デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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お久しぶりです。
お気に入り登録、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
本当はGWに更新する予定だったけど高熱が出てノックダウン。
それに加えてやはり今回のような話を書くのは苦手ってのもあります。
書いても書いても書き直して今日に至ります。


『進む道』

「んー、大丈夫かなサマナー」

「問題はないじゃろ。生体マグネタイトが枯渇しかけとるがそれで即死する訳じゃないからの。疲労から寝とるだけじゃよ」

 

 倒れた京太郎を背負い運んでいるのはアスラだ。

 ドミニオンは辺りを警戒しつつプロメテウスとイシュタルがアスラの両横に陣取っている。

 半身を砕かれた京太郎の上半身の装備は半壊し防具の形を成していない。それでも不思議なのは京太郎の持つCOMPは傷一つなく無事な点だろう。

 砕かれたのは左半身。京太郎の左腕についていたガントレットに装備されたCOMPにも被害が出てしかるべきで、実際ガントレットは部分部分砕かれており傷はあるがCOMPについては問題はない。

 それぐらい頑強でなければ困るが頑強すぎても不気味であると感じるのは贅沢な話か。

 

「萩原。サマナーを頼んだぞ」

「お任せください。ヤタガラスとしても戦力になる須賀くんを放置はしないでしょうからご安心を」

「じゃろうな」

 

 結界の前まで移動したアスラから京太郎を受け取り背負った。

 東京国際フォーラムに張られている結界は悪魔の存在を拒む。その理は当然京太郎の仲魔であるイシュタルたちにも適用される。

 そこで結界の前で京太郎を預ける誰かが必要なわけだが、戦う力を持ち信用できる者は限られ数少ない該当者がハギヨシであった。

 

 ハギヨシの横に移動するとプロメテウスが京太郎のCOMPを操作し仲魔の送還処理を行った。

 イシュタルたちの体を構成していたマグネタイトは大気に還り彼女たちの意思はCOMPへと向かう。送還処理が無事完了したことを確認するとハギヨシは京太郎を伴い結界内へと歩き出した。

 

「ハギヨシ! 京太郎は無事か?」

 

 真っ青な顔色で向かってきたのは天江衣。

 ハギヨシは入り口前に用意された担架に京太郎を乗せると答えた。

 

「問題はありません。減少した生体マグネタイトと疲労の回復のために眠っているだけですから。なので十分な休息を取れば明日にでも全快するでしょう」

「そうか……よかった」

 

 ホッとしている衣を見やってからハギヨシは自身が着ていた上着を京太郎にかけた。

 真夏日にきっちり礼服を着こなすハギヨシだが当然細工はされており威力が調整されたブフが装着者の体を冷やしてくれる。

 いくら異能者であっても暑いものは暑い。だが対策が出来るのならばどうということはない。

 ちなみに真夏日だから京太郎に上着をかける必要はないのでは? と思うかもしれないがそのあたりはTPOに配慮した形だ。男だからと半裸の少年を放置してはいけない。

 

 衣は青白い表情で眠っている京太郎の頬に手を当てて言った。

 

「衣の時よりずっと強くなったと言っていたがやはり油断できないのだな」

「相手は格上でしたし護衛による疲れもあったからですね。見逃してもらった所もありますが生き残ることが出来たのですから結果としては上々でしょう」

 

 生き残りさえすれば勝ちと言えるのは悪魔と関わってきた者だから言える言葉だ。

 実際腕や足が無くなっても義手を用意すれば済む話だ。

 とはいえ義手・義足の場合蘇生魔法による復元が出来なくなるデメリットがあり継戦能力が減るためやはり生身の体が一番なのだが。

 

 咲たちに京太郎は大丈夫だと豪語していた彼女だが流石にタケミカヅチやガイア教の猛者と戦うことまで読めていたわけではない。

 タケミカヅチに刀で貫かれ、男に腕がねじ切られかけ、破戒僧に半身が砕かれた時は京太郎が居なくなってしまうのではないかという恐怖に襲われた。

 よくよく見れば彼女の眼は赤く充血しており、頬には水滴の後も残っている。それでも笑顔なのは京太郎の無事がうれしいからだ。

 

「久しぶり、天江衣」

「……む? チャンピオンか。息災……いや災難だったな。ハギヨシ」

「はい。どうぞ」

 

 ハギヨシはどこからか取り出したキンキンに冷えた水の入ったペットボトルを照たち3人に手渡した。

 

「ん!? む、すまない。ありがとう」

 

 ハギヨシの良く分からない特技を目にし狼狽えた菫だったが、そろそろ夕方の時間帯とはいえ真夏日の暑さ。目の前には美味しそうな水という誘惑には勝てず手を伸ばし一気に飲み干した。

 頭はもちろん、喉も冷気で痛くなるほどの冷たさだった。それでも飲み干したのは喉が渇いてたせいもあるが今まで感じていた不安や恐怖を水と一緒に飲み干したかったからだ。

 

「あー! すごくおいしい!」

「大丈夫?」

「……なんだ。安心したら腰が、な」

 

 笑顔で水を飲む淡と安心から座り込んだ菫を心配する照。

 安全な場所で水を飲んだことで緊張感がほぐされた結果緊張感が解けてしまったのだろう。水を飲み終えた淡は恐怖から安堵への急転直下により高鳴る心臓を無理にでも押さえつけようとして、座り込んだ菫を心配する照の手もよく見れば震えている。

 

「少し時間をおいてから案内した方がよさそうですね」

「無理もあるまい。衣も同じ境遇になればああなるぞ」

「そうかもしれませんが、ご安心ください。そんな可能性はありませんので」

「うん! 信じているからな」

 

 信じているという言葉の中にはハギヨシだけでなく京太郎も含まれている。

 近くに居るハギヨシ、状況を解決するために動いているヤタガラスと京太郎が居れば絶対に大丈夫だと衣は思っている。まぁ、ヤタガラスに関してはおまけ扱いだが。

 

「とはいえ須賀くんももう少し強くならなければ厳しいでしょうね。この状況では嫌でも強くなるでしょうが」

「……どうにかならないか?」

「悪魔と合体して悪魔人に! とは彼の仲魔はともかく、衣様も私たちも彼自身も望みません。デビルサマナーが取れる即効性のある強化方法は限られます」

「そんな方法があるのか?」

「悪魔合体です。そのうえで現状より強くなるならアプリの力を借りなければならないでしょう。こうなるとパラケルススがこの場に居ないのは痛いですね」

 

 デビルサマナーの基本は交渉・戦闘・合体である。

 異界の情報を前もって取得していればメタ構成で悪魔を用意し戦い完封を狙うのが基本だ。用意した悪魔の耐性が完ぺきであればレベル差さえも容易に覆すこともできるがそのためには悪魔合体が必須で、それを補助することが出来るのがアプリだ。

 悪魔合体やアプリをCOMPにインストールすることが出来る稀有な人間の1人がパラケルススであり、彼のような人間と親密な関係になるのはデビルサマナーとしては有意な点になるが悪魔合体をする人間がまともであるはずがないため、仲良くしようと思ってもなかなかできるものではない。

 当然合体可能な人はここにも存在するが京太郎と相性が良いかは話は別だ。

 

「どうにかならないか? 衣は京太郎に死んでほしくないんだ」

「ターミナルさえ動いてれば。ですが対策されているでしょうからね」

 

 ターミナルでの移動が可能であれば帝都の外と行き来が可能になってしまう。

 

「萩原の言うとおりターミナルは使えないよ。さて、少し退いててもらえるかい?」

 

 近くに来たトシが取り出したのは魔石からマグネタイトを抽出し照射する器材である。

 人間が生み出す生体マグネタイトを増やす効力がある。これを京太郎に取り付け器材を起動させた。

 

「暫くすれば起き上がれる。若いんだから生体マグネタイトの回復量も高いだろうしね」

「感情をコントロールできないからこその思春期ですがサマナーにとってはある種の全盛期ですね」

「ライドウも須賀くんも今が一番強くなる時だ。彼らが強くなることだけを考えればこの事件はちょうどいいが……」

「帝都に住む人々及びこの日の本を犠牲にしてと問われると比べちゃいけませんね」

「まったくね。経済的ダメージも含めて考えると頭が痛くなるよ」

 

 帝都は日本の中心である。当然経済に関しても同一でありたった一日帝都が機能しないだけでも経済損失は想像を絶する。

 付け加えるならば経済だけではなく諸外国との関係の問題もある。日本にはスパイに関係する法律が存在しない。いかにヤタガラスが排除を行おうともそれは裏からであり表立って排除することはできない。滞在しているスパイたちから現状の帝都の情報も諸外国へと情報は連携されているだろうし考えれば考える程トシは頭が痛かった。

 

「とにかく須賀くんが今日得た情報も知りたいが難しいかね」

「少なくとも5時間は寝ているかと。途中起きたとしてもすぐに倒れてしまいますが、情報交換であればプロメテウスを喚べば問題はないでしょう。彼ならば須賀くんの命令でなくとも必要であればこちらの要請も聞いてくれるでしょうから」

「自由意志ってのも困りもんだが今はありがたいか。プロメテウスを召喚しよう」

 

 COMPのメリットでもありデメリットでもある点がこれだ。

 COMPはあくまで科学であり使用者の制限は可能だがしていなければ誰でも操ることが可能である。

 

「……まぁ別に構わんのじゃがな」

 

 誰でも操ることができるとはいえ契約している悪魔がそれを快く受けるかは別である。

 それはプロメテウスも同様であり京太郎以外の人間に召喚されることに少々の不快感を表していた。

 

「申し訳ありません。ですが今は情報の共有を一刻も早く行いたく」

「分かっとるわ。じゃがそれと心情は別じゃからな……わしならともかくイシュタルなら暴れとるぞ」

「えぇ、ですから貴方を選んだのです。もう1人、ドミニオンは少々派手ですからね」

「古の時代の姿でも羽根が生えとるからのー。わしゃ昔から爺さんじゃが。さて情報じゃったな……」

 

 それからプロメテウスが伝えたのは本日あった出来事である。元々毎日情報を連携していたこともありそこまで時間はかからなかった。

 その中でヤタガラスが最も注視したのは瘴気についてだ。瘴気のサーチを行うことができれば暴走COMPと化したスマホの破壊は容易となる。そうなれば現状における問題点の一つは解決することができるはずだ。

 

「『東京封鎖』か。言いえて妙だね」

「儂らはこの言葉の詳細を理解しておらん。聞かせてもらえるかの?」

「四天王の結界の効果が反転しています。本来であれば魔を弾き人を受け入れる結界が反転しているんです。ただし四神の結界は正常に動作しています。つまり……」

「人も魔も弾く……つまり言葉通りの東京封鎖と言う訳じゃの。洒落が効いとるわ」

「えぇ、まったく」

 

 嫌味もなくハギヨシがほほ笑んでいるのは彼からすればヤタガラスの失策はどこ吹く風のものでしかないからだ。

 事実トシは苦々しく何かを噛み締める様に眉をひそめている。彼女だけではなくヤタガラスに属する人間であれば同様の反応を示すだろう。

 

「しかもヤタガラスから離反者が出ている可能性もありますから洒落は更に磨きが掛かりますね」

「はー。昔と比べてるとかなり劣化しとるの。いや、昔も確かヤタガラスから離反者が出たせいでいろいろと問題が発生しとったか。晴明とか宇宙生物とか」

「今も昔も人は変わらないという証左でしょう」

「それでこの後どうするつもりなんじゃ?」

「部外者の私が言うのもあれですが、まずは人々の生存範囲を広げることになるでしょう。その後四天王との契約を結びなおし結界に関する権限を手に入れその後大元の対処ですね」

「範囲を広げんと人が死に過ぎ、結界に関する権限を取り戻さんと最後に何をしてくるかわからん。ならそうもなるか」

 

 現状四天王の結界はその役割が反転こそしていても、四神の結界には作用していない。

 だが万が一四天王の結界が四神結界に作用し四神の結界が破壊されるようなことになれば、悪魔たちが日本いや、世界に散らばる可能性さえある。

 生存範囲を広げるのは現状インハイ会場であるここが最も戦力として充実しているからだ。ここを中心として結界を広げれば他で生き残っている人たちも救い上げることが出来る。最もそのためには暴走COMPと悪魔に対する対処が必須だが。

 

「大変じゃのう。生きる力を持たぬ人間なぞ見捨てればいいだけじゃ」

「そうもいかないのがヤタガラスで、それを見過ごせないのが貴方のサマナーでしょう?」

「まったくの。じゃからこそ面白いんじゃがな」

 

 プロメテウスからすれば有象無象の人間なんてどうでもいい。

 京太郎は化け物と呼び捨てる者たちに守られるしかない人々に疑問を持つ程度で済んでいるが、その思考をさらに発展させたのがプロメテウスというよりその本体の考えと言える。

 つまり、戦う力を持たぬ者たちは生きる資格はなく、それでも生きることができる弱者とは強者に存在を許されたものであるという考え方だ。

 京太郎に恐怖しながらも彼に付き従い生き延びた一般人は京太郎に生きることを許されたからという見方もでき、秩序側でも混沌側でもそれは変わらない。

 彼らを護る理由が、言葉が違うだけでありその本質は力を持つ者のみが許された行動だからだ。

 

 最初は休まる時間を求めて分霊を人間界に差し向けたプロメテウスにとって、今の楽しみは京太郎がいずれ出すことになる選択の行先だ。

 それが例え自分と異なる思想、道であったとしてもプロメテウスは構わなかった。メシアの居ない現状において唯一神との決着をつけるためのラグナロクは未だ起きず、京太郎の選択で自分たち混沌の勢力と絶対的な敵対関係とはならない。

 付け加えて言うのなら秩序に偏っても、偏ったからこそ自身との契約をずっと叶え続けるだろうという考えもあった。

 普通に過ごしている分にはどんなアライメントであっても、一定の理解があれば分かり合えるということはプロメテウスは知っていた。

 彼はとある物を天使でも悪魔でも人であっても扱うように広めようと尽力した結果、天使とも話し合ってきた経験があるのだから。

 

「サマナーの強化についてじゃが萩原の考え通りであっとるの。恐らくサマナーはあれを求めるじゃろうから、できる限り格安で手に入れたいんじゃが。防具もぶっ壊れたから買い替えんといかん」

「そろそろ替え時でしたから丁度いいとは思いますが、それはそれこれはこれですね。パラケルスス、あの変態はいて欲しい時にいてくれなくて困ります」

 

 京太郎が求める物も防具も決して安くはない。

 特に防具は効果が良ければ良いほど高くなり、京太郎のようにベストといった軽量装備に性能を求めると更に値段が跳ね上がる。

 

「変態とは失礼だな。まあいい、それで呼んだかい?」

 

 そう言いながらメイド服を着た造魔マチコと、彼女よりは生命力を感じる表情に金の長い髪を持つ少女を伴い現れたのはパラケルススだ。

 唖然とするハギヨシたちの横をすり抜け少女は京太郎の近くに駆け寄ると心配そうに彼の顔を見ている。

 

「手を握ってやると良い。彼と君の相性を考えればそれだけで効果があるだろう」

「……ん」

 

 その小さな手で京太郎の手を必死に握りしめる少女を見て満足そうに頷くのはパラケルスス。

 その近くで少女の姿を見た宮永照が「うそ……」と小さく言葉を零したがそれに気づくことなく、パラケルススにプロメテウスが声をかけた。

 

「なんじゃ来とったんかい」

「数時間前にね。あの子がサマナーと会えず寂しそうにしていたからターミナルで長野から来たんだ。ちなみにターミナルはもう動いていないぞ」

「じゃろうな。しかしタイミングばっちりじゃったな?」

「戦闘が終わったのを確認してから来たからね。しかし今のサマナーの様子を見るに思ったよりもまずい状況のようだ」

「細かい話は後で話すとするが主に頼みたいことがある」

「分かっているよ。私に頼むということは悪魔合体かアプリに関連しているのだろ? 悪魔合体に関しては私の研究設備が帝都にもあるからそこで行うとしてアプリはノートPCを持ってきているから対応は可能だ」

「分かった。ならば……」

 

 パラケルススに要望を伝えようとしたときプロメテウスの動きがまるで時でも止まったかのように停止した。

 コツコツと音を立てて向かってくる一人の女性が原因だがハギヨシたちにはそれを察することが出来なかった。

 脂汗まで流すプロメテウスに怪訝そうに「大丈夫ですか?」とハギヨシが問いかけようとした時だ。

 

「京ちゃん!」

 

 衣もよく知る少女の声がエントランスに響いた。

 宮永咲は全力で走ってきたのだろう、彼女は運動能力は低く肩で息をしながら倒れる京太郎を見て顔を青ざめ静止するも、胸が上下に動いているのを見て生きていると安堵した。

 

「京ちゃ」

「行かせないぞ」

 

 浮つく足を必死に動かしながら手を伸ばす咲の前に立ちはだかり手を広げて止めるのは天江衣だ。

 久方ぶりに見る少女とは思えない程の威圧感に加え、少し赤く充血した瞳を見た咲は蛇を想起した。

 

「京太郎が戦うのを止めに来たのだろ? 私はそれを許せない」

「な……」

 

 その強い拒絶に一瞬たじろいだ。

 なぜ咲が真っすぐここへやってこれたのか衣には理解できない。だが咲の目的を察せない衣ではない。

 奥歯を噛み締め胸元に持ってきた手を強く握りしめながら咲は言う。

 

「衣ちゃんも見てたんだよね? 京ちゃんが……!」

「腕がねじ切れそうになったことか? 半身が砕けそうになったことか? 知っているぞ」

「なら! なら止めてよ! 生きているのが不思議なくらいなんだよ!」

 

 咲の脳裏には死にかけた。いや、死んだと形容してもいい有様になった京太郎の姿が焼き付けられている。

 腕があり得ないほどぐちゃぐちゃになり血が流れ、半身が砕かれ、京太郎の中まで見ることさえ可能なグロ映像とそれが再生していく様はまさにトラウマである。

 親しいものに酷い目にあってほしくない。それは常人が抱く普通の考えであり思いやりだ。

 

「そうだな。衣も京太郎には怪我をしてほしくない」

「なら!」

「でも。それを京太郎自身が望んでいないことを衣は知っているんだ。だから止めさせない」

 

 自分の身を危険においてでも戦おうとする少年の姿を天江衣は知っている。

 語るまでもなく他ならぬ衣がその姿に救われた人間の一人だからだがそれは言い訳に過ぎない。

 なぜサマナーとして生きると決意したのかその理由を衣は知らない。けれどデビルサマナー須賀京太郎だからこそ龍門渕と繋がり衣の近くに京太郎は居る。

 清澄高校の須賀京太郎では自分と居る理由はないと衣は理解しており、懐かしい匂いと気配を感じる大事な恩人との繋がりが絶たれる事を衣は恐怖した。

 

 どれだけの恐怖であるかといえば、大切な友人の繋がりを絶ってでも自分の繋がりを護ろうと思うぐらいにその想いは強かった。

 

 そこまでの想いを咲は知らないはずだ。

 それでも衣が強い意志でもって自分の嫌がることをしようとしていることを理解した。

 咲はそれを許容することはできない。なぜならそれは自分が取り戻そうとしている繋がりと同じぐらいに大切な物だからだ。

 

 咲が強い言葉で衣を強談しようとしたとき、背後から幾つもの足跡が聞こえた。

 それは咲と共に外の戦いを見ていた面々だが、その内の一人を見たプロメテウスが「は?」と珍しく間抜けな声をあげた。

 

「ふふふ。ボーイミーツガールのその後といった感じで面白いものだな。恋はないがそれでも少女のために戦った少年とそれを知らぬ少年を知る少女の話だ。これもまた一つの物語の形かな」

 

 魔性とも言える美を振りまきながら言うはルイ・サイファーだ。

 辺りに居たヤタガラスの退魔士たちがまるで魔法を受けたように魅了される中ただ一人プロメテウスのみが「は……? は? え? は?」と脳の機能をバグらせていた。

 

「ルイ・サイファーだって? 姿を消した最強の雀士がなんでここに居るんだい?」

 

 トシが困惑の声を上げる中「そいつは人間じゃないじぇ!」と大きな声をあげたのは片岡優希だ。

 倒れる京太郎を見て眼を細める彼女だが、まず伝えなければならないことを声に出していた。

 

「人間じゃない? だがこの気配は人間そのもの……」

「いえ、待ってください。確かに神経を尖らせた上で探れば分かります。確かに彼女は人間ではない……。劣化分霊……それも人間によく似せたものですか」

 

 拍手をしながら満足そうに頷きルイは言った。

 

「当たりだ。さすがは元葛葉の人間だね。昔は紳士の姿をしていたのだが昨今は女性の姿の方が怪しまれなくてね。まぁ私からすれば男も女も些細な違いでしかないのだが。安心していい、今の私は人の女性ほどの腕力しかないから大したことはできないよ」

 

 そう言われて警戒を解く奴は居ない。

 そもそも悪魔とはその口のうまさも警戒しなければならない。例え力なくても、その口車に乗り破滅の道に至るのはよく聞く話だ。

 それに劣化分霊なら本体が居るはずでハギヨシクラスの人間が注意深く探らなければ気づけないほど精巧な人間の身体を用意する彼女を警戒しない理由はない。

 

 ルイ・サイファーは倒れている京太郎を見ると残念そうにため息をついた。

 

「色々と話したいと思っていたが倒れているか。無理もないが」

「あなたの狙いは須賀くんですか?」

「狙いとは人聞きの悪い。劣化分霊とはいえ部下が世話になっているのだから世話をしているサマナーに礼を言いたいと思うのは当然だろう? そうだと思わないかい? そこで固まってる魔神」

 

 全ての人の視線がプロメテウスへと向けられた。

 プロメテウスはギギギという音が聞こえるほどに硬い身体を必死に動かしルイを見据え言った。

 

「なーんでおるんじゃ……」

「最近本体のマグネタイトの質が上がったことには気づいたからね。君のストレスが和らいでいるようで何より」

「上司がええからのう。お陰で労わってくれるわい」

「ハハハハ。正面から褒められるとむず痒いね」

「言うまでもなく褒めとるのはサマナーに対してで貴方にではないわい」

 

 ため息をそして悪態をつきながらもプロメテウスは『貴方』と言った。

 どんなに劣悪な環境に置かれても彼らにとって強さこそが正義でありプロメテウスの本体よりも強いのがルイの本体なので当然の対応だ。

 逆に言えばプロメテウスの方が強ければ手のひらは簡単にクルっと回転する。

 

「う、ぐ……」

 

 そんな中うめき声と共に起き上がろうとしているのは京太郎だ。

 真っ青な顔で口を抑えながらも身体を動かそうとする彼の身体を光は押さえつけようとするのだが小学生ほどの力しか持たない彼女では体調が最悪な京太郎でも抑えることは不可能だった。

 

「この、気配は……?」

 

 京太郎が起き上がろうとしている原因は不穏な気配を感じたのが原因だ。

 それはハギヨシの警戒心であったり衣や咲のいがみ合いの感情であったり様々だが最も強い原因はプロメテウスとルイ・サイファーだ。

 いつもとは異なるほど歪んだ気配を放つプロメテウスの変化に倒れていた京太郎が反応した形だ。

 

「京ちゃん!」

 

 寝ていてよいと声をかけようとしたプロメテウスよりも早く反応したのは咲だ。

 京太郎はその声と彼女の顔を見て「あぁ、バレたのだな」と理解し納得した。

 

「京ちゃんもうあんなのやめてよ……」

「……咲。分かってるだろ?」

 

 マグネタイトが枯渇し動いてはならない身体を酷使し立ち上がりながら京太郎は言う。

 

「分かりたくないもん! うん。って言ってくれるだけで良いんだよ!」

「そういうわけにはいかないって。いや違うか。そうしたくないんだ。他ならない、俺自身が」

 

 それだけで咲には伝わってしまった。

 たとえどれだけの言葉を投げかけても自分の言葉で京太郎は決して止まらないと。

 

「……嘘つき。ずっと一緒に居てくれるって言ったのに」

「それはごめん。勢いで言った部分だ。本当はもう2年は居るつもりだったのにな」

 

 別れはもっと先だと思っていた。

 姉と仲直りできれば友人もできた咲に対して京太郎の憂いは消える。あとは高校卒業と大学生活で疎遠になるなんて言うのはよくある話を利用する予定だった。

 京太郎の内心を理解しつつも、涙声も咲は訴え続ける。

 

「見てたよ。腕が取れかけて京ちゃんが粉々になっちゃうところ」

「ごめん。グロかったよな。でもいつもああなるわけじゃなくてさ。今の俺にはアレが最善手だったんだ」

「知らなかった。こんなことしているなんて」

「俺だって咲があんなに麻雀強いなんて知らなかったよ。鴨連れてきたぜーなんて俺とんだピエロだったよな」

「……あのさ私が麻雀してなかったら京ちゃんは」

「それでもきっと同じだったかな。俺が咲を麻雀部に誘って、俺が居るからって理由で咲も麻雀部に残って咲が初心者でも清澄の皆なら決勝まで行っていた」

 

 そうなれば後は同じだ。

 優勝したのはおそらく龍門渕で龍門渕主催でパーティが行われそこに京太郎は居ない。

 京太郎が麻雀に興味を持った時点で運命は決まっていたのである。

 

「これを、COMPを手に入れて巻き込まれる形で戦ってサマナーになるって決めてさ」

「……やだ」

「最初は巻き込まれて生き残るためだった。次も巻き込まれてそれでも護りたいって思って戦って、次は自分の意志で戦いに向かった」

「やだよ……」

 

 顔を手で覆って拒絶するように首を振る咲に京太郎は続ける。

 

「仲魔……咲たちにとっては悪魔、怪物だけど。そいつらと一緒に過ごして、衣さんが大変な目にあうって知って、そこで道を決めて、東京に来て俺のせいで普通の人が死んだんだ」

 

 ゲオルグとの一件は京太郎にとってとても強烈で印象的だった。

 悪魔と合体され自らの手で葬った母子は初めて救うことが出来なかった人々だった。

 

「それだけじゃない。今東京中が大変なことになってて少しでも人手が必要で助けてって俺に言った人たちが居て、俺は助けたいって強く思ったんだ。だってさ」

 

 全てを護ることはできない。

 それでも例え力を持つ自分が否定され拒絶されてもただ一言「ありがとう」と言われた嬉しさを京太郎は決して忘れない。

 京太郎自身が巻き込まれた異界。桃子たちと共に巻き込まれた鶴賀異変。神を崇めた者たちと力に恐怖した老人が起こした龍門渕異変。神代小蒔の拉致と宮守、阿知賀高校の拉致未遂に母子の悪魔化と殺害にそれらを原因たる東京封鎖。

 それらに共通する言葉は一つだ。

 

「俺はそんな『理不尽』に巻き込まれた人たちを助ける力が欲しいと思ってデビルサマナーになる道を選んだんだ。だから何を言われても止まらない」

 

 それが京太郎の戦う理由だ。

 例え咲の言うことを聞いて戦うことをやめたとしても目の前で誰かが悪魔によって傷つくところを見たなら京太郎は動くだろう。

 

「それにさ、咲。俺は宮永照さんの代わりにはなれないよ」

「……あ」

「だから俺がどこかに居なくなるかもしれないって思った時必死になったんだろ?」

 

 咲にとってずっと一緒に居た照が突然居なくなったのは一つのトラウマだ。

 だから京太郎が居なくなるかもしれないと思った時照を想起して必死になった。

 

 呆然と口を開ける咲に「やっぱりな」と思いながら京太郎は優希と和を見た。

 

「つーわけでさ、咲を頼むな。俺はもうその役割はできないからさ」

「何言ってるんだ! この事件が終わっても一緒に居ればいいだろ!」

「……色々あってそうもいかないんだ。だからごめん、頼んだ」

 

 ゲオルグに狙われた時点で京太郎の運命は決定した。

 東京封鎖の中ゲオルグは京太郎を狙うだろう。そして嫌でも決着をつけることになり、京太郎がゲオルグを倒した場合京太郎の名は裏の世界に響くことになる。

 そうなれば京太郎を引き入れようと数多の組織が動き京太郎の親しい人間を人質にする可能性がある。

 なら戦わなければ良いと思うかもしれないがその選択をした場合ゲオルグは京太郎を戦わせるために近しい人間にちょっかいをかけ最悪咲たちが犠牲になる。

 東京封鎖がどのような決着になるか不透明だが京太郎が生き残った場合の結果は既に決まっている。

 

 ふぅと一息ついた。

 その瞬間頭がぐらりと揺れ自身の限界を自分のみならず他者にも知らしめした。

 それでもルイ・サイファーを見据えながら京太郎は言う。

 

「あんたがプロメテウスの本体の上司?」

「そうだよ。部下がお世話になっているね」

 

 京太郎は過去にプロメテウスに対してこう問いかけたことがある。

 

 『俺もレベル40になったしそろそろお前の本体を喚べるぐらいになったか?』

 

 京太郎にとってみれば軽い問答。レベル40ともなれば魔王も、魔神も、大天使さえも従えさせることが出来るほどの実力者となった。

 普通に考えれば充分ともいえる力量。それに対しプロメテウスは言った。

 

 『甘いわ。まーだまだ半分にも届い取らんわい』

 

 冗談交じりに言った言葉は決して嘘ではない。

 そしてプロメテウスが人間界に現れた理由は上司からのパワハラによるストレスが原因だ。

 魔界はガイア教のように弱肉強食の思想がはびこる混沌の世界だ。その世界で上司と呼ぶのならつまり、プロメテウスの本体よりもその上司は強い。

 その事実を認識しながらも京太郎はプロメテウスと過ごした2か月の月日を脳裏に浮かべながら言う。

 

「こいつに時々で良いから休みをくれ」

「……は?」

 

 笑みが凍り付いたように消え真顔で声をあげた。

 

「だから休暇だって。上位悪魔が音を上げる職場環境とかありえないって。こいつのサマナーとして俺はそれを望む」

「……私に望むのがそれかい? 私であればこの東京封鎖を終えられると思わないのかい?」

「その代償の方が怖いよ。それにそれはきっとマッチポンプだろ?」

 

 プロメテウスが前に言った上司が期待外れ云々の言葉を京太郎は覚えていた。

 今回の件と繋がっているか確証はないが言ってみたのだ。

 その言葉がハッタリだと気付いた上で大きなため息をつきながらルイは言う。

 

「……まったく惜しいことをしたものだ。分かったあの天に輝く明けの明星の名においてプロメテウスの本体についてはなんとかしよう。とても面白い言葉を聞けたお礼だよ」

「そっか。なら、よか、った」

 

 限界の訪れた京太郎がついに倒れた。

 必死に支える光を押しつぶさんとするところをハギヨシが支え横にした。

 

「まったくお前が羨ましいね。人は楽へ楽へと向かう気質があるものだが選ばずお前のことを願うとは」

「考えろとは口酸っぱく言っていたでな。ここで助力を願うなら叱らんといかん。まぁ儂について言及するとは思わなんだが」

 

 自身のサマナーが出した答えにプロメテウスは嬉しそうにうなずいた。

 軽く笑いながらその姿が透明になっていくルイにギョッとする面々を気にすることなくルイは言う。

 

「面白い物を見せてくれた礼だ。私が口にした言葉の意味だが今回の事件の首謀者の一人が人としての意識を消したためだ」

「消えた……?」

「転生者故に前世の記憶と魂と力に押しつぶされかけながらも抗うその姿はとても美しかったのだよ。だがそれが潰えた。だから期待外れだったのさ。しかしその力は本物だ、気を付けたまえよ」

 

 完全に姿を消したルイの気配はハギヨシでさえもう感じ取ることはできない。

 いつの間にかやってきた大沼秋一郎は深いため息をつくと京太郎の個室への搬送と散開を指示した。

 

 運ばれてゆく京太郎に手を伸ばそうとした咲に大沼は懐から取り出したデビルスリープを使用し眠らせるとこう言った。

 

「この嬢ちゃんも含めてあんたら須賀京太郎との接触は禁止な」

「……は?」

 

 その言葉にあっけにとられたあと、理解した優希が抗議しようとしたときに止めたのはまこだった。

 

「京太郎が戦力だからじゃ……ですか?」

「そういうこった。万が一戦わないなんて言われても困るからな。これが平時なら若いもん同士好きにやっていろってな話だがことは帝都……いやこの国に関係するからな」

「わしら個人個人の感情はおいとけと」

 

 個人の感情で言えば納得することはできない。

 例えそれが本人の意思であったとしても人が人を殺す事は許されないとまこの脳が語る。だがそれと同時にこの状況であれば仕方がないと考える自分が居ることにまこは気づいていた。

 京太郎を心配する自分と現状の状況を考えてまこが下した結論は。

 

「……分かりました」

 

 の一言に集約される。

 

「な、なに言ってるじぇまこ先輩! それじゃ京太郎が……!」

「その京太郎自身が望んどるのは聞いた通りじゃろ? それに国レベルと言われてはのう……」

 

 どう考えても感情を優先させていい問題ではなかった。

 納得できない優希を慰めるのは和だ。

 彼女にしても納得できる話ではないがそれでも優希ほど感情的になっていないのは論理的に考えれば当然の答えだったからだ。

 大して京太郎と親しくないからこそ感情的にならなかったとも言えるが彼女の本質は元よりデジタル思考にある。

 

「それにここは言うことを聞いた方がええじゃろ。下手に言えばわしらがここから追い出されてしまうかもしれん」

「で、でも……!」

 

 優希がここまで言うのは当然京太郎が砕け散る瞬間を彼女も見たからだ。

 友人の身体が砕け散る光景を思い出し酸っぱいものが込み上げるのを優希は必死に我慢した。

 

「久もそれでええな」

「え、ええ……」

 

 久にしてみれば思考が追い付いていない。

 想定外の出来事には弱い彼女らしい反応である。

 そんな彼女の背をポンポンと叩きながら咲を背負ったハギヨシを伴いまこたちはこの場を去った。

 

「これで良いんですの?」

 

 去っていく清澄勢の背中を見ながら透華が言う。

 

「須賀京太郎が言ったとおりだ。どうせ今回の事件が終われば全部忘れるんだ問題はねぇさ」

 

 そう言ってタバコを吹かしながら去る大沼の背中をため息をつきながら見送った。

 

 照たちもヤタガラスの人間に案内され姿を消し、パラケルススや衣に透華は運ばれる京太郎の後をついていく。

 エントランスにはもう誰も残っていなかった。

 

 

 

 




本当はもっと清澄勢の反応とか書きたかったけどテンポが悪い。
東京編に入ってから文字数も多くなりその割には話が進んでないのでいまさらと言えば今更ですが登場人物の多さが原因ですね。
サクサク話が進んでた長野編が懐かしいです。
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