デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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感想にてえらい勘違いというかにわかを晒しましたが私は元気です。

感想、お気に入り登録、評価ありがとうございます。
毎度のように誤字が多く大変申し訳なく感じてますがご指摘大変感謝しております。


『メシア教』

「やぁこんにちは」

 

 長野駅の前で京太郎に声をかけてきたのは白の衣を纏う男だった。

 男から感じられる不思議な気配に警戒しつつも京太郎は男の声に耳を傾けた。

 

「わるいね。この国には初めて来たんだけどみんな忙しそうにしていて声をかけづらくてさ」

「それは俺が暇人ってことですか?」

「いやいや、少なくともペットボトルのお茶を飲みながらベンチで座っている君は忙しそうに歩いている他の人達よりは暇だろ?」

「暇、じゃなくてゆっくりしてるんですよ。それでなにか?」

 

 少しだけむっとしつつ京太郎は言葉の先を求めた。

 男は懐から紙を取り出すと「えーと」と言い京太郎に問いかけた。

 

「龍門渕高校ってどう行けばいいかな?」

「龍門渕ですか?」

「うん。タクシーで行こうとしたんだけど運転手に運賃どれぐらいかかりますか? と聞いたら予想以上に高くてね。何かいい道はないかい?」

「……ちょっとまって貰っていいですか?」

「もちろん」

 

 京太郎は勉強カバンからノートを取り出すと電車からのルートとバスからのルートの二つを書いた。

 タクシー以外となると結局バスか電車に移動手段は限られる。

 

「電車からだと学校に近い駅までは簡単に行けます。駅からは歩かなければならないので、初めてだと迷うかもしれません。目印も書きましたが気をつけてください」

「おや、金持ちの学校と聞いていたから駅からバスが出ているかなと思ったけど」

「金持ちの学校だから最寄りの駅からはバスが出てないんですよ。電車やバスに乗らないで自家用車で送迎されてますよ」

 

 京太郎は眼の前にあるバス停を指さした。

 

「で、バスならあそこから出てます。乗ってから大体30分後に龍門渕高校ってアナウンスされるので停車時はボタンを押してください」

「いやはや助かるよ。しかし二つ書いたということはなにか理由があるのかな?」

「簡単です。次バスが来るのは30分後だからです。電車で行けば歩きも含めて30分で着きますけど、バスだと待ち時間含めて一時間かかるんですよね」

「なるほど! たしかにそれは面倒だな。いやしかしバスで行こうかな。時間もあることだしバスなら迷わないんだろ?」

「はい。まぁ少し遅れてくるかもしれませんけどね、バスは」

「ハハハ、時刻表よりも遅れてくるのは普通だよ。確実に時刻表を守ろうとするこの国が異常なのさ。さて、お礼をしなければな」

 

 男は懐から宝石を取り出すと京太郎に手渡した。

 受け取った京太郎は最初ただのガラス玉だと思った。けれどそれが宝石だと分かり目に見えて慌てた。

 

「宝石なんて貰えないですよ!」

「ふふ。気にすることはない。これは宝玉輪と言ってね、使えば自分だけでなく、味方の傷も癒やしてくれるというスグレモノなのさ」

「……え?」

 

 回復とは一体どういう意味なのか。一瞬でその可能性に至った京太郎は戦闘態勢に入った。

 だが男はそんな京太郎に愉快そうに笑った。

 

「なかなかいい反応だ。強さ自体はまだまだだが将来性はあるのだな。安心していい。最初は君から悪魔の匂いを感じて近づいたのは事実だが今はもう『君に』手を出す気はない」

 

 京太郎はその言葉を聞いてもしばらく戦闘態勢を解除しなかったが、両手を上げて何もしない男を見て警戒はしつつも構えは解いた。

 

「良い心がけだ。俺に役目がなければスカウトしているところなんだが……。いやはや不浄な地の民ではあるが希望を感じさせる少年と出会えるとは主に感謝せねばな……」

 

 眼の前で祈り始めた男に京太郎は恐怖心を抱き始めた。

 命の危険を感じたことはある。けれどその心情が分からない真なる意味での正体不明な存在に会ったのはこれが初めてだ。

 

「隣人を愛せとのお言葉を体現し、他者への親切心を持つ君の心には確かな光を感じるよ。いやはやこれは考えなければな……」

「あんたは……」

「ふふふ。俺の名はそうだな……『フリン』とでも呼んでくれ。本当は本名じゃないけどこの名前を伝えると国では微妙な顔をされるんだ。それじゃぁ深淵の中に光を持つ少年よまた会おう」

 

 楽しそうに、本当に楽しそうに笑いながら男は京太郎から離れていった。

 彼がコンビニへ行ったのはこれから30分後に来るバスの待ち時間に取る飲食物でも買いに行ったのだろう。男の姿が見えなくなってから京太郎はようやく体の力が抜けた。

 男の思考が全く理解できない。唯一何かを自分の中に見て喜んでいたのは確かだがそれすらも京太郎の理解を超えており彼の恐怖心を煽る。

 ただそれでも男の正体が宗教団体であるのは察せられた。

 

「メシア教団か、ガイア教団なのか……?」

 

 どちらにしろ世界的に有名だという宗教団体が龍門渕に接触すると聞き、京太郎はただ嫌な予感を覚えるのだった。

 

 *** ***

 

 さて、京太郎が長野駅に居たのは今日が異界には向かわない休息日だからである。

 連日異界へ向かっても疲れが溜まって危険だということで例外を除いて休息日を取ることにしている。

 

「あれ?」

 

 商店街を歩いていた京太郎は気になる人影を見た。

 

「ハギヨシさん?」

 

 礼服を身にまとい電柱の影に隠れているのは紛れもなく龍門渕のイケメン執事ことハギヨシである。

 彼の視線の先に居るのはウサギの耳に酷似した真っ赤なカチューシャがトレードマークの天江衣だ。

 京太郎の視線に気づいたハギヨシの口が声こそ発しないが言葉を形作った。

 

『よろしくおねがいします』

 

 その形を京太郎は理解出来なかったが、衣に見えないように頭を下げるハギヨシの思いはたしかに伝わった。

 

 京太郎はゲームセンターのクレーンゲームの前でぴょんぴょん飛び跳ねている衣に「こんにちは」と声をかけた。

 

「むっ? お前は京太郎だったな。どうしたんだ」

「今日はおやすみでして、ぶらついていたんです。衣さんこそどうしたんですか?」

「衣も似たようなものだ。ただ目的もなく一人で歩いていたらな、これを見かけたんだ」

「これって言うと……」

 

 衣の視線の先にあったのは勿論クレーンゲームだが、その中の景品を見ているのだろう。

 二匹のウサギとその間に小さなウサギが仲良さそうに寄り添っている、恐らくは親子設定の人形だった。

 

 京太郎は衣とウサギとハギヨシを数度見てから懐から小銭を取り出し筐体に入れた。

 一回二百円で五百円を入れれば三回行えるタイプの筐体で今回京太郎が入れたのは五百円玉である。そのためチャンスは三回だ。

 

「む?」

 

 京太郎もあまりクレーンゲームなんてやったことはないが、集中しボタンを操作する。

 

 一度目、少しだけ着地点がずれウサギには触れない。

 二度目、ウサギをうまく掴んだクレーンは出口まで向かう……。

 

「あ……あ……!」

 

 だがアームの力が弱かったのか出口まではいかず途中で落ちた。

 

「あう……」

 

 三度目、先ほどとは違い危うい感じで掴んだウサギをクレーンは運んでいくが不安定なためやはり途中で落ちたのだが。

 

「わ、わ、わ……」

 

 人形がちょうど出口に落ちるか落ちないかそんな奇跡的な状況に保たれ、右に左に揺れる。

 それと同じように揺れる衣の頭を見て京太郎は少し面白く感じた。

 

 そして。人形が出口に落ちたとき衣が歓声をあげた。

 

「落ちた―!」

 

 京太郎はウサギを取り出すとその触り心地の良さに少し驚いた。

 もふもふとしており、この材質で出来たパーカーならぜひともほしいと思ったが人形である

 

 もふもふのウサギを京太郎は衣に手渡した。

 

「良いのか?」

「クレーンゲームが突然したくなっただけで景品がほしいってわけじゃないので。貰ってくれたほうがこのウサギたちも喜ぶと思います」

「……そっか。えっと、だな。ありがとう」

 

 そのあとウサギの人形を大事そうに抱えた衣と共に商店街を二人で歩いていた。

 衣が県大会予選で戦った咲との麻雀がとても楽しかったという話を切っ掛けに、衣からの問いかけでサマナーになったときの話をし、何の準備もなしに異界を攻略したことを驚かれ、清澄にある咲と行った鯛焼き屋の話を聞いて羨ましそうにする衣の表情など、大会での不遜な態度や館で無愛想な感じとは全く違い衣の印象が京太郎の中で変わっていく。

 

 そして、話は京太郎が駅で出会った男の話に及んだ。

 衣は少し悩んだ後に結論を出した。

 

「そいつはメシア教の人間だな。確か叔父上たちが今日メシア教の人間と合う話をしていたぞ」

「やっぱそうなんですね」

「京太郎はメシア教団の人間を知っているか?」

「パラケルススから少しですね。名前を聞いているだけで詳しくは知らないんですが、メシア教ってどんな奴らなんです?」

 

 京太郎はあまり宗教団体には良いイメージがない。随分前に起こしたテロ事件もそうだが、ツボを売るとか悪い話はよく聞くのに良い話を聞かないからだ。

 

「玉石混交」

「はい?」

 

 衣の口から飛び出てきた言葉に京太郎は首を傾げた。

 

「ぎょくせきこんこうだ。まさにそんな奴らだ。良いやつと悪いやつが混じっているって意味だな」

 

 仕方のないやつだと言葉の意味を教える衣はどこか誇らしげだった。おねーさんぶれるのが嬉しいらしい。

 だが意味は分かってもなぜその言葉を言ったのか分からない京太郎は問いかける。

 

「でもそんなの普通では?」

「正直衣も直接会ったことはないが、聞いた話だとたしか……」

 

 衣は首をひねり「えーと」と口走っている。

 どうやら当時聞いた話を詳しく思い出そうとしているようだ。

 

「『ガイアは分かりやすい。弱肉強食の思想を元に動いている、だから弱者に対して興味を示そうともしていない。だがメシアは違う。神の御名において行動するのは同じだが人によって差が生じやすい』だったか」

「差が生じやすい……?」

「メシア教の信者たちは主に過激派と穏健派に分裂しています。穏健派は地域密着型で、ボランティアなどに勤しむ我々の眼から見ても善性な人間たちですが過激派は神を信じぬ者たちは浄化されるべきと考えており危険人物と見なされていますね」

 

 京太郎たちに向かって歩いてきたのはハギヨシだ。

 彼の姿を見た衣は「ハギヨシー」と言いながら彼に駆け寄っていく。

 

「もう時間か」

「えぇ、お迎えに上がりました。須賀くん、衣様と遊んでいただきありがとうございます」

「いえ、俺も楽しかったですから。それでもしよければなんですけどもう少しお話を伺ってもいいですか?」

「メシアについてですね。……衣様」

「いいぞ。衣も知りたいしな」

「……では。京太郎くん、衣様。こんな話を聞いたことはありませんか? 神話において人を最も殺しているのは悪魔ではなく神であると」

 

 神話において神が人に害を成す話で有名なのはバベルの塔であろう。

 天まで届くほどの塔を作ろうとする人の傲慢さに腹を立て共通言語を消した。そうして人は言葉という他者を理解することのできる道具を一つ消されたのである。

 原因はともかくこれだけでも神がどれだけ人に害を与えたかは計り知れないが、ハギヨシの言っている意味は違う。

 

「ノアの箱舟を聞いたことがありますか? 人の怠惰に嘆いた神が一部の人間を除き大洪水で洗い流し浄化したという話です」

「えっと少しは、かな」

「もう少し詳しくお話ししますと、ノアの方舟とは神と共に歩んだ正しき人ノアとノアの一族たちが作った船なのです。この船に乗ったノアと彼の一族を除いて地上に生きる生物は皆死亡する。これがノアの方舟という神話です」

「なんか酷い話だな、怠惰だから滅ぼすって。他に道はあったと思うんだけど」

「そうですね。私もそう思います。ですが『神と共に歩んだ正しき人ノア』これは誰にとって正しき人なのでしょう? 神と共に歩まなければ正しくないかと言われれば違いますよね」

「それは違うと衣は思うぞ。神を信じなくても良い人は絶対に居る」

 

 京太郎も同意するように頷いた。

 

「私もそう思いますが過激派は違います。お二人は神の所業を理不尽だと感じたでしょうが、彼らは当然だと判断します。価値観の違いという言葉では埋められない溝ですね」

「玉石混交って衣さんの知り合いが表現した理由が分かる気がする。俺たちからしてみれば神の御名において断罪するなんて言って人殺しをするやつは悪いやつだと思うよ」

 

 京太郎の中でフリンに対する警戒度が上がっていく。

 思考にふけりそうになった京太郎だがハッとするとハギヨシに少し頭を下げて礼を言った。

 

「ありがとうございました。ハギヨシさん」

「いえ」

「衣さん。今日はありがとうございました。楽しかったです」

「衣もだ! ウサギさんありがとう!」

 

 手に持ったウサギを見せてから衣はハギヨシと一緒に去っていった。

 彼らを見送った京太郎は一人歩きながらフリンについて考えていた。結局フリンが何の目的で龍門渕と接触したのかは不明だが何があってもいいように準備をしておこうと決めた。

 もしフリンが龍門渕に害を及ぼすなら透華から依頼が来るだろうし、もっと大きなことをやらかすなら龍門渕グループから依頼だって出るはずだ。そうしてから対処すればいいと結論付けた。

 

 その考えがとてつもなく甘いものであると京太郎が思い知るのはこれより少し先の未来の話だ。




メシアが嫌われてるのって表面は良い人ぶってるのにやってることが狂人だからだと思うんですよね。ガイアは狂人が狂人のまま動いてるんで、理解は出来なくてもやっぱりみたいな感じになる。

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