デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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感想、評価、誤字報告いつもありがとうございます。

長野編と比べて戦闘が短いのは連戦が多いからテンポ意識しているのもありますけど、実際は雑な強さが通用するせいで小細工がいらないことな気がする。


『6日目 幾千の幾万の罪』

 

 京太郎たちの一撃を受け止めたのは無骨な剣であった。

 その剣に既視感を覚えたのはハギヨシを打倒したときに持っていた剣がそれだったからだ。

 

 剣によって受け止められ、それでも無理やり押し込もうとする京太郎とライドウであったが、両手で振るわれた一撃で吹き飛ばされてしまう。

 弾き飛ばされた京太郎はせめてもの反撃とジオダインが放つ。だがそんな苦し紛れの攻撃は早々あたるものではない。だがそれを覆したのはライドウであった。

 回避しようと動かそうとした足だが、凍りついていて地面と接着している。ライドウの帽子から覗く眼がスサノオを射抜いており左手には氷結弾が装填された拳銃がある。

 舌打ちをしつつ凍った地面に力を入れ氷にヒビを入れるとその場から逃げた。だがジオダインの余波は回避したにもかかわらず命に襲いかかった。

 

「ぐっ!」

 

 京太郎とライドウはその苦しむ姿を見逃さなかった。

 確信を得るためにCOMPをもしくはアナライズの力を持った魔眼鏡と呼ばれる魔具をそれぞれが見た。

 

 電撃が弱点だ。

 

 畳み掛けるために仲魔の召喚を行おうとするが、まだゴトウの召喚阻害装置が動いているのか召喚プログラムが作動しない。舌打ちをしながら、けれど戦いの肝を見抜くことができたのは大きい。

 強くなれば小手先の技術なんてものは通用しなくなる。弱いうちは情報を仕入れ弱点属性を中心に攻め立てることになるが、強くなれば能力を強化し弱点を無視した攻撃でも効率よくダメージを与えることが出来るようになる。最たる例が万能魔法だろうか。耐性を気にすることなく大ダメージを与えることが出来る万能魔法は逆に言えば弱点を突くことができないとも言えるが、そんなこと気にすることがないほどのダメージを与えることが出来る。

 しかしそれでも、弱点を突くことという基本的な戦い方は無駄にはならないのだ。

 

「離れろっ」

 

 剣をふるい放たれるのはやはり衝撃魔法。踏ん張っても身体を吹き飛ばす程の威力が京太郎たちを襲う。

 

「……本当に喚ぼうとしているのはイザナギなのか?」

 

 ふとそんな疑問をライドウが口にする。

 

「でもさっきあいつは……あれ?」

 

 命はイザナギを喚ぶと断言していないことを京太郎は思い出す。

 アイツが断言したのは人に対して良くないことが起きる。それだけだ。

 

「イザナギ、じゃないなら……」

「イザナミか? それこそ話にならん。イザナギであればコントロールできるだろうが、イザナミを操ることなぞできん」

「そんなにやばいのか?」

「奴はこの国に住むすべての人に対して……」

 

 ゴウトが全てを語る前に風が京太郎たちを分かつ。

 一瞬の離れ際、ライドウの瞳が全てを語る。

 

 何を考えていようともヤツの目論見を阻止すれば関係はない。

 

 その意志に呼応するように放ったのはマハジオダイン。衝撃魔法が荒れ狂う現状において細かく狙いをつけることはできない。だからこそ面制圧は有効打となる。

 

「やはりお前が一番邪魔だな」

 

 京太郎を睨みつけ、剣を振ろうとした手を止めた。

 

 冷たい何かを感じる。

 何事かと後ろを振り向けば両腕をなくした悪魔、いつから居たのかタケミナカタが特攻を仕掛けていた。

 

「やめろ! 電撃に強くても相手にならん!」

「構いませぬ! 我らがいれば広域魔法を使うことができなくなりまする。それに我らがどうなろうともあなたが居てくれればそれが我らにとっての」

 

 すべての言葉を発する前に京太郎の一撃で両断され身体を構成するマグネタイトが散っていく。

 それを皮切りに数多くの悪魔が京太郎とライドウへと特攻を仕掛けてくる。

 弱い悪魔……いや、神と呼ぶべきか。もいれば強い力を持った神々もいる。実力は玉石混交だが共通して何やら必死な形相で京太郎たちに挑んでくる。

 中にはかつて京太郎を手こずらせたタケミカヅチの姿もある……が。

 

「む、がっ!」

 

 両の手に持った剣で攻撃を防ごうとするタケミカヅチであるが、京太郎の渾身の一撃の前では防ぐことすら叶わず一刀両断される。そんな状態になっても京太郎に攻撃をするために身体が動こうとするが当然そんな攻撃を食らうわけがなく、振り下ろされた刀を今度は横方向に振るってついには四等分される。

 

「ライドウ!」

 

 かけた言葉とともに放たれたジオダインがライドウの方に吸い込まれる。これはゴトウを葬った時と同じ技だ。同様の結果をもたらすために刀を振るうライドウだが結果は異なった。

 多くの悪魔が壁となって命を救わんとしたのだ。

 それでも止まらないライドウの一撃を止めたのは電撃属性に耐性を持った悪魔の存在だ。攻撃をやめ、刀から電撃を振りほどくと退魔刀がそのまま切り裂く……が、命の元にはたどり着かない。

 

「……皆。だが犠牲は無駄ではなかった。さあ、姿を現せ大神よ!」

 

 その言葉に合わせるように捕らえられている少女たちの方を見る。

 絶叫を上げながら方陣に吸い取られているのは彼女たちのマグネタイトだ。

 やろうと思えば痛みもなくマグネタイトを吸い上げる方法もあるのだが効率的ではなく、苦しみを与えながらマグネタイトを吸い取るほうがより効率的にマグネタイトは採取できる。

 そして目に見えた変化が神代小蒔に訪れる。彼女の姿が可愛らしい少女から美しい女性の姿へと変化していくのだ。

 COMPでアナライズをかければところどころノイズやら文字化けが起きていて確実な情報を得ることができないのだが、一文だけ確実に読むことができた。

 

 ――天照大神

 

 通常サマナーが召喚するアマテラスではなく、その本体が小蒔の身体に降臨しようと……いや、これはもはや小蒔という存在をくらって顕現しようとしていた。

 

 ――最悪の事態に至る前に殺すしかないのではないか。

 

 一線を越えて、選択肢となってしまった手段が京太郎の脳裏によぎり一瞬だが体の動きが鈍くなり、俯いた。

 それを振りほどいたのはライドウの、京太郎の名前を叫ぶ声だった。

 ゴウトを京太郎の方へと放り投げながら彼は最も近くに居る、龍門渕透華の元へと駆けていく。

 

「良いか。殺す必要はない、救えばよいのだ」

 

 もしここで神代小蒔と龍門渕透華を殺してしまえば京太郎の心が持たないと判断しての行動だった。

 それに救われたように、ハッとした京太郎は顔を上げ。

 

「行け!」

 

 肩に乗ったゴウトの合図とともに走り出した。

 それを止めようとせんと悪魔たちが立ちはだかるが迷いのない今の京太郎を止めるすべはない。止めることが出来るとするならば。

 

「いかせん」

 

 転生者、命が立ちはだかる。

 無骨な剣が京太郎へと向けられ行動を阻害せんと衝撃魔法が壁となり、京太郎の勢いが衰えていく。

 

「良いか。前を見ろ。腹に力を入れろ。最悪なぞ考えるな。何をしたいのか今一度考えそれだけを想うのだ」

 

 ――前を見る。

 ――深呼吸をして腹に力を入れる。

 ――最悪は……いや、やりたいことは――今苦しんでいる彼女たちを救うこと。

 

「失敗することは考えるな。汝は一人ではない――我と、ライドウが居る」

「はい!」

 

 そう、大天使の時とは違うのだ。

 京太郎は一人ではない、既に同じ思いかは分からないけど助け出さんと駆け出しているライドウが居る。

 たとえ失敗したとしてもライドウと共に再度救出すればいい!

 

「邪魔だぁ!」

 

 深呼吸をして腹に溜まった酸素を絞り出すように叫ぶ。

 激情がマグネタイトを作り出し、最強の電撃魔法を発動するのに阻害していた機械の影響さえも無視せんと絞り出す。

 八色雷公が立ちはだかる衝撃魔法をなぎ倒し、命の剣を伝い彼の身体を焼き尽くす。

 痛みから絶叫を上げ、しかしのたうち回ることなかった。それどころか益々眼力を強めるほどだ。だがどれだけ精神力が強靭でも肉体はそうはいかない。痺れる身体で踏ん張ることはできず金属音が響いた瞬間弾き飛ばされた。

 命を下した京太郎の視界にライドウが透華を救った光景が映り込む。それに続かんと小蒔の……いやもはや天照大神となってしまった彼女の襟を掴んだ時、目の前に突如として穴が出現しそれに吸い込まれ消えてしまった。

 

*** ***

 

 暗い暗い暗闇の中。

 それでも自分はここにいるだと京太郎が確信できたのは肩に乗ったゴウトのぬくもりがあったからだろう。

 過去に、完全な暗闇の上に無音の部屋に人が置かれた時どうなるかという実験が行われたという。

 結果は発狂したという話も聞くし、問題なく過ごすことができたという人もいる。

 果たして真相はどちらであったのか。なぜ発狂し、片や無事で居られたのかその理由は不明だが「ああ、確かにこれなら発狂してもおかしくない」そう実感させる程の闇だった。

 

「ここは……」

「恐らくはアマテラスの生み出した異界とでもいうべきか」

「アマテラスの?」

「神代小蒔の肉体に降り、その肉体を侵食していたのは確かだが完全ではなかった。中途半端な存在として顕現していたアマテラスの内的世界に取り込まれたのだろう」

「その、内的世界とかよくわからないけど進めば居るのかな」

「神代小蒔かそれともアマテラスかは定かではないが恐らく。だがゆくべき道もわからないのでは……」

 

 暗い夜を進む船の標となる灯台のような物もなく、前に進むのは愚行だ。

 

「それでも進まなきゃ何も始まらない。どこにも辿り着けない」

「うむ。危険だが仕方があるまい」

 

 そうして前に一歩踏み出した時、京太郎とゴウトの脳裏に何かが流れ込んできた。

 

【行くのですね】

【どうにもあいつ等と一緒に居たら俄然興味が湧いてきちまった。いつも迷惑をかけて済まないな、姉貴】

 

 粗暴な声の男と透き通るような綺麗な声をした女性の声だった。

 彼らはまるで時代劇の舞台ののような場所で女は姿勢を正し、男は姿勢を崩し酒を飲み交わしていた。

 

【あら。迷惑を掛けるのなんて貴方の専売特許じゃない。良いわ。いってらっしゃい。帰ってきたら貴方の話を聞かせてくださいね】

 

 男の謝罪に面白そうな声色で女性が答えた。

 顔は見えないが、男の方は髪はボサボサでとても清潔感のない風貌のようでホームレスなのではないかと思えてしまうほどだ。だがホームレスと違うのはその漲る生命力と肉体だろう。

 髪がボサボサなのは見た目に気を使っていないだけ。一昔前の、まさに益荒男とでも呼ぶべき力強さがワイルドな魅力を掻き立てる。

 対して女性の方は声に見合った美しさがあった。

 髪は黒髪で手入れも欠かさず行っているのだろう。輝いているようにも感じられる美しさがある。

 

【おう! またな、姉貴】

 

 力強く笑みを浮かべて男は消えていった。

 消えていく男の姿を見送っていた女性はどこか寂しそうな雰囲気を見せていたが、振り払うように彼女もまた光の中へと消えていく。

 

【どうしても同意していただけないのですか】

 

 しゃがれた男の声が辺りに響く。

 先程の益荒男とは違う男の声だが意思の強さが声に現れているという意味では同じ用に感じる。

 

【勿論です。確かに私達にとっては危機的状況であると言えるでしょう。けれどそれも仕方のないこと。逆に考え直しては頂けませんか?】

【それはできない。そしてそう言えるのは貴方の立場だからこそではないか。崖の淵に居る者たちはそうは思えないのです】

【それは……】

 

 真実そうであった。彼らの懸念とする問題は暫くは、もしくは永遠に彼女に降り注ぐことはないだろうから。

 それを分かっているからこそ、止める言葉を女は持ち合わせていなかった。

 

【もう私達は止まることはできない。それは貴方のよく知る者も同意してくれたこと】

【私が……? まさか】

【もう語ることもないでしょう。力を貸して頂けないのであれば無理やり引き出すだけです。では】

 

 話を早々に切り上げ姿を消したのは女のほうが実力的には上だからだ。もし力づくで引き止められれば男の方が危険であったのだ。

 実際少しでもこの場に残ろうとすれば女のほうが男を確保しようとしていた。だがそうすることができなかったのは、彼女の服装が動くということを苦手としているからだ。

 

 そして。

 

 次なる場面は京太郎にもゴウトにも見覚えのある風景だった。

 正しく言うのであれば、行ったことはないのだがテレビで見たことのある場所であったのだ。

 なにせその場所は国会議事堂だったのだから。

 

【貴方は……】

【よう。ほんとは約束を果たしたいんだがすまねぇ。それはできないんだ】

【やはり貴方が……一体どうして?】

【こうするのが一番だって、わかっちまったんだ。望んだわけじゃないとは言え奪っちまった命にも。俺に希う奴らのためにも……】

【そのために数多くの命を奪うというのですか?】

【おかしなことじゃないだろう。すべての始まりは畏れだ。畏れ、祈り、願いそうして俺たちは俺たちになった。それを思い出させる。そのためなら何だって利用してやる。例え護るべきものたちであっても家族であっても】

【ス……】

【命さ。今は】

 

 それを最後に京太郎たちは現実へと引き戻されていった。

 無理やり記憶を流し込まれたのが原因か、頭がグラグラとしてふらついてしまう。それはゴウトも同じだったようで京太郎の肩で頭を震わせ、尻尾がピン! と立っている。

 ようやく頭が覚醒し前を見れば光の玉に包まれ眠っている少女の姿と、彼女を護るように見守る女性の姿があった。

 

「アマテラスか」

「ようやく来てくれた……。この娘を」

 

 光をぽんと優しく押すと光りに包まれた少女が京太郎の前まで移動してくるとふっと光が消えてしまった。力なく崩れ行く体を慌てたように京太郎は受け止め、とくんとくんと感じる鼓動が生きていることを感じさせる。

 神代小蒔の救出の依頼を受けて一週間……。ようやく救い出すことができたのだ。

 だが感慨にふけっている場合ではない。

 

「巫女姫を救い出すことができたのだ。アマテラスよ申し訳ないがこの場で消えてくれないだろうか。そうすれば奴の目論見を崩すことが出来るはず」

「申し訳ありません。それはできないのです」

 

 ピシリと空間にヒビがはいる。

 何事かと周りを見渡せば異界が消えかけている。

 

「待て。だとしてもライドウが3つの内一つを救っている。だとすれば」

「金髪の少女のことですね? それではダメなのです。確かに私たち3柱に該当する者たちが消えれば目論見を断つことができます。ですが」

 

 そうしている間に空間そのものが崩れていく。

 恐らくは異界の核となっていたのがアマテラス一人ではなく小蒔も含まれていたからだろう。

 

「代わりがいる」

「代わり……? だとするならばまさか」

 

 ゴウトが全てを言い終わる前にアマテラスの異界が崩れ京太郎たちは放り出された。

 

*** ***

 

「けほっけほっ」

「無事か?」

「ええ、と言って良いのかしら」

「会話できるならば問題はないだろう。あとは」

 

 神代小蒔の元へと突っ込み消えていった須賀京太郎と相棒であるゴウトを心配し目を細める。そうしながらも命への警戒は怠っていない。

 不思議なのは鍵となるべき龍門渕透華を救われたにもかかわらず慌てた様子が一切ないことだ。

 

「龍門渕さんは私たちが」

 

 そう言ったのは狩宿巴だ。

 いつの間にかライドウの隣に立っていた。

 

「すまない。頼めるか?」

「そのための私たちですから。あとは姫様が……」

 

 巴が全てを口にする前に神代小蒔を中心に眩い光が発せられた。

 何事かと光から目をかばいつつ、それでもなんとか見極めようと努力をしていると何かを抱えた人影が飛び出してきたのだ。

 

「須賀くん!?」

 

 飛び出してきた京太郎は勢いがつきすぎていたのか着地しても滑っていくのだが、無理やり足に力を入れ、コンクリートをえぐりながらライドウと巴の近くで止まる。

 

「姫様!」

 

 と言って駆け寄る巴に神代小蒔を軽く放り投げる様に託し。

 

「ライドウ! 急ぎ山縣命を止めるか殺すのだ。まだ終わっていない」

「なに」

 

 見れば神代小蒔を救ったというのにアマテラスは顕現したままであり、命は透華が先程まで居た場所まで移動すると手を上げた。

 その体から立ち上るマグネタイトは気のせいか、龍門渕透華のものに似ていた。

 

「遅い。さぁ姿を表すが良い国産みの我らが父よ」

 

 ツクヨミ、アマテラス。そして、スサノオのマグネタイトが生贄に捧げられ人形に形作られていく。京太郎たちはそれでも召喚を阻害しようと駆け出すが、それを邪魔するように国津神たちが邪魔をする。

 

「どけ!」

 

 だがその言葉に耳を貸すことはない。召喚を止めることはできず、ついに顕現するのは白装束に身を包み、長物を持った伊邪那岐大神だ。

 

「おお……。愚かなる我が子スサノオよ。お前は……」

「愚かなのはあんたもだろう? 目を背けて来た罪から目をそらすことができない日がついに訪れたのだ」

「分かっているのか。そうすればこの国に生きるすべての人達が息絶えることになるのだぞ」

「そうかもしれない。だがそうじゃないかもしれない。言っておくぜ親父。俺は人間の強さってやつを知っているんだ。そう、百年以上前に俺は葛葉ライドウやその仲魔達を見て知って、実際に感じることができたんだ」

 

 人の可能性を信じるがごとく命は……否。建速須佐之男命の転生たる男は告げる。

 

「死んでくれ親父」

 

 国産みの父たる伊邪那岐の大神の物語は決してハッピーエンドとはいえない。

 イザナギの過ちにより本来祝福をもたらす存在が逆に呪いを与えうる堕ちた存在へとなってしまったのだ。

 イザナギの大切な存在を日に千人殺そう。イザナミが人々へと与えた即ち「幾千の呪言」である。

 しかし過ちを犯してしまったとはいえそれを見てに無振りをする事はできなかった。お前が人々を千人殺すならば我は千を超える万の人々を産もう。即ちイザナミの呪いに対する祝福「幾万の真言」である。

 

 そうして人々に降りかかる呪いはまるで対消滅するかのように降り注ぐことはなかった。

 だがイザナギが出した答え。それは現実を霧で覆い隠す行為にほかならない。

 そして今、イザナギがかつて犯した罪が人々を巻き込み具現化しようとしていた。

 

 伊邪那岐大神の足元に全てを飲み込むような闇が産まれ落ちた。

 闇の大穴からイザナギを捉えるために人のような黒い手が伸ばされ彼を絡みとる。

 

 新たなる神が、伊邪那岐大神を触媒として顕現しようとしている。

 

「お、おぉぉ我が妻たるイザナミよ、お前はまだ私を……」

「ユル、ス。モノカァァァァァ!!」

 

 おぞましい叫び声が辺りに響く。

 黒い手はイザナギを引きずり込むと噛み砕くような咀嚼音が京太郎たちの耳に届く。

 ナニカがイザナギを喰っている。

 

「さぁ、刮目してみるが良い! これこそが我が母……」

 

 咀嚼音が止むと同時に何かが穴から引きずりでてくる。

 それは肉を持たぬ言うなればガシャドクロのような姿をした呪いを抱く女の姿であった。

 

「オマエ、ガ! マンをウムトイウノナラバ! ワタシハサラニオオクヲクラオウゾ!」

 

 全てを憎む国産みの母。

 伊邪那美大神が須賀京太郎と葛葉ライドウたちの前に姿を表した。




個人的にP4での不満点の一つは初期ペルソナがイザナギなことです。
確かにイザナミに対してはイザナギなんですけど、現実を見ないで霧に覆い隠すってそれしてるのイザナギもやんけ的な。
イザナミ放置して自分はアマテラスが如く引きこもるし、ないわー的な印象。

そういえば幾万の真言という言葉に合わせて本来は「1000人殺す? なら1500人産むわ」って言葉を万に変えてます。1500って書くのはなんかダサいからね……。
ようは千を超える数を産むってニュアンスが大事だと思う。

そういえばルビ振ってませんが八色雷公はやくさのいかづちと読みます。調べればわかるけどね。

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