デビルサマナー 須賀京太郎 作:マグナなんてなかったんや
10話以内には二部終わるやろか……。
とはいえおまけで色々と書くことがあるので実質の話数はもっと行くかもですが。
鈍い音が辺りに響く。
本来であれば厳かな雰囲気ただよう国会議事堂であるのだが、今行われているのはその真逆の闘争だ。
外套を翻し退魔の刀を振るうライドウ。
礼装を身にまとい素手で刀を弾くという人の身体とは思えぬ力を発揮するゴトウ。
死闘を演じているのであれば決着もついたのかもしれないが、どこか余裕な表情を見せるゴトウに眉をひそめるライドウという構図になっているのはライドウの攻撃を攻撃的な守備を用いることで耐えているせいだ。
それでもライドウの実力であればゴトウを追い詰めることも可能なはずであったが、決定的な一撃を与える場面においてそれを邪魔するように不可視の衝撃がライドウに襲いかかるせいである。
その威力が低ければ無視もするが、無視することも出来ないほどの威力であり、抉られている地面がその威力を物語っていた。
「……来た、な」
握りしめた拳が退魔刀の横を殴り、ライドウはその一撃の衝撃を殺しながら攻撃を止める。
ライドウの後ろに降り立った京太郎の存在が戦いを一時的に静止させた。
「ライドウ」
「来たか……。君が来る前に終わらせるつもりだったが」
「どうやら彼奴はそれを望んでいないらしい」
彼らとライドウが形容したのは不可視攻撃を放つのがゴトウではないからだ。
何処からか、離れた場所から攻撃が来ている。当然場所を探ろうとするがそうはさせまいとゴトウが行動に移り、その間にもうひとりは姿を消す。
その誰かが何者なのかについては予想はできるが確証はない。京太郎たちが知らない戦力がまだあるかもしれないのだから。
「来たか。これで演者が揃ったな」
ぼろぼろになった礼装の上着を剥ぎ取りながら満足そうにうなずく。
ゴトウが何やら指示を出すと議事堂からボロボロな身体に首輪をつけ悪魔に引きずられながら現れたのは年齢も性別もバラバラな集団であった。
「本来ならもっと早く始末をつけるつもりだった。昨日行ったパフォーマンスのように殺すのも一興ではあったのだが、須賀京太郎くん。キミこそ彼らに出会いたいと思ったのではないかーーそう思ったのだ」
「俺が?」
「彼らも大天使に与する者たちなのだよ。いわばキミがその体になった原因であり咎を背負った真なる元凶だ」
「元凶、メシアン……?」
先程バラバラな集団といったが、よくよく見れば共通点が存在する。彼らの救世主たる男が貼り付けにされた象徴たる十字架を象った何かしらのアクセサリを付けている。
初老の男性はクビからぶら下げて。
若い女性はピアスに。
男は指輪に。
もはやオシャレとはいえない汚らしい風貌である彼らだが、布切れとなった服装から連想するのであればそれらのアクセサリはさり気なく飾り付ける一因で、宗教家だから付けているのではなく、オシャレのためにつけていると思われるかもしれない。
「助けて、助けてくれ! まだ死にたくない!」
「そうよ、なんで私達がこんな……!」
声を上げた者たちに容赦なく炎が、電撃が痛めつけるように振るわれる。
「助かりたいのであれば神でも天使でも何にでも縋り、乞い願うがいい。貴様らの教えでは。信じれば救われるのだろ?」
「ぅ……」
コツコツと響くのはコンクリートの上を歩くゴトウの足音である。京太郎の眼から見てもお高いだろう革靴が音を響かせている。
女の目の前まで移動したゴトウは腕を振り上げ、振り下ろす。鈍い音とともに吹き出るのは脳漿に血だ。
「だが所詮は組織の小童共。こんな奴らのためにかの唯一神が、天使が救いに来るわけもない」
絶望に歪める顔もなく身体は倒れ、女の仲間たちは次は自分ではないかとどよめき、助けてくれと乞い願う。神ではなく、人に。
もしこの場に天使が現れたのだとしたらどうなるだろうか。
彼らを救うために天使と共闘する? そんな訳はない。ゴトウの言葉をすべて信じることなんて土台無理な話と言えるが、先程の反応で彼らがメシアンである可能性は高く、天使が救いに来るようなものなら確信に変わる。
救いに来た天使が京太郎の知る大天使たちであるならば話はともかく。四大天使に与する者たちであるなら殺す理由はあっても助ける理由は皆無である。
最悪、ゴトウと共闘してでも天使の打倒に移っても良い……そんな考えまで浮かぶ。
対するライドウも帝都に仇する者たちを救う理由はないので、表情をしかめてはいるが、やはり動く気配はない。
「どうかね、須賀京太郎くん。ひとり減ってしまったが望むならばキミにこの者たちの処罰を任せても良い」
「俺に?」
「そうだ。私はね、キミに謝罪をしなければならない。私が此度の行動を起こしたのはこのような輩を排除するためでもあった。それが遅れ多くの人々に犠牲を出し、キミにすべてを任せる事になってしまった。キミが背負った物は私達が背負うべきものだった……!」
拳を握りしめ、涙を流し、京太郎をまっすぐに見つめるその瞳に敵意が一切ない。それどころか何かしらの熱を浮かべている様で。その熱が尊敬と言われればそうなのかもしれないとそう思わせる。
「キミは確かに多くの人々を殺した、それは事実だ。けれどその決断を私は誇らしく思う。キミの決断がなければもっと多くの人々に犠牲を出ただろう。多くの人々がキミに罵声を浴びせるかもしれない。けれどそんな権利など本当は誰にもないのだ!」
その言葉は京太郎だけに向けられたものではない。
聞くことは叶わないが、全ての人々に対して向けられた言葉なのだろう。
「自由は多くの多様性を育んだ。しかして実態は牙を折られ腑抜けになったのだ! 牙を持ち合わせておればこのような輩が動く前に止めることさえ叶ったはずなのだ! ならばその罪を生み出したのは誰か! 我々に他ならない! 平和という甘味を享受し戦うことを忘れ、悪意による侵略さえも享受した! その罪は我が国に住む一人ひとりが背負うべきものであり、咎をキミ一人に背負わせるべきものではないのだ!! 故にこそ私はこう言いたい。すまなかった。そして、ありがとう」
そして、この言葉は本来であればヤタガラスが京太郎に対して伝えるべき言葉であった。
たとえ京太郎が自分の決断したことであったと背負ったとしても、本来それを行うべきは国を護る使命を背負った彼らであるべきだった。
「だからこそ、どうだろうか。須賀京太郎くん。今からでも遅くはない、私の同志としてこの手をとってくれないか?」
「……え?」
「約束しよう。私は二度とあのような事態がこの国に起きない様に全力を尽くす。そのための力になってもらいたい」
「勝手なことを……。そもそも貴様がこの様な事件を起こさねば須賀くんが背負うことはなかったではないか」
ゴウトが吐き捨てるようにぶつけた言葉を「たしかにそうだ」と肯定し、「しかしだ」と反証する。
「我らが行動を起こさなかったとして。果たしてメシア教が何もしていなかったと言えるか? 大天使召喚の準備さえ整えていた彼奴らが? 私はそうは思わない。例え今日何もせずとも明日何もしないとは限らない時限爆弾であったはずだ」
「む……」
とっさに否定することができない。なぜならば言葉を返す立場の者たちも同じ意見だったからである。
「だがしかし」
「そうだ。我らが此度のタイミングで行動を移さなければ彼がそうなることはなかったかもしれない。だが、それは須賀京太郎と同じ立場の人間を作り出しただろう。いや、もしかしたら状況はもっとひどいものになったかもしれない。……ヤタガラスも時が経つ程に腑抜けていった以上、さらなる時が経てば更に腑抜ける」
今回の事件でもヤタガラスはメシア教の動きを事前に察することができなかった。無名の組織であるならばいざしらず、あらゆる意味で有名な組織で数ヶ月前にも事件を起こしていたというのに。
それだけヤタガラスにも手が入っていたということだ。平和の名のもとに牙を抜かれる形で。
「だからこそ私は誓おう! 過去は簡単には変えることはできない。だが! 未来はそうではない。第二第三のキミを、須賀京太郎が現れる未来を防ぐと!」
「う……」
思わず、身を任せてしまいたいと思わせるほどの熱だった。カリスマ性と言えばいいか苛烈な意志は火に群がる虫のように人を引きつける。
特に京太郎にとっては今まで言われなかった感謝の言葉はまるで麻薬のように心に浸透していく。
「……っ。できない」
伸ばそうとしてしまった手を逆の手で抑えることができた理由、それは。
「なぜだ? 何がキミをまだ歩かせる? こうして見ていてよく分かる。キミの心は安寧を求めている……とうに限界は近いだろう?」
「それでも約束したんだ! 助けるんだって。確かに辛いけど、それでもまだ立ち止まれない」
今となっては人間であった頃に最後に受託した依頼で未だ達成できていない依頼。
でもそんな物は表面上の理由でしかなく、本当の理由はきっといくつもあるのだ。多くの人の命を奪い、それを背負うと決めた覚悟とか人間であった頃の名残を投げたくない。そういうこともきっと含まれる。
それに救わなければならないのは、助けると約束したのは小蒔だけではない、龍門渕透華も救うと約束したのだ。
だから須賀京太郎はゴトウの手を取ることはできない。
「そうか」
ゴトウは残念だ。と言い、しかして浮かべた表情は哀れみでも同情でもなく、微笑みだった。
「ライドウ、キミには問うまでもない。いや、問うことはキミへの侮蔑になるな。ならば意志と意志が違えた今ぶつかり合うしかあるまい。これまで人類が歩んできた歴史の通り、弱肉強食。弱きものが挫かれ、強者が我を通す古き理のもとに」
気が一気に膨れ上がり、京太郎たちに向けられる。
これまでのように防戦のため内に秘めていた力を、ようやく外へと向けようとしているのである。
「気をつけよライドウ、須賀京太郎。これまでのような様子見ではないようだ」
「強者が道標となる国へと変えようというのだ! 私が強くならなくてどうするというのだ!」
服を掴み一気に引き剥がすように腕を振るえば明るみになるのは素晴らしいまでの筋肉である。だがそれだけではない。ゴトウの言葉を言い表す様にその肉体には目を背けたくなるほどのおびただしい数の傷跡が残っている。
「証明する必要があった。どんな人間であっても立ち上がり歩めば強くなれる……それは理想論ではないのだと!」
ドン! と一歩前に踏みしめた瞬間、ゴトウは京太郎とライドウの目の前に瞬間移動したかのように一瞬で移動する。
両の腕で振るわれる八相発破は京太郎たちを捉え吹き飛ばし、その余波で京太郎たちの眼前、ゴトウの背後にあった国会議事堂の正門さえ跡形もなく消し飛んだ。
しかしてただ攻撃を食らう二人ではなかった。吹き飛ばされているさなかに取り出した十四代目も使用していたコルトライトニングではなく、その後に開発された曰く、同社の最高傑作ともいわれるコルトパイソンを元に開発された銃から撃ち出された弾丸が、京太郎の稲妻がゴトウへと襲いかかり攻撃後の隙を補うことができずしかして直撃はしなかった。
「ならば誰が証明する! 言うまでもない、それが私だと!」
だが脚部の筋肉の膨張の影響かズボンははち切れ、あとに残ったのは褌を付けたゴトウと何処からか現れた鞘に仕舞われた大太刀のみである。
「私が導く世界を通すために! それを否定するならば汝らの力で押し通るがいい!」
鞘から大太刀を抜き放ち宣言する。
そして、相対する彼らは。
「言うまでもない」
「あんたを倒して助けるんだ!」
自身らが激突した衝撃で舞う土煙を払いながら退魔刀を、神刀を構えながら両者が語る。
「ならば来い、帝都の守護者よ。若きデビルサマナーよ!」
その言葉を皮切りに三者三様の思いを馳せ三者が駆ける。
メガテンのゴトウ一等陸佐。彼にはモデルとなった方が居るわけですが、今も名を聞く辺り影響力はすごいですね。