デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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評価・感想・誤字報告いつもありがとうございます。

ダンテがDLCで来るみたいっすね。嬉しい話だけど購入する度に赤字システムは解消されてるよね、きっとw


『5日目 終わりの名』

 京太郎が向かっているのはハギヨシが眠っていると聞いた部屋だ。

 回復魔法で癒やされたという話だが、かつての京太郎のように多くのマグネタイトを失っており眠って回復しているらしい。なら休ませとけと思うかもしれないが、超人執事であれば目覚めているのではないかと考えたのだ。

 

 そんな京太郎の眼に入ってきたのは目的の部屋に入ろうとしている一人の少女の姿であった。

 

「あれって」

 

 避難所に居ることはおかしくはないが、それでもなぜ入ろうとしているのかわからない。

 コンコンと音を立てて扉にノックし、何やら言葉を返して入っていった少女はくせっ毛の緑髪の先輩であった。

 少しだけ考え込む様子を見せたが、考えても仕方がないとすぐに思考を切り替え同じ様にノックし部屋へと入った。

 

「む? 京太郎か。そっちもお見舞いか?」

 

 入ったばかりで一番近くに居た染谷まこが少し戸惑いながらも問いかけ。

 

「京太郎くん、本当に髪の色変わってる……」

 

 続けて部屋の中に居た桃子が驚いた様子を見せていた。

 京太郎は桃子に手をあげて挨拶をして、まこの問にこたえた。

 

「はい。それでハギヨシさんは」

「きょうたろう?」

 

 問いに答える前に弱々しい少女の声と視線が投げかけられた。

 ハギヨシが眠っているであろうベッドの前で座っていた金髪の少女が上半身を捻って扉の方に振り返っていた。

 眼は赤く腫れ上がり、顔色も真っ青になっていた衣の姿はとても見れたものではなく、倒れてもおかしくはないほどの精神的ダメージを負っているにも関わらず彼女が意識を保っていられるのは、ただ一人残ったハギヨシを看病するためなのだろう。

 京太郎も透華も居なくなりハギヨシも倒れたのだ。仕方がない話である。

 

「京太郎!」

 

 そんな体調で急に立ち上がり駆け寄ろうとしても走れるわけがなく、足がもつれ転けそうになってしまった。

 そんな彼女を支えたのは同じ金髪の光だった。気のせいか少しだけ濁っている様に視える髪色に変化しているように感じられる。

 

「大丈夫っすか」

 

 いかに衣の身体が小学生並みでも支えている光は由来こそおかしいが正真正銘の小学生ぐらいの肉体である。二人の体を気遣いながら近づいた。

 案の定支えきれず、膝から崩れ落ちた二人であったが、今度は京太郎が支えた。

 

「うぅぅぅぅ……。ーーーーー!!」

 

 京太郎の顔を近くで見て服をギュッと握りしめながら泣く衣をこの場にいる全員が声をかけることが出来ず、ただ京太郎と光の二人だけが落ち着くようにと身体をポンポンと優しく叩いて安心させるのだった。

 

*** ***

 

 京太郎に向けて言いたいことは色々あったはずだが、泣きつかれた衣にそんな事は出来なかった。

 ハギヨシの身体を少しだけ動かして、衣を同じ様にベッドの中に移動させた京太郎は改めてこの場に居る全員に声をかけるのだった。

 

「改めてご心配おかけしました」

「……本当に」

 

 ペシペシと腕あたりを叩いてくる光をあしらいながら頭を下げた。

 

「いや、無事で良かった。それに何やら面白い状態になっているようだからな、俺からは楽しみが増えて何よりとしか言えんよ」

「はい。ご無事で何よりです。デビルサマナー」

 

 なにやらニヤニヤしながら言うパラケルススと、お茶を入れていたマチコがコップを手渡しながら言った。

 

「どうしました?」

 

 じっと見つめてきたまこに問いかけると。

 

「ん、ああ。よく懐いているなとみとったんじゃよ。京太郎もお見舞いか?」

「はい。まぁもしかしたら起きてないかな? って思ったのは事実ですけど」

「……そうじゃな。わしもそんなこと考えとったわ」

「ハギヨシさんも人間だったんっすね。俺は人間やめたけど、ハハハ」

 

 そんな自虐に苦笑いしか浮かべることができないまこに、やってしまったとちょっと後悔しながらお一人ですか? と聞くと。

 

「うむ。本当は咲たちがくるべきだったのは思うんじゃが……」

「まぁ衣さんと仲良かったの咲と原村ですしね」

 

 さきー、ののかー。と言いながら麻雀を楽しそうにしていたのを京太郎たちは知っている。

 

「なんじゃがちょっと和がな……」

「何かあったんですか?」

「怯えとるんじゃよ。しかも咲たちが近づくとビクッとするぐらいでな。もしかしたら自分以外に恐怖しとる可能性も……じゃがわしは大丈夫じゃったな」

「まこ先輩が大丈夫で咲がダメ? 優希は?」

「咲と同じ反応しておったな」

 

 京太郎は桃子に視線を向けて和の状態を知っているかと問いかけると。

 

「私に対しても同じ反応してたっす。ただゆみ先輩はセーフだった様な……」

「……これはまさか。オカルト持ちを怖がってる?」

「ああ、その二人の共通点は確かにそれじゃな」

「ええ、まぁ」

 

 とある身体的特徴を共通点として思いつくが、そんなものを女性が怖がる理由がない。しかしオカルトならば説明がつくと京太郎は言った。

 

「なるほどな。この状況だ、流石にそんなオカルトありえませんなどと現実逃避するのも限界というわけだ」

 

 パラケルススはそう言って笑う。

 どういうことじゃ! とまこが問い詰めると彼は。

 

「あまりその原村和という少女について知りはしないが、聞けば聡明な少女らしいな。そんな娘が果たしてオカルト能力を目の当たりにして否定するか? しないだろう? するとなれば聡明な少女という評価は覆り愚鈍な少女としか言えんくなる」

「たしかに和はオカルトは否定するが愚鈍というわけじゃないわ!」

「で、あろうな。なら考えられるのは認めたくないのだろう。必死に否定し現実逃避をしそのためのキーワードがそんなオカルトありえませんなのだろう」

「むぅ……?」

「しかしこの状況となり、悪魔も天使も神も居ることを知った。しかもそいつらと同じ力でもって戦う人間さえ居る。さてオカルト能力とはなんだろうな?」

「まさか……」

「怖いだろうな! 現実逃避さえして認めねばならん。恐らくその少女は自身が理解できない物が怖いのだろう? 幽霊とかも苦手なのではないか?」

 

 その言葉をまこは否定することが出来なかった。

 

「神、悪魔、天使、幽霊! 自身が理解できぬ存在と似た力を持つ友人たち! さぞ怖いだろうな。友人たちを嫌ってしまう自分も含めて」

「……お、おぉぉぉ」

「が、手がないわけではない」

「なんじゃと!?」

 

 驚きのあまり大声を出して、藁にもすがる思いでパラケルススに掴みかかった。

 

「簡単な話だ。サマナー、貴様に関する記憶を消して、彼女が苦手とするオカルトに対する嫌悪感を軽減するために暗示をかけてやればいい。言葉に出して不満を発散し苦手とするオカルトを苦手と感じなくすればストレスも軽減されるだろう」

「京太郎の記憶に暗示じゃと……?」

「人間は自身が、もしくは知り合いが属するカテゴリに対して攻撃的になりにくい傾向がある。例えば警察が問題行動を起こしたとして、警察に勤める者や家族に友人が勤めていたら言いにくいだろう? これだから警察はと」

「う、む……」

「それと同じだ。サマナーは原村和にとって知り合いレベルだろうが、友人である宮永咲にとっては大事な存在だ。だとすれば言いにくいだろう? サマナーと同じ様な存在に対して文句をな。今回の場合で言えば早く事件を解決してさっさと元の生活に戻しやがれ! と言ったところか」

「……う」

 

 まこは否定することが出来なかった。その言葉は自身がどこかで感じていたもので、言いたかった言葉だからだ。

 しかし言うことが出来なかった。身体をボロボロにしてまで戦い自体の解決を頑張っている京太郎の姿を嫌でも眼に刻んだのだから。

 

「暗示については完全に苦手を解消すると心と意識で齟齬が発生しそこから決壊する可能性がある。その可能性を低くするため、軽減とするのだ」

「じゃがどちらも簡単にはできんじゃろ」

「できるさ。サマナー、今のお前の立ち位置であれば問題なく行えるはずだな?」

「……そうっすね。報酬の前借りって形でヤタガラスに頼めば多分」

「たった数人の記憶を消すだけでサマナーに払うべき報酬を減らせるのだからヤタガラスは諸手を挙げて喜ぶだろうさ」

「……京太郎」

「……構わない。どうせ記憶は消すつもりだった。それが今かそれとも未来かの違いでしか無い」

 

 静かに、ただそう言った。

 

「それは原村某を護るためか?」

「いや。咲から」

 

 少しだけ苦笑いを浮かべて。

 

「せっかく出来た親友を失わせたくない。ただそれだけだよ」

「……そうか。ならヤタガラスにはこちらから説明しておこう」

「ええのか、京太郎?」

「ええ、まぁ。どうせ今回の件が終われば消す予定で、そうでなくても数年後には消す予定だったんで」

「……京太郎、お前は」

「だから気にしないで下さい。この会話もきっと忘れるだろうけど、咲の事は頼みます」

 

 そうして頭を下げた京太郎に、何か言葉をかけようとするが浮かばなかったのだろう。諦めたようにため息を付いて、分かった。その一言だけ言って、この場から去っていった。

 

「大丈夫っすか?」

「大丈夫。でも一つだけお願いできるか?」

「はい?」

「明日、本当に記憶が消えているのか確認して教えてほしいんだ。できれば俺が出かけるその前に」

「明日。決戦前に教えてほしいってことだな?」

「ええ、まぁ。少しでも憂いはなくして挑みたいんだ」

「分かったっす! ステルスではないっすけど私にお任せっす!」

 

 元気よく胸を張る桃子。

 それが京太郎を元気づけようとしての行動だと分かるだろう。

 

「だがサマナー。半人半魔となったことは聞いているが、肉体は大丈夫なのか?」

「大丈夫。まだ少し違和感はあるけどむしろ調子が良いぐらいだ」 

「ふむ。そうか。だが戦いが終わり次第詳しい検査は受けたほうが良いだろうな」

「検査……ヤタガラスはあまり信用できないというか。国のためならって実験体にされそうな気が」

「ここに信頼できる人間が居るだろ?」

「でも研究のためなら同じことするよねって」

「ふむ。バレたか。いや冗談だが心配であればサマナーの仲魔に俺をみはらせればいい」

「ならまぁそれで」

 

 そうして少しだけ気まずそうに、桃子を見たとき彼女は先程と同じ様に元気そうに言う。

 

「大丈夫っすよ! 髪の色が変わっても何が変わっても京太郎くんは京太郎くんっす! 何も変わらないっすから!」

「……そっか。ありがとう」

 

 その言葉は京太郎にとって嬉しいものであったのは確かだ。けれどそれは果たして今の京太郎を見て言った言葉と言えるだろうか。

 

「半人半魔か。ある意味で言えば世の中の強欲な人間が求めた夢の最高峰かもしれんな」

「どういうことですか?」

 

 部屋に設置されていた小型冷蔵庫から冷たいお茶を淹れて配っていたマチコが問いかける。

 こういう場で自分から問いかけるのは珍しい。そんな事を疑問に思う京太郎を他所にパラケルススが言う。

 

「人間という種が求めた夢は数多くある。その中における代表的なものが空を飛ぶ事と不老不死だろう」

「空と不死」

「前者は隣の芝生は青く見えるのと同じだな。科学の力で空は飛べるようになったが、自分の肌で、意思で空を自由に飛びたいと考えるものは多い。後者は死を恐れるが故にだな」

「空は兎も角、不死とか簡便だと思うんだけど」

 

 死にたくても死ぬことができない。そんな生き方は絶対に嫌だと京太郎は暗に伝える。不老不死とはつまり生死に関する自由が奪われているのと同じだ。

 

「そうかもしれん。だがサマナー、お前は不老不死とはなっていないだろう?」

「そう言われても知らない。いやまぁ死ぬとは思うけど」

「悪魔と同じ性質を持っているならば、お前は人の寿命を超越しおそらくはその姿さえ変えることが出来るはずだ。何時までも若々しい姿でいることが出来、終わりもわからない。そんなお前に多くの人がなりたいと願うかもしれない」

「でもおすすめはできないというか。あと1秒でも遅ければ悪魔化していたかもしれない」

「だが求めるものは求めるだろうな。人とはそういうものだ」

 

 うへーと表情を歪める京太郎と桃子に対して、ふむふむとうなずいているのはマチコだった。無表情で無感情のように見えるため何を考えているか読み取れない。

 とはいえ無理に聞くことをする者はおらず、話すこともなくなったために沈黙が場を支配するが、うめき声と共に起き上がったハギヨシに全員の視線が集まった。

 

「無理をしないでください」

 

 真っ青な顔をしているハギヨシをベッドに押し付けるマチコを押しのけて、京太郎を視る。

 

「……伝えることがあります」

「伝えるとか言っている場合じゃないですって! 無理をしたら」

「そんな事を言っている場合ではありません。今伝えなければもう機会がない。私を倒した者についてです」

「あの男についですか?」

「対峙して分かりました。あの男は某かの神から転生した者です。であるならゴトウを倒してそれで終わりとはならないかもしれません」

「転生者……?」

 

 そんな事を言っていた悪魔が居たのを思い出していた。そうなると問題は。

 

「……残念ながらなんの神であるかはわかりませんでした。しかし強大な力を持つ神なのは確かです」

「それは、分かります」

 

 少なくともハギヨシ以上の力を持っていることは結果が示しているのだ。油断できる相手ではない事だけは分かっている。

 

「ゴトウを倒しても油断だけはしないでください。それとあなたにこれ以上の重荷を背負わせるようで申し訳ないのですが……」

「大丈夫っす。透華さんは助けます、絶対に」

「……良かった」

 

 そういうとハギヨシは体の力を抜き片腕で顔を隠し、暫くすると規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 

「休みの邪魔も出来ないし、俺もそろそろ行きます」

「ああ。東横さんはすまないがもう少しマチコを手伝ってもらえるか?」

「はいっす。それじゃ京太郎くんまた後で」

「おう。光もマチコさんもまた」

 

 ひらひらと手を振り去っていく京太郎の背に向かって同じ様に手をふって、もしくは頭を下げて見送った。

 そして静かになって部屋の中で、パラケルススはベッドまで近づいた。

 

「……あれは嘘だろう?」

「なぜ、そう思うのです?」

 

 腕をどけて、首を動かして咎めてきた男を見た。

 

「なんとなくだ」

「科学者が勘ですか?」

「勘は大切さ。気づきは宝だよ」

「……敵わないですね」

 

 そうして力なく息を吐いて。

 

「彼に言わなかったのは不確定な情報を与えたくなかったというのと、言う必要はないと思ったからです」

「どういうことだ?」

「運が良かったのかもしれません」

 

 問いに対する答えとも言えない言葉をハギヨシは言う。

 

「もし彼が須賀京太郎でなければ、もしくは捨てていたならばそう思えなかった。けれどきっとだいじょうぶ。なぜなら彼は終わりの名を持つのですから」

 

 そう言って、限界だったのだろう。今度こそ本当にハギヨシは眠りについた。

 パラケルススは仕方がないと踵を返しマチコが入れたお茶を口に含んだ。

 

「ハギヨシ様は一体何を言いたかったのでしょう?」

「さてな。幾つか思い当たるが、それでも一つだけ言える確かなことがある」

「それは?」

「ふふ。サマナーは必ず生きて帰ってくる。そういうことさ」

 

 楽しそうに笑いながら空になったコップを、そして光を見ながら言うのだった。





SOAと言わないのどっちなんて果たしてのどっちと言えるのだろうか。
でもオカルトも計算に入れるのどっちは多分強い。
それはともかくとして、記憶を消した結果別の地雷が発生する訳ですがその辺りはまぁ描写はなしで。メインじゃないしね。

今年中には封鎖終わらせたいね。

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