不死身の提督 作:豆乳組ソイラテ
「納得しかねる!!」
突然、長門型一番艦の艦娘・長門の怒声が大本営の通路に響きわたった。
大本営とは、海軍の機能・権限が一極に集まる、いわば、海軍の心臓部である。ここで各鎮守府から集められた情報、資材、武器を元に、作戦を立案、新型装備の開発、各鎮守府への任務通達や人事など様々なことを行っている。
大本営は、現在、昼飯時ということで、組織の運営に関わる軍人、職員や申請、手続き等で訪れていた各鎮守府に所属する関係者達が、一旦、各々、作業の手を止め、空腹を満たそうとしている。そのため食堂に向かう通路は大変、賑わっていた。
食事時というのは、大抵の人間が気を緩め、心落ち着かせる時間帯である。それゆえ、突然響きわたった怒声、しかも、その声を発した主は、数いる艦娘の中でも"最強"に近い艦娘であったため、周りの人間はすっかり震え上がってしまうのも無理はない。
気が弱く、臆病な心持ちをしている者などは、目端に涙すら浮かべている。
「もう一度、言わせてもらう!その決定に、私は納得しかねる!!」
再び、長門の怒声が響いた。
見れば、普段は武人然として、堂々としており、滅多なことでは感情的にならない彼女が、腰まである長い黒髪を振り乱し、珍しく感情的に声を荒らげていた。
その鍛え上げられた肉体からは、まるでオーラのようなものが揺らめいているかのように見え、真紅の眼は怒りに燃えていることから、恐らくただ事ではないのであろう。
彼女がそうまでして怒りを向けていたのは、長門に背を向け廊下を歩いていた還暦過ぎたばかりの男性であった。
男は、シミ一つない上等な白の軍服を着て、やや頭髪が薄く見える白髪頭に、これまた白い軍帽を被っていた。
彼は、長門の言葉を受け、足を止め振り返り、
「納得しないも何も、もうすでに決まったことだよ、長門くん」
と、冷ややかに告げた。
人間より遥かに強い力を持つ艦娘、その中でもとびきり強い長門に怒りを向けられているというのに、男はまるで意に介さない面持ちである。
それどころか軽く微笑みながら、
「私ももう一度、言わせてもらうよ。いくら君が納得しないと言っても、もう既に下された決定が覆ることはない。これは確定事項だ」
「だとしても、御堂元帥──!!」
男──御堂の言葉に、さらに食って掛かろうとする長門に御堂は、それに、と続ける。
「それに、これは正式に通知されるまで、軍の最重要機密事項だ。ここが大本営の建物内の廊下とはいえ、口にすることすら気を付けねばならぬのだよ。それだというのに現在、“栄光あるビッグセブン”の一人ともあろう者が、衆人環視の中、個人的な感情から機密を漏らそうとしている。口にすれば軍法会議無しに、極刑すらありえる事態だ。そこはご理解頂けてるかな?」
取りつく島もない御堂の言葉に、長門は口をつぐむしかなかった。
その様子を見た御堂は、
「賢い選択だ。流石、“栄光あるビッグセブン”。では、失礼。昼食が私を待っている」
そう言うと、踵を返し再び、食堂に向けて歩いていった。
今まで、呆気に取られた周囲の人々も触らぬ神に祟りなしとばかりに、未だ怒りに震える長門を避け、各々の目的地へと動き出した。
(我々が護るべき国民を……我々の都合で戦いに巻き込むなど……!!)
残された長門は、行き場のない憤りを抑えながら、拳を握りしめ、心の中でそう呟いた。
主人公は次回、登場できれば御の字