デビルサマナー 須賀京太郎 作:マグナなんてなかったんや
念の為ですけどこの速度維持は無理です。
いずれ失速する時は来るでしょう。
感想、評価頂きありがとうございます。
偉いことになって驚いておりますが少しでも楽しんで読んでもらえるなら幸いです。
桃子についてだが存在感が薄いのは確からしい。
公園のベンチで桃子と会話をしているだけなのに、周りの人たちは京太郎の頭を心配することになった。
京太郎の横で座っている桃子に気づいていないのだ。
だから一人で楽しく喋っているように見える京太郎を見て、あの子虚空に向かって話しているけど大丈夫かしら? と陰口を叩いた。
そのことに気づいた桃子が泣きそうな顔で頭を下げていたが、当然彼女が悪いわけではないので京太郎は気にするなと伝えた。
京太郎は最初桃子を少し暗い雰囲気の子と思っていたがそうではないことに気づいた。
取り留めのない何でも無い話に一喜一憂する姿は、喜怒哀楽がはっきりと出る明るい少女でしかない。
それでもどこか暗い雰囲気を感じるのはその気配の薄弱さが原因か。
空も赤くなり「暗くなるのも遅くなったよな」と言いつつ帰る準備をする京太郎を見る桃子の瞳を見て、京太郎は一枚の紙切れを渡した。
そこに書かれているのは京太郎のメールアドレスだ。
こんな行動を取ったのは昔、一人で本を読んで誰とも関わろうとしない咲の寂しそうな瞳を想起したからかもしれない。
夜眠る前に届いた桃子からのメールには『今日は楽しかった』という内容が記載されており、俺も楽しかったと返し京太郎は眠りについた。
*** ***
通りの学園で過ごす昼休憩の時間。それが崩れ去る切っ掛けを作ったのは友人の怒声だった。
教室に慌ただしく入ってきた誠は京太郎に詰め寄った。
「おいこら須賀ァ!」
「なんだよ。てかいつも京太郎って呼んでるのになぜ苗字?」
「うるせーぞ裏切り者! 窓から校門見ろや!」
「はぁ?」
力づくで背中を押し窓際まで押し進む誠に逆らうのは簡単だが京太郎も何があったのか気になるため抵抗しない。
校門にはメイド服を着た生気を感じられない少女が立っていた。
「あれは……」
「あの子がお前を呼んでんだよ! ちょっと無表情っぽいけどあんな美少女とどこで知り合ってどんな関係だ須賀ァ!」
「しらねーよ! まぁとにかく行ってくるよ」
「この裏切り者ー!」と言う誠の言葉を背中に浴びつつ京太郎はノートパソコンとドリーカドモンが入った鞄を手に取り教室を出た。
校門へ向かう道すがらピクシーからあの少女に関する情報が伝えられた。
『あれ、造魔かも』
「造魔?」
『ドリーカドモン手に入れたよね。アレを使えば造魔って存在を生み出して使役できるんだよ』
「それがあの子?」
『分かんない。そんな気がするだけだよ』
『人とはマグネタイトの感じが異なるだ。どちらにしろ気を付けるだよ、主さん』
仲魔に感謝の言葉を投げかけつつ校門へ向かった京太郎の緊張感は、もしかしたら異界の時以上かもしれない。
人とは異物を排除する存在である。
そのため、もし京太郎が異能者だと、魔法を使えることを知れば人は恐怖し排除する可能性がある。
京太郎も仲魔たちにそのことを指摘され知っている。
校門にたどり着いた京太郎の口から出た言葉は少し震えていた。
「俺が須賀京太郎です。あなたは」
「あなたが。……あぁ大丈夫ですよ。あなたがサマナーであることは周りに明かすことはないです。驚かせてしまったでしょうか?」
「……いえ」
「私の名前はマチコと申します。造魔は分かりますか?」
「知識だけですけど」
「素晴らしいですね! 後ろ盾のない成り立てのサマナーと思っていましたが違いましたか」
表情を一切変えず声だけで驚きを現すマチコは、本当に人間ではないのだと京太郎に思い知らせた。
京太郎は「いえ、あってます。俺はたまたま契約しただけですから」と答えると「そうなのですね」とマチコは返した。
「それでその、何の要件なんですか?」
「あぁ、申し訳ありません。実はマスターからあなたにお願いがありまして……ドリーカドモンご存知です? これぐらいの大きさの人形ですけど」
「えっと、これ?」
カバンに仕舞いこんだままのドリーカドモンを見せると、やはり変わらぬ表情で「それです!」と声だけうれしそうに告げた。
「通常のドリーカドモン以上にマグネタイトを込めることができる特別性。それを我が主は欲しているのです」
「主ですか?」
「邪教の館はご存知ですか?」
京太郎が首を振って知らないと告げると「邪教の館とは主に悪魔合体を行い仲魔を強化する施設なのです」と告げた。
「悪魔合体!?」
「詳しくは後程お教えしましょう。とにかく我が主はそのドリーカドモンを欲しており、それを譲って……いえ、調べさせて頂けるなら報酬と主の施設を優遇しお使い頂けるよう手配する。とのことです」
邪教の館、それに悪魔合体という想像していない施設と機能に混乱している京太郎にマチコは一枚の紙を手渡した。
「こちらが館の住所となります。警備員にあなたがお持ちのプログラムを見せれば入れて頂けるでしょう……ではお待ちしていますね」
人間とは思えぬほど綺麗なお辞儀をしてからマチコは去って行った。
悪魔合体を行う邪教の館。
なぜ自分がなりたてのサマナーだと知っているのかとか、ドリーカドモンを持っていることを知ってるのかとか。
いろいろと聞きたいことはあるが。
『どうする? サマナー』
「行くよ。行かない選択肢はないでしょ」
『さっすが主さん。命乞いでだけど仲魔になってよかったっぺよ。目指せ、インドの破壊神だっぺ!』
図らずも午後の予定が決まった京太郎は受け取った紙に目を落とした。
『館の場所はどこなの?』
「えっと、あれ? これ龍門渕高校の住所なんだが」
『え? 学校の中?』
金持ち学校の中にあるという邪教の館。
邪教の館と言う名前からして怪しいが、その建物が金持ち学校の敷地内にあると知り金持ちの闇を垣間見た気がした。
だが、とりあえずの問題は。
京太郎のクラスから悪鬼の形相で睨み続ける誠にどうやって弁明するか。
そんな間近の問題に京太郎は挑むことになるのだった。
*** ***
龍門渕高校というかそこの麻雀部についてだが、京太郎からすればあまり良い印象を持てない。
噂によると既存の麻雀部に特攻し完全撃破し現麻雀部が乗っ取ったという話を聞いたからだ。
普通に麻雀部に入部し実力でレギュラーを取るならともかく、その様な真似をする人たちに好印象を持つことはない。
それに加えハギヨシの件もあるため、京太郎からすれば龍門渕は異界以上にある意味で緊張する場所となっていた。
「でけぇ」
『ふわぁ……』
清澄高校とは比べ物にならないほどの大きさを誇る龍門渕高校を目の当たりにし京太郎はぽかんとしていた。
勉強するだけなのにこんな面積に学校作る方がいろいろと面倒だろと内心突っ込みつつ、京太郎は校門前で警備をしている男性に声をかけた。
「あの」
「……なにか」
「これ見てほしいんですけど」
ノートパソコンの画面を見せると、顔色の変わった警備員はどこかへ連絡を取ったのち「こちらへ」と京太郎を誘導し始めた。
なんとも胡散臭い動きに顔を顰めながらも、警備員についていく。
警備員が誘導したのは校門の中央にある警備員の待機所兼、受付だ。
大の男一人が暮らすには十分すぎるほどの大きさを持つ待機所に設置されたパソコンを弄った男は「よし」と言い、響く音と共に現れた扉を開いた。
扉の中には光り輝く五芒星の魔法陣が設置されていた。
「こちらの魔法陣から館へ向かうことができます」
「……分かりました」
「ではお気をつけて」
京太郎は魔法陣まで歩みを進めると、視界がまばゆい白に染まった。
――不思議な音楽が頭に鳴り響く。
京太郎がその旋律に導かれるように眼を開いたとき、目の前に現れたのは巨大なネジを頭につけた映画のフランケンシュタインの様な男だった。
「ギャーッ!」
「おっ、驚いたな。ドッキリせいこぐべぇぇ!!」
咄嗟に右手を突出し発現させた電撃魔法が目の前の男を捉えた!
電撃魔法の最下級に属するとはいえジオが有用なのは、対象を痺れさせることである。
全身痺れて動けなくなっている男に横から現れたマチコが懐から取り出した回復薬をふりかけ男を回復した。
「ふぅ。雛鳥サマナーとはいえ、中々良い威力の電撃だな」
そういいながら立ち上がった男の頭に刺さったネジと、顔のツギハギが消えていた。
「あれか? まぁさっきも言ったがただのドッキリだ。このイケメンフェイスが俺の本当の……はて、俺の本当の顔はどこだろうなぁ。まぁいい」
バサッと両手を広げた影響で白衣が音を立てた。
「さて。若きサマナー、須賀京太郎よ。改めて名乗らせてもらおう。私の名はパラケルスス。邪教の館のパラケルススだ! ケルちゃんって呼んぐべぇぇぇ!!」
「ごめん手が滑って電撃が出たわ」
「手が滑ったなら仕方がないですね。私足が滑っちゃいました」
「あらら、それは仕方がないですよ、マチコさん」
「キミたち……! 中々良いコンビプレイだねぇ」
電撃を予期し回避しようとしたパラケルススの足を神速で払い動けなくしたのはマチコである。
無表情で感情がないと思いきやどうも良い性格をしているようだ。
「まぁいい。私の名前だがもちろん偽名だよ。彼本人ではないさ」
「そりゃそうでしょうけど……」
「さて、私のところへ来たということはドリーカドモンを見せてくれるということでいいのかな」
「あ、はい。どうぞ」
異界の核となっていたドリーカドモンをパラケルススに手渡すと「ふんふんふん。なーるなる」と言いながらくるくる人形を観察している。
「マチコ。これをそこにおいてくれるかい?」
「はい」
ドリーカドモンを受け取ったマチコは近くの機材に設置する。
パラケルススが機材のスイッチを入れるとドリーカドモンを包むように光が発生した。
「……やはりこれもか。だがこのマグネタイトは……なるほどなるほど、少年君はいい仕事をしたよ」
「これも、です?」
「ん、あぁ。その前にこれ、どこで手に入れたか聞いていいかい?」
京太郎は商店街を歩いていると突如異界に迷い込んだこと。
その異界でピクシーと会い悪魔召喚プログラムがインストールされたノートパソコンを取得したこと。
異界の主であるオーガを撃破しても異界は解除されず、六芒星の魔法陣に安置されたドリーカドモンを見つけたことを話した。
「キミの境遇も中々に興味深い話だが。しかし異界の核となったドリーカドモンか」
「何かおかしいんですか?」
「……キミも話を聞く権利はあるね。これを見てごらん」
パラケルススは閉じられた棚の一つを開けた。
そこには数多くのドリーカドモンが安置されており、その中の一つを手にとった。
「これは……」
「これも、キミが持ってきたドリーカドモンもだけどね。通常のドリーカドモンとは違うんだよ。良いかい? 少しグロいぞ」
安置されたドリーカドモンを床に置き、それを力強く踏みつけた。
ピシという音と共にひび割れたドリーカドモンの中から現れたのは。
「こ、これ……なんだよこれっ!」
「驚いたろ? 私も最初は驚いたものさ」
「そんな……これっ! 人間の子供のミイラじゃんか!」
「恐ろしいのはこれだけじゃない。良く聞くんだ。この子の息吹をね」
コヒュー……コヒュー……。
弱弱しいがミイラは確かに息をしていた。
その事実に益々京太郎は戦慄するがパラケルススは構わず話を進める。
「息はしているがその子は生きてないんだよ。わかるかい? 魂がないんだ」
「魂がない?」
「これは人間の子供だったミイラだよ。子供に似た悪魔なども居るが、人間の子供だ。それは間違いない。この私が保証しよう。だが一体誰が、何をしようとしたのかそれが分からない」
「マチコ」とパラケルススが呼ぶとマチコはパソコンを操作しとある情報を京太郎に見せた。
それは子供たちに関する情報だ。
いつ、どこで、誰が生まれそして死んだのかが記載されているのだ。
「私が割ったドリーカドモンとそこに記載している子供たちの情報はイコールだよ。割った中から出てきた子供たちの遺伝子情報を元になんとか情報を手に入れたんだ。この意味が分かるかい?」
「ありえない、だってこれ十年以上前の情報まである。普通火葬するだろ?」
「そう、そして一つだけ残るね。そして私は勝手ながら墓を暴いた。その中には絶対にとあるものがある。だけど結果は?」
「骨がない?」
「その通りだ。恐らく骨から血肉を付け亡くなった子供たちの肉体を再生したんだろう。ただ魂がない。既に転生していれば真なる意味で蘇生も不可能だ。それはこれをやったやつも分かるはず……どうしてこんなことをした?」
「そんなの……」
「分かりたくない」と小さくつぶやいた京太郎の呟きをパラケルススは聞き逃さなかった。
この業界に居れば人の生死ほど軽いものはない。
昨日話した誰かが死に、敵となる世界でもある。そんな世界で生きる事ができる人間とは到底思えなかった。
「……うん。良いね。『だから良い!』やはりキミを呼んだのは間違いではない様だ」
「え?」
「私はね、正直子供がどうなろうか知ったことではないんだよ。私はただ私の好奇心を満たしたいのだ。だが」
パラケルススは世界の全てに轟かすように天を仰ぎながら宣言する。
「美しくない! これは美しくないのだよ! 人間の子供を入れる? ならば生きた子供を攫い処置をしたうえで埋め込めばいい!」
「えぇ……」
京太郎は見事にドン引きしていた。マチコも表情こそ変えないもののパラケルススからできるだけ離れようとしている。
「蘇生させるのにきちんとした理由がある? 知らんなっ! 私が気に入らない! それこそが絶対の真実なのだよっ。だからこそ」
パラケルススは京太郎に手を差し伸べとてもいい笑顔浮かべた。
「どうだろう、若きサマナーよ。この事件追ってみないか?」
「え、あなたと? お断りします」
「はっはっは。ですよねー……ただ、そうだな。気が向いたら私からの依頼を受けてくれるとうれしいな」
「え? いや……」
「うれしいな!」
「あ、はい」
「さて。では今回の依頼の報酬を払おうか……そうだな。こんなところで良いだろう。久々に面白かったし色を付けておくよ」
スクリーンに映し出されたのは『サマナーってなぁに?』とかわいくデコレーションされた画面だった。
「報酬はキミが踏み込んだ裏の世界とサマナーについて。キミの持つ悪魔召喚プログラムの移行。悪魔と戦うための武装。新しい異界に関する情報、そしてマッカを渡そう。どれもキミが喉から手が出るほどほしい情報だろう?」
10時ぐらいにパラケルススの言う報酬に関するお話と世界観についてをおまけで更新します。
女神転生側を知っている人が見ればあまり珍しいものはないですけど。