「なあ、開闢」
『なんだよ、克己』
カオス・ソルジャーがテーマ化したころから、デッキを組めと煩かっただけに、彼は上機嫌である。鼻歌すら聞こえてきそうだ。精霊一体の影響でデッキのまわり方がかわるほど、デュエルモンスターズは楽ではない。
でも、ソリッド・ビジョンの皮を被った自称精霊の彼がご満悦なおかげで、ぎゃあぎゃあ喚かれないだけデュエルに集中できるのだ。城前にとってはメリットしかない。おまけにソリッド・ビジョンの演出で気合をいれてくれるのだから、彼のご機嫌をとるのは理にかなっている。
現在、城前が取り組んでいるこのデッキは、儀式軸のカオスデッキである。実際はカオスとは名ばかりのカオス・ソルジャーデッキである。カオスを突っ込んだだけだ。一応、前口上としてお馴染みの台詞と使用カードであるフィールド魔法が奇跡的な合致を見せてた。そのおかげでスタンディングデュエルでしか使えないが、評判はなかなかである。なけなしのカオス要素を強化すべく原子の種を入れてみたり、カオスドラゴンよりにしてみたり。カオス・ソーサラーをどうしようか頭を抱えているが、彼はそれすら嬉しいようで、デッキ調整に苦戦している城前の横でにやにやしている。試行錯誤中で一番しっくりきたデッキがまだまだ遠い城前は、しばらくこのデッキを回す気でいた。
「ホント、このデッキだと生き生きしてんのな、お前。なんでそんな嬉しそうなんだよ?不思議で仕方ねえんだけど?」
「よく言うぜ。あの台詞言えるからってノリノリなのはどっちだ」
「それをいっちゃーおしまいだろ!このデッキは、そのためにあるようなもんだろーが!」
「ちがいねえ」
「って違う違う、おれのことはどーでもいいの。おれはお前に聞いてんだよ、開闢」
「そりゃお前、記憶ねえんだから、由来に関わるモンスターに興味あるのは当然だろ」
「え、なんで知ってんの?やっぱ、いろんな人を渡り歩いてきたからか?」
「お前が言ったんだろうが」
「え、そうだっけ」
「忘れてんじゃねーよ、クソガキ。だいたい、お前より前の持ち主は、みんな大きなオトモダチってやつだ。んなこと、いちいちデュエルとか、デッキ調整で言わねえよ。ショーケースん中でもろくな話は聞かなかったしな。お前がバカの一つ覚えみたいに、どんなデッキにも俺を入れては使ってた時、よく言ってたの忘れたのか?」
「あ、あー、なんかそんな気がしてきた」
「気がするんじゃなくて、してたんだよ。自慢しまくってたじゃねーか。あんとき、お前しか俺持ってなかったしな。何度も漫画読んで練習してたの忘れたのかよ?今でも言える癖に?」
「あ、あ、あー!思い出した!たしかにそーだよ、なんか懐かしいと思ったら!」
「つまりはそういうこった。克己てめえ、あっちでは結局一度も組まなかったじゃねーか。環境デッキばっか組みやがって。おかげで俺はお前とダチが回し読みしてた漫画越しにしか、由来のモンスターを知らないんだよ。こっちでソリッド・ビジョンあるってんなら、お目にかかりたいのが心情だろ、察しろ」
「なるほど!で、どうだった?ご対面した感想は?」
「んなもん決まってるだろ、俺のがイケメンだ」
「あっはっは、なんだそれ!」
「うるせえ、黙ってろ。笑うな」
「いだだだだだっ、つねるな、つねるな、イタイイタイイタイ!!」
ひりひりする頬を抑えながら、城前は涙目で赤く熱帯びたところをさする。ほんの冗談である。なにもそんなに引っ張らなくても。ごめんなさいと言うまで力任せにひっぱられたせいで、まだ感覚が戻らない。自業自得だ、クソガキが、と彼は鼻で笑った。
「記憶喪失なのは悪かったと思ってるよ、あんときのが原因だろ?」
「ああ、たぶんな。あれで全部吹っ飛んだ」
「マジでゴメン。めっちゃ読み取り遅かったもんなあ。やっぱ俺の世界だと様式が違うとか?いやでも、テキストは普通に読み取ってたもんなあ?」
「問題があるとしたら、加工の仕様じゃねーか?俺の加工はあっちだって今じゃやってねえだろ。もし、あの加工の仕方をこっちでやったことねえなら、コピーカードと勘違いされても仕方ねえ」
「あー、そっか。そっちか、イラスト!ウルレア仕様がまさかの裏目に!いやー、ワンキル館に拾ってもらって、マジでよかったな。ソリッド・ビジョンのカードプールに紛れ込ませてもらえて、ホントよかった。これで謎のエラーはなくなったわけだしな」
「ほんとにな。ありゃもうたくさんだ。二度とごめんだぜ」
「あ、やっぱ、実体化する方も負担かかってんだ?……おれのカード使うときは館長にカード登録してもらお」
「おう、そうしとけ、そうしとけ。危うく死にかけたからなあ」
「マジでっ!?初耳なんだけど、開闢!」
「そりゃ言ってねえからな」
彼は今思い出したように、あっけらかんと言い放つ。ぎょっとした城前はかんべんしてくれよと呟いた。盛大にため息をつく。もちろん安堵でだ。OCG次元から迷い込んできたことを証明する同士がへったら、心理的なダメージが計り知れないものとなる。詳しく教えてくれとお願いされて、彼はもう過ぎたことなのに大げさだなと肩をすくめた。
彼にとっての世界の始まりは、デュエルディスクがカードのテキストとイラストを読み込み、ソリッド・ビジョンに構築されていく時に見た情報の濁流だ。無から有になった瞬間はわからないが、気付いたらそこにいた。削除されそうになった。セキュリティシステムには不具合と判断された。膨大な情報のほとんどすべて真っ赤なエラーに塗り潰され、不完全なままでは抹消される。唯一正常に働いたのが初心者として登録したIDカードから読み取れる情報だけ。デュエルディスクとソリッド・ビジョンにはうまく取り込めなかった情報が集積する中で、死んでたまるかと必死であがいた結果今に至る。本来、精霊にあるべき記憶がなくなったとしたら、その時が原因だろう、と彼はふんでいる。城前克己という決闘者のIDカードの情報端末だけ、自己防衛のプログラムが導入されていなかった。入り込む余地があった。そして、セキュリティシステムに感知されるほどの膨大なデータ量。突然発生したソリッド・ビジョンのAIでは成立しないはずの12年にも及ぶ五感の記憶の蓄積。すべてを最適化される形で再構築された。城前が混沌使いのデビュー戦であるあの日、あの瞬間、フィールドに特殊召喚された瞬間に誕生したのだ。記憶との齟齬は彼のアイデンティティの不安定さに直結する、だから彼は想い出話をよくしたがる。城前も思い出話は大好きだから、お互いやりたいことは一致しているのだ。
「セキュリティシステムは、Aiと精霊の区別がつかねえのかよ……!」
「今でもついてねえと思うぜ。つーか、初見で俺をAIと間違えてたその口が言うか」
「それについては触れないでくれよ、開闢!まさか精霊が見えるほど純粋な心がおれに残ってるとは思わなかったんだよ!」
「自分で言ってて悲しくねえか?」
「大人になるって悲しいことなの」
「いってろ」
「痛い痛い痛い、ひっぱらないでくれよ!今度は反対側とか、××兄ちゃんみてーなことしやがって!」
「よくわかったな」
「やっぱり××兄ちゃんの真似かよ、開闢!んなことまで覚えてんのかよ、精霊って記憶力よすぎだろ」
「お前が鳥頭なだけだろ、クソガキ」
「ちげーよ!おれは鳥頭じゃない!道理で偉そうなのに逆らえないと思ったら、××兄ちゃんの真似してやがったのか!デュエル教えてくれた従兄弟の真似とかえげつねーことしやがる!」
「まだ生まれて1年しかたってねえんだよ、誰かの真似しねえと振る舞いわかんねえだろーが。これが不満なら、あんときのガキ共の誰かの真似でもしてやろうか、克己?ちなみにおれが出来るのは、コレクションに入れられる前、克己の周りにいた奴くらいしかいねーぜ?最近のヤツラが分かるほど、俺使ってなかっただろ?」
「その格好で小学生のノリはきっついからやめろください。せめて、せめて開闢の騎士か宵闇の騎士で……!」
「残念ながら、おれはカオス・ソルジャー開闢の使者なんでな。リリースして、第二、第三の俺を生み出すやつらと一緒にすんじゃねえ」
「わかってますとも!カオス・ソルジャーで一番つえーのは間違いなくお前だから。エラッタしてねーのはやっぱでかいわ。そのうち準制限になりそうだけどな」
「そん時は楽しみにしてるぜ、克己」
「2枚になったらいくらでも専用構築考えるよ!サーチ手段死んでるけど!なあ、もう1枚投入しても、やっぱそっちのAIはお前にはできないんだろ?」
「そりゃそうだろ、こっちの世界の俺じゃねーか。そもそも、こっちに精霊っつーもんがいるのかどうかさえ、よくわかんねえだろーよ」
「ですよねー。でもさ、ファントムに関してはAIにしちゃ自律すぎてるとこあるから、案外精霊がソリッド・ビジョンのふりしてたりしてな」
「確かに、そいつは気になる所だな。そういや、アイツにソリッド・ビジョンを作ってもらう約束してんだろ?できたら見せろよ、反応見て確かめようぜ」
「それいいな!精霊か高度すぎるAiか、開闢に見てもらえば一発でわかるよな!なんなら、お前のデータをコピーして、開闢のソリッド・ビジョンに上書きしたら人格増えたりしねえか試してもらうとか?」
「あっはっは、俺が二人か!面白そうだな、やろうぜ」
「魂は1つっていうから無理だとは思うんだけどさー、やっぱ気になるじゃん?」
「お前のそう言うとこ、ホント喧嘩売ってるよな」
「今さらすぎるぜ、開闢。それがおれだろ?」
「まったくだ」
「それは今度遊矢に会ったら伝えるとして、デッキ調整しようぜ」
「よっしゃ、次は何試す?」
「うわーい、開闢がノリノリだ。寝かせない気だよ、こいつ」
「夜更かしばっかしてる癖に俺のせいにすんじゃねーよ、クソガキ」
「そうともいう」
城前は、今日のデュエルは単純な殴り合いだったと回想する。デッキケースとカードフォルダを広げながら、あーでもない、こーでもない、という相談がはじまった。
儀式軸の混沌デッキはまだまだ調整中なのである。聖騎士のカオス・ソルジャーをいれるなら、また大幅に構築が変わるし、いっそのことレベル8でまとめてしまうという手もある。ガーゼットやターレットウォーリアーなんて選択肢もある。どうしても1ターン凌いで超戦士たちでごり押していくことになるので、和睦の使者や威嚇の咆哮、一時休戦などに頼らざるをえない。もっとトレードインとか名推理とかで墓地を肥やすべきか、召喚制限との戦いである。気付いたらカオスドラゴンよりの構築になり、カオス・ソルジャーたちが抜けそうになってしまい、開闢に怒られる。儀式軸と意識しないとどんどんデッキは混沌としてくる。そんなにカオスドラゴンにしたけりゃ、儀式ドラゴン軸でも組めよと余計なことを言ったばかりに、城前は脱線し始めた。ファントムに儀式軸のオッドアイズぶつけたらどんな顔するかな。セイバーとオッP積んだカオドラ見せたら驚くかな。くだらない話が大半だ。あんまり羽目を外しすぎるとオーナーや館長に却下される。目に見える反対をなんとかかわして、ワンキル館の広告塔として違和感ない構築にするにはどうしたら。
「おいこら、超戦士軸の混沌デッキ組むんだろうが。カオスドラゴンは置いとけ」
肩に余計な負荷がかかる。痛い痛いと悲鳴をあげながら、城前はドラゴンに浸食され始めていたデッキを元に戻す。そして試行錯誤は続いたのだった。
「はよーっす」
がらがらがら、と乱暴に扉が開かれる。力任せに扉を開いたせいで、勢いの余り半分以上跳ね返るが、声の主はその間に体を滑り込ませることで直撃を免れた。ホームルームのチャイムがなる5分前である。クラスメイトの視線を自然と集めることになった青年は、人好きのする笑みを浮かべてざっと教室を見渡した。はよ、とか、よう、という声が聞こえてくる。軽く会釈しながら、塊になっているクラスメイト達の間を通り過ぎる。席順のくじ引きで不幸にも教卓の真ん前と言うとっても勉強できそうな最悪の席を引き当ててしまってからというもの、城前は遅刻できないでいた。ああよかった、今日もなんとか間にあった。適当に椅子をひき、カバンをどかりと乗せる。教材は全てロッカーと引き出しにつっこんである城前である。基本的にカバンの中にはいらないものしか入ってない。その中で数少ない必要物であるペンケースと電子辞書を取り出し、後ろのロッカーにカバンごと突っ込んだ。上着は廊下にあるロッカーに丸めて入れておく。ついでに英語の教材とプリントを発掘して、自分の席に戻った。ここでようやく辺りを気にすることができるようになる。
ざっと辺りを見渡す。いつもならこっちに寄ってくるはずの、いつもつるんでいる友達が一人も居ない。ここでやっと城前は友達がみんな休んでいることに気が付いた。
「あれ、今日なんかあったっけ?」
運動部ばかりのメンツである。大会になれば、レギュラーだろうがベンチだろうがそれ以外だろうが、みんな行ってしまう。数日かかる所が会場となれば、その一週間はとても退屈な日々となる。壮行会をした覚えはないから、でっかい大会があった覚えはないのだが。それに何かあれば聞いてもいないのに話を持ちかけてくるほど、無駄に騒がしい奴らばかりだから、いつもより教室は大人しめな気がする。疑問符を飛ばす城前の独り言を拾い上げたのは、隣の委員長だった。
「そうですよ、城前君。今日はサッカーと陸上が大会ですね」
「あー、道理で人が少ない訳だ。あれ、でもなんか少なすぎねえ?」
「そうですね、今日は欠席者が多いようです」
「あ、やっぱそうなんだ?じゃあなんだろ、インフルエンザとか?流行ってんだろ?ニュースでやってたし」
「そうかもしれませんね。前からちらほら休んでる人はいましたが、ここで一気に増えました」
「ちらほら休んでるなあ、とは思ってたけど。やっぱそうか」
「ええ、そうです。気を付けないといけませんね。もしかして、先生が遅いのもそのせいでしょうか」
委員長の視線の先には、ホームルームの5分を消費したことを告げる時計の針がある。職員会議がある日でもないのに珍しいこともあるものだ。ざわざわし始めている教室をもう一度見渡す。委員長の言うとおり、城前の友人たちの他にも、いろんな部活、サークル、城前みたいにバイトをしている子、さまざまなメンツの席が空いている。いつもいるクラスメイトの4分の1も減ったら、結構空席が多いなあと言う印象が強い。
「あーそうかもな。気をつけねーと」
1度目の高校生活ではお目にかかったことのない学級閉鎖の言葉が過る。あと何人休んだら休みになるんだろ、とググろうとしたら、扉が開かれた。いつもの担任ではなく副担任の先生だった。委員長の号令がかかる。あわてて城前は立ち上がった。起立礼着席が流れるように行われ、城前が時期外れの転校生をした年にやってきた2年目の副担任は教卓の前に立つ。
「おはようございます」
小中学生とは違う、なんとなくやる気がない、形式的な挨拶が返される。
「今日は担任の××先生が体調不良のためお休みです。なので、私が代わりにホームルームを行ないますね」
騒がしいメンツが休んでいるせいで、教室のざわめきはそれほど大きくはならない。
「今年に入ってから、寒暖の差が大きくなってきているせいか、お休みする人が多いです。みなさんもインフルエンザには気を付けてくださいね。それではまず……」
インフルエンザではなく流行っているのは事実のようだ。まさか担任の先生まで欠席とは。たしかに朝と昼と夜の温度差はおかしいにも程がある。毎年申年は決まって暖冬みたいな頓珍漢な日がはじまるなあ、と思い出す。ホームルームは終わり、英語の時間が始まる。2、3、4限目まで終わり、空腹と眠気に戦いながら授業を受けていた城前は、チャイムが鳴ったことでなんとか勝利をもぎ取ることができたのである。
「やっぱすくないときっついな」
「インフルなら今週、アイツらずっと休みだろ?どうする、城前。暇じゃね?」
「だよなあ、どうするよ?」
城前の後ろの席を借りている友人は肩をすくめる。たしかにトーナメント方式だったり、タッグデュエルモドキだったり、数が多ければいくらでも出来るがたった二人ではやることは限られてくる。お昼ご飯もそこそこにデュエルをしていたはいいが、さすがに同じ相手とずっと連戦というのもマンネリだ。お互いにデッキの内容はわかっている身内戦である。メタ読み上等なのも1週間となれば飽きはすぐに来てしまう。
「たまにはこれやるか?」
友人が取り出したのはiphoneだった。表示されているのは、デュエルモンスターズのオンラインゲームである。
「あ、やってんだ?」
「ってことは城前やってねーの?意外」
「話には聞いてたんだけどな」
「まあワンキル館なら、これよりすげーのいっぱいあるもんな。それともやったらダメとか?」
「まあ一応連絡くらいは入れといた方がいーかも?ちょっと待ってくれよ」
「りょーかい」
城前は館長に電話を掛ける。一応、許可を仰ぐ。お昼時に電話をかけてくるなと怒られた。どうやらお弁当中だったようだ。向こうからはお昼のニュース番組の声が聞こえてくる。デッキを予め申請すること、IDカードはワンキル館で作ったものを使用することが条件だが、OKがもらえた。めんどくさいのでデッキのデータをそのまま館長にメールで添付する。快諾だった。よっしゃ、とガッツポーズした城前に友人はほっとしたように笑う。隣でiphoneを覗き込まれるよりは、お互いにやった方が面白いに決まっている。
「なあなあ、どれやってんの?無料のやつ?」
「そんなの無料に決まってるだろー。無理だよ、俺には。今月ギリギリなのにさ」
「ですよねー。じゃあ、どんなのか見せてくれよ」
「あ、ちょっと待って。たしか、ゲストにすればデュエルが見れたと思うぜ」
メールが送られてくる。アクセスすると、無料サーバの最大大手のユーザーページが表示された。ようこそゲスト様という言葉が表示されている。その先には友人の苗字をもじったハンドルネームだけが表示されており、デッキを確認することができる。へー、進んでんなあ、と城前は思った。
1度目の高校生活の時には、メールや掲示板、チャットを利用したものがオンラインゲームとして親しまれていた。そのうち、無料のサーバをつかった非公式のオンラインゲームができて、一気に普及した。公式もあとから運営を開始したことを覚えている。どうやらこちらの世界では、レオコーポレーションがその無料サーバごと売却され、有料化したようだ。無料利用したい有志が集まって、いくつかオンラインゲームを運営しているようだから、二極化が進んでいる。
無料のオンラインゲームにも有料と無料があるようで、友人は無料オンリーでやっているようだ。見る限りではそれなりに遊べるらしい。会員制だが、ゲストとして迎え入れれば非会員でも閲覧が可能のようだ。
「やりたかったらアカウントがいるよ」
「IDいれるのか?」
「いんや、これ、非公式だからIDカードは入れなくていいんだ。公式のやつならいるらしいけど、俺、やったことないんだよね。ちょっと見ててくれよ」
「おう、よろしく」
友人はかるく説明を始める。基本的にはログインしてデュエルを待つ人に申請したり、申し込みが来るのを待つ。合意するとデュエルが開始される。自動的にマッチングをすることもある。レーディングやランクはこのゲーム独自のものが反映されており、このゲーム自体の審査は非常にゆるい。あとでデュエルを見直すことができる、と過去の動画を見せてくれた。時場所を選ばず安全に実力に応じた相手が見つかるのが魅力的だが、非公式ゆえに問題も多い。これは匿名のオンラインゲームの宿命だが。荒らしや切断はもちろん、成りすましやコンピュータにやらせているものもあったらしい。アカウントが剥奪されても、またべつの名義でログインされてはイタチごっこになる。良心に任されているところが大きいらしい。
「まあ、怖がってたらオンラインゲームなんてできねーけどな」
「たしかに」
「公式ならもうちょっと居心地いいんだろうけど、有料だろ?高いって、あの値段は」
「おれ達にはちょっと厳しいよなあ」
「うんうん、だから俺はこれしかやったことねーわ」
「なるほど」
「あ、申請きた」
「なあ、横の星マークなんだ、これ?」
「ID交換できるんだ。こいつ、結構つえーんだぜ?見てろよ」
「わかった」
ソーシャルメディアとも連携しているようで、アイコンやアバターは友人が愛用している漫画キャラ風に自分をメイキングしたものが表示されている。相手はデフォルトのままだが、表示されるレーディングやランクは結構高い。友人より上だ。
相手はドラグニティである。先行は友人だった。
「おー、つえーな、相手」
「だろー?」
何故だか友人は得意げだ。ドラグニティ相手に先行からライオウをぶったてるのもどうかと思うが、渓谷が使えると分かっている時点で相手は慣れているのが窺える。ライオウはテラフォが使えなくなるほか、シンクロエクシーズを使うことができなくなる。手札次第では即サレンダーの完封負けを喫することもあるが、どうやら相手はデッキに手を置く気はないらしい。
渓谷の第二の効果が発動し、レダメがデッキから墓地に落ちる。そしてリビデで蘇生され、戦闘破壊によってライオウが突破された。スタダがシンクロ召喚され、伏せがおかれる。友人は巻き返そうとするが、チェーンして撃たれた警告により、それはかなわなかった。あとはドラグニティお得意の高速シンクロによりトライデント・ドラギオンがシンクロ召喚され、破壊効果使用後に連続攻撃が確定した。友人はマクロコスモスを伏せていたのだが、スタダに邪魔されてしまった。
「おー、すげー」
「城前もやるか?」
「やるやる!カードに制限ってあるのか?」
「あー、うん。無料だとデッキとカードの数に制限かかってるよ。まあ、暇つぶしなら無課金でもいけると思うぜ?」
「まあ、おれの使ってるテーマ、結構古いし大丈夫だろ。心配なのはエクストラ」
「だよなー」
「よし、やろう」
適当にフリメを取得し、城前はアカウントを作成する。アカウント名のところで、カオスを連想させる言葉を打ち込んでみたが、すでに使われているの文字が赤く表示されてしまう。まあ、連想しやすい言葉ではある。城前は適当に数字を打ち込んだ。ようやく承認されたアカウント。友人に従ってデッキを作り上げる。ソーシャルメディアと連携しているそうなので、友人たちとやり取りに使っているアカウントを引っ張り出す。いざつなげようと手続していたら、すでにアカウントが使われていると弾かれてしまった。思わず固まる城前である。一応、ワンキル館の広告塔としてちょっと目立つ一般人なつもりではいたが、すでに成りすましがいるとは。友人は検索をかけてくれる。城前を連想させるアカウントが既に存在していた。
「おーっと、まさかの成りすましだとう。まさかいるとは」
「どーする?一応、証拠は取っといたけど」
「あーうん、館長に連絡してみるわ」
城前は連絡をいれたが、もちろんワンキル館が公式の有料オンラインゲームならともかく無料の数多あるゲームにわざわざアカウントをとる訳がない。成りすまし確定である。現在進行形で使用者を割り出し中だからちょっと待ちなと言われ、待機していると呆れたような声色が聞こえた。
「城前、アンタのノートパソコンから作成されたことになってるよ。忘れたんじゃないかい?」
「はああっ!?いや、いやいやいや、違うって!おれ、こういうゲームした事ねえもん!ハッキングでもされたんじゃ?」
「いんや、そんな痕跡は見つからないね、いまんとこ。正真正銘、アンタがアカウントを取得してるよ。メールアドレスはアンタのパソコンだし、パソコンから確認のメールが送られた記録がある。寝ぼけてたんじゃないかい?」
「えー……でもまじで記憶ないんすけど」
「うーん、そうかい。そう言うことなら、通報しとくよ。アカウント消すよう言っとくから、明日まで待ちな」
「りょうかーい」
なにこれホラー?城前が首をかしげていると、友人はその成りすましアカウントを見せてくれた。ご丁寧にソーシャルアカウントやワンキル館のホームページにリンクが繋がっている。城前だと思っている人もそこそこいるようで、繋がりを示す数字は結構大きなものとなっていた。
「デッキはカオスドラゴンみたいだな」
「こないだの大会のデッキじゃん。まあ、動画化してるしなあ。デッキも公開してるし、やろうと思えば誰でもできるか」
「最近、フレンド申請多くなったとかなかった?」
「いんや、ぜんぜん。これはプライベート用だから、そもそも知りあいじゃねーと承認しねーしな。そーいうのはワンキル館の公式アカウントにお任せしてたから、おれからどーこーしたことはねえよ。だから気付かなかったのかな」
「そうかもな」
「まー連携が明日になるだけだし、とりあえずデュエルしようぜ」
「そうだな」
こうして始まったデュエルである。デュエルモニタは面と向かってしてるわけだからいらないだろうと展開しない。目の前にいるのにiphoneをぽちぽちするのは違和感だったが、相手の反応がリアルタイムで現実で確認できるから、それはそれで面白かった。問題は時間泥棒と言う点だろうか。たった1度しかできなかった。やべーおもしれえ、とつぶやいた城前に、だろだろ、と友人はうれしそうに笑った。バッテリーの消費にさえ目をつぶればそうとう暇つぶしになりそうだ。明日、デュエルのマッチングのやり方を教わる約束をして、今日は一日デュエルの操作方法になれる事に費やされたのだった。
「っつー、わけなんだけど……うっわ、まじであるよ、メール」
今日のワンキル館は休館日である。よって、まっすぐ寮に帰ってきた城前は、真っ先にノートパソコンを起動させた。そんな怪しいメールあったかな、とカチカチしてみる。見当たらないが、まさかと思って迷惑メールをのぞいてみる。案の定、設定した覚えのないアカウントが取得されていた。確認してみたが、あのカオスドラゴンデッキを組んだその日の夜である。城前はすでに就寝していた時間帯だ。夢遊病だってもっとまともな夢遊病するだろう、アカウントをわざわざこのパソコンからするなんて手が込みすぎている。まさかと思って大家さんのところに持って行ったが、呼んでもらった業者の確認するかぎりではハッキングの形跡がない。ごく普通のパソコンとのこと。怪しいプログラムもウィルスも確認されず、城前は途方に暮れた。
「っつー訳なんだけどさ、どうしたらいいと思う?開闢。用心棒でもしてもらっていいか?」
大真面目に相談している城前に、開闢は大笑いである。ひとしきり笑い転げたあと、人が心配してんのになんて奴だ、とじと目の城前に、わりいと謝る。にやにや笑っている。全然反省していない。なにやらツボに入ったようで、何度も笑い始める開闢に、いよいよ城前は眉をひそめた。
「安心しろよ、克己。そいつはハッキングじゃねーよ、不法侵入でもねーさ」
「ってことは犯人知ってんだな、開闢」
「ああ、知ってるぜ。お前もよく知ってる」
「まさかあいつらか?」
「ぶっぶー、ちげえよ。ハッキングされた様子がないって言っただろ、不法侵入でもねーよ」
「え、じゃあ、開闢か?」
「なんでそうなるんだよ。だいたい俺なら超戦士軸組むっての。なんでカオスドラゴンなんてカオス要素しかねえデッキ登録するんだよ」
「あ、そっか。……ってことは、まさか帝龍とかいうんじゃねーだろうな?」
「そのまさかだ。やりゃできるじゃねーか、クソガキ」
「はあっ!?なんでだよ、なんで帝龍が!?あいつ、こっちの世界のカードだろ!?」
「違う違う、エラッタ野郎じゃねえ。あっちのだ」
「あっちって、旧テキストの方か?おれのカード?」
「そうそう」
城前はあわてて立ちあがる。ワンキル館のノーリミット大会用に組んだデッキをホルダから取り出す。デュエルディスクに混沌帝龍をセットする。ソリッド・ビジョンによって空間に応じて最適化された帝龍が現れた。
「なあ、開闢がお前がやったって言ってんだけど、違うよな?」
見上げてくる城前に、申し訳なさそうに帝龍は頭を垂れる。その頭に手を当て、覗き込む城前に、帝龍は目を閉じた。
『言い訳はせぬ』
「えっ、マジでおまえがやったの?」
『お前が悪いのだ、小童。なぜあの男ばかり優遇する』
「いやだって、おまえ、エラッタしたじゃん。エラッタ前だと使えないんだよ!」
『ならば我に相応しき舞台を用意することなど容易かろう。このような箱庭を使えばいくらでもできるではないか』
「え?あ、そうなの?まじで?ノーリミットもできるんだ?いやでも、だからって勝手にされちゃ困るよ!」
『何を言う、我が進言しようとした時にはすでに仕舞い込んだではないか』
「まさか開闢以外のカードもしゃべるとは思わなかったんだよ!」
『試しもせぬか、ばかたれ』
「それはごめんだけどさー!」
「あっはっは、戻ってきたエラッタ野郎はなんかよわっちいけどな!やっぱお前にはおよばねーぜ、帝龍。デュエルで使えるのと、禁止で威厳保てるのとどっちがいいんだろうなあ?」
『黙れ、開闢。我は克己と話をしているのだ』
「へいへい、黙ってますよ」
『我が主はただひとり、その名を馳せし克己のみ。この唯一至高の古き盟約は何人たりとも破れはせぬ。誇り高き戦いこそが我が望み。何にせよ、我を無下に扱った報いは受けてもらうぞ』
「ようするに構ってくれって話だろ、相変わらず回りくどいな、てめーは」
『うるさい、黙れ。……時間が惜しい、即決にて話を付ける。克己、貴様には捧げものをしてもらう。貴様に出せるか?』
「……えーっと、ようするに、これの有料版をやれと?」
『まあいい、ひとつ、克己相手に語りでもしてやろう。この箱庭の素晴らしさを』
(めっちゃはまってる…!?)
こうして始まった帝龍の語りは1時間に及んだ。
『むう、つい語りが長引いた。ここで過ごした時の長さゆえか』
「放置プレイはごめんよ、帝龍。ちいっと厳しいけど、なんとかやってみる」
『……捧げものに免じ、特別の慈悲をくれてやろう。我を使うことを許してやる』
「お、おう、わかった。これから定期的に全盛期カオスデッキ使うことにするよ」
『初めからそうしていればいいのだ、ばかたれ』
嬉しそうに目を細める帝龍に、城前はほっと息を撫で下ろしたのである。
「まあ、俺は専用デッキ組んでもらったけどな!」
「おいこら、開闢!」
『ほう?それはどういうことか聞かせてもらおうか、克己よ』
「……お、おう」
全盛期カオスに征竜を積んだデッキを回す羽目になるとは、まだこの時の城前は思わなかったのである。