Fate/kalada's viel   作:ケルベロ朔太郎

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>All complete.

//あ、間違えた。


アイ キャン ノット ビー マイン

(へ?)

 

 

 

 

 

 

 

 ──それは、むせ返る様に暑い……夏の日のことでした。

 

 

 

 

 

 

「イリヤー? まだ寝てるのかー?

 ……ったく、しょうがないな。夏休みだからってそんなにグータラだと、セラにどやされるぞ~?」

 

 言いつつも、自らも眠いのだろう、大きなあくびを一つ宙に放り投げて、少年は部屋の前を去っていった。

 

 どうしてそれがわかったのだろう。

 扉挟むこちら側。扉の向こうの事なんてわかるはずもないのに。

 

 ベッドにいる私が、それを知り得るはずもないのに。

 

 

 簡単なことだった。

 ただ、私の目線がベッドよりも低い所にあって。

 ドアと床の隙間から、例え見たことのない靴下でも見間違うはずのない足先が見えていただけのこと。

 

 

 簡単なこと、だった。

 

(でも私が"こんなこと"になっているのは全然、全く、簡単なことじゃなぁぁーーい!)

 

 叫んだ。

 絶叫、である。

 

 ムンク氏の描いた叫びのモデルはこの私だったのだ、と言わんばかりに、頬を潰して力の限り。

 

 でも、それが響き渡る事はなかった。

 

(ま、また喋れなくなってるし……また?)

 

 はた、と顔を上げる。

 少しばかり重たい首に、遠心力で後ろによろけながら──実際にパタ、と倒れながら。

 

 ベッドですやすやと寝息を立てる、"ワタシ"を見た。

 

「んぅ……ふぁぁ……。……まだ七時ぃ……。もちょっと寝るぅ……」

 

(キェェェァァァァシャベッタァァァァァアアアア!?)

 

 ま、前は喋らなかったのに!

 喋っても喋らされているだけだったのに!!

 

(前?)

 

 ベッドの上の"ワタシ"は、むにゃむにゃと恥ずかしい事を呟きながら、枕に指を突き立ててグリグリしている。

 段々むかむかしてきた。

 段々というか、今が最高潮というか、シンコッチョーというか。

 

 怒髪天を衝く──私の怒りが有頂天!

 

(ぉぉぉおおきろぉぉおお!!)

 

 トテトテトテ、トタタタタダダダダッ! と助走選手権があれば世界一を取れそうな美しいフォームと加速度を以て、ベッドへ一直線。

 足を強く踏みしめて──蹴り飛ばす! 

 

 必然、体は上空へ押し出され、まさしくちょうど、今、涎を垂らして眠っている"ワタシ"のお腹に――。

 

『ふぁぁ……なんだか愉快な波動がすぐ近くに表れた気がしたんですけ』

 

(邪魔ぁ!)

 

『ドゥルホッフ!?』

 

 華麗に身を捻っての裏拳。そこはかとなく人を小馬鹿にしたような声の愉快型魔術礼装(あいぼう)をぶっ飛ばして、"ワタシ"の無防備なお腹に、拳を――。

 

「イリヤー? 朝ごはんなくなるぞー?」

 

 ぱたむ。

 

 ぼてっ、ぼてん。

 

「ん……おにいちゃぁん……」

 

「イリヤ……また寝ぼけてるのか? ほら、朝だぞ~?」

 

 寝ぼけているとわかってるならどうして近づくのかなぁ。

 こう、改めて傍から見ると、むぼーびが過ぎるというか……。

 

「ん? 人形……イリヤの部屋にこんな人形あったか?」

 

(ギクッ)

 

 ど、ど、どど、どどど。

 どうしよう、多分"ワタシ"のものを勝手に捨てる、なんてことは無いとは思うけど、ちょっとでも汚れとかあったら、洗濯機の中に……み、水洗いとかされて目とか取れないよね!?

 

「……どことなく、イリヤに似てるな、うん。

 友達からのプレゼントとかか? まぁ、なんにせよベッドの上に置くならもう少し落ちない場所に置くべき、って」

 

「ううにゅ、お兄ちゃん……」

 

「ちょ、ちょっとイリヤ!? 目を覚ませ、って最近力強くなったよなホントオァワァッ!?」

 

 "ワタシ"が腕を伸ばし、少年──というかお兄ちゃんの首に手をかけ、引っ張り込む。

 当然、お兄ちゃんに持たれていた私も一緒に。

 

 "ワタシ"とお兄ちゃんに挟まれて……挟まれて……。

 

「ちゅーしれ……」

 

「イ、イリヤ、ちょっと待てって!」

 

 挟まれて……はさ、まれて……。

 

「んー……」

 

「ま──」

 

(私の……私の上で、なにをしとるか──ッッ!!)

 

「きょぺぇ!?」

 

「ぼこふっ!?」

 

 渾身のアッパーカット。

 

 あと一秒遅かったら、"ワタシ"のクチビルがお兄ちゃんのクチビルに……!

 私の事だったら嬉しいけど! 嬉しいけど!

 

「いったぁ~い! 何、ヒトが良い夢を、折角お兄ちゃんと……」

 

「な、なんだぁ!?」

 

「……」

 

 フ……もう構うものか。

 どうせ私のこと。いつか必ずバレていた。それが早まっただけのこと。

 というか、"ワタシ"の協力がないとどうせ戻れないだろうし!

 

「……うん、夢だわ。こんなの。お兄ちゃんが私の部屋で倒れてて、その上に人形が馬乗りになってるなんて。

 最近疲れてたから、うん、そういう夢も見るよね」

 

(そろそろ起きないと話が進まないでしょぉお──ッッ!)

 

「コペラニコフッ!?」

 

 飛び蹴り。

 今度はちゃんとクリーンヒットした。

 踏み込みの瞬間にお兄ちゃんのお腹を強く蹴りつけてしまったような気がしないでもないけど、多分気のせい。

 腹筋、硬かったなぁ。うへへ。

 

「イリヤさん、士郎、なにを先ほどからドタバタと……」

 

 ぱたむ。

 ぼてっ。

 

「……あ、セラ。ちょうどよかった、ちょっとイリヤを」

 

「士郎……妹とはいえ、仮にも異性であるイリヤさんの部屋で、腹部を晒して寝転がっているとは……どういう了見でしょうか……?」

 

「い、いや、これは、その!」

 

「問答無用ですッ!」

 

「せめて弁解の余地くらい残してくれぇぇええ──ッ!」

 

 ……尊い犠牲。

 ごめんねお兄ちゃん。でもそれがお兄ちゃんのサダメ……。

 美遊のお兄ちゃんみたいな強さはお兄ちゃんには……あ、あれ。

 

 あ。

 

(そ、そうだ! 美遊!)

 

 そうだ──そう、そう!

 私は確か、エインズワースの本拠地に誘拐されて……いやいや遡りすぎだってば。そう、それで、ええと、アイツを撃破して、態勢を整えて、お姉さんも……トールも……ええと、それで、それで?

 

 そう、巨人が……違う、誰かが誰かの名前を――。

 

「まったく……うん?

 人形……の、ようですね。……イリヤさんは、もう。何度床に物を置くな、と言えばわかってくれるのか。まぁ、洗濯機を回す前でよかったです」

 

(ちょちょちょちょちょ──!)

 

「イリヤさん? 朝ご飯ですよ。夏休みだからって怠けていると、ぶにぶにになってしまいますよ?」

 

「うぅ……何か物凄いアッパーカウッをもらったような……」

 

「イリヤさん、起きましたか?」

 

「……ん。おはよー、セラ」

 

「おはようございます」

 

 ……"ワタシ"は、大きく伸びをする。

 やっぱり。

 

 やっぱり……心がある。

 操り人形なんかじゃない。

 わかる。

 

 これは、目の前にいるのは……"ワタシ"だ。

 

 "もう一人の私"じゃなくて"ワタシ"だ。

 

「あれ、セラ……何、その人形」

 

「え? イリヤさんのものではないのですか?」

 

「ううん、しらなーい。けど……なんだろ。どこか親近感がわくような、そうでないような……」

 

「何はともあれ、一度洗濯しておきますよ。朝ご飯、出来てますからね」

 

「はーい」

 

 あくびをする"ワタシ"。

 涙の出た目をこすり、セラに連れ行かれる私をぼんやりと眺める。

 

 ……グリン、と。

 力なく下がっていた首を"ワタシ"へ向けた。

 

ひぃっ!?

 

 セラにばれないように、顔を小刻みに揺らして"ワタシ"を見る。

 つたわれ……つたわれ……。

 

「せ、セラ! 待って!」

 

「はい?」

 

「そ、その人形確か丸洗いダメだった気がする!」

 

 ("ワタシ")の性格上、明らかに愉快型魔術礼装(例のアレ)が絡んでいそうな品を家族に押し付けるようなことはしない。それが呪われたっぽいモノだったら、なおさらに。

 自分だけで解決しようとする。それくらいはわかる。だって私ならそうするし。

 

「そうですか? まぁ、確かに目などが取れたら問題ですし……わかりました。手洗いで」

 

 見つめる。

 口元を引き攣らせる"ワタシ"。

 

 ねぇアレ完全に生きてるよね、という心の叫びが聞こえた気がする。私が当人なら絶対思ってる。

 

「じ、自分で洗うから! 大丈夫!」

 

「……ふむ?

 まぁ、そこまで言うのなら。それでは私は洗濯機を回してきますので、イリヤさんは早く朝ご飯を食べるように」

 

「は、はーい!」

 

 部屋の前に捨てられていたお兄ちゃんを引きずりながら、セラが離れていく。

 まだドアは開いたまま。

 

 だから、立ち上がってドアノブへジャンプし、ドアを閉めた。

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

 ゆら、ゆら……と、"ワタシ"の方へ歩く。

 完全に私を呪いの人形か何かだと思っているのだろう、"ワタシ"は涙目になりながらベッドの端の方へ後ずさっていく。

 

 そんな"ワタシ"に向か──、

 

「はえ?」

 

 わないで、机にダイブ。

 

 いつもの場所にしまってある鉛筆を取り出して、付箋を一枚剥がして……この手だと一枚は難しいので四枚くらいいっぺんに剥がして。

 

 カリカリカリ。

 

「な、何を書いているの……まさか呪いの言葉とか──!?」

 

 後ろで妄想が広がっているけど、いつものことなので気にしない。

 自分のことながらもう少し落ち着きは持てないものかとも思うけど、朝起きたら呪いの人形に呪われていた、なんて状況は私でも怖いので許してあげよう。

 

 持ちにくい鉛筆をなんとか操りながら、私はそれを書いた。

 書ききった。

 

 

 


 

 

 親切な魔法少女さんへ。

 強くて可愛くてとっても素敵な魔法少女さんへ。

 

 私は困っています。助けてください。

 

 


 

 

「……」

 

 私は"ワタシ"の性格を熟知している。

 これだけおだてて、褒めて、かつ頼れば──。

 

「な、なぁんだー! そういう事だったんだ、うんうん、そうよね。おかしいと思ってたのよ、魔法少女なのにマスコットがいないなんてそんなワケないもの! ルビーはあくまで変身アイテムだし? やっぱりいて然るべき……そ、そう思えば親近感も相まって可愛く見えてきたかも……」

 

 ……ほら。

 ……上手くいったのに、なんか悔しい。でも私も同じようなことが起きたら以下略。

 

「ええと……君、名前は?」

 

 で、出た!

 マスコットキャラに「君?」って聞くお約束のパターン!

 「あなた」パターンももちろんあるけどそれは割愛!

 

 っていうか名前!?

 え、ええと……ええと。

 

 そうだ!

 


 

 イシキス

 


 

 フィールが後に続くけど……ここだけ切り取るとマスコットっぽくなる……よね?

 可愛さはないけど!

 

「うーん、なんかあんまり可愛くない名前だね……」

 

(余計なお世話だよ!)

 

 自分で言ったことだけど!

 相手も自分だけど!

 


 

 私は異世界からやってきた。

 自分の身体を失ってしまったの。

 お願い。私の身体を取り戻す手伝いをしてほしい。

 


 

「お、おぉ……それっぽい……!

 んっ、コホンッ。わかった、この私が手伝ってあげるよ、イシキス!」

 

(ちょろい……)

 

 こうして。

 

 ある、むせ返る程暑い夏の日に。

 

 私、イリヤスフィールは――イリヤスフィールのマスコットになったのでした。

 

 

 ところで今日って、何日?

 




初めましての方は初めまして。
そうでない方はいらっしゃらないと思うので初めまして。

ケルベロ朔太郎と申します。
よろしくお願いいたします。

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