BE SOMEWHERE(if短編)   作:アズマケイ

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if エクシーズ編②

ユートのデッキに限らず、エクシーズに特化したデッキはコンボデッキの側面が強い。そのためキーカードがわかりやすい。これを通してしまうとほぼ負けが確定してしまう、あるいは相当苦しい状況に追い込まれるようなカードが存在する。コンボはカウンターに弱いのが当たり前であり、マストカウンターを見極められてしまうと致命的な影響を受けてしまう。投入されたカードすべてが戦力であるグッドスタッフが環境から排斥されて久しいハートランドでは、いかにキーカードを通していくかが課題だとユートは習ったばかりだった。

 

相手の行動を観察して、その対抗策を警戒することが勝利への道だと。

 

ただ、今日知り合った城前という決闘者が扱うガガガデッキというテーマを、ユートは正直把握できていなかった。地雷デッキ、初見殺しデッキだ、と本人がいうのだ、少なからずそういう側面に頼った部分はあるのだろうとは思っていた。城前はとても勉強熱心なようで、その入手の難しさ故に対策もまだまだされていないファントムナイツの微妙なかみあわなさと弱点を分かっていたらしい。その差がプレイングに露骨にでたといってよかった。墓地が肥えていない状態での展開の遅さはずっとユートが悩んでいる部分でもある。そこをピンポイントでつかれてしまった。

 

プロを志す養成所に通い始めた手前、正直面白くない。

 

「俺の実力をみたいと言ったのは城前だろ、ワンショットしてどうするんだ」

 

思わず文句も出てしまう。こちらの実力不足と知識不足が招いた部分もあるのだが、まだ小学生のユートはそこまで正直に認めることができない。ごめんごめん、と手を合わせて謝ってくる城前がいうには、いつになく手札がよかったらしい。これは狙うしかなかったと言われても困る。

 

「そう拗ねるなよ、ユート」

 

「拗ねてない」

 

「その程度なのかよ、プロ養成所って」

 

「そんなわけないだろう!」

 

反射的にユートは返す。大会で憧れている決闘者がいる。ずっと憧れている人がいる。ようやく所属しているプロ養成所の門をたたいて、試行期間が終わろうとしているのだ。まだまだ追いつくには時間がかかるけれども、いつかは同じ舞台に立ちたいと願ってやまない場所である。もちろん城前の口調から本気で侮辱しているわけではなく、ユートが不機嫌になってしまったから、奮い立たせようとしていることはわかる。それでも唇はとがってしまう。

 

「言ってくれると思ったぜ。あんなに楽しそうに教えてくれたんだ、そんなわけねーよな。じゃあ、見せてくれよ。ユートがそこで学んでること」

 

「ああ、もちろん。もう一回だ、城前」

 

「いいぜ、かかってこいよ。今度は事故るなよ?」

 

「だから手札事故じゃない!」

 

「だから、そこでムキになるのがそれっぽいんだって」

 

「ぐ」

 

たしかに初手で罠が固まっていることは否定できないユートである。城前のデッキがある程度わかったのだ、今度は負けたくない。そう思って始まった決闘は、先ほどよりターンが長引いた。

 

「俺はこの瞬間を待っていた!」

 

「なんだって!?」

 

「俺は手札から《幻影騎士団ダスティローブ》を召喚する!そして《影無茶ナイト》のモンスター効果を発動!レベル3のモンスターの召喚に成功した場合、手札から特殊召喚することができる!こい、《影無茶

ナイト》!」

 

「レベル3モンスターが2体!くるか、ユート!」

 

「ああ、何度も同じ手は食わない!俺はレベル3《影無茶ナイト》とレベル3《ダスティローブ》でオーバーレイ!こい、ランク3!《幻影騎士団ブレイクソード》!」

 

「きやがったな、ランク3のダイヤウルフ!」

 

「効果はしっているみたいだな。なら、説明は不要だな、城前。俺は《ブレイクソード》のオーバーレイユニットを1枚取り除き、モンスター効果を発動!城前の《No.39希望皇ホープ》と《ブレイクソード》を破壊する!」

 

「おっと、そうはいかねえな!おれは《ブレイクスルー・スキル》の効果を発動!その効果は無効にさせてもらうぜ!」

 

「一度食らった手はもう通用しない!俺は墓地にある《幻影騎士団トゥーム・シールド》を除外し、城前の《ブレイクスルー・スキル》の効果を無効にする!」

 

「げっ、通っちまったか」

 

「さあ、一気に決めさせてもらうぞ、城前!俺は《ブレイクソード》の効果により墓地からすでに墓地にあった《サイレントブーツ》とエクシーズユニットだった《ダスティローブ》をレベル4にして特殊召喚する!そしてこの2体でオーバーレイ!こい、ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

ユートのフィールドには、エースが登場した。真正面からその勇姿をみることができた興奮を城前は隠すことができない。口上がないのはエクシーズ次元がまだ平和だからだろうか、それともユートがまだ口上を考えていないだけだろうか。それはわからないけれども、迫力ある雄叫びがあたりに木霊した。

 

「《ダーク・リベリオン》、そいつがユートのエースか!でも《幻影霧剣》で置物になってるとはいえ、おれの《ホープドラグーン》の攻撃力には及ばねえぜ!」

 

「ああ、たしかにそうだ。でも超えてみせる!《ダーク・リベリオン》のエクシーズユニットを2枚取り除き、モンスター効果を発動!《ホープドラグーン》の攻撃力を半分にし、その攻撃力分アップする!いけ、トリ-ズン・ディスチャージ!」

 

「おっと、そうはいかねえよ!俺は墓地にある《スキル・プリズナー》を除外して、効果を発動するぜ!もちろん対象は《ホープドラグーン》だ!こいつを対象として発動したモンスター効果は無効だ!」

 

「くっ、」

 

「あっぶねえ」

 

「まだ安心するのははやすぎるんじゃないか?」

 

「なんだって?」

 

「俺は言っただろ、城前。超えてみせるって!」

 

「へえ、じゃあ見せてみろよ!」

 

「まさか初めてのデュエルでここまで追い詰められるとは思わなかった。ここで決めないと俺は負けるな。でも俺は負けない!いくぞ、城前!」

 

「こいよ、ユート」

 

「俺は墓地にある《ダスティローブ》を除外してモンスター効果を発動!デッキから同名カード以外の《幻影騎士団》カードを1枚手札に加える!俺が手札に加えるのは、《RUMー幻影騎士団ラウンチ》だ!」

 

城前は目を見開いた。初めてみるカードである。漫画版のユートのカードが混じっていたりするから、もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に知らないカードが出てくるとは思わなかった。これはやっと面白くなってきた。そう思った。

 

これまでのターンの流れで、幻影騎士団のカードを把握している様子が目立っていた城前が初めて狼狽えた様子を見たユートは、なんとなくうれしくなって口元をつり上げた。極端な話、ずっと詰め将棋をしているような気分だった。このターンでようやく流れを引き込むことができたが、それまではずっと城前がユートが苦手とするところで妨害や展開をぶち当ててくる。間髪でサクリファイスエスケープを決めたり、ワンショットキルを止めたりできていたが、ひやひやしっぱなしだったのだ。やっとつかめた運命の糸だ、逃す気はなかった。

「さすがに知らないみたいだな、城前。俺は《幻影騎士団ラウンチ》の効果を発動!このカードは自分フィールドにあるエクシーズユニットがない闇属性エクシーズモンスター1体を対象として、発動することができる!対象となったモンスターをランクが1つ高い闇属性エクシーズモンスターにランクアップすることができるんだ!俺はレベル4《ダーク・リベリオン》でオーバーレイを再構築!こい、ランク5!《ダーク・レクイレム・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

城前の目前に、見たこともない美しいドラゴンが飛翔する。城前は息をのんだ。

 

「《ダーク・レクイレム》は《ダーク・リベリオン》をエクシーズユニットとしているとき、効果を得ることができる。俺は《ダーク・リベリオン》を取り除き、モンスター効果を発動!《ホープドラグーン》の攻撃力を0にして、その分攻撃力をアップする!そして、俺は《D・D・R》を発動、除外されている《ダスティローブ》を特殊召喚する!さらに手札から2枚目の《サイレントブーツ》を特殊召喚する!2体でオーバーレイ!再び現れろ、ランク3!《ブレイクソード》!もちろん対象は《ブレイクソード》と《ホープドラグーン》だ!」

 

「くっ」

 

「そしてレベル4の《サイレントブーツ》《ダスティローブ》を特殊召喚し、2体でオーバーレイ!こい、ランク4!《ヴェルズ・タナトス》!さあ、これで終わりだ、城前!2体でダイレクトアタック!!」

 

「うわあああっ!」

 

城前の敗北を告げるブザーが鳴り響いた。

 

「あー、負けた負けた。楽しかったぜ、ユート」

 

ほこりを払いながら立ち上がった城前は、ありがとな、と笑った。さっきの何もできないままのワンショットの雪辱を晴らすことができたユートはうなずいた。

 

「《ダーク・レクイレム》と《RUMー幻影騎士団ラウンチ》か、初めて見た!なあ、どんなカードか見せてくれよ!」

 

「え?あ、ああ、いいけど。そんなに気になるのか?」

 

「当たり前だろ、知らないカードが出てきてテンションあがらない決闘者なんているのかよ?」

 

「まあ、たしかに」

 

城前のエクストラデッキから召喚されるモンスターは、いずれもユートがハートランドで一度も見たことがないモンスターばかりだった。どきどきしたのは事実だ。それと同じことを城前は感じてくれたらしい。《RUM-幻影騎士団ラウンチ》が出てきた瞬間から、城前のテンションがみるからに上がったのはよくわかる。ネットなどで調べたのに出てこなかったカードを相手が使ってきた瞬間の緊張感と好奇心がない交ぜになった感覚は、高揚感と相まって楽しいものになるのだろう。それなら、とユートは提案する。

 

「城前のエクストラ、見せてくれないか?《ホープ》と《ホープドラゴン》が気になる」

 

さすがにエクストラデッキをすべて見せてくれとはいえない。でも、デュエルで活躍したモンスターくらいならいいだろう、城前も同じこと言ってるんだし。城前はいいぜとうなずいた。そしてデュエルディスクからカードを2枚取り出し、差し出す。

 

「このナンバーは?これも名前なのか?」

 

「そうそう、ナンバーズっていうんだ」

 

「ナンバーズ、か。変わったテーマだな」

 

「テーマというか、シリーズというか、見ての通り99枚あるんだ。おれ、このナンバーズ集めてるんだよ。珍しいカードだからなかなか見つからないんだよな。もし見かけたら教えてくれよ」

 

「ああ、わかった」

 

「さんきゅー、助かるぜ。おれがハートランドにきたのは、このカード集めるためでもあるからさ」

 

「そうなのか・・・・・・なるほど。でもエクストラは15枚だろ?99枚は入らないんじゃないか?」

 

「だからさっき組んでたんだよ、たくさん」

 

「ああ、なるほど、そういうことか。あはは、大変そうだな、城前。がんばれ」

 

「おう、がんばる。さーて、どうするよ、ユート。いい子はおうちに帰る時間だぜ?」

 

「まだ決着ついてないのに帰るわけないだろ」

 

「よっしゃ、さすがはユート。言ってくれると思ってた。さあ、いこうぜ」

 

「ああ」

 

デュエルブースの独占をスタッフに注意されるまで、城前とユートのデュエルは続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レポーターからマイクを向けられたカイトは、いつもなら相手にしない取材をうける理由をぶつける。

 

「ふん、インタビューなど好みではないが、ある人物にメッセージを伝えるため、ここは利用させてもらおう。俺は必ずこの大会に優勝し、最強のデュエリストだと証明してみせる」

 

いつもなら軽くあしらわれる今大会の優勝候補から、強気な断言を引き出せたインタビュアーは興奮気味にその先を促す。

 

「ハートランドに俺の実力を認めさせると同時に、デュエルを授けてくれた師にも認めさせてやる」

 

カイトの師匠。クローバー校が誇るエースを育て上げた師匠、思わぬ発言にインタビュアーは名前を聞いた。

 

「クリス、クリストファー・アークライトだ。我が師よ、このニュースをみているのならこの大会にエントリーしてその目で俺を見極めてみろ。未だに俺が未完成などと言わせはしない!決勝戦の舞台で待っている!」

 

公共の電波で名前まで出した時点で、次の日からクリスの名前が町中の噂になるのはあたりまえ。たとえクリスがニュースをみていなかったとしても、本人の耳にはいるのはまちがいない。ハートランドのマスコミは、こぞって将来のプロデュエリストの師匠が誰か躍起になってしらべるだろう。クリスに多大な迷惑をかけることはわかっているがカイトはかまわなかった。

 

クリスはかつてカイトにデュエルを教えた男だ。極東チャンピオンのプロをしている弟はすでにプロであり、指導もかねていたクリスの指導力は明白。このままプロになるまで教えを請うつもりでいたカイトに突きつけられたのは、もうくるなと言う突然の別れだった。

 

「君のデュエルは確かに完璧に近い。しかし完璧ではない。自分になにが足りないのか、よく考えてみることだ。それがわかったらまたくるといい」

 

いくら問いつめてもそう繰り返して諭すクリスを思い出すたびに苦い記憶がよみがえる。カイトがクローバー校にはいる数年前の話だ。良くも悪くもかつての自分とは変わりつつあることをカイトは自覚している。今ならクリスの言葉がわかる気がした。だから強硬手段にでたのだ。正攻法では応じてくれないことなど突然の離別が納得行かずアークライト邸に通い詰めたあのときに思い知っているのだ。少しくらい意匠返ししてもいいはずだ。

 

こうして、カイトは満を持して、ハートランド主催の大規模な大会に参戦することを宣言し、インタビューを終えたのだった。翌週にはクリスに関する特集記事が並び、デュエル大会に参加すると明言されたことでカイトは全力を出すことを誓ったのである。余計なお節介でオービタルがクリスのデュエルデータを収集しようとして軽くあしらわれ、マシンスペックをもっと上げろといわれたと嘆く事件はあったもの、それ以外は問題なく予選は進む。順当に勝ち上がり、カイトは早々に準決勝進出をきめた。そして控え室でクリスとデュエルする準々決勝の相手とのデュエルをみていたのである。トーナメント表をみる限りでは、相手を先行制圧してなにもできないまま封殺する相手以外、クリスの障壁になりそうな決闘者はいなかったのである。クリスと同様公式大会には縁遠い人間なのかデータがない者同士のデュエルだった。結果だけみればカイトの漠然と抱いていた理想どおり、クリスが勝ち上がり相手は負けた。しかし、問題はそれではない。気づけばカイトは会場に向かっていた。控え室で待っていれば帰るために荷物を取りにくることはわかっていたが我慢できなかった。すれ違ったサヤカたちがどうしたの?と叫ぶのが聞こえたがそれどころではなかった。

 

「待て!」

 

「え、もしかして、おれか?」

 

「ああ、そうだ。城前克己」

 

予想通り、控え室に向かう途中だったらしい相手は、全力で走ってきたカイトに呼ばれて目を丸くする。ぜいぜい息をあらげながら近寄ってくるカイトに戸惑いがちに首を傾げた。

 

「おまえに聞きたいことがある」

 

「え?なんだよ」

 

「クリスとのデュエルで使ったあのカード、どこで手に入れた」

 

カイトの発言に城前は心当たりがあるのか、あー、と頬をかく。

 

「やっぱナンバーズ使うのまずかったか」

 

「ナンバーズ?なんのことだ」

 

「・・・・・・え?」

 

「なにを驚いている」

 

「ホープとかライトニングのことじゃねーの?」

 

「たしかにあのカードは驚異だったが、そうではない。俺が聞きたいのはダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンのことだ」

 

その言葉を聞いた途端、城前は硬直する。そして冷や汗がたらりとながれた。

 

「その様子だとユートのことは知っているようだな。あのカードはまさしくスペード校のユートのエースモンスターだ。一般に販売されていた覚えはない。その上効果が汎用性を高めているとなると捨ておけん。どこで手に入れた?クリスに全力でぶつかり、敗北してなお誉められていた実力者がカードを偽造するとは思えない。コピーカードなのだろう、つかまされるとは軽率だったな」

 

「・・・・・・たしかに買ったカードだけどさ」

 

「どこのショップだ?」

 

城前が教えてくれたショップは聞いたことがない。わざわざ遠征してきているそうだから、地方のショップなのだろう。カイトは城前が挙動不審に陥っていることを確認し、大会失格を心配しているとふんだ。

 

「城前、ダーク・リベリオンを見せてみろ」

 

「お、おう」

 

差し出されたカードをみて、カイトは目を細めた。

 

「すごい完成度だな、俺もユートとデュエルしたことがなければわからないレベルだ。一般人ではコピーカードだと判断するのは不可能だろう、おまえに落ち度はない。ついてこい、城前。運営委員会には俺が掛け合ってやる」

 

先を促され、城前は不安な顔をしたまま、カイトのあとを追った。

 

 

 

まさか、3日も早く会うことになるとは、とカイトの父親たる研究者は笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

二ヶ月後

 

 

 

 

 

 

 

「ユート、今度の土曜日予定はあるか」

 

「今度の土曜?予定は特に・・・・・・急にどうしたんだ、隼」

 

「今度学校対抗のデュエル大会があるだろう、観戦にいかないか」

 

「それはしってる。でも隼たちがでるのは日曜だろう?土曜は予選じゃないのか?」

 

不思議そうに訪ねてくるユートに、黒咲はパンフレットを渡しながらいった。

 

「カイトたちが出るんだ、行くぞ」

 

「えっ、カイト達が!?」

 

ユートはあわててパンフレットの出場者リストをめくり始めた。黒咲は真剣な表情のまま、なにかを考え込んでいるのか腕を組んだ。

 

プロデュエリストを目指す訓練生の実力向上と交流をかねて、定期的に開催されているのが学校対抗のデュエル大会である。団体、シングル、タッグデュエル、アクションデュエルの4種目で行われており、出場者は学校を代表するデュエリストばかりだった。

 

シングルスは勝ち抜き方式で行われ、それぞれの学校内で行われる予選を突破した決闘者のうち、シードを与えられる選手が各校2名、予選を免除される準シード選手各校4名を含む120名ほどが参加資格を得ることができる。シード選手は国際大会のルールに従い、世界ランキングを元に決定されていた。

 

団体はトーナメント戦で行われる。参加人数は16チーム。団体戦出場資格を得た各チームは、シングルスに出場資格を持つ決闘者に、団体戦のみに出場する決闘者に加えて、3名のチームを編成しなければならない。シード権のリストはシングル同様世界ランキングをもとに参加する決闘者を対象としたリストで順位が決定していた。団体戦はシングルスを2試合、タッグデュエルを1試合、シングルスを2試合の順で行われ、先に3試合を先取したチームが勝利となる。

 

監督から配布された日程表に目を通した黒咲は、いつもならすぐに見つけられるはずの名前が見あたらず困惑する。毎年、カイトを擁するクローバー校と黒咲率いるスペード校は、シングルスはもちろん、団体戦も毎年シード枠である。予選が行われる日程は訓練場で最終調整にいそしむのが定番だった。順当に勝ち進めばどのあたりでぶつかるのかシード枠をざっと確認した黒咲は、シングルスですぐにカイトの名前を見つけることができたのだが、団体の項目にクローバー校の名前が見あたらないのだ。どういうことだ。カイトもサヤカもランキング上位の常連のはず、普通ならば自動的にシード枠になるはずだ。まさか3人目がランキング上位ではないのだろうか。そう思って準シードのリストをめくってみるがそこには校章も名前も見あたらない。まさかと思って今までみもしなかった予選枠を確認した黒咲は、ようやくクローバー校の名前を見つけることができた。メンバーを確認してみる。カイトとサヤカはおなじみとして、今回、黒咲が知らない名前がそこにはあった。この決闘者がクローバー校の団体戦における平均ランキングを著しく下げているのは間違いない。いったい何者だろうか、と黒咲は思案するが全く記憶にない名前である。年齢は黒咲と同じ、一度も決闘をしたことがないのはめずらしい。団体の登録はタッグデュエルとシングルデュエルである。いつもは縁がないタッグデュエルの項目をみてみる。カイトと組んでいるこいつは予選に名前がある。疑問ばかりが浮かんでは消える。タッグデュエルのランキングもシングルスのランキングも予選を勝ち抜けなければいけないほどの実力なのに、わざわざカイトとおなじチームに入る理由がわからない。それだけ見込みがあるのだろうか、この決闘者は。

 

 

これは一度確認しなければならない。そう、思ったのだった。

 

「城前克己・・・・・・?」

 

「知らない名前だ」

 

「留学生?」

 

「さあ、な」

 

「カイトに聞いてみるか?」

 

「必要ない。トーナメントまで勝ち上がってこなければ、その程度の決闘者ということだ。目指すのは同じ高見だ、いずれぶつかるときがくる」

 

「でも、予選は見に行くんだろ?」

 

「それとこれとは話が別だ、ユート。俺はカイトの応援に行くだけだ」

 

「ほんとにそれだけなのか?」

 

「ユート」

 

ばつが悪くなったのか、低くなる声と黙れと言う無言の圧力をかけてくる金の目に、ユートはおかしくなってきて、笑ってしまったのだった。

 

トーナメントとは比べものにならない団体戦の予選会場は、早朝からごった返していた。もちろんクローバー校の制服が目立つ中、私服姿の黒咲達のような偵察にきているチームもちらほら見える。それだけ問題行動を起こしたわけでもないのに、予選から勝ち上がることになったクローバー校は注目の的だったのである。

 

城前克己という青年は、無名の訓練校から転校してきたライトロード使いである、という紹介がはいる。ライトロードといえば海外からハートランドに入ってきたテーマである。外国からの留学生だろうか、そのわりには黒咲達となんら変わらないようにみえたが。誰もが注目する試合は、シングルスにてサヤカが順当に相手を下し、クローバー校が1試合を先取した。次はいよいよ注目の城前克己である。戻ってきたサヤカにお疲れさん、とタオルとミネラルウォーターを渡した城前は、傍らでずっと話していた主将のカイトに声をかけられる。振り返った城前に、カイトは勝ってこい、と背中をおした。痛い痛いとおおげさに顔をゆがませた城前に、サヤカが笑う。せっかくの1勝ちをイーブンにするなと手厳しい応援がとんできたのか、城前はもっと応援してくれよとがっくり肩を落とした。

 

ずいぶんと仲がよさそうである。悪い奴じゃなさそうだ。カイトがわざわざ自分のチームに入れるくらいだ、当たり前だが。ほっとしたユートだったが、黒咲はデュエルをみてから決めると冷静である。対戦相手もやってくる。城前はデュエルディスクを構えた。ブザーが鳴る。先行は城前だった。

 

 

「おれは《ライトロード・アサシン ライデン》を攻撃表示で召喚する。そして魔法発動、《左腕の代償》!このカードを発動するターン、おれは魔法・罠をセットすることができない。このカード以外の手札が2枚以上の場合、その手札をすべて除外して発動できる。デッキから魔法カードを1枚手札に加える。おれが手にしたのはこいつだ、《同胞の絆》!このカードを発動するターン、おれはバトルフェイズを行えない。2000ポイントのライフを支払い、自分フィールド上のモンスター1体を対象に効果を発動することができる。ライデンと同じ種族、属性、レベルのカード名が異なるモンスター2体をデッキから特殊召喚することができる」

 

 

城前のフィールドには、《ライトロード・モンク エイリン》《ライトロード・ウォリアー ガロス》が特殊召喚された。黒咲は目を見開く。《左腕の代償》は2枚以上の手札をすべて除外という重い発動コストを持つが、この布陣では全く意味をなさない。デメリットのない魔法サーチカードと化しているではないか。黒咲の直感通り、超高速の墓地肥やしが始まった。

 

 

「ライデンの効果でデッキトップからカードを2枚墓地に送るぜ。そしてガロスの効果を発動、カードを2枚墓地に送り、2枚ドロー。おっと、《エクリプス・ワイバーン》が落ちたから効果を発動、デッキから《混沌帝竜ー終焉の使者ー》を除外するぜ。エンドフェイズにエイリンの効果でさらに3枚墓地に送る。追加でガロスの効果を発動、カードを2枚墓地に送り、1枚ドローだ。ターンエンド」

 

 

13枚の墓地肥やし、そして6枚以下のドローが可能になるコンボに黒咲は戦慄する。この墓地リソースを武器になにを仕掛けてくるのか、冷や汗が流れた。次のターン、なにもできなければ城前はゲームを終わらせにかかるだろう。ライトロードは墓地肥やしからすべてがはじまるテーマである。たった1ターンでここまでそろえてくるとは、さすがは混沌使いといったところだろうか。《裁きの龍》ではなく《混沌帝龍ー終焉の使者ー》のサーチを選択した理由が気になるところだ。

 

 

ターンの終了を宣言したとき、すごいな、と乾いた笑いがユートからもれる。黒咲の目に浮かんでいたのはいいようのない高揚感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあなあ、克己、克己!頼むからさあ、代わってくれよ!』

 

「んだよ、こんな時に!ふざけんじゃねえ、今は遊んでるような状況じゃねえってことくらいわかるだろ」

 

城前は頭の中にがんがん響きわたる声に舌打ちする。

 

『だって克己、このままじゃデュエルに負けちまうだろ!カードにされるのも、負けるのも、俺は嫌だ!このままじゃやばいことくらいわかってる!俺にその勝負、預けてくれよ頼むから!』

 

「は、バカいってんじゃねえよ。鍵からでれねえほど瀕死の癖して、自殺でもする気か?」

 

『それは今の克己だって同じだろ!一緒にアストラル世界にいくって約束したんだ、それを守れなくなるのが嫌なんだよ!』

 

「っくそ、うるせえ!」

 

『ああもう、克己の分からず屋!もーいい、こうなったら無理矢理にでも休ませてやる!』

 

ハルトを人質に取られ、裏切らなければバリアン世界に連れていくと宣言されたカイトと何者かの意識を上書きされているハルトとの決闘に追いつめられた城前は、ふらふらと立ち上がる。実体化するモンスターからの攻撃が直撃し、凄まじいダメージがおそっているらしい。カイトはいたたまれず目をそらす。エンドフィズを宣言した。その

直後に突然始まった一人の問答である。カイトは目を見開いた。明かな豹変だった。

 

顔を上げた城前は、初めてダメージを自覚したような反応を示す。悶絶する城前にカイトは違和感のあまり見つめていることしかできない。

 

「克己のうそつき、やっぱすっげえ痛え」

 

克己、と城前を呼ぶその声は、まるで別人のようだ。それを肯定するように、ハルトの意識を乗っ取っている何者かが敵意を剥き出しにする。城前にデュエルを強要したのは、こいつの登場を待っていたかのような言葉である。城前はハルトを見る。その眼差しは怒りに満ちていた。

 

「よっくも克己をこんな目にあわせたな!ぜってえ許さねえぞ!」

 

「お前がそいつにとりついてるから悪いんだろう。違うのか?」

 

「克己はそれも含めていいよって言ってくれたんだ、俺はその気持ちに応える!ハルトってやつにとりついて、カイトってやつに言うこと聞かせてるお前にだけはいわれたくねえよ!」

 

城前は、そういってターンの宣言をした。

 

「最強の決闘者のデュエルはすべて必然!ドローカードさえも決闘者が創造する!すべての光よ!力よ!我が右腕に宿り希望の道筋を照らせ!シャイニング・ドロー!」

 

それはハルトとは真逆の光だった。ドローするたびにまがまがしいエネルギーが観測されるハルトとは真逆に、あまりにも神々しい光のエネルギーが観測される。どちらも通常のデュエルでは発生し得ないものだ。

 

「俺は魔法カード《勝利の方程式》を発動!相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、発動することができる。エクストラデッキから「カオスナンバーズ」と名の付いたモンスター以外の「ナンバーズ」と名の付いたエクシーズモンスター1体を特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したエクシーズモンスターの下にこのカードを重ねてエクシーズユニットとする事ができる。俺が呼び出すのは《NO.39希望皇ホープ》!そしてさらに手札から魔法カード《RUM-ホープ・フォース》を発動!このカードはエクシーズ素材を2つもつ《NO.39希望皇ホープ》1体を対象に効果を発動できる!選択したモンスターよりもランクが1つ、または2つ高いモンスター2体を自分のエクストラデッキから特殊召喚することができる!その後、その特殊召喚したエクシーズモンスター2体の下に対象モンスターのエクシーズユニットを1枚ずつ重ねてエクシーズ素材とすることができる!ダブルアップエクシーズチェンジ!」

 

上空に渦巻く銀河の渦が光の矢を落とし、城前のフィールドに飛来する。

 

「こい!《NO.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》!」

 

一気に3体のモンスターが並んだ。

 

「俺のフィールドにはナンバーズが3体いる!よってこのカードの効果を発動する!魔法カード《エクシーズ・トレジャー》!フィールド上に表側表示で存在するモンスターエクシーズの数だけ自分のデッキからカードをドローすることができる!よって3枚ドロー!もう1枚の《エクシーズ・トレジャー》を発動、よってさらに3枚ドロー!さあ、いくぞ!俺は《HRUM(ハイパーランクアップマジック)ーアルティメット・フォース》の効果を発動!自分フィールドの「ホープ」と名の付いたモンスターエクシーズ1体を選択して発動する。ナンバーズと名の付いたランク10のモンスターエクシーズ1体を自分のエクストラデッキから選択したモンスターに重ねてエクシーズ召喚することができる!そして、このカードの効果でこのカードをエクシーズ召喚したモンスターのエクシーズユニットとすることができる!」

 

城前は今まで見たことがないほどきれいな笑みを浮かべていた。

 

「現れよ、No.99!砕け散りし我が魂の記憶、今、ひとつとなりて天命を貫く霹靂となれ!これがナンバーズの終焉にして頂点!希望皇龍ホープドラグーン!そして、エクシーズユニットを1つ取り除き、俺は墓地に眠りし《NO.No.39希望皇ホープ》を蘇生し、オーバーレイネットワークを構築!ランクアップエクシーズチェンジ!一粒の希望よ!今電光石火の雷となり闇から飛び立て!現れろSNo(シャイニングナンバーズ)39!《希望皇ホープ・ザ・ライトニング》!さあ、バトルだ!ビヨンド・ザ・ホープで攻撃だ!ビヨンド・ザ・スラッシュ!」

 

「なにを考えているんだ、城前!こっちには・・・」

 

「《No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》はナンバーと名の付いたモンスター以外との戦闘では破壊されない。それに加えて、このカードが自分フィールド上に存在する限り、自分フィールドのモンスターは相手のカードの効果を受け付けない!よって

《和睦の使者》の効果は無効となる!さらにホープをエクシーズユニットとしてエクシーズ召喚しているため、お前たちのモンスターの攻撃力はすべて0、バトルは続行だ!いけ!」

 

それは容赦のない猛攻だった。モンスターは破壊され、ホープたちの攻撃は反射的にハルトをかばったカイトではなく、その後ろに不自然に延びる闇の螺旋めがけて突き刺さる。カオスナンバーズをランクアップさせる度に出現していたそれは、今まで観測したことがない波長のエネルギーを放出したあと、突然姿を消してしまった。それと同時に、ハルトは意識を失い倒れてしまう。すでにカイトの腕の中にいたため難を逃れたが、どさりという音が聞こえる。はじかれたように顔を上げたカイトが呼びかけたその先には、倒れてしまった城前がいる。真っ青になったカイトはあわててオービタルを走らせる。

 

「カイト様!城前モハルト様ト同様意識ヲ失ッテイルデアリマス!」

 

「なっ!?は、はやく救護を呼べオービタル!救急車より俺達の研究室の方が早い!」

 

了解、とどんどん声が大きくなるカイトの動揺を受け止めてしまい、オービタルもわたわたと準備を始める。

 

「ハルト・・・城前・・・あいつらは、いったい」

 

緊急治療室から出てこないハルトたちを鏡越しに見つめ、カイトは行き場の失った拳をたたきつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒咲が城前克己を知ったのは、1年ほど前の話だ。講義を受けるため講堂の扉を開いた黒咲は、いつもの席を占領されていることに気付いた。休み時間になると集まってくだらない話をしているグループがあり、そのうちの一人と席が近かったのだ。黒咲を見つけたクラスメイトはわりい、わりい、といつもの調子で謝ると席をどき、そのメンバーの机に腰掛けた。グループの中心にいるはずの席の主は、さっきから突っ伏している。重苦しい空気をしょい込み、はあ、と大げさにため息をついて落ち込んでいると露骨にアピールしながら、まわりをちらちら確認している。仲良しのクラスメイトは慰める様子もなく、だっせー、と笑って肩を叩いたり、回し読みする雑誌を熱心に読み込んでいる。大げさに泣きまねすらはじめた席の主を小突きながら、付き合いのいいクラスメイトは、黒咲と目が合うと、聞いてもいないのに話し始めた。

 

「なあ、黒咲。こいつ、ガッコやめるってよ」

 

「ちょ、そこまで言ってねえだろ、ふざけんな!」

 

「ふざけてんのはそっちだろー、なにいってんだ」

 

「みんな、冷たい……!」

 

「だってダセえにも程があるだろ、なんで素人に負けるんだよ、お前」

 

「ビギナーズラックってやつ?」

 

「いやいや、RUM使ってたじゃねーか、ぜってえどっかのガッコのやつだって。素人がどっから手に入れるんだよ」

 

「あー、そっか。つか、ほんとにダセーな、お前!」

 

「こ、このやろう、入院した友達にいうかそんなこと!」

 

「素人に負けてショック受けて気絶とか、かっこ悪いにも程があるだろー!しっかりしろよ、お前さあ」

 

そこまで聞いて、黒咲は何があったのか疑問を投げた。黒咲の斜め後ろの席の主は、プロデュエリスト養成所において指折り数えるほどの実力者である。素行に問題があり、少々教師が手を焼いているところは目撃するが、デュエルの腕は確かであり、そこだけは認めていた。黒咲が興味を持ってくれてうれしいのか、意気消沈していたクラスメイトは笑い話の顛末を教えてくれた。

 

それは、前々からクラスメイトが出場すると息巻いていた、ハートランド公認のデュエル大会だった。プロデュエリストになるための登竜門である世界大会の開催を間近に控え、街はお祭りムードになっている。定期的に大小さまざまなデュエルの大会が企画され、世界大会に向けた準備運動としてアマチュアデュエリストたちは、貴重な経験を積むため参加するのが恒例となっていた。その例にもれず、知名度もある大規模な大会に出場したクラスメイトは、準決勝で一般枠で参加した無名の同年代のデュエリストと戦い、敗退したという。どこかの養成所に入っていればアナウンスが入るはずだが、一般枠で参加したいわば雰囲気を楽しみたい素人のようなアナウンスが入っていた。現にデュエルの前にデュエリスト同士の戦歴を公開するモニタがあるのだが、相手はなにもなかったという。よって、無名のデュエリストとクラスメイトは結論付けたようだ。問題はデュエルを途中までしてから、世界がブラックアウトしたことだ。

 

「気付いたらベッドの上でさー、もう嫌だ」

 

「わざわざ見舞いにきてくれたんだろ、そいつ。やっさしい」

 

「つーか、ショックで気絶するとかどんだけメンタル弱いんだよ」

 

「う、うるせー!俺だって好きで気絶したわけじゃねえっての!」

 

「でも覚えてないんだろ?」

 

「うう、そうなんだよ。実はデッキ調整してたら腹減ってさ、外に出てコンビニ言ったあとから覚えてないんだ。気付いたらベッドの上とかやばくね?」

 

「一度病院に行った方がいいって。主に頭を見てもらえ、バカが治るかもよ」

 

「おいやめろ、この野郎!」

 

クラスメイトは徹夜してデッキ調整したからか、ふわふわしたままデュエルをしたらしい。本人曰く、今までにないほど頭がさえわたり、今までで一番デュエルに集中できたとのこと。あの時の高揚感が忘れられず、またデュエルしたいと思っているようだが、肝心のデュエルの内容を思い出そうとしてもいまいち思い出せないらしい。そのせいでデュエルの途中でぶっ倒れ、病院に運ばれ、心配したその素人がお見舞いに来てくれたそうだ。なんだかんだでその素人は大会に優勝し、無名のデュエリストは一夜にして有名な一般人となった。こいつだよ、と差し出された雑誌の特集記事には黒咲たちと同じか、年上の城前克己というデュエリストがうつっていた。一緒にうつっているモンスターは、見たことがないデザインである。

 

「このカード、俺のじゃねーかって聞いてきたんだよな。違うって言ったら、運営委員に渡してくるっつってたのに、なんでもってんだろ」

 

「持ち主が現れなかったんじゃね?」

 

「いや、でも、記事にはエースってあるだろ。たしかに城前のエースはこいつだったんだ。俺が持ってるわけねーだろ、俺、こんなカード初めて見たしさ」

 

「不思議なこともあるもんだなー、城前はエクストラに2枚しかもってなかったんじゃね?それで3枚目が紛れ込んでたから、お前のデッキのと混じったと思ったとか」

 

「あー、それかも。真面目なやつだよなあ」

 

それから、黒咲の日常のなかに城前克己という一般人の名前は、様々なかたちで耳に入ってくるようになった。でてくる大会はきまってハートランドが運営委員を務める公認大会ばかり。プロデュエリスト養成所に通うデュエリストのタマゴたちからすれば、フリーでプロを目指す道もあるにはあるが、それは希少な才覚をもつ者だけが許されたそれである。運営委員と一緒に居る所が目撃されたり、有名な理化学研究所の研究員と共にいる所が目撃されたり、なにかと話題になる一般人だったが、そのキャラクター足らしめたのは、いくつかのデュエルのルールを自らに課している事だろう。

 

その戦術とプレイング、デッキ構築から考えて先行をとったほうが有利であることは事実であり、城前もそれを認めているにも関わらず、城前は必ず後攻を選択する。相手のデッキを把握したうえで、どんなプレイングをするか期待するような態度をとる。不利になるにも関わらず、相手がエース級のモンスターを召喚したり、デッキを展開しはじめると、楽しそうだったり、嬉しそうだったりする。プロデュエリストを前にしたファンのような態度をとるのだ。相手ならば超えてくれるという期待を持って召喚するモンスターとプレイングは、防ぎきれなかったら間違いなくワンショットが決まってしまうような速攻に特化したデッキであり、罠が最小限しか入っておらず、ほとんどがモンスター効果に頼っている極端なデッキを使う。実力者であり相手をリスペクトしていると取るか、舐めプをする嫌な奴であり馬鹿にしている、と取るかは評価が分かれるところだ。

 

その城前克己という青年がプロデュエリストの登竜門であるハートランドの国際大会に出場するのではないか、という噂は半年前からあった。3か月前になると城前が大会に顔を出し、着実に実績を積んでいくにつれて噂は確信となる。1か月前となれば暗黙の了解となっていた。気付けば、黒咲の通う養成所で城前克己とデュエルを経験した、もしくはデュエルを目撃した人間の方が多数派になっていた。少数派になってしまった黒咲だが、プロを目指す者同士である以上、いつか道は重なる時が来る。それまでわざわざ赴く必要はない。そう考えて行動に移すことはしなかった。

 

それが現実となったのは、国際大会の前哨戦となるある大会の準決勝だった。組み分けを見た時から、この時が来たか、という確信があった。城前は黒咲を知っているようで、大会の結果が掲示されている前で視線が合った時には、よろしくな、と会釈された。ハートランドのアマチュアデュエリストのランキングで上位に居続けているデュエリストは少ない。城前は在住日数が少なすぎてランキングに乗る権利が与えられてはいないが、非公式のランキングでは着実に順位を上げていた。ランキングだけなら、黒咲の方が上だ。ずいぶんと古いデザインのデュエルディスクを使うのは、一般人だからなのか。デュエリストを知るならデュエルをするのが一番である。応援に来てくれた瑠璃とユートに見送られ、黒咲はメイン会場に足を運んだのである。

 

 

「城前克己、俺とデュエルだ!」

 

「望むところだ、黒咲!アマチュア屈指の実力者の腕前を見せてもらうぜ!おれは後攻をいただく!」

 

「いいだろう。城前克己、貴様は必ず後攻を選択するというのはどうやら本当のようだな。なぜわざわざ自分に不利な真似をする?」

 

「そんなの決まってるだろ?相手の最高のプレイングを見るには相手に準備してもらうのが一番だからな!最前列で最高のショーが拝めるなら俺は喜んで後攻を選ぶぜ。それに逆境を乗り越えてこその決闘者だろ!」

 

「最高のショー、か。たしかにデュエルは最高のショーだ。大人も子供も誰もが夢中になる、それがデュエルだ。城前、貴様がその舞台装置となるというなら、俺は本気で相手になろう。お望み通りこちらから行くぞ!俺のターン!俺はトリビュート・レイニアスを召喚する。このカードが召喚に成功したターン、俺はデッキからRRカードを1枚墓地に送る。俺が送るのはミミクリー・レイニアスだ。そして、墓地に送ったミミクリー・レイニアスの効果を発動する。墓地のこのカードを除外し、デッキからミミクリー・レイニアス以外のRRカードを1枚手札に加える。俺が手札に加えるのはファジー・レイニアス。ファジー・レイニアスは自分フィールド上に同名カード以外のRRモンスターが存在する時、手札から特殊召喚することができる。こい、ファジー・レイニアス!」

 

「レベル4のRRが2体、来るか黒咲!」

 

「俺はレベル4トリビュート・レイニアスとレベル4ファジー・レイニアスでオーバーレイ!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!ランク4!RR-フォース・ストリクス!」

 

「さっそく来やがったな、RRの源泉!」

 

「……ふん、対策は万全というわけか。なら、どこまでやれるか見せてみろ。このカードは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、デッキから鳥獣族、闇属性、レベル4のモンスター1体を手札に加えることができる!俺が手札に加えるのはバニシング・レイニアスだ。そして、カードを2枚伏せる。ターンエンド」

 

「よっしゃあ、いくぜ!おれのターン、ドロー!おれは手札からカードを1枚墓地に送り、オノマト連携を発動、デッキからモンスターを2体サーチする!おれがサーチするのはガガガシスターとドドドバスターだ!おれはドドドバスターを召喚、効果を発動する!墓地のドドドバスターを蘇生!さあいくぜ!レベル4のドドドバスター2体でオーバーレイネットワークを構築!現れろナンバーズ39、希望皇ホープ!さあいくぜ、黒咲!おれはRUM-アージェント・カオス・フォースを墓地に送り、希望皇ホープをランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れよ、ナンバーズ99!零れ落ちし異邦、今、ひとつとなりて、天命を貫く楔となれ!エクシーズ召喚!来たれ、ランク10!希望皇龍ホープドラグーン!俺はホープを取り除き、その効果を発動、墓地に眠りしホープを特殊召喚!さらにRUM-アージェント・カオス・フォースーの効果を発動、墓地から手札に加える!さあ、まだまだこれからだ!もう一度アージェント・カオス・フォースを墓地に捨て、ホープをさらにランクアップ・エクシーズ・チェンジ!再び降臨せよ、ランク10!希望皇龍ホープドラグーン!さあ、いくぜ、黒咲!ホープドラグーンでフォース・ストリクスを攻撃!」

 

「そうはさせるか。トラップ発動、RR-レディネス。このターン、フォース・ストリクスは戦闘では破壊されない!」

 

「そうこなくっちゃな!さあ、見せてくれよ、黒咲!お前の最高のプレイングをさ!この布陣を突破してみてくれ!おれはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

「ふん、その程度の壁を前に決闘者の闘志は潰えはしない!俺のターン、ドロー!俺はフォース・ストリクスの効果を発動、バニシング・レイニアスをサーチ!さあ、見ていろ、城前克己!俺はバニシング・レイニアスを召喚する。そして効果を発動!デッキからさらにバニシング・レイニアスを特殊召喚!そして手札から永続魔法、RR―ネストを発動、デッキからバニシング・レイニアスを特殊召喚する!」

 

「レベル4が3体か、よし来い!」

 

「俺はレベル4のバニシング・レイニアス3体でオーバーレイ!雌伏の隼よ、逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ!反逆の翼、翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4、RR-ライズ・ファルコン!そして、オーバーレイユニットを1つ取り除き、城前、貴様の俺から見て右側のホープドラグーン1体を対象として、効果を発動!ライズ・ファルコンの攻撃力は、ホープドラグーンの攻撃力分アップする!」

 

「その厄介な効果は発動させねえよ、トラップ発動、スキル・プリズナー!その効果は無効だ!」

 

「ならば次の手を打つだけだ!俺は手札からRUM-レヴォシューション・フォースを発動!獰猛なる隼よ、激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップエクシーズチェンジ!現れろ、ランク5!獰猛なる隼よ、激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!ランク5!RR-ブレイズ・ファルコン!ブレイズ・ファルコンは貴様にダイレクトアタックすることが出来る!いけ!」

 

「ぐうっ……!」

 

「ブレイズ・ファルコンが貴様にダメージを与えたことで、モンスター1体を破壊することができる!」

 

「その厄介な効果は発動させねえよ、ホープドラグーンの効果を発動!その効果を無効にし、破壊する!」

 

「何度も同じ手を食うと思うか。俺はストイック・チャレンジを発動、対象はそのホープドラグーンだ」

 

「なんだとっ!?」

 

「これでホープドラグーンは破壊された!よって貴様のフィールドにはオーバーレイユニットがないホープドラグーンのみが残る。オーバーレイユニットを1つ使い、効果を発動!貴様のホープドラグーンを破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

 

「っ……!」

 

「これで俺のターンは終了だ。これで貴様のフィールドはお望み通り平地と化したが……さっきの余裕はどうした、この程度なのか?俺を失望させてくれるな」

 

「なにいっちゃってくれてんだよ、黒咲!感動しちゃって言葉が出てこなかっただけだっての!やっぱデュエルはこうじゃなくっちゃな!さすがはプロ志望、やるじゃねえか!面白くなってきたぜ、おれのターン、ドロー!」

 

城前はいよいよ笑みを濃くした。

 

「おれの勝ちだ、黒咲」

 

「なに?」

 

「おれは死者蘇生を発動!よみがえれ、ホープ!さあ、いくぜ!おれはRUMを捨て、ホープドラグーンにランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」

 

黒咲は城前が空高く掲げたエクシーズカードを持つ手が禍々しい光を放つのを見た。99、と刻印された光が浸食する。先程黒咲の前に立ちふさがったホープドラグーンがふたたび降臨する。その圧倒的な存在感に思わず黒咲は息をのむ。先程のソリッドビジョン化して、城前の背後から降臨した2体のホープドラグーンも圧巻だったが、1体しかいないはずのこちらの方がフィールドを制圧する気迫があるのは何故だ。そして、禍々しい彩色を放つあの99の入れ墨のような文様は一体。黒咲の表情に気をよくしたのか、城前の展開は止まらない。

 

「おれは手札からガガガシスターを召喚する!その効果により、デッキからガガガリベンジをサーチ、そして発動する!墓地に眠りしガガガマジシャンを蘇生し、特殊召喚する!そして、ガガガマジシャンのモンスター効果発動!自身のレベルを7に変更する!そしてガガガシスターのモンスター効果により、2体のレベルは9となる!さあ、準備は整った!2体のレベル9モンスターでオーバーレイネットワークを構築!さあ現れろ、ナンバー9!皮肉なる運命よ、今こそ銀河を飲み込む異邦となりて我が天命を照らせ!天蓋星ダイソン・スフィア!」

 

 

今度は9の刻印がかざされる。フィールド全体が激震する演出により、突風が吹きすさぶ。会場の天井がはじけ飛ぶ演出が追加され、砕け散った天井の先で空が裂ける。城前の頭上にはソリッドビジョンで再現しうる限界の容量で再現されたエクシーズモンスターが垣間見える。あまりの大きさに全貌をみることは叶わず、すさまじい質量がはるか上空でこちらを見下ろしているだけだ。凄まじいエネルギーを消費しているようで、電気が走る。城前の手にはRUMが握られていた。

 

「おれはRUM-アストラル・フォースを発動!現れろ、カオスナンバーズ9!天空を覆う運命よ、今こそその内に異邦を宿し、今、ここに降臨せよ!カオスナンバーズ9、天蓋妖星カオス・ダイソン・スフィア!」

 

エクシーズモンスターがさらに禍々しくなる。フィールドに炎の矢を落とすべく、幾重もの爆撃を装填するのが見えた。

 

「墓地のアストラル・フォースを回収!そしてホープドラグーンの効果を発動、おれは墓地からダイソン・スフィアを守備表示で特殊召喚させる!そしてランクアップ・エクシーズ・チェンジ!2体目のカオス・ダイソン・スフィアがここに降臨する!カオス・ダイソン・スフィアは1ターンに1度、エクシーズ素材×300のダメージを相手に与えることができる!まずは1体目!こいつのエクシーズ素材は3つ!よって900のダメージを受けてもらおうか!」

 

「その程度か!」

 

「まだだ!カオス・ダイソン・スフィアからその3つのエクシーズ素材を取り除き、さらに効果を発動する!エクシーズ素材×800、つまり2400のダメージを受けてもらおうか!合計3300のダメージとなる!」

 

「決闘者の魂はここで砕けはしない!俺は墓地のRR-ネストを除外し、効果を発動する!このターン、俺が受けるダメージはすべてゼロになる!これで効果は無駄に終わったな!」

 

「甘いぜ、黒咲!それで終わりだと思ったかよ!」

 

「なんだと?!」

 

「さあ、おれはエクシーズ素材がないカオス・ダイソン・ソフィアでブレイズ・ファルコンとバトルだ!さあ、効果を発動させてもらうぜ!ダメージ計算を行わず、ブレイズ・ファルコンをエクシーズ素材として吸収させてもらう!」

 

「貴様っ……!」

 

「またブレイズ・ファルコンを特攻されちゃかなわねえからな、悪く思うなよ!」

 

「ちぃっ……ならば仕方あるまい。トラップ発動、ゴッドバードアタック!ブレイズ・ファルコンをリリースし、効果を発動!貴様のカオス・ダイソン・スフィア2体を破壊する!」

 

「やるじゃねーか、黒咲!やっぱおれの見込んだ通りだぜ、最高だなお前!さあ、こっから逆転してみろよ、アンタならできるだろ?」

 

「……」

 

「なんだよ、その目。変な奴っていいたげな眼は!それともあれか?まさに絶体絶命っていう崖っぷちに追い込まれて、臆病風吹かれちまったのか?」

 

「言ってろ。だが、最後に立っているのは俺だということを、今ここで証明してやる!どれだけ追い込まれようとも勝つのはこの俺だ!ドローッ!」

 

黒咲は、初めて口元を釣り上げた。

 

「さっきの言葉、返させてもらうぞ」

 

「なんだって?」

 

「おれの勝ちだ、城前。おれはRUM-ソウル・シェイブ・フォースを発動!LPを半分支払い、墓地のフォース・ストリクスを特殊召喚し、2ランク上のモンスターをエクシーズ召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚する!誇り高き隼よ、英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!エクシーズ召喚!出でよ、ランク6!RR-レヴォリューション・ファルコン!このカードはRRのエクシーズモンスターをオーバーレイユニットとしている場合、1ターンに1度相手のモンスター1体を破壊し、その攻撃の半分のダメージを与える!」

 

「まだ終わっちゃいない!おれは墓地のスキル・プリズナーを除外し、その効果を無効にする!」

 

「ならば、俺はその先を行く!バトルだ、城前!」

 

「っ……!」

 

「やはりレヴォリューション・ファルコンの効果を知っていたか。そうだ、俺はこの瞬間、レヴォリューション・ファルコンの効果を発動する!貴様のホープドラグーンの攻撃力を0にする!いけ、レヴォリューション・ファルコン!レヴォリューショナル・エアレイド!!」

 

その日を境に、黒咲と城前の対戦成績は肉薄したものとなる。

 

「え、プロ?ならねえよ」

 

背後から冷水をぶっかけられた気分だった。なに、といいかけた黒咲より先に、怪訝な顔を見つけたらしい城前は困ったように頬を掻く。

 

「いや、違うな、わりい。おれはプロのデュエリストにはなれないんだ」

 

「どういう意味だ、城前。お前は俺とデュエルしてよかったと言ったはずだ。なぜ、同じ高みに上ってこない。俺はデュエリストとしての腕前は認めているつもりだが、貴様にとってはそうではなかったということか」

 

「まさか、そんなわけあるか。黒咲とのデュエルはやっぱ楽しかったよ、久しぶりにデュエルは楽しいもんだと思いだせたから感謝してる。……まさかそこまで評価してくれてるとは思わなかった、サンキュー」

 

「なにか、それ以上の夢があるのか?」

 

「夢だったらどんなに良かったか。醒めない夢は悪夢でしかねえよ、黒咲」

 

「答えろ、城前。お前にとって今までの日々は悪夢でしかないということか」

 

「いずれわかるさ、いずれな」

 

融合次元の侵攻という現実を前に、黒咲の夢の舞台が悪夢に変わったのは、その直後だった。

 

難民キャンプに、エースモンスターを奪うグルーズの噂が立ったのは、さらに半年後のことだった。そのメンバーの1人が城前とよく似た風貌の青年であると知ったとき、黒咲は思った以上にショックを受けている自分がいたことに驚いた。黒咲が思い描いた夢の舞台に至るまでの過程とは全く違う環境で頭角を現し、幾度もデュエルをした城前は、黒咲が何度も感じた将来の欠片だった。立ち塞がるであろうライバルと目されるデュエリストの出現は、いつでも黒咲に一種の高揚感をもたらしていた。切磋琢磨する関係ではないにしろ、お互いに一目置く存在だったことは自負している。融合次元の侵攻という最悪のイレギュラーがなければ、間違いなく黒咲たちはここで生活を強いられることは無かったはずなのだから。そんな苛立ちの中で、黒咲は城前と再会した。気を失ったデュエリストからモンスターを奪取するという最悪のタイミングで。もちろん、黒咲がとった選択はたったひとつだけである。仲間のエースは必ず取り戻す。グルーズに身を落とした城前をこちら側に引き戻す最良の方法だと知っていたからだ。

 

「黒咲、ナンバーズって知ってるか?」

 

「ナンバーズ?貴様が使っているカードのことだろう?」

 

「ああ、そうだ。もっとも、おれが使ってるのはコピーカード(ということになっているOCG次元のカード)。本家本元はヤバいんだ、覚えてるだろ、黒咲。おれが一度だけ本家のナンバーズを使った時のこと」

 

いつかの異邦という口上と共に出現したホープドラグーンは、いつかの圧倒的な存在感をもって黒咲に襲い掛かった。ソリッドビジョンではない、リアルダメージが襲った。深入りするな、と何度も忠告してくる城前の警告を無視して、黒咲はデュエルを続けた。城前が試しているような気がしたからだ。幾度も全力でぶつかる城前のデュエルを最前線で見てきた黒咲はわかるのだ、手加減されているという屈辱が。その先にある迷いを看破して問い詰めた時、城前のホープドラグーンによって蘇生されたホープはビヨンドとなりフィールドのモンスターをすべて0にして、ライトニングという新たなる進化形態を披露して、黒咲に襲い掛かった。RRが魔法と罠を駆使してモンスターを守る側面もあるデッキでなければ、即死だったに違いない。すべての猛攻を防ぎ切った黒咲は、いつかと同じRUMで城前が奪取した仲間のモンスターを奪い返した。返してもらうぞ、と宣言した黒咲に、城前は笑った。カードを見た黒咲は絶句した。カードが白紙になっていたからだ。そして、新たなエクシーズモンスターが創造される。

 

「おめでとう、黒咲。これでお前もナンバーズの使い手だ。もっとも、おれが許さねえけどな」

 

世界に1枚しか存在しないカードであり、別次元の高位体の記憶の欠片であり、100枚存在する異邦のカード。秘められた力が存在し、融合次元もその存在を感知し、城前たちは争奪戦を繰り広げている。ナンバーズに触れた者は対応する数字の刻印が体に浮かび、心の闇や欲望が増幅され、白紙のカードが形を成す。まるでお伽噺のようなことを述べる城前だが、黒咲の腕に刻まれた刻印は発光してその存在を知らせている。

 

「狩らせてもらおう、そのナンバーズ!」

 

グルーズの噂は噂でしかない。ナンバーズを回収していただけだった、という事実は黒咲の過去に影を落とすことは無かったが、城前に対するいら立ちを募らせた。もともと私事を語らない性質のデュエリストだったが、ここまで秘密主義を貫かれると疲弊するレジスタンス生活の中で過酷な環境に身を置いていた黒咲が爆発するのは時間の問題だった。結果的に見れば、そのナンバーズが黒咲の城前に対する怒りを内包したメタモンスターになったのは当然の帰結である。ナンバーズにその怒りを増幅された黒咲と城前のデュエルは凄まじいものだった、とのちにユートは語っている。ハートランドの著名な研究所で目が覚めた黒咲は、レジスタンスの面々と共に城前を介して別次元を研究する者たちと邂逅することになる。別次元への転移を可能にする装置を提供すると言われたのは、その時だ。融合次元の刺客の装置を奪い、研究し、模倣し、似たような機能を作り上げたと新しくデュエルディスクを提供された。誰が代表として別次元に行くかの話し合いのさなか、黒咲は城前の姿がないことに気付いた。面々の中には別次元と争奪戦を繰り広げていた経験をかって、城前を押す人間が多かったのもある。ならば、本人に意志を確認するのが筋だ。プロのデュエリストにはなれない。城前の発言がナンバーズの回収という命題があったからだ、と解釈していた黒咲にとって、すべて終わればその発言は覆される。そう思ったからである。

 

もっとも、城前本人によって、覆されてしまうことになるのだが。

 

「行くのか」

 

それは城前が世話になっていると日々口にしていた、若き研究者の言葉だった。ナンバーズに耐性があるが、彼には最愛の弟と父親がいる。それなのにナンバーズを集めるために命を削って人間とかけ離れる訓練をうけろというのは酷すぎておれにはできないと断言するほどには知りあいらしい、研究者である。

 

「そりゃ行くだろ、それがあいつとの約束なんだし」

 

「アストラル次元はバリアン次元と冷戦状態にあるだけで、いつ戦争になるかわからないそうだ。ほんとうに信用していいのか?」

 

「それをお前がいうなよなあ」

 

「・・・・・・?相変わらず、お前は時々分からないことをいうな。あたりまえのことを言って何が悪い。城前があの高位体の存在を無条件で信じるに値する理由がオレには見つけられない」

 

「カイトはそうだろうけど、おれはそうじゃないの。あいつは嘘つけるようなやつじゃないだろ」

 

「たしかに高位体にしてはずいぶんと人間らしい振る舞いをするが、擬態かもしれないぞ?」

 

「あれが擬態だったら、よっぽど混沌じゃねーか。アストラル次元にそもそもいられねえだろーがよ。まあ、バリアン次元との戦争に巻き込まれるかもしれねーけど、ヌメロンが要るのは事実だからな。あいつらに取られたら一番困るんだ。手を貸す理由としちゃ十分だよ」

 

「しかしだな……城前、俺は」

 

「じゃあ、おれが帰る方法、他にあるのかよ?ねえから行くんだろーが、ぐらつかせんなこれ以上」

 

「城前が行くのは困る人間がまだいるようだ。出てきたらどうだ、黒咲」

 

研究者は白衣を翻して立ち去った。

 

「なんで来ちまうかね、お前さあ」

 

「城前を代表に選ぶヤツが多すぎる。棄権するなら相応の理由を用意してから、どこでも行け」

 

「はああっ!?ふっざけんなよ、なんでまた勝手にいろいろ決めるんだ、お前らは!いつもいつもそうだよな、勝手に期待して外堀埋めやがって!気付いたら道が残ってないとかいじめかよ!おれはもう嫌だ。おまえらに付き合ってられる程お人よしじゃないんだよ、ほっといてくれ!」

 

「それがお前の本音か、城前」

 

「そんなんしるか!だいたいおれは全く違う次元から来てんだよ、帰りたいと思って何が悪いんだ!どいつもこいつもおれの知ってるやつと同じ顔してるくせに、そいつらを否定するようなことばっかいいやがって!おれの記憶が塗り潰されちまうんだよ、思い出せなくなっちまうんだよ、勘弁してくれよ、なあ!」

 

「そんなこと知るか、俺には関係のない話だ、城前。俺は貴様とユートを他の2人に推薦しようと考えている。辞退するに値しない、却下だ」

 

「おまえの都合なんか知るか!おれがいなくたって、お前らは世界を救えるから心配するなよ、ほっといてくれ!」

 

「断る。平和になったハートランドで俺がプロになった時、立ち塞がるデュエリストは多い方がいい。貴様にはその一角を担ってもらう」

 

「はあっ!?てっめえ、いい加減にしろよ、なに勝手に決めてんだ!」

 

黒咲と城前の言い合いが白熱するにつれ、ギャラリーが集まり始める。それに気付いた城前がアストラル次元に繋がるゲートを開こうと黒咲の手を振り払った時、融合次元の急襲を知らせる警報が鳴り響いた。血相変えた研究者たちが別次元の転移を急ぐよう叫んでいる。なんでどいつもこいつもおれの邪魔ばっかするんだよ、と城前は泣き叫ぶ。若き研究者がゲートの行先をスタンダード次元に切り替えるのは同時だった。ユートと黒咲をゲートに送り出す。城前を突き飛ばしたのは、誰だったのだろうか。   

 

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