デビルサマナー 須賀京太郎 作:マグナなんてなかったんや
感想、誤字報告いつもありがとうございます。
空中の映像と音声を聞いてふさぎ込んでいた子供たちも、朝食を食べている内に頭を切り替えたのか元気に遊ぶ姿を見せた。
これに対してエメラルは「もっとひどい過去があり、それから立ち直ったからだ」と言った。
確かにそうして得た強さもあるだろうが、見せかけだけの強がりの可能性もある。しかしそれをわざわざ指摘する必要はなく、強がれるだけの強さがあるならば今回の事件を解決することで強がる必要もなくなる訳である。
それを指摘したエメラルが心配しつつ、しかし少しだけ誇らしそうにしていたのは子供たちが立ち上がり強くなるきっかけを作ったのが聖書だからだろう。
京太郎としても、これが支えのある強さか。と、少しだけ納得と宗教に対する印象を内心で上方修正した。
朝食を終えて部屋に戻った京太郎にエメラルが一枚の紙を手渡した。
「私の部下が今朝届けてくれました。確実に、だとは思いますが確認して頂けますか?」
「……これって」
紙。正しくは資料には数名の少女たちの姿が載っており『手助け』に関する情報はなしとも文章で記載されていた。
夜だからか写りは悪いがそれでも獅子原爽の友人たちであると確信をもって言えた。
「『手助け』に関しては私の協力者が渋谷区へ行き確認を取るとのことです。貴方が伝えてくれた神父と連携を取る予定だとも」
「なんなら俺の名前を出して貰っても大丈夫です。もしヤタガラスに伝えるとしたら、ちょっと疑われるかもだけど」
「それはありがたいですが、一体どういう事情が?」
「ちょっと前にとある事件に巻き込まれて、俺を知ってる人ならメシア教に協力するなんてありえない! なんて言う可能性もある気はするっていうか……」
「だとすればどうしましょうか。神父との連携は良しとしても、ヤタガラスへ協力を要請する可能性もありますから」
実際エメラルの協力者が神父と連携し情報を得たならば、神父を避難させるためにもヤタガラスに協力を求める可能性はある。
しかしヤタガラスもメシア教を疑っており、素直に聞き入れてくれる可能性は低い。
京太郎の名前を出したとしたら、確かに信じようと思うかもしれないが、京太郎の名前を出したのを理由に信じてもよいか龍門渕に確認を取るだろう。だが彼女たちは感情的にありえないと言う可能性もある。
だから、本当に京太郎の協力者だと信じてもらう切っ掛けが必要だ。
少しだけ悩んで、京太郎たちしか知らない話があることを思いついた。
「あ、そうだ。『デモニカ』って伝えてもらえれば良いかな」
「デモニカですか?」
「はい! 俺的には未来のデビルサマナーの標準装備だと思うんですけど!」
「未来の……」
「でもありえんとバッサリ切られました。で、この話昨日の朝の事なんですよね」
「なるほど。デモニカという単語と貴方が気に入っていたという話を知る者は少ないと……。分かりました、伝えておきましょう」
そして京太郎たちは子供たちに見送られながら教会へと向かった。
道すがらヤタガラスに目黒区の教会へと向かうと中間報告を送り、爽に友人を見つけたと連絡を送った。
道中に危険はなく、エメラルとドミニオンの両名と人々が集う教会の入り口前から離れた所に陣取る。
見た目だけで言えば人々を見守る天使とその付き添いの人間二人に見え、本来であれば怪しく感じてもこの場においては溶け込んでいた。
それからしばらくして。
「居た」
開かれた扉の近くで何やら作業をしている一人の少女を見た。
修道服の頭巾が少し隠しているが、自身と同じ髪色の少女を見落とさなかった。
桧森誓子という名前だったかと京太郎は思い出していたが、実は彼女の近くにもう一人居たが身長が低いため気づかなかった。
最も特徴的な部位があるのだが、京太郎から見えているのは頭部がちょこちょこ見えるぐらいでそれがもう一人の探し人だとは気づかなかった。
「良かった。昨日の今日だから大丈夫だとは思っていたけれど」
「すぐに見つけることが出来僥倖です。しかし慌ててはいけません、全員を見つけては居ませんし、何より『手助け』が気にかかります」
「ですね」
気合を入れるため頬を軽くパンと叩く。
少しだけ音が響くが人々のざわつきがかき消したようである。
「……一つだけ。貴方はこの地に来てから主に祈りを捧げましたか?」
京太郎とドミニオンは「おや?」と首を傾げた。
内容もそうだが声色がいつもと違うように感じた。
「いや。恰好は真似たけど祈っていたわけではないです」
「私の立場で言ってはならぬことですが、それならばこの場でもそれを続けてください。私の考えが正しければ祈りこそが洗脳の切っ掛けになっている可能性があります」
その理由をすぐに悟る。
彼は怒っている。
「切っ掛けですか?」
「獅子原爽と言いましたか。恐らく彼女が洗脳されていなかったのはカムイと呼ばれる霊たちの守護のおかげでしょう」
「そうですね。できれば全員護ってくれと思わないでもないけど……」
それは人の都合であり、自分が気に入った人間だけ救うというのは霊に限らず神々にも悪魔にも良くある話の為突っ込むべきではない。
「あ、そっか。歌じゃなくて祈りが切っ掛けなのは歌えているからか」
「はい。祈った時もう既に刷り込まれた。だからこそ歌えるのでしょう。ええ、何と言いますか腸が煮えくり返るほど気に入りませんが」
普段とのギャップ、と言えるほど一緒に居たわけではないがそれでも温厚な人物だと分かるぐらいには会話をした仲だ。
温厚な人物が怒るのが一番怖いとは良く言われる話。
そしてエメラルの反対側で経っているドミニオンも似たような存在だ。
つまり、エメラルが怒っているということはこの話を聞いたドミニオンも同様に怒りだし、それに挟まれた京太郎は内心彼らから離れたくて仕方がなかった。
「もし」
少しだけ怒りを鎮めたエメラルが言う。
「……はい?」
「もし穏便に事を済ませられない場合、貴方は貴方が成すべきことを優先してください」
嬉しい申し出ではあるが、戸惑う様に良いのか? と、問いかける。
「正直余裕がないのですよ。正直このまま飛び出して詰問したいぐらいでして。周りを見る余裕がないのです」
「あ、あぁだから俺のやるべきことを優先しろって」
「これほどまでの怒りは久々でして。あぁ前に怒ったのはロトの言葉に耳を貸さぬ人の在り方でしたが……ハハハ」
「な、なんというか人類がごめんなさい」
「あなたが謝ることはありませんし、今回の件の怒りの対象は人間ではなくてですね……いやはや、お喋りはここまでにしましょうか」
人々のざわつきが収まっていくのを感じて口を閉じた。
三人は視線を教会へ向ける。壇上に上がる一人の男の姿があった。
「皆様おはようございます。良く晴れたとは言えませんが、良き始まりとなるよう我らが主に祈りを捧げましょう……」
「良き始まりですか」と小さな声で呟くエメラルが恐ろしかった。
恐らくは司祭と思しき男の横には神職者たちが控えていた。その中には見つけた一人だけではなく、四人全員の姿もある。
祝福の言葉を紡ぎ、その後祈り始めた人々の様子を見て、京太郎も恰好だけ同じようにしていた。
もし本当に祈りをトリガーとして洗脳効果が発揮されれば京太郎も洗脳されてしまう可能性がある。どれだけ強くなっても状態異常は恐ろしい。
それから聖歌が人々の口より紡がれる。
パイプオルガンの調べと共に紡がれた言葉は通常時であれば美しく感じられたのだが、今はどこか恐ろしさを感じる。
「こ、れは……」
小さく呟かれた声に注力する。
「――なんという混沌としたマグネタイトなのか」
「混沌?」
「これほど清濁併せもったマグネタイトを人が生み出すのを見ることになるなんて……」
生体マグネタイトは人の感情から生み出される命のエネルギーである。
だから嬉しければ奇麗な色のマグネタイトエネルギーが発生し、逆に痛めつけた結果生まれたマグネタイトは醜い。
どちらを好むかは悪魔次第だが、好みでしかなくどちらであってもエネルギーとしては申し分ない。
COMPに仲魔の言葉が刻まれる
「人々の信仰心と洗脳されても抗う心。それが拮抗したが故の結果だ」
瞬間、圧力が膨れ上がる。
それが我慢の限界に達したエメラルから発せられていることに気づいた京太郎は、ドミニオンに視線を投げかけ無理やりにでも四人を連れて帰るため駆けだそうとした時。
「――あぁ、悲しいことです。どうやらこの場に招かれていない客人がいらっしゃるようだ」
それを押しとどめるように、司祭が言葉を紡いだ。
司祭の視線は京太郎たちに向けられ、人々も振り向いて京太郎たちに視線をむけた。
続いて司祭たちの元に天より集うのは天使たちだ。空で出会った天使たちが今度は京太郎たちに敵意を向けている。
「悲しいですなぁ、いやはやなんとも悲しい。主のご意志に逆らうとは」
「逆らってなどいません。主の言葉を拡大解釈し、結果主を危険に陥れる真似をしている。逆らうというのであればそれはそちらでしょう」
「必要なことです。此度の事件を治めるそのために必要なことです」
「その必要はありません。メシア教がヤタガラスと手を取り合えば、此度の事件はすぐに解決に向かうでしょう」
「人が解決できると? 本当にそう信じているのですか?」
「人の起こした事件を人が解決するのは当然のことです。そして私は人を信じます」
「なんと愚かしい! 私に、人に、そのような力はございません! それでもなお信じると言うのですか!」
「確かに人の力で何とかすることが出来なかった時もあります。そして神の裁きの元に滅びの運命を辿った者たちが居るのも確かです」
先ほどエメラルが口を滑らせた「ロト」もまた滅びの道を辿った者たちの関係者だ。
堕落しきった人々を立ち直らせることも、救うことが出来ず失敗したメシア。それが「ロト」である。
「それでも過ちを正そうとする者が居て、過ち認め正道に戻る者も居ます。私はそんな人を信じると決めているのです」
「それが貴方の横に居る人間であると? しかし彼は天使と共に居るではないですか。結局同じ物を信じる者同士でしか共には居られない! それで巨悪に立ち向かうなど出来るはずがない!」
「だから人では解決できないと言いますか」
「そうです! 人一人の力は弱く、儚い。故に主の庇護が必要であり解決する力なんてないのです!」
頑ななその言葉を聞いたエメラルが、司祭ではなく京太郎を見た。
「……しかしその言葉には一つだけ誤りがあり、それをこの場で正すことが出来ます」
「なんですって?」
「彼は私と同じ志を持つ人間ではありません。確かに天使を連れていますが、彼の本業は悪魔と共に道を行くデビルサマナーなのですから」
「なっ!?」
驚愕の表情を見せるも、しかし首を振り全力で否定する。
「であるなら悪魔合体で天使様のお姿を取っているだけなのでしょう!」
「否定させてもらう。私は元より天使であり合体は行っていない」
「志は異なっても、信じる物が違っても。一時ではあるかもしれないが同じ道を行くことはできる。そう言った彼の言葉を私は嬉しく思い、今、共にあるのです」
二人にそう言われ、口をパクパクと開閉させるだけで言葉を発することが出来ない。
だから、「は、はははははは!!」と笑って言い返すことも出来ず、否定する。
「なんと愚かな! 共に歩むなどできはしない! 故に思想の違うものは淘汰しなければならないのです! そう、主を信じぬ不届き者たちに生きる価値など無し! これまでもそうだった。そしてこれからも同様に!!」
司祭の言葉にを切っ掛けとして天使たちが襲い掛かる。
エメラルが天使たちを撃退しようと構えた時、パワーとヴァーチャーの胴体が真っ二つに断ち切られ、ライラが地面にめり込んだ。
「須賀くん……」
刀を鞘に納めた京太郎は何処か嬉しそうに言う。
「目的を果たして去れと言われた。でも、あそこまで言われて去れないって。嘘になっちゃうじゃんか」
彼の隣に居た赤い棍を持ち雲に乗った猿もまた、可笑しそうに笑う。
「まったくもって卑怯な言い方だぜ!」
「まぁまぁ。だからさ、悪いけど俺の目的だけを達するなんて出来ない。だって、それが今俺のしたいことだから」
メシア教に属する者を心から信じることが出来ないのは変わっていない。
しかし、ここまで言われてエメラルを放っておくことも京太郎には出来ない。
例え今日明日の付き合いであったとしても、自身がそうしたいと思い、行動する。それはあの時から変わらぬ京太郎の一つの柱だ。
そんな京太郎を司祭があざ笑う。
「悲しいですねぇ、デビルサマナー。人の力が天使様に通用すると思いますか」
対して愉快そうに笑うのは猿である。
「キキキ! その人間に怯えてるってのがよーくわかるぜぇ! ウキャキャキャ!」
騒がしくなったなとため息をつきながら、左腕に付けたCOMPを操作する少年の隣に白い男が並ぶ。
「貴方の想いは分かりました。それを嬉しく思います。しかし良いのですか? 貴方の目的は彼女たちの奪還でしょう」
「そうです。だから倒すだけじゃなくて、救う。俺一人じゃ無理でもデビルサマナーにはその力がある」
京太郎一人であったならば、本内成香、桧森誓子、岩館揺杏、真屋由暉子の四人を救いかつエメラルの手助けをすることはできない。
どれだけの力があっても京太郎は一人で、一人の力なんてたかが知れている。
しかし京太郎はデビルサマナーだ。一人では足りない力を数で補うことが出来る存在だ。
科学がどれだけ発達したとしても、数の多さが強力な力になることに変わりはない。
「それに、やるなら全部取る! 二兎を追う者はって言うけどそんなの関係あるか! 本来の仲間にあれだけの啖呵をきったのに、ここで動こうとしない奴は人間じゃない!」
COMPの操作が完了する。
京太郎の周りにCOMPから発せられる多くのマグネタイトが渦巻く。
それはこの場に居る人々が放っていたマグネタイトと色が似ていたがそれは当然の話。悪魔を斬り、天使を斬り、神を斬り、そうして獲得してきたマグネタイトが混沌としていないはずがない。
「召喚!」
京太郎の声に仲間たちが応える。
「よーやく出番だっ!」
緑の衣服を身に纏い、その魅惑の歌声で人々を誘い溺死させてきた妖精ローレライ。
「天使との戦いが儂にとっての本懐とはいえ、サマナーと居ると本当に飽きないわい」
古代アステカの創造神であり『二面性の神』の象徴たる魔神オメテオトル。
「オレ、バチガイ! バチガイ!」
譲渡するのを忘れて残っていたスパルナが姿を現した。
「シヌ、オレハシヌゾサマナー!」
破れかぶれに叫ぶスパルナに京太郎がやる気を出させるため声をかけた。
「戦わなくていい。お前は運搬役だ。それが済んだら少なくとも今より強い悪魔になる様に合体するから頑張れ!」
「……ギョウコウダ! カカカ、ケイヤク、ヤクソクダゾサマナー!! ウラギッタラヒドイ!」
見る物を魅了するその翼を翻しスパルナは後方に待機した。
「行くぞ皆! 天使を殲滅して助けて目論見事ぶっつぶす!」
京太郎の言葉に各々力強い言葉を発し応え、駆けだした。
その様子をエメラルは嬉しそうに、けれどどこか悲しそうに見つめた。
「面白いもんじゃよ」
唯一残ったオメテオトルが彼に話しかけた。
「貴方は……! 間違いない、例え霊格が落ちていてもその禍々しい気配を間違えるはずはない……。だがしかしそうすると彼は」
「サマナーはガイアーズでも儂らに与する者でもないわい。だからこそ面白いんじゃよ、こうして天使と共に戦う事にもなるんじゃからな」
「面白い……。これまでも、今も、そしてこれからも。貴方たちの価値観はそれ次第なのでしょうね」
呆れながら言うエメラルに「違いないわい!」と楽しそうに笑いながら返す。
「であれば今は信じるに値します。特に貴方は他の悪魔たちと違い我々と少しではありますが語った仲なのですから」
「役目だったからのー。マッカの浸透には人だけでも悪魔だけでも、その二つだけでも駄目だっただけじゃよ」
「共通紙幣は便利ですから、私たちも断る理由はなかったのです。さて閑話休題。私たちだけこうしているのはズルですね」
「カカカ! 違いない。……さて恐らく後に抜けるのは儂かの? 束の間の共闘を楽しむとしようぞ」
秩序と混沌。
その極致に属する二つの存在。
それを結び付けたのはどちらの色にも染まる人間。
対極者が同じ道を行く一つの形がそこにはあった。
もう一話か、二話更新した後一気に書いて投稿する予定です。
ボス戦部分は書き溜めたいなって感じなので。