仮面ライダースコープーSaved storyー 作:コンテンダー。
日はまた昇る。それは当たり前の事であり、物語の幕開けを指し示すことでもある。
となれば仮面ライダースコープの物語の幕開けの地であるMemory Gardenにも朝が来る。
朝も通勤時間を過ぎた9時近く、だいたいの店はこの時間帯を目安にシャッターをあげるのだが、そんな状況など露知らずとばかりに応接スペースの奥にある従業員の机からもそりと顔をあげた人物がいた。
そこは無造作な店内の中でものんびりできるようにソファーや古いアンティークが揃えられた休憩エリアのような場所だ。
そこのソファーに背伸びしたのと同時に腰を下ろし、半分濁った目で堕落していたのは早瀬誠久郎だ。何とも客を迎える気などないオーラをかもしながら、再び横になろうとしていたのだ。
その格好は髪は跳ね、服も甚平なのか、パジャマなのか分からない明細模様の服。恐らくここで眠っていたのだろう。
「またここで寝ていたの?部屋で寝てって何回言ったのよ?」
それを見透かしていたかのように掃除道具を片手に店内を片付けていた黒月星空(カナタ)が遠目から誠久郎に声をかけた。
だが言われているにも関わらず誠久郎は1つ欠伸をすると、跳ねた髪をかきながら口を開いた。
「朝から真面目ですねぇ、俺の幼馴染みで最高のパレハは。昨日の仕事でカンサード(疲れた)なんだから今日はのんびりやろうや。減るもんじゃないし、あんまり急ぎすぎるとドジるぜ?」
人を煽っているのか、本音なのかを隠すように独特のクセであるスペイン語を織り混ぜながら話す誠久郎。半分濁っていた目には徐々に光が戻ってきていた。
なんと言うか意地の悪い男である。だが昔からの付き合いがあるカナタにとっては慣れたものだ。誠久郎の言葉を聞き流しながらも話を続ける。
「カンサードだろうが、疲れただろうが関係ないの。オーナーに店を任されてるんだからしっかりやらないとダメでしょ?」
「いや、半分叔父さんの趣味だし………。表はエリサとか、荘平もやってくれてるし俺は俺の仕事に集中してりゃ問題ないでしょうよ」
完全にやる気の欠片もない誠久郎に業を煮やしたのか、カナタかすぐにソファーの前に歩み寄ると彼の耳を引っ張る。
「少しは手伝うぐらいの意思を見せなさい!」
「痛いッ!?耳は無しだろ」
カナタに耳を引っ張られたのが利いたのか、仕方なしに立ち上がる誠久郎。
「着替えてくりゃいいんだろ?手伝えばいいんだろ?デ・アクエルド(分かった)!」
「二人が来ないからって気を抜きすぎなのよ、貴方は」
どうやら他の従業員が別な仕事で店に出ていないようだ。少し噛み砕いて言うなればこのMemory
Gardenでは写真の仕事や映像の仕事もしているのが表の顔なのだ。
誠久郎はその中でも書き手、カナタは写真家として働いているがほとんどおまけのようなものなのだ。彼のメインの仕事はーー。
「それに明日にはオーナーが帰ってくるのよ、しっかりしないと」
小さく拳を握ったカナタ。彼女の頭には明日戻ってくるこの店のオーナーである男の姿が浮かんでいた。是非とも彼に誠久郎の緒を締めてほしいと思っていたのだ。
「ふうん…………」
そんなカナタの真意を知ってか知らずか、誠久郎の顔に意地の悪い笑みが浮かんでいた。
「カナタは知らないんだねぇ、オーナーこと俺の叔父さんはまだ暫く来ないって、さ」そう言った誠久郎は勝ち誇ったようにカナタにスマホを見せた。
「何?見ろって?………ええっ!?」
仕方なしに誠久郎のスマホを見るとカナタの顔が驚きに包まれていた。数日前とはまるっきり状況が変わってしまっていたのだから。
誠久郎のスマホにはつらつらと一文が綴られていた。要するに帰ってこないと言う旨で。詳しくすればこんな文だ。
ーすまないがまた急な仕事があって顔を出せなくなった、なんとかやってくれ。大体はいつも通りエリサに任せてあるから誠久郎とカナタは裏の仕事、よろしく。追伸・愚息がまた迷惑をかけているようなのでお仕置きしてきます。
byみんなに感謝を込めてオーナーよりー
気まぐれなのか、はたまた予定していたことなのかを図らせない文章で帰還を先伸ばしにしたオーナーにカナタは不満げだ。
「なんで誠久郎の血筋はこんなんなのよ?」
「知らないねぇ、まっ、慌てても仕方無いって事だね。少しはトランキーロ(落ち着いて)てな事で」
オーナーの言葉を後ろ楯にし、誠久郎はソファーに横になろうとするがそれを必死に止めるカナタ。
「ち、ちょっ!寝ちゃ………いったぁい!?」
だが、あまりにも急かしすぎたため思いっきり脛を机にぶつけてしまい、顔を歪ませたカナタ。
「相変わらずドジだねぇ」意地悪い笑みから穏やかな笑みに誠久郎の顔は変わると、ソファーから立ち上がった。
「え、どうしたのよ?っ………」
まだじんじんと響く痛みを抱えながらも誠久郎の心変わりに顔を不思議そうにするカナタ。
「ま、手伝ってもいいかなって、さ。一通りからかった、からね」
誠久郎はせかせかとMemory Gardenの2階にある生活スペースのうちの自室へと引き上げていった。
「もう………相変わらずなんだから」
付き合いの長い誠久郎に手を焼かされつつも、結局は手伝ってくれるところに感謝するカナタ。
ーコツン、コツンーとそこまでの空気を一変させるノックの音が入り口から聞こえた。
「お客さん、来ちゃったじゃない!お待ちくださいー!」と少しばかり誠久郎とのやり取りを後悔しつつ、見えるものだけを片付けてカナタが扉を開ける。
「お、客か?」
ひょこっといつの間にか白いジャケットを羽織り正装に着替えて降りてきた誠久郎も扉から顔を覗かせその音の主を確認した。
外に立っていたのは茶色の髪に黒いコートと紺のブレザーを着込み、少しおどおどしたような印象を与える少年だった。
少年は二人の顔を見るなり、頭を下げた。
「突然すいません!僕の『幼馴染み』の思い出を、何処に行ったのかを探してもらえませんか!?」
少年の突然の依頼に誠久郎も、カナタも顔を見合わせるばかりであった。そして誠久郎が開口一番、今までの喰ったような態度から一転した低い生真面目な様子で言葉を発した。
「…………記憶が無いのか、その子の?いや、まだ微かに頭にあるのか?エスペシャル(特に)に大切な事だぜ?」
「…………はい、確かにおぼろげですけど………」
「入りな、話を聞こう、か………。カナタ」
少年を招き入れた誠久郎はカナタに目配せしながら奥の部屋へと彼を案内する。
「分かったわ………。仕方無いわね、closedにしておくわ」
Memory Gardenの裏の仕事が始まった瞬間でもあった。
あなたの思い出を守る。人の物語を喰らう怪物殺しのーー。
カコッ、カコッ、カコッ。軽快なステッキと地面がぶつかり合う音が長い通路に響く。
「私の落とし子がまた1つ、物語を書き上げた。それはそれは………価値もないつまらない喜劇を飲み干して、題材としてリメイクさせるのです」
暗がりの中をゆっくり歩を進めながら、男は独り言を口にする。
「どれもそれも何とも言えぬ物語の果ては下らぬエンドマーク。私はその物語逹を書き直す、最高峰の作家なのですから」
コツン、ステッキを強く叩き立ち止まった男の側にはいつの間にか2つの影があった。ユラリユラリと揺れるように影は形を変えながら中に人のシルエットを浮かび上がらせた。
「遅かったですね、貴方逹」
「いえ、次の主人公を選んでおりました故、主様」
「そうだ、適合する奴をな」
丁寧な女声と高圧的な男声が影の中からステッキを持つ男に語りかける。
「…………まあ、そうでしょうね………」
男は静かに笑いながら、握り締めたステッキを肩に担ぎ、懐から茜に染まった『銃』を取り出す。
「では、新たな贈り物は『オオカミ』にでもしましょうか?」
男の銃口は真上に上げられた。スタートを切るように。
「私の物語は再生するのです。私、龍牙(リュウガ)レキの、ね。我が黄昏に世界に落とし子たるゲシェンクを」
男の銃から緋色の弾丸が空に舞うーー。