デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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感想、誤字報告いつもありがとうございます。

メガテン5発表から二年半ほど経過したようですがまだかかりそうなんですかね。


『5日目 契約』

 宙に浮かんでいた四天王が屋上に降り立つと、鬼神が一体前に進み出た。

 

「まずは私からやらせてもらおうか」

 

 青い肌が印象的な鬼神コウモクテンが宣言すると少年は頷いた。

 少年の身長は日本人男性の平均よりも大きいのだが鬼神の身体はそれを遥かに上回る。

 少年と鬼神はかなり近づくと少年が右で、鬼神が左で拳を振るった。

 

「グッ!」

「ムッ!」

 

 体格差は勿論ある。

 少年も同年代の男子と比べると身長は高いほうなのだが、鬼神と比べれば見劣りをする。

 鬼神の拳は十分なリーチから繰り出され、少年に確かなダメージを与えるのに対してリーチが劣る少年の拳は威力がそれなりに減衰している。だがそれでも並の悪魔であれば屠ることができる威力を持ち合わせており、少年と鬼神は一歩も引くことも、休むこともなく拳を振り抜く。

 拳が当たり、避け、防ぐ。

 策も何もありはしない原始的な戦いが続いていく。

 暫くすると少年が召喚した悪魔が帰ってきた。しかし加勢することはなく、一部面々は心配そうな面持ちだが応援し観客に徹していた。

 

「そこまで!」

 

 ビシャモンテンの声が響いた。

 顔は腫れ、肋骨を始めとした骨も幾つか折れていると思われるのに少年は笑った。

 コウモクテンも決して無傷ではなく、肌色が青く見にくいだけで多くの痣をこしらえていた。

 

「もういいのか?」

「十分だ。そもそもこれは殺し合いではない……いや、しかし策も何もなく、こうして拳を交え合うのはやはり良いものだ」

 

 満足そうに頷くコウモクテンは拳を下ろしどこか晴れやかな表情で答えた。

 

「なら良かった。東京を、帝都を護ってくれているんだ。これぐらい付き合ったって損はないはずなのにな」

 

 ギブ・アンド・テイクだよ、ギブ・アンド・テイク。という少年に対して。

 

「そう思うものは少ない。我々が傷つき結界の維持に支障をきたすことも一つの問題だ。しかし、感謝しようデビルサマナー」

「あぁ。よければまたやろう」

「……良いのか?」

「勿論! あ、でも、ヤタガラスがそれを許さないかな」

 

 どうするかなーと本気で悩む様子を見て本気であるとコウモクテンは気づくと微笑んだ。

 

「……ビシャモンテン」

 

 ビシャモンテンは何も言わず頷いた。

 

「少年よ。力以外にも技術を学ぶと良い。身体が小さく弱くともそれを覆す技術を人は築いてきたはずだ。それを学べばお前はまだ強くなる。その時を楽しみにしている」

 

 コウモクテンが下がると次に歩み出たのはジコクテンだ。

 ジコクテンは少年が放り投げた刀を持つと少年の近くに投げ、刀が屋上の床に突き刺さり、同時に少年の身体の傷が癒えた。

 

「次は武器を用いようぞ。ただ殴るだけでは味気ない」

「分かった」

 

 武器を使う以上今度は殴り合うわけではなく、縦横無尽に駆け回る実践的な戦いが始まった。

 力で上回る鬼神と速さと武器の差で戦う少年の戦いは長くは続かなかった。

 少年の刀はジコクテンの持つ刀を見事に破壊し刃を首に突きつけるが、鬼神の拳もまた少年の眉間に突きつけられていたのである。

 これが人間同士であれば京太郎有利だが、鬼神の力であれば刀を受けながら少年の頭部を吹き飛ばすことぐらいわけはないだろう。

 

「引き分けかぁ」

「技術そのものが我流と見た」

「そりゃサマナーになって数ヶ月で、剣だって学校の授業で剣道を学んだくらいなんだ仕方がないだろ? しかも持ったのは竹刀だ」

「ならば基礎だけでも学ぶと良い。変に型にはまる方が弱くなる可能性がある。今よりも一層強くなったお前と戦いたいと願う。今度はそうだな、拳で」

「あぁ!」

 

 ジコクテンが下がり、一歩前に出たのはゾウチョウテンである。

 ゾウチョウテンが持つのは太刀だ。

 人間であれば場上で振るう大ぶりの刀もゾウチョウテンからすればリーチが長く、破壊力も申し分ない武器となる。

 

「武器だけでなく、魔法を交えよう。魔法を使えぬ者も居るが電撃魔法を使えるとビシャモンテンから聞いている」

 

 そう言うと再び少年の傷が癒えた。

 ゾウチョウテンが行使する魔法は火炎魔法だ。電撃と比べると貫通力などはないが、生き物が原始的な本能で最も怯えるのが炎であり用途は数え切れないほどだ。

 炎が少年の周りを包み込むように発生するが刀を振ると炎がかき消える。

 しかしその隙を逃さずゾウチョウテンは一気に距離を詰め太刀が振るわれる。だがその太刀に向かって電撃が吸い寄せられるように撃たれ、ダメージを回避するために振るった勢いのまま太刀が放り捨てられる。

 そうなれば当然屋上の床は崩れていき、ギリギリ強度を保っていたビルが倒壊していく。

 倒壊していく中で崩れたガレキで器用に飛び移りながら攻撃を仕掛ける少年。防御に徹するゾウチョウテンだが眼前に移動した少年に向かって全力の突き――グランドタックが放たれる。

 

「ぐっ!?」

 

 刀でギリギリ弾くがそれにより左腕が吹き飛ばされてしまう。

 

 やりすぎたか。

 

 ゾウチョウテンがそう考えるが、本来流れるべき血とは別にまるで悪魔が四肢を切り飛ばされたかのようにマグネタイトの光が血飛沫の様に飛ぶ。

 驚きを隠せないゾウチョウテンの隙を突き背後のガレキを蹴り、ゾウチョウテンに向かって跳ぶとすれ違いざまに斬りつけ同じ様に左腕が切り飛ばされる。

 地面に降り立った少年と鬼神は降り注ぐガレキを各々の魔法で消滅させると太刀を地面に突き刺した。

 

「これまでにしよう。しかしその身体は……」

「ははは。飛ばされた先が飛ばされた先で身体が変質しちゃって……。でもこれだけで済んだのは運が良かった」

 

 同じ様に刀を突き刺して空いた右手で髪をいじりながら少年は言った。

 

「後悔はしていないのか?」

「もとより普通の生活をおくれる人間じゃないし後悔なんてないよ。全部俺が選んだ末の結果なんだ。選んだ末の結果を悔やむなんて贅沢だ」

「悔いの無い選択。それは理想だろう。だがそれと悔いをしないと思い込むのは別だ。存分に悔いるが良い。それがお前の力となろう。そして成長した汝と試合おう。何度でも」

 

 残ったのはビシャモンテンのみだ。

 観客としてみていた天使が、吹き飛ばされた左腕を持って傷口に押し当てるといやしの力が傷を癒やした。

 

「口約束だった。しかしこうして叶えてくれたことに改めて礼を言いたい」

「口約束も契約でしょ」

「たしかにそうだ。口約束でも契約は結ばれてしまう。しかし汝と我の間に契約はなかった。口約束でもないただの軽口だ」

「そんなのどうでもいいよ。別に俺自身にデメリットがあるわけじゃないし気にするほどじゃないって」

「それを本気で言っている辺りがまったくもって度し難い。……だからこそ」

 

 首を振って「どうでもいいことだな」と言った。

 

「長く楽しみたい気持ちはあるが、汝らも時間がないだろう。一撃でもって勝負を決めよう」

「……良いの?」

「また戦ってくれるのだろう?」

「うん」

「ならばそれで良い。そう、それを契約としよう。汝の全力を見せてほしいデビルサマナー」

 

 ビシャモンテンは持ちうる全力で拳を振るう。振るわれた冥界波は衝撃となり少年へと向かって襲いかかる。

 少年は刀を鞘へと納め衝撃が襲いかかるギリギリまで力を溜め、そして刀を抜き放った。

 

 『一刀』による『一閃』が衝撃波を切り裂きその刃は剣閃となりビシャモンテンの頬を切り裂いた。

 

「見事」

 

 満足そうに言い放った鬼神に対してバツが悪そうに少年は言う。

 

「力を貯める時間があった分俺のが有利だったから」

「それでもだ。……さぁ、契約を結ぼう」

「契約……?」

 

 首をかしげる少年を中心に鬼神たちが四方に立つ。

 鬼神たちの足元に陣が描かれ、陣から伸びた光が少年へと伸びていく。

 光は少年の持つ刀へと収束すると魔界による文字が刀身へと刻まれそして消えた。

 

「これにより我らと汝に契約が結ばれた。帝都の結界を消すも維持するも汝が意志に従おう」

「……は? え、何を言って」

「刀は我らとの契約の証であり力である。我らが力を有効に扱うが良い」

「いやいやいやいや」

「ではなデビルサマナー。いや、我らが契約の主たる須賀京太郎よ……汝がいつまでも我らの知る汝で有り続けることを願う」

 

 そして四天王の姿は少年――須賀京太郎の目の前から消えた。

 ポカンと口を開けて驚き宙に向かって手を伸ばすだけで何も出来ずにいる。

 

「見事な戦いでした。サマナー」

「いやー、めでたいめでたい! 全部終わったら俺ともやろうぜ!」

「お疲れさまです。まずは傷と疲れを癒やしてから貴方を待つ人達の元へと帰りましょう」

「むー……! ずるい!! 戦いたい!」

 

 ドミニオン、セイテンタイセイ、レミエルが称賛の言葉を投げかけ、そしてこれまでの経緯により新たに契約した悪魔デュラハンが地団駄を踏んで抗議する。

 「あー……」と頭を抱えて思い悩む京太郎は「どうすんだこれ」とぶつぶつ言っている。

 

「本当に生きていたのか……。いや、本当に須賀京太郎なのか?」

 

 聞き覚えのある少年の声が聞こえてビクッと肩を震わせた。やってしまったことを理解しているのだ。

 

「ははは、どうも。なんとか……」

「しかしその髪はどうしたのだ?」

「飛ばされたのが魔界だったんです。デモニカを緊急装着したっていうかされたっぽいんですけど。それでもわずかに魔界の空気にあたってこんなことに」

「飛ばされた先は魔界だったのか」

「その中でも特異的な地域でした。そこの管理者に拾われたおかげで生き延びたんです。四肢が吹っ飛んで気絶もしてたので戦うことも出来なかったからほんと危なかった……」

 

 四肢が吹っ飛びそれでもなおガントレットは京太郎の近くにあり続けた。おかげでCOMPを失うこともなく、色々とありはしたがこうして帰ってこれたのだ。

 ゴウトの問いかけにそこまで答えるとライドウは右手を出した。

 

「その刀をこちらに渡してほしい」

「ですよねー。でもそれは……」

「それはもはや一個人が振るう武器ではない。この帝都を護る神器となったと言っていい」

「そりゃそうですけど。ああ、でもこれ」

 

 渡せるのか? と首をかしげる間にライドウが刀を取るが電撃が走ったようにライドウを拒絶し意思を持つかのように京太郎の手に収まった。

 

「ああ、やっぱり……」

「やっぱり?」

「あくまで俺と四天王との契約で、力を発揮するための器がこの刀なんで持てるのかな―って……。どうしましょう?」

「……答えはここでは出せない。だが、ゴトウたちの拠点に形成された結界は解除できるのか?」

「そこは問題ないと思う。試してないけど鬼神たちが嘘を付くとは思えない」

「ならばとりあえずこの話はおいておこう。事件が解決さえすれば時間はできる。まずは私たちとともに帰ろう。……君のことを心配する人たちが多くいる。彼らを安心させよう」

 

 ライドウは背を向けると言った。

 

「……駆けつけることが出来なくて済まなかった」

「良いんです。俺が自分で選んでやったことなので」

「そうか……私も。いや、俺も無事で良かったと、そう思っている」

 

 そうしてライドウは業斗童子を連れ去っていった。

 退魔師が去った後に地上の空気を楽しむように大きく深呼吸をすると。

 

「はは。埃と土埃で喉を傷めそうだ」

 

 ビルは崩れ辺りには砂埃が舞っている。深呼吸をするような環境ではないのだが紛れもなく今いる場所が地上であるという証だ。

 

「ともあれ急いで戻りましょう。オメテオトルたちと合流しなくては」

「分かってる。まずは送還しよう」

 

 セイテンタイセイを残し送還した京太郎は黄金の龍が姿を消していた事に気づき龍が本来あるべき場所へ還った事も理解した。

 京太郎は龍を操っていた訳ではなくただ力を貸してもらっていただけだ。何処に行こうが龍の意志次第であり、必要なときが来ればまた会うだろうと結論づけると筋斗雲に乗せてもらい避難所へと向かう。

 結界の範囲が増えているようで安全地帯がかなり増えている。結界の手前で筋斗雲を降りて送還した京太郎は恐る恐る結界に触れると少しビリビリとした感じはあるが問題なく通ることが出来た。

 多少の拒絶感が人間を少しやめてしまったことを証明するようで少し落ち込んでしまった。

 結界に入って東京国際フォーラムへと向かう道すがらにビリビリとした衝撃が肌に走った。

 空間が震えているようで京太郎のトラウマを若干刺激し顔色が青くなっていく。

 

「ま、まさか。またマグネタイト爆弾?」

 

 慌てるように周りを見るがそうでは無いようでホッとし、なら異常の原因はなんだと周りを見た時、結界を突き破ろうとする悪魔の大群が見えた。

 一方から押し寄せているだけではなく、ありとあらゆるところから結界を破ろうとしているようで、その衝撃が肌を刺激したらしい。

 

「でも有象無象の悪魔が結界を破るなんてことは……」

 

 そんな思いも虚しく結界が破られた。

 イナゴの大群のように向かってくる悪魔の大群は生理的に受け付けない光景だ。

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

 その時刀が光り、声が京太郎に聞こえてくる。

 

『刀を抜き念じるのだ。さすれば我らが結界の穴を塞ごう』

「あ、あぁ!」

 

 抜き放った刀を両手で持って強く念じる。

 すると破られた結界の穴を塞ぐように結界が形成される。

 

 ホッとして刀を収める。

 

「でもたまたまなのかこれ」

 

 こうして結界を破れるならなぜ今まで結界が破られなかったのか。

 思い返せばタケミカヅチのような悪魔が多く存在すれば一点集中で結界の破壊も出来た可能性はある。

 それが今になって、四天王の契約を奪還した直後に結界を破るということに何者かの意図が感じられたのである。

 

「って、悩んでいる場合じゃない。結界は塞いだけど悪魔が入り込んでる……急がないと」

 

 結界に入り込んだ悪魔を撃退するため京太郎は走り始めるのだった。

 

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