仮面ライダースコープーSaved storyー 作:コンテンダー。
一体どれだけの人がこの都市に運びっているのだろうか。
誰もがこの街ではただの脇役にしか過ぎないのだろうか、生きている間には実感は無く、歯車として生きているのか。
無数の物語が交錯するこの街の片隅で今日も誰かが自分を見失ってさ迷う。名はある、語ることもある。だが、大事な事は忘れてしまった。
それ故に街の片隅には物語を書くのをやめた者もいる。
「……………………………」
派手な赤いスーツを着た若者は夜の蠢くネオンに誘われ住人となった、ホストと言うヤツだ。毎夜の務めをこなし、今ようやく解放されたのだろう。
「…………疲れた…………。アフターとかやりたくねえよな」
光を嫌い、若者は裏路地の薄暗い闇に逃げたかのように壁に寄りかかり吸うものが少なくなったタバコに火をつける。
メンソールのきつい香りとタールの足が彼の唯一の楽しみであった。いつかは解放され、自由になりたい………そんな儚い願い事は煙となって、空気にほどけていく。
「そろそろ………楽しいことしてえよなー…………したいのか?ー…………あ?」
ー自由になりたいのか?ー
ー自分を変えたいかい?ー
そんな叶わぬ願いを口に出した若者の真上からノイズのような誘い声が響く。
「……………自由かあ…………」
きっと今ごろは自由だったはずなのに、なぜ自分は今、全うに生きていないのか?そんな疑念が誘い声で浮かび上がった。
「……………変わりたい。今のこんな生活から抜け出したい…………でもなあ、無理かもしれないし」
ーそうか、ならお前はお前でなくなってもいいみたいだな?ー
思わず口に出した若者の前にゆらりと蠢く弾丸が淡い光を浮かべながら降り立った。
「な、えっ?えっ?何が…………どういうこと?」
恐怖心が沸き立つがその声と淡い光に心が凍りついたように身も動かない。
ーでは、お前の物語を喰わせてもらおう!お前は俺、俺はお前。お前の物語は消滅し、天からの新しい物語を授かれッ!ー
「ッ!?く、来るな!?」淡い光の中に怪物が浮かび上がったのと同時に襲いかかる弾丸。若者はようやく我に帰り、逃げなければと後ろに下がる。
だが、恐怖心がそれを邪魔しその場に彼を固定してしまっていた。
ズブリッ!と鈍く贈り物(ゲシェンク)が身体に突き刺さり、若者が痛みを訴えるかのように小刻みに震え出す。
「あ、ああああああああっ!?頭が…………頭が…………何かが消えていく…………」
若者は頭を抱え、のたうち回ると同時に淡い光に記憶を、自分を消されていく。塗り潰されていく本のように自我が弾丸に吸い込まれる。
いや、吸い込まれる………と言うのは正しくない。食い散らかされているのだ。自分の物語が。
そして若者の身体と淡い光が重なりゆっくりとその影が異形へと変わっていく。背中に狼の皮を被ったような鈍色の黒と銀の鎧を纏った禍々しい怪物に。爪が鋭く伸び、顔も狼の仮面を名もない顔に被ったその姿はまさに異質。
どんな物語でも語られることがない贈り物によって若者は全てを喰いつくされ怪物へと変わってしまったのだ。
物語の輪廻から外れた怪物の名はゲシェンク。
ドイツ語で贈り物と言う意味の怪物を呼び覚ましたのはあの弾丸を放った謎の男によってなのだろう。
『ああ………器としては面白味に欠けるな』
若者の姿から成り変わったウルフェル・ゲシェンクは仮の皮に身を包み、早速街へと繰り出す。獲物を狙う狼の血潮が疼いたのか?
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「ちょっと…………怪しすぎない?」
物語の書き換えが起きたそんな頃、誠久郎とカナタは星斗が『恐らく』通って『いる』であろう学園前にいた。
学園を遠目に見ようとするカナタの意思と反して、なめ回すように学園の校門を眺める誠久郎。
彼は本当に正義の味方なのだろうか。どう見ても怪しさしか漂わない犯人だ。まあ、いつもの口ぶりからして大分詐欺師よりなのだが。
「青くて、未来は彩飾。なんていい名付け形だ。『青彩』学園。カナタもいい響きだと思わないかい?そぉれぇとぉもぉ…………星斗君の言っている事は怪しいと?ま、確かに彼が喰われているのは否定しないさ。でもさ、意外と………彼は特殊な体質かもよ?」
どうやら事務所での対面での様子と学園を一回り見た誠久郎の中で別な違和感も感じるようだ。
「それって?」
「学園にいる事自体は制服からして間違いない。そして…………」
誠久郎がカナタにスマホを見せる。どうやら学園内部の映像が写っていた。
「いつのまに…………」
「俺は優秀でね、これくらいは当たり前さ。エンセリオ(本当に)」
何かを通じて学園内を見通しているその映像はしっかりと音声までを記録する。
『龍海、今日は来てないのか?最近、休むよな』
『昨日は来てたけど、ね?灯、星ちゃんは見た?』
どうやら星斗のクラスの音声を拾っているようで彼に関する話し声もしっかりと聞き取れる。意図してその内容だけを拾っているだけであるが、鮮明にしっかりと中継している。
「…………どういう事?」
「つまり彼の言う話では幼馴染みの彼女の記憶が思い出せない、だけどみんなは分かっている。しかしながら、みんなの話には彼の名前と記憶が生きている。つまり、星斗君の物語は消えかかっていない」
星斗が物語を喰われているはずなら記憶が無くなっていき、存在が消えるはず。
だがそんな素振りはない。それはつまり何か特別な事情があると言う事なのかもしれない。
「そして今話を振られているのが彼が思い出を忘れかけていると言っていた高瀬灯」
『星斗ね、いつもみたいに挨拶はしたよ。ちょっといつも通りトゲがあったけど』
ここでカナタにも同じ違和感が沸き出した。
「…………変よね。私達の前だとちょっとそんなイメージなかったけど」
確かに彼はもっと気弱であった気がする。トゲはなく真っ直ぐな礼儀正しいイメージしかない。
「そこだ、どうやら………星斗君には………」
「ま、掘り下げたほうがいいよね」
「そうね」
今はまだ早い、そんな結論に達した二人だがカナタはその映像をどうやって中継しているのか気になったようだ。
「ところで、私の『カラクリ』が部屋に無かったんだけど…………無断拝借してない?」
「……………………………」
目をそらし口笛をわざとらしく奏でる誠久郎にやっぱりかと彼を見るカナタ。
「あのね、あのカラクリの使い方は荒いと壊れやすいんだから借りるときは一言って言っているわよね?」
「あれぇ、そんな言われたことが無いんだけどなあ」
「わざとね、確信犯ね」
とそんな事を言っていると、カナタの真上を『妖精』のようなカラクリが飛び回っていたのだ。
「………お、これはこれは噂をすれば君ご自慢の『マガジンマキナ』じゃないですか。これはこれは………偶然だねえ」
「予備のカラクリよ、何かあったら怖いから。まあ、ちょっと反応がないか確かめるために飛ばしておいた物だけど」
そう言いながらカナタは降りてきた妖精型のカラクリ『マガジンマキナ』を手に取ると、背中についているインクボトルを取り外す。
すると、カラクリはあっという間に変形し本の形になったのだ。どんなカラクリかは分からないがものすごいシステムである。
「で、なんて?」すっかり子供に戻ったかのようなわくわくとした口ぶりでマキナの手にした本を覗き見る誠久郎。
「…………誠久郎、ゲシェンクの反応よ!」
放っていたカラクリがゲシェンクの反応をとらえていたのだ。その声を聞いた誠久郎は顔をあっという間に弛んだ形からしっかりとした形に切り替える。
「で、彼かい?」
「いえ、別なゲシェンクね。急成長したみたいよ。街に向かう反応………行くのね?」
誠久郎はカナタの問いは愚問だと言わんばかりに彼女と乗ってきたバイクに股がる。
「オッケー。灯さんから話を聞くのは私がやっておくからよろしくね」
そういうと再びインクボトルを本に差し込んだ。
《フェアリーウィング!》
本は空中で展開しあっという間に白い妖精型のカラクリへと変化した。
「よし、案内してくれ。ってトランキーロだ………。頼むぜ、妖精ちゃん」
そして、誠久郎は何処かへマシンを走らせるのだった。