デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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待っている方が居るかは置いておきましてお待たせしました。

大逆転裁判2を夢中でやってたら執筆作業をさぼっていたオチ。そして手元には逆転検事シリーズもある……スマホアプリでやるにはちょうど良いですね。アクション系をスマホでやるのは勘弁ですけど。

あとはキャラが増えてどんな書き方をするのがいいか迷ってる部分があるからですかね。一部は登場人物が少なかったので京太郎視点でのみ考えれば良かったのでだいぶ書きやすかった。




『戦う者と戦えない者たち』

 淡が泣いている間に京太郎が考えていたのは今後についてだ。

 空を見上げると悪魔たちの姿が見える以上、少なくない数の召喚プログラムが起動し、召喚された悪魔によって召喚者は殺されたのだろう。

 しかしこの状況は須賀京太郎そして先日の松実宥のように悪魔に立ち向かい覚醒した人間が現れる可能性もあり、覚醒した人間が善性でなければ新たな問題となるだろう。

 

 太陽も陽の光こそ感じるが、長い時間隠されていれば世界中が大混乱になるのは間違いない。

 ゲオルクの言う東京封鎖という言葉も詳細は不明だが、言葉から推察すれば東京から出ることは難しいのだろう。

 

 龍門渕で起きた事件とは比べ物にならないほどの大きさの事件を前にして、京太郎は途方に暮れるもやるべきことは見失っていない。

 

 宮永照、弘瀬菫、大星淡。

 ゲオルクが所属する陣営に狙われた彼女たちを守ること。それが今京太郎にできることだろう。

 それでも気になるのは咲たちの状況だ。スマホを取り出すも圏外となっており、電話およびネット環境も死んでいるようで彼女たちと連絡ができない。

 ため息をつき自分のスマホを仕舞った京太郎に声をかけたのは宮永照だ。

 彼女は菫の抑止を振り切り京太郎に声をかけていた。

 

「これからどうするのか聞いていいかな? それと菫、彼に私たちを害する気があるならもう私たちはめちゃくちゃになってると思うよ? だよね?」

「え、いや、まぁ、はい」

 

 『めちゃくちゃ』の部分に微妙に引っかかりながらもうなずいた。

 近くで言えばイシュタルや戦ってきた悪魔で言えばサキュバスやらリリムやらマーメイドのように肌の方が多い悪魔たちを見て慣れてきた京太郎だがそれでも彼は思春期の少年である、歳相応に妄想力は高かった。

 

 

「ね?」

「ね? っておまえなぁ……だが実際そうか」

「それにまだまだ危ない状況だと思う。あんな大きな影が空を飛んでる」

 

 空を我が物顔で飛ぶのはモー・ショボーや懐かしきコカクチョウと言った悪魔たちだ。人を視認すれば襲い掛かってくるだろう。

 

「だから今はこの人を信じてついていくのが一番だと思う」

「確かにあれほどの力があれば、か……」

 

 菫が思い出すのは惨劇だ。

 人と呼び出された化け物が簡単に屠られていく光景はどう言い繕っても地獄である。

 

 この会話は当然京太郎の前で行うべきではないのだが、そうしないのは京太郎から離れては駄目だと判断しているからだ。

 客観的に見れば自分たちを助けるために行動した少年を疑っているこの状況は、照たちからすれば京太郎の機嫌が悪くならないか警戒はしているが特に反応を見せない京太郎に彼女たちは密かに安堵していた。

 ヤクザと化け物には修羅の如き力を見せつけ虐殺した少年が、自分たちには一切敵意を見せないため照たちも気づいてはいないが少しずつ警戒心が消えていっている。

 

「私たちのことを知っている様だけれど改めて、私は宮永照。こっちの綺麗な長髪の子は弘瀬菫。うにょうにょした金髪の子は大星淡。キミの名前は?」

 

 京太郎は少し迷っていた。

 『宮永』照。彼女は咲の姉であり、噂だと妹は居ないと言ってのけた人物だ。ここで名前だけを名乗れば彼女との関係に不和は生まれないが、黙っていてばれた時が問題だ。

 彼女たちと行動をして道中咲とバッタリ会ってしまえば、咲との関係がバレるのは間違いない。

 そしてなぜ黙っていたのかと詰め寄られ何かしらの負の感情を京太郎へ向けるだろう。

 その感情は京太郎と一緒に居る時間が長ければ長いほど根深いものになる。

 

 仕方がないと決めた京太郎は全てを名乗ることにした。

 

「……清澄高校一年」

 

 それを聞いた照の瞳が見開かれた。

 

「え?」

「一応麻雀部の須賀京太郎です。妹さんにはお世話になって……な……って……いえ、妹さんをお世話していました」

 

 食堂のランチとか頼る部分は多いが迷子になった咲を探したりなどしているのは京太郎だ。どうでもいいプライドだが、お世話になってますとは言いにくかった。

 彼のそんな言葉に照は怒るよりも前に吹き出して。

 

「そこはお世話になってますじゃないかな。でも私に妹はいない」

「そっすか。なら俺が知っているのは自称宮永照の妹なんでしょう」

「有名人税ってやつだね。本人からすればすっごく迷惑な話」

「迷惑なら話でもして解決してください。それでどうなるかは当事者次第ですが今の状況だといつ死んでもおかしくないですから。彼らの様に」

 

 自分が起こした惨劇を棚に上げて京太郎は言った。

 ちなみにヤクザたちの死体がないのは蘇生できぬように京太郎がジオダインで焼却したためである。

 

「……それでも私に妹はいない。話してくれたのは嬉しかったよ」

 

 笑顔とは本来威嚇行為である。

 雑誌にも載っていた、とても綺麗な笑顔の裏に潜む拒絶の意思を感じた京太郎はここで引き下がった。

 

「分かりました」

「うん」

 

 話は終わったと照は京太郎から背を背け淡の方へと向かっていった。

 照の機嫌が悪くなったことを悟り京太郎はやってしまったなとため息をついた。

 

「気にしないで良い。後で発覚するよりはずっといい」

「そうですかね?」

「君なりの誠意だろ? 後からだったらともかく今話してくれたんだ、フォローぐらいはしておく」

「ありがとうございます」

 

 どう言い繕っても京太郎は人殺しだ。

 実際彼女たちがどう思っているのか不明だが「人殺し!」と言って逃げてもおかしくはない。それなのに普通に接し気配りもしてくれる彼女に京太郎は感謝した。

 

「……ちなみにだが君はあの姉妹の事情は知らないってことで良いんだな?」

「はい。こういうことをしてるので会話の機会も減ってましたし、姉が居ると知ったのはたまたまです」

「こういうこと、か。一応麻雀部の意味がそれか」

「麻雀よりもしたいことが見つかったと思ってもらえれば。退部してないのは部員数も少ないしインハイまではと思ってたからです。でもこうなってしまった以上は……」

「インハイとか言っている場合ではないな」

「……ですね」

 

 こんなことで夢が潰えるとは無念以外の何物でもないはずだ。

 頭を押さえため息をつく彼女にかける言葉を京太郎は持ち合わせてはいなかった。

 

「気持ちが分かるとは言いませんが、約束は守りますから」

「あぁ、頼むよ」

 

 力なく菫は微笑んだ。

 インハイについて改めて自覚したせいか覇気を感じない。

 

「で、どうするんだ?」

「電話さえ使えれば避難場所を聞くことができると思うんですが、繋がらなくて。普通の災害じゃないから学校とか行っても意味ないのでどうしたものかと」

「おいおい」

「長野なら頼れるところがあるんだけど帝都は初めてだから……っと」

 

 ガントレットに付けているCOMPが震えた。

 何事かとCOMPに眼を向けると熊倉トシから電話がかかってきていた。

 

「電話は繋がらないんじゃないのか?」

 

 菫は自身のスマホを確認しているがやはり圏外となっている。

 

「そっか。COMPのでならつながるのか」

 

 灯台下暗しとはこのことかと思いながら、菫に断ってから電話に出ると、京太郎の耳に聞こえてきた女性の声はトシの物ではなく、知らない若い女性のものだった。

 

「もしもし」

『須賀京太郎くんで良いかな?』

「……熊倉さんじゃない? 誰ですか?」

 

 知らない声に警戒をする京太郎に気づいた電話先の女性は「ノーウェイノーウェイ、心配しないで」と言った。

 

『私の名前は戒能良子。熊倉さんは今手が離せなくてね、私が代わりにかけているんだ』

「かい、のう?」

 

 聞いたことのない苗字に頭を悩ませ口に出した京太郎に反応したのは菫だ。

 

「戒能? なぜ戒能プロの苗字が出てくる?」

「プロ? 弘瀬さんたちが言うってことは麻雀の?」

「戒能良子。君は麻雀部なのに知らないのか」

「麻雀歴数ヶ月なうえにろくに打ってないので。幽霊部員ですし」

 

 京太郎が知っているプロと言えば酷いと愚痴られたアラフォープロとアイドル雀士の二人ぐらいだ。

 一体なぜ彼女から連絡が来るのかと考える京太郎に菫がそういえばと言った。

 

「噂だとソロモン王の力を振るうとか聞いたぞ?」

「ソロモン王って確か昔のサマナーだっけ」

 

 プロメテウスが昔語っていた情報の一つにソロモン王に関する話がある。

 ソロモンの鍵と呼ばれる魔法書に陣を描き悪魔を召喚する技法を身に着けていた男であり、ある意味でCOMPの先駆けとも呼べる技術を確立したそうだ。

 契約した悪魔はバールからビフロンスまでピンからキリと言えるが72柱の悪魔を使役するのは驚異的だろう。

 

「どう考えても裏の人間だな……」

『分かってくれたかい? それと今の声は弘瀬菫かい?』

 

 しまったと京太郎は思った。

 電話先の相手が戒能良子だとして味方だとは限らないし、菫たちに関する情報を渡すべきではない。

 しかしここで菫に関してはぐらかしてもそちらの方がおかしいと判断し京太郎は同意した。

 

「そうです。今一緒に居ます」

『宮永照、大星淡もかな?』

「さぁどうでしょう?」

『ふむ。話に聞いていたよりも警戒心が強いね。この状況では仕方がないか。率直に言おう、どうすれば信じてもらえるかな?』

「熊倉さんをと言いたいけど難しいですね。声なんてあてにはならないし」

 

 悪魔を用いれば声を真似るなんて容易い話だ。

 

『オーケーオーケー、理解したよ。そもそも私が電話を掛けたのが間違いだったね。トシさんに代わるから会話をしてもらえるかい?』

「分かりました」

 

 京太郎も相手を疑いたくはない。実際これが自分自身だけの問題であれば京太郎は良子を信じ行動したはずだ。

 けれど目の前に居る3人を考えれば容易に動くのは避けなければならなかった。

 

『……須賀くんかい?』

「熊倉さんですか?」

『そうだ。悪かったね、本当は私かライドウか石戸が君に連絡を取るべきだったがどうも忙しくてね』

「無理もないです。こちらこそすみません」

『良いんだよ。むしろ警戒して行動をしているのが分かって安心したところさ』

「……あの」

『なんだい?』

 

 京太郎は浮かんだ疑問をトシにぶつけた。

 

「ライドウたちに関する情報を掴んでいるんですか? この状況で?」

 

 京太郎から見れば東京封鎖は突如発生した大きな事件だ。にも拘らず今トシはライドウたちが忙しいと情報を掴み電話に出るぐらいの余力を見せている。

 帝都全域に悪魔が出現したのならヤタガラスが総動員してもかなり忙しく、京太郎に連絡を取る暇さえないはずだ。

 それにライドウと霞たちは神代小蒔の捜索のため外に出ている。つまり彼らの情報を知っていると言うことは京太郎に連絡を取る前にライドウたちと連絡を取っている。それはおかしく思えた。

 

『おかしく思うのは無理ないが、現状は最悪と言って良い状況だがそれでもマシだということさ。おかげで連絡を取るぐらいの時間はあるんだ』

「マシ、ですか?」

『詳しくは不明だけれどこの状況になると見越した誰かが犠牲を最小限にするために事前に準備をしていた。あらゆる場所に悪魔対策の結界が張られていてね、おかげで少し楽が出来ているよ』

「そんなことができるのって……」

『十中八九今回の事件の黒幕側の人間が手を打ったんだろう』

「なんでそんな行動を? 犠牲を出したくなければそもそも止めればよかったんだ」

『さてね。本人にしかそのことは分からない。さて、どうだろう? 私を信じてくれるかい?』

 

 少しだけ考え込んでから「はい」と京太郎は答えた。

 ライドウだけならともかく、石戸霞の名前を出したのだからこれまで会話してきた熊倉トシだと信じることにした。

 トシは『そうか』とホッとするように言い、次に『それなら東京国際フォーラムに来てくれるかい?』と言った。

 

「国際フォーラムですか?」

『そこに私たちも居るんだ。それから安心するといいよ、君の友人も皆そこにいる』

「……今日、試合ないはずなのになんで」

『言ったろ? 事前に準備をしていたと。どうやら狙われる可能性が高いオカルト使いもここに集めたらしいんだ』

「なんかますます怪しいけれど、怪しすぎて逆に大丈夫かなって気がしてきましたね。ははは……」

 

 乾いた笑いが京太郎の口から出た。

 犠牲を嫌っているのに多くの犠牲が出るであろう東京封鎖は止めない誰か。意味不明すぎて嫌悪感さえ湧いてこない。

 

『話していて同じ気分になっているが……大丈夫かい?』

「はい。そちらに向かいます。ただ最後になぜ白糸台の3人についてですけど探していたんですか?」

『虎姫……あぁ、白糸台の代表の2人が慌てたように探していたんだ』

「あぁ、それで……。分かりました。今俺たちは日比野公園に居るのでそちらにいくまでそんなに時間はかからないと思います」

『日比野……。なるほど、永田町にでも行こうとしていたのかい? 分かった、それじゃ待っているよ』

 

 電話を切った京太郎に「インハイの会場に行くの?」と声をかけたのは泣き止んだ淡だ。

 目はまだ少し赤いが会話できるぐらいには回復したらしい。

 

「でもなんで国際フォーラム?」

「さぁ。でも避難場所があるなら状況は最悪じゃない」

 

 トシたちが避難場所として使用しているのなら少なくともそこに罠はないのだろう。

 色々と危惧することはあるけれど、今は少しでも早く安全な場所へ行き照たちを送った方が良い。

 

 京太郎はともかく命の危機をずっと感じながら過ごすなんてことを一般人が慣れているはずがない。

 今は大丈夫でも少しずつ疲弊してしまうのは予想できることだ。

 

 実際に。

 

「でも大丈夫かな? さっきの鳥みたいなのが一杯居るかもしれないんでしょ?」

 

 性格の明るさが特徴の大星淡がかなりしおらしくなっている。

 照たちが無事で安心はしたけれど、それでも大事な人たちを間接的とはいえ殺しかけたトラウマは消えていない。

 

 京太郎は淡を安心させるように明るく振舞いながら「大丈夫だって!」と言い。続けて。

 

「言ったろ? 守るってさ。心配すんな、約束は絶対に果たすから」

 

 京太郎は名も無き刀を鞘から抜刀しハンドガンの弾数を確認するとホルスターに収めた。

 異界での戦いに用いるいつもの姿だが人の世でこの姿になることはほとんどない。精々店での試着の時とか異界へ向かう際の前準備で着るぐらいだ。

 それを異界に向かうでもなく装備している状況に今更ながら人の生きる日常が崩れ去ったのだと実感するのだった。

 

 *** ***

 

 崩れ落ちるビルを京太郎のジオダインが迎え撃つ。

 暴れ狂う稲妻の力は瓦礫を灰へと変化させビルを破壊した悪魔をも飲み込む。

 

 幽鬼モウリョウ。

 

 いわゆる悪霊と呼ばれる悪魔であり本来であれば人に害をなすほどの力もない雑兵にすぎない。だが現在の帝都にあふれるマグネタイトが強化したのか下の上ほどの力は持ち合わせている。

 

 しかしそれでも今の須賀京太郎の前では塵芥同然である。

 京太郎の背後にいる人々を庇いながらも目にも止まらぬ速さで空を駆け、跳ぶ。

 なにがしかの物語で水上を走るには沈む前にもう片方の足を前に出せば走れるというが、京太郎がやってみせているのは宙にアクアを放ち出現した水を思いっきり踏み抜いているだけだ。

 

「こん……なろぉ!」

 

 空中で放ったマハジオンガが空より急襲を仕掛ける悪魔たちを撃退するも、地上を駆ける魔獣オルトロスが牙をむき女性に襲い掛かる。

 

「ひっ!」

「させるか!」

 

 しかしこれも京太郎の持つパラケルスス謹製のハンドガンが氷結弾を放ちオルトロスに直撃。弱点属性により怯んだオルトロスの首を名も無き刀が切り落とした。

 

「大丈夫っすか!」

「え、えぇ……」

「また危なくなったらさっきみたいに声上げてください。何とかします」

 

 女性に声をかけた京太郎は跳ぶと先頭に戻った。

 日比野公園から東京国際フォーラムまでは徒歩でも15分ほどの筈だがすでに30分が経過している。

 その原因は先ほどのように悪魔たちが襲い掛かるのが一番の原因だが、当初の予定通り京太郎、照、菫、淡の4人だけであれば問題はなかった。

 

 京太郎自身、積極的にほかの人たちを助けようと行動したわけではない。

 だが目の前で誰かが死んでいく中で、少女たちを守ろうと行動する少年の姿を見れば自分たちもその守護にあやかろうとする。たとえそれが、化け物たちさえも上回る力で戦う人の形をした化け物であっても。

 こうして1人、また1人と京太郎の背後についていく人が増え、京太郎も見捨てることができず襲い掛かる悪魔から人々を守った。

 それはまさに古の時代において人々が自分たちでは解決できない事象に対し神々に救いを求める構図と似通っていた。

 

 さて、本来であればイシュタルのエストマさえあれば問題ないのに彼女を召喚していないのは、ほかでもない多くの人が付いてきてしまっているせいだ。

 京太郎に人々が付いてきているのは、あくまで彼が人間だからだ。付いてきている人数が数人であれば説明をしてイシュタルを召喚していたが既にそうはいかない状況になっている。

 この状況下で迂闊に悪魔を呼べば、パニック映画よろしく「こんなところにいられるもんか」からの死亡エンドが目に見える。

 なら最初からイシュタルを召喚しろという話でもあるのだが、事情を知らない一般人に化け物側の人間だと思われ襲い掛かられる可能性を考慮し避けたせいである。

 

「大丈夫か?」

「えぇ、まぁ、大丈夫っす」

 

 手に持った暴走COMPを操作し悪魔を送還後に破壊した。

 この30分で明らかになったことだが、暴走COMPを操作すれば召喚された悪魔たちを送還することが可能だ。

 当然の話ではあるが、暴走状態でも送還機能が使えると分かったのは小さくも確かな希望であるといえる。

 そしてもう一つ、暴走COMPからは瘴気が発生しており、瘴気の発生源を見つける術式さえ作ることができれば帝都で暴走しているCOMPをすべて破壊できる。

 瘴気の発生源を特定し、暴走COMPを見つけ送還する。このプロセスを行うことができれば帝都復興に大いに役立つはずだ。

 

「まぁただ1人で守るっていうのがこうも難しいとは……」

 

 宮守、阿知賀の時はよかった。

 最初と最後こそヒヤッとしたが道中はエストマの力で突破できたし、悪魔を使役していても熊倉トシというまとめ役がいてくれた。

 しかし現状において京太郎が頼れる人物はどこにもいない。

 すでに40人近い人々を一人で守りながら戦う京太郎は少しだけ疲弊していた。

 

「これだけ走り回れば……走り……いや、動き回れば疲れもするだろ?」

「いえ、体力自体は良いんですけど、精神的に擦り減っていく感じがどうも」

「これだけの人の命を預かっているのと同じだから当然かな」

 

 こうなって京太郎を気遣い始めたのは照たち3人だ。

 第一印象は最底辺だったが、逆に言えばそれ以上下がりはしない。むしろ自分たちだけでなく周りの人も救おうと行動している点は好印象だ。

 

「でもほんとに人間やめてるね?」

「何も覆わない大星の言葉にはいっそ清々しさすら感じるわ」

「須賀だけに?」

「マハブフダインを放つのはやめてくれ。凍えるわ」

「ごめんごめん! でもほんとすごいや。ねね、私でもそうなれるのかな?」

 

 淡の問いかけに京太郎は少し考えこみ、照と菫の2人を見てから頷くも「やめたほうがいい」と言った。

 

「えーなんで? だってあんたみたいに力があれば私だって」

「おすすめはしない。ずっと命張ってなきゃいけないから」

「でも今の京太郎は違うじゃん」

「そりゃ強くなるために戦ってきたからだって。実際1ヵ月前の戦いで俺は一度死にかけた。あぁ、正しくは三途の川は見たから9割は死んでたかな。俺みたいになるっていうのはそういうことだよ。いやだろ?」

「そ、それは、いや!」

「だろ? だから守られてろって。そうすればきっと日常に帰れるはずなんだ」

 

 事件後のごたごたにさえ目を瞑れば淡たちは日常に帰れるはずである。だがそれも生き残れればだが。

 

 そのあと魔法を行使する気分とか照が興味津々に聞いてきたりしたが、おおむね平和に目的地へと近づいていた。

 そしてあと少しで東京国際フォーラムが見えてくるという位置で襲い掛かってきた悪魔たちを撃退し、暴走COMPを破壊しようとした京太郎に1人の男が声をかけてきた。

 男は年下である京太郎に向かって下手に出ながら言った。

 

「な、なぁ。それがあればもしかしてあの化け物を使役できるのか?」

「……なんで?」

「あんた、あの女の子たちと話している時言ったろ? 暴走ってさ、なら暴走してなきゃあの化け物たちを使役できるんじゃないかって考えたんだよ。で、どう? あってるか?」

「……さぁね」

「それにあんたも付けてるじゃないか、その腕にスマホをさ」

 

 男が見ているのはガントレットに取り付けられたCOMPである。

 これ以上誤魔化すのは無理かと考えた京太郎は同意した。

 

「そうだよ。で、それを知ってどうする?」

「それがあれば俺だって戦えんだろ? ならさぁ、この状況下だしくれてもいいんじゃねぇか?」

 

 男の眼に怪しい光が宿っている。

 男の服装だが決してきれいなものではなく、髪もボサボサ。京太郎はてっきり悪魔が起こした何かに巻き込まれたのかと思ったが、ツンと匂う男の体臭からそうではなく、ホームレスであることに気づいた。

 

 男の素性がどうであれ考えなければならないのは対処についてだ。

 COMPを渡すのは論外。だとすればどうするかと考えると男がCOMPに手を伸ばした。

 

「渡せよ、それがあれば俺だってお前みたいに……。人生が変わるんだよぉ!」

 

 濁った男の眼に映る光の正体は憧憬だ。

 ホームレスになり、誰からも見向きもされない男にとってただのガキでしかない京太郎の戦う姿を見る人々の視線は羨ましく感じさせた。

 例えそれが人に向ける視線でなくとも、誰かに視認されたかったのだ。

 

「なら」

 

 軽くあとずさり京太郎は言う。

 

「次に悪魔……化け物たちがでたら戦ってください。ただし俺は武器も何も貸さないし手助けもしない」

「俺に死ねってか!」

 

 怒号に怯むことなく京太郎はうなずいた。

 

「生きるために死に向かう。そうでなければ強くなれないですから」

 

 京太郎が覚醒したのは生きるために死に向かって戦いを挑んだからだ。だがそれ以降の戦いはまるっきり意味が変わる。

 敦賀学園の異変も、龍門淵の異変も、それ以降の依頼についても、生きるために立ち向かうのではなく、強くなるために死に向かった。

 

「さぁ、行ってください。そうできるならこれを渡します」

 

 僅かな殺気と共に言ったその言葉を聞いた男は後ずさった。

 

「ば、ばかじゃねぇのか、お前……そんな」

 

 フッと笑ったのは男に対してではなく、自分に対してだ。

 

「バカじゃなければたぶんこうなってませんから」

 

 意気消沈した男に背を向けて、京太郎はCOMPを握りつぶした。

 サマナーである自分と一般人である男を比べた。

 自分のことをバカだと言った京太郎だが本音は違う。生きるために戦えない者のほうがバカなのではないかという考えがよぎる。

 彼らは今京太郎に生殺与奪を握られそれでもなお良しとしており、それが理解できないでいた。

 

 最前列まで戻り再び照たちと話をしていると不意に答えが出た。

 理解できない自分だから今こうしてサマナーとして生きているのだと。






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