デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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『人と悪魔』

 銃声音と共に京太郎は二つの行動を取った。

 一つは宮永照たちとゲオルクの間に移動すること、もう一つは電撃魔法ジオの行使だ。

 京太郎が放ったジオはゲオルクが射出した弾丸を焼き尽くしてみせた。

 

「良い反応だな。だが……」

 

 ゲオルクは闇に覆われつつある太陽を見ると眉をひそめた。

 

「本来なら完全な闇の世界になるはずだが……なるほど、あの姫さんは思った以上に頑張っているということか。面白い、こうでなくてはな」

 

 不気味に笑うゲオルクに警戒をする京太郎だが、銃声が鳴り響けば照たちも太陽以外の異常事態に気づく。

 ライフル銃を構える男と刀を構える少年という日本にあるまじき光景が、彼女たちの視界に入り言葉を失っていた。

 その時だ、大星淡の持つスマホから強烈な光が発せられた。

 

「な、なにこれ!?」

 

 淡は慌てながらスマホの電源を切ろうとするがまったく反応しない。

 その光景を見て獰猛な笑みを浮かべたのはゲオルクだ。

 

「悪魔召喚プログラムがこの世に現れたのはな、今から20年ぐらい前の話だ」

 

 京太郎は過去の話をし始めたゲオルクに警戒しながらも、背後に居る照たちの様子をうかがっている。

 

「でだ。今までは才ある人間がそれ相応の修練を積むしかサマナーになる方法はなかった。当然の話だな。そんなもんが簡単に使えたらこの世はもっと混沌としていたはずだ。だがそれが崩れた」

「悪魔召喚プログラムは誰にでも使えるからか」

「悪魔は基本的に強者にしか従わん。だが契約さえなんとかすりゃぁ一般人でも悪魔を使役できるからな。ノストラダムスって名前の法螺吹きが恐怖の大魔王の出現を予言したが……実際に訪れたのは悪魔召喚プログラムによる秩序の崩壊だった」

 

 そこまで話してゲオルクはこう言った。

 「おかしいとおもわねぇか」と。

 

「この話は20年前の話だ。当時のヤタガラスを始めとした霊的機関が鎮め、新たな秩序を構築した今――なぜ悪魔召喚プログラムの名が世間に出た?」

「それは……」

 

 京太郎が悪魔召喚プログラムの存在を知ったのは今から2カ月ほど前の話だ。

 電車の中でネットサーフィンをしている時に名を知り、異界で覚醒した後で召喚プログラムを得た。

 20年前の化石ともいえる産物がネット上で知れ渡っていたのは不可思議であり、ヤタガラスが管理していると思われる召喚プログラムをなぜ淡が保持しているのか

 

「まさか」

「そうだ。噂を流し召喚プログラムをネット上に流したのは俺たちなんだよ」

「それならもっと召喚プログラムによる騒動が世の中で蔓延ってるはずだろ? 俺がサマナーになって2か月、そんな事件はなかった!」

「案外鈍いねぇ。ネット上に流したのは俺たちなんだぜ? 召喚プログラムを改造したとは思わないか? ……さて。そろそろ仕掛けの一つが動くぞ?」

 

 スマホ……もはやCOMPと呼ぶ方が正しいか。淡の手の中にあるCOMPから放たれる光は次第に弱くなっていき完全に光が消えた瞬間淡たちの頭上に一体の鳥型の悪魔が出現していた。

 見れば誰もが認めるほどの美しい翼を持つインド神話における伝説の鳥スパルナが姿を現した。

 

「わぁ……」

 

 その美しさに目を奪われた淡がスパルナに触れようと手を伸ばすも、淡を一瞥すると上空へと舞い上がっていく。

 見とれていた3人は動くことも出来ずただスパルナを見上げた。

 

「なんだ?」

 

 理由は不明だが召喚者である淡をスパルナが害を及ぼすことはないはずだと京太郎は考えた。

 しかし思い起こされるのはゲオルクの改造という言葉だ。

 京太郎はスパルナを見上げ、スパルナが淡に狙いをつけて急降下をするそぶりを見せた瞬間京太郎は3人のもとに走った。

 

「危ない!」

「へ?」

 

 淡の元へと突撃を駆けるスパルナから彼女たちを救出するべく走った京太郎は彼女たちを押し出した。

 悲鳴を上げて倒れこむ3人を見てから、落ちてくるスパルナに対応するため構えを取った京太郎の元にスパルナが突っ込み衝突した。

 

「なんだ!?」

 

 菫が叫んだのは京太郎に押し出されたこともあるが、衝突による衝撃音とその余波を受けたせいでもある。

 実際その衝撃波で彼女たちは少し吹き飛ばされ転がっている。

 

 余波が収まり彼女たちが見たのはスパルナを掴みとる京太郎の姿だ。

 

「ほぉ……。まぁあのレベルにもなれば当然だがそれでも無傷で受け止めるか」

 

 床は陥没しクレーターも出来ているほどの衝撃だったが彼が無傷でいるのは、受けた力をうまく拡散し無効化した証明だ。

 

「なるほど、やはり得意なのは近接戦か。先日の件で分かっていたことだが」

 

「な、な、な……」

 

 その光景を見て冷や汗をかいたのは件の3人だ。

 スパルナが向かってきても彼女たちに退避するという意思はなかった。いきなり姿を現したとはいえ所詮はプログラム、VRか何かであろうと思っていた。

 それがVRではなく現実に被害を及ぼす存在だと知り今更ながら戦慄していた。

 

 対してスパルナであるが彼も彼でかなり必死である。

 目の前に現れた召喚者は大した力もなく、容易く殺せるはずだった。そうして自由になれば好きに現実世界で暴れられるはずだった。

 ところが横からいきなり現れた男は自分を軽く殺せる力がある。

 狩る側のはずが狩られる側になったスパルナは必死に生きる道を探していた。

 

 そして結論。

 目の前の化け物が自分を仲魔にするメリットはない。ただ殺されるだけだと判断した彼は下剋上を果たすべく必死に牙を向けていた。

 弱肉強食の理に逆らおうとするスパルナを京太郎も理解していた。

 下手な格上よりも格下の方が必死になり厄介であると。かつての自分たちもそうしていたように。

 

 だからこそ容赦せずスパルナを横に転がすと刀を抜きスキルを放った。

 

 絶命剣。

 

 スパルナを切断した一撃はその名の示す通りにスパルナの命を絶った。

 血すらも流さずに消えていくスパルナを見て我に返った菫が叫ぶ。

 

「な、なんなんだお前たちは一体!」

 

 命の危険に直面し刀と銃を持つ男たちを睨みつけている。

 声と体が震えていることから恐怖は感じているはずだがそれでも部長として二人の前に立っている。

 

 そんな菫の心の強さを見たゲオルクは「ほぉ」と声をだし破顔した。

 京太郎がこの男と会ってまだ少しの時間でしかないがそれでもこの男の性質は理解し始めていた。

 ゲオルクは強い者が好きなのである。

 京太郎の様な武力もそうだが、菫のように恐怖と対峙し抗う心の強さもまた同じぐらいに好ましいのだろう。

 

「惜しいな。時が時であれば……だが今は収穫を待つ農家の様なものでな。ここは目的を優先させてもらおう。お前ら!」

 

 ゲオルクの声と共に現れたのは30人以上の男女だ。

 ただどれも普通の雰囲気ではなく、左手にはスマホを持ち右手に短刀を握りしめている。

 男は照たちを舐めまわすように見て、女たちは京太郎を睨みつける。

 

「これは」

「さぁ、次のステップだ。須賀京太郎。果たしてお前にそこの3人を護れるかな……? いや、簡単だろうが不殺でそれができるか?」

「ゲオルク……!」

「最後に一つ。悪魔召喚プログラムをダウンロードしているのはそのガキだけだけではない。知るが良い須賀京太郎。貴様の真の敵は俺たちや悪魔ではないことをな!」

 

 笑いながら去るゲオルクを反射的に追いかけそうになったが、背後に居る照たちを思い出しとどまった。

 

 ――何をやっているんだ俺はっ!

 

 自分の顔を勢いよくなぐりつけた。

 反射的にでも危機に瀕している誰かを見捨ててゲオルクを追いかけようとした自分を恥じた。

 

 現れた男女、恐らくは暴力団と思われる者たちは京太郎と照たちを囲むことが出来るほどの人数にも関わらず、完全な包囲が出来ずにいた。

 主に京太郎の眼の前に居るのを避けようとしている。

 それも当然でクレーターが出来るほどの威力を持つ一撃をなんなく防ぎ、逆にやり返す力を持つやつを彼らも相手をしたくなかった。 

 京太郎はそんな暴力団たちには目もくれず菫たちの方へと歩いた。

 

「お願いがあります。この場所から何があっても絶対に動かないでください」

 

 その言葉に顔を顰めた菫は言う。

 

「信用できると思うのか!? なんなんだお前たちは」

「信頼も信用も何もできないと思います。でも今だけは絶対に動かないで」

 

 京太郎の左手から微量の電撃が発生する。

 悪魔を召喚すればこの場を切り抜けることは容易い。けれどその先にあるのは圧倒的な力による虐殺だ。

 たとえ相手が力のない女子供を襲う外道であっても無暗に命までは奪う気にはなれなかった。

 

 けれど。

 

「このお願いを聞いてもらえるなら守ります。絶対に、何があっても」

 

 彼らの命は照たちの命よりも重い訳ではない。

 もし照たちの命が危険に晒されるのであればスライムと合体した母子ではなく、普通の人であっても殺すと言う決意でもって京太郎は手を振り上げた。

 

 *** ***

 

 戦いは京太郎の放ったマハジオが暴力団員と、彼らが召喚した悪魔ピクシー、コボルト、オーガ、カブソに襲い掛かったところから始まる。

 京太郎が見たところこの暴力団員たちは覚醒していない様だが、それでも指示に従っているのはプログラムを拡張するアプリの力だろう。

 

 マハジオは暴力団員たちを庇った悪魔たちに直撃し、悉くがマグネタイトへと還っていく。

 その中にはかつて京太郎の味方をした悪魔と同じ姿もあるが今更の話である。

 その威力を見たその場にいる全員が冷や汗を流した。

 

「ウソだろ……。あの黒人のアニキ以外にもこんな」

「で、でもよぉ。相手は一人だぜ隙を見てかかれば何とでもできるぜ。そうすればあとは好き勝手出来る。許可は得てるしなぁ」

 

 一人の男が見たのは照たち3人だ。女たちは男の趣味にため息をつくも照たちを助ける理由もないため放置である。

 その視線の意味することを察せないほど世間知らずではない3人は怖気が走る。

 

「へへへ楽しみ」

「楽しめると思ってるのか?」

 

 空想に浸り油断しきったところを京太郎の刀が足を切り飛ばした。

 足という自重を支える基幹を失ったことにより男の体は倒れ足を踏みつぶす。

 斬られた痛みを味わうこともなく何時もあるはずの物を一瞬で失った喪失感と後からやってきた痛みで男は叫んだ

 

「うげぇぇぇぇ!!」

「イシュタル!」

 

 この隙に男の体と足を蹴り飛ばしながら召喚したのは女神イシュタルだ。

 ただ戦いに参戦させるために召喚したのではない。戦闘不能に陥った暴力団員の傷を癒すために召喚したのである。

 

 ここで重要になるのは回復魔法についての細かな仕様である。

 回復魔法には大きく分けて傷を治す癒しの魔法と命さえも甦らせる蘇生魔法の2つがある。

 だが蘇生魔法については正しく言うと、蘇生さえも可能にするほどの回復力を持つ魔法だ。

 

 腕が切り飛ばされても蘇生魔法を使用すれば腕が生える。

 この原理はその命が持つマグネタイトが体の構造を記憶しているから行えると言われている。

 対して癒しの魔法だが、斬り飛ばされた部位が存在し傷跡にくっつけていれば縫合が可能である。

 

 では、斬り飛ばされた部位が近くにない状態で癒しの魔法を使った場合だがこうなる。

 

「あぁ、あぁぁぁぁぁぁ!! 足が、おれのあしがぁぁ!」

 

 膝から下を失った男をイシュタルが癒す。

 傷口は完全に塞がり傷跡さえ分からない。ただしそこに本来あるべきものは存在しない。

 

「こうなりたくなければそいつを連れて消えろ! そうじゃなければ同じ目にあわせてやる!」

 

 その京太郎の言葉に暴力団たちは怯みつつも踏みとどまった。

 これが京太郎の狙いである。死もそうだが体の部位欠損についても当然人は恐怖する。

 一人だけ見せしめが必要になる難点もあるが、それでも死ぬよりはマシだろう。

 

 けれどそれで怯むような賢さを目の前の者たちは持ち合わせていなかった。

 

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞガキがぁ!」

 

 京太郎は舌打ちをしつつ迎え撃つ。

 男が持ったドスを刀で斬り払いつつジオで、アクアで迎撃していく。

 ジオが男の体を焼けば、アクアで女の体の一部が水圧で陥没し粉砕される。

 

 もはやどちらが善でどちらが悪か分からない光景がそこで繰り広げられていた。

 その名が示す言葉のとおりの圧倒的なまでの暴力が『暴力』団に振るわれるとは何の皮肉か。

 

「く、くそ……!」

 

 支給されていた地返しの玉でコボルトを蘇生させた男は、悪魔を嗾けつつも這いずりながら京太郎へと迫る。

 その姿は目に見えぬ何かにすがる亡者のように思える。

 

「おれたちゃなぁ……!」

 

 内に秘める何かを吐き出すように男は叫ぶ。

 京太郎は這いずりよる男に対して何かしらのアクションはせず聞いていた。

 

「俺たちなんだよぉ! 今までこの国を守ってきたのはなぁ! 俺たちが居なきゃ色んな奴らが好き勝手やってボロボロになってたじゃねぇか! なのにいらなくなったらポイか! 絶対ゆるさねぇ……だから取り戻すんだよ、あの日の栄光ってやつをよぉ!」

 

 周りを見ると目の前の男に賛同するように「そうだ!」「流石だぜ!」と声をあげる者が多数いる。

 男の心からの慟哭と賛同を聞いた京太郎は「知るか」の一言で片づけた。

 京太郎がこの男の言葉を聞いたのは彼らが何を思って行動しているのか興味を持ったからだ。

 何かしらの大きな理想を彼らが抱いているのではないかと少しは考えたがそうではない。彼らが持っているのはただの不平不満だ。

 実際暴力団と呼ばれる彼らが用心棒的な存在だったのは知っているが、社会から排除されたのは彼ら自身の行いが返ってきた結果である。

 それを棚に上げるような言葉を吐き、照たちを傷つける行動を取ろうとする彼らの言葉は京太郎にとってひどく不愉快だった。

 

「悪魔が討伐されるのはさ」

 

 機嫌が悪くなった京太郎の口から出た言葉はとても冷たいものである。

 

「結局のところ人に害を及ぼすからなんだよな」

 

 かつて会ったモコイたちの様に自らの身を護るためとはいえ契約に殉じている悪魔たちは居る。

 だが多くの悪魔たちはその本能に従い人に害をなす。

 

「意志を持って選択することが出来るロボットを人と定義する話もあるよな? ならさ、何も悪くない人に危害を加えるお前たちと悪魔は何が違うんだ?」

「て、てめぇ……! 俺たちが化け物と同じだってのか! そういうおめーも悪魔とどう違うんだよ! 悪魔ってバケモンと同じ力を振るってるおめーはよぉ!」

「……少なくともお前たちにとっての悪魔かもな」

 

 その瞬間男の首が飛び血潮が吹き飛ぶ。

 母子と悪魔が合体した正体不明の存在ではなく、須賀京太郎が初めて人間に手をかけた瞬間だった。

 

 それからの戦いはただの蹂躙でそれから1分の時間も経過することはなく京太郎とイシュタルと照たち以外の命が散った。

 すべてを終えた京太郎は血だまりの中一人たたずみ空を見上げている。

 覚悟はしていたとはいえ何の感慨もない自分におどろいていて、彼の言い放った「悪魔と何が違う」という言葉は真実かもしれないと思わせた。

 

 そんな京太郎を見る照たちだが依然恐怖から震えていた。

 命の危機は去ったと言うのに彼女たちが怖がっているのは目の前に居る京太郎が原因だ。

 暴力団たちも確かに怖かったがそれをいとも簡単に屠った京太郎の力はもっと怖かった。

 確かに自分たちを救うために行動したのかもしれないが、感謝よりも恐怖がどうしても前に来てしまう。

 

 京太郎もそれに気づいており、どうしたものかと頭を悩ませながら空を見上げた。

 太陽は闇に包まれなぜ光が地上に降り注いでいるのか分からない。

 そんな中で多くの影が空を駆けているのに気付いた。

 

「あれは……」

 

 何を見上げているのかと照たちも空を見上げる。

 彼女たちの眼にも影は見えており目を細めて見ている。

 そんな中で淡がポツリと漏らした「あの時の鳥に似てる」という言葉が京太郎を突き動かした。

 

「ごめん。COMPじゃなくて、スマホを見せてくれ」

 

 怯える彼女たちに近づき京太郎が言った。

 

「え、で、でも」

「俺が怖いのは分かってる。でも、確認したいことがあるんだ」

 

 前に一歩出て京太郎にCOMPを渡そうとする淡を菫が制し、淡からCOMPを取った菫が京太郎に手渡した。

 

「これでいいか?」

「ありがとうございます」

 

 京太郎は所持していた地返しの玉を使用して悪魔スパルナを蘇生させると召喚した。

 自分たちを襲った悪魔を召喚した京太郎から、彼女たちは一歩だけ下がった。

 

「ドウカシタカ、サマナーヨ」

 

 スパルナはちらっと淡を見てから京太郎に向かって言った。

 現状このスパルナが唯一情報を持っている存在だ。京太郎は浮かんだ疑問をスパルナに問いかけていく。

 

「知っていたら教えてくれ。黒人の男ゲオルクは悪魔召喚プログラムを改造したと言っていた。改造の内容はなんだ」

クワシクハシラナイ。(詳しくは知らない。)ツタエラレタノハ(伝えられたのは)ケイヤクのナイヨウダ(契約の内容だ)

「契約?」

ショウカンシャヲコロセバ(召喚者を殺せば)ジユウノミニナリ、(自由の身になり、)ギャクニタオサレレバ(逆に倒されれば)ショウカンシャガヨワクテモ(召喚者が弱くても)ナカマニナル(仲間になる)

「自由になる……つまり、あの空に舞う悪魔たちは召喚者を殺して自由になったのか」

 

 空を見上げると無数の悪魔たちが人の世に解き放たれている。

 10や20ではない、もしかしたら3桁に近い数の人が命を失った可能性がある。

 

「モウヒトツ」

「ん?」

モウヒトツ(もう一つ)キイタノハショウカンシャノ(聞いたのは召喚者の)テヲハナレタCOMPハ(手を離れたCOMPは)ボウソウスルコトニナル(暴走することになる)

「暴走?」

暴走したCOMPからは(ボウソウシタCOMPカラハ)次々と悪魔が現れ(ツギツギトアクマガアラワレ)時間が経てば強い悪魔(ジカンガタテバツヨイアクマ)も姿を現すようになる(モスガタヲアラワスヨウニナル)

「はぁ? じゃあなんだ、あの空に舞う悪魔たちは暴走したCOMPから召喚されてる可能性もあるのか!?」

 

 京太郎はその事実に憤慨した。こんな改造を施すなんて正気とは思えなかったからだ。

 淡のCOMPを確認するとそこには尋常ではないほどのマグネタイトが内臓されており、確かに長時間の召喚を可能だと思わされる。

 だがマグネタイトは決して無尽蔵ではない。自身の体を構成するマグネタイトを維持するために、悪魔たちが人に危害を加えることになるのは簡単に想像できる話だ。

 龍門渕異界で見た拷問の光景を思い出し京太郎はゾッとした。

 

 その考えに至り少しの間固まった京太郎にスパルナが話しかけた。

 

「コウショウヲシタイ」

「交渉?」

 

サマナーノナカマニナルノハイイ。(サマナーの仲魔になるのは良い。)ダガアノムスメハサマナーニ(だがあの娘はサマナーに)ナルトハオモエナイ。(なるとは思えない。)オマエカホカノサマナーヲ(お前か他のサマナーを)ショウカイシテホシイ(紹介してほしい)

「あぁ……」

 

 そこで解放してほしいと言わない辺り生き残るために必死なのだろう。

 別に望みをかなえる必要はないが、情報源となった以上ここで見捨てるのもそれはそれで気が引けた。

 おそらく第一希望は京太郎の仲魔になることだが、流石にレベルが低すぎる。

 どうするかと悩んだ京太郎だが、思い出したのは龍門渕に居る同い歳のサマナー候補だ。一たちと同じく透華の専属サマナーを目指すメイドに渡しても良いなと思った。

 まだ覚醒もしていない彼女だがやる気はあり、覚醒できずともスパルナのレベルがちょっと低いが一たちの誰かに託しても良いだろう。

 

「分かった。候補は何人か居るから話してみる。とりあえずは戻っててくれ」

「オンニキル。サマナーヨ」

 

 スパルナとの会話を終えどうするかと考える京太郎に話しかけてきたのは淡だ。

 彼女は菫と照の静止を聞かず、京太郎に問いかけた。

 

「……あのさ」

「ん?」

 

 少し前に見た元気な態度から一変してかなり殊勝な、正しく言えばおどおどしながらも淡は京太郎を見ている。

 怯え自体は消えていない様だが、京太郎に怯えている様には見えない。

 一体なんだと思いながら淡の次の言葉を待っていると、彼女は自身のCOMPを指差した

 

「スマホから大きな鳥が出てきたよね?」

「うん」

「あんたじゃなくて私のスマホからなんだよね」

「……ぁ」

 

 その問いかけの意味に気づいた京太郎は頷くことが出来なかった。

 もし京太郎とゲオルクたちも居ない状況でスパルナが召喚されていればどうなっていたかを考えれば分かる。

 

「そしたら私死んでたよね?」

 

 その問いかけに小さく頷いた。

 淡は「やっぱり」と小さく言って、次の言葉を必死に綴ろうとするも言うことが出来ない。

 

「そのあとは多分何も残らなかったと思う」

 

 だがぼかしながらも京太郎は真実を告げた。

 気づいていないならともかく目の前の少女は気づいている。なら「私のせいで先輩たちは死んでいたか」と言う問いかけを彼女に言わせないように先に告げた。

 

 淡が何を問いかけようとしていたのか気づいた二人が淡に近づいた時、彼女はぺたりと座り込んで肩を震わせた。

 

「良かった。良かったよぉ」

「淡……」

「ん」

 

 その場で泣き出した淡を二人が淡を優しく慰めた。

 照が抱きしめ、菫が頭を撫でている。

 京太郎に出来るのは淡が泣きやむまで邪魔者が入らないように警戒することだけだった。

 

 *** ***

 

 その京太郎たちの様子を見る人影があった。

 1人はミカと呼ばれる女でゲオルクと一緒に行動し一度殺された女である。

 もう一人は高級そうなスーツを着こなし黒髪をオールバックにした男だ。

 タバコを吹かしながら男が見ているのは照たちではなく、京太郎と周りに広がる血だまりであり、小さく「凄まじいな」と言った。

 

「あれがガキって冗談だろ……」

「覚醒者に歳は関係ないと言ったところか。だからこそ面白いな」

「若頭……」

「奴も姿を見せなくなったが関係はない。最後に私のところに転がってくればいいのだから」

 

 口にくわえたタバコを燃やし尽くすと男と女は京太郎たちに背を向け姿を消した。

 公園にはまだ少女の泣き声が響き渡っていた。




封鎖に関しては次話とか書いたけど長くなったので次話以降ってことで……。

ノストラダムスとか恐怖の大王とか知ってるのは二十代半ば以降の人からか。
いや、ワイルドアームズやケロロ軍曹とか他媒体で知ってる人もいるか。

そして今回の話で一番大変だったのは間違いなくルビを設定するところです。
長文だとカタカナじゃ分かりにくいから付けたけど、カタカナで話す悪魔仲魔にしなくてよかったなって心から思いました。
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