デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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クロスオーバーするうえで話にいれやすいのは永水女子の巫女さんたちでしょう。彼女たちはガチでファンタジー世界の住人だから。
逆に一番使いにくいのは間違いなくのどっち。オカルト受け入れたらアイデンティティ壊れる。


だからすまんな、のどっち。


『別れと出会い』

 家に帰った京太郎を待ち受けていたのは両親の暖かな出迎えだった。

 こんな時間まで遅くなった理由をはぐらかしつつ、アギで燃えた上着を紛失したと伝えたところ当然のごとく怒られ、京太郎の小遣いで上着を購入する流れとなった。

 カピバラとカピバラのためのプールが用意された一軒家に住む須賀家だが、京太郎の金銭感覚が狂わないよう躾は厳格に行われた。

 そのため、京太郎からすればこの結果は予期されたものであり、頭を抱える結果にはなるがしょうがないと割り切った。

 

「えっとこれは……」

 

 次の日京太郎は予備の上着を着て清澄高校へ登校した。

 いつも通り授業を受けたつもりだが、友人の誠から「パソコン触ってるなんて珍しいな」と言われ「ちょっとな」とはぐらかすもこれは非日常だなと苦笑いした。

 放課後に、一旦職員室によってから旧校舎にある麻雀部部室に顔を出すと要件を伝える前に部長である竹井久から雀卓の前に座らされた。

 どうもさっさと帰った京太郎を心配した先輩――染谷まこが久に意見したことが切っ掛けらしい。

 「流石まこ先輩周りをきちんと見てるなぁ」と感心しつつ、今日に限って言えば余計なお世話だなと失礼なことを考えていた。

 

 「どうせすぐにとんで終わりだろ」と軽く初めた麻雀だがどうもおかしい。

 役しか覚えていない男須賀京太郎。こうなりゃ適当に国士無双でも作ろうと適当に牌を投げ捨てているのだが……。

 望んだ牌が勝手に手元に来る。

 その光景に最も驚いているのは染谷まこである。

 彼女は京太郎の背後につき教鞭を取ろうとしたのだが、どう見ても適当にやろうとする京太郎に怒りを抱き、次に眼を疑い、仰天した。

 京太郎が顔を引きつり始めてから数順後、京太郎は後ろに居るまこに視線を投げかけると力強く頷き国士無双を宣言。今度は他の面子を驚愕させた。

 

 それからも京太郎による『運』による無双が部活メンバーを蹂躙し初めて1位をしかも原村和を飛ばして終わらすという結果をもぎ取った。

 

 その結果に「当然だよ」と思ったのはピクシーだった。

 京太郎は既に一般人ではなく異能者。それは魔法が使えるということだけでなく、身体能力や『運』でさえも一般人を凌駕するということだ。

 この面子であれば何度やっても京太郎が一位をもぎ取り、原村和が最下位となるだろう。

 東場と言うこともあり、今の京太郎からもあがりを取れる優希。

 場さえ整えばカンからの嶺上開花で上がることができる咲であれば今の京太郎の運の前でもある程度点数を稼げる。

 だが適当に牌を捨てていく京太郎の前にデジタルが通用するはずもない和にとって京太郎は天敵だった。

 

 とはいえ。

 京太郎からすればこの現状は最も望まない事象であった。

 京太郎が麻雀を始めたのは、将棋やチェスと異なり麻雀は腕だけではなく、運という要素があることで素人がプロにも勝てる。という所に面白さを見出していたからだ。

 それが現状では、運さえあればプロだろうがなんだろうが蹂躙できると言う酷い有様であり、雑用続きで薄れ始めていた麻雀への興味にとどめが刺されつつあった。

 

『もう、ほらさっさと終わらせて外に行こうよっ! 私たちと遊んだ方が楽しいよ』

 

 そう言うのはノートパソコンに送還されているピクシーのぶーたれた言葉だ。

 ノートパソコンに居る悪魔ともこうして文字のやり取りができるらしく、『どうやってかは不明』だが電波がつながり続けるノートパソコンから、スマホへとピクシーたちの言葉を文にし送信している。

 実際京太郎も許されるならピクシーたちと外に行きたいが、まこの好意を無碍にするのはどうなんだと足踏みしていた

 

「もう一度打ってみたらどうじゃ? 二度同じ結果が出れば本物じゃろ?」

 

 京太郎は頷き再度麻雀を打つが結果は先ほどと同じ、京太郎が周りを蹂躙し終わりを告げた。

 

「なにかのオカルト能力かしら……? こう、今まで運が悪かったのを解放してるとか」

 

 何とも酷い言いぐさだが、実際運1と言う過去の輝かしい栄光の前では否定できない。

 

「そんなオカルトありえません!」

 

 久のオカルト発言をバッサリ切ったのは和だ。

 牌効率もなにもない京太郎に少しイラついている部分もあるのか何時ものSOAに比べて怒気が強い。

 それにしてもあの超常現象の塊だった県大会予選を見てもオカルトを認めないとはある意味すごい。断固としてオカルトを認めないらしい。

 

『むー、オカルトはあるよって炎出したい!』

『気持ちは分かるだが、見せた後の方が面倒だぞ』

 

 実際に見せてもそれでも認めることはないと感じさせる凄味が原村和にはあり京太郎は苦笑した。

 

「まぁオカルトがあるかは置いといて」

「ありえませんよ!」

「……『原村』も落ち着けって」

 

 京太郎の言葉にあれ? と首をかしげたのは咲だった。

 和のことを京太郎は『原村』と呼んでいただろうかと。

 

「俺実はちょっと用事がありまして……」

「あらそうなの?」

「はい。それでこの用事ってちょっと長くて、暫く部活は出られそうにないです。すみません」

「そうなんだ。どれぐらいかかりそうかしら?」

「さぁ。先方が満足するまで……ですかね」

「まぁ仕方がないの。もしかして今日無理やり打たせてしまったか?」

「いえ! 久しぶりに打てて楽しかったですよ。ありがとうございます、『まこ』先輩」

 

 帰り支度を始める京太郎に「こんどコテンパンにしてやるじぇ!」と突っかかる優希に「おっ楽しみにしてるぜ『優希』」と軽口を投げ。

 「それじゃまた明日な『咲』」と言って部室から出て行った。

 

*** ***

 

 人気のない所まで移動した京太郎はノートパソコンを取り出し召喚機能を用いピクシーを現世に呼び出した。

 カブソは寝ているとのことで、ピクシーのみ召喚した形だ。

 高校生男子がピクシーと居るのを見られると流石にまずいので(女の子の人形扱いも無理)カバンに隙間とタオルでクッションを作りカバンから外を見れるようにした。

 問題点はカバンの中という性質上揺れまくるという点だがそこは我慢してもらうしかない。

 

 京太郎は懐から取り出した退部届の用紙を頭上に掲げながらどうするかなと悩んでいた。

 もはや麻雀に対する興味は薄い。でもなぁと頭を悩ませている京太郎に対して。

 

「わぁ! やっぱり外はいいなぁ。異界とは全然違うもん」

 

 キャッキャッと騒ぐピクシーに京太郎は少々ヒヤリとしながらまずは清澄高校から自宅への帰り道をゆっくりと歩く。

 京太郎からすれば見慣れた何気ない道もピクシーからすれば、物珍しい景色に早変わりするらしい。

 

「そんなにちがう?」

「うん! こうして歩いてるだけで活性化したマグネタイトをすごく感じるよ」

 

 周りにあまり人は居ないんですがそれは。と思ったが住宅街のため、あまり見えないだけで家の中には人は居るのだろう。

 

「でもやっぱり一番いいのはサマナーのマグネタイトかな」

「そうなのか?」

「うん。だから選んだ部分もあるんだよ」

「んー、よく分かんない」

「サマナーはそのままでいいよってこと! あ、でも露骨に態度変えるのはよくないよ? 短髪の子が少し困惑してたよ」

「そうなんだけどな……」

 

 『そんなオカルトありえません』

 今までなら全く気にならない言葉だが今では違う。

 京太郎にとってピクシーやカブソは命をかけて共に戦った仲魔である。

 その存在を一切合切認めず切り捨てる発言をする彼女に良い感情を持てなくなっていた。

 

 京太郎は仲良くしたい相手を呼ぶ際に名前で呼ぶ癖がある。

 これは咲にも明言していないため彼女も知りえない話だ。だから優希は優希でまこはまこ先輩と呼ぶ。ちなみに久は部長だが久部長とは呼びにくいので部長呼びとしている。

 

「サマナーはあの子に憧れてたんだよね?」

「まぁ、見た目が好みだったし」

「なら良いんじゃないかな。憧れは好意だけど憧れてる人とは最も遠い存在になるんだからさ、今日初めて友人として見たんじゃないかな」

「そうなのかなぁ」

「えっと、つまり。うれしいけど私たちのせいで友人関係崩れるとかはいやだよ? ……うぅ、そうだ! ケーキ、ケーキ食べたいな」

 

 あちらこちらへと歩いていてよく分かったことだが、異界での戦いにより京太郎は運だけでなく、身体能力もかなり向上している。

 一時間以上歩き回っているにも関わらず京太郎に一切の疲れはなく、むしろもっと体を動かしたいと思うほどだ。

 そして成長したのは身体能力だけではない。

 

 後方から『気配を消して歩いている』存在を京太郎の感覚は感知していた。

 こそっとノートパソコンを操作するも反応は悪魔ではないことを確認している。

 

「人間かー悪魔より厄介かも」

「人間の方が?」

「異界を破壊したのがサマナーだと気づいたのかも。それで接触しにきた……とか」

「あいまいだなぁ」

「接触してみないとわかんないよ! 私ただのピクシーだもん」

 

 そりゃそうだと納得し、とある通り道にて一瞬で踵を返すと『気配を消して近づいてきた』存在に近づいたのだが……。

 

「うわっ! びっくりしたっす!」

「……女の子?」

 

 如何なる存在かと警戒したが一見するとただの女の子だ。

 毒気は抜かれたが警戒は解かずに「なんで気配を消して近づいてきたのか」と問いかけたところ。

 

「好きで消してるわけじゃないっすよ! 体質っす」

「体質で消せるものなのか?」

「知らないっすよ。気を抜くと部活の先輩たちにすら気づかれなくなるぐらいで困ってるんすよ、これでも」

「……そうなのか。それよりごめん。気配消して近づいて来るからその、ひったくりか何かかと思ってさ」

「昨今のひったくりは忍者かなにかっすか」

 

 この時点で京太郎はある程度の警戒を解いていた。理由は目の前の少女を見かけたことあるからだ。

 つい先日に行われた麻雀の県大会決勝で『いつの間にかリーチしてあがっていた少女』だったからだ。

 

 とにかく、ピクシーの言う警戒すべき人間の可能性は低いと考え京太郎は警戒レベルを下げた訳である。

 

 「それじゃこれで」と立ち去ろうとした京太郎を目の前の少女が呼び止めた。

 

「一つ聞きたいっすけど」

「はい?」

「私のことちゃんと見えてるんすよね?」

「見えてますけど」

 

 少女は少し考え込んでから「……ちょっと後ろ向いててもらっていいっす?」と言ったため、それぐらいならと京太郎は了承した。

 

 くるりと後ろを向くと後ろに居たはずの少女の気配が薄くなっていくのを感じる。

 時代が違えば忍者とか暗殺者に採用されていただろう特異な、彼女からすれば迷惑な才能に驚きつつも、京太郎の感覚は少女の気配を見落とさなかった。

 

「もういいっすよ!」

 

 少し強い言葉を出しつつも煩くは感じないことに訝しみながら後ろを振り向くが少女の姿はきれいに消えていた。

 何事かとあたりをきょろきょろ見回すと電柱の陰からじっと京太郎を見つめる少女の姿があった。

 同じように少女を見ていると、男に見つめられていることに慣れてないのだろう、少し照れながら電柱の陰から出てきた。

 

「……本当に見えるんすね」

 

 自分を見ることができる。

 そのことを咀嚼しつつ受け入れ始めた少女の内心は京太郎から察知することはできなかった。

 

「私存在感が昔からないんすよ。目の前に居るのに親にすら『桃子、どこ?』と言われる始末でして」

「……それは」

「本音言って良いっすよ。予想つくっすから」

「えっと、それはきつくないか?」

「うん。きついっす。だから私知りたいんすよ。なんで金髪さんは私のこと見えるんすか?」

 

 「異界で悪魔と戦って異能者として覚醒したからです!」なんて言おうものならぶん殴られそうだ。

 桃子の問いかけは切羽詰まってこそいないが、とても真摯な問いかけだからだ。

 

「正直よく分からない。ちょっと理由があって気配とかに敏感になってるからだと思う」

「そうなんすね……」

 

 しょぼんと肩を落とした桃子に悪いことしたなと思うが、京太郎にはどうしようもできない。

 まさか彼女の友人を異界に連れて行って「さぁ、命をかけて悪魔たちと戦ってくるんだっ! 思い切りの良さがカギだぞっ」なんて言えるわけもない。

 

「その、お名前聞いていいっすか? 言っとくっすけどナンパじゃないっすよ! 私のこときちんと見つけれる人は貴重なんすよ! だから……!」

「わ、分かってる分かってる」

 

 ナンパであっても京太郎からすれば良かったのだがそううまい話はない。

 美少女だし胸も大きいし同い年であったはずだから気兼ねする必要もあまりない。それに胸も大きいし。

 それを自覚すると必死に胸に視線がいかないよう自制しつつ、カバンに居るピクシーの「すけべー」という声が京太郎の耳に入り冷や汗をかいた。

 

「げふんげふん! 清澄高校一年の須賀京太郎だよ。一応麻雀部だけどしばらくは休部予定だけど」

「清澄……ってあっ、あのおっぱいさんとおっかない大将が居るところっすか!」

「そのおっかないはよく分からないけどそうだよ。みんなと違って俺はただの初心者だけどさ」

「……そうなんすね。あ、大会見てたなら知ってると思うっすけど改めて自己紹介させてもらうっす!」

 

「鶴賀学園高等科1年生の東横桃子っす。須賀さん、よろしくおねがいするっすよ」

 

 別れがあれば出会いがある。

 麻雀部を辞めることを選択肢に入れた途端に起きたこの出会いは京太郎の運命を一つ前に進めることになるのだった。


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