デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

44 / 58
感想、評価、誤字報告いつもありがとうございます。



『5日目 可能性の枝』

 自分たちは助かったのではないのか?

 数多くの悪魔たちが避難所であった東京国際フォーラムに襲いかかり、人々は散り散りになって逃げ出した。

 ヤタガラスという組織に所属する退魔師と呼ばれた者たちが悪魔の撃退のために戦っているが、結界内に入り込んだ悪魔の数が多いらしくすべての悪魔をすぐに倒す事ができずに居る。

 

 そんな状況の中で必死に逃げているのは千里山と阿知賀の二校の女子と保護者たちだった。

 悪魔と戦うすべを宥のみが保持しているが、すべはあっても力量が足りない。

 炎の力で牽制はできるだろうが打ち倒すことは出来ないし、炎を使うにも限度がある。

 そんな状況の中で道を先導していたのは園城寺怜だった。

 

「はぁ……はぁ……。つぎ、次はあっちや……」

 

 江口セーラに担がれた怜が真っ青かつ汗だくになりながら指差した。

 

「怜! 無茶はあかん!」

「はは、おかしなこというなぁ……。ここで無茶せんでどこでするん?」

「それは……!」

「ほら、はよ……早くしないと未来が変わってしまうわ……」

 

 園城寺怜はこれから起きる可能性が最も高い未来を視ることができる。

 その能力により怜は悪魔に襲われるルートを避けることによって意図的に未来を変え続けていた。

 しかし彼女の持つ能力は最も起きうる可能性が高い未来を視るというもの。

 先程までAルートに行くつもりで未来を見て、それをBルートに変えれば当然未来は変わる。その未来が本当に安全なのか確認するために彼女はまた未来を視る必要がある。

 それを繰り返すことで安全なルートをひた走るのだが、力を使えば多くの体力を消費してしまう上に、彼女は元来病弱で体力不足の身だ。これ以上無理をさせると不味いのではないか? と思うほど顔が真っ青になっている。

 

「怜……!」

 

 親友である清水谷竜華は拳から血がにじみ出るほどに強く握りしめて「もうやめて!」と言葉に出すのを我慢していた。

 現状親友に頼るしか手はなく、手助けすらすることが出来ない自分に腹が立っていた。

 竜華の様子に怜も気づいていたが声をかける体力すら惜しくただただ未来を見て安全な道を指し示した。

 こうして安全な道を通って逃げている姿を見た人々はその迷いない動きに一途の希望を見出した。

 

 時折立ち止まることはあるがそれでも迷いなく逃げているのは安全な道を知っているからではないか? と。

 

 そうなると少しずつ縋るように女子高校生を頼る大人という情けない構図が出来上がるのだがその選択に間違いはなかったのも確かである。

 

 しかし悪魔に襲われるという状況下に置いて変化を感じるものが居た。

 

「……あっちやな」

 

 あんなに悪かった顔色が少し良くなっていた。それどころか立ち止まる時間が少なく……いや、ノータイムで安全な道を指し示していく。

 先程までは選択肢を変更することで見る未来を変えていたのが、現在は園城寺怜が最も望む未来が彼女には視えていた。

 

 ――おかしい。絶対におかしいわこれ。

 

 能力を使わない少しの休憩時間の間にも思考は止まっていなかった。

 起きている現象もそうだが感覚としても今まで自分が扱っていた未来視とは何かが違うことを感じ取れた。

 

 ――なんでや、でも、もしかして。

 

 とある可能性がよぎり、自分たちが視た救われる未来の結末を見届けた後に……違う未来を望んで未来を視た。

 

 目の前で親友が喰い殺され自分のところまで転がってきた頭部と眼があった。

 

「……ぅぷっ!」

 

 最も視たくない未来を視た結果耐えきれなかった怜の口から酸っぱいものがこみ上げるがなんとか耐えた。自分にならともかく友人にそんなものをかけてはならない、もしくは幼くても女のプライドがそれを阻止させたとも言える。

 

 とはいえ。

 

「ちょま! 大丈夫なんか?」

「な、なんとか。ウチの乙女力をなめんでや……!」

「いやいやいや!」

「とにかく、後少し、後少しや。それで大丈夫になるわ」

「大丈夫になるて。言葉おかしいで」

「ウチもそう思うけど、うん。せやかてそう言うしかあらへんもん。ああでも」

 

 轟音とともに進路上にビルが倒れた。

 埃や土煙から眼をかばいながら何事かと思っていると現れたのは

 逃げ道となる進路上に大型の犬の姿をした悪魔が出現した。口からは炎が漏れている。それがどんな悪魔か人々に分からなかったのは犬の首が三つなかったからだ。悪魔ケルベロスは首が三つ在ることで有名だがそうなっていない。

 だがそれでも、自分たちが命の危機に瀕していることだけはわかる。

 

「グルルル。エサダ、オマエラ、ゼンブ、オレサマ、マルカジリ!」

 

 叫び声が木霊する中で笑っていたのは怜だけだった。

 ケルベロスが突如として光りに包まれ、苦悶の声とともに動きが封じられると空から降ってきた赤色の何かが勢いよく腕をふるった。

 

「キヒヒ!」

 

 ケルベロスをミンチにしたのはくまのぬいぐるみだった。

 

「ひっ!」

 

 赤色のなにか――一点を除けば少女とも思えるそれを見て悲鳴を上げたのは左腕で彼女のものと思わしき首を抱えていたからである。

 頭と胴体がくっついていないにも関わらず頭部は感情豊かに楽しそうに笑っておりそれが更に恐怖を煽った。

 

「こら」

「わぷ」

 

 抱えられた頭部を軽く叩いたのは銀色の少年だった。

 

「先行しすぎ。普通の人は怖いと感じるんだよそれ」

「うぞーむぞーはかんけーない!」

「平時はそうかもだけど今はあるあるだから!」

「ちぇ」

 

 いじけて隅の方に移動した少女にため息を付きつつも少年が声をかけた。

 

「大丈夫っすか」

 

 へたり込んで動くことさえ出来ない人々が「助かったのか?」と言った。

 

「現状はなんとも言えないです。数日離れてたせいでなんでこんな事になってるのか分かってないし」

 

 そう言っている間に少年の周りに悪魔が集い、各々が周りに居た悪魔を全滅させたと報告した。

 

 目を細め、ジッと少年を見ていたツインテールの少女が問いかけた。

 

「えっと、もしかして須賀くん?」

「んー……?」

 

 少女を見て悩む少年は彼女の周りにいる他の少女たちを見て思い出すように手を叩いた。

 

「あぁ! 新子憧さんだっけ? 久しぶり!」

「あ、あんた死んだって噂だったけど」

「見ての通り無事……無事? まぁ生きてるよ」

 

 ケラケラと笑う少年に力が抜けたように脱力した。

 こうして助けてもらったのもそうだが、過去に一度彼女たちは京太郎に救われた実績がある。

 だから「助かった」と、心からそう実感することが出来たのだ。

 

「とにかく話を聞かせてもらってもいいかな。ここはもう、安全になるから」

 

 刀を抜き何やら念じると頭上から光の膜が発生していく。膜が地面にまでいったことを確認するとこれで大丈夫と満足しながら刀を納めるのだった。

 

*** ***

 

「国際フォーラムが攻撃を受けたか。まぁ人が最も集中してたのはあそこだしおかしいことはないのだけど」

「それで皆一斉に逃げ出したってわけ。退魔師たちも頑張ったけどライドウも居なかったから一部の悪魔に勝てずそのまま」

 

 メイン戦力が四天王戦に向かっていたのが裏目に出た結果である。

 たとえどれだけの力を持ってしてもすべてを救うことは出来はしない。

 

「そっか。でもよくここまで無事だったな。なんていうか、俺たちの方に向かってくる集団を見つけたから寄ってみたんだけどさ」

 

 京太郎と会話をしていたのは憧である。

 ヤタガラスには所属していないが裏について最も知っているのは彼女だった。

 松実宥は力こそあるが軽い事情説明しか受けていないし、妹の玄も姉のサポートのために似たようなことは説明されているが宥がダメなのに彼女が良いわけがない。

 京太郎の疑問に彼女は。

 

「園城寺怜さんが安全な道を示してくれたのよ」

「……未来視か」

 

 来たるべき未来を視て自分たちの運命を変え続けていたのだろう。

 もとより体調面で問題があるとは聞いていたので能力を行使し倒れているのは不思議ではなかった。

 京太郎は懐から魔石を取り出すと少女のお腹の上に置いた。

 

「少しですけど体を癒やしてくれるはずです」

「そうなん……? 怜?」

「あー……お腹から体が暖まる感じがするわ。夏やけどこの暖かさはええな。なんていうか、安心する……」

 

 魔石に回復効果があるのはマグネタイトが込められているからである。

 それが多少なりとも魂に作用し回復能力を高め、ディアと似たような効果を発揮するわけである。

 

「そっか。ありがとうな。えっと、須賀くんやっけ」

 

 彼女が京太郎の名前を知っているのは数日前に少しだけ一緒に居たこともあるが、憧との会話が聞こえたのも理由だ。

 そもそも数日前とは言え少しだけ会った人間を確実に記憶するのは中々に難しい。しかも髪の色が変わっているのだから記憶から引っ張り出せるかも怪しい。

 

「いえいえ。多くの人たちを救ったんです。これぐらいはさせてください。……でも」

 

 変質した京太郎の瞳が園城寺怜が備えているマグネタイトが常人よりも数段保有していることに気づかせた。

 いや、元々未来視なんてことができるのだからマグネタイトは多く保有していたのだろう。

 

「俺たちがこっちに居るって気づいてたんですよね?」

 

 ジャブ的な質問をまず投げかけた。

 

「ん。途中からやな。なんて言えば良いんやろ。最初はいつもどおり目の前の危機を回避していったんやけど、最終的に助かる道が視えるようになったというか」

「助かる道がわかる?」

「多分途中から絶対助かる道を視れたんや。火事場の馬鹿力ってやつやな」

 

 これは麻雀にも役立ちそうやわ―と楽しげに笑う少女に対して京太郎は頬を引きつらせた。

 視線をレミエルに向けると苦笑していた。その理由は彼女自身がどれだけ厄介な問題を抱えたかに気づいていないからだ。

 

「通常の未来視は最も太く、強い枝を辿るようなものです」

「未来視で未来を変えるってのはその枝を変える……ってことだよな?」

「当然そのときに取れる選択を自分で選ぶ必要があります。右に行くと事故にあうから左に行こうと決めて未来を見れば未来は変わっているわけです」

「それを、自分が求める未来。つまり枝を選択し視ることができる? 0%でなければ?」

「はい」

「それはまずくないかな?」

「世が世であれば彼女を聖女か何かに祭り上げる人も現れるでしょう。未来視を神からの予言とし的中させると」

「天使がそんなこと言って良いのか?」

「それをしたのは私たちではなく他宗教ですから関係ありませんね」

 

 しれっという天使に疑惑の目を向ける京太郎だが、実際のところ過去がどうとかどうでも良いので捨て置いた。

 問題は目の前の園城寺怜である。

 怜は疲れと安堵から深い眠りに入ったようで代わりに問いかけたのは親友である竜華だった。

 

「え、えっと。怜がなんやの?」

「例えばですけど麻雀打つ前からどうやって打てば勝てるかわかるとかすごいと思いません?」

「怜の力の話なん? でもそんな体力怜には……」

「今まではなかったとして、これからはどうでしょうか?」

 

 この場にいる怜を心配して集まっている面々の視線が天使に集まった。

 

「彼やそこの少し厚着をした彼女のように覚醒者となるには戦う必要があります。自分より強いものに立ち向かい、そして打ち勝つことにより霧散したマグネタイトが霊魂に作用し魂が強くなるのです」

「でも園城寺さんは戦っていないだろ?」

「いえ、戦っていたでしょう? 生きるために自分の体に負担をかける力を行使し生きるために全力だった。倒すことは彼女には出来なくても、私たちやヤタガラスの退魔師たちが倒した悪魔の体を構成するマグネタイトは少なからず彼女に影響を与えたことでしょう」

「……そして未来視の力が強化されていき。最終的に俺ってかデュラハンが上位悪魔のケルベロスを殺した……?」

「覚醒する条件としては申し分ありません。どうも能力に全リソースを向けているようでそこまで高い身体能力ではないようですが」

「本体が未来視だから関係ないなそれ!」

 

 どうすんだこれ! と頭を抱える少年に対して状況がうまく把握できていない竜華が問いかけた。

 

「えっと、つまり?」

「園城寺さんの力を知れば世界各国の色んな人が彼女を狙う。裏で飼われるぐらいならまだマシで、その力を受け継がせる事ができるかとか考えるかもしれない」

 

 未来視能力の量産化はしないだろう。下手に増やして盗られたら大問題である。

 しかし一族や一国の安泰を考える者たちは居るのではないだろうか? そのためには園城寺怜という人間の寿命が問題になる。子供を産めば力を引き継ぐことができるのか? 出来ないのであれば別の、それこそ下衆な手段を取り力を永続的に使う事ができないか考えるだろう。

 その可能性を伝えると面々の顔色が真っ青になった。

 

「どうすればええのそれ!」

「えっと、ヤタガラスに頼るのはいけないのかな?」

「ヤタガラスも力を利用したいと考える側だからダメね、きっと」

 

 松実宥の案を一瞬で憧が切り捨てた。

 ヤタガラスは確かに国に住む人々を護る役目を担っている。しかしそのあり方は小を捨てて大を取りに行くものである。

 園城寺怜という個を利用し国民を救うことができるならば先程あげた話ほどではないにしろ、彼女は自由を縛られることになる。

 

「……考えるのは後回しだ」

 

 あちこちから聞こえる騒音を聞き京太郎は言った。

 

「頼りにできる人は少ないけれど、それでもなにか手はあるはずだ。うん」

 

 と言って彼女たちの前から去り人々の傷を治療しているドミニオンの元へと向かった。

 

「なんかつめたない?」

 

 ムッとしながら言う竜華に対して。

 

「心配しないでください」

「へ?」

「どうあがいても多少なりとも縛られるのは避けられないでしょう。しかし、それでも普通に過ごす事ができる方法を得るための交渉材料ならばあります。そして彼は手札を切るでしょう」

「まった。それが本当だとしてこっちは嬉しい話やけどあいつにとっては他人や。他人にそこまでするもんか?」

 

 まだ竜華や怜に色目使う言う方が納得できるわ。とボーイッシュな少女が言う。

 

「確かに。……これは理解する必要はありませんが、だからといって手を伸ばさないという選択肢は選びにくいのです」

 

 須賀京太郎は多くの人々の手を手放した。

 その結果目黒区を始めとする多くの人々が死に、本人は人間を辞めかけているとはいえ死に損なった。

 あの日のことを彼が忘れることはないだろう。

 だから、目の前で危うい状況にある怜を見捨てることは出来ないことは、あの体験をともにした彼を知る者たちであれば理解できることだった。

 すべてを救うことは今もできはしない。けれど手を伸ばせば助けることができるかもしれない人が居ればきっと手を伸ばすはずだ。

 例えその結果自分にあらゆる困難が襲ってきたとしても。

 

 自己犠牲とも取れるその思想の根底にあるのはトラウマだ。

 

 そこまで説明はしなかったが、追求されることもなかった。

 レミエルの顔を見ればそれ以上語ることはないと書いてあったからだ。

 

 それ以上に事態を理解した彼女たちからすればなんとかしたいがなんとかする金も力もないのだ。

 怜を救うためならと密かに覚悟を決める一人の少女の姿があったがそんなことは露知らず、人々を癒やした京太郎は彼らに結界から出ない事を約束させこの場を立ち去ったのであった。

 

*** ***

 

 その頃、東京国際フォーラムから安全に逃げることに成功した者たちが居た。

 鳥型の悪魔が頭上から悪魔たちの進行を確認し残った二体の悪魔が彼らを護っていたのだ。

 

 スパルナ、オメテオトル、ローレライ。

 彼らとともに居るのは咲を始めとする清澄勢と福路美穂子。そして京太郎は知らないが彼女たちの知り合いとなった臨海女子の面々であった。

 

「この辺でいいじゃろう」

 

 そう言って地面に腰を下ろしたオメテオトルに倣うように彼女たちも動きを止めた。

 空から舞い降りてきたスパルナが言う。

 

「サマナーハッケン! フキソクニウゴキナガラコッチニムカッテイル!」

「近くの人を助けながら来てる?」

「いつもどおりじゃな。……パラケルススたちが見当たらんかったのは気がかりじゃが最低限の言い訳はこれでたつか」

 

 彼らが移動した先は悪魔も、そして人も居ない場所だった。

 悪魔からすれば強力な力を持つ彼らを狙うのはリスクが有り、人からすればココが安全なんて知りようがない。

 オメテオトルたちとしても、知り合いですらなんでもない人間を救う義理がなければ理由もなかった。

 

「なんで私たちを」

「助けたか、か? そんなものはどうでもええわ」

「どうでもいいって!」

「人がどれだけ傷つこうが、死のうが知ったことではないわ。戦うことすらせずただ逃げるだけの命になんの価値があろうか」

「そこまで極端なことは言わないけど、どうでもいい人間がどうなろうと知ったことじゃないのは同感かなー」

 

 ならばなぜ、彼らが彼女たちを救おうと動いたのか。

 その理由は京太郎が帰還したことに気づいたからである。

 京太郎と離れ迷子状態となっていた彼らは身体に供給されるようになったマグネタイトで彼の帰還を察した。

 だからこそ京太郎と合流するために。ついでに、彼の機嫌を損ねないように近くに居た彼の知り合いを守護するように動いたのだった。

 

「そんな勝手な! 元はと言えばあなた達のような存在がいるから……!!」

「ほほう、儂らの存在を認めたか!」

 

 これまでの怒りをぶつけようとする少女に対して、かかかと高笑いするをするのはオメテオトルだ。

 それに続くようにローレライも楽しそうに笑っており、不気味に感じた原村和が一歩後ずさった。

 

「そんなオカルトありえません! じゃったか? なんとも滑稽な言葉か! サマナーのCOMPの中からその言葉を聞くたびに笑いを堪えるのに必死じゃったわ」

「な、な、な!」

「まぁそれもそうじゃろうな。そうやって必死に否定せねば、貴様の嫌いな物の中に加わるのはそこのゆ」

「やめてください!!」

 

 絶句から一転叫んだ少女に怯む様子もなく、それでもその先を口にするのをやめたのは京太郎の指示がすでにあったからである。

 原村和は超常的な現象に対して恐れを抱いている。例えば霊であったりするわけだが、さて、オカルト能力とは彼女からすればどのような位置付けと言えるか。

 オカルトなんてあるわけがない。そう言わねば、思い込まなければ彼女は友人を恐れることになる。

 それに気づいたのは悪魔たちで、それを元にからかえばいいと訴えるも京太郎は許さなかった。

 仲魔を否定されるのは癪に障るが、ただ怖いだけではない理由があるならば仕方がないと考えたからだ。

 

 それ以上何も言わない悪魔に恐怖心が沸き起こり和は何も言うことが出来ない。

 今が好機だと「ここならば安全なのか?」と問いかけようとした臨海女子の監督アレクサンドラの行動を複数の騒音が邪魔をした。

 

「……男子三日会わざれば刮目して見よ。と言うが、サマナーには一日あれば十分じゃな」

「イメチェンしたからな!」

「そういう意味ではないが……。実際そのとおりじゃな」

 

 バサバサと翼をはためかせながら現れた銀髪の少年の頭部をスパルナが突く。

 

「ヤクソク! ヤクソク! ワスレテナイカ!」

「忘れてないって! もうちょい待ってくれよ。……どうせ数日後には全部終わるからそうなったら適当に合体させるから」

「カカカカ! ナラ、イイ!」

 

 頭を擦っている銀髪の少年にドンと抱きつくのはローレライだ。

 

「おかえりなさい、サマナー」

「ごめん。心配かけた」

「ほんとだよ! 全部終わったらパフェ、お腹いっぱい食べさせてよね!」

「……それで済むなら幾らでもって話だよなぁ」

 

 須賀京太郎は自分に向けられた視線を感じ、最も強く投げかける少女の方を見た。

 少女は口を大きく開けて、信じられないと驚愕しつつ涙をこぼしていた。

 

「京ちゃん?」

「おう。一応は」

 

 いつものように名前を呼びかけ、いつものように軽い口調で答える。

 それはいつもどおりの日常でありながら、人の側である咲と悪魔とともに居る京太郎と対照的な光景でもあり。

 

 ――遠くに行っちゃったんだ。

 

 少女がかつて実姉に抱いたような感情を少年に対しても抱くのであった。




怜の能力についての補足。
今まで:起こる可能性が最も高い未来を視る。

これから:可能性が1%でもある未来を視ることができる。つまり核に変わるそれ以上のエネルギーを明日できる可能性が1%でもあるならばそれを視ることができる。つまり、欲する可能性を手繰り寄せて実現できるということです。
ただとある弱点のせいで万能ではないですが、それは追々語られることでしょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。