仮面ライダースコープーSaved storyー 作:コンテンダー。
奥の部屋に少年を通した誠久郎は彼と向かい合いながら話が切り出されるのをじっくりと待っていた。かれこれ時計の針の動きが角度で言い表せば45度は進み、時間で言えば約15分の長い沈黙が続いている。
「……………………………」
どう言えばいいのか、少年は言葉に言い表せないのだろう。伝えるべき内容を整理することも出来ていないようだった。
「少年、いや………まあ2つぐらい下か………。幼馴染みの思い出が無くなってきているって言ったな、どこで感じた?」
これ以上は進展せずにさらに時間が経つ事を予期した誠久郎は少年を誘導するようにゆったりとした口調で言葉を投げ掛けていく。先程までの人の逆鱗を擽るようなしゃべり方は何処に行ったのか、とばかりに少年の心をほだしていく。
「………それは………学校での事でした」
ようやくきっかけを掴めた少年は誠久郎に誘導されるまま、事の顛末を口にする。
「………僕の幼馴染みは高瀬灯(タカセアカリ)と言うのですが、同じクラスに通ってます。実は数日前から家では姿を見かけるのですが学校ではいない、ような気がするんです。話しかけているはずなのに、呼ばれたはずなのに、確かに隣の席にいるのにいない」
哲学のような疑念を感じたままに誠久郎に言う少年。少年の違和感は最もだ、とばかりに誠久郎も首を縦にふる。
「矛盾、だねぇ」
ただその一言だけではあるが少年の疑念をさらけ出させるには充分な効果だようだ。
「可笑しいんです。周りのみんなに灯の事を話しても反応が可笑しいんです。そんな子はいないみたいな扱いで透明人間みたいに………存在が無いみたいに」
「親御さんは?」
「佳奈の両親はまだ………うん、そこまでは………こうして話していても僕も灯の事を思い出せなくなってる気がします」
誠久郎は少年の言葉を噛み締めるように静かに話を耳に入れ続ける。だが、どこか釈然としない『違和感』を感じていた。
「分かった。君の依頼を引き受けよう、かな。でもさ、その前に聞きたいことがあるんだよねぇ。少年、君の事を教えてくれないかな?」
突然、誠久郎の話し方がカナタと話すときのように変化した。少年に自分の事を教えるように求めたのだ。
「僕………ですか?」
「そう、まず君の名前からだね」
そう誠久郎が聞くと少年は少し言葉が止まり、目が泳ぐ。だがそこは自分の名前、すぐに名乗り始める。
「僕は……………………うん、龍海 星斗(タツミ セイト)です…………きっと」
名前を名乗ったはいいがどうにもこうにも彼の頭の中のハズルが上手くはまらない。自分の中に深い霧が立ち込めるように、何かのもやが記憶を、自らをシャットアウトする。
徐々にトーンが下がったのはそれ故なのかー。
「どこの高校に通ってる?何年生?どこのクラス?君の友人関係は?」だが少年の頭の中のもやを吹き飛ばさんがごとく、星斗と名乗った少年に対し誠久郎は次々と矢継ぎ早な質問を投げ掛けていく。まるで違和感を形にしていくようにしっかりとした『基本的』な質問を。
「えっと…………早いです…………」誠久郎のテンポの速さに頭が追い付かないのか、困惑した様子の星斗。
「ああ、ロ・シエント(すまない)。気になることがあるとどうしても首を突っ込まなきゃ気がすまないタチでね、いやあ、困らせてしまったならロ・シエント、さ。まあ、こう言うときにさ、自分にあっせんなよ………トランキーロって言わなきゃならないわけさ。少しは周りを見るようにするさ」
一気に捲し立てて謝っているのか、さらに困惑させているのかを掴ませない誠久郎の喋りにどうすればいいのか、答えを見つけようがない星斗。
だが、これは誠久郎にとってのジャブ。ここから再び同じ質問を今度は緩やかに星斗が間に答えられるように始めるのだ。
「改めて………君はどの高校に通ってる?何年生?」
「私立彩青高校の2年生………です。A組です」
このあとも誠久郎と星斗のやり取りは続いていくがどことなくぎこちない受け答えのようにも思える会話が続いた。
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誠久郎は一通り星斗の話を聞くと、店の外まで彼を送り出し、彼の帰路をじっと見つめていた。
「話、どうだった?………少し複雑そうね」
誠久郎のその背後から応接間でお茶などを準備しながら、話を途切れ途切れながら聞いていたカナタが口を開いた。誠久郎と共に行動するがゆえ、些細な事も気にかかるわけだ。
「ああ、俺もそう思うんだよねぇ。さすカナ、俺が言いたいこともエンテンデール(分かる)、お見通しだねぇ」
「分かったから………で、やっぱり引っ掛かってるのって彼の事」
誠久郎の言いたいことぐらいすぐに言った方が早い、そんな教訓の元で先手を打つカナタ。それに対して不機嫌そうな空気を作り出す誠久郎。
「先に言うなんて、俺の良いところまで盗られちゃったみたいで悲しいなぁ。ま、たまにはいい場面を手渡すのもオトナの流儀って奴………かな?」
一向に話を進めない誠久郎であるが、彼の疑念とカナタの引っ掛かりは同じ場所にあるのは明白なのだ。
「引っ掛かるのは………自分の名前を口にした時ね」
「ああ、確かに妙さ。とりあえず話だけは聞いていたが違和感があってね。名前を最初から忘れていたような、流れ」
誠久郎が始めに違和感を感じたのは最初の空白の時間からだったようだ。
「名前を聞いた時の間の開き方と目の動き。何かがあるんだよね、俺の推測が正しければ………ま、調査してみたいと分からないけど、さ」
誠久郎の推理とどうやらカナタの意見は重なっているようだ。彼女もまた静かに頷く。
「そうね………。本当に物語を侵食されているのはーー星斗君なのかも」
意見が一致したことを確認すると、二人はすぐに支度を始める。行かなければならないのはまず星斗が通っていると言う彩青高校だ。
「ねえ、今回のタイプは何か察しはついてるの?」
カナタが意味深な事を後ろ向きで準備をしている誠久郎に問いかける。
すると、くるりと振り返った誠久郎は赤と黒の『カバー』に拳銃を構えた西部劇とハードボイルドなスナイパーが砕けたタッチで描かれた『漫画』のような手持ちの文庫本のような液晶をブラブラさせながら答える。
「まだ詳しい事は見えてないけどア・ディビナー(察しはつく)さ。物語の喰われ方が緩やかだ、しかも本人も気づいていない可能性があるとすればパラサイトフォーム、寄生型だな。どこからともなく放たれた贈り物は自分を確立させるために、成り代わる。忌みな贈り物、ゲシェンクに、ね」
「知ってる説明、ありがとう」
それはそうだ、とカナタがジト目で見るが誠久郎は胸を張って大きく手をあげる。
「こちらこそ、皮肉をどうも。ま、それを撃ち抜くのが俺の仕事、だからね」
誠久郎は漫画を折り畳むとそのアイテムは銃の『マガジン』に変形した。
《ブラックスナイパー!》
「このマカジンバレットを手に、さ」
「カッコつけてないでさっさと支度しなさいよ、エリサには言ってあるから。まずは幼馴染みに会うわよ」
誠久郎を促すカナタ。「はいはい」と面倒そうに繰り返すと先に出ていった彼女の背中を追いかけていったーー。
「……………………………」
龍海星斗はMemory Gardenを出た後、陸橋の柱に寄りかかり頭を抱えていた。
「…………僕は…………俺は…………龍海星斗で………会っているよな…………。家族は…………どうしたんだっけ?いや、いたっけ?帰る場所なんて」
頭の中にある違和感が彼を揺さぶる。自分の存在が消えるかのようにその違和感がノイズの彼方で何かを語る。
ーーー器をーーー
ーーー我が存在をーーー
ーーー物語はーーー
ああ、なんと言うべきなのか。自分が二人いるかのようだ。だが、それだけではない、さらに違和感を塞き止めているもう一人の誰かがいるのだ。
「……………俺は…………ああ、まだ………」
はっきり今、人格が回転した。今までの気弱な彼とは違う、もう一人の存在。違和感を塞き止めている防波堤だ。
その時、射し込んだ光に影が映る。その姿は一瞬だが、龍と鎧が混ざりあった異形の形をしていた。その形に気づいた星斗は唖然とした様子で小さく呟く。
「…………俺の中で何が起きてるんだ?」
信じられないのか、星斗はヨロヨロと腰を下ろす。だが、目は死んではいない。
「…………まだ、まだ…………」
一体何なのか、分からない中、光の中へと歩を進める星斗。陸橋の上から彼を見下ろす人物がいた。
灰色のロングコートを風にたなびかせ、ハットを深めに被る男は軽く笑う。
「面白い奴、みーつけた。このバレットと引き合うなんて………いやあ、偶然は面白いーー」
男の手の中には銃のポインターと液晶が合体したバックルを手に楽しげにしていた。