デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

50 / 58
評価、誤字報告ありがとうございます。
評価がいつの間にか80件を超えました。今日まで更新を続けれるのも感想や評価をくださる皆様のお陰でであります。

更新が遅くなって申し訳ないです。
キャプテン翼の新作ゲームがね、面白くてね……。



『5・6日目 四天の刀』

「……どうっすかな」

 

 悪魔の誘惑は京太郎の心を揺さぶった。

 それは確かに京太郎が強く望む切り札であるのは確かだったから。

 しかし本当にそうして良いのか。悪魔を信用して良いのかと堂々巡りになり考えは纏まらず、曲がり角で少女とぶつかってしまった。

 

「わっと」

「わふ! あ、えーっと須賀くん……やったっけ?」

「あ、清水谷竜華さんでしたっけ、ごめんなさい。でも丁度いい」

 

 丁度いいという言葉に疑問をいだきつつも「うちもごめんなー」と謝る彼女の後ろに目的の人物である園城寺怜は居た。

 正しくは彼女だけではなく、覚醒した松実宥の妹である松実玄も居る。

 

「変わった組み合わせ……って訳でもないんですかね?」

「ん! そやで! うちらと玄ちゃんは仲ええもん!」

 

 ねー。と玄に同意を求めてきた竜華にそうなのです! と玄も答える。

 

「東京に来る途中で仲ようなってな。ちょっとジェラシーやけどうち離れの一歩としてはええ感じな気もするわ」

「うち離れって」

「なんやかんや高校三年やし、人生がずーっと同じ道を行くわけもないしな。竜華には竜華の幸せを掴んでほしい。そう思ってもおかしないやろ?」

「まぁそれは……」

「竜華はプロになれる素質を持っとる。うちは無理やろ?」

「……そのことで話があります」

「ん。分かってるで。その前に皆のところに飲み物を持って行きたいんや」

 

 彼女たちが三人で移動していたのは配布されている飲み物を取りに行くためであったらしい。

 約十人分の飲み物を持っていくのに女子二人では重く感じるため三人で。という話になったらしい。

 

「そういえばヤタガラスって言ったっけ? その組織の人が玄ちゃんのお姉さんを勧誘してたわ」

「勧誘?」

 

 両手にペットボトルが入った袋を持っている京太郎は、指に食い込む袋を気にしながら返した。

 

「ウチにも話は来たから覚醒? やったっけ。した人に話を振ってる感じやね」

「でも確か松実宥さんは戦いたくないって話を通していたと思うんだけど」

「お姉ちゃんもそう言ったんですけど、よく考えてほしいって言われてたのです……」

「まぁ分からないでもないんだけど……」

 

 今回の事件で退魔師にも犠牲が出ているはずだ。それを補充するために戦う力を持つ原石とも言える人間を勧誘するのはわからない話ではない。

 だが本人の意志を無視して強要しても物にはならないだろう。好きこそものの上手なれとは言うが、たとえ才能があっても望んでいない事をやらせても良い結果になることはない。特に、命をかけた仕事となれば顕著だろう。

 

 それから宥の様子を聞きつつ、話しかけられたという怜の話も聞いていた。彼女に関して最も気になるのはもちろん彼女の未来視についてだ。

 

「ちなみにですけど」

「流石に未来視については話しとらんよ。危ないって前もって教えてくれたしな」

「そうじゃなきゃ伝えてたかもしれんから、須賀くんには感謝しかないで」

 

 良かったっす。と彼女たちに言った時、視界に入ったのは松実宥が何やら見覚えのある女性に話しかけられている。

 

「あれもヤタガラスなんか?」

「でも諦めたはずなんだけど……」

「いや、あれは」

 

 清澄麻雀部の面々と一緒に居た女性であると京太郎は思い出す。確か彼女はメシア教のと、思い出し駆け出そうとすると、これまた見覚えのある男が女性と松実宥の間に割り込む。

 数度言葉を交わすと諦めたように女性は去り、宥がどこか怯えた様子で、けれど頭を下げており男は優しげな笑みで何やら言葉をかけると京太郎たちの方へと歩を進めた。

 

「あなたは……」

「ん、あ! 無事だったんですか!」

 

 その男は渋谷区で出会った神父で、名前はウッドロウという。

 ウッドロウは表情を綻ばせ京太郎の近くまで来ると手を強く握った。

 

「生きているとは聞きましたが、この眼で見なければ信じられなかった。ですがその髪は……」

「色々とありまして。理由はヤタガラスに聞いてもらえれば……」

 

 分かりました。京太郎の言葉の返しにただそれだけを言った。詳しく語りたくはないのだろうと察したのである。

 

「ですがまさかあれ程までの事を考えていたとは」

「そこは同感です。そうだあなたのことをレミエルが探していたのでいずれ連絡が行くと思います」

 

 レミエルは既に京太郎の元から離れている。

 これ以上天界の面々が余計なことをしないように彼は還ったのである。黒幕である四大天使が健在な以上余計な事をしてくる可能性がある。それを防ぐために行動をしてくれている。

 

「しかし私にそんな資格は……」

「いや、現状のメシア教で最も信頼できるのがあなたなので受けてもらえないと困るというか」

「でも、いやしかし……。いえ、引き受けましょう」

「良かった。それで先程あの女の子を助けていた様に見えたんですけど何があったんですか?」

「勧誘、ですよ。この様な状態になりメシア教が一体何をしたのか朧気ながら知ったはず。なので今後を考えて信者を増やそうと行動しているのでしょう」

「アレクサンドラ……」

「む?」

「そう、名乗っていたと思います。しかしこの状況でそう動きますか」

 

 去ろうとする背中を追うために駆け出そうとする京太郎をウッドロウが止めた。

 彼はまっすぐに京太郎を見て、任せて下さいと言った。

 

「私が彼女を見ましょう」

「ちなみにですけどこの中にどれだけメシア教は居るんでしょう?」

「少なくない数は居るはずです。メシア教徒とはいえ親がそうであったからとか、惰性でそうある人も多く居ますから」

「……流石にそういう人まで責めるのは酷か」

 

 どんな宗教に嵌っていても、それを強要してこなければ友だちでいられる。つまりはそういうことだった。

 強要の極致とも言える行動が相手の否定とも言えるわけである。そういう考え方もあるのか! そう考えられるなら手を取りあえるが、その考えは正しくないと否定する者たちと手を取り合う事はできはしない。

 それよりもと、京太郎を観察するウッドロウは最初に会ったときよりもメシア教徒に対して神経質になっていることに気づいた。

 自分にはそうでもないようだが、もしこの場に知らないメシア教徒が入れば警戒心を高めていたことだろう。

 しかし「無理もない」と彼は思う。

 自分たちメシア教徒と天使たちの手によって彼の運命は、いや、多くの人々の運命は一変したのだ。

 

「えっと、取り敢えず明日で一息つけるとは思います。多分ヤタガラスはウッドロウさんに力を貸してもらおうとするはずです」

「ヤタガラスに信頼とまではいかなくても、話が出来ると思われているのは私だけですからね、現状。ともあれ、先程のように情勢も考えず行動する人はヤタガラスにも伝えておきましょう」

「頼みます……。正直貴方以外のメシア教徒に今は関わりたくないかなって……」

「ははは……」

 

 自身が信じていた。今も信じたいと願うものにたいして敵愾心を抱かれると良い気はしないが、仕方がないという気持ちが大きすぎてストンと心に落ちる感覚が不思議である。

 揺らいでいるのは自分もか。そう考えながらウッドロウは京太郎と別れ、俯き元気のない人間に声をかける。

 力なき自分に出来ることはそれだけだと知っているからだ。

 しかし後の世に、この事件を振り返った少なくない人々が彼の名を出して感謝の言葉を述べたという。

 話を聞く。たったそれだけの事でも救われた人たちが居るのは確かなのだった。

 

 閑話休題。

 

 ウッドロウを見送った京太郎は松実宥の元へと向かった。

 妹である玄に寄り添われており、顔色はなんだか悪かった。

 

「こんばんは。何を言われたんですか?」

 

 宥だけではなく、彼女の近くに居た彼女の友人たちにも問いかけるように言った。

 彼女たちは顔を見合わせると。

 

「優しい人なら心を刺激されるような事を言われたのよ」

「というと?」

「戦う力があるのに振るわなくて良いのか? ですって! 心配なら私が面倒を見るって余計なお世話よ」

「うげ。悪質な」

 

 この様な状況である。頭の片隅にはあったはずだ。戦う力があるのに守るために力を振るわなくても良いのかと。それを的確に突いてきたわけである。

 

「……私本当になにもしなくていいのかなぁ」

 

 沈んだように言う宥に、ほらなにか言えと京太郎を突っついたのは憧だった。

 玄は何もいえずあわあわしており、他のメンバーもどう声をかけていいか分からないでいる。それは彼女たちを大人の立場で見ていたはずの赤土晴絵と愛宕雅枝も同様であった。

 流石に大人と言えども命がかかった言葉をかける経験は当然のごとくない。

 

「……気にしないで、とは言わないですけど戦う必要はないっすよ」

「でも」

「戦う力があるのに、って。誰もがまだスタート地点に立っていないだけで、誰もが力を得ることは出来ます。たった一粒の勇気を出すか、それとも強要されれば。でもそれは難しいです」

「……うん」

「そもそも誰もが力を得ることが出来るのに、もう持ってるからって強要するのは間違ってるんですよ。だったら覚醒してない人たち全員悪魔に突撃させて自分の身は自分で護らせるほうが納得できる」

「そ、それはちょっとどうかなぁ?」

 

 過激な発言に苦笑いを浮かべたのを見て。

 

「そうそう、そんな感じに力を抜けば良いんですよ。やりたくないことしても身につかないし、この場合は速攻で死にそうだし……」

「うぅ……」

「ま、まぁ! 大丈夫っすよ。明日乗り切ればあまり気にしなくて良くなるはず」

「明日決戦ってこと?」

「一応は。ただ東京がご覧の有様だからすぐに家に帰れるってわけではないと思うけど、これ以上はひどくならないはず」

 

 明日の決戦で東京が酷いことにならないとは言っていないのだが、どうなるかなんて京太郎にも分かっていないのだからどうしようもない話だ。

 

「んー、憧?」

「私みたいな末端に情報が来るわけ無いでしょ……。大体あまり関与もしてなかったのに。それでライドウと永水の巫女さんたちが行くの?」

「いや。俺とライドウが行って、石戸さんたちはバックアップになった」

「……それだけあんた強くなったんだ」

「前よりは強くなったけど、それ以上にサマナーの方が柔軟に対応出来るってのが理由かな」

 

 加えて言うのであれば、永水組がチームとして完成しすぎているのも理由であったりする。もしなにかイレギュラーな事態が起きた時、ライドウを加えず自分たちでなんとかしようとするだろうと予測された。

 更に言うのであれば捕らえられている神代小蒔を優先しかねないという懸念もある。

 それが京太郎の台頭により話が変わった。確かに半人半魔という懸念点はあるが、それでも勝手に動く可能性がある集団と多くの犠牲を知った少年を比べて後者の方が良いと判断されたわけだ。

 

「どっちも子供か……」

「サマナーに大人とか子供とか価値観押し付けないほうがいいわよ? 須賀くんが本気になれば小指で殺されるだろうし」

「う、それは助けてもらったときに見てるから知ってるけど」

「あの時以上ってこと。あのゲオルグだっけ? 今なら対処できるんじゃない?」

「……どうだろう。多分行けるとは思うけど」

 

 ライドウからある程度の情報は得ている。

 使役している悪魔は主にクトゥルフと呼ばれる系列に属する悪魔であるということ。接近戦よりもGUMPによる銃撃を好んでいたということ。しかし、当初想定していた京太郎と戦うことを楽しみにしているのではないか。というのが誤りである可能性が出ている。

 だとするなら彼が京太郎に期待していることがわからないのだ。一言で言えば胡散臭く、警戒心が確実に行けると言わせない。

 

「どっちにしろ明日奴だけは絶対に……」

 

 殺す。

 その言葉を飲み込んだのは流石に彼女たちの前で言うべきではないだろうという、自制心だった。

 ただ京太郎がなんと言いたいのかは、阿知賀組には伝わってしまっていたのだが、目の前で人を容易く殺した人であるならば仕方がないという考えがよぎっており、彼女たちも少々染まってきている様である。

 

「……と、俺の考えはこんな感じです。それでも迷ったりするなら、今回の件が終わったときに体験してみるのも良いかもしれないです。あと、しつこいと感じるならヤタガラスに……言いにくければ龍門渕に連絡しても良いかもしれない」

「……うん。考えてみるね。ありがとう、須賀くん」

 

 彼女のことをあまり良く知らない京太郎に出来るのは選択肢を与えることだけである。

 なまじ妹を助けるために一歩前に踏み出すことが出来てしまったものだから、またやれるのではないか? そう考えてしまうのも無理はない。

 そういう意味では、もう一度試してみる。というのは間違いではないのだが、少しでも意気込みを見せれば誰かが期待する。そうした時の逃げ場として龍門渕は京太郎にとって信頼できる組織だ。

 

「どうしました?」

 

 宥と彼女を気遣った彼女の仲間たちが離れたあと、自身をじっと見つめる怜に問いかける。

 

「ん。なんでもない。……うちに話があるんとちがう?」

「ああ、それですけど」

 

 京太郎はライドウに話した内容を伝えた。当然そのことに対して抗議するのは彼女たちの友人たちである。力を持ったからといって自由を奪われるのはおかしいと訴えるのは別段おかしな話ではない。

 少なくとも時代錯誤であるのは確かで、京太郎としても嫌な選択であるのは確かだ。

 しかしそれに対して真っ先に賛成したのは園城寺怜だった。

 

「ええで」

「いやいやあかんて! 力がつようなっても隠していけば大丈夫やって!」

「それがな。彼と後ライドウやっけ? の二人に関わらない未来を視るとどうもバッドエンドばっかでな。うぇ……」

 

 果たしてどの様な未来を視たのか顔を真っ青にして口を抑える彼女に慌てた様子で親友が背中を擦っている。

 

「未来が視えるならーー」

「……あ、それはいかんよ。絶対喋らん」

「え?」

「なんて言えばええかな。話したら慢心する可能性もあるし、話した内容を踏まえて行動して逆に対策を取られるってのも視えたわ」

「俺が未来を知って、園城寺さんが視た未来の通り行動したとしても?」

「うちが逐一説明して同じ挙動できるかって話や。須賀くんの動きを見て相手も対応してくるとして、うちが視た動きと違う動きをすれば未来も変わるわ。だから、あかんわ」

「そう、ですか」

 

 京太郎にも彼女の言うことは理解できた。

 実際未来の話をされていたらそれを実行しようとして足元をすくわれる気がしているのだ。

 未来を視る事ができるというのも上手くいかないものである。

 

「でも怜、男の子二人居る所に女の子一人だけっていうのはこわない?」

「うちに残されてる選択肢はな? 須賀くんたちを信じる道とバッドエンド直行と、低い可能性にかけて普通に人生を過ごすかのどれかなんや」

 

 覚醒した人はマグネタイトの総量が増える。

 未来を視る事ができる怜が覚醒したと知ったなら、興味を持つ者は多くいるはずである。

 悪魔の中には思考を読むことが出来る悪魔も多く居るし、護られているという事実がなければ毎日を不安に過ごすことにもなるだろう。

 ちなみにだが彼女を護る存在は京太郎でなければいけない訳ではない。しかし護る代わりになにかを差し出す必要はあって、それが能力なのかそれとも子孫にもその力を利用させるために身体も差し出させるのかそれは人にもよる。

 結局の所言えるのは園城寺怜に残されている選択肢は数少ない。ということだ。

 それを未来を視た本人が一番良く知っていて、彼女の浮かべる表情は一種の諦めも含まれていた。

 

「ただ俺は……」

「知ってる。でもなんていうかな。うちにとってそれはあんま関係ないわ」

「関係ない……」

「というかな? 悪魔より人間のが怖いわ……」

 

 真っ青な顔で言う彼女に京太郎は苦笑することしか出来なかった。

 人間のが怖いと悪魔は言うが、それを人間の口から言われると果たして人間であることが正しいのかわからなくなってくるからだ。

 ただ少なくとも、京太郎を知る者たちと一緒に居たければ須賀京太郎を失ってはいけないのは確かである。

 

「取り敢えず詳しい話は全部終わった後でええよ。今返せる言葉は前向きにお受けします。やな」

「……わかった。ライドウにもそう伝えます」

「うん。それと……。なんていうかな、本当ならウチのこと見捨てても良かったのに色々と考えてくれてありがとう。それが今一番伝えたい言葉や」

「……こちらこそこれぐらいしか出来なくてごめんなさい」

 

 頭を下げ去っていく京太郎の背を見ながら親友が問いかける。

 

「ええんか?」

「これが最良の選択やと思う。それに」

 

 怜が視た未来の中には京太郎の姿を多く確認することが出来た。

 笑ったり泣いたり怒ったり。視ている限りは人間を止めているとは思えなかったが、幾つかの未来で京太郎の行末は変わった。

 気になるのは特定の時期になるとまるで霞がかったように未来が視えなくなることだが、その時間軸に辿り着く前に京太郎が地上から姿を消す未来も確認できた。

 そうなると決まって霞は消え、同じ時間軸であっても未来を視ることができる。だがそれは今において関係のない話。

 

「ウチの事をああして真面目に考えてくれてるんやで? 確かにウチらのこと助けてくれたけど、こんなめんどいこと無視してもええはずやしそれに」

 

 人間を止めて、今一番大変で考えなければいけないのは誰かのことじゃなくて、自分ことなのに。とは口に出さなかった。

 

「これから大変なのは須賀くんも同じやもん。ウチは恩知らずになりたないしな」

 

 幾つかの未来を視た怜だからこそ分かることだが、彼らと共に生きる未来において、彼らが自身を見捨てた未来はなかった。

 視た未来が自身にとって幸せなものであるという条件付をしたことも、その未来を視た理由の一つでもあるだろう。

 しかし条件を外しても、彼らとともに歩む未来を見れば、決して簡単には見捨てようとせず出来得る限り精一杯助けようと動いてくれているのを視ることが出来た。

 未来を視る力で人を試すようなことはズルの様に感じるけれど、そんな彼らの姿を視て「信じれない」なんて想いは消えていた。

 

「それにあれやで。ふたりともイケメンやからな、女子プロ麻雀の呪いを考えればうちのこの選択は正しいはずや!」

「怜……? 怜さん?」

「ふっふっふ。数年もすればウチに春が訪れ、プロになる竜華たちは羨望の眼差しで視ることになるはずや!」

「ええかげんにせんと怒るで! ……もう」

「ハハハ。ごめんな」

 

 そんな笑い声が聞こえてくる。

 少しだけ振り向きどこか羨ましく感じながらCOMPに届いたライドウからのメールを確認しながら去るのだった。

 

*** ***

 

「うげー!! あんた化け物少年!?」

 

 防音結界に包まれた部屋の中で椅子に座って叫んでいるのはゲオルグと一緒に阿知賀と宮守の面々を襲った安西ミカであった。

 逃げようと暴れる女性だったが当然そんな事は許されない。黒装束を身にまとった京太郎と同じぐらいの年齢の少年が無理やり椅子に押さえつける。

 本来暴れる人間を抑え込むのは難しい。例え女を相手にしたとしてもだ。それを可能にしているのは覚醒者と一般人の力の差がそれだけ顕著だという証明だろう。

 注意して聞けばミカの肩から鈍い音が出始めており、暴れている理由が変わろうとしている。

 

「痛い痛い痛いー!!」

「なら静かにしていろ」

 

 言葉とは裏腹に治癒の奇跡の力でも持っているのだろうか? 掴む力を弱めながら手のひらにはディアの光が視える。

 

「なにかわかったんですか?」

「あなたは……須賀京太郎さんでしょうか?」

「はい」

「お手を握らせていただいても?」

 

 京太郎に話しかけてきたのは黒髪長髪の女性だ。おおよそ戦いに赴く女性には見えず、実際感じる力も龍門渕での戦いをしていたころの京太郎と同等かそれ以下といったところか。

 彼女の願い通りに手を差し出すと躊躇なく握る。

 少しだけ身体から力が抜けていくのは、身体からマグネタイトが抜けていくからだろうか。

 十秒ほど時間が経過し、手を放すと「はい、ご本人ですね。ありがとうございます」と言った。

 

「何をしたんですか?」

「少し記憶を見せていただいたのです。ライドウと話をしていた記憶もありましたので問題はないと判断しました」

「記憶を……。そんな事もできるのか」

 

 いや、出来るのだろう。

 霊をおろすというイタコに陰陽師なども京太郎が知らないだけで存在するはずだ。なら京太郎が知らない力の中に記憶を読み取る力もあると思われる。

 

「ならアレの記憶も読み取れば良いんじゃ?」

「読み取るにも時間がかかるんです。一応早送りとかも出来るんですけど情報を見落としかけるんです」

「全部が全部うまく行くわけじゃないか……」

「そうなんです。なので……おい、我々に話した内容をもう一度彼に言って聞かせろ」

 

 気配が変わり彼女の声にビクッと肩を震わせる。

 手をフッとあげると背筋を真っすぐ伸ばし、浮かべている表情は恐怖だった。

 

「さ、最初から話すって言われても……」

「お前たち暴力団が今回の事件にどうして関与しているのか。そこから話せ」

「は、はい!!」

 

 ミカの話した言葉をそのまま記せば長くなるため、抜粋しながら語るとしよう。

 

「わ、私たちはただ若旦那の言うことに従っているだけなんだ。あの人の言う言葉を信じて……」

「つまり人形というわけか?」

「あぁ。それだけあの人の言う言葉は甘くて、魅力的だったんだ……。私たちが輝いていたあの日を取り戻そうって」

 

 警察と暴力団……いやヤクザはその本質が同一であると言っていい。

 警察という組織が作られる際に必要だったのは暴力である。今でこそ強力な権力を持っている組織であるが最初はそうではなかった。

 力がなければ人は従わない。いや、一般人であるなら話は別だが別の力ある組織が力なき言葉だけの組織に従うだろうか?

 そのため当時力を持っていた組織……今で言う暴力団と呼ばれる者たちの力を得ることによって警察という組織は足がかりを得たのである。

 その後も警察だけでは力が足りず、地域を護るという名目で警察に与していないヤクザは力をふるいその存在を誇示し続け……そして警察が力を得た結果不要な暴力は排斥された。

 

「つまり彼らの若旦那は力が全ての時代に戻そうとしているのでしょう。確かに蛮勇とはいえ力が全ての世界に戻れば失われた価値は戻るでしょうね」

「でもそんなこと望んでない」

 

 そんな世界で生きられるのは京太郎たちのような強者と強者の庇護下におかれた弱者だけである。

 しかも強者の気まぐれで簡単に命が奪われる世界になりかねず、その強者もさらなる強者によって倒されれば仄かな秩序も壊される。そんな混沌とした世界こそが彼らの、そして混沌の勢力が望む世界だ。

 

「それでその若旦那っていうのは?」

「あんたも見たろ? あの執事を倒したのがそうさ。でも、あんなに強いなんて知らなかった……」

 

 目を伏せて震えながら言う。

 京太郎が見たのは最後の最後だけだが彼女は戦いの一部始終を見たのだろう。

 よく知らない京太郎に対して恐怖心を軽く抱いている事から、若旦那に対しても同様の恐怖心を持ったのだろう。その様子から根本的な部分は常識人と言える。

 

「その人はどういう人だったんだ?」

 

 震える彼女を労る意味も込めた質問だった。

 その目論見は当たり多少は震えも止まって、少し苦笑いを浮かべて答えた。

 

「賢い人だったよ。落ち目な私たちがどうにかして生きていくための方法を模索し続けてた。でも私たちがどんなにあがいても社会がそれを許さないんだ」

 

 暴力団から足を洗おうとしても、十年単位で関係を絶たねば許されることはない。そこまで頑張れる者はどれだけいるだろうか? 

 結局頑張れるものが居ないから這い上がることも出来ず、ただ堕ちたままなのである。

 というのは暴力団と呼ばれる者たちの事情だ。一般の、彼らとは遠い位置に居る人々からすれば暴力を生業とするような精神性の持ち主たちに対してはこれぐらい普通だと結論づける。

 言葉は悪いが自身に降りかからない問題を人はどうでもいいと思うものだ。

 

「だから結果を出せない旦那に苛立った奴らも居たよ。少しずつ、少しずつ旦那から離れていった」

「理想論には付き合えないと、そういうわけですか」

「まあな。それでも旦那を見捨てないやつは居たよ!」

 

 その一人が彼女だったのだろう。

 今日、これまでは。

 

「ただ……。いつの頃からだったろうね。旦那の周りに少しずつ少しずつ人が増えていったんだ」

「増えていった? 何かきっかけがあったのですか? 今までの話では人が来る要素はないでしょう? むしろそのまま見捨てられる流れです」

「それがなにもないんだ。なのに、なんでだろうね、あの人についていけば大丈夫。そう思わされるようになったんだ」

「一度見限った連中もですか?」

「ああ、そうだよ」

「それはなんとも……」

「おかしいっすね」

 

 眉をひそめて同意を求めるヤタガラスの女に同調するように京太郎は言う。

 勝手に希望をいだいて勝手に絶望し離れ、また近寄った。なんともおかしな話であると渋い表情を浮かべるのは二人だけではなくミカもである。

 というよりおかしいと最も感じているのが彼女なのだろう。疑心もあるのだろうがその顔に最も浮かんでいるのは憂いだ。

 

「そんなときだったよ。政治家のゴトウと接触したって聞いたのは」

「変わってからゴトウと接触した?」

「多分。私が聞いていないだけでその前から関係していた可能性はあるよ」

「そりゃそうだ」

「ですがどうやってゴトウと接触したのでしょう? 暴力団と政治家が接触するなんて格好の攻撃ネタでしょう?」

「特にゴトウは嫌われてましたもんね、マスコミに」

 

 国防を訴えるゴトウにマスコミは決していい顔をしなかった。

 かつての戦争の悲劇を再現する気か。と訴えるマスコミに対してゴトウが力なくして護ることなどできるものかと訴える動画はネットをしていれば一度は見かける。

 それでもゴトウが政治家として当選し続けるのはマスコミの力が低下しているのと同時に、国際情勢を人々が知ればこそなのだろう。

 そんなゴトウに暴力団が近づけば喜々として報道するはずだがそんな話はほぼなく、一部のマスコミが誹謗中傷目的で冗談交じりに言うぐらいだった。

 

「だから旦那はそれを何とかするためにゴトウと接触した……って、聞いた」

「そこでゴトウか……」

「だがどうやってゴトウと接触した?」

「そこは聞いてないよ。ただ協力者だって。仲良くお酒を飲んでる姿は見たよ」

「……現状に不満を持つ勢力と接触して力を合わせるっていうのはおかしくないのかな?」

「だとしても危険でしょう。暴力団と接触する政治家とは」

 

 当然の話だが政治家と暴力団が接触する話が知られればスキャンダルとして大騒ぎされる。特にゴトウの場合国家防衛のために金をかけるべきだと語るタカ派である。マスコミや一部の人権派と呼ばれる人間に大いに嫌われている。

 そんな危険性を犯してでも接触することに意味はあったのだろう、少なくともゴトウたちにとっては。

 そしてミカは口を閉ざした。もう、言うことはないということなのだろう。

 だが。

 

「転生者……この言葉に聞き覚えは?」

「転生……?」

「須賀さん。どうしてその問いかけを?」

「ハギヨシさん。いえ、萩原さんが彼女の言う若旦那が転生者ではないかと疑っていました。それでどうなのだろうと」

 

 転生者と言っても力量の段階によって呼び方が異なる。

 神の生まれ変わりであると自覚し始めた段階を転生者といい、それから神に近しい顕現者となりやがてはかつて神と呼ばれた頃の力を発揮できるようになれば言葉通り神と呼ばれるようになる。

 ハギヨシを打倒した若旦那の力は決して半端なものではなく、神と呼ぶにふさわしい力を持つと言えるだろう。

 

「わからない。ただ、あの人はあんなに強いわけじゃなかった。私の知る若は身体は病弱だったはずだ!」

「須賀さんの話と合わせて考えれば覚醒して病弱だった肉体が変化したのでしょう」

 

 ――園城寺さんと同じか。

 口に出しては言わなかったが、心中そう考える。

 

「だとすればその若旦那はどちらなのでしょう?」

「どちらってどういうことだよ!」

「説明する義理は無いのですが……」

 

 ちらりと京太郎の方を見る。彼が苦笑いを浮かべているのを見て仕方がないと一つため息をつく。

 

「まぁ良いでしょう。あとで説明をするのも手間ですから」

 

 そう言うとヤタガラスの女性はガラスのコップを2つ用意し水をいれ、片方のコップの中に境界線となるように氷結魔法で壁を作る。

 壁が作られなかったコップの中に粉末状のコーヒーの粉を入れると少しずつ黒ずんでいく。

 

「転生者が覚醒するとこの様に少しずつ混ざっていきます。果たして自分が現世に生まれ落ちた自分なのか、それとも過去に生きた神や悪魔であるのか境目がわからなくなっていく」

 

 透明だったコップの中身はついに真っ黒な液体に変質するのを見ると次に、氷の壁で分かたれたコップの中に同じ様に粉末のコーヒーを入れる。しかし氷が壁になり半分の領域にある水は多少黒い液体に侵入されているようだが、それでも透明だと言えるだろう

 

「そうなった者は選ぶことになります。神と自分の意識を分けて共生していくか、それともどちらかを侵食し犯し、ただ奪い去るか。大体は後者となるようでしょう」

 

 チン。と爪で弾いて音を鳴らしたのは黒い液体のみがはいったコップである。

 

「そして勝者の多くは人ではなく悪魔です」

「ならその若旦那はもう」

「もしくは案外うまくやっている可能性もありますね。ヤクザと悪魔なら相性もいいでしょうし。悪友となっているかも?」

 

 もう一つのコップを持つと微笑みながら揺らした。

 なんとも悪趣味な話だが、彼女からすればどちらであっても打倒すべき悪でしかないのだから、ミカの精神を揺さぶることのできるこの話をただ煽るように言うだけだ。

 それがどれだけの効果があったのかは不明だが、真っ青な表情で叫んだ。

 

「それじゃぁ旦那は!!」

「どちらであるかそれはわかりません。ですが」

「……ですが?」

「いえ、なんでもありません」

 

 結果は同じことだ。こう言いかけたのをやめたのである。

 どちらであっても生かされる可能性は少ないだろう。その事に気づいているのかいないのか、ただミカは若旦那を心配している。

 これ以上聞くことはないと判断した京太郎は、出口まで歩みを進めてふと一つだけ質問することがあるなと思いつくと足を止めた。

 

「若旦那の名前は?」

「……山縣命」

「そっか。ありがとう」

 

 少年の感謝の言葉を残して扉の閉まる音がした。

 

*** ***

 

 ――翌日。

 

 天気はあいも変わらず快晴の筈なのに闇に覆われている。

 朝も早いからか月まで見える始末でなんともおかしな光景だった。

 

「今日で事件が一旦の区切りがつくって本当かな?」

 

 清澄高校一年。麻雀部宮永咲が誰にという訳ではなく問いを投げかけた。

 それに応えたのは彼女の友人である片岡優希である。

 彼女の好物であるタコスを食べられない現状に不満を述べていた彼女だが「信じるしか無いんじゃないか?」と軽く言う。

 

「私たちには分からない世界だからな。聞こうにも聞ける相手なんて知らないじぇ」

「そっか。そうだよね」

「でも早く終わってほしいと言いますか、もっと早く区切りをつけられなかったんでしょうか」

 

 そんな不満を述べるのは原村和である。

 彼女のまた二人の友人だ。

 

「怠慢とまでは言いませんけど、大変な状態で優遇までされているのに!」

「怒らない怒らない。まぁ確かにもっと早く動いてくれれば昨日みたいなことは起こらなかったかもね」

 

 と言うのは彼女たちの部長竹井久だ。

 彼女たちから少し離れて視ているのは染谷まこだ。事態の収拾にあたっている者たちがいないか警戒しているようだ。

 

「……っす」

 

 少しだけ顔を真っ青にして話を聞いていた桃子は「少し行く場所があるっす」と言って先輩であるゆみに伝えると駆け出した。

 彼女たちの施された記憶抹消処置が確かに機能していることを京太郎に伝えるためであるが、それ以上に昨日まで自分が知っていた彼女たちでなくなったようで恐怖しこの場から逃げ出したかったのだ。

 

 エントランスホールで未だ見慣れない、けれど見間違えるはずのない後ろ姿を見つけた。

 

「おはようっす!」

「ん。おはよう」

 

 くるりと振り返って挨拶をする少年の顔は少し強張っていた。

 

「宮永さんたちの記憶っすけど、確かに消えてるように見えるっすよ」

「そっか。良かった」

 

 そう言って安堵の表情を浮かべるが、顔の強張りは消えない。

 

「よし。昨日話したがもう一度意思疎通のために話そう」

「ライドウと須賀京太郎が前線に。巫女さんたちがバックアップに付きその他の退魔師たちは遊撃にあたる。遊撃とはいっても戦いの余波が他に影響しないようにするって意味だよ」

「……そして彼が結界を解除後私たちは二方向に別れ進撃する。その理由は」

「俺にゲオルグがちょっかいをかける可能性があるから。ですよね」

「そういうこった。ベストは須賀京太郎がゲオルグと戦闘を行っている間にライドウが事態を収拾することだ。だがこれは理想論に過ぎない」

 

 ゴトウとゲオルグしか京太郎たちには見えていない。

 他にまだ不確定要素がある可能性もあり、そううまくいくはずはないだろう。

 ならば石戸霞たちもと思うかも知れないが、神代小蒔を優先し勝手な動きをされると困るので、前線に出すことは許容できない。

 

「ふたりとも準備はいいな。特に須賀、お前は仲魔の更新は済んでいるか?」

「ああ」

「問題ないっす」

 

 二人が頷くのを見ると大沼はなら行って来い。と一言だけ言った。

 後はもう彼らの手から離れ、ライドウと京太郎に運命は委ねられたと言える。

 

「それじゃ行ってくる」

「絶対! 絶対、帰ってくるっすよ!」

「お気をつけて」

「まだ君との契約は済んでいない。この娘のこともある。無事に帰ってくるが良い」

「……行ってらっしゃい」

 

 桃子、マチコ、パラケルスス、光の言葉を受けて少年は頷く。

 

「行こう」

「うっす!」

 

 肩に黒猫を乗せたライドウと共に帝都を駆ける。その後ろには一定距離離れた巫女たちも付いてきている。

 永田町まで数分とかからず辿り着いた京太郎たちは結界を前にし止まった。

 京太郎は腰にぶら下げた契約の刀を引き抜くと頭上に振り上げ集中するために目をつむる。

 ここまで長くも、短くもあったな。そんな事を考え、今日で終わらせるという覚悟を持って目を見開いた。

 

「四天王よ! 俺に力を貸せ!」

 

 京太郎の言葉と想いに応えるように、彼を中心とした四方に淡く透き通った姿をした四天王たちが姿を表すと刀に吸い込まれていった。

 集まる力と光とともに。

 

「ぜりゃぁぁぁぁ!!!」

 

 渾身の一振りが結果に叩き込まれた。

 最初にバキ、という何かが砕ける音がしたと感じた瞬間結界全体に刀と同じ光が包み込みひび割れたと思った瞬間、ガラスが砕け散るような音とともに結界が砕かれた。

 

 砕かれた結界がガラス片のように降り注ぐ中。

 

「四天の刀。とでも呼ぶべきか」

 

 ゴウトのそんな呟きが聞こえ、ライドウと京太郎は顔を見合わせると示し合わした通りにそれぞれ別方向へと駆け出した。

 目指すは国会議事堂だが、真っ直ぐではなく挟み込むように彼らは移動し始め、そして聞こえたのは銃声だ。

 

「待てよ」

 

 予想通り現れたのはGUMPを携えどこか苛立ちの表情を浮かべた男の姿だった。

 銃弾は京太郎を狙ったものではなく、カスリもしなかった。ゲオルグの対となるように似た形をしたビルの上に京太郎は降り立った。

 

「俺を無視するなんて、そんな事は考えてないよな?」

「んなわけないだろ。予想通り、願ったとおりだ」

「ふん。よく生きていたものだなと言わせてもらおうか」

「おかげさまで。ライドウの邪魔をしてくれたお陰で九死に一生を得たさ」

「……。なら、見せてもらおうか。九死に一生を得て、そして得た力ってものをな!!」

 

 GUMPを操作する。それが召喚を行うための物であるとわかり京太郎もまた悪魔召喚を試みようとする。

 

「なんだ!」

 

 だが手が止まってしまった。

 GUMPから放出されるマグネタイトの量が普通ではなかったからである。

 本来であれば島一つ分の大きさを持った神や悪魔であっても、そこまでの大きさを持たないのは取り回しが悪いからだ。

 身体が大きいということは居場所だって当然バレる。そんな不便利な悪魔を使う事はほとんどない。

 だが、今京太郎の眼の前に現れようとしているのは普通では考えられない大きさの悪魔だ。

 

「させるか!」

 

 その大きさゆえの召喚速度の遅さを突こうとはなったジオダインだが、ゲオルグに到達する前になにかに当たってしまう。

 目に見えない何かがいる事に気づいた京太郎は、巨大悪魔の召喚の阻止ではなく仲魔の召喚を行おうとするも背後から何かに殴られ遮られる。

 

「ぐっ。一体じゃない……!?」

「当たり前だろう! お前が来る前に準備はしておくさ!」

 

 ゲオルグの口からおぞましい呪文のような言葉が綴られる「ティビ、マグナム」などと聞こえるがはっきりと聞くことが出来ない。

 ありとあらゆる方向から襲い来る触手のようななにかから逃れつつ、鬱陶しいと放ったマハジオダインが不可視の何かに命中し一瞬だけその姿を見せた。

 鉤爪や触手を持ったおよそ地球上にはありえない見た目をしたそれを見ることが出来たのは、電撃により焦げて輪郭を視ることが出来たせいだ。

 悪魔召喚プログラムがそれをトリガーとしたのか、アナライズの結果「星の精」と呼ばれる悪魔であると京太郎は知った。

 

「もう遅い! さぁ現れるが良い!」

 

 マグネタイトの光とともに現れたものを京太郎は見上げた。

 今回の事件で東京中を移動した京太郎であるが、その中で東京タワーを見る機会があり京太郎の記憶するそれと比べて眼の前に現れたそれは遥かに大きい。

 戦艦の全艦橋部分の形をした頭部、腕には艦の両舷が取り付けられているのかおよそ人に向けるべきではない大きさの砲とまで取り付けられている。

 

「――十四代目の遺産超力超神だ。さぁ打ち勝てるかな、デビルサマナー!」

 

 かつて、十四代目葛葉ライドウにも牙を向いたオーパーツとも呼ぶべき巨大人型兵器が時を越え須賀京太郎に牙をむく。




ライドウ出したときから超力超神を出すことは決めていた。
ソウルハッカーズのリメイクでも出してくれたしね、やはりロボは良い。

本当は有珠山の面々についても書きたかったのだけど、文字数とテンポがですね。説明会はただでさえテンポ悪くなるのに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。