コンセプトデッキ
それは遊戯王の歴代アニメシリーズに登場する決闘者のデッキを公式が提示する条件を元に再現し、デュエルを行うという趣旨の大会で必要となるデッキだ。通常の公式大会とは異なり、使用できるカードが指定されていることが特徴である。城前が参加しようとしていた大会では、通常大会のほかにその大会も行われると告示されていた。これは参加せざるをえない。普通に考えたらEM魔術師オッドアイズを愛用しているのだ、遊矢のデッキが一番楽な城前だったが、たまには別のデッキを組んでみようと考えた。選んだのは、一番新規で購入するカードの枚数が少ないデッキだった。
九十九遊馬
ズババ、ガガガ、ゴゴゴ、ドドドと名のつくカードをメインデッキに合計10枚以上使用、かつエクストラデッキはNO.ズババ、ガガガ、ゴゴゴ、ドドドと名前のついたカードのみを使用すること。
無駄にカードスリーブをホープにしてみたりして、試行錯誤の末、城前はデッキを一つくみ上げ、久しぶりの連休に備えたのだった。
「すっげえ」
公式大会が行われる地方都市に遠征にきた城前は、その会場における再現度に驚くのだ。もうすぐアークファイブではエクシーズ次元編突入まで秒読みだと言われている。前作の舞台であるハートランドとよく似た建物が遠くにあるのがみえた。警備員の指示に従いバイクを駐輪場に置き、城前は久しぶりの公式大会、そしてはじめてのコンセプトデュエルの大会に向かったのである。時間が変更になったとアナウンスが入る。どうやらコンセプトデッキによる大会を先に行うらしい。この大会では封印されしエクゾディアが禁止であり、あとは最新のリミットレギュレーションが採用されるとあらかじめ告知されていた。そりゃそうだ、ファンデッキばかりの大会である。実際はエクゾディアによる特殊勝利を組み込んでしまうと、ファンデッキである以上汎用性の高い魔法罠を搭載できないデッキだらけである。無双は確定している。興ざめするよりは楽しんだ方が勝ちである。なのでカジュアルなイベントだからこそ、デュエルを楽しむことを目的にしたデュエルだ。明確な定義はもうけていないようなので、城前はサイドに遊馬に関するカードを積んでいた。
いつものように手続きをしていると、受付でDゲイザーとデュエルディスクを所持していないことを確認され、さも当然のように貸し出された。ゆるい大会だなおい、と思いながら参加者控え室に向かうと、どこかで見たことがあるような服装の人間とすれ違った。コスプレOKとかほんとにゆるい大会だな、と城前は思った。Dゲイザーの技術は城前の世界ですでに存在している技術である。だからそれっぽいものを作って、3Dでデュエルする、なんて遊戯王のイベントでやってそうだなあ、ちゃんとイベント内容調べれば良かった、と思いながら、さっそくつけてみる。無駄に高性能なところは好感度が高い。せっかくだし、どんな感じでガガガデッキが再現されるのか試してみようと思いながらデッキ調整の最終段階に入る。ガガガシスターがかわいくて何よりです。これでよし、と支給されたスリーブに入れ替えを完了し、エクストラデッキに手を伸ばした城前は硬直した。
「あれ?」
Dゲイザーごしに見たエクストラデッキが謎の発光をしている。おそるおそる手に取ってみると、いずれもナンバーズだった。無駄に凝った演出である。遊馬でもないのに何枚もナンバーズを所持している城前はいったいどんな決闘者なんだと突っ込まざるを得ないが、こういうお茶目は嫌いじゃない。これは積極的にナンバーズを狙っていくべきだろう。やがて最終調整を終えて数十分後、城前は名前を呼ばれるのだ。さっそく会場に足を踏み入れた。
特に躓くこともなく、城前は準決勝までいった。やはりホープ派生特化は殺意しかないのだ。
いよいよ準決勝である。さっきからエクシーズ使いばかりとあたるのは、コンセプトの作品によって振り分けられているんだろうか。どれだけ参加者がいる規模の大会なんだろうかと言わざるをえない。相手はエクシーズ使いだった。開始を告げるブザーが鳴ると同時に、無駄に気合いの入った高笑いが響く。ぎょっとしていると相手はナンバーズを召喚してきたではないか。だが、アニメではなく漫画版のカードだった。相変わらずまがまがしいオーラを放っている。使用者の腕にはナンバーズが刻印されていた。無駄に濃い演出である。城前のデッキはナンバーズとホープの派生だらけなのだが、この場合腕にいっぱい表示されるんだろうかと考えたらなかなかシュールな光景だ。しかし城前のみた時点ではコンセプトデッキの一覧にはなかったキャラのデッキである。でも、後から追加されたのかもしれない。漫画版にでてくるキャラのデッキを使うとか、なかなかコアなラインナップだなあ。ぼんやり考えていた城前を咎めるようにターンが回ってきたことを知らせるブザーが鳴り響く。ナンバーズを出されてはこちらも積極的に狙わざるをえない。ナンバーズはナンバーズでしか倒せないのだから。返しのターンで場に伏せられているバックアップを引きはがそうとこちらもエクシーズ召喚を試みる。続いて攻撃を仕掛けるために、魔法で呼び出したガガガたちでホープを呼び出したとき、相手は態度が豹変した。
「そのカードは・・・・・・まさかナンバーズ!?なんでお前も持っているんだ!お前、何者だ!」
まるでナンバーズに操られている人間のようなはっちゃけぶりに思わず城前は笑ってしまう。すごいこの人、どんだけゼアル好きなんだよ。これは乗らざるをえない。
「俺の名前は城前克己!人の心を巣くうナンバーズを狩る者、人は俺をナンバーズと呼ぶ!さあ、狩らせてもらおうか、お前のナンバーズを!」
観客席がざわついた。
遊馬デッキを使っているのにカイトの台詞を高らかに宣言したのはやっぱりまずかっただろうか。一応魂を狩る技術はないのでナンバーズだけもらうって自重したんだけど。そういう問題じゃないらしい。それでも会場からわりと反応が大きいので城前はまんざらでもないのである。相手は相当テンションが上がったらしく、それなら勝負だと息巻いている。もしかして劇団とかそういった経験がある人なんだろうか、ここまでくるとすごいとしか言い様がない。相手がここまでお膳立てしてくれるなら、と城前は全力を出して勝利をもぎ取ったのだった。
握手喝采が鳴り響く。これだけ気持ちがいい決闘は初めてだ。ありがとうございました、って言いに行こうとした城前が見たのは、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ちる相手である。城前はあわてて駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
相手はぐったりしている。城前はあわててスタッフを呼んだ。どうやら気絶しているらしい。担架にのって運ばれていく相手の周りには、デッキから落ちてしまったカード達。城前はあわててカードをかき集め、一緒に手伝ってくれたスタッフに渡すのだ。ありがとうございました、を背に城前は一度控え室に戻ったのだった。
トラブルはあったものの、城前は無事大会に優勝することができた。公式大会もまさかのファンデッキを使う決闘者ばかりだったため、一人EM魔術師オッドアイズを使用してしまった城前は空気が読めない人みたいな状況になってしまい、ちょっと居心地が悪いのだった。そのかわり、2つの部門で優勝した城前は、Dゲイザーとデュエルディスクを記念品としてもらっていいといわれ、大喜びで持って帰った。そして公式大会なのにホームページ掲載用のデッキ撮影がないことに疑問を覚えつつ、城前は宿泊予定のホテルについたのだった。ホームページを確認してみると、優勝したときの動画と写真が掲載されている。デッキ内容を公開する以外はほとんど同じようだ。珍しいこともあるものである。それならいつも使っているデッキレシピサイトに自慢がてら投稿しようとしたが、ガガガやEMの項目がない。昨日はちゃんとあったのに。おかしいなと思っていると、今日の大会をおこなった運営側から電話があった。やっぱりデッキレシピは公開することになっているのだ。なにかの手違いで忘れてたってことかなと思いながら電話に出た城前は、思わず固まるのだ。
「え、取材ですか?」
相手は相当恐縮しているようで、こっちが申し訳ないくらいへりくだってくる。
「はい、うちの大会のスポンサーである××情報部の方から問い合わせがありまして。是非、将来有望な決闘者を取材したいと。城前さんの電話番号をお伝えしてもよろしいですか?」
「あ、は、はい。わかりました」
城前はうなずいた。スポンサーからの要請なら、主催者側としては動かざるをえないようだ。それにしても、将来有望な決闘者ってなんのことだろう?たしかに優勝はしたから、ネットで話題になってくれるならうれしいけども。聞いたことがない出版社だが、公式大会のスポンサーなのだ。へんな会社ではないはず。ちょっと不安に思いながらも、城前は即決だ。どうせ明日はなにも予定がはいっていない。のんびり観光する気満々だったからいいのだ、暇だし。
「ありがとうございます!こちらとしても助かります!
えらく喜んでいる相手に困惑しながら、城前は電話を切った。
「取材ってなんだよ、取材って。へんなの」
首をかしげながら、城前は大会用のスリーブから本来のホープが背表紙のカードプロテクターに入れ替える作業を開始する。
「・・・・・・あれ?」
城前のエクストラが16枚になっている。数えてみれば、なぜか相手が使っていたナンバーズが紛れ込んでいるではないか。たしかに今回のデュエルではかぶってしまったので、ナンバーズは世界に1枚のセオリーを重視してあえて展開しなかったが、城前のデッキはこのカードでほかのナンバーズをつり上げてランクアップしまくるという豪快なコンボが特徴のデッキだ。でも2枚しかいれていない。一枚だけやけにまがまがしいオーラが垂れ流されているカードを手に、城前はスタッフに再度リダイヤルする。カードの混入を告げると、かけ直すと言われた。一時間後、なんと相手が会いたがっているから入院している病院にいってくれ、と言われてしまった。相手が会いたいと行っているなら、まあ、カードを返すだけだしいいか。あれだけ面白い決闘をしてくれた人なのだ、もしかしたら気に入ってくれたのかもしれない。あの決闘で分かる。相手はいいやつだと。教えてもらった電話番号にかけてみると、さっそく明日会いたいといわれた。なんだかいつもの大会とは違うことがたくさんあるなあ、と思いながら、城前はためいきをついたのだった。
そろそろ夕食でも食べに出かけようと準備をしていた城前は、鳴り止まない着信にスマホをのぞき込む。さっき運営から教えてもらった出版社の人の電話番号だ。
「はい、もしもし」
「あの、城前克己さんのお電話番号でしょうか?」
どこかで聞いたことがある声だった。
「あ、はい、そうです」
「初めまして。私、××情報部の××担当をしている九十九と申します」
「え、あ、はあ」
名乗られて、ああ、そういえば、と城前は思い出す。遊馬の姉の九十九明里そっくりな声だなあと。そこまで考えて、我に返る。いやいやいや、そんなわけないだろ。たまたま九十九さんがその出版社の担当で城前に電話をかけてきただけである。きっとゼアル放送中はひたすらネタにされたことが想像に難くない環境にいる女性に勝手に思いをはせつつ、先を促した。
「実は私の担当している××という雑誌に、将来有望な決闘者を紹介するコーナーがありまして、よろしければ城前さんを取材させていただけないかなと思いまして」
「え、お、おれをですか?!」
「はい、そうです」
「いやだって、そんな、大会で優勝する決闘者なんてたくさんいるでしょう?なんでわざわざおれなんです?」
「そんなことないですよ。××大会の2部門で一般の方が優勝するなんて、これはもう大ニュースなんですよ、城前さん!」
「え、あ、はあ」
「少しだけ、お時間いだたけませんか?!是非、城前さんを取材させてください!」
「わ、わかりました。でもおれ、明日までしかいないんですよ。休みだからこっちに出てきただけで。なので、取材って言われても明日の夕方までしか時間ないんですけど」
「そうなんですか!?あ、明日はなにかご予定は?」
「明日、ちょっと人と会う約束がありまして」
「えーっと、それじゃあ、今からは?」
「今から・・・・・・え、今から!?」
「なにかご予定あります?」
「いや、ないですけど。これからどっか食べに行こうかなあと思ってただけで」
「あ、それならちょうどいいですね。私、おいしいところ知ってるんですよ。よろしければ、そこで取材させていただいてもよろしいですか?」
「は、はあ、わかりました」
「ありがとうございます!それでは××というお店に来てもらってもいいでしょうか?住所は××の×1-2-3です。ここのハンバーグおいしいんですよ!あ、私、九十九明里といいます。よろしくお願いしますね!」
一気にまくし立てられて、切られてしまった。なにかのどっきりだろうか、とものすごく不安な城前である。さすがにできすぎだろと思いながら、城前は言われた住所を検索する。そこそこいい店のようだ。悩んでいても仕方ない。城前はそこに行ってみることにしたのだった。
「うっそだろ」
思わず城前は固まる。何名様ですか?とスタッフに聞かれ、人と会うことになっている、と告げた城前は、電話をかける。すぐ近くで着信が鳴り、城前が思わずトイレ入り口に隠れてしまった原因の女性がその電話をとった。ここまでそっくりな人間がいるだろうか。九十九明里そっくりの女性が誰かを待っているのが見えた。
「もしもし、九十九です」
「あ、あの、城前です」
「どうされました?」
「今、ついたんですけど、その」
「あ、今、13番テーブルにいるんです」
彼女はきょろきょろしている。城前はそこにいくしかなかった。
「お待たせしてすいません」
「いえいえ、私が早く来ちゃっただけですから。気にしないでください」
城前が知るより少々幼い彼女は、城前がきてくれたことに安心しているようだ。
「急にごめんなさい。来てくださってありがとうございます」
彼女の傍らには録音機やマイクといったものがおいてある。取材はほんとうなのだと気づいた城前は、もう認めざるをえないのだ。今、自分は、ゼアルの世界、ハートランドにいるのだと。そこまで考えて、自分が使ったデッキを思い出して、心の中が修羅場となる。あらゆる特殊召喚を使った上に、ナンバーズまで使ってしまった。見るからに本編より前と思われる明里である。きっと本編前だろう。両親が行方不明になってから就職したなら、本編より若くても違和感はない。やっちまったあという言葉がぐるぐる回っていた。
「あの、ほんとに取材なんですか?」
「はい、ほんとに取材なんです。強引に押し切っちゃってごめんなさい。実は私まだ新米で、担当してるコーナーがデュエルモンスターズなんですけど、ほんと詳しくなくていつも困ってるんです。城前さんが取材に応じてくださってほんと助かります。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
「それではさっそくなんですけど」
録音ボタンを押した明里から、本格的な取材がはじまった。遊馬にデュエルモンスターズを禁じているはずだが、城前にはそんな様子は微塵も見せない。どうやらプライベートとビジネスはきっちりわけるタイプのようだ。ほっとした城前である。それはそれとして、なにひとつ問題は解決していないのだ。明里はデュエルモンスターズに詳しくないから、城前がつかったデッキがどんだけやばいものなのか、なにもわからないのだ。さすがに大会でつかったデッキと違うものを提示したら、明里が嘘の記事を書いてしまうことになる。今更やっぱなしは通用しないだろう、彼女は社会人なのだ。結局城前は、なるようになれ、と半ば投げやりに決闘者としての履歴や戦術に対する考え方などについてあらいざらいしゃべることにしたのだった。
「あはは、城前さん、私でも分かる冗談いわないでくださいよ」
「え?」
「えって、もう、さすがにわかりますよ。城前さん、20年もデュエルモンスターズやってないですよね?15,6でしょう?私よりちょっと下ですよね、たぶん」
城前は思わず笑ってしまう。童顔だった覚えはない。小学生時代の同窓会で変わらないと散々いじられはするけれども、社会人になって何年も経つのだ。明里より上なのは間違いないのに何を言ってるんだ、この人。
「あれ、もしかして私と同じくらいですか?ごめんなさい」
「いや、その、一応2×なんですけど」
「ええっ?!さすがにそれはちょっとおかしいですよ、城前さん」
まさかの全否定である。城前は鞄から運転免許証を取り出し、明里に渡した。今度は明里に吹き出されてしまった。解せぬ。
「よくできてますね、これ!あははっ。でも肝心の写真が城前さんと一致しないんじゃだめじゃないですか、もー」
城前は疑問符しか飛ばない。明里はよっぽどツボにはまったのか、涙すら浮かべながら、ポーチにある鏡を差し出してくる。さすがにここまで反応がおかしいと気になってしまう城前である。ようやく、彼は鏡を見るのだ。そこにはどこをどうみても、14,5の少年がそこにいた。
まさかのコナン状態になってしまった城前は、ショックのあまり前後の記憶が曖昧である。明里とお近づきになれたと喜べるほどメンタルは強くないらしい。気づけばホテルの一室である。予定通り、あの入院している準決勝の対戦相手だった人のところを訪ねた城前は、ナンバーズを返却しようとしたのだが、これは俺のじゃないと返されてしまった。、どうやら相手はとっても白熱した決闘ができたことは覚えているらしいのだが、前後の記憶が飛んでいて、どんなデュエルをしたのか覚えてないらしい。ここまできて、ようやく城前は気づくのだ。Dゲイザーごしにみえるこのまがまがしいオーラを持ったカードは、本物のナンバーズだと。そういうことなら仕方ない、なぜか所持していても問題ないし、本編が始まったら遊馬に渡せばいいだろう。そう考えていた。幸いお金は多少ある。なぜか通じない職場への連絡にいろいろとあきらめた城前は、ホテル暮らしを決意した。
そしたら、また、着信が鳴った。明里からだ。
「もしもし、城前ですけど」
「あ、城前さんですか?よかった、やっとつながった。予定があるってお聞きしてたのにすいません。今、大丈夫ですか?まだハートランドにいらっしゃいます?」
「え、あ、はい。大丈夫です。どうしました?また取材の件で?」
「いえ、それとはまた別件なんです」
「別件?」
「はい、実はですね、うちの父も決闘者なんですけど、城前さんがナンバーズっていうカードを使うって知って、聞きたいことがあるって」
「え、九十九さんのお父さんが、ですか?」
「はい。なんか、ものすごく珍しいカードなんですか?ナンバーズって」
「あー、はあ、まあ一応」
「いろいろナンバーズについて聞きたいって、お父さんが。でも城前さん、今日帰られるんですよね?」
「あー・・・・・・その件なんですけど、いろいろあって、しばらくはハートランドにいることになりました。だから時間は大丈夫ですよ。えっと、時間はどうします?おれ、今日はもう予定ないんでいつでも大丈夫ですけど」
「あ、それなら、えーっと。城前さん、お昼は食べられました?」
「え?昼ご飯ですか?まだですけど」
「よかったらうちに来てください。お父さんが是非って」
「えっ、」
「・・・・・・あ、いや、その、お父さんが是非呼んでくれって、そのなんかすいません!」
おそらく受話器の向こうでわたわたしている明里を幻視する。思わず笑ってしまったのはあちらの家族も同じらしい。ちょっと、という後ろに怒声を飛ばす明里の声が中途半端に聞こえた。音は聞こえないものの、きっとからかわれているのだ。そこに遊馬がいるなら、きっと楽しいことになっているだろう。想像するだけで楽しいが、ちょっと待て。一馬さんがおれに?その違和感に城前は眉を寄せた。今の時間軸が数年前なら、すでに一馬さんたち両親は行方不明になっているはずだ。なのにいるだと?それもおれに会いたいだって?もうすでに何が何だかわからない城前である。疑問符を飛ばしながらも、もう考えるだけ無駄な気がしてきた。いい加減疲れてきた城前は、明里のいう住所に向かって、歩き出したのである。
「やあ、いらっしゃい」
九十九邸に招かれた城前は、客間に通された。大事な話があると説明されているようで、明里は案内するとすぐに立ち去ってしまう。一馬さんはやあと笑った。
「はじめまして、城前さん。俺は九十九一馬、探検家なんてものをやっている決闘者の端くれだ。よろしく」
「あ、はい、初めまして。城前克己です」
「昨日は明里がご迷惑おかけしたみたいですまないね」
「あー、いえ、」
「××大会の××部門と××部門優勝、おめでとう」
「ありがとうございます」
「それでさっそく本題なんだが、城前克己くん。これを見たことはないかい?」
ごとりと置かれたのは、皇の鍵。遊馬のトレードマークともいうべきものである。城前はぎょっとした。まだ一馬さんは遊馬にあげていないのだろうか。それとも城前がナンバーズをつかったから勘違いしているのでは。いろいろ思いは巡るものの、まっすぐに見てくる一馬さんに城前はうなずいた。
「ほんとうかい?」
「はい。見たことあります。それって、皇の鍵ですよね?」
「ああ、そうだよ。驚いたな、まさか」
「あ、でも」
「なんだい?」
「おれが見たのは、テレビで、です」
「なんだって?」
城前はまっすぐ目を合わせる。
「おれが持ってるナンバーズは、その、普通に発売されてるやつなんです」
「ナンバーズが、かい?」
「はい」
うなずいた城前は、エクストラデッキから、なんのオーラも発していないものとまがまがしいオーラがあるものを並べる。
「こっちがおれので、こっちが手に入ったやつです」
さすがに直に触ることはできないようだが、それらを見比べた一馬さんは驚きを隠さない。
「おどろいたな、あのナンバーズが一般に発売されるなんて。もしかして、城前君は、俺達の時代よりもっと先の時代の世界からきたのかな?」
「いや、たぶん、もっとよく似た世界なんだと思います。おれのいたところは、Dゲイザーとかなかったし。今でもテーブルデュエルしかやってないんで」
「なんだって?こんなに再現度の高いカード、しかも安全なものを作れる技術があるのに?未だにテーブルデュエル?」
「はい」
「はあ、なるほど。しかしすごいな。しかも城前君はナンバーズを持っても、何の影響もうけないんだね」
「みたいです。なんでかわからないけど」
「そうか・・・・・・それなら、もしかしたら。城前君、すこしいいかい?」
「はい?」
「これをもってくれないか?」
そういって皇の鍵を渡される。訳の分からないままそれを受け取った城前は、その直後にまばゆい光に意識を飲まれる。遠くで一馬さんが城前を呼ぶ声が聞こえた。
気づけば城前は知らない建築物の中にいた。円柱の建物であり、金色の棚には無数の本が並んでいるのだが、誰かが借りているのか、1冊2冊分不自然な隙間があいている。棚と棚の間には不思議な文字が刻まれ、この広大な円柱の空間を謎の原理で上下に行き来する物体がある。それもたくさんの本が敷き詰められ、金の棚のようなものの上には、ナンバーが刻まれていた。城前はゆっくり下降していく棚のひとつに立っていて、なんとなく下をのぞいたら目がくらむようなまぶしさが広がった。どこまで続くのか分からない円柱の空間。その果てには真っ白な光がわき上がっていて、この円柱の空間を照らしていた。
「No.38?これ、ホープか?」
城前がいる棚の下に刻まれたナンバーは、黄緑に発色している。
「飛行船とはちがうみてーだな」
あたりを見渡し、ゆっくり下に降りていく視界の中で、城前はつぶやく。ゼアルに出てきた皇の鍵の中は遊覧船だったはずだ。どこか似ているところはあるけれども、やっぱり違う。棚という棚に張り巡らされた彫刻はおそらくアストラル文字だろう。変形させたカタカナだ、頑張って解読すればなんて書いてあるのかは分かる。城前はエクストラデッキをとりだし、Dゲイザー越しにナンバーズを判別して、その一枚一枚のイラストに刻まれている言葉と似たものがないか探す。城前の行動を見越したかのように、足下の棚はその軌道を変えた。
「カオスナンバーズまであんのか」
ナンバリングのあたりが不自然にゆがんでいるところもある。たしかカオスナンバーズに刻まれていたもののはずだ。
「No.99希望皇龍ホープドラグーン、っと。うし、ここだな」
城前がナンバーズをその隙間にかざすと、手の中にあったはずのカードが消えて、その隙間にぴったりと収まる本が出現した。
「あとはこいつか」
城前のてもとには希望皇ホープがある。城前が持ち込んだエクストラデッキのはずなのに、なぜか光っていたカードだ。ゆるやかに足下が上昇し始める。やがて静止したあたりを読み解き、城前はカードをかざす。
「あれ?」
いつまでたっても本にならない。
「やっぱおれの世界のカードじゃだめなのか?じゃあなんで光ってんだよ、ややこしいな」
ためいきをついた城前はDゲイザー越しに光っているホープをエクストラに戻した。
「おれが今持ってるナンバーズはこれで全部だぜ。もどしてくれよ」
城前の意志に従って動いてくれる足下に声をかけると、ゆるやかに足下が下降し始めた。どんどん立っていられないほどのまぶしさに飲まれていく。光の濁流のその直前で足下は静止した。Dゲイザーで光の調節をしないととてもではないが前を見ていられない。城前はあたりを見渡した。
「うーん、やっぱアストラルはいないのか?遊馬がいねーとだめってやつかな。でもナンバーズはもうからっぽみてーだし。うーん?」
『私を呼んだか?』
「うわっ!?」
城前はあやうく丸い形状の棚から足を踏み外すところだった。
「びっくりさせんなよ!」
後ろから声をかけられたのだ、反射的に怒った城前は後ろを振り返る。
「あれ?」
誰もいない。きょろきょろ見渡す城前だが、確かに声がする。
『すまないが、今の私はナンバーズを失い、バリアン世界との闘争により疲弊している。君の前に姿を現すことができないんだ。許してほしい』
「えっと、誰?」
『君はさっきアストラルと呼んだだろう?違うのか?』
「・・・・・・わからねえとかいう?」
『ああ、私はナンバーズを失ったせいで、記憶が欠如している』
「バリアン世界との闘争って、そこは覚えてんのにか?」
『君が先ほど私にナンバーズを戻してくれただろう。あのナンバーズは私がこの世界にやってきた理由をおしえてくれるものだった。私はアストラル世界の使者であり、敵であるバリアン世界が別の次元と手を組み、この次元に戦争を仕掛けようとしていることを伝えるためにやってきた』
「・・・・・・は?別次元?」
『すまないが、私が思い出すことができたのはそれだけだ。別次元とはなんなのか、どうして君たちの世界に戦争を仕掛けようとしているのか、まったくわからない』
「そーかよ。わかったぜ」
城前はためいきをついた。別次元という単語が出てくる時点でゼアルではない。バリアンでもアストラルでもない次元などゼアルにはでてこない。でてくる話を城前は知っている。
「で、おれを呼んだのはなんでだ。アストラルの使者さんよ」
『君の名前を教えてほしい』
「おれか?おれは城前。城前克己」
『そうか、克己か。わかった。実は君に頼みたいことがある」
「なんだよ」
『私ははじめて君のような人間と出会った。ナンバーズを手にしてもおかしくならず、ちゃんと私に返してくれる人間とだ。私はバリアン世界との戦争で疲弊し、実体化することすらできない身なんだ。どうか、手を貸してはくれないか?」
『おれより適任者がいるだろ』
「なに?」
『九十九遊馬。いなかったかよ?一馬さんとこの息子さんだよ』
「九十九一馬はたしかに私に協力してくれるとはいったが、彼に息子はいないはずだ。なにかの間違いではないか?」
『・・・・・・まじ?』
「ああ」
『ひとつ聞いてもいいか?アストラルの使者さんよ』
「なんだ?」
『バリアン世界との衝突で消耗してるんだよな?全盛期より力が衰えてるってこと、ない?ついでにいうと、そのときナンバーズが飛び散ったってことは?』
『・・・・・・?君は不思議なことを聞くな、克己。私がナンバーズを失ったのは、バリアン世界との衝突で消耗した、あのときだけだ。そして私の力はなにひとつ衰えてはいない。ナンバーズさえ取り戻せれば、私は今すぐにでも実体化して、君の前に現れたい』
「まじかよ、まじでか、いやそうかもとは思ってたけど遊馬がいないってことは、そうだよな。うーん」
『克己?』
「なあ、アストラルの使者さんよ」
『ああ』
「ゼアルって名前だったりしない?」
城前がそう問いかけた瞬間、円柱の空間を照らしていた真っ白な光と、ナンバーズの黄緑色の発光が、まるで喚起するかのように波打つ。
「あたりっぽいな」
『その名をどこで聞いたんだ、克己?その言葉は私にこれ以上ないほどしっくりとくる。まさしく私を表しているといっても過言ではない。そんな気持ちさえしてくる』
「そっか、うん。おれさ、別の次元からきたんだよ。そこだと、アストラルの使者さんは、ゼアルって名前だったんだ」
『君は私を知っていたのか』
「この世界とよく似た次元なんだ。おれはゼアルとあったことはないけど、ゼアル達が世界に平和をもたらしたことは知ってる。バリアンとアストラルと人間世界が平和になった」
『それはほんとうなのか?』
「おれはそれを成し遂げたやつをしってる。そいつじゃなきゃできないことも知ってる。でも、この世界にそいつはいないみたいだし、ゼアルも困ってるみたいだし、おれしかナンバーズ扱えないなら、やるしかねーよな。うん、いいぜ、ゼアル。協力してやるよ」
『ほんとうか?ありがとう、克己。君と握手できないのが本当に悔しい』
「うれしいこといってくれるじゃねーか。ただし条件がある」
『なんだ?私にできうることがあれば、なんだってしよう』
「ゼアルたちは、次元を転移できるよな?」
『今はその力すら失われているけれども、たしかにそうだ』
「おれはさ、元の世界に帰りたいんだ。協力するかわりに、その力が戻ったらおれを元の世界に帰してほしい」
『故郷に帰りたいというわけだな。ああ、わかった。城前がナンバーズを集めてくれたあかつきには、私は力を取り戻すことができるはず。その時には必ず君を元の世界に帰すために尽力することを誓おう』
「わかった。あ、ただし人間としてもどしてくれよ?おれの体を乗っ取って、体だけ、精神だけってのはなしな?」
『なぜ君がわざわざ忠告するのかわからないが、わかった。君を人間のまま元の世界に送ることができる方法を共に探すと約束しよう。わかったらきっと私は君を帰す』
「よっしゃ、わかった。ありがとな、ゼアル。おれもどうしていいんだか正直困ってたんだよ。これからよろしくな」
『こちらこそよろしく、克己』
城前が笑った直後、世界は白に塗りつぶされた。
「・・・・・・あれ?」
「大丈夫かい、城前君」
「あ、一馬さん。すいません、おれ、」
「いや、いいんだ。まさかアストラルの使者がそのまま君を鍵の中に連れて行くとは思わなくてね。目が覚めたようで良かった。説明しようとした矢先にこれとは、ほんとうにすまない」
「いえ、その、気にしないでください。おかげで、おれ、なにをしたらいいかわかったんで」
「その様子だとアストラルの使者と会話することができたということかな?」
「はい、ナンバーズを集める代わりに、俺を元の世界に帰せる方法がないか探して、実行してくれるって約束しました。この鍵、借りてもいいですか?」
「ああ、もちろん。ということは、しばらくハートランドにいるということだね。拠点はあるのかい?」
「あー、はい、一応。今泊まってるホテルにしようかなって」
「でも君は14,5だろう?しばらくはいいかもしれないが、いずれ補導されるかもしれない。それはまずいだろう。よかったら、うちを拠点にしてみてはどうかな?」
「え、いいんですか?」
「ああ、ナンバーズを使えるのは今のところ、君しか俺は見たことがない。会ったばかりの君にこんなことを頼むのは申し訳ないとは思うんだが、お願いできないか?ナンバーズを集めるために必要なことがあったらなんでもいってくれ。協力者はなんにんかいるんだ。彼らに君のことを伝えておこう」
「協力者、ですか」
「もしかしたら、君のところの世界でも名前は伝わっているのかもしれないね。バイロン・アークライト、そして天城フェイカーだ。今日、明日、というわけにはいかないけれど、君のナンバーズ集めに協力してくれるだろう」
「ありがとうございます」
「それをいうのはこちらだよ。どうか、よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
しばらくして、城前が出てくるとご飯の準備ができたと明里が教えてくれた。
「というわけで、明里。城前君はハートランドでデュエルの勉強がしたいそうだ。うちで世話をすることになったから、よろしく頼むよ」
「どういうわけでそうなったの、お父さん!?え、え、嘘!?」
なぜか慌てている明里をみて、城前は不思議そうに首をかしげた。
聞き慣れたアラームの音がする。いつもの場所を手探りするが、なぜかない。繰り返し起床を促してくるアラームに根負けした城前は、起きようと体を起こした。その瞬間に反転する視界。え、と思う時間もなかった。間抜けな音がひっくり返る。豪快に投げ出された城前は、そのまま冷たい床にダイブした。ばさりと上からふってくる毛布に視界を遮られる。強打してしまった体をさすりながら、いてててて、と毛布から這い出てきた城前は、ようやく目を覚ました。アラームは鳴りっぱなしだ。音を頼りにふらふらと立ち上がると、ずいぶんと離れた書斎らしき机に充電器がささっており、スマホは主の起床を待っている。ここでようやく城前は気づくのだ。ベッドから落ちたと。やっぱり柵がないベッドはだめだ、寝相が悪すぎる自覚がある城前は思うのだ。
くあ、と大きくあくびをしながら伸びをする。視界がいつもより低いのは、2×歳から縮んでしまったからに違いない。軽く体を動かしながら、城前はトランクの中を漁るのだ。昨日、九十九邸にお世話になるとわかってから、最低限度の生活用品は買いあさった。しばらくはこれでいけるはず。いくらお世話になるといっても、いつまでかかるか分からないし、なんたって異性が屋根の下にいるのである。さすがに洗濯物までお願いするのは気が引ける。たまったらまとめてやってしまえばいいだろう。寮では自分でやるのがお約束だったのだから。そんなことを思いながら、タンスからトランクからひっぱりだした服に着替える。城前が一階に降りると、すでに九十九一家はそろっていた。ここに遊馬がいればこれほど幸福な家庭はないだろうに、つくづく残念でである。そんなことを思いながら、城前は笑顔を作った。
「おはようございます」
「あ、おはようございます、城前さん。ご飯できてますから、どーぞ」
「ありがとうございます」
軽くお辞儀をして、教えてもらった席に着く。昨日からお世話になっている身だが、やはりご飯がおいしい。実家から離れて地方都市で就職し、一人暮らしが長くなってきた城前にとっては、実家に帰ってきたときを思い出させてくれるようなラインナップだった。
「やっぱおいしそうだなあ。あ、いや、おいしいことは知ってますけど」
「あはは、城前君は面白いことをいうんだね」
「ほらほら、はやく食べないと冷めちゃうでしょう。明里も遅刻しないうちに早く食べちゃいなさい」
「はーい」
わざわざ待っていてくれたらしい。いただきます、と手を合わせた城前は、さっそく湯気が立つ献立に手を伸ばした。
「城前君、今日はどうするんだい?」
「んー、そうですね。昨日一日考えたんですけど、やっぱり一番手っ取り早いのは俺が有名になることかなって」
「ほう?」
「ネットで見たんですけど、ハートランドって、大会がたくさんあるじゃないですか。一般人が優勝したらニュースになるくらいだし、珍しいんですよね?」
「ああ、とんでもないニュースだよ。詳しくない明里がスクープだってわかるくらいね」
「もう、お父さんやめてよ!」
「あはは。だから、その一般人が大会に出まくったら、それなりに話題になるんじゃないかなーと思いまして。大会に入賞できればネットとかに画像とか動画とかばらまかれるし、そこにナンバーズが映っていれば、反応する人は反応するんじゃないかなーと思ったんです」
「なるほど、たしかにそうだね。いい考えだ」
「ですよね?だから、しばらくはそうやって動いていこうと思うんです」
「ってことは、えーっと、城前さんはどんどん大会に出るってことですか?」
「はい、そうです」
「有名になった方がそのナンバーズとかいうのが集まるから、取材とかどんどん受けちゃうってことですよね?」
「取材っておおげさな・・・・・そんなに何度も来ないですよ」
「城前さん、全然わかってないです。デュエルモンスターズに詳しくない私がスクープだって取材を申し込むくらい大ニュースだったんですよ?そんな人がどんどん大会に出るようになったら、知名度あがっちゃって取材とかいろいろすごいことになりますよ。あの、城前さん。その取材、私が一番最初にしちゃだめですか?」
「え?」
「だって、昨日とった取材の内容、上司に伝えたらすごく反応良かったんです。もしかしたら、もうちょっと紙面を任せてもらえるかもしれなくて。ばっちりいい記事書きますから!お願いします!」
「ええっ!?いや、おれは別に大会の結果に顔出せればそれでいいかなって」
「だーかーらー!ハートランドでは、プロ養成所に通ってる訳でもない決闘者が入賞することだって大ニュースなんですよ!?それなのに城前さん、優勝しちゃったじゃないですか!しかも2つの部門で!そんなの、前代未聞なんですからね!?デュエルモンスターズわかんない私だってわかりますよ、それくらい!もっとことの重大性を認識してください!」
「こらこら、明里、今は朝食中じゃ。静かにせんか」
「だっておばあちゃん」
「そうよ、明里。気持ちは分かるけど、ね?」
「お母さんまで・・・・・・ってなにその笑顔?!違う、違うからね、私、そんなんじゃないから!あーもう、お父さんも城前さんも笑わないでくださいよ!」
「あはは、ごめんなさい。えーっと、よくわかんないけど、取材受けたらいいんですよね?わかりました。九十九さんにはお世話になってるし、そのときはよろしくお願いします」
「あ、はい、って、あ、受けてくれるんですね!ありがとうございます、そのときはよろしくお願いします」
明里はうれしそうに笑う。ころころ表情が変わって忙しい人だなあと城前は思う。ゼアルだと両親が行方不明になってしまったせいで、遊馬の両親代わりとして、九十九家の大黒柱としてがんばらないといけなかった明里である。両親が健在なため、いろいろと変化が生じているのかもしれない。こうして見ていると遊馬と似ているところが多い気がする。
「城前くんは学校には行かんのか?」
「明里さんから聞いたと思いますけど、一応おれ、ここに来る前は社会人だったんですよ・・・・・・。行きたいのは山々なんですけど、おれ、たぶん戸籍ないですよね?」
「ああ、そうか。別の世界から来たって話じゃったな。すまんすまん、つい」
「いえ、気にしないでください」
「ふふ、でも今の城前さんはどうみても14,5にしか見えないから、お酒もたばこもだめよ?」
「わかってますよぉっ!」
うわああんと大げさに城前は泣いてみせる。やっと日本酒のおいしさが分かってきたところだったのに、と悔し涙さえ浮かべてみせる城前に、お、いける口だったのか、と男性陣は反応する。今の城前はどうみても未成年だ、本人が社会人だと主張したところで身分証明書はただの紙切れ同然、戸籍がない以上証明できるものはなにもない。目の前でお酒を飲む意地悪をしようとしている男性陣に、城前は鬼悪魔とののしった。もちろん食卓に上がるのは笑いだけである。明里はどうみても年下しかみえないのに、本来は明里よりずっと年上なのだと主張する少年がおもしろくてたまらない。たしかに振る舞いは14,5にあるまじきところが目立つけれども、こうした仕草はどうみても子供じみていた。
「それじゃ、いってきまーす」
「おれもいってきます」
「二人とも気をつけてね。いってらっしゃい」
「そうだ、城前君、今度の土日に昨日話した二人と時間がとれそうなんだ。予定は開けておいてくれるかい?」
「はーい、わかりました。大会とか詳しい情報もってかえったら、相談しますね」
「ああ、わかったよ。いってらっしゃい」
明里と共に城前は九十九邸を後にした。今日はハートランドの散策がメインだ。近くの書店で住所が詳細に載っている本を購入し、ハートランドにある比較的大きな公園をしらみつぶしに広げては付箋をつけていく。そして、カイトたちが通っていたはずのプロ養成所を調べ、そこから近いはずの公園を中心にバイクを走らせる。半日ほどかけて回り終えた城前は、エンタメデュエルを布教する遊勝の姿も、不審な格好をした融合次元の手先も、大道芸人の振りをして瑠璃を探すデニスを見つけることもできなかった。時期がまだなのか、運が悪く会えなかったのかはわからない。とりあえず、行くべきポイントがだいぶ絞り込めたのは、いい仕事なのではないだろうか。リュックに地図を押し込め、今度城前が向かったのは、一番規模が大きいカードショップである。
公式大会の告知はネットで調べることができるが、非公式のカードショップはそれぞれしらみつぶしに回っていくしかないのだ。
いらっしゃいませ、というスタッフの声と共に来店した城前は、迷うことなくカードコーナーに目を向ける。発売中のカードのラインナップをざっと確認してみる。
「やっぱ発売されてたのか、こいつら」
ファントムナイツ、レイドラプターズ、どこかで聞いたことがあるテーマである。新規テーマなのか、封入率が恐ろしく低いあたりレアばかりなのがうかがえる。ここでテーマを揃えるのは大変そうだ。これはあれか、プロデュエリスト養成所にいけば優先的にカードが入手できるみたいな得点でもあるんだろうか。だから一般人の入賞率が恐ろしく低いんだろうかと思う。提示されている値段がOCG次元とくらべて目玉が飛び出そうな値段なのが笑えない。とりあえず、興味本位でのぞいただけだ。実際に買う気は微塵もない。むしろ今使っているガガガデッキに合いそうなカードがないか探すには、ゴミのような値段がつけられている掘り出し物を見つけるべきだ。どういうわけかこの世界ではモンスターの攻撃力ばかりが優先して価値を見いだされる世界観なことに定評がある。100円のコーナーにきれいなヴェーラーが投げ売りされている時点でもはやお察しというやつだ。城前は早速いろんなコーナーを歩き回り、ほしいと思っていたカードたちを揃えていく。恐ろしいほど値段が低いカード達である。万が一OCG次元とこちらの次元を行き来することができれば、転売屋をやりたくなってしまうような価格差だ。価値観が違うって怖いなあと思いつつ、城前はこれください、といつの間にか一杯になってしまったかごを渡す。スタッフの対応を待っている間、近くにあるチラシを手に取った。ここのショップの大会日程が載っている。この調子でいくつか店を回ってみよう。
提示された値段に思わず二度見する。ゼロがひとつ足りないんじゃないですか、と聞きたくなってしまうような値段である。財布的にはありがたいけれども、なぜか根拠のない罪悪感がわいてきてしまう。とりあえず城前はお会計を済ませ、近くのデュエルスペースに向かう。さすがにスタンディングデュエルが普及しているハートランドである、テーブルデュエルのスペースは狭く、スタンディングデュエル用のブースが設けられていた。のぞいてみたが、やはり人はすくない。今は平日の日中だ、プロデュエリスト養成所に通っている決闘者は間違いなく居ない。城前はかまわずテーブルに座る。この次元ではカードにプロテクターをつける人間はいないらしく、おそろしいことにカードショップで売っていないことがわかってしまったのだ。手持ちの余りと100円均一で購入した別用途のものを3枚ずつセットしていくのは城前にとって当たり前の作業なのだ。カードが反り返る恐怖と戦いたくない。たとえ不思議そうにほかの客がその作業をみていたとしても城前はかまわなかった。一通り作業を終わらせた城前は、カードをしまい、別の場所に向かう。
「やっぱガガガは発売されてんだな」
城前の世界でも見たことがあるパックが展示ケースにあるが、全然売れていないことがわかる。封入王がいないだけでここまで影が薄いテーマになっているということはエクシーズのエースの不在は大きい。種類はそれなりに充実しているようだが、エクシーズモンスターだけが恐ろしいほどのレアカードに設定されているためか。ネットで調べたかぎりでは、入賞者の中に使用者を見つけることはできなかった。ガガガデッキはエクシーズモンスターがいなければ、そもそも成り立たないコンセプトのデッキである。カードを並べることに特化したデザインは、棒立ちになるとどうしようもなくなる。回し方が普及していない上、カードの価値が攻撃力に比重を置いているこの世界において、低評価なのは無理もない。首飾りなどで下克上を狙うカードもあるにはあるらしいが、デッキレシピを投稿するにいたるほど評価されていないテーマらしい。大会結果の一覧をみながら、入賞者について検索してみる。黒咲隼、天城カイト、ネームドキャラを確認することはできたが、城前はバリアン出身の彼らの名前を見つけることができなかった。遊馬がいないのだ、ナンバーズを回収するには絶好の機会だろうにどうしていないのかわからない。バリアンが融合と組んでいるという不吉な言葉をゼアルから聞いたばかりの城前は、ためいきしかでないのだった。
「まー、投げ売りされてんのはありがたいけどね」
千円札でもおつりが来てしまうサイドデッキにうれしいんだか、かなしいんだか、よくわからない感情のまま、城前は立ち寄ったカードショップでデッキ調整をしていた。ガガガがパッケージのカードを片っ端から購入しているのはおそらく城前だけである。物珍しげな視線が多い。城前だってこれがナンバーズを巡る戦いの前哨戦にたいする前投資でなければ誰がここまで投資するという話だ。遊馬のデッキは使用モンスターの種類も数も多いから、ナンバーズを活躍させようと思ったら、そのナンバーズに対応したデッキを組まないといけない。今はホープドラグーンしかないからいいが、そのうち増えてきたらどのみち必要になる。いつ融合次元の奇襲があるかわからないのだ。用意するにこしたことはない。
ひたすらカードプロテクターにいれるという作業に没頭していた城前は、声をかけられた。
「なあ、少しいいか?」
「はい?」
顔をあげた城前は固まる。そこにいたのはユートだった。え、うそ、まじかよ、まだ昼間だぞ!?さっき時計を確認したからわかる、まだ14時だ。プロ養成所なり学校なり通っているのなら、そもそも今の時間帯にいるのはおかしい。もしかして休みだったんだろうか?なんてこった、油断した。全然想定していなかった出会いに硬直している城前である。どうして声をかけられたのか、必死で考えた。
「あ、ごめん、邪魔だよな」
一応ゴミは持って帰る前提だが、いい顔をしない人が多いのも事実だ。あわてて片付けようとした城前に、ユートは首を振る。
「いや、違うんだ」
「え?」
「これだけ開けてるってことは、買ったんだよな?」
「ああ、うん、そうだけど」
「ここらへんのショップで、まとめて買ってる決闘者って君なのか?」
「そうだけど・・・・・・あ、もしかしてほしいカードがあるとか!?ごめんな、全然人気あるパックじゃないみたいだからつい!」
「いや、いいんだ。シングルで買えばいいと思ってたカードがなくなってるとは思わなくて」
「いやあ、あんな値段で売ってたらついほしくなっちゃって、あはは。ごめんな、なんのカード?」
「え、トレードしてくれるのか?」
「今ちょうどデッキくみ終わったところなんだ。余ったカードは売ろうと思ってたところだから大丈夫だぜ」
ここにあるか?と城前がひとまとめにしてあるカードを差し出す。ずっしりくる重さにどれだけ買ったんだこいつという視線を感じるが、城前は苦笑いしか浮かばない。できることなら9期のテーマが使いたかったが、城前の軍資金ではとうてい手が回らない。エクシーズはもっているものでしか補えない価格設定だと相場が分かってしまった以上、デッキパーツやエースがそろわないデッキでナンバーズ回収なんて危なすぎてできない。城前だってできるならEMオッドアイズ魔術師を使いたいが、それが無理なことくらいわかっている。ガガガデッキが一般に普及している知名度が低いテーマだとわかったのだ、初見殺しはこちらのほうがいいはず。
そういうことなら、とユートは隣のいすをひいて、一枚一枚確認し始めた。
「このテーマ好きなのか?」
「うん、好きだぜ。ハートランドで初めて優勝したテーマだし」
「ガガガデッキで?」
「ガガガデッキで」
「すごいな、どうやったんだ」
「エクシーズモンスターがないと実力を発揮できないテーマだけど、ランクが自由に変えられるコンセプトはやっぱ優秀だぜ?」
「ランクを自由に・・・・・・魔術師デッキのコンボパーツに使われてるのしか見たことがなかったな。そんな効果があるのか」
「あー、たしかにそっちも優秀な構築だけどな。おれはどっちかてーと、シスターからいろんなランクを狙うコンボ軸なんだ。エクシーズモンスター手に入りにくいし、低評価なのは無理ないよ。ま、おかげで初見殺し?地雷デッキ?ビギナーズラックってことで」
「ビギナーズラックってことは、どこかの養成所にはいったばかりなのか?」
「え?いや、おれは入ってないよ」
「えっ、入ってないのに入賞したのか?」
「あーうん、一応?」
「すごいな・・・・・・。名前を聞いてもいいか?俺はユート」
「おれは城前克己。よろしくなユート」
「ああ、よろしく」
「で、ほしいカードはあったかよ?」
「ああ、よかったらこのカード、なにかとトレードしてくれないか?」
差し出されたカード達に、城前は快諾する。
「あんまり手持ちはないんだが・・・・・・」
ユートはカードケースを漁る。
「ここに城前のほしいカードはあるか?」
差し出されたカードの束は、雑多なものだ。おそらく城前のようにダブったものばかりなのだろう、1枚しかないと思えば、何枚も重複しているものもある。ざっと目を通した城前はスマホで相場を検索する。似たような価格設定のものを検索しているのをみたユートは慌てる。
「いや、そこまで気を遣わなくてもいいぞ、城前」
「だって初めて会ってトレードするんだし、一応大事だろ、そういうの」
「そうか?」
「そうだよ」
「城前がそういうなら・・・・・・あ、でも、もしほしいカードが見合わないなら、トレードなんだ。こっちも応じるから気兼ねなくいってくれ」
「そっか。じゃあ一つ聞いていいか?ユートが使ってるデッキってさ、もしかしてファントムナイツ?」
「え?あ、ああ、そうだけどなんでわかったんだ?」
「そのダブったカードみりゃわかるよ。墓地発動からのエクシーズ狙うテーマにはお約束のライロのレアカードぜんぶ突っ込んでるってことはいらないんだろ?それに闇・戦士のサポートばっか入ってるし」
「なるほど、たしかにそうだ。でもすごいな、城前。養成所入ってないのにすごい知識だな。有名な師匠でもいるのか?」
「だからいないって。ぜんぶ独学だよ、ネットとかで調べた」
「独学?!」
「いやだって、おれがいたところだとハートランドみたいに教えてくれるとこなんてなかったよ。イベントで教えてくれたりはしたけどさ」
「そうなのか・・・・・・ああ、なるほど、だからこっちにきたのか?」
「んー、まあそんなところかな。大会一杯あるみたいだし」
「だからビギナーズラック、か。すごいな、一般人でそこまでがんばってるやつは初めて見た」
「ってことはユートは養成所通ってるのか?」
「ああ、入ったばかりなんだ。憧れてるやつがいる」
「へえ、そうなんだ。がんばれよ。っつーか、それならなんでこんな時間にいるんだよ?」
「今日は職員会議があるからな、いつも早いんだ。それに今日は休みだからな、養成所も」
「ふーん?養成所って塾みたいなもんなのか」
「ああ、そんな感じだ」
「へえ」
「城前は興味ないのか?」
「うーん、まだハートランドきたばっかでよくわかんないんだよな。大会出まくった方が強いやつらと当たれるだろうし、今んとこそっち方面で考えてる」
「そうなのか。城前はすごいな、普通の人とは全然違う考え方をしてる」
「え、そうか?」
「ああ、プロになりたいなら養成所って普通は考えるからな」
城前が知っているより、幾分幼いユートは興味津々で城前にいろんなことを聞いてくる。やっぱり一般人がデュエルモンスターズで強くなろうと考えたとき、城前のような存在は異端なのだとうかがえる。そこまで聞いてしまうと、どこかの養成所に入ってネームドキャラと知り合ったり、ランキング上位の人とぶつかれたりするようにした方がナンバーズの持ち主の目にとまる可能性が高まるだろうか。でもまだ明里の雑誌が発売されていないから、反響がよくわからない面もある。発売日は来週だから、どのみちいろんな選択肢について考えるのはまだ先だ。今はナンバーズに操られた決闘者と戦うために、いろんなカードを入手する方が先だ。
「それじゃあ、養成所に通ってるユートの実力がどんなもんなのか、見せてくれよ。それがトレードの条件ってことで」
「えっ、カードはいいのか?」
「いいよ。今のおれにはそっちの方がずっと大事だしな」
「わかった。そういうことなら相手になろう」
「さんきゅー、助かるぜ」
城前は組んだばかりのデッキをデュエルディスクにセットする。その分厚さにスリーブを三重にしていると気づいたユートはすごいなと呟いた。うるせえ、ほっとけ!おれは三重にしないと不安でたまらないんだよ、と思いながら、城前はユートと共にデュエルスペースに足を運んだのだった。