デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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感想、評価、誤字報告いつもありがとうございます。
とりあえず切りが良いところまで。


『3日目 選択の意味』

「……それは」

「状況をまとめるぞ。マンセマットよ、このままでは四大天使が同時召喚されるということで良いな?」

「そうですねぇ。幸いと言ってはいけないのでしょうが、まだ贄となる人の数が足りないため四大天使全てが完全な状態で召喚されるわけではないでしょう。ですがそれでも同時に相手をすれば今の私達では戦力不足でしょうねぇ」

「そして現状我らには召喚を完全に防ぐ手立てはない」

 

 体を全て包み込むように出現している光の柱。その中で人々は安らかな眠りについている。

 だがそれは今はそうであるだけに過ぎない。

 マンセマットの話が確かであるなら、ことが起きれば人々は苦痛の中で死ぬことになり四大天使が召喚されることだろう。

 

 その選択の重さから、それでもとすがるように震える身体と言葉を押し殺すように問いかけた。

 

「……確認したい。これを止める方法は」

「残念ですがありませんねぇ。あったとしてもこれだけの人数全てを救えるとお思いで?」

「……それは」

 

 すべてを救うことができる第三の選択なんてものはないと突きつけた。

 京太郎は人を殺したことがないわけではない。

 ヤクザを始め、悪魔と合体させられ救うことができずやむを得ず殺した母子だっている。

 そしていまここにいる多くの人々はヤクザのように悪事を働いたのではなく、ただ、生きたくて神に縋り、祈っただけの人々に過ぎないのだ。

 生きることに感謝し、祈りを捧げたことを誰が責められようか。

 

「……なに、サマナーよ。悩むことはあるまいて」

「なんだって?」

 

 案に何を馬鹿なことをと言う京太郎に囁く。

 

「力なきものが死する。それは自然の摂理でありおかしなことではない」

「……はっ。じゃあこのまま事態を放置して四大天使降臨を待って殺されろって?」

「そうはいわん。なぜならば弱者が足掻き強者を喰らうのはよくあることなのじゃからな。窮鼠猫を噛むとこの国の人間はよく言ったもんじゃな」

「それで何が言いたいんだよ」

「簡単なこと。生きるために他者を食い殺す……。それが当然のことであれば気に病む必要なぞありはせん。それと同時に弱者が死ぬことは当然の話。気にするほどのことではない」

 

 今死する命は自然の摂理だ。お前は悪くないとオメテオトルは語る。

 その言葉は京太郎の心に染み渡るほどに甘い毒のような言葉であった。

 しかしそれに反論するものが居た。

 

「自然の摂理。そんな言葉で図れるほど人の命とは軽くないでしょう。此度の件は我々天使が、ひいてはそれを信じる者たちが引き起こした暴走です。それを鎮めるために正しき方向に動くあなたに罪はありません。たとえ罪であると断じても主であればお許しになります」

 

 許しの言葉もまた、京太郎にとって思わず縋りたいと願う言葉であった。

 自分は悪くない。いや、たとえ悪く罪だとしても許されるという救いの言葉だ。

 

「天使と悪魔である私達の共通認識の一つ。それは選択から逃げることは許されないということです」

「……選択から逃げる」

 

 その言葉を聞いた京太郎の体の震えが止まった。

 

「殺さない。ならばそれで良いのです。納得に足る理由があるならば」

「……理由」

「ですがそれもなくただ選ばないのであればそれは逃げに過ぎないのです」

 

 その言葉にドミニオンが手を伸ばし京太郎を庇おうとするがレミエルがそれを防いだ。

 レミエルには分かっていた。今こうしてマンセマットが京太郎に言葉を語りかけているのが、マンセマットに与えられた使命であると。

 

 マンセマットは天使から忌み嫌われる存在だ。その理由は拒絶し排他する存在のはずである悪魔をも利用し自分の役目を果たすからである。

 レミエルとしてもマンセマットに思うことがないわけではない。しかし汚れ仕事を買ってでる彼を嫌うことはできず、それが手を組む理由になった。

 

「……俺は」

 

悪魔と天使の言葉を聞き届けた京太郎が答えを出そうとしたときだ。

 

「が、ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 辺りに男の断末魔が響き渡った。

 ハッとし顔を上げれば体中の精気が吸い取られ苦痛に悶える男の姿があった。

 それを皮切りに多くの人々の叫び声が響き始め、もう時間はないと京太郎に嫌でも突きつけた。

 

「俺は」

「サマナー! 時間がないぞ!」

「……答えを出さない、出せないのであれば、私達が」

 

 仲魔たちが、天使たちが行動に移そうとしたときだ。

 

「違う!! 俺は、俺は……」

 

 震える右手を左手で抑えつけるように、それでもまっすぐに男に向けて右手を伸ばした。

 今にも泣きそうな顔で、それでも何かを決意したような光が灯った瞳を見て仲魔たちが動きを止めた。

 少ししてなぜか震えが止まり、身体の強張りさえ溶けた時乾いた笑みを浮かべた。その理由は。

 

「……ありがとな」

 

 唐突な感謝の言葉に困惑する悪魔と天使を見て、力なくそれでも確かにほほえみながら京太郎は告げる。

 

「時間がないのに、悩む時間を少しでもくれてありがとう。そして、情けないサマナーでごめん。さっきの話、俺を少しでも救おうとしてくれたんだろう? まぁ、裏はあるだろうけどそれでも嬉しかった」

 

 京太郎の右手から電撃がほとばしり始める。

 

「でも違うんだ。自然の摂理だからと目を背けるのではなく。神が許してくれるからと縋るのも違う。今から命を奪うこともその罪も全部俺のものだ。忘れることも許されることも絶対違う。俺がする行動は全部、全部全部俺のものだから」

 

 宣言した京太郎の言葉に仲魔たちは頷いた。

 選択をした彼の意志を尊重したのである。

 京太郎は光の柱に手を伸ばしそのままジオンガを放った。一瞬絶叫が強くなるも命が失われると同時に動かなくなり、光の柱も失せた

 

 そして四人の少女たちを見た。

 

「でも、約束は果たしたいんだ。何か手はないかな?」

「……。ふむ」

 

 オメテオトルは電撃により焦げた死体を少し調べた後に、ポニーテールの少女に向かって手をのばすと少女の胴体を氷の柱が貫いた。

 

「は?」

「ローレライ。リカームを」

「……う、うん!」

 

 死んだことによって消えていた光の柱が、リカームによって少女が蘇生したことにより復活した。これを見たオメテオトルはとある結論を出した。

 

「死ねば贄とはならん。しかし蘇生すれば再び対象となる。じゃが、四大天使を全て屠ったならばこの儀式も止まるじゃろう。ならば死と生を繰り返し時間を稼げばなんとかなるかもしれん」

「ロックだな。びっくりしたわ」

「じゃがそのためには運び役、護衛役、蘇生役が必要じゃ。戦力が減ることになるじゃろう。それでもやるか?」

「……やるよ。約束は絶対に果たす」

 

 これまでとは違う瞳の色を見たオメテオトルは満足そうにうなずくと、スパルナとローレライを伴い自分たちが先の三役を行うと告げた。

 

「話せるとは言えワシがおると二体の天使も気まずかろう。なら、護衛役はワシが行い、運び役と蘇生役は言うまでもないわ。向かう場所はヤタガラスの拠点。もしかすればこの娘らだけならばすぐに救える可能性もあるしな」

「……うん。頼んだ」

「ココに来る途中、ライドウとダークサマナーが戦闘をしているのを見ました。気をつけなさい」

 

 マンセマットの忠告を聞き面白そうに問いかけた。

 

「おや、ワシの身を案じてもよいのかの?」

「本体ではないあなたが死んだところで何も変わりません。それならデビルサマナーの意志を尊重するほうがプラスでしょう?」

「……そうじゃな」

 

 ローレライに強化魔法をかけられている京太郎を見ながら。

 

「良いのか? 汝の望んだ答えではないじゃろうに」

「ええ、主に許しを請うたならば良い聖騎士となったでしょうに。残念です。ですがそれはあなたも同じでしょう?」

「サマナーならば良い力となったはずじゃからな。ガイアで後継者でも作れば力は受け継がれるはず、とは考えたな。しかし、なんじゃな、サマナーがサマナーのままで居るほうが楽しそうだと感じたわ」

「自分の選択を背負う。それは難しいことでしょう。だからこそ人々は救いを求めるのです。ですが――」

 

 眩しそうに、嬉しそうにマンセマットは言う。

 

「試練を乗り越え、もしくは乗り越えようとあがく人の心。それ以上に素晴らしいものはない」

 

 だからこそマンセマットは自身の任を全うするのである。

 惑わされ、堕落しかけても底から這い上がる人の輝きこそが天へと登る真なる資格であると信じているが故に。

 

「そうじゃな。部屋にこもりっぱなしでは見えぬことが多くある。あの輝きを知っておるからこそ閣下は人を見捨てず、期待するのだとようやく理解できたわ」

 

 それから、オメテオトルはとある言葉を京太郎にかけたのちに、ローレライたちを伴いこの場から離れた。

 それから数十秒後。

 彼らが居た場所を中心に電撃が走ると同時に辺りに命を感じさせない廃墟だけが残ったのである。

 

*** ***

 

 電撃は司祭が命を捧げた祭壇が安置している土地にまで影響を及ぼした。

 本来であれば大天使四体分のマグネタイトが集まるまで待つつもりであったが、一体の大天使が急いで現世に姿を表したのである。

 本体、であるがマグネタイトが足りず劣化した状態だ。しかしそれでも恐ろしいまでの威圧感を放つ大天使の名はウリエル。

 その身に炎を纏って、力を誇示するかのように姿を表した。

 

「なんという、何ということをしてくれたのかっ」

 

 近づいてくる同族と人の気配に苛立ちながらウリエルは唸る。

 

「我らが主のご意志に背く気か、レミエル! マンセマットォ!!」

 

 ウリエルの叫びが衝撃となって人と、悪魔と、天使に襲いかかる。

 だがそんなものに怯む彼らではなかった。

 

「背くですか? 主のお言葉を拡大解釈しただ自分の意志を押し通そうとする貴方方の事でしょう?」

「主が期待したのは我ら天使が人に手を貸し、此度の事件を解決に導くことにほかなりません」

「これほどまでに大きな事件を他ならない人が起こしたのだ。もはや人に自浄能力はなく我らが管理するほかないのだ! 此度の計画はその第一陣に過ぎない!」

 

 訴えるように語り掛けるウリエルに、電撃が放たれる。

 ウリエルはその場から移動することなく炎の剣を振り払い電撃を消滅させた。

 

「悪魔に魅了された人の子よ。我らの計画の邪魔をしたことを今であれば主の名において許しましょう」

「知るか」

 

 問答無用と放たれたのは左手に握られた拳銃から放たれた氷結の力を持つ弾丸である。

 数発の銃声が鳴り響くがそのすべてがウリエルのマハラギダインによる炎の壁にて遮られる。

 

「許してもらうつもりもないし、許される物でもない。そんな俺に出来るのは封鎖を終わらすこと。そしてお前たちを倒す事だけだ」

「愚かな。許しを得る最後の機会を棒に振るとは……見るがいい、レミエル、マンセマット。この悪魔とも変わらぬ怨嗟の瞳を。この姿こそ今を生きる人の形なのだ」

 

 その言葉にレミエルもマンセマットも答えなかった。

 

「ハッ! バカジャネーノ! こんな事態を引き起こして、やりたくもないことをさせられば恨みの感情ぐらいむけるだろ」

「黙れ猿がぁ!!」

 

 セイテンタイセイが小馬鹿にするような言葉がを言ったのもあるが、根本的に会話できる気がしなかった。何を言ったところで言葉のキャッチボールではなくドッジボールしかできないだろう。

 だから、最後にオメテオトルが言ったとある言葉を京太郎は投げかけ、それが戦いの合図となった。

 

「……元堕天使が神が云々とか言葉を語るな下衆野郎」

 

 その言葉が身内に突き刺さっていたとはつゆ知らず。

 京太郎の言葉に眼を見開き憎悪の波動をたぎらせたウリエルが破壊の炎を放ち、それをマンセマットの万能魔法が薙ぎ払う。

 暴力渦巻く中を刀を抜き京太郎が真正面から駆けてゆく。





今回の話の選択について。
選択理由によって属性が決まるイメージです。
許しを求め、縋るならば秩序に。
許しさえ求めず、それが普通であると認めたなら混沌。
そのどちらも良しとせず、逃げても、もしくは受け入れて立ち向かうことを選択しても中庸です。
逃げる場合は中庸のどっちつかずの悪い面が出たと思っていただければ。


最後の言葉がぐさっと刺さったのはレミエルです。

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