BE SOMEWHERE(if短編)   作:アズマケイ

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IF ズァーク編

「さあ、破壊されてもなお、お前に捕りつく危険な生命体から逃れられるかな!おれは《テラ・フォーミング》の効果を発動!デッキからフィールド魔法カードを1枚手札に加える!おれが手にしたのは《YOUTOUウォーターフロント》!発動するぜ!」

 

 

フィールドは一瞬にして湾岸エリアに変貌を遂げる。物流の流れにより空洞化、荒廃したかつての工業地帯がすさまじいスピードで再開発され、大規模な商業施設やテーマパークがたてられ、活気ある街並みを取り戻していく。その中心部にある広場に変わってしまった風景の中で、城前は笑う。

 

 

「こいつはフィールドのカードが破壊されるたび、1枚につき1壊獣カウンターを置く。そして、永続魔法《グレイドル・インパクト》の効果を発動!よし、いくか。《グレイドル・コブラ》を攻撃表示で召喚!さあ、バトルだ!」

 

 

宇宙人のような黒い目とピンク色の巨大な蛇の姿は嫌悪感を誘う。たった攻撃力1000だというのに、攻撃を命じる城前にどよめきが走る。突然の自爆宣言である。何をする気だ、と警戒する相手だが、《グレイドル・コブラ》は嫌がる様子もみせず、なんの躊躇もなく相手の攻撃の餌食となる。そのとき、相手のモンスターの挙動があきらかにおかしくなる。滴る液体は絶命したことを知らせているのに、ピンク色の蛇がその武器に絡みつき、一向に離れないのだ。そして、ふらふらとした足取りでそのモンスターは相手に刃を向けた。何をしたんだと叫ぶ相手に城前は笑う。

 

 

「こいつは戦闘または罠カードの効果で破壊され、墓地に送られた場合、相手フィールドのモンスターの装備カードとなる!そして、おれは装備しているモンスターのコントロールを得ることができるんだよ!さあ、いけ!」

 

 

相手のエースの必殺技を叫んだ城前に応じて、モンスターが相手にダイレクトアタックを叩き込む。苦渋に満ちたモンスターの表情、そして大好きなエースを寝取られたあげく、そんな表情をうかべるモンスターから攻撃されるという絶望が相手を襲う。

 

 

「おれはカードを1枚伏せてターンエンドだ。そしてエンドフェイズに《グレイドル・インパクト》の効果によりデッキから《グレイドル》モンスターを1体手札に加えるぜ」

 

 

相手はドローを宣言する。なんとかエースを取り戻そうと《サイクロン》を発動する。これで《グレイドル・コブラ》を破壊し、取り戻すことに成功するが罠カード《和睦の使者》を発動され、このターンで倒しきれないくなってしまう。悔し気に顔をゆがませた相手は、次こそは仕留めると息巻いて布石を巻きつつ盤面を整える。

 

城前はカードをドローした。

 

 

「《YOUTOUウォーターフロント》の効果により、壊獣カウンター3つのためデッキから《壊獣》モンスターを1体手札に加える!!そして魔法カード《妨げられた壊獣の眠り》の効果を発動!フィールドのモンスターをすべて破壊する!」

 

 

一瞬にして広場のモンスターは砕け散り、いなくなってしまう。あっけにとられる相手に城前はさらに畳みかける。

 

 

「そしてデッキからカード名が異なる《壊獣》モンスターを自分・相手のフィールドに1体ずつ攻撃表示で特殊召喚するぜ!この効果で特殊召喚したモンスターは表示形式が変更できず、攻撃可能な場合は攻撃しなければならない!俺はフィールドに《壊星壊獣ジズキエル》、そしてお前のフィールドに《海亀壊獣ラディアン》をそれぞれ攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

湾岸エリアに迫りくる黒い影。見上げるほどの巨体が街を襲う。逃げ惑う人々、悲鳴がこだまする。そして、怪獣大決戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 

相手は目に見えた地雷を踏み抜かなければならない。どうやらモンスターをひくことができなかったらしく、攻撃力が負けていることをわかっていながら、攻撃を宣言した。そして相手のフィールドはがら空きとなる。カードが伏せられ、ターンエンドが宣言された。

 

 

「おれのターン、ドロー!罠発動《グレイドル・スプリット》!このカードを攻撃力500アップの装備カードとして《壊星壊獣ジズキエル》に装備するぜ!」

 

 

相手はワンキル圏内に入っているからだろうか、せめてダメージを軽減しようとアクションカードを使い、罠カードを破壊する。

 

 

「おっと、その前に《グレイドル・スプリット》の第2の効果を発動だ!こいつを装備してる《壊星壊獣ジズキエル》を破壊し、デッキから《グレイドル》モンスターを2体特殊召喚するぜ!《グレイドル・スライムJr》と《グレイドル・イーグル》を守備表示で特殊召喚!!レベル2《グレイドル・スライムJr》にレベル6《グレイドル・イーグル》をチューニング!!さあこい、レベル8!《グレイドルドラゴン》!!」

 

 

銀色の胴体に金色の鳥の翼、紫色のコブラのしっぽ、そして緑色のワニの頭部を持つキメラのようにいびつで禍々しいモンスターが特殊召喚された。

 

 

「このカードのシンクロ召喚に成功したとき、シンクロ素材にした水モンスターの数までお前のフィールドのカードを破壊できる!さあ、バックをはがしてやるよ!」

 

 

《グレイドルドラゴン》の咆哮により、相手の伏せていたカードが破壊されてしまう。

 

 

「さらに《グレイドルドラゴン》と《グレイドル・スプリット》を破壊し、手札から《グレイドル・スライム》をフィールドに守備表示で特殊召喚!墓地に行った《グレイドルドラゴン》のモンスター効果により、墓地の《グレイドル・イーグル》をフィールドに特殊召喚!そして、《グレイドル・スライム》のモンスター効果を発動だ!この効果で特殊召喚に成功したとき、おれは墓地にいる《グレイドルドラゴン》を特殊召喚できる!そして、レベル5《グレイドル・スライム》にレベル3《グレイドル・イーグル》をチューニング!こい、もう1体の《グレイドルドラゴン》!!さあ、残りのカードをすべて破壊させてもらおうか!」

 

 

コントロール奪取とフィールドをがら空きにする性能をもつ城前のデッキにおいて、最後の殲滅宣言といってよかった。

 

 

「さあ、バトルだ!いけ、《グレイドルドラゴン》!相手にとどめを刺せ!」

 

 

レベル8で3000打点は攻撃力最高峰である。破壊したところで蘇生した《グレイドル》が追撃を行うだろう。相手は何もできないまま、デュエルは終了した。

 

 

YOU WIN!

 

 

電光掲示板が城前を大々的に移す。小さなざわめきがだんだん大きくなり、どよめきとなる。興奮気味な司会進行役が解説と実況席にデュエルの詳細について説明を求める。誰もが初めて見るテーマカテゴリだった。そして、だれもが目を焼き付けた。城前という不敵な笑みをたたえた決闘者を。コントロール奪取と相手のモンスターを蹂躙する地雷デッキを操る城前は間違いなくこの大会の台風の目なのは間違いなさそうだった。

 

そんなざわめきとは全く違う方向性で城前に目を付けた男がいた。ずっとモニタ越しに見つめていた男は突然思い立ったように踵を返す。驚いた様子で立ち去ろうとする上司を引き留めようとした部下に、赤馬零王は淡々と答えた。

 

 

「何が何でも彼と話をしなければならない!大会が終わっても引き留めてくれと主催者側に伝えてくれ!」

 

 

なぜ、が乱舞する研究室で、零王が言えたのはひとつだけだった。

 

 

「今すぐ彼の決闘と他参加者の決闘のデュエルエネルギーを比較するんだ!彼はこの世界の未来を変えてくれるかもしれない!」

 

 

わけのわからないまま城前の決闘と他参加者の決闘を比較した研究者たちは、ようやくチームリーダーが言いたいことを理解したようで、早急に手配を始める。数値は証明していた。アクションデュエルを中心としたソリッドヴィジョンに質量を持たせるという技術を管理するスーパーコンピューターにおいて、原因不明のエラーが発生していることが彼らの目下の悩みだった。出力したはずのデータと実際に現実世界で展開しているソリッドビジョンが持つ質量の重さが合わないのだ。理論上は絶対にありえないはずなのだが、現に発生しているのだ。しかもその容量は次第に拡大しつつあり、彼らの計算によれば、時空のゆがみが発生しかねないレベルの誤差が生じるのも時間の問題。だがこの世界はこの技術を前提として発展してきた歴史があり、もはや人々の生活自体この技術がなければ成り立たないところまで到達しようとしていたのだ。代替の技術を開発中だが、実用化まではまだまだ時間がかかる。想定される大災害に間に合うかは微妙だった。

 

城前の決闘は、彼らが想定しているアクションデュエルとぴったりの質量を伴ったモンスターたちで行われていたのだ。ほかの決闘者たちは誰一人としてここまで理想的な数値にはいたらない。どうしても無視できない誤差が生じてしまう。こちらが修正を加えることでこれまで大事故は起こらないでいるものの、労力は増えるばかり。そんな中現れた城前は、彼らの理論の前提が間違っていないことを証明してくれているに他ならない。《壊獣》、《グレイドル》、未知のテーマではあるけれど、この技術を開発した人間からすれば、この上なく理想的な存在だった。

 

 

最大スポンサーからの圧力とアクションデュエルの前提となる技術の提供者の期待により、城前は大会優勝という建前で、いろんな理由をつけて大会会場にとどまることになったのだが、もちろん本人は知らない。

 

 

零王が城前と会見することになったとき、いよいよ大物が出てきたこともあってか、城前はさすがに開いた口がふさがらないようだった。

 

 

「初めまして、私はこういう者だ」

 

 

名刺を差し出され、城前は初めまして、と緊張気味に頭を下げた。

 

 

「緊張しなくていい、といっても無理な話だな。すまない、私もいきなり失礼だとは思ったんだが、いてもたってもいられなくてな。単刀直入に言おう、城前君。今、君はどこかに所属しているか?」

 

「え?」

 

「《グレイドル》も《壊獣》も初めて見るテーマだったんだ、浅学ですまない、きっと海外の有名なスポンサーがついているんだろう?あるいはどこかの専属デュエリスト?いや、そんなことは大した問題じゃない。私がここに来たのは城前君にお願いがあるからだ」

 

「私にですか?」

 

 

とっさに対応を切り替えられるのは、そういう場所にいるのだろう、と零王は判断した。

 

 

「ああ、ぜひ、うちに来てほしい。そして、力を貸してほしいんだ。この世界の未来を救うために。こちらでできることはなんだってしよう、ぜひ頼む」

 

「・・・・・・なんでも?」

 

「ああ、なんでもだ」

 

 

はっきりと言い切るだけの大企業であることを惜し気もなく提示しつつ、零王は城前の出方をうかがう。そうはいっても、零王の頭の中ではすでに城前を逃がす気はみじんもなかった。どんな手段を使ってでもこっちに来てもらうつもりだった。家族構成、友人関係、洗いざらい調べられ次第、周囲から固めていくことも視野に入れつつ、何がほしいのだろうかと考える。あれだけの強力なテーマカテゴリを惜し気もなく提供できるだけの大企業だ。どれだ、と競合しているところを想像する。企業、もしくはスポンサーからの移籍だ、難題を吹っ掛けられることは想定済みである。この二十代の青年はきっとプロだ。しかるべき教育を受け、プロとなってずいぶんと立つ、そんな印象を受けた。

 

 

しばらくの熟考の末、城前は静かに顔を上げた。

 

 

「なんでもとおっしゃいましたよね」

 

「ああ、いった。撤回する気はない。それだけは約束しよう」

 

「なら、次元転移装置、がほしいです。もしまだないなら、造詣が深い人を紹介してください」

 

「次元転移、か。造詣が深い人間なら、今ここにいるから必要ないとしてだ。なぜか聞いても?」

 

「調べればすぐわかりますよ、おれはこの世界の人間じゃない。だから、元の世界に帰りたいんです」

 

 

はっきりと言ってのけた城前が笑いかけると同時に、零王の携帯端末がアラームを鳴らす。一言謝り、通話ボタンを押した零王の向こうで、城前の発言を肯定していく事実ばかりが積みあがっていく。城前のテーマカテゴリを開発した会社はどこにもないこと、城前の持つIDカードはもちろんそこに記録されているあまたの大会の記録はすべてそこの会社主催であること。城前が提供してくれた携帯端末の保存されていた画像によれば、全国大会、世界大会、海外大会すらその会社が主催であり、実質1社がデュエルモンスターズの販売と供給、そして市場を独占しているという驚愕の事実。そしてアクションデュエルで質量を食わなかった理由がそのテキストにあること。城前の持つデュエルモンスターズのカードは非常に難解な言語で成り立っているが、ルールが詳細に設定され、一定基準の環境になるよう戦力が均一化されるよう、インフレが起きるよう調整されていることがわかる。1社独占だからこそ可能なカードだった。環境すらコントロールできるのだ。驚くべきことにその成立にオカルト的な伝承を持つカードでさえ量産化され、いろんな人間が所持することができたという。理想郷ながら地獄のような高速環境とインフレを繰り返す世界である。

 

 

「城前君、君の持ってるデッキデータを提供してくれないか。もしかしたら、我々は世界崩壊を招く大犯罪人にならなくて済むかもしれない」

 

「どういう意味か教えてもらってもいいですか?」

 

「ああ、もちろん。どうして君がこの世界にきたのかはわからないが、正直私は今、神も捨てたもんじゃないなと思っている」

 

「そうですか」

 

 

そして、零王は今の世界の現状と高確率で訪れるであろう未来について語る。

 

 

「つまり、おれの世界のデッキデータをもとにカードを再構築すれば、アクションデュエル等の謎の質量の増加が抑えられるかもしれないってことですか。そして、応用すれば軽減にもつながり、運営がうまくいく?」

 

「ああ、そういうことだ」

 

「わかりました。そういうことなら、使ってください。おれ、カードプールは広いほうなんで、よかったら全部貸しますよ」

 

「ほんとうか!?すまないな、決闘者にとってデュエルモンスターズのカードは命より大事だというのに」

 

「またみんなと会うためです。なんだってしますよ、おれ。研究に必要なら実験にだって協力しますよ。だから、おれをもとの世界に帰してください」

 

「ああ、わかった。約束しよう、何年かかろうが君をもとの世界に帰す」

 

「ありがとうございます」

 

 

城前はうれしそうに笑った。そして、いうのだ。

 

 

「おれが想定される数値なら、ほかの決闘者と比較してみたらどうですか?一番乖離が大きい決闘者が見つけられれば、なにが原因かわかるかもしれないですよ。素人考えですけど」

 

「ああ、もちろん。それは私も考えていたところだった。協力に感謝する」

 

「原因、見つけられるといいですね」

 

「ああ。そうだ、つまり君は別次元から来たなら、実質フリーの決闘者というわけだ。なんにしろ先立つものがいるだろう、ここじゃなんだからわが社に来てくれ。そこでこれからの話をしよう」

 

「わかりました」

 

 

よろしくお願いします、と握手を交わす城前は、零王のしるこの年代の若者にしてはずいぶんと落ち着いているように見えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高級住宅地の一角に、とりわけ広大な敷地を囲う壁がある。厳重にセキュリティシステムに管理されている扉を抜けると、玄関に向かって広がる長い私道が続く。手入れされた生け垣や低い木々、広大な芝生が広がっていた。ひときわ目を引くのは最新鋭のシステムを導入したアクションデュエル専用のデュエルフィールドだろうか。屋内にあるが、天気のいい今日のような日はこうしてフルオープンとなっていた。

 

そして、さらに大きな豪邸の両開きの扉を開けると、広い通路が続いている。壁画や装飾が施された高い天井からは吹き抜けが陽だまりを生んでいた。曲線を描く階段からは二階、三階に続く廊下が見えた。広々とした部屋がたくさんある。足元を踏みしめるだけで高いとわかるふかふかな絨毯を進んでいくと、とりわけ大きな部屋にでる。ゲストルームではない。この豪邸の主の出現率が一番高いリビングルームである。防音システムとソリッドヴィジョンが標準装備であり、巨大なホームシアター設備が設置されている。そして用途不明の高価な電子機器。湿度と温度が快適なよう調整された空気の中、彼は落胆したように肩をすくめた。

 

「はい、わかりました。連絡ありがとうございます。また詳細がわかったらこの番号に、はい、はい、お願いします。それでは」

 

 

最近多いな、とズァークはため息をついた。数か月前から決まっていたはずのスケジュールがいきなり変更になると、なにをしていいんだかわからなくなってしまう。アクションデュエルだけでなく、工事現場や大規模なイベントなど質量を伴うソリッドビジョンを支えるレオコーポレーションのシステムに不具合が起きると、途端になにもできなくなってしまう。例にもれず、アクションデュエルを主な活動拠点としているズァークもまた、今日から数日にわたって行われるはずだったデュエルモンスターズの大会とそれに関連したイベントが延期になってしまった。うれしくない休暇である。さてどうするか、とぼんやり考えながら、ポケットを探る。

 

 

「そう急かすなよ、お前らな。お前らだってデュエルしたかっただろ?え?こないだも似たような休みもらったばっかりだろ、俺はうれしくないよ」

 

 

大きな独り言だが、気にする人間は誰もいない。この大豪邸はズァークと彼のモンスターたちのものだからだ。リビングにアクションフィールドを展開するアナウンスが響く。ソファに向かうズァークを追いかけて、カードをデュエルディスクにセットしたわけでもないのに、彼のカードバンクからモンスターが実体化された。かまえーとばかりに後ろから乗っかってくるドラゴンに潰されそうになる。もちろん甘噛みだし、抱っこをせがむ子供のような無邪気さとやさしさが同居しているのだ、くすぐったくすらあった。隙あらばスキンシップを試みるモンスターたち。こうやって実体化できるのはこのアクションフィールドの容量一杯である。これでも制限しているほうなのだ。うっかりスペックを超過するとライフラインが異常を検知して緊急停止してしまう。勝手をつかむまで契約会社に何度も連絡を入れた日々を思えばぜひとも勘弁してもらいたいものだ。そうでもしないと、突然発生した高エネルギーに隣人から通報されかねない。まるで本物であるかのように、生き生きとしている完成度の高い精巧なモデリングがズァークのデュエルの評判を呼んでいるのだが、ズァークから言わせれば当然の評価だ。こいつらは生きているのだから。

 

 

「うーん、結構大型のメンテナンスみたいだな。これじゃお前だけか」

 

 

われさきに、と飛び出してきたドラゴンは、そのメンテナンスが終わるまでは主を独占できると分かったらしく上機嫌である。ズァークが契約しているこのシステムもメンテナンスの対象のようだ。制限をかけることを詫びるメールが入っていることに気づく。

 

精霊はレオコーポレーションの質量を伴うソリッドヴィジョンの普及により、自然発生的に生まれたいわば付喪神のようなものだ、とズァークは考えている。画像が質量をもち、そこから自我が発生し、魂と心が生まれ、そして生物として誕生した。アクションデュエルが普及するにつれて爆発的に増えていった彼らは、ズァークの確認するだけでも途方もない数に及んでいる。ズァークが生まれたころにはすでに普及していたこの技術である。だというのに、知覚できると公言している人間をズァークは一人も見たことがなかった。彼らの声を聴きとれ、コミュニケーションが行えるのはズァークだけのようだった。彼の見る限り、プロになってから名のある決闘者はその存在を知覚できないだけで恩恵に預かっている。そのデュエルタクティクスはもちろんプロデュエリストの努力と才覚の賜物だが、さらに上に行くには運命力が必要だとよく冗談でいわれる。ズァークにいわせればそれはどんな形であれ精霊と関係を構築しているのかに直結していた。

 

 

俺は精霊の声を聴けるんだ、とプロデュエリストとしてデビューした当初、公言してはばからなかったズァークである。冗談だと取られたこともあったし、まるで生きているようにふるまう高性能な自主学習機能を搭載したAIを指しているのだと見当はずれの考察をされることもあった。それでもズァークが戦歴を重ね、トップ層に食い込み始めた時には、だれも揶揄する人間はいなかった。少なからず決闘者ならその存在を意識した瞬間があるのだ、とズァークは思っている。ライフポイントが鉄壁の時、どうしても突破できない盤面に出くわした時、どうしても負けられない時、ここ一番で盛り上がれそうな局面に立った時。運命的なドローをすることもあれば、モンスターが想定していない動きをすることで危機を脱したり、アクションカードを取得できたりする。偶然、必然、いろんな言い方があるが、特定のデッキをずっと使い続けていくとその場面に遭遇する機会が飛躍的に上昇することは、誰しもが経験則としてわかっているのだ。ズァークは決闘者を始めたころからそれがわかっていただけであり、ズァークが公言することでその存在を主が意識し始めたと悟った時、精霊たちは躍起になって活躍し始める。その存在に気付いてほしくて懸命に頑張る。その姿がいとおしいほどに健気で、なんとなくその存在を意識したとき、ズァークの対戦相手は穏やかな顔になった。だから、ズァークは決めたのだ。精霊と決闘者をつなぐ、どちらにとってもいい関係が構築できるような、そんな存在になりたいと。だから、ズァークはアクションデュエルが好きだし、今回の大会に向けて調整に余念がなかった。それだけに残念でならないのである。

 

 

マネージャーからの連絡はきそうにない。なにか入ってないかパソコンのAIに呼びかける。

 

 

ズァークの意思ひとつでシアターが表示され、レオコーポレーションの大型アップデートのお知らせと謝罪の文面が検索される。様々な憶測が飛び交っているが、ズァークの興味を引くものはとくになかった。

 

 

「どれくらいだって?さあな……これだけ大型のとなると数日はかかりそうだなあ」

 

 

出演予定だった大会のホームページを呼び出してみるが、やはり数日予定がずれそうだと書いてある。

 

 

「だってさ。仕方ねえよ、こればっかりは。このシステムが死んだら、それこそお前ら全員死んじゃうじゃないか。そっちのほうが嫌だよ、俺は。俺だけじゃない、みんな悲しむだろ。だからレオコーポレーションにはしっかりがんばってもらわないとな」

 

 

ソリッドヴィジョンのある環境でしか生きられない精霊たちは、レオコーポレーションのシステムと連動しているといっても過言ではないのだ。サイバーテロで大きな被害を受けようものなら、もたらされる被害は甚大なものとなる。そのためのメンテナンス、アップデート、そして大型のシステム更新だと考えているズァークは、つまらないとぼやくドラゴンをなだめた。

 

 

「せっかくだし、サイドの構築でも考えとくか」

 

 

大規模な大会である。レオコーポレーションの名を冠するだけあって、その出場枠は世界中から集っている。この国の代表としてその1枠を手に入れたズァークも初戦突破は容易ではないレベルの歴戦の勇士達が集う大会だと聞いているのだ。久しぶりに主を独り占めできるとべったりなドラゴンに構ってやるのもいいが、こうしてデッキ構築を再考することもまた次の大会のモチベーションにつながる行為である。ズァークの愛用するペンデュラム召喚にとっての天敵を使用する決闘者はいないか意識するのとしないとでは大違いだ。仮想敵を前提に構築は考えなければならない。相手を意識しない決闘などこの世には存在しない。エンタメは相手がいてこそだ。

 

 

ズァークがまずは考慮すべきデッキギミックを取り入れている決闘者をリストアップする。ズァークとの対戦歴も表示させ、その中でさらに厳選していく。後ろから相手の精霊についてドラゴンから助言を受けながら、ズァークはそのうちの一人をみた。

 

 

「城前か、まだ戦ったことないんだよな」

 

 

噂には聞くところである。今季から本格的にアクションデュエルに参入したプロのデュエリストだ。ライディングデュエルのライセンスはまだ持っていないようで、もっぱらマスタールールでの活動が主である。今は休暇を通じてそのライセンスを取るための講習に通っている、とSNSの目撃情報や公式ブログに掲載されている。ズァークは海外の環境に精通しているわけではないが、1度は耳にしたことがある国の出身である。デュエルモンスターズにデュエルディスクを導入し、ソリッドヴィジョンを導入したかの国の出身だというのだから、弱いわけがないのだ。略歴、こちらの大会での戦歴、なかなか華々しいデビューだったようである。先輩として負けるわけにはいかないなとズァークは思った。

 

 

《壊獣》という新規テーマを愛用している決闘者だった。

 

 

ざっと戦術を確認する。ズァークはあからさまに嫌そうな顔をした。ドラゴンも相手の戦術を想像したのか、うめいている。

 

 

《壊獣》は相手モンスターをリリースして特殊召喚できる最上級モンスター、壊獣を用いたテーマカテゴリだ。相手の厄介なカードをリリースし、壊獣にしてしまうことで相手の戦術を封じるコントロールデッキである。相手のモンスターをリリースして、相手のフィールドに壊獣を召喚し、それに応じてモンスター効果でより有利な壊獣を呼び出し、自作自演の怪獣対戦を決行。相手のフィールドは焼け野原、焦土と化す。基本的なシナリオは変わらないようで、その弱点を補うために《グレイドル》などの別テーマとの混合でいろいろと戦術を模索しているのがうかがえた。

 

 

「《壊獣》だけなら初動が遅いし、1体しかたたないから物量で押せるけど……混合デッキだとなあ。うーん」

 

 

大量展開に追いつけない弱点を潰せるテーマを探しているように、ズァークには思えた。それなら本家本元のペンデュラム召喚の本領発揮と行きたいが、上からふたをするタイプの盤面には驚異的な突破性能を誇るようだし、罠魔法を駆使しないと回らないようだから慎重にいかないと。ずいぶんと頭を使うデッキのように思う。やはり初動のうちにエンジンであるあのフィールド魔法を潰しておくべきだろうか。一度張られたらなかなか除去できそうにない。こういうときが一番楽しい。思考の海に沈んでいると、ドラゴンがうなり始めた。

 

 

「うん?どうしたんだよ、そんな顔して。え?いやいやいや、そんなわけないだろ。プロなのにそんなやついるか、普通?」

 

 

ドラゴンは警告を発する。

 

 

「お前がそこまで言うなら確認してみるか?」

 

 

ズァークは城前の動画を探した。精霊がいない決闘者など存在するのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……驚かせるなよ。城前にも精霊いるじゃないか、普通に」

 

 

城前のデビュー戦である動画を閲覧したズァークは、その質量を伴ったフィールドを自在に駆け巡るモンスターたちを見てほっとする。そして、後ろからズァークの頭に乗っかる形で視聴しているドラゴンの顎を撫でた。

 

デュエルモンスターズの精霊は、デュエリストがレオコーポレーションのシステムを採用したデュエルディスクにデッキをセットし、データを読み込んだ瞬間からそのカードに生命が吹き込まれる。原理は不明だ。自然発生的に生まれる、としかいえない。城前はこの国にきてまだ1年もたたない。レオコーポレーションのシステム外のデュエルディスクを使用していたのだろう、城前のデッキの精霊たちはいずれも生まれたばかりの赤子や幼子というのが適切な自我を持っているように見えた。自分がなんなのか、どういう存在なのか、そんな難しいことを考えるまでには至らない。デュエリストの指示通りにうごくだけのプログラムだった時代から生命体に昇格したことを自覚するにはそれなりに時間がかかるものだ。自分がどんな設定でデザインされ、どういう効果があるカードなのか、データが記憶に変換して流れ込んできて、自分を使っているデュエリストの声が自分を必要としてくれる存在だと認識して、それに対してどういった感情を抱くのか、が精霊の出発点。

 

何をしたらいいのかわからない、そんな戸惑いの中で、明確な指示を飛ばすデュエリストの姿は、どんな状況であれ精霊たちに強烈な印象を植え付ける。与えられたデータはデュエリストの力になることを求めてくるし、それがさも当然だと考える自分に戸惑いながらも、突然自由意思を与えられてしまった機械のように結局指示通りにしか動けない。そして役目を終えればカードの戻り、しばしの眠りにつく。そして、ふたたびデュエリストに呼ばれた時、断片的な記憶が少しずつ継続して、連続するようになり、自我が芽生え始める。

 

ソリッドヴィジョンの状態でなければ自我を保っていられないモンスターたちは、デュエリストたちがそのテーマを使い込めば使い込むほどにその状態でいられる時間が長くなる。デュエルを通して学ぶのだ、様々なことを。そして、ただのソリッドヴィジョンではなく精霊という存在だと自覚したデュエリストは、きっとデュエル以外でもモンスターたちを実体化させることが多くなるだろう。外でも、中でも、様々なシーンで呼び出されることが多くなるだろう。そうすればより精霊は様々なことを学び、どんどん賢くなっていく。そして、様々な感情をデュエリストだけでなく、彼らを通じて出会った人々や組織、社会、いろんなものに触れていき、世界が広がっていくのだ。そしてデュエリストと触れ合えば触れ合うほどに、モンスターたちは殺生与奪を握るデュエリストに対して、それ以上の感情を抱くに至るのだ。

 

ズァークは、自分とのデュエルを通して、精霊という存在を信じるにしろ信じないにしろ意識しはじめたデュエリストたちが、どんどん変わっていくのをつぶさに見てきた。

 

城前は《壊獣》というコントロールに優れたテーマを主体に、その弱点を補うために様々なテーマを混合しているデュエリストだ。いろんな動画をみる限り、この優勝した大会を通じて《壊獣》たちの精霊としての自我が一番成熟しており、ほかのテーマカテゴリはまだまだ幼子程度といった風に見えた。ズァークも《EM》、《オッドアイズ》たちが一番精霊として確立した自我を獲得しているし、出張セットや一時期使ったカードはそこまで成長していないから似たようなものだ。これは数年たったらどれだけ成長しているか楽しみだ。

 

精霊は自我を獲得するとき、一番影響を受けるのは当然デュエリスト、そしてデュエルをする環境である。子供の成長に家庭環境が大事であるといわれるように、その人格形成に多大な影響をもたらすのがデュエリスト自身だ。精霊はデュエリストの思考、プレイスタイル、性格、そういった要素をみて学ぶのだ。だから同じテーマを使っていても、決して全く同じ自我を獲得するわけではない。それが画一的なAIが設定されている普通のAIと精霊の最大の違いだ。

 

ズァークは《壊獣》も《グレイドル》も城前の持っているデッキしかしらないし、この動画以上のことはなにもわからない。でも、AIに設定される性格はほんとうに単純なものであり、ここまで細かな挙動はしないし、常に城前を意識しているようなしぐさをするわけがないのだ。城前はプログラミングに精通している、といった略歴を見つけることができなかったから、独自でAIを設定しているわけではないだろう。だから想定外をひとつでも見つけたらそれは精霊なのだ。もっとも、ズァークは精霊の声を聞くことができる能力があるため、それが精巧なAIなのか精霊なのかはすぐにわかる。

 

 

「あ、おとといの大会の結果がもう上がってる。さて、どれくらい成長したんだろうな」

 

 

ズァークは早速動画を再生する。

 

 

「……あれ?」

 

 

違和感にはすぐ気づくことができた。

 

 

「…………ほかのもみよう、まだ決めつけるのは早い」

 

 

強烈な違和感は動画の視聴を重ねるにつれて、どんどんひどいものになっていく。

 

 

「………………なあ、お前がいってたのって、もしかしてこれ?」

 

 

ドラゴンはそうだと肯定するように鳴く。

 

 

「城前はアクションデュエルに参戦しはじめたばっかりだから、AIの演出と勘違いして機能をOFFにしてる?いや、そんなことで一度自我を持ったAIがただのAIに戻るわけないよな。へんな動きをするからバグだと思って初期化した?でも精霊が宿るのはカード自身だ。データは関係ない。一度精霊に昇格したモンスターはカードを変えないと初期状態にはならない。でも《壊獣》は城前しか持ってないし、城前は同じカードをずっと使ってるはずだ。おかしい、おかしすぎる。城前がアクションデュエルを始めてどれだけたつんだよ。さすがに気づくだろ…………!なんで変わらないんだ!?」

 

 

大会のたびに自我に目覚め、どんどん成長していく精霊たち。城前が大会やイベントに出場するたびに、それは初めからになっているようにしか、ズァークには思えなかった。本来なら、アクションデュエルを行えば行うほど精霊たちは精神的にも肉体的にも成長していくのだ。それなのに、1つの大会が終わるたびに初期化作業をしているような、そんな違和感があった。突然自由意思を与えられた無機物特有の挙動不審、《壊獣》はフレーバー通りの知能しか持たないのか、とも思ったが、比較的使用回数が多いはずの《グレイドル》まで似たような反応なのはいただけなかった。

 

オカルトを信用しないリアリストのような言動が目立つなら、精霊のような存在を認めず、煩わしいバグだと片付けてしまいそうだから問題なかった。ズァークもプロのデュエリストとして、それなりのシーズンを過ごしてきた。どうしても相いれない存在はいるとわかっている。城前がそういう連中なら気にするだけ無駄だと思った。でも、数々のイベントをこなす城前の動画や取材記事を見る限り、彼は精霊みたいな存在がいるなら会ってみたいという一般人によくある前向きな無関心さがあった。だいたいのキャラはわかった。バラエティに引っ張りだこな時点で容易に想像がつく。そんな彼が精霊の存在をノイズとして一切認めず、排除し続けるというおぞましいことをしているようにはどうしても思えなかった。ズァーク自身、自分の勘はそれなりに信用しているところがあるのだ。こいつは話せるやつだ、と思った。ドラゴンはズァークに警告する。

 

 

「まあ、そう決めつけるなよ。これは、城前に話を聞かなきゃだめだな。誤解してる気がする」

 

 

ズァークは城前のスポンサーをしている会社を見ながら言った。

 

 

「ここ、あれだよ。お前が大っ嫌いな赤馬零王がいるとこ」

 

 

精霊という存在を認めない勢力は一定数存在している。その筆頭ともいうべき存在が最大スポンサーなのだ。あることないこと吹き込まれている気がした。通りで決闘したことがないわけだ。所属事務所があちらの影響力が強いところなら、不愉快なこちらとわざわざ接点を持って感化されたら困るとでも思っているのだろう。ここは大人の世界の事情も複雑に絡み合ってくるのだ、そういった事情を抜きにしても数日後の大会ではおそらくぶつかることになるだろう、とズァークは思った。その時に話ができたらいいなとも思う。

 

《壊獣》たちは不敵な笑みを浮かべる城前の真似をして、怪獣映画の主役のごとく活躍しているのだ。我が物顔でフィールドを蹂躙する。ヒール役の精霊はヒール役になりやすいというところだろうか。精霊が生まれては死に、初期化されては、初めのころと同じように存在を認識できない城前に気づいてほしくて、懸命にデュエルをする。そんな精霊たちが城前に自覚されることもなく、人知れず初期化という生と死を短時間で繰り返し続けているとしたら、それはズァークにとっては我慢ならないものなのである。

 

 

「よし、決めたよ。今回、俺のターゲットは城前だ。だから、協力してくれよ、お前ら」

 

 

ズァークの言葉に答えたのは、ドラゴンだけではなかった。

 

 

「メンテナンス終わってないんだけど、どうしたんだよ」

 

 

いつの間にかたたずんでいたのは、ズァークが最近出会った《魔術師》というテーマカテゴリの代表格のモンスターだった。ズァークのカードプールの中でも現在の精霊とデュエリストの関係について、不満を抱えている勢力でもあり、ズァークを通じて主張をしたい勢力でもある。いわば過激派といってよかった。彼は赤馬零王率いる研究チームをひどく警戒しており、ズァークが接触を持とうとすると決まって警告に現れる。城前もあの男側の人間だから気をつけろと言いたげだった。

 

 

「え、城前のデュエルでか?珍しいな、お前が出たいなんて。いや、別にいいけど。俺は城前に精霊がいるってことを伝えたいだけなんだよ。信じようが信じまいが精霊は存在するんだ、それを城前が意識してくれればきっといろんなことが変わり始める。俺はそれがみたいだけなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「精霊?あー、うん、まあ。知ってるよ」

 

「え?」

 

 

衝撃だった。

 

 

「赤馬、赤馬零王からなにか聞かされたのか?」

 

「それもあるけど、デュエルモンスターズには昔から精霊はいたって知ってるし。ズァークのいう精霊はどっちかってーと、自我に目覚めたAIって意味だからちょっと違うかもしれねーけど、誤差の範囲だろ。おれ達とは違う存在」

 

「その口ぶりだと信じてるんだよな?見えるのか?」

 

「見えはしねーよ、ソリッドヴィジョンと区別つかねえもん」

 

「じゃあ、声は?」

 

「聞こえるわけねーだろ、俺は特別な存在じゃない」

 

「でも知ってる」

 

「ああ、知ってる」

 

「嫌いなのか?それとも何かあったから、あんなことを?」

 

「いや、全然。むしろ興味ねえよ、おれには関係ねーからな」

 

「本気で言ってるのか?」

 

「そうだよ、もちろん。本気じゃなかったら、誰がするよ、あんなこと。でもおれにはどうしても譲れねえことがある。だからさ、いつかお前とは戦う気がしてたんだぜ、ズァーク」

 

 

なぜ、が先に来る。なぜ城前はこうも堂々と敵対宣言をしているのだろう、傍らにはその発言を聞いて動揺しているモンスターがいるというのに。存在が知覚できないからこそ残酷な仕打ちができるデュエリストは数多く見てきたが。はじめからその存在を知っていながら、自分を慕う存在を認識しておきながら、こうも堂々と口に出せる人間をズァークは初めて見た。赤馬零王の勢力の人間として精霊の存在を認めず、排除する方向に動く、と宣戦布告をしているというのに、ここまで生き生きしているのか、ズァークにはわからない。ここまでいい笑顔を浮かべるのは、ズァークとのデュエルの前には些細なこと、むしろ余興とでも考えているのだろか。ズァークにとっての本題が城前にとってはどうでもいいことなのはその態度でよくわかる。

 

動揺してしまったズァークは、頭が回らない。

 

 

「デュエルが終わるたびに精霊を初期化なんて、どうしてそんなこと」

 

「レオコーポレーションとの契約なんだよ。精霊が存在を維持するのに必要なデュエルエネルギーとソリッドヴィジョンの関係についてのな」

 

「実験に差し出してたのか」

 

「おれにとっては大事な実験なんだよ」

 

「まさか精霊達をエネルギーに!?」

 

「そのまさかだよ。だいたい、最近のソリッドヴィジョンの不具合の原因は精霊が増えすぎたせいだろうが」

 

「だからってそんなことする必要ないだろ!」

 

「自覚はあんのか、安心した。本来計算されたはずの質量以上の実体が出現することの危険性はちゃんと認識してんだな、ズァーク。エネルギーは循環しなきゃいけない。それを管理して初めて、アクションデュエルは安全でいられるんだ。投影以上の実体や質量が出現したらどうなるか、想像するまでもねえだろ。今はその瀬戸際にまできてんだよ、わかれ。もし、レオコーポレーションのシステムを上回る質量を持った精霊が出現してみろ。お前は制御できんのか。ブラックホールなんて生やさしいもんじゃない、この街がどんだけこの技術で成り立ってるとおもってんだよ。そいつを全部食い散らかして実体化したらどうなると思ってんだ」

 

 

これ自体、城前が現れてはじめて判明した事実なのである。この街でデュエルモンスターズを行うと言うことは、レオ・コーポレーションのシステムを使うということを意味する。プロを目指すなら、それこそ幼い頃から結果を出すために大会に出場するだろう。アクションデュエルにしろ、ライディングデュエルにしろ、スタンディングデュエルにしろ、すべてのソリッドヴィジョンはレオ・コーポレーション製一択だ。デュエルモンスターズにだけ発生する謎の質量の増加を検証するにしても、研究所がサンプルとするのは大会常連など名の知られた者がほとんど。彼らは幾度も同じデッキを使い込み、精霊を成長させている状態であり、それがデフォルトなのだ。例外は存在しないといっていい。初心者を対象とするにしても、物心ついた頃からデュエルに慣れ親しむこの街の子供達である。デュエルを生まれてはじめてする子供がいて初めて検証が成り立つのだ。参考程度のデータはとれても、今まで一度もそのカードをデュエルディスクに通したことがないか、なんてわからない。そういう意味では、今まで一度もレオ・コーポレーションのソリッドヴィジョンをつかったことがなかった城前がデュエルをして初めて、彼らは精霊が出現する瞬間を物理的に把握することができたといってよかった。それが魂の重さだと。

 

 

「そこまでして何を望んでるんだ」

 

「元の世界に帰るためだよ」

 

「もと?」

 

「おれはこの世界の人間じゃない。元の世界に帰るには、次元転移装置がいる。それにはエネルギーが必要なんだ、膨大な」

 

「!?」

 

「精霊はしんじるのに、異世界人はしんじねえってか?」

 

「元の世界にはいないからって、精霊をそんなことに使うのか!?」

 

「だからいってるだろ、ズァーク。おれは精霊に興味なんてないんだよ」

 

 

ここまで明言されては、さすがのズァークも気づく。

 

こいつは敵だ。まごう事なき敵だ。ズァークは基本的に相容れない人間でも存在を許容するくらいにはプロを続けてきた。でもこいつだけは我慢ならない。城前に賛同して研究をしている赤馬たちもなおのこと許すことなどできない。

 

 

「さあ、デュエルと行こうぜ、ズァーク。これが終わったらいいこと教えてやるよ」

 

「もったいぶらずに今すぐ教えろ!何を企んでるんだ!」

 

 

選手控え室に呼び出し音が鳴り響く。くってかかろうとしたズァークだったが、城前は軽くいなして出て行ってまう。くそ、と壁を殴る音がやけに大きく響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルディスクが城前の先攻を知らせる。

 

 

「先攻はもらうぜ!おれは手札から永続魔法《グレイドル・インパクト》の効果をを発動!そして、モンスターを裏側守備表示にして、伏せカードを1枚置く」

 

 

効果音と共に裏側のカードが伏せられていくモーションのあと、虚空にソリッドヴィジョンが溶けていく。

 

 

「エンドフェイズに《グレイドル・インパクト》の効果でデッキから《グレイドル》カードを1枚手札に加えるぜ。おれのターンは終了だ」

 

 

先走る感情をドローに込める。精霊たちがざわめいているのを感じる。初めて立ちはだかる敵に気持ちばかりが先走る。ズァークは警戒しつつも、ドローを宣言した。

 

 

「俺は永続魔法《星霜のペンデュラムグラフ》の効果を発動!このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドの魔法使い族モンスターを相手は魔法カードの効果の対象にすることはできない!そして、俺はスケール4《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をライト・ペンデュラムゾーンに、スケール8《虹彩の魔術師》をレフト・ペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム召喚!さあ来い、俺のモンスターたち!!俺は《賤竜の魔術師》と《覇王眷竜ダークヴルム》を攻撃表示で特殊召喚!!《覇王眷竜ダークヴルム》のモンスター効果を発動だ!こいつは召喚、特殊召喚に成功した場合、デッキから《覇王門》ペンデュラムモンスター1枚を手札に加えることができる!」

 

 

ズァークのデッキから鮮やかな光彩を伴ったカードが飛んでくる。それを手にしたズァークは、さらに展開を進める。

 

 

「バトルだ、城前!俺は《賤竜の魔術師》でその伏せられたモンスターに攻撃だ!」

 

 

城前は笑った。

 

 

「こいつは《グレイドル・イーグル》!!」

 

 

守備力はたったの500、2100も攻撃力がある《賤竜の魔術師》の敵ではない。だが、そのモンスターが開示された瞬間、城前のデュエルをたくさん閲覧してきたズァークは悪い手だったと悟る。どのみち攻撃しなければ始まらないのだ、どうしようもなかった。

 

 

「こいつは戦闘またはモンスターの効果で破壊されて墓地に送られた場合、相手フィールドの表側表示のモンスターの装備カードとなる!そして、そのモンスターのコントロールを得ることができる!」

 

 

城前の宣言と同時に、液状のスライムに取り込まれて擬態の餌になっていた鳥型のモンスターが、新たな犠牲者を求めて襲い掛かる。あっという間に取り込まれ、宇宙から飛来したモンスターの擬態の核となってしまった魔術師はズァークから離れていく。ズァークは苦い顔をする。精霊を奪われた苦痛と、その能力を発揮した《グレイドル・イーグル》の幼い子供が親を慕うような無邪気さが胸に刺さっていけない。コントロール奪取が得意なテーマカテゴリはその性質上ヘイトを集めやすい。だが、使い手がその戦術を好み、自信満々で駆使するとしたら、それはきっと本望なのだ。使い手に恵まれた《グレイドル》はとても生き生きしている。たとえこのデュエル大会が終わり、デュエルエネルギーの無に還る運命だとしても、きっとまた城前を慕うのだ。何度も何度も繰り返されてきた悲劇だ。

 

 

「どうする、取り返すか?大事な仲間なんだろ?」

 

「…………っ!俺は《星霧のペンデュラムグラフ》の効果により《魔術師》カードを手札に加えるっ!」

 

 

笑いかけてくる城前に、ズァークはにらむだけだ。《覇王眷竜ダークヴルム》の攻撃力では《賤竜の魔術師》の攻撃力は越えられない。

 

 

「俺はこれでバトルを終了だ、そして、エンドフェイズに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のペンデュラム効果を発動!こいつを破壊して、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターをサーチだ。ターンエンド」

 

 

どうくる、と前を見据えるズァークに、城前はどこか楽しそうだ。デュエルでこんな生き生きとしているし、城前の指示でデュエルを行うモンスターたちはとても楽しそうなのに、城前が精霊にたいしてやっていることを思うと愕然としてしまう。ドローにより手札が増えた城前は《N・グランモール》を召喚、バトルフィズに移行した。

 

 

「俺は《賤竜の魔術師》で《覇王眷竜ダークヴルム》を攻撃するぜ、いけ、バトル!」

 

 

《グレイドル・イーグル》に洗脳されたのか、自我を上書きされたのか、主導権を握られたのか、苦悶と謝罪の言葉が聞こえてこないのが唯一の救いだった。仲間から攻撃される苦痛を味わうのはドラゴンだけである。断末魔が響き渡った。そして余波で斬撃をくらったズァークは後ろに吹き飛ばされそうになる。かろうじて持ちこたえるが、やはり気にくわない展開だ。

 

 

「《グレイドル・インパクト》の効果でデッキから《グレイドル》カードをサーチ!俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 

ズァークは怒りのボルテージが上がっていくのを感じる。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

呼応するように呼び込まれるカードは強力な効果を連れてきた。

 

 

「俺はスケール1《紫毒の魔術師》をライト・ペンデュラムゾーンにセッティング!さあ、もう一度現れろ、俺のモンスターたち!!ペンデュラム召喚!」

 

「通すわけにはいかねえなあ!カウンター罠発動《神の通告》!!ライフポイントを1500支払い、モンスターの特殊召喚を無効にして、破壊する!さあ、墓地に行ってもらおうか!!」

 

「なっ!?」

 

 

わかってはいたはずなのに。ズァークは唇をかむ。《壊獣》も《グレイドル》も大量特殊召喚といった物量で押し切られることを非常に苦手とするテーマだ。その弱点を克服するためにいろんな混合デッキを組んでいる城前が対策を講じないわけがないではないか!ここはバックを早急にはがすべきだったのだ。冷静さを欠いているのは間違いなくズァークである。おちつけ、と自分に言い聞かせ、ズァークは必至で挽回を考える。

 

 

「まだだ!俺は墓地にある 《紫毒の魔術師》の効果を発動!効果で破壊されたこいつはフィールドの表側表示のカードを1枚破壊することができる!《グレイドル・イーグル》を破壊だ!俺のモンスターを返してもらおうか!!」

 

 

《賤竜の魔術師》は呪縛から解放され、ズァークのエクストラデッキに帰還する。うれしそうな声、そしてごめんなさいの声、ありがとうの声、そのひとつひとつがズァークを冷静にしていく。

 

 

「《黒牙の魔術師》のモンスター効果を発動!このカードが効果で破壊された場合、自分の墓地にある《魔法使い族》《闇属性モンスター》1体をフィールドに特殊召喚することができる!甦れ、《黒牙の魔術師》!!」

 

「こいよ、ズァーク」

 

「…………っ、いや、バトルは行わない!俺はターンを終了だ」

 

 

城前はちぇ、とぼやくが自分のターンになったことを確認すると、ドローを行う。《N・グランモール》は戦闘を行わずに互いに手札に戻る効果である。複数モンスターを並べられるなら攻撃できるが今はできない。

 

 

「じゃあ、お前のモンスターには生贄になってもらおうか!」

 

「なっ」

 

「俺はズァークの《黒牙の魔術師》をリリース!《海亀壊獣ガメシエル》をズァークのフィールドに攻撃表示で特殊召喚!」

 

「くっ……俺は《星霜のペンデュラムグラフ》の効果で《魔術師》カードを手札に加える」

 

「そんなことしても無駄だぜ、魔法カード《妨げられた壊獣の眠り》の効果を発動だ!フィールドのモンスターをすべて破壊し、デッキからズァークのフィールドに新たな《海亀壊獣ガメシエル》を攻撃表示で特殊召喚!そして、おれは《壊星壊獣ジズキエル》を攻撃表示で特殊召喚だ!さらに《グレイドル・コブラ》を召喚、そして罠発動《グレイドル・スプリット》!《グレイドル・コブラ》をリリースし、デッキから《グレイドル・イーグル》と《グレイドル・スライム》を守備表示で特殊召喚する!墓地に行った《グレイドル・コブラ》のモンスター効果により、《海亀壊獣ガメシエル》をこちらのフィールドに移すぜ!そして制約により墓地に送られる!そして、《グレイドル・イーグル》と《グレイドル・スライム》この2体でシンクロ召喚!現れろ、《グレイドルドラゴン》!!モンスター効果を発動だ、素材になった水属性のモンスターは2体、よってズァーク、お前のフィールドのカードを2枚破壊する!まずは1枚目!」

 

「くそっ……終わってたまるか!俺は手札から1枚目の破壊にチェーンして手札から《クロノグラム・マジシャン》を特殊召喚し、モンスター効果で手札から《紫毒の魔術師》を守備表示で特殊召喚する!さらに《虹彩の魔術師》のペンデュラム効果を発動だ!デッキから《ペンデュラムグラフ》カードをサーチする!」

 

「だが2枚目は破壊させてもらうぜ!対象は《紫毒の魔術師》!これで終わりだよ、ズァーク。楽しかったぜ、お前とのデュエル。さあいけ、《壊星壊獣ジズキエル》!そして《グレイドルドラゴン》!ズァークにとどめを刺せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歓声が遠い。どうしようもなく遠い。 城前の勝利を告げるブザーが鳴り響き、司会進行役が実況と解説に先ほどのデュエルについて、説明を求めているのが聞こえた。すべて意識しなければ通り過ぎてしまいそうな、雑音と化している、そんな状況の中でやけに大きく響くのだ。 城前の声が。何一つ変わらない、楽しかったぜお前とのデュエル、と言ってのけたその口で、ズァークにとって残酷な現実を突きつける。

 

 

「いいこと教えてやるよ、ズァーク」

 

 

脳が聞くことを拒否している。聞くな、やめろ、その意味を理解した瞬間に、戻れなくなるぞと本能が叫んでいる。でもどうしようもなかった。今のズァークはその言葉を拒否する権利などないのだ。 城前が、そして精霊という存在を認めない組織が、これからなにかしようとしている、とさきほど控室でぶち上げてきたのである。ズァークは感情と理性をきりわけて聞かなければならない。ズァークのこれからの行動を決定づける大事件が目前に迫っているという焦燥感だけがあるのだ。それがさきほどのデュエルでズァークの精神にゆさぶりをかけ、ありえないプレイングミスを連発してしまった、もっと平常心で挑むべきだったのに、だ。今更公開してももう遅い。ならば今できる最善を尽くすために、せめて情報を得なければならない。ズァークはなかば気力で立ち上がろうとした。

 

 

「レオ・コーポレーションが近々大きなアップデートをするって予告してるだろ?」

 

 

それはいろんなサービスを利用するうえで、ページを消去する手間が増えると嫌悪感を覚えるレベルで告知されていることだ。今、それを語られる意味を否応なくズァークは理解してしまう。あのアップデートはいつと告知されていただろうか。一週間、一か月、数か月、はっきりとは思い出せないが、ずいぶんと前から告知されていた気がする。思えば 城前がアクションデュエルに参戦することになった時期と一致している、とようやく気付く。

 

 

「おれのデュエルディスクの設定がデフォルトになるんだってよ」

 

「初期化がデフォルトになるってことか?!」

 

「それ以外に方法ねえんだよ、控室でいったろ?レオ・コーポレーションのソリッドヴィジョンシステムが精霊を抱え込んだまま、今のシステムを継続することはもうできねえんだ。このままシステムが破たんして、精霊とこの街もろとも死に絶えろっていってんのか、ズァーク?んなふざけたことできるわけねーだろ。ソリッドヴィジョンがないと生きられない精霊と、そのシステムがないとあらゆる経済活動、生命活動が完全停止するまで着ちまってるこの街だ。いつかはくる終わりだったんだよ、なんで誰も気づかなかったんだろうなあ?」

 

 

城前は問いかける。

 

 

「おれが、いや、おれじゃなくてもいい。おれみたいな、レオ・コーポレーションのシステムに一度も触ったことがないデュエリストが現れさえすりゃ、もっともっと別の方法がとれたかもしれねえのになあ?残念だぜ、ズァーク。おれもこんな立場じゃなきゃ、お前と仲良くなりたかったよ」

 

 

その発言の真意を問うことができるほど、ズァークは 城前のことを知らない。

 

待て、という気力もなかった。今まさに突きつけられた現実に頭が追いついていかない。このままだとズァークが実現までもうすこしだと思っていた精霊と現実世界が両立する、お互いがつながりあって存在を許容する世界が破たんしてしまうことになる。どうする、どうしたら、どうすればいい、問いかけられるような存在がズァークには精霊側にはたくさんいるが、人間側にはいなかった。なんでもできる才能に恵まれ、一人でなんでもできてしまうほどのポテンシャルに恵まれてしまったが故の欠点が最悪な形で露呈する。

 

ズァークがなにもしなければ、精霊はデュエルが始まった瞬間に生まれ、デュエルが終わった瞬間に死ぬという悲劇を彼は延々見せつけられる地獄が待っている。でも、このままだといけないことは 城前に指摘されなくてもズァーク自身心のどこかで分かっていたことだ。精霊のように万人が存在を知覚できない、たしかに存在する存在に対して、どう接していいかは答えなどない。千差万別である。まさかその対応の自由すら許されないレベルまでレオ・コーポレーションのシステムに負担を強いていたとはしらなかったけれども。

 

精霊が危険な存在だと今ここで大々的に宣伝されないということは、赤馬側はその存在を認めずに抹殺する気であると同時に、知る必要がない存在だとして人々から忘れ去られることを期待しているとズァークは感じ取る。そんなことがあってたまるか、許されてたまるか、こいつらが好きで、デュエルがすきで、デュエルを見てくれる人が好きで、ここまで一生懸命賭けがあってきたのに、こんな最悪な形で終わってたまるか。ズァークの感情の荒波に感化される形で、精霊たちは心配そうに彼の前によってくる。周囲には知覚できないが、それだけでほんの少しだけズァークは冷静になれた。

 

まだ、手は残されているはずだ。なにか、なにか。

 

控室にもどる過程で思考に没頭するがうまくまとまらない。ズァークは思いつめた表情のまま、大会会場を後にしたのだった。

 

 

どこから、といわれて線引きすることはとても難しい。ただ、ズァークという精霊も好きで、デュエルも好きで、見に来る観客も好きで、スポットライトを浴びる自分も好き。だからアクションデュエルを極めるんだとデュエルのエンターテイメント性を追求していたプロのデュエリストが死んだのは間違いなくここだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

断片的な記憶と現状を把握し、今自分がどうなっているのかを自覚するころには、新しい世界ができて14年もの歳月が流れていた。実体を失い、再構成された自分の一部から覗き見てきた世界は、ズァークが最も恐れていた世界だった。アクションデュエルが普及した街だというのに、精霊について気づく人間は誰一人としていない。デュエルで生まれデュエルが終わると同時に初期化プログラムが発動して、問答無用でデュエルエネルギーに還元されていく、そんなことが日常化した世界。ズァークのかけらたちは誰一人としてズァークの才能を受け継いでくれた者はいなかった。いや、わざとなのかもしれない。そして、ズァークはある時気づくのだ。精霊だけではない。アクションデュエルの有無にかかわらず、もともとデュエルモンスターズにはもともと精霊のような存在がいる、あるいはその生まれゆえに伝承や噂として人ならざる者の存在はまことしやかにささやかれてきたはずだ。少なくてもズァークのいた世界ではそうだった。だが、ズァークが近くできた4つの次元ではどこにもそんなものがないのだ。いいつたえ、噂、そういったものがなにひとつない。初めからなかったかのように、すべて科学がすげ変わっている。オカルト要素がなにひとつ存在できない世界のかもしれない。いや、この世界の住人たちはそもそもそういった存在を知覚できないように再構築されているのだとズァークは気づいてしまった。

 

精霊と融合し、悪魔と化したズァークを否定するために生まれた世界である。復活という悪夢の再来を何が何でも阻止しなければならない、そんな強い意志を感じてしまう。ズァークの脳裏に女がよぎる。赤馬零王も。そして、あらゆる精霊を変換したデュエルエネルギーが満たされたタンクのある地下施設で、起動した次元転移装置のその先をズァークはどうしても思い出すことができないでいる。この世界でもあの悪夢のシステムが存在しているということはまさか。予感はあるテレビを見ることで当たるのだ。

 

 

「あ、 城前だ!」

 

 

遊矢はテレビの前にかけていく。

 

 

「あら、ほんとね。この間のデュエル、放送してるわね」

 

「あのときの?」

 

「そうそう、あのときのね」

 

「じゃあ見る!」

 

「テレビ見ながらご飯食べちゃだめよ、遊矢。録画してあげるから、ほら」

 

「えー」

 

「ちゃんとご飯は噛んで食べなきゃダメよ」

 

「でも」

 

「でもじゃないの。そんなに城前 君に会いたいなら、今度見に行きましょうか」

 

「ほんと?!」

 

「ええ、今度お父さんとデュエルすることになったんですって」

 

「お父さんと!?」

 

「ええ」

 

「どうしよう、どっち応援したら」

 

「どっちも応援してあげないと、お父さんも 城前さんも泣いちゃうわよ」

 

「あははっ」

 

 

無邪気に笑う遊矢とそこから浮かんでくる回想、そして記憶、知識を拾い上げ、ズァークは戦慄するのだ。あれだけ精霊を殺しておきながら失敗したのか、あいつは!?しかも今度はもっと膨大なエネルギーが必要だと思って、今度は普及させると同時にデフォルトであの初期化プログラムを仕込むだと?!そんなことされては、いくらレオ・コーポレーションのソリッドヴィジョンシステムが普及しようと、精霊が自我を持つにいたらないではないか。自分がなんなのかわかる前に存在を抹消するプログラムがあたりまえとなり、しかも精霊を誰もが認識できないというおぞましすぎる世界である。ズァークは何もできない自分に絶望した。またか、また目の前でなにもできないまま、終わっていく彼らを見るしかないのか!

 

なにかないか、何か手は、必死で頭を巡らせる。せめて、せめて精霊たちだけでも解放したい。レオコーポレーションのシステム自体が普及していない、ほかの世界の精霊たちはまだ救いだ。デュエリストたちに直接接触することができる機会に永遠に恵まれないだけで、この悲惨な現状からはもっとも程遠い。せめてあの忌まわしきシステムだけでも破壊したい、だがそれだけでは駄目だ。前の世界の繰り返しだ。いつか精霊の存在を無視できなくなる時点がきっとくる。そのとき、何らかの答えを提示しなければ、きっと世界は精霊をまた抹殺する方向に動き出してしまう。それだけはいけない。二度目を繰り返すわけには絶対に。

 

知識が足りない。

 

その事実に気づいたズァークは、遊矢の思考を時々乗っ取り、そういった知識を蓄えることから始めることにしたのだった。

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