デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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『4・5日目 黄金の龍』

 目黒区の結末を大天使マンセマットから聞いた大沼秋一郎の反応はこうだった。

 

「は?」

 

 冗談はやめろよと大笑いしながら部下及び近くに居た巫女四人の報告を待った。

 天使の結界も有り内部に行くことは出来ないが、それでも遠目から何が起きているかは見ることが出来た。そして返ってきた報告はマンセマットからの連絡に差異はなしというものだったので大沼は更に大笑いした。笑うしかなかった。

 

「目黒区を囲むほどのドームでも作るか……? いやでも突っ込まれたらなんて返せばいいんだよおい。だが入るなと言えば入りたくなるのが人間の心理だ。いやしかし」

 

 どれだけ荒廃しても資材さえあれば建て直す事はできる。人を寄せ付けないにしろ工事中とすれば多くの人は寄り付かないし、寄り付いたとしても見られて困るものはないわけだ。

 しかし、現在の目黒区は空間に穴が空いている状態だ。果たして何処に繋がっているかも不明で、幸い悪魔や天使も出現していないようだが結局の所外から見られてはいけない環境になっているのである。

 そんな状況を長期的に監視し守護しなければ行けないのだから頭を悩ませるきっかけとなった。

 

 マンセマットはここまでを語ると、先にこちらへと帰ったデビルサマナーの仲魔たちにも同様の説明をするために避難所内部を歩く。

 天使の姿ではなく人間として見た目を変化させているため、その道の人間でなければ気づかれない。一部の存在にしか気づかないほどの変化はでできるのだがそうしないのは自分は正体を隠してはいないと伝えるためだ。

 だから、彼が誰かを理解した女性が彼に近づき問いかけたのだ。

 

「あの!」

「はい?」

 

 声をかけてきた女性を見てマンセマットが気がついたのはまず、彼女は日本人ではないというところにある。そのうえでどうやら自分を天使と見抜いて声をかけてきたようだとも。

 

「その、一体――」

「メシア教が」

「は、はい!」

「すべてを語るかはわかりませんが、ただ一つだけ。あまり表立って信じるものを語ることは避けたほうが良いでしょう」

 

 顔色が真っ青になったのを見て、ああ、四大天使に関係のある信徒なのではないかと考えたが事実がどうであろうとも、東京での事件にこれ以上彼らが関わることはないだろう。

 むしろ恩を押し付けるように行動し始めるのではないかとも考えられた。

 どの面下げてと思うかもしれないが、メシア教が行ったことを大々的に言うことが出来ないのが事実だからだ。

 もしそれを明かしてしまえば、それを信じない信徒による激しい抗議行動等が行われる可能性がある。事件解決後もしヤタガラスが勝利したならばそんな厄介なことは起こしたくないと考えるだろうし、ゴトウたちであってもすぐさま全面戦争を起こしたいとは考えないだろう。

 そうなれば残るはメシア教による人道支援の話が残るだけ。

 真実は異なるのに世間に伝わる事実はメシア教による美談になる。

 

 マンセマットからすれば、そうなる方が神のためになるかもしれないという考えが過ぎっても仕方がない。しかしそんな弱い思考によって行動をするわけにはいかないと自分を律するのもまた彼なのである。

 かつて奇跡を起こしたモーゼに試練と称し悪霊を追撃させた自分である。

 人々に試練を与える自分が揺れてはいけないのだ。

 

「あの、私はどうすれば」

「なにかんたんなことです」

 

 女性の後ろの一人は日本人のようだが、国際色豊かな少女たちが心配そうにして彼女を見ているのが見て取れた。

 

「大切な者たちに、余裕があれば隣人にも手を貸すことです。さすれば神はあなたを見捨てることはないでしょう」

 

 その言葉で全てが救われたわけではないだろうが、自分のすべきことを理解した彼女は先程よりもしっかりした顔つきで頷いて、感謝の言葉とともに去った。

 

*** ***

 

 時を同じくして。

 目黒区近辺で戦いをしていた退魔師とダークサマナーの戦いが終結を迎えていた。

 だが決着がついたわけではなく、目黒区に起きた異常に気づき戦いが途中で終わっただけだ。

 

 ヒキガエルのような見た目をした悪魔……ムーンビーストと呼ばれるとある神を崇拝する存在はそのことに反感を抱くが近くに崇拝の対象が居るので抑えていた。

 

「死んだかなあれは」

 

 残念そうに、愉快そうに、だがどこかホッとした様子を見せてながらゲオルグは言った。

 黒き神ニャルラトホテプは主であるダークサマナーの様子を見てどこか面白そうに目を歪め、そのことに違和感を抱いたライドウは目を細めた。

 

「ゲオルグ。なぜお前はそうなったのだ」

 

 業斗童子の言葉に目を細めた男は、ああ、と気づくと。

 

「俺のことを調べて知っていたか」

「日本ではないが、ヤタガラスと同種の組織で力を蓄え、将来有望なサマナーであったと聞く。それがなぜ」

「……そんなものはどうでもいいだろ」

 

 どこか様子が変わったのを見て、それが地雷となる話であることを知る。

 もう一つおかしいのは本来饒舌な無貌の神が沈黙を守っていることだ。その割には契約で縛られている様子はないので尚更に気味が悪い。

 

 冷たい空気が流れる中「まぁいい」と言って彼は去っていった。

 本来であれば追って倒すべきだが、それ以上に目黒区の様子を探る必要があった。

 その後目黒区の件を知ったライドウはもし自分が間に合ってさえいればという後悔に囚われることになる。

 

 ――だが、それは悪いことではないか。

 

 と、小さな声で呟いた黒猫の声は誰にも聞こえなかった。

 

*** ***

 

 目黒区の件は少なくない影響をヤタガラスに与えた。本来であれば契約を取り戻す策を成すための道具の作成にもう数日必要なのにも関わらず、かなり無理をして用意したのである。

 用意したものは四天王の三昧耶形である。

 三昧耶形とはその神を象徴を意味する言葉だ。

 そもそも四天王が抵抗することなくゴトウに従っているのは契約を上書きされたのが原因であるが、四天王たちからすればヤタガラスでもゴトウでも帝都を護ることには変わらないので抵抗することがなかったのが原因だ。

 確かにゴトウの企みは多くの人が死ぬだろう。しかし同時に未来に生きる多くの人々を救う一手にも成りうるのだ。

 ヤタガラスとしても将来のためにというのは理解できるが、それでも今を生きる人々を見捨てることは出来ず、契約の穴を突かれたことへの対策も打たねばならなかった。そのために契約の器として三昧耶形を作成し今度こそ四天王を縛ろうとしているのだ。

 

 本来であればライドウにビシャモンテンをあてて、他の三体のいずれかを京太郎が。そして残りの二体を巫女四人を二人に分けて担当させる予定だったが、京太郎が居なくなってしまったために成すことができなくなった。

 そのため戒能良子にヤタガラスに中でも力量の高い退魔師を選び組ませることを決定した。本来であればハギヨシを選びたかったのだが彼が拒絶したため叶わなかった為だ。

 

 とはいえ各々の三昧耶形を用意することが出来たのが五日目のため、四日目は五日目のために身体を休める時間となるのだった。

 

*** ***

 

 四天王との契約を取り戻すための戦いが開始される少し前の時間。

 大沼秋一郎は悪魔たちに声をかけていた。

 

「……ではやはり協力する気はないのか」

「当然じゃろ」

 

 人の姿でゆったりとしているオメテオトルとローレライはそう答えていた。

 この二人だが京太郎が行方不明となっているが、それでもCOMPは無事なのか状態異常迷子扱いとなっている。

 一応マグネタイト供給はされているのでまだ存在できているが、いずれマグネタイト不足で消えてしまうだろう。

 だがそれでも良かった。

 彼らが戦っていたのは自身のサマナーである京太郎が戦うことを選択したからである。彼が居ない以上戦う理由はなく、マグネタイトがなくなってもただ魔界に還るだけだ。もしくは新たなサマナーを選ぶという選択肢もあるが現在の状況下でそれを選ぶ理由はない。

 

「生きていると信じているのか?」

「さての。しかしあの子が、光と名付けられたあの子がサマナーは生きていると言うのであればそれを信じるのみよ」

 

 京太郎の最後を知った面々の反応は様々だ。衣のようにただ泣く者もいれば、死んてしまったことを悲しむが同時に残念がる透華やハギヨシのような者も居る。

 その中でただ一人平然と生きていると確信して慌てる様子さえ見せない少女が光だった。

 その理由について邪教の館の主であるパラケルススはこう語った。

 

「光が目覚めた理由は恐らく須賀京太郎の魂を媒介としたためだろう。肉体は生きていてもなかった魂が生まれ、少しずつ成長してきた。だから彼女は確信できるんだ。生きていると」

 

 しかし彼の言葉を安易に信じることも出来ない。というか信じたとして京太郎がどこに居るか分からないためこれ以上頼ることは出来ないのである。

 加えて言えば生きていると説明する時間も惜しいためそのため死亡扱いとして事をすすめる事を決めたのだった。

 

「……いや、一つ撤回しておこう」

 

 大沼秋一郎の背中を見やりオメテオトルは静かにつぶやいた。

 

「あの少女が言わずともサマナーが生きていると信じているのはもうひとりおったか……」

 

*** ***

 

 退屈そうにただ座して待つ鬼神の姿が寺の前にあった。

 自身を模した像と見比べても覇気が足りず、それは目の前にライドウが現れても変わらなかった。

 鬼神、ビシャモンテンはライドウの持つ宝塔を見て言った。

 

「契約を取り返しに来たか」

「――己が役目を思い出せ。私たちが戦う必要はない」

「そうはいかない。娯楽もないにもない現状においてそれを得ることができる今を逃せようか?」

 

 腰を上げて立ち上がり残念そうに零す。

 

「……やはり口約束でしかない、か」

「……?」

「お前には関係のない話だ。さぁ、試練の時だ葛葉ライドウ。我と新たなる契約を結びたくばその力を示してみせろ」

 

 四つの寺院で戦いが始まる……かに思われた。

 

「なんだ?」

 

 帝都中が突如として黄金色に輝いたのである。

 多くのものが天使たちが帝都の施した術式がさらなる事件を呼び込んだかと思ったが、一部の者達はそれが違うと確信した。

 

「龍脈の力か……! 一体なぜ突然」

「何が起きている?」

「分からぬ。いや、これは……!」

 

 地面に流れる龍脈の力が召喚陣を描き、それが宙に浮かび上がる。

 陣の形をライドウは、否、葛葉に関連する者たちはよく知っていた。

 

「葛葉の召喚術。一体何が起ころうとしている」

「この大規模な召喚術は、まさか来ようとしているのかこちらに」

「ゴウト……?」

 

 困惑するライドウの耳に耳が痛くなるほどの高笑いが聞こえた。

 音の方向を確認すると額と腹を抑えてビシャモンテンが笑っていた。

 

「すまんなライドウ! 戦いは後だ!」

 

 そう宣言するとビシャモンテンは跳躍しこの場から姿を消し、陣より黄金の体を持った龍が現れた。

 龍は陣に虫のように集る悪魔たちを雄叫びを上げて消滅させる。それでも残った悪魔はメギドラオンにより消滅した。

 例外は跳躍し龍へと向かう鬼神である。鬼神は拳を握り力を込めている。

 その時龍の頭部より跳び鬼神へと垂直落下する人影があった。

 人影は何やら手元を弄るとその傍に小さな光が灯った。

 光から出てきたのは猿と二体の天使、そして首のない真っ赤なコートを着た何かであった。

 光より現れた者たちは人影から分かれると未だに近づいてくる悪魔たちを迎撃する。それはまるで人影と鬼神の邪魔をする者たちを排除するかのような動きだった。

 人影は頭部に被った物だけを投げ捨てると鬼神に向かって拳を突き出し衝突した。

 

「約束を果たすよ!」

「ハハハハ!! ただの口約束だというのにか! いや、だからこそ良い! 待っていたぞ、あの日より今日までずっと!」

 

 その髪の色は金髪……ではなかった。汚れているのか銀のように見え、綺麗というよりは淀んでいるようで深い銀の色をしていた。

 ビシャモンテンは三叉戟を出現させると、人影は腰にぶら下げた刀で打ち合う。

 だが互角ではなかった。武器の差が顕著に現れていたのだ。三叉戟は刀により傷ついていた。

 

「良き武器を持ったな!」

「おかげさまでね!」

 

 鬼神が振るた拳が風圧を発生させる。少年は空中ということもありバランスを崩してしまう。

 鬼神の蹴りが少年の眼前に迫るが、無理矢理に体制を変えて刀を持っていない左腕で防ぐ。

 衝撃により吹き飛ばされた少年が着地したのはギリギリ形が保たれた高層ビルの屋上だった。

 着地し一息ついた少年は見上げると、ビシャモンテンの近くには似たような姿をした悪魔の姿もあった。

 約束をしたのは一体だけなのになぁと、苦笑いしながら、それでも何も言わず……刀を放り投げた。

 

「こっちのが好みっしょ!」

「……ははは」

 

 わざわざ有利になる点を放り投げて言い放った馬鹿な少年を見て鬼神たちは笑った。

 けれど鬼神たちはそんな馬鹿が好きだったのである。

 

「なら一人ずつ相手をしてもらおうか」

「おうさ、こいや!」

 

 多くの者たちが悲しみに暮れるこの東京で場違いに楽しそうに笑う四体と一人を見たら何を思うか。そんなことは知る由もなく少年と鬼神たちはぶつかりあうのだった。

 




4日目については書くことも当然在るのですけど今はこんな感じで。

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