騒いだことで主神と団員と女店主の顰蹙を買い、その場は早々に解散する羽目になった。

今日はその仕切り直しの飲み直しであり、罰としてベートが全員分の飲み代を持つことになっている。

 

「みんな、今日は無礼講や!飲めるだけ飲んだれ!!」

 

「ベートさん、あっざーっす!」

 

「いやあ、他人の懐から出る酒ってのは、どうして美味いんだろうね」

 

「てめえら、覚えてろ!!」

 

ロキ・ファミリアの結束は硬いようである。

 

次々に好みの酒と料理を大量に注文していく団員達と、それを面白くなさそうな顔で眺めるベート。

 

そして、彼らの主神、ロキはといえば…

 

「お、美人さん発見!」

 

「…ん?」

 

カウンターで飲んでいたキル子に目をつけていた。

 

ロキは美男美女が大好きな神として知られていて、ファミリアの構成員はすべて容姿端麗な者達で構成されている。ファミリア内の女性陣にセクハラをするのも、酒場で好みの美女に声をかけるのも、日常茶飯事である。

そんなロキが、見た目だけは美女なキル子に粉をかけたのは、ある意味当然の流れだった。

 

「なあなあ、彼女。うちらと一緒に飲まへんか?知っとるかも知れへんけど、うちはロキ。ロキ・ファミリアの主神や!」

 

神、の一言にピクリと反応したキル子は、胡乱な瞳をロキに向け、不機嫌そうに上から下までじっくりと眺めたのだが、突如として目を見開いて絶叫した。

 

「きゃあああああ!!関西弁美少年ショタキタ━━━━━━!!」

 

そう、ロキは糸目で緋色の髪を持った小柄な容姿の持ち主だが、他の神々からも「ロキ無乳」との二つ名を奉られるほどの無乳。

ロキ本人はこの事を甚く気にしており、巨乳の神を敵視し、特にヘスティアとの仲は悪い。出会えば罵詈雑言の取っ組み合いが始まり、大体は喧嘩の最中で彼女の乳揺れを見て著しく動揺、逃げ帰ってヤケ酒を喰らうのが何時ものパターンである。

 

そんなフラットな体型が災いし、うらぶれた独り身の酔っ払い女の視点に立てば、ユニセックスな美少年に見えなくもない。

 

つまり、キル子の好みにドストライクだった。

 

「なんやて!!」

 

当然のごとくロキは激高した。

無乳にコンプレックスを抱え、巨乳を敵視する彼女からすれば当然である。男に間違えられるなど耐えられぬ屈辱だ。

 

「だーれがおと…グヘッ!?」

 

ところが、エセ関西弁の舌鋒が火を噴く寸前、ロキはキル子の胸に抱きかかえられてしまった。

 

「捨てる神在れば拾う神あり!!これが新しい恋なんですね、女将さん!!まさか、まさかこんな美少年にナンパされるなんて!!!」

 

「ふざけんな!は、はなさんかい!!ちょ、誰か助けてーな!!」

 

キル子は喜びの涙を流してロキを抱擁し、ロキは無念の涙を流してキル子の巨乳につつまれ絶望する。

自らには決して手に入れることの出来ない双球により、呼吸もままならないロキの敗北は確定的に明らかであった。

 

「自業自得ですね」

 

「セクハラの報い」

 

「…ま、たまにはよい薬だろう」

 

そんなロキの様子を彼女の愛すべき子供たちは、よい酒の肴が出来たとばかりに生暖かく見守っている。本当にロキ・ファミリアの結束は硬いようである。

 

「はーなーせー!なんや、この馬鹿力は!ほんまに誰か助けてーな!!」

 

キル子にもみくちゃにされつつも、ロキはなんとか抜け出そうともがいていたが、キル子の腕はビクともしない。

やがて、見かねたファミリアの団員が助けにはいった。

 

「チッ…おい、あんた、そのくらいにしといてくれ」

 

舌打ちをしつつ、嫌そうに声をかけたのは灰色の毛並みをもち、左の頬に入れ墨を入れた狼人(ウェアウルフ)の男性だ。

今回の宴の幹事を不本意ながらも引き受けざるを得なかった男、ベート・ローガである。

 

普段なら一括して黙らせるところだが、先に絡みに行ったのはロキであるし、相手は酔っ払いである。ついでに言えば、見た目は単なる水商売のカタギの女だ。

そこで、ベートは少しばかり視線に力を込め、剣呑な殺気を突きつけた。

いつもなら、それだけで相手は空気を読んで引き下がる。雑魚を追い散らすために、ベートがよくやる手であり、相手が一般人ならこれで十分だった。

 

「今度は俺様系ワイルドキャラキタ━━━━━━!!」

 

だが、デバフの状態を〈酩酊〉から〈泥酔〉にランクアップさせ、まともな思考力を放棄して酔夢の世界に逃げ込んだキル子に、そんなものが効くわけがない。

 

「はぁ?!」

 

これには、ベートも困惑した。

 

「アレだよね、ツンデレ一匹狼気取ってるけど、なんか複雑な過去を抱えてて、内心はアットホームな雰囲気に興味ありあり。根気よ〜くルートを進めていけば、いずれ必ずデレて『俺のものになれ!』発言かましてくれるワイルド君!」

 

いきなり喜色満面の笑顔を浮かべ「ショタもいいけど、こっちも良いわ-!!」などと訳の分からない事を叫びだしたキル子に対し、ベートは心底理解できないと頭を振った。

不幸なことに、彼もまたキル子の好みにドストライクなのである。

 

…ちなみに、キル子がこれまで一番課金を行ったゲームはユグドラシルではなく、22世紀の未来においても結構なシェアを誇る古き良き乙女ゲーだったりする。

 

「あなたのお名前なんてーの?…あ、わかった。ロキ様にベート様だね。私はキル子、これから末永くよろしくお願い致します」

 

【死神の目】でユニークネームを確認しつつ、キル子は器用にもロキを抱えたままその場に正座し、三つ指ついて頭を下げた。

 

「「ふざけんな!!」」

 

ロキとベートの声がハモった瞬間である。

なお、店内のいたるところから悲鳴のような爆笑が上がった。

 

「うぃ〜、ヒック。よく見たら美少年ばっかじゃないか。すげえ、ロキ様パネェ!うし、私もファミリア入る!ロキ様、どうかこのキル子めに盃を授けてやってくだせえ」

 

「敵対ファミリーの連中、皆殺しにしてやりますけえ!」等と真顔で言い出したキル子に対して、ロキは盛大に顔をしかめた。

 

「ドアホ!うちらはヤクザやないで!だいたい、何でそないなアンポンタンをうちのファミリアに入れなあかんねん!一昨日出直しや!ていうか、いい加減にうちを離せー!」

 

涙目で泣き叫ぶロキであるが、もう絶対に関わりたくないのに、今回ばかりは関わらざるを得ないベートこそ不幸である。

彼は盛大にため息をつくと、無言でキル子の腕の中でジタバタしているロキを引き抜こうとした。

 

「…!?なんて馬鹿力だ!」

 

だが、レベル5冒険者であるベートの力をもってしても、キル子の腕は微動だにもしない。

 

「ちょっと待ちや!身がもげるー!」

 

ロキは二人の間で、激痛に身悶えした。

 

それも当然、擬態している影響で人間種相当に下がっているとはいえ、キル子のステータスは未だベートのそれを凌駕している。

 

しかし、そんなことを知る由もないベートにしてみれば、こんな女の細腕が何故振りほどけないのかと疑問に思いつつも、ただでさえ低い怒りの沸点が、徐々に限界を迎えつつあった。

 

「…おい、女。ふざけるのは、そのくらいにしとけ」

 

先程までよりドスを利かせた声。

両手でポキポキと指を鳴らすと、ベートはいきなりキル子に向かって手刀を繰り出した。

 

「ちょっと、ベート!やりすぎだ!」

 

良い余興だと思って静観していた仲間から非難の声が上がったが、知ったことではない。一発殴って気絶させた方が早いと判断しての行動だ。

だが、軽く脳しんとうを起こさせるつもりで放った手刀の先に、既にキル子は居なかった。

 

「あふん、刺激的なとこも好みだわん♪」

 

そう、背後から耳元にかけられた声に、ベートは全身の毛が逆立つのを感じた。

 

「クソが!」

 

さらに、後ろを振り向くと同時に放たれた裏拳をキル子は鮮やかに回避。

ステータスが落ちていようが、適当に繰り出された手刀など〈泥酔〉のバッドステータスを得ていたところで、避けられぬ道理はない。

 

一撃目を避けられ、二撃目も避けられ、三撃目を繰り出したあたりで、ベートは理解した。この相手は、ただ者ではない、と。

 

なお、目にも留まらぬ速度で移動するキル子だったが、小脇に抱えられたロキは目を回している。

 

「女、お前何もんだ?!」

 

「ただの美人だ!彼氏ぼしゅーちゅー!ベート様、結婚して!」

 

「ふざけろ!」

 

訳のからないことを口走りながら、ぬらりくらりと気持ちの悪い動作で避け続けるキル子に対して、ベートは半ば意地になりつつあった。

 

「このやろう、せめてまじめにやれ!」

 

「お、勝負する気?おねいさんは強いよ、マジで。これでも公式の通算キルポイント数なら、ぶっちぎりでトップだったかんね!」

 

シビレを切らせたベートは、無言で拳を構えた。

徒手空拳、速さを活かした接近戦で圧倒的な膂力を叩きつける、ベート必勝の戦法である。

それを見て、いよいよ店内に悲鳴が上がった。

 

「ベート、いい加減にしろ!喧嘩はしない約束だろ!」

 

「うるせぇ!」

 

この時、ベートの獣人としての本能が、本人も気づかぬうちに刺激されていた。目の前に佇む怪物の本質を、オラリオで最初に感じ取ったのは、彼だった。

 

「ほうほう、モンクか。ではこちらは煙管一刀流にてお相手しましょう」

 

キル子はインベントリから愛用の煙管を取り出すと、さもうまそうに一口吸い、白い煙をベート目掛けて吹きかけた。ほろ酔い気分のまま、この刺激的な逢瀬を心底楽しんでいる。

 

そのあからさまな挑発に、ベートはビキビキと青筋を立て、一気に襲いかかった。

 

「オラァ!!」

 

目にも留まらぬ高速の連打。その全てをキル子は煙管の雁首で受け止め、逸らし、時折ペチリと軽く反撃する。

 

「…この感じ、対人間種特攻はともかく、対プレイヤー特攻も効いているっぽいね〜、ヒック。そうか冒険者はプレイヤー扱いになるのかぁ…」

 

と、ベートには意味不明な言葉をつぶやきながら、衣服にかすらせることすらない。

 

「ベート、危ない!当たる!やめぇや!」

 

時折、小脇に抱えたロキにベートの攻撃が当たりそうになれば、庇う余裕すらあった。

 

完全に遊ばれている、と理解した瞬間、どこかで何かがブチリと切れる音がして、唐突にベートの脳は限界を迎えた。

 

「舐めんじゃねぇ!」

 

ギアをマックスまで上げ、ステイタスにものを言わせた本気の踏み込み。

レベル5にして既にロキ・ファミリア最速の異名をとる、ベート・ローガ渾身の蹴撃だった。

 

「ベート、やめろ!!」

 

キル子の美しい白い顔の中心に脚先が吸い込まれ、赤いザクロの花が咲く。そんな幻視を、その場の全員が抱いた。

 

「…ちょびっとだけ、本気出す」

 

しかし、この程度のスピード、アサシン系物理職の中でも素早さに特化したキル子にしてみれば、ハエが飛んでいる程度のもの。

問題はこれ以上早く動くと、腕の中でグロッキーになっているロキが持たないということだ。

 

故に、こうした。

 

「【刹那の極み】」

 

瞬間、何が起こったのか、その場にいた誰もが理解できなかった。

 

「ぬふふ。両手に花よ〜、オラリオはまさに天国じゃあー!」

 

気がつけばベートは無様な格好で床に沈み、キル子はその頭を自らの膝に乗せて膝枕。白目を剥いたロキも手放さず、ご満悦の表情で頬ずりしながら笑っている。

 

「…いったい、何をしたんだい?」

 

そう、口を開いたのはロキ・ファミリア団長、『勇者(ブレイバー)』の二つ名を持つフィン・ディムナ。

今にもへし折れそうなほどに赤く鬱血した親指を押さえ、全身から冷や汗を垂れ流しながらも、果敢にキル子に問いかけた。

 

「第10位階魔法《時間停止(タイムストップ)》のスキル版だよ、ヒック。アサシン系の職業レベル上げてると生えてくるよ~」

 

総身から汗を拭きだして戦慄するフィンに対し、キル子はヘラヘラと笑いながら何でもないことのようにのたまった。

 

アサシン系の上位職業の職業レベルを最大まであげると取得できるスキル【刹那の極み】。

周囲の時間を止める第10位階魔法《時間停止(タイムストップ)》のスキル版とでも言うべき、擬似的な時間停止を行使できるが、1日に3回しか使用できない回数限定スキルだ。

その代わり、MPを消費せず、魔法妨害の対象にもならない。何より最大の利点は《時間停止(タイムストップ)》では不可能な、停止中にダメージを与えるスキルや魔法を行使できるという点にある。

これを使い、キル子は対象に触れることで麻痺させる別のスキルを併用し、ベートを苦もなく無力化したのだった。

 

対人戦で使われたなら、対策が無ければ、まず詰む。そういう能力である故に、ユグドラシルではプレイヤー間で対策が徹底され、対人戦では死にスキルになっていた。

 

「レベル70…ああ、オラリオ基準だと、多分レベル7か8になる頃には時間対策は必須だね。ヒック」

 

その舐め腐った態度を、フィンは咎めなかった。

 

「…って、よく見たら、まためんこいショタっ子ですなぁ。本気でファミリアに入りたくなってきたわ」

 

キル子の食指が、今度はフィンに向きそうになったその時、沈んでいた筈のベートが鷹揚に立ち上がると、キル子から飛び退った。

 

「いい加減に…しやがれ…」

 

「…まだ動けたんだ。麻痺耐性でも持ってたかな?」

 

【耐異常】。毒を始めとした様々な異常効果を防ぐことができる発展アビリティ。

ダンジョンの深層に潜れる第一級冒険者ならば、ほとんどの者が備えているとされるそれが、キル子の麻痺を阻害し、ベートに再び立ち上がる機会を与えた。

だが、能力高低がG評価の【耐異常】ならば、ほとんどの異常効果を無効にできる筈なのだが、今は震えるヒザを押さえて立ち上がるのが精一杯。 顔面は蒼白で、全身から汗が吹き出ている。

 

獣人は、他の種族に比べて野生の生存本能が強い。

だからこそ、わかってしまった。相手の、キル子の体に触れたことで。

心臓の音もした、体温もあった。なのに、どうしても人間の皮を被ったナニカが、人間のフリをしているかのようなチグハグな印象を抱いてしまう。

まるで、ダンジョン深層でしかお目にかかれない、未知のモンスターに街中で出くわしてしまったかのような薄気味悪さ。

思わず崩れ落ちそうになったベートの体をとっさにフィンが支えた。

 

その音は、シンと静まりかえっていた店内に、よく響いた。

 

「おんやぁ……?」

 

そこで、ようやくキル子は周囲の様子に気がつく。

 

ひとまずアサシン系の職業で取得できるデバフ解除のスキルをオンにし、一瞬で酔いを覚ますと、キル子ははっきりと理解した。

酒場の全員の視線は、今やキル子に向けられている。恐怖と驚愕が入り交じった、信じられないものをみるような、戦慄の視線が。

 

ベート・ローガはロキ・ファミリアの誇る第一級冒険者として、それなりに名が知られている。それを一方的に赤子扱いして"舐めプ"したのだから、周囲の反応も推して知るべし。

 

さらに、小脇に抱えたロキのHPが、あと数ドットしか残されていないのを悟ると、キル子はインベントリに手を差し入れて最上級の赤ポーションを取り出し、無言でその口元に垂らすようにして飲ませた。

 

その間、痛い沈黙が続く。

 

 

 

や っ ち ま っ た。

 

 

 

その一言に尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…《完全不可知化(パーフェクト・ アンノウアブル)》」

 

キル子は逃げ出した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。