デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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気づいている方も居ると思いますけどサブタイトルは割と適当。
書いた後に重要そうなキーワード書いてはいますけど。


『選択』

 一に連れられて封鎖区域を突破した京太郎の眼に入り込んだのは異界と化した龍門渕の姿だった。

 龍門渕家の屋敷と龍門渕高校は仕切りこそあるが同一の土地に建てられている。

 つまり、龍門渕の異界化とは龍門渕の屋敷と学校が異界に囚われているということだ。

 

 これまで見たことない規模の異界に京太郎が驚き足を止めた。その間も一が引っ張って走ろうとしていた。

 だがそれが出来ないのは一と京太郎の身体能力にそれほど差があることの証明だった。

 

「須賀くん!」

 

 引っ張っても動かない京太郎に、焦りから怒鳴る一の声で我に返った京太郎はそのまま彼女に連れられ異界の中に入るのだった。

 

 異界に入った京太郎の眼に入ってきたのは上空に出来た巨大で強大なエネルギーである。

 京太郎が知る由もないがそれはメギドの火であり、万能属性『メギドラ』が敵対者を焼き尽くしているところだ。

 一瞬で我に返った京太郎だが、足が止まっていたのは彼だけではない。一がメギドラの威力に足をすくませていた。

 

 恐怖で顔が真っ青になっている一を京太郎は抱えて走り出した。

  

「どこへ行けばいいですか!」

「え、あ、あそこだよ! あそこの簡易小屋の中!」

 

 真っ青な顔が真っ赤になって、声が裏返る。それでも行先を指示して抵抗しないのは自分の足が動かなかったことを理解しているからだ。今の状況を踏まえれば恥ずかしさぐらい我慢できた。

 異能者としての身体能力をフルに活かして、全力で走り駆け抜けた京太郎は勢いよく小屋の扉を開いた。

 そこに居たのは龍門渕透華と見知らぬ男女二人である。

 

 抱えていた一を京太郎が降ろすと腕に着けたままのガントレットを操作し仲魔たちを召喚した。

 ハイピクシー、ジャックフロスト、トウビョウ、そしてアークエンジェルである。

 

「ふむ。彼が須賀京太郎くんかね」

「そうですわ『お父様』。現状ハギヨシが封殺されている以上、ヤタガラスとその他組織に頼らずに現状を打破することが出来る私が知る限り唯一の可能性ですわ」

「そうか。歳を取るとな、どうもいかん。冷静に周りを見ると誰も彼もが組織に縛られている。おかげで今回の件に対して頼れるものがハギヨシぐらいしか居ない」

 

 娘との会話を終えた男が京太郎のもとへと歩き手を差し出した。

 男の顔はなるほど透華の父親であると納得できるほどの美形だ。異なる点は派手好きで落ち着きのない透華とは対照的な冷静さだろう。歳を取らなければ得ることが出来ない威厳を醸し出していた。

 

「龍門渕(とおる)だ。よろしくな、須賀くん」

「須賀京太郎、サマナーをやってます。よろしくお願いします」

 

 京太郎は透の手を取り握手をした。金持ちとは思えないほどごつごつとした手をしていた。

 そしてもう一人、女性が京太郎の近くまで歩き頭を下げながら言った。

 

「龍門渕結華(ゆいか)です。よろしくね、須賀くん」

「はい。それで情報交換からですよね。このアークエンジェルがメシア教のフリンの仲魔であるアークエンジェルです。今回復させますね」

 

 京太郎がハイピクシーに回復の指示を出した。メディアの光がアークエンジェルを包みこむ。

 傷が癒えたアークエンジェルの頭を京太郎が軽くはたいた。

 

「む……? そうか、私は敗北したか」

 

 周りを確認したアークエンジェルはため息をつきながらも納得した。

 敗北することは織り込み済みだった。

 

「ありがとう、須賀くん。これで情報の裏取りができるな……透華」

「はいですわ。ではまず現状を説明いたしますわ。龍門渕冬獅郎がメシア教徒フリンの要請を受けこの国に反逆しました。フリンの目的は不浄なるこの国を洗い流し浄化すること……と言っていましたわ」

「……は? 国っすか」

 

 ぽかんと口を開けた京太郎に対して、透華は頭に手を当てて苦々しい表情を浮かべていた。

 

「えぇ、国ですわ。全くあのクソジジイ。よもやあそこまで狂っているなんて……」

 

 自身のキャラが崩れるほどの怒りが透華を支配していた。

 ちなみに京太郎は全く状況を読み取れないでいた。

 確かに大きな事件だがそれでも国という単語が出るとは思わず、スケールの大きさに実感が湧かないでいる。

 

「かつての神罰を再現するために衣ちゃんの力を利用するそうだ。そうなればこの国のみならず力を消耗した衣ちゃんも死ぬだろう」

 

 衣が死ぬという言葉に衝撃を受け、ようやく事態を受け入れ始めた京太郎が問いかける。

 

「衣さんは皆さんと親しい関係なんですよね? 両親が亡くなった衣さんを引き取るぐらいですし。なのに衣さんの命を使って何かをしようと思うものですか?」

 

 京太郎はフリンが冬獅郎に対し何かの術をかけたのではないかと疑っている。

 そうでないなら敬虔なメシア教徒なのかと考えたが、そうなら龍門渕自体がメシア教の一員になってもおかしくない。だが透華と電話でした会話を考えるとそれはないはずである。

 京太郎が自分の意見を述べると透は「そうだね……」と少し考え込んでから。

 

「まず父のことを語ろう。一言で言えば父は衣ちゃんを恐れている。恐れているから衣ちゃんを憎み殺そうと行動したんだ。今回の事件でフリンに協力したのはそれが原因だろう」

「恐怖ですか?」

「君は衣ちゃんの力をどこまで知っている?」

 

 京太郎が思い出すのは県大会での出来事だ。

 テレビ越しに見ていた京太郎に全てが分かるわけではないが把握しているのは『他家を一向聴地獄』とし『海底で和了』していたぐらいだ。もっと言うのであれば会場の停電騒ぎも彼女の仕業だろう。

 

「そうか。その時はまだ覚醒していないから感知できるのはそれぐらいか。まず一から詰めていこう。オカルト能力についてだ。これには三通りあるんだ」

「三通りですか?」

「生まれ持った体質それとも能力と言うべきかな。それと外的要因に、修行などによって得るか。これが麻雀で使われるオカルト能力の分類だ」

 

 生まれ持ってで真っ先に思いついたのは桃子だ。彼女のステルス能力は生まれ持った能力であり体質だ。

 外的要因と修行については京太郎には思い浮かばない。そもそもあまり麻雀には詳しくない。

 

「そういえば、オカルト能力って俺みたいな異能者に覚醒したとは違うんですよね?」

 

 オカルト能力者が全て異能者であれば咲たちを相手にあのような虐殺が起きるわけがない。と京太郎は考えている。

 透は頷くと説明を続ける。

 

「そうだ。オカルト能力とは異能者に覚醒こそしていないが異能者としての力がにじみ出ているとでも言えばいいかな。異能者ほどではないが能力者は比較的運も良いだろう?」

「俺に比べればよっぽどよかったですね!」

 

 その言葉には100%同意できた京太郎は力強く答えた。

 

「一部の人たちは制御して人の範疇に落としている人もいる。鹿児島の巫女や、確か岩手の子たちもそうだ。熊倉先生が自慢していたのを覚えているよ。他にもいるかもしれない」

「なるほど……」

「昨今どういうわけかオカルト能力を使用する女性が多くなってね。10年ぐらい前に一気に異能者まで覚醒した子が居て大変なことに……っとこの話はどうでもいいか」

 

 一瞬、透が遠い目をしたそれだけ大変な事件だったようだ。

 話が脱線しかけたことに気づいた透は本題へと戻った。

 

「この話が前提になるんだが話は衣ちゃんが生まれたときに遡るんだ」

「16年前ぐらいですか? 衣さんが生まれたのって大洪水があった年ですよね。俺は生まれてないから話しか知らないですけど」

 

 東海地方、特に長野を中心に起きた大洪水は今でも悪夢と言われる出来事だったと言われる。

 津波こそなかったが洪水により家屋が浸水し土砂災害に見舞われ、一部地域では今でも復興が進められているほどだ。

 

「そう。そしてその災害中に衣ちゃんは長野で生まれた。父は当時の出来事と衣ちゃんの力を関連付けたんだ」

「衣さんの力?」

「衣ちゃんの力の源流は『水』なんだ。『一向聴地獄』にしろ『海底で和了』にしろ全て同じと思っていい。水を支配する大蛇の力……それが天江家の異能なんだよ」

「大蛇……?」

「そして私たち龍門渕はその力を鎮める治水の力、スサノオの異能を受け継ぐ家系なんだ。だから龍門渕家と天江家は親戚ではあるけどそれ以上の関係と言ってもいい。時が経ち血も薄れその関係もなかったものになってるけどね」

「もしかして冬獅郎さんはこう考えているんですか? 『水災害を起こしたのは生まれたばかりの天江衣からはみ出た異能の力』だって」

「そうだ。父もあの災害の被害にあったんだ。異能者だったから即死もせずでも実力はなかったから土砂の中で少なくなる酸素を感じながら死の恐怖を感じ続けた」

 

 その話を聞いて京太郎もゾッとしていた。

 確かに異能者なら土砂災害に巻き込まれ一般の人が受けたら死んでしまうほどの力を受けても耐える可能性がある。

 そして、力ある異能者ならその土砂を全て吹き飛ばすことが出来るが、それが出来ない異能者ならば……。

 

「でも! だからと言って衣さんが死んで良い訳がない!」

「私たちもそう思っているよ。だが父は衣ちゃんの力を知ったあの時から狂ってしまったんだろう。それが今回の事件で父、冬獅郎がフリンに手を貸した要因だ」

「手を貸せば衣さんを殺せるから……」

 

 一人の少女を殺すために国に反逆をしたという男の執念、妄執は京太郎にはまったく理解できない話だ。

 そこまで考えて、そういえばと京太郎は問いかけた。

 

「衣さん今日までよく無事でしたね。そこまで考えてるなら常日頃から命を狙われそうですけど」

「そのためのハギヨシですわ。今もほら」

 

 時折聞こえる外からの爆音が音だけでなく振動として京太郎の体を刺激する。

 今まで感じたことがないほどの大きな力を京太郎は感じていた。

 

「龍門渕が保有する異能者の3分の2が父について離反しました。残りの3分の1及びハギヨシが人海戦術に対応していますわ。人海と言ってますが大体悪魔ですわね」

「単体戦力ではハギヨシに叶わないので、彼をここに釘付けにする作戦を取っています。あちらからすれば時が経てば計画が成就してしまいますから」

「ハギヨシさんすごいっすね……」

 

 龍門渕親子の言葉に京太郎は驚いた。

 どれぐらいの数を相手にしているか分からないが間違いなく今の京太郎では太刀打ちできない数の敵を相手にハギヨシは戦っている。

 

「数もそうですが、フリンも問題ですわ。ハギヨシよりは弱いみたいですが数が数ですもの。ハギヨシなら大丈夫だと思いますが隙が出来てしまえば……」

 

 凶刃がハギヨシの命を刈り取るのは容易に想像できた。

 納得した京太郎は

 

「でも洗い流すってことはもしかして衣さんの異能を利用するってことですか?」

「衣ちゃん本人が覚醒していなくても無理やり引き出す方法は幾らでもある。当然そんなことをすれば衣ちゃんに掛かる負担は計り知れないさ」

「そんなの……!」

「透華の説明に付随するならあの騎士はこう言っていた。かつての神罰を再現し洗い流すとね」

 

 神罰の再現と洗い流すという言葉、そしてアークエンジェルが京太郎を異界に留めようとした事実が頭を駆け巡った。

 異界に居れば現世からの影響は最小限となる。流石に異界の入り口周辺が水で埋もれれば異界自体も影響が及ぶがそれでも現世よりはマシだ。

 つまり神罰の再現とは神が起こした洪水のことであり、フリンが京太郎に用意したノアの方舟とは異界のことである。

 

「そうだ。全く持って愚かしい……いい歳をした老人が自分の安寧のために一億人を殺そうとしているんだ」

「……これが私たちの置かれた現状ですわ。ついでにここに居れば私たちも洪水からは助かりますからクソジジイからすればとても良い計画なのでしょうね」

「龍門渕さんたちは自分を止めようとするから家族は洪水から守られるはずだと考えたと?」

 

 いやな信頼だった。

 

「歳を取って人との繋がりに飢えはじめて居ましたから。たとえ望みが叶っても私たちが傍に居るはずない。という所まで考えが及んでいないのは愚かな話ですわ……」

「ありがとうございます。大体事情は呑み込めました。あとはこっち……ですね」

 

 京太郎が視線を向けた先に居るのはアークエンジェルだ。

 緊縛が解けてはシバブーを喰らい続ける天使だが逃げ出す気配は一切ない。というのも逃げる理由がないのだろう。この異界に居れば京太郎を異界に留めるというフリンからの指示は達成されるからだ。

 

「えぇ、そこの天使。私たちの質問に答えてくださいますわよね?」

「いいだろう。言うなとは言われていない。それに知ったところで萩原が居なければフリンの計画を止められはしまい」

「あら、殊勝なこと。でも判断するのは私たちですわ。まず衣はどこに居ますの?」

「大蛇の娘ならば異界の奥に居る。そこで十分にマグネタイトを確保し異界の核となっているドリーカドモンからマグネタイト供給を受け力を強化しているはずだ」

「……は? お前らドリーカドモンと関係ないんじゃないの?」

「『今までの』事件には関係ない。だが『今回の』事件には関係している」

「言葉遊びか!」

 

 京太郎は頭を抱えたくなった。状況が状況ならこの天使のことを好きになれそうだったが状況が悪い。

 

「衣が死ぬとはどういうことですの?」

「大蛇の娘が持つ異能を無理やり引き出し強化する。それによりこの国を洗い流す。だがそんな力を一般人が引き出されれば力尽きるだろう」

「衣ちゃんを護衛している存在は居るか? メシア教徒がこれ以上介入する可能性は?」

「護衛はない。異能の力が自動的に自分に近づく存在を排除するように設定した。介入の可能性はあると言うよりは今もしており増えていくだろう」

「やはりか……」

「数は力ですわね」

 

 龍門渕夫妻が顔を曇らせた。現状を最も把握しているのがこの二人であり、今もハギヨシからの連絡で敵勢力が増えていると連絡を受けているからだ。

 

「こいつから聞けるのはこれぐらいですわね。なぜこんなことをするのか気になりますがそんな時間はありませんから……須賀さん」

 

 透華が京太郎を見た。

 

「龍門渕透華から、『デビルサマナー 須賀京太郎』へ依頼を出しますわ。依頼内容は、天江衣救出及び異界龍門渕の破壊です」

 

 迷うまでもない。京太郎はその依頼を受けようと頷く――。

 

「待つのじゃ、サマナー」

「待ってくれ須賀くん」

 

 止めたのはトウビョウと龍門渕透だ。

 トウビョウの数多ある蛇が透を見たが、透が頷いたのを見て彼は引き下がった。彼らの意見は同じものだからだ。

 

「あの、どうしたんですか? 俺、受けますよ? こんなの許せるわけない」

「そうですわ! お父様も分かっているでしょう? 調査も行っていない異界の探索と破壊……それを行えるのは一般のサマナーではなく、須賀さんの様なサマナーでないと無理だと! それはお父様も理解してくださったはずですわ!」

「そうだ。だからこそ問いかけなければいけない。もし彼が、もう少し歳を取っていて自分の道を確立しているのなら私も意見は言わない。だが彼はまだ若いんだ。だからこそ自覚させなければいけない」

 

 透の鋭い視線が京太郎を射抜く。

 だが、それに怯むほど京太郎も弱くはなかった。

 

「うん。やはり今回の依頼を行えるのは今の戦力では君ぐらいだろう」

「なら!」

「落ち着きなさい」 

 

 憤る透華を透が諌めた。

 

「現時点において君を送り出すのが最上の手だ。だが龍門渕が血を流せば手は他にあり解決手段はあるのだと伝えておきたい。つまり、この話を聞いて君が断ったとしても我々は決して恨むことはないということだ」

「良いんですか?」

「構わない。むしろ危険な依頼を受けるのは愚策だよ。さて、話を戻すよ。いいかい? 今のこれが最後なんだ」

「最後、ですか?」

「そうだ。君がサマナーではなく清澄高校1年須賀京太郎に戻る最後のチャンスだ」

「……チャンス」

「本当に、衣ちゃんの力で日本列島を流せるかは分からない。だが、それをメシア教のテンプルナイトが計画し、実行し、それを阻止したという実績が問題なんだ」

 

 それだけメシア教に対する信頼はあるのだ。

 例えそれがどんなに非道なことであっても『神の御名』において、神のためになるならばやる奴らだという良くも悪くも信頼があるのだ。

 そのメシア教のテンプルナイトが宣言した以上やる手はずは整い実行できると誰もが思う。

 

「もし君がフリンの計画を潰したならば君の名前は知れ渡ることになる。『テンプルナイトの計画を阻止したデビルサマナー 須賀京太郎』とね」

「……そうなったらもう戻れませんわね。流石に情報規制もできないでしょう。表はともかく裏を知る人間には知れ渡りますわ」

 

 この時になって透華も理解した。父が心配しているのは須賀京太郎の将来だと。

 もし京太郎が依頼を断ったら思う所はあるけど、透華も納得するだろう。衣と京太郎。透華にとっては悩むまでもない選択肢だがそれは衣に近い透華だからで京太郎は違う。

 だから人の親として透は選択肢を京太郎に与えた。

 

「それでも、君は受けるかい?」

「俺は……」

 

 京太郎は今日までの日々を思い返していた。

 京太郎にとって学生としての生活もサマナーとしての生活もどちらも大切で失いたくないものだ。

 友人とバカやって騒いだり、咲と居て友人に嫁さんか? とからかわれたり、優希が絡んで来たり。それはどれも京太郎にとってとても大切な日常の思い出だ。

 透の言葉通りこの依頼を成功させればそんな日常がなくなってしまう可能性だってある。

 

 けれど。

 

 京太郎は知ってしまった。商店街で自分が、鶴賀学園で友人や見知らぬ人たちが悪魔たちに襲われ理不尽な暴力を晒されることを。

 運が悪ければ死ぬことだってある。そんな暴力がいつか、どこかで、大切な人たちに降りかかるのではないか。そんな可能性を。

 それは京太郎にとって耐えがたい現実であり抗うべき障害だった。

 

 そこまで京太郎が考えて、おかしくなって笑った。

 眉をひそめていた京太郎が破顔したことに周りが首をかしげていると、京太郎はおかしく感じた理由に気づいてしまった。

 

 これだけ考えているのに、どうあっても結論は一つしかでないからだ。

 

「……依頼を受けます」

「本当にいいんだね?」

「多分どっちを選択しても後悔は残ると思うんです。だから俺は自分の心に従います」

 

 ぐるぐるとまわり続ける不安が京太郎の心に残り続ける。不安の正体は失うかもしれない日常への未練である。

 その未練を断ち切るように、須賀京太郎は自分の言葉で宣言する。

 

「俺が選ぶのは清澄高校の須賀京太郎じゃありません。俺は、デビルサマナーの須賀京太郎です……!」

 

 不安はまだある。けれど宣言した後の京太郎の胸中はとても晴れやかなものだった。

 

 *** ***

 

 戦場に立ち地上に空にと溢れる悪魔たちを薙ぎ払うハギヨシが唐突に笑みを浮かべた。

 となりで銃を撃ちながら仲魔に指示を出していた純と智紀はギョッとした。

 ハギヨシは普段ならともかく、戦場で笑うことは少ない。少ないはずなのに笑った。それも二人が見たことないほどの深い笑みだ。

 

「気にしないでくださいね。それよりほら、また悪魔が来ました」

 

 ハギヨシに促され二人は弾丸と異能の力を放った。

 純は炎、智紀は風の異能を使用できる。

 まだレベルは低いため威力はそれほどだが、炎は燃えればそれだけで邪魔だし、風は火力を強くする。

 

 一も含めてハギヨシから見てまだまだな二人だが、ハギヨシが笑ったのはそれが原因ではない。

 透華たちのいる小屋から感じていた京太郎のマグネタイトの質が大幅に上がったのである。

 マグネタイトは生体エネルギーである。

 感情で生み出されるそれは、逆に言えば人間の意思次第で如何様にも変わることを意味する。

 

 そしてマグネタイトの質が良くなるほどの変化が起きるとき、それは良くも悪くも人生に関わる大きな決断をしたときに起きる。

 京太郎がなにか選択をしたことをハギヨシはうれしく思っていた。

 ハギヨシも選択をして強くなり続けてきた人間の一人で、本当の意味での自分の後輩がスタート地点に立ったことを嬉しく想い、祝福した。だから笑ったのだ。

 

「さて、元々手を抜く気はありませんでしたが気合を入れなおしましょうか」

 

 ハギヨシは精神を集中(コンセントレイト)し集った力を解放した。

 

「メギドラ」

 

 太陽にも匹敵すると言われる万物を焼きつくほどの炎が数多の悪魔と人を消し飛ばす。

 今のハギヨシに勝利の理由こそあれど敗北する理由はなかった。

 

 





第1章も終盤なんで何があってもデビルサマナーとしてやっていくぞと宣言させるお話。
そして狂人が増えたぞ!

龍門渕と衣の補足

基本連想ゲームで以下の通り

透華⇒冷やし透華⇒治水⇒スサノオ※1
※1ヤマタノオロチに関する神話にてスサノオが治水したとの考察有
 スサノオ=治水の神説は色々と賛否両論っぽいですが本作では衣(大蛇)と関連付けるためこれを採用

衣⇒海と支配⇒大蛇

感想でフリンの言う鍵が八岐大蛇と言っていた方が居ましたけど半分正解。ころたんだと正解。
よく須賀の苗字から京太郎がスサノオと関連付けられますが本作ではとーかがそれに当たります。

天江家の遠い祖先が八岐大蛇に生贄として狙われるも助かった娘のひとりであり、
大蛇が死した後も大蛇の執念が娘を呪い(祝福)し娘が力を得た。
これを知ったスサノオが娘の力を抑える力(治水)を娘と近しい人に与えた的なバックストーリー
何千年という時を超えてずっと龍門渕と天江は近しい友でしたって感じです。


これは今考えました。

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