デビルサマナー 須賀京太郎   作:マグナなんてなかったんや

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感想、誤字報告いつもありがとうございます。
大変おまたせして申し訳ない。5ヶ月ぶりか……。



『6日目 一転攻勢へ』

「スティーブン……。悪魔召喚プログラムの作成者」

 

 その名だけは京太郎も聞いたことがあった。

 悪魔召喚プログラムの創始者であると数多の人々、もしくは悪魔から聞くことができたのだ。

 しかしスティーブンなる存在と接触したことのある者は数少なく。接触したという人物にスティーブンと会わせてもらえないかと頼み込んでも不意に接触してきただけで何処に居るのかは知らないと彼らは言い、決して自分たちから会うことが出来ない人物である。だから裏の世界に生きる者たちからすればスティーブンという存在は特別でありながらも、半ば都市伝説の様に扱われている霞のような存在であった。

 

 そんな存在が目の前にいることに困惑しつつ「どうして」と問いかけようとするも、聞きたいことが多すぎて言葉にならなかった。

 

「キミはイザナミの呪言によってここに落とされたんだ。しかしキミの身体は呪言にあらがっているんだろうね。だからこうして、落ちつつも先に進むことがないんだ」

「落とされた? イザナミ……? そうだ!」

 

 慌てて先程止めることが出来なかった原村和を引き止めるために駆け出す。彼の話が本当のことであればこのままでは本当に彼女が死んでしまうからだ。

 しかしどうしても止めることは出来ず。それならばとジオで感電させればと考えたのだが。

 

「やめたほうがいい。そんなことをしてしまえば彼女の魂が消し飛んでしまうよ」

 

 真面目な声色で京太郎を引き止めた。

 手から電気がほとばしりながらも発動を止めた京太郎だが、訝しげに問い詰めた。

 

「消し飛ぶって、ジオだぞ。それに手加減もするし」

 

 ジオは確かに普通の人間にとって驚異的だが、普通の使い手が使ったところで一撃死するほどの威力は持ち合わせていない。

 京太郎の言う通り、手加減して放てばそれこそ筋肉が痺れて動かなくなるだけであったり、静電気のようにビリっとくるだけにとどまるだろう。

 そう、普通の状態であれば。

 

「彼女には神秘に対する加護がないんだ。キミにわかりやすいように言えば全ての魔法に対して弱く、肉体を失った魂だけの状態だ。そんな彼女に手加減をしているとはいえジオなんて当ててしまえば止めるどころか魂の消滅さえもありうる」

「なん、なら俺には……」

「今の君が彼女に、いや、彼らに対してできることはなにもないだろうね」

 

 止めるべき相手は原村和だけではない。今もこうして歩いてゆく人々全てを止めるべきなのだ。死は誰に対しても平等に襲い来る災厄だが、それを出来得る限り回避しようとすることは決して罪ではない。

 だが止めることが出来ない状況というのは得てして存在するのだ。それが、今だった。

 

「くそっ!」

 

 無力感に腹を立て八つ当たりすることができるものもない。空を切った拳は振り下ろされることもなく強く握られるだけであった。

 

「例えここで救うことが出来たとしてもそれは根本的な解決にはならない。違うかい?」

「だからって何もしないのも違うだろ! って、それはできることがあって初めて言えることか。……せめて仲魔たちがいれば」

 

 失われてしまった左腕。そこにあったのはガントレットでありCOMPであり、仲魔たちだった。

 

「俺は一人で戦ってきたわけじゃない」

 

 一人で戦ったことなんて最初の、ほんの少しだけだった。

 今ではもう姿が変わり、見る影もないけれどCOMPを手に入れてからずっと一緒に誰かと戦ってきたのだ。

 どんなに戦う力がついたとしても結局の所京太郎はまだサマナーとなって半年にも満たない未熟者で、もし京太郎が出会った仲魔たちが彼らでなかったとしたら、今ここに彼は居ないはずなのだ。

 

「俺には、もう……」

 

 仲魔たちがいない。その事実は京太郎から戦う意志を奪うに十分なものであった。

 そんな彼を手を優しく握りしめたのは、スティーブンの車椅子を押していた少女だった。

 彼女は言葉を話すことが出来ないのか言葉を紡ぐことはしなかったが、必死に何かを訴えかけるように俯く京太郎の瞳を射抜いていた。

 

「本当に何もできることがないとそう思うのかい?」

「こんな状況だ。ライドウたちには戦力は必要だと思う。けどいまここに俺がいるのが何よりの証明じゃないか。ライドウたちに俺を蘇生する余力がない。現世に戻れなければ俺には何もできない」

「そうかもしれないね。けれど彼らは諦めないようだよ? 見てみると良い」

 

*** ***

 

「このままでは何も変わらないか」

 

 汗を拭いながら呟くのは十六代目葛葉ライドウ。

 普段であれば端正な、それでいてポーカーフェイスを崩さない彼から焦りの表情が見て取れる。

 結界の維持を行うことにより彼らは現状を維持することが出来ているが、打開することは出来ていない。いや、正しくはこの状況を打開する手が二つ存在するのだ。しかし一つは真っ先に狙われて潰されてしまい、もう一つは発動することさえ出来はしない。

 邪神イザナミの力が呪いによる生者の命を奪うものであるのならば、すぐに根源を絶つことが出来ずとも対抗してやればよいのだ。しかしそれを行うには大量のマグネタイトが必要で、ライドウの生体マグネタイトを全て使えばそれも成せるだろうが、それをしてしまえば直ぐにライドウは倒れるだろう。そうなればイザナミを倒すものが居なくなり、対抗手段もタイムアウトとなりイザナミにより全てが死に絶える。そうなってしまえば意味がない。

 こういう時に頼りになるのが業斗童子なのだが、彼は京太郎と共におり彼と一緒に瓦礫の下敷きとなってしまった。図らずもだがずっと共に居た者が居なくなる経験を京太郎とライドウはしていたのだ。

 

 停滞とも言えるこの状況を打破したのは、眠りについていた一人の少女だった。

 

「ぅ、ん……」

「小蒔ちゃん!?」

 

 霞の泣きそうで、嬉しそうな声が眠り姫の名を呼ぶ。

 眼を開き、それから腕で瞼をこすって上半身が起き上がった彼女はボーッとしていた。その様子は彼女たちの知る「小蒔ちゃん」そのもので安堵させる要因となった。小蒔は覚醒しきれていない頭で状況を把握するように辺りを見回して、惑う頭を振り払うように「アマテラス様!?」と声を上げた。

 

「二人とも落ち着いてくださいですよ―。結界の維持が出来なければ私達はおしまいですし、アマテラス様はアレの召喚の生贄にされてしまいましたし」

「あ……」

「そっか……。ああ、でも……」

 

 何かを言おうとして、彼女は首を振った。

 

「どういった状況なんでしょうか?」

「見ての通り」

「最悪の状況ですね。邪神イザナミが降臨し、この国に住む人々にかけられていた呪いが発動しています。今は帝都に効果が限定されてますが、放置すれば国全てに及ぶかと」

「……私たちも今はライドウと共に結界を作ることでなんとか耐え忍んでいる状況なの」

 

 平静を取り戻した霞がそう締めくくり、小蒔は小さく頷き少しだけ俯くとそれから顔を上げた。

 

「耐え忍ぶ……。なぜあの2柱は攻撃を仕掛けて来ないのでしょう?」

「余計なことをして面倒な状況を避けているか。もしくはイザナミの意思を優先しているのかもしれない」

「イザナミ様の……?」

「母たるイザナミの怒りを発散するため。ってことですねー。それにイザナミの近くに居れば何があっても自分が対処できると考えているのかもしれません―」

「そう、ですか……手はありますか?」

 

「二つある」

 

 小蒔の問いかけに答えたのはライドウであった。

 

「一つは須賀京太郎の復活」

「イザナミの召喚で驚いてしまった隙を付かれてスサノオにより倒されてしまったの。普通の人間は今結界外で動くことは出来ないけれど彼ならば可能だ」

「……えっと?」

「事情は後。ですよー。もう一つはなんですかー?」

「十四代目の遺産だ。彼が、京太郎が魔界より預かり受けた管に宿る悪魔を召喚できればイザナミの力を抑え、帝都に生きる人々の命を救うことにもなるはずだ」

 

 懐から取り出したのはボロボロの管である。年季の入ったそれからは確かに強大な力が感じられる。

 

「死には命を――。しかし召喚するにはマグネタイトが、何よりも結界の維持を緩めれば終わる」

「優先順位はどうなんでしょうか?」

「帝都の状況を考えれば後者だが、召喚し倒されてしまっては仕方がない。守護者が必要だ」

「それがライドウと、須賀さんですね」

「もう一つ問題。結界の維持と召喚のためにマグネタイトが必要」

「本来であれば須賀京太郎のCOMPによる供給、もしくはお前達から手助けを受ける予定だった」

「COMPは見当たりませんし、私たちも結界の維持に手一杯です……」

「……ううん。少なくともマグネタイトは解決できます」

 

 覚悟を決めた、神代小蒔がそう告げた。

 

 過去の話をしよう。

 時は十四代目葛葉ライドウが活躍した時代――。

 超力兵団などの多くの敵と戦った十四代目であるが、戦いの一つに宇宙生物との戦いが存在する。

 細かな話は省略するが、彼の者との戦いをライドウは一人で乗り切ったわけではない。多くの人々がいればこその勝利であった。

 その一人に――串蛇と呼ばれた少女が居た。

 ヤタガラスには数多くの外敵に対する対抗手段が用意されている。その一つが「媛」と呼ばれる存在であり、彼女たちの役目は多くのマグネタイトをその身に宿す術が施された生体マグネタイトタンク。つまりは生贄であったのだ。

 その後ライドウの奔走と生体マグネタイト協会の誕生もあり媛という役割は縮小化されていくことになり彼女たちの役目は終わりを告げた。だが、多くのマグネタイトを保有することができるという術が消えたわけではない。

 本来であれば母から子へ、そして孫へとマグネタイトを受け継いでいくのだが術式を改良し一人の特別な人間の器を強化することへと用いたというわけである。そうして元より優れた才で神を降ろすことができた神代小蒔は強大なマグネタイトでもって更に強力な神を降ろすことが可能となったわけである。

 しかし。

 

「駄目よ小蒔ちゃん! そんなことをしたら貴方が!」

 

 そんなメリットがある術式がなぜ流行らないのかといえば簡単で、大きなメリットには大きなデメリットが存在するためだ。もし神降ろし以外の方法で、例えば他者が使えるようにマグネタイトを開放しようとすればその生命を落としてしまう。あくまで自身のマグネタイトを用いて神を降ろすという手法であるからこそ用いれる方法だった。

 

「でもそれ以外に方法がありますか?」

「それは、考えれば……!」

「霞ちゃんは今まで考えてなかったんですか? 違うでしょう? ……きっと私の命は今日、この日のための物だったんです。だから――」

 

 強大なマグネタイトが小蒔を中心に渦巻く。

 彼女を止めようとする霞だが、進むことが出来ないほどのエネルギーの奔流が発生しており近づくことが出来ない。

 

「――すまない」

 

 謝罪の言葉はライドウの口から漏れていた。

 

「さようなら――み……」

 

 別れの言葉を告げようとしたその瞬間に別の場所で爆発と共に光の柱が現れた。

 結界をも響かせ、イザナミとその近くに佇むスサノオさえも立っていることが難しい程のマグネタイトのエネルギーである。そのあまりの衝撃に小蒔はやろうとしていたことを思わず中断し彼女からマグネタイトが開放される様子は見受けられない。

 

「一体何がっ」

 

 マグネタイトエネルギーの中に、一人の少年の姿があった。

 左腕からは止めどなく血が流れ、右腕には護るように黒猫が抱えられていた。

 

「ははっ! おもしれぇ。死の底より還ってきやがったかよ!」

 

 スサノオの殺風激が京太郎に襲いかかる。しかし渦巻くマグネタイトが京太郎の元へとたどり着かせない。

 

「ちっ」

 

 舌打ちをしながらイザナミの元よりスサノオが離れた。

 いくらマグネタイトの奔流が激しくともスサノオにとって見れば強い風程度に過ぎない。右手に無骨な剣――天叢雲剣を持ちながら一歩ずつ京太郎の元へと向かっていく。

 しかし京太郎は動く様子を見せない。

 

「意識がない?」

「このままじゃなぶり殺しに……!」

 

 その時だった。

 

「ぐっ」

 

 目を見開いた京太郎は右腕を振りかぶり全力で腕の中に居た黒猫――ゴウトを投げた。

 意識を失っているのか微動だにせず、エネルギーの奔流にただただ身を流されて落ちてきた場所はスサノオの近くであった。彼は一瞥すると彼を拾い上げライドウたちの元へと放り投げた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 苦悶の表情と共に京太郎の叫び声が辺りに響き渡った。

 ぷしゅっ、という音と共に体中の血管が破裂し血しぶきが舞い上がり蒸発していく。

 

「マグネタイトが……。そういうことか。何があったか分からないがコントロール出来てね―のか」

 

 ハッとした表情でライドウが見れば、マグネタイトは不規則に暴れ狂っているがよくよく見れば何かしらのルールに従っている様にも見える。

 

「須賀京太郎に流れ込んでいるのか」

 

 マグネタイトは京太郎に流れ込み、コントロールできず無理やり体外に発散しているマグネタイトが暴風のように荒れ狂っているのである。魔法とは本来マグネタイトをコントロールして使用している訳だが、これほど強大なエネルギーを操ることができるほどの練度が京太郎にはなかったのだ。

 

「小蒔ちゃん!!」

 

 駆け出したのは神代小蒔だった。

 一体全体何が起きているのか彼女にも理解することはできない。けれど確かなのは目の前で死にそうな人が居て、その人を救うことができれば皆を助けることができるだろうということだけだった。

 イザナミの呪いは小蒔にも有効だった。少しずつ削られていく命を護っていたのは彼女のうちに宿る強大なマグネタイトと、小さな光だった。マグネタイトで服が、皮膚が、髪が、焼かれていく中それでも頑張って彼女は走りそして京太郎の元へと行く。

 

「行かせるか!」

 

 スサノオが行く手を小蒔を攻撃しようとするがそれを邪魔する光があった。

 

『させません』

「ちっ! 姉貴――!!!」

 

 降ろして、少しだけ残っていたアマテラスの光が小蒔を必死に護っていた。

 

「はっ、はっ。うぅ……」

 

 自分のせいで迷惑をかけたことを少女は知っていた。

 捕らわれ、アマテラスを無理やり降ろされ、それでもなお彼女の意識はそこにあり少しではあるが状況は理解していたから。そして、自分を救ってくれた黒い光の正体を苦しむ京太郎の姿を見て悟ったのだ。

 

「今度は私の番です! だから――!」

 

 京太郎の元へと辿り着いた彼女はその勢いのままに自分の唇を少年の唇に押し付けた。

 

*** ***

 

 ――痛い。痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 身体の中から爆発するような痛みが走った瞬間ゴウトをライドウたちへと投げたのは英断だったと痛みの中で自分を褒める。

 しかしその後がどうにも格好つかない。マグネタイトが自分へと注がれている事が分かっているにも関わらず京太郎は何をすることもできずただただ翻弄されるのみ。

 コントロールをなんとかしようとしても足りない練度と痛みがそれを阻む。このままではイザナミではなく自分のせいで皆が死んでしまうのではないか。そんなことが頭によぎった瞬間、柔らかさと暖かさが包み込み少しずつ痛みが収まっていく。

 目を開けば、目を閉じてゼロ距離に見える少女の顔。何が起きているのかと慌てるが減っていく痛みから、彼女が何をしてくれているのか京太郎は知ることになる。

 

 ――落ち着いて。こうするんです。

 

 そう伝えるかのように注がれるマグネタイトが仕分けされていく。

 何も全てのマグネタイトを受け入れる必要はないのだ。必要な分だけ器に注ぎ込み、そうできないエネルギーは外へと流していく。その感覚に従い京太郎も自分の意志でマグネタイトをコントロールし始め、完全にコントロールすることができるようになった時、小蒔は顔を離しボロボロな姿で優しく微笑んだ。

 

「良かった。で、す……」

「あぶない!」

 

 膝から崩れ倒れそうになった小蒔を京太郎は抱きとめると、少しずつ心臓の鼓動が弱まっていくのを感じた。

 

「駄目だ!!」

 

 手元に残っていた数少ない回復薬を与えるが状況は改善されない。どうすればと慌てると『ライドウの元へ』と優しい声で光が言う。

 

「そうか。結界の中なら」

「行かせると思うか!」

 

 投擲された天叢雲剣を『形成した左腕』で持った刀で弾き飛ばし、剣先から放たれた電撃がスサノオを牽制する。

 

「くそっ! やっぱりお前が……!」

「邪魔だ!」

 

 少女を抱えながら大地を蹴り、今度はこちらの番だと京太郎の蹴りがスサノオの胴体にめり込む。

 

「ぐ、おっ。だらぁ!!」

 

 しかし脚を掴み殺風撃が京太郎の脚をズタズタにするが、痛みを噛み締めた奥歯に追いやりそのまま振り切った。

 先ほどとは逆にビルへと叩きつけられたスサノオは瓦礫の下敷きになり、その間にとライドウの形成した結界まで京太郎は移動することができた。

 

「神代さん!」

「どいて!」

 

 小蒔を寝かせた京太郎を霞がどかせると回復魔法を始めとした処置を始めた。

 心配そうに少女を見ていると、滝見春が見せてと言い京太郎の足に回復魔法を。そして失われたはずの左腕の状態を確認した。

 

「大丈夫そう」

「マグネタイトで左は作ったんだ。だから元の腕よりも調子がいいぐらいだ」

 

 ポカンとする春に気づいては居たが、それ以上は何も言わなかった。

 少しすると回復魔法が特に効果を発揮したのだろう、血の気が引いていた少女の顔色が朱色を帯びて呼吸も安定したようである。

 

「大丈夫なんですか?」

「……ええ、なんとか」

 

 良かったと安堵する京太郎を、なんとも言えない表情で霞は見つめていた。

 小蒔を助けたのは京太郎。京太郎を助けに行ったのは小蒔の意思で可愛い妹分が必要であったと思われる行動とはいえ危険な目にあいそれでいて――そこまで考え霞は思考するのをやめた。

 ライドウは結界の維持を続けながらも問いかけた。

 

「何があった?」

「それは後でします。ただ、女神が力を貸してくれています。張り切りすぎてしまったみたいですが」

「女神……? いや、それは後だったな。君に注がれているマグネタイトだが私にも使えるか?」

「はい。ただマグネタイトのコントロールは……って、出来ますよね。手を」

 

 ライドウの手を握ると、彼にも京太郎と同様にマグネタイトが注がれていく。京太郎と違うのは器の大きさと問題なくコントロールを行えているところである。

 

「これからアレの召喚を?」

「それが一番だと思っている。他に手があるならば聞きたい」

「いえ、無いです。ただ俺も切り札を切りたいと思っています。ただもしかしたら状況が悪化する可能性もあります」

「これ以上の状況の悪化か。だがそうはならない自信があるんだろう?」

「勿論! 絶対に」

「ならば全力を尽くそう。お互いに。結界は少しであれば私が居らずとも維持できるだろうか?」

「はい! 必ず」

 

 それを信じライドウは京太郎とともに結界の外へと出た。

 ライドウの身体に呪いの影響が出始めるが、それを取り込んだマグネタイトが跳ね除けその手に持った管にマグネタイトを注ぎ込んでいく。

 京太郎もまた、刀を自身の左腕に突き刺し引き抜いた。流れ出るのは――赤い血だった。

 京太郎とライドウ。両者に膨大な量のマグネタイトが集っていく。

 

「――召喚」

「COMPなしでの悪魔召喚!? 無茶よ! ライドウ!」

「私は信じると言った――召喚」

 

 管から黄金の光の龍が姿を表す。

 膨大な量のマグネタイトが注ぎ込まれた結果その姿はかつて十四代目が召喚した時よりも大きな姿をしている。

 黄金の龍の名はコウリュウ。

 四方、すなわちセイリュウ、スザク、ビャッコ、ゲンブ。彼らの長にして四方の中央を統べる大地の命である龍脈を司る強大な悪魔だ。

 

「――コウリュウ!」

 

 空を埋め尽くさんとするほどの強大な龍が姿を現した。

 黄金の龍はライドウの指示を聞くまでもなく、自身の役割を果たさんがために雄叫びを上げると大地から光が溢れ出した。その光は龍脈であり溢れ出した光は地上へと舞い落ちてくると人々を守るように纏っていく。

 龍脈という大地の命の力がイザナミの呪いを跳ね除けるために機能しているのだ。

 

「コウリュウ……。だが術者を殺せば!」

「……終わりにするべきではないか。スサノオ」

 

 イザナミの呪いが無効化されていく様子を見ても戦意が衰えないスサノオへと黒猫が声をかける。

 

「ゴウトの旦那……」

「コウリュウの力により人々はこれ以上死ぬことはない。イザナミも命の力が溢れれば力も削がれる。その状態でライドウと須賀京太郎を相手にすることができるのか?」

「……それでも諦めるわけにはいかない事情があんだよ。旦那」

「む、ぅ……」

「下がってくれ。ゴウト」

 

 赤口葛葉を構えライドウがスサノオと対峙する。

 

「もはや言葉で解決できる時は過ぎた」

「そういうこった。だが舐めるなよ。まだ終わらねぇ!」

 

 ライドウとスサノオが激突している間にも京太郎は召喚を試みていた。

 とある悪魔は言った「初めの召喚とは何だったのだろうと」

 今でこそ陣や呪文などが確立しているが最初から方法が確率出来ていたわけではない。

 召喚方法も数多の失敗と成功を繰り返し今の形に落ち着いた立派な技術である。ならどうして人々は悪魔を召喚し、悪魔はそれに答えたのだろう。

 最初の召喚に携わった神や悪魔が果たして「人を好きになったから」なのか「人に嫌がらせをしよう」と考えたのか。もはやそれを知る術はありはしない。

 しかし確かにあったはずのもの。それは繋がりだ。

 好きにせよ、嫌いにせよ。関わろうとしたことに違いはなく、繋がりこそがすべての始まりだった。だとすれば京太郎が悪魔召喚を行えないはずはない。

 

 思い浮かべるのはこれまでの日々。

 供物となるのは己の血。

 陣の書き方さえも知らない、その道の熟練者が見れば自殺行為にしか見えない召喚術。

 しかし何かに導かれるように解は紐解かれ血は正しく陣を描く。そして。

 

「ルキフグス!」

 

 京太郎の叫びに応え一体の魔王が姿を表した。

 コウリュウと同じく通常ではありえないほどの大きさで召喚されたのは、大魔王ルシファーの右腕と目される魔王ルキフグスであった。

 召喚されたルキフグスは京太郎を掴み眼前にまで持ってきた。

 

「ワシを召喚することがどういうことか分かっているじゃろうな?」

「分かっているさ」

「ワシが命を聞くのはルシファー閣下のみじゃ。主に使役されるつもりはないぞ」

「それでも一緒に来てくれるって信じてる」

「悪魔を信じる。それは最もしてはならぬことだと、散々言ってきたはずじゃがな?」

「悪魔を信じているんじゃない。お前を信じているんだ。だって、お前はまだ休暇を終えたくないだろう?」

「休暇か。あんなもの口から出任せに過ぎんわ。本来の目的は知るべきだと進言されたからじゃよ」

「だったらますますまだ終われないじゃないか。そうだろう?」

「ふ、ふふふふ」

 

 茶化すような京太郎の答えに肩を震わせ、堪えきれなくなって笑い始めた。

 彼は最初京太郎に初めて会った時同僚の仕事放棄が嫌になったから分霊を送ったのだと言った。しかしそれは嘘だった。彼は主たるルシファーに問いかけたのが始まりだった。

 

「閣下。なぜ貴方はそこまで人に興味を抱かれるのか?」

 

 悪魔の姿ではなく、次はどんな人間の姿を借りようかと分霊の姿をかえて楽しんでいるルシファーは言う。

 

「神を真に殺すことができるのは人間だけだっていうのはキミだって知っているだろう?」

「それはそうですが、そうであるならばただ利用すれば良いだけではありませんか?」

「それじゃ面白くないっていうかー? あがいてー、成長した人だから面白いっていうか―?」

「か、閣下?」

「我々では神を殺すには足りない。故に我らを変え、成長を促し、神を殺す人という名の刃が必要なのだ。そしてその刃は苦難の果てにこそ真に輝く……。そうだね。キミは人を知るべきだ」

「人を……?」

「ああ。ベリアルは少女に付きっきりで、ベルゼブブも地上に分霊を送り楽しんでいるようだ。どうにも仕事をしているのがキミだけのようだしお灸も必要だ。実は手に入れた一つの悪魔召喚プログラムの媒体をとある商店街においてきた。どうやらそれを拾った少年がいるらしい。丁度いいから彼についていくのが良いんじゃないかな? 現代の常識あるサマナーにつくよりも常識を知らない表の人間の方が面白くなるだろうからね」

「そうすれば貴方の考えが理解できると?」

「さてね。それはその少年次第さ。他の所に行ってもいいが、だが中々に面白い『星』の元に居るようだよ」

 

 そうしてルキフグスはとある学園で少年――須賀京太郎と出会った。

 その日々は――。

 

「そうじゃな。まだ主とともに居て数ヶ月――終わるにはまだ早いわな」

「そういうこと。だから『一緒に』行こう、ルキフグス。これからも行くために」

 

 得難いものであると感じているのだ。

 ルキフグスの肩に乗り、同様に多くのマグネタイトを注がれ巨大な姿で召喚されているイザナミと相対する。

 ここに来てようやく京太郎たちに反応を示したのは京太郎たちが脅威であるとようやく視認したためだろう。

 その手に黒く光る稲妻が迸り京太郎たちへと放たれる。

 

「合わせよサマナー」

「ああ!」

 

 ルキフグスとの初めての共闘。COMPもなくデータも有りはしない。けれど何をしたいのか、どうするべきなのか手にとるようにお互いが理解することができる。

 京太郎とルキフグスは同時に魔法を放った。魔法の名前は「アンティクトン」。

 メギドラオンをも超えるほどの威力を持つ万能魔法がイザナミの黒雷と激突し空間を震わせた。

 




遅れた原因が何かってあの世での会話が原因だったんすよね。
とはいえ後数話で東京編も終わるはずなので頑張って書いていきます。はい。
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