デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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お気に入り登録、誤字報告いつもありがとうございます。
ほんとは一話で一日目終わりまで書きたかったですが文字数多くなったので生存報告兼ねて更新。

タイトルは思いつかんかった。一話でまとめるつもりだったからね……。多分Part3まで続く予定。2は書けてるので一週間以内に更新して3は未定であります。


『東京封鎖1日目夜 Part1』

 京太郎に与えられたのは一人で過ごすには大きすぎる部屋で、実際この場に居る面々が自由にくつろいでいても窮屈さは一切感じない。

 個室が与えられた理由は、戦いの疲れを明日に残すなという意味もあるが装備の点検や仲魔たちを召喚しても良いようにだ。

 しかし防音性能はそれほど良くないのか、はたまた外が騒がしすぎるのか。部屋の外から聞こえる多くの人々が原因で起きる声や足跡が微かにだが聞こえる。

 そんな個室の中で京太郎が唸り声と共に目覚めたのは彼が倒れてから5時間後のことだった。

 

 少しだけ眼を開けて、蛍光灯の光に眼が眩み腕で庇うと影が入り込んだ。

 何事かと腕をどけて眼を見開くと、大きな眼でジッと京太郎を見つめる少女の瞳が眼に入った。

 未だ覚醒していない頭でぼーっと少女の瞳を見ると、瞳の中に自分が映っており不思議な気分に陥った。

 それから数十秒後「おはよう」という挨拶を少女に向けて言った。

 

「うん。おはよう」

 

 起き上がるために覆いかぶさるように自分を見ていた少女――光の肩を軽く押して京太郎は起き上がった。

 まだ少しふらつくのは寝起きのせいもあるがまだ完全には生体マグネタイトが補充されていないためである。

 だがそれも暫くすれば解消されるだろうと判断し、周りを確認すると京太郎の視界にパラケルスス、マチコ、ハギヨシ、衣、透華の姿が映った。

 

 ハギヨシは京太郎の唸り声を聞いたのを見計らい設置された冷蔵庫から冷えたお茶を取り出し京太郎へ手渡した。

 

「ありがとうございます」

「いえいえ。一気には飲まないでくださいね、まだ身体も万全ではないでしょうしお腹を壊して明日へ支障が出てもつまらないですから」

「それが原因で死にました。なんて洒落にならないっすもんね」

 

 死因胃痛。ギャグマンガであれば許されるだろうが現実では笑い話にもなりはしない。

 以前あった阿保みたいな死亡一歩手前の事故を思い出し京太郎は真顔になった。

 

「おはよう、というかこんばんはか? とにかく体調はどうだ?」

「おはようございます。ちょっとふらつくぐらいですかね。大丈夫です」

 

 衣と挨拶を交わしつつお茶を一口飲むとムセてしまった。

 お茶が器官に入ったのが原因だが体調が万全でないのも一因だろう。

 

「大丈夫ですか? 京太郎さん」

「大丈夫っす。まだちょっとだるいけど明日になれば回復してると思います。夜眠れそうになさそうなのが心配の種ですけど最悪はデビルスリープ使って無理やり寝ます」

 

 本来であればドルミナーを使えるのが一番だが、ないのだから仕方がない。

 幾つかデビルスリープを消費することになるが体調を整えることが最も優先すべき事柄だ。

 と、そこまで考えたうえでの発言だったが透華は首を振るといった。

 

「いえ、体調もですがそれ以外にも……覚えていらっしゃいますか?」

 

 少しだけ首をかしげて、一つだけ思い当たることがあることに気づいた。

 

「あぁ……。覚えてます。咲たちですよね」

「えぇ。宮永さんや染谷さんは須賀さんを心配していましたが、他の方たちは怒っている様子でしたし」

 

 最悪に近い形のバレ方だった。

 咲は勿論のことだが、その他のメンバーについても納得はしていないだろう。

 

「……咲とは全部終わったらもう一度話すつもりです。余裕がなかったとはいえいくら何でもひど過ぎたかなと」

「他の方たちとはよろしいのかしら?」

 

 少しだけ考えてからこう答えた。

 

「問題ないっすよ。染谷先輩と優希には申し訳なく思うけど……原村や部長の場合は俺を心配して怒ってるわけじゃないっすから」

「それはどういう?」

「咲を傷つける行動を取った俺に怒ってるんすよ。優希と違って無茶をした俺を心配して怒ってるんじゃなくて、あくまで咲を中心に怒ってるって感じだろうし」

「確かにその様に見受けられはしましたが……」

 

 優先順位はどんな事象にも存在する。

 優希の場合実際には咲が傷ついていることを含めて怒っているが、怒りの原動力は危険な行動をしている京太郎を心配してのことだ。まこは危険に首を突っ込んだ京太郎のことを勿論心配しているし咲のことも気にかけているが、京太郎の自由意志を優先した形である。

 この二人は咲と京太郎どちらにも優先順位をつけていない。だが他の2人は違い完全に咲へと感情移入している。

 和から見て京太郎は咲の友人で、最近はともかく自分の一部分をガン見してくる同級生。久から見れば咲を連れてきた後輩である。

 久からすれば多少の感謝はあれど京太郎と咲を比べて大事に思っているのは咲である。だから咲が泣いている姿を見て2人は怒っている。優希と違いその怒りの中心に居るのは京太郎ではない。

 もし『京太郎がもう少し麻雀部に居る時間が長く、部活メンバーを支える行動』取っていたら久は勿論和だって京太郎に対する印象や今回の件に関する対応が変わっていた可能性はある。

 それは京太郎から彼女たち2人に対する態度にも言える話だがそれは既に『もしかしたら』の過ぎ去った過去の可能性に過ぎない。

 

「まぁでも」

「はい?」

「ほんとままならないっすね。もっと段階を踏む予定だったんですけど……」

 

 咲に関しては和と優希が居るから大丈夫だと京太郎は判断している。

 お世話係を任せるようでアレだが、高校生活の中で少しずつ少しずつ彼女たちと疎遠になり大学受験をきっかけに関係を断ち切るつもりだった。

 高校では仲が良くても、大学生や社会人になれば関係が希薄になるのはよくある話であり、京太郎もそうするつもりだった。

 

「これは神々も同じだろうが、この世はどうしてこうなったの塊だ。なにせ神から悪魔に貶められるんだからな、骨身に沁みるほど味わっているだろう。ほら、アプリをインストールしておいたぞ」

「どもっす」

 

 パラケルススから渡されたCOMPの中を確認するといくつかのアプリが新規にインストールされており、その中で注目すべきは上限解放アプリだ。

 本来はサマナー以上の力を持つ悪魔を従えるにはハイレベルアップした悪魔など条件があったが、このアプリをインストールすることで仲魔にできる悪魔のレベルを緩和することが出来る。

 そしてこれこそが古き退魔士たちを駆逐する原因にもなったアプリであり、京太郎も早期に入れるべきだと勧められたがとある事情でこれを断った。

 その事情とは仲魔の力に頼りきりになり自身の戦闘力が落ちる可能性だ。

 レベルの差とは低レベルであればあるほど大きなものだ。レベル10のサマナーがレベル20の悪魔を従えているのと、レベル50のサマナーがレベル60の悪魔を従えているのでは意味合いが少し違ってくる。

 強くなればなるほど手札は増えるが一定の強さを得ればそれも緩和する。その手札をアプリを用いれば一気に手に入れることが可能になるのだ。

 だがそうなれば悪魔に頼るようになりサマナーは戦わなくなる。悪魔が居れば十分だからだ。

 サマナーが戦わなくなれば当然戦いの勘や技術はさび付いていく、京太郎はこれを嫌ったのだ。

 

「今のサマナーなら問題はないはずだよ。というかたった2か月とはいえ染みついた戦い方を変えることはできないだろ?」

「強敵相手の戦い方は直したいなーって」

「蘇生魔法ありきの戦い方は確かに直した方がいいだろうな」

 

 というとパラケルススは楽しそうに笑った。

 

「レベル上限が解放されても合体素材悪魔を用意するのも難しいだろうから精霊を駆使したランクアップを行うといい。スキルが代り映えしないかもしれないが妥協も必要だ」

「費用については?」

「前金は頂いた。あとは生きて帰って払ってくれればいい。ヤタガラスからの報奨金はかなりのものだろうから楽しみにしている」

「……俗物的な」

「この名を持っていたかつての人間を人は錬金術師と呼んだが、不老不死に至ろうとし金を作り出そうとした人間だぞ? 死を恐れ金を求める者たちは十分俗物じゃないか」

「いやいやいや。金に関して『パラケルスス』は違うでしょ。確か普通の薬を作るべきだって主張してた人だろ」

「それでも不老不死の秘薬は求めていたのだから同じだよ同じ」

「お前は何でその名を名乗っているんだ……」

 

 げんなりする京太郎に鋭い爪を持つカラスが描かれたリストバンドを手渡したのは透華だ。

 

「あとヤタガラスからこれを須賀くんへと」

 

 首をかしげる京太郎にハギヨシは続けて説明を行う。

 

「これをつけていない人間がスマホを操作している時は気を付けてください。万が一COMPとなったスマホを保持していたら結界内に悪魔が召喚される可能性があるので」

「COMPの正規所持者とそうでない人の分別も兼ねてってことか。了解っす」

 

 少し大きいと感じたリストバンドだが腕に付けると京太郎の腕の太さにピッタリの大きさに変化した。

 

「それと須賀さんの装備ですが私たち龍門渕に任せていただけませんか?」

「龍門渕に、ですか?」

「えぇ。一月前の報酬を今ここでお支払いします。と、言うのが建前ですわ」

「えーっと?」

 

 意図が読めず首をかしげる京太郎にハギヨシが補足する。

 

「龍門渕としては少しでも良いので実績と言いますか結果が欲しいのですよ。ベストは事件解決に貢献した人間が龍門渕に属していることですが、それが無理なのはお分かりですね?」

「そもそもそんな力を持ってる人間が所属しているのがおかしいし、万が一居たとしても帝都の外ってことですか?」

「そうですね。現状ヤタガラスからの指示で龍門渕が前もって帝都に物資を届けています。誰がやったのかについては置いておきますができうるならば一月前の汚点を少しでも払いたいのです」

 

 汚れとはこびりつき綺麗にするのは難しい。

 物理的には勿論だがそれが概念であるのならさらに厳しい。より記憶に残るのは悪事で悪事の記憶を善事で拭い去るのはやはり難しい。

 

「事態解決に貢献したサマナーを支えた。それは龍門渕の名を売ることにもなりますし、汚名を払う一手になりうるのです」

「なるほど……」

「これが企業としての建前ですね」

「は?」

「分かりますか? 汚名を払うには解決者が生き残るか記憶に残る活躍をしなければなりません。ですので須賀くん生き残ってください。貴方が死にかけて心配したのは清澄高校の彼女たちだけではありませんから」

「……あー。なんていうか」

 

 一月前、デビルサマナーとして行動し天江衣を救った京太郎に龍門渕は感謝している。

 依頼なのだから当然と思うかもしれないが、それでも天江衣の救出という最高の結果に京太郎は至った。

 

 大切な物を救った京太郎を龍門渕は失いたくないのだ。

 例え自分たちの組織に属することはなくても、生きて帰ってこいと楔を打ち立てるぐらいに。

 

 ジッと非難するように見つめる衣と透華の視線を受けて、どこか面白い物を見るように微笑むハギヨシを見て京太郎はただ頭を下げるしかなかった。

 

「と、いうわけで装備はこちらに任せてくださいまし。何なら派手で、高性能で、ド派手な装備を!」

「いやいやいや! 派手な装備を身に付けたら狙われまくって俺が死んじゃいますって!」

「……そういえばそうですね。世知辛いですわ」

「ははははは……」

 

 助かった。そんなことを思いつつ京太郎は立ち上がり「ちょっと出てきます」とこの場に居る者たちに声をかけた。

 

「む? 外に行くのか?」

「いえ、ぐるりと建物を見て回ってこようかと。どんな様子か気になるし会って話したい人たちも居るので」

「なるほど。なら衣も……!」

「ストップですわ。須賀さんが目覚める前に話したでしょう? お父様とお母様と連絡を取ると」

「むぅ……だが。いや、分かった」

 

 残念そうにしている衣はそれでもどこか嬉しそうだった。

 

 COMP同士なら外と連絡が取れる。

 このような状況になり透華たちを心配した彼女の両親が連絡を欲したのである。

 あの事件からもう一か月と感じるかまだ一か月と言うべきか。少なくとも龍門渕夫妻にとってはまだ一か月であり事あるごとに衣のことを心配し、娘である透華が呆れるぐらいだ。

 両親を失った衣からすれば過剰であっても心配してくれる大人が居ることがとてもうれしかった。

 

「外に出ていくのでしたら光を連れて行ってくれませんか?」

「へ?」

 

 マチコからの頼みに京太郎が首をかしげると、補足するようにパラケルススが言った。

 

「彼女の肉体の元々の所有者がどうも宮永照と知り合いの様でね。光を見た時の表情は中々に愉快だったよ」

「……趣味が悪いな」

「この子の身体の元所持者の知り合いが遠く離れた帝都に居るとは思わないだろう? そういった偶然の出会いはやはり面白く感じるんだよ」

「そりゃまぁそうっすけど」

「とにかく説明をするのに光が居るのはあまりよろしくない。という判断には同意してくれると思うが?」

「……そっすね。それじゃ行くか?」

「うん」

 

 左手に光の小さな手を握りしめ京太郎は個室から出た。

 話をしたい人物は色々と居るけれど最低限獅子原爽と話さなければならないと考えていた。

 本来は巫女たちとも会話をすべきだが彼女たちが死ぬとは思えないし最悪明日になれば会話することも可能だ。

 

「それじゃ行くか」

「うん」

 

 修理されたガントレットにCOMPを装着しながら声をかけると小さく頷いた。

 一月前までは一切動くことのなかった表情筋が、今では見る者が見れば柔和になったと感じるそんな笑みを浮かべている。

 少女に関する謎は多くあるけれど、それでも確かな温かさを柔らかな手から感じつつ京太郎は扉を開き外へ出た。

 

*** ***

 

 関係者以外立ち入り禁止と記載された看板を超えてあてもなく京太郎たちは歩く。

 ちなみに京太郎は説明を受けていないが個室を与えられている人間は当然限られている。

 優先的に与えられているのは京太郎やライドウといった前線で戦うことのできるサマナー/退魔士であり前線で戦うがグループとして活動している永水の巫女4人に関しては一回り大きい個室が与えられるだろう。

 とはいえ部屋にも限界はあるためヤタガラスであっても個室が与えられない者たちは当然現れる。

 そういった者たちや一般人がどこで過ごしているかと言うと各ホールや廊下の端とかである。

 プライベートが全くないが生活スペースに関してはどうしようもないだろう。

 

 京太郎が観察する限り一般人たちはある程度落ち着いている。

 時折悪魔や化け物といった単語が聞こえるが今この場が無事であり問題ないという集団心理が彼らの心を落ち着けている。

 群れる特性を持つ人間は確証がなくとも誰かが一緒に居るという事実に安心感を得る。そうはいっても1人より2人。2人より3人居る方が出来ることは増えるため間違っては居ないが悪魔相手には意味はない。

 しかしその点についてあえて指摘する者は今のところ居ない。

 

 さて京太郎と光に視線を向ける者たちが居るが同じ金髪であり男子高校生と女子小学生という風貌が彼らを兄妹と認識させ問題にはなっていない。

 それでも視線が向けられるのは京太郎の腕に付けられたガントレットが原因だろう。

 どう見ても高校生が付けるべき道具ではなく、人々の視線を惹きつける。

 

「わっ。もう歩いても大丈夫なんすか?」

 

 そんな京太郎に声をかけたのは影が薄くなくなった少女こと東横桃子だ。

 

「激しい運動をしなければ大丈夫かな」

「それならよかったっす。でもそれだいぶ目立ってるっすよ? あ、こんばんはっす光ちゃん」

「うん。こんばんは」

 

 かわいいっす! と言って桃子が光に抱き着いている。

 京太郎は辺りを見回すも意外なことに先輩である加治木ゆみが一緒ではない。京太郎が疑問を口にしたところ。

 

「京太郎君の部長さんと一緒に居るっす。なんていうかかなり怒り心頭って感じだったっすよ? それで先輩が落ち着けてるっす」

「加治木さんには悪いことをしたけど……まぁ予想通りだし任せるしかないか」

「個人的には怒りの方向が迷子ーって感じがするんすけど」

「価値観とか人間関係の問題だって。大事な人が誰かの無茶で泣けば怒ってもしょうがない。それに夢を潰されたんだから八つ当たりだってしたいだろうし」

「私は……心配してたっすよ?」

「知ってる。俺だって傷ついたら心配するしな」

 

 光から離れた桃子を伴い再び歩き出した。

 軽い世間話を交えながら、ふと思ったことを聞いてみた。

 

「他はどんな感じだ? なんかすごいふわっとした質問だけど」

「ほんとっすね。意外と落ち着いてるかな。一部で暴れた人が居たけど京太郎くんが付けてるリストバンドを付けた人が落ち着けてたっす」

「パトラとか酷けりゃドルミナーでも使ってんのかな」

 

 パトラは精神の異常を癒す魔法である。

 メパトラを得たらもう使われなくなる魔法だが、使い手の仲魔を一体連れておけばいざという時に役に立つだろう。

 

「それで今どんな状況なんすか? あまり情報が入ってこなくてそっちのが不安っすよ」

「んー難しい話だよなぁ。俺だって全体像は把握できてないしさ」

 

 京太郎視点だと黒幕不明で幹部がゲオルグといった具合だ。下っ端はヤクザで腕をねじ切りかけた男の立ち位置は不明だが黒幕かゲオルグと同じ幹部的立ち位置だろう。

 そもそも目的さえもハッキリしておらず、龍門渕での戦いと違い解決へと至る道が見えず集中しきれない。

 

「なんか難しいっすね」

「だから一つ一つ目の前のことやっていくしかないとは思ってるぜ。決着は付けなきゃいけないんだ」

 

 ゲオルグだけではない。ビシャモンテンとも決着とは違うが約束を果たしたいと京太郎は思っている。

 契約ですらないただの口約束だとしても、契約で縛り付けられた鬼神が喜んでいた姿をどうしても忘れられない。

 

「やる気になってるのは良いと思うっすよ?」

「ん?」

「でも絶対に帰ってくるっすよ。でないと私だけじゃなくて光ちゃんや龍門渕さんたちも泣いちゃうっすから」

 

 ねー。という桃子に光も力強く頷いている。

 

「……そうだな」

 

 なんだか気恥ずかしくなって光の頭をぐりぐりと撫でつける。

 個室での話とあうーと呻く少女とそれを見てほほ笑む少女を見て、改めて帰ってこなければならないと決意を固めた。

 

「あ! あの時の!」

 

 じゃれあっていると京太郎の背後から少女の大きな声が聞こえた。

 何事かと踵を返して見るとそこには阿知賀女子の面々と何処かで見た少女たちの姿があった。

 各々の服装は少し違うが制服を着ていることから女子高生だと分かり、それが千里山高校の面々であるとようやく結びついた。

 

「玄ちゃんたちが知ってる人なん?」

「うん。少し前に助けてくれたことがあって……」

「へー、そうなんや。うちらとそう変わらん歳に見えるのに立派やなぁ」

 

 松実玄と会話をしているのは黒髪のスタイルのいい女生徒だ。

 これがプライベートなら視線も奪われたかもしれないが、京太郎が見ているのはマフラーも巻かないで軽装になった玄の姉の宥だ。

 耳に穴をあけないイヤリングを付けており、それが彼女の力を抑えている魔具だと気付いた。

 

「調子は大丈夫っすか? 気持ち悪くなってたりとかしないですか?」

「うん。大丈夫だよ。それに厚着しなくてもね、いつもあったかいの」

 

 ほわほわとした雰囲気で宥が言った。

 厚着をしなくてもと言うが、それでも彼女は長袖だ。しかし肌を守るために長袖を着ているとか言えるためマフラーを装着していた時と比べれば十分普通である。

 なお彼女の寒がりの原因についてだが、常に生体マグネタイトが零れ落ちていく体質だったためだ。

 普通の人間が一定量の生体マグネタイトを常に保持し続けるのに対して宥は保有量が常に少なく、簡単に言えば常人に比べ生命力が常に落ちている状態だった。

 生命力溢れる年齢だからこの程度で済んでいたが歳を取れば生体マグネタイト保有量が減っていき、若くして亡くなっていた可能性が高い。

 ちなみに症状が改善されたのは覚醒したことで生体マグネタイトの保有量と回復量が増えたせいだ。

 

「なあ」

「はい?」

「けったいなもんつけとるんやな。なんやのこれ? スマホつけ取るけど電源だってすぐに切れてまうやろ?」

 

 と言って声をかけてきたのはショートカットの女生徒だ。

 彼女の顔を京太郎はとある理由でよく覚えていた。

 まるで未来を見て打っているとパンフレットに記載されており、未来を見るという一文と写真の顔が京太郎の記憶に強く結びついていた。

 

「これはまぁ事情があって。一応必要なもんなんすよ。えっと園城寺怜さんでしたっけ」

「おお! うちのこと知っとるん? これはあれやな、うちに春が来る言う前兆やな!」

「フューチャリスティックプレイヤーでしたっけ。そんな異名を目にすれば覚えますって」

「ぐはっ! そ、その名前で呼ぶのはやめてーな……。うちもう中二って年齢ちゃうし、ちょいきついわ」

 

 「ごめんなさい」と謝りつつそりゃそんな二つ名付けられれば恥ずかしいよなと京太郎は思った。

 

「しかし助けてくれたーなんてどんな状況だったんや?」

 

 と言ったのは女生徒ではなく、大人の女性である。

 京太郎はその問いかけに少し悩みながら。

 

「んー……。変質者のせいで変なところに迷い込んでいたところを助けて、その後に変質者を追い払ったっていうか、なんていうか」

「ほー、追い払うなんて見た目通りに力が強いんやな。それかその変質者は弱かったんか。さすがは東京やな、変な奴が多いわ」

「他県出身者から見れば道頓堀ダイブする大阪も大分アレですけど」

「他人に迷惑かける奴はどこにでもおるから仕方ないわ」

 

 なんとも自分たちには甘かった。

 

「しかし今回の避難ておかしな話やな。状況が良く分からんし噂によると化け物が居るとか聞いたで」

「……あまり情報を知らない感じですか?」

「元々ここにおったからな。試合しとったらいきなり避難しろーって言われてな。夕方頃にもおかしな振動が起きてたし訳分らんわ」

「そうなんっすね」

 

 悪魔のことについて積極的には説明をしていないということだろう。

 内に元から居た避難者と外からやってきた避難者ではそこが違う。

 さて、問題は外について説明するか否かだ。ここで話さなくても、いずれ知ることになるとは思うが知らない方が幸せという考えもある。

 実際この問いかけは阿知賀の面々にもしたものと思われる。にも関わらずこうして問いかけるのだから彼女たちははぐらかしたのだろう。

 

 どうすべきか

 

 そんな京太郎の悩みをぶち壊したのは。

 

「化け物は居るよ」

 

 光の言葉だった。

 

「え?」

「昼の振動も化け物が来ていたから起きた。止んだのは撃退されたからだよ」

「ほんまなん……?」

「入口に人じゃ作れない大きな穴が出来てるもん。ね?」

 

 同意を求める光に京太郎は苦笑するしかなく「ほんと?」と聞かれた際にようやく「えぇまぁ」と答えた。

 

「んー。せやけど信じきれんわ。実際に見てへんしなぁ……幽霊は居ると言われてもやっぱり実際に見ないとなんとも言えんわ」

「だと思います。ただ嘘ではないですから」

「そうなんやろけどな」

 

 見ても居ないのに実感が湧く方が怖いよな。

 あーだこーだと話し合う千里山の面々を見て京太郎はそう思った。

 

「ねぇ、あんた」

 

 おずおずと声をかけてきたのは新子憧だ。

 男が苦手なのはあるだろうが、憧と京太郎では身長に差があり多少の威圧感を感じるのだろう。

 

「ん?」

「今は安全って思っていいのよね?」

「外に居る悪魔程度なら結界でなんとかなるはず。問題はそれ以上の実力を持つ奴が敵方に居るってことだよ。ちょっと腕がねじ切れかけたし」

「うっわ……」

 

 想像したのか口に手を当て若干引いている憧に情報共有されていないのかと問いかけた。

 彼女の腕には京太郎と同じカラスのリストバンドは無く、見た目上は今どきの女子高生だ。

 

「この状況をどうにかする力も、事務仕事もできる力はないわよ。だからみんなをしっかり見張ってるだけで良いってさ。一応COMPは持ってるから悪魔の検知はできるし」

「仲魔は?」

「いないわよ。そもそも先週まで関わるつもりもなかったのよ? なのに一応インストールしとけってトシさんに勧められて」

「ないよりはあった方がいいとは俺も思う。アナライザーは少なくとも使えるようになっておけば悪魔との遭遇を回避できるかもだし」

 

 あくまで『かも』が味噌である。

 どんだけ避けても遭遇するときはする。

 

「でもそれを付けてるってことはあんたも対処にあたってるんでしょ? 一応期待はしてるわよ?」

 

 バツが悪そうに、憧は言う。

 

「皆が落ち着いてるのはあんたの力を異界で見たからよ。少なくともあの子たちはあんたならどうにかしてくれるって思ってるわ。それだけの力は見せたんだしさ」

 

 どれだけの力を相手が持っているのか憧は理解していない。

 それでも安心しているのは無傷で彼女の仲間たちを救ったことがあるからだ。

 『相手はそれ以上の力を持っている』それを伝えるのは簡単だけれど不安にさせる言葉を伝えるのも忍びなく、苦笑い気味にこう答えた。

 

「そこまで期待されるのも嬉しいのか重いのか。でも期待に応えられるようには頑張るつもりだよ」

 

 大きな期待は裏切った時が怖いけれど、それでも京太郎の中でやることは変わらない。

 京太郎たちの会話が聞こえたのか、妹の玄の傍を離れてやってきた宥が言う。

 

「……私も戦った方がいいのかなぁ」

「え?」

「大変な状況になってるのは私も分かるんだ。なら私にもできることがあるんじゃないかなって」

 

 実際問題宥の申し出はヤタガラスにとってはありがたい話だ。才を持つものはその才を生かさねばならない義務があるという。けれど。

 

「大丈夫ですって! それに、そんなに震えてるのに戦う必要はないっすよ。力があるじゃないか! なら戦えって誰かが言っても気にする必要はないっすよ」

 

 京太郎の本音を言えば力があるならば蓄えておくことで不測の事態に対応できるのではないかと思う部分はある。

 けれどそれができる人間とそうでない人間が居るのも理解していて、彼女は後者で自分が前者であることも理解している。

 

「だからそっすね。妹さんのことだけ想っててください。あとは何とかしますって!」

 

 何とかする。それがどれだけ大変なことか分かったうえで京太郎は言った。

 少しだけ陰のある笑みを浮かべたが、大きな笑みを浮かべて笑う京太郎の真意に気づいたのか「うん」と彼女は頷いた。

 

「……ありがとう」

 

 小さく呟かれたその言葉を聞こえない振りをして京太郎は自分から馬鹿話を始める。

 さすがに下ネタは回避していたが、玄がはっちゃけたため意味はなく笑ったり呆れたりと三者三葉の様相を見せた。

 そうした会話のなかで京太郎が最も興味を惹かれたのは園城寺怜の持つ未来視のオカルトについてであった。

 

「こないな状況になったら思うようになったんやけどな」

 

 少し気だるそうにしながら園城寺怜は言う。

 

「うちの力が麻雀以外に作用すれば良かったなって」

「力って、もしかしてパンフに書いてあった『まるで未来を見ているかのような』打ち方ですか?」

「見ているかのようなとはちゃうで? 本当に見てるからな。手の内晒すんはいかんけどこないな状況やから」

「あぁ……」

 

 手の内を隠してももう仕方がないのだ。なにせインターハイは行われないのだから。

 

「あかんて! それに使いすぎたら怜が倒れてしまうわ!」

「倒れるってどういうことっすか?」

 

 首をかしげる桃子に竜華は言う。

 

「元々怜の体が弱いのもあると思うんやけど力を使うとすごく疲れるんよ。それで時々無茶をして倒れてしまうんや。怜はこう言ってるけど私は未来視に制約があって良かったと思ってるで」

「でも制約ってどんなのです?」

「麻雀、トランプ、すごろく辺りは見れてそれ以外は見えへんよ」

「もしかして順番に何かをするゲームとかは見れるとか」

「当たりや! そういう意味だとスポーツの……テニスとかもいけるんやろうけど、そないなことしたらうちが倒れてまうわ。いや、力を使わんくてもテニスやったら倒れるかもな」

 

 自虐とも言うべきブラックジョークに渇いた笑いを返しつつ、園城寺怜が今日まで普通に生きてこられた理由を察した。

 未来視という力は人間誰もが求めて欲する代表的な力の一つだ。

 たとえ自分がその力を持っていなくても、親しい誰かがその力を持っていれば後はうまく立ち回れば億万長者も夢ではない。

 古い時代で言えば天気を予測する事ができた人間は時の権力者に重宝されたという。先のことがわかるというのはそれだけ重要だ。

 

 もし園城寺怜の未来視が万全であれば、彼女の力を求めた者たちが彼女を拉致しいうことを聞くように強要するか、力のメカニズム解明のために実験動物にされていた可能性さえある。

 

「……良かったっすね」

「ん?」

「いえ、心配してくれる誰かが居るんですから良かったですねと」

「……おかしなこと言う子やな。けどその通りやね」

 

 それから暫くしたあと、京太郎たちは阿知賀、千里山の面々と別れた。

 彼女たちが団体で動いているのは不安が根本的な原因だが、大人数で行動することで自衛も行っているのだろう。

 見た目のいい彼女たちのことだからこの状況でもナンパしてくる男たちは多いはずだ。二人の大人かつ10人以上という大人数であれば近づいてくる可能性も減るはずだ。

 実際彼女たちが襲われてもイヤリングを外した宥であれば力で対処は可能だが、それをした場合一般人が彼女に向ける視線の意味が変化するかもしれない。

 

 何事もなければいい。

 

 そんなことを思いながら京太郎は去っていく彼女たちの背を見つめていた。




ときぃに関して。
もし東京封鎖なしで咲本編通り進んだ場合、彼女の力が5位決定戦でしたっけ?で強化されたのを見て今後の伸びしろありと判断した者たちが確保に動いた可能性があります。なのである意味事件が起きて助かった人間の1人。もうひとりは当然竜華。

あとは本作における清澄勢との仲はこんな感じです。
本来清澄麻雀部の面々と過ごす時間をサマナーと龍門渕と桃子に当ててるんで本編ほどの仲があるわけじゃないです。まぁ、本編にてどれだけ仲が良いのかは咲とゆーきはともかくあまり描写されてないからわからないけど、ただ描写不足は清澄全体な気がする。
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