デビルサマナー 須賀京太郎 作:マグナなんてなかったんや
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完走に向け更新を頑張っていく次第です。
「清澄の商店街の異界が破壊された?」
「はい。そのため国広さんたちを異界で鍛えることは出来ませんね」
「そう……それで、どなたが異界を破壊したのかしら? 私たちではありませんわね?」
高校と同じ苗字を持つ、京太郎曰く派手好きな女子高生こと龍門渕透華は崩された予定に少々憤慨しつつも優雅な紅茶タイムを楽しんでいた。
龍門渕グループは霊的国防組織ヤタガラスの配下組織ではなく、そのスポンサーを務めている。
スポンサーの中にはサマナーを囲い、私兵とする場合もあるが、龍門渕グループもその例に漏れず私兵を所持していた。
透華は次期幹部候補、もっと先の将来を見ればグループのトップに立つ立場だ。
将来のためにグループではなく自身にとって信用のできる仲間を作り、その仲間たちの修練のため、週末に商店街の異界に乗り込む予定だった。
ちなみにこの行動は会長から承認を得ている。決してグループに対する反抗ではないことをここに明記しておく。
ハギヨシから手渡されたタブレットにはとある少年の姿が映っていた。
音すら立てずテーブルにコップを置いた透華は「誰ですの?」と問いかけた。
「清澄高校一年生。麻雀部に所属する黒一点……名前は須賀京太郎」
「麻雀部? でもそんな方いました?」
「大会は初戦で敗退していますし、打ち上げのパーティにも不参加でしたからお嬢様はちらっと顔を見たぐらいでしょうね」
「そういえば男性が原村和たちの近くに居たような。それでこの方はどの組織に属しているんですの? 異界を破壊したのは私たちの行動を妨害するためかもしれないでしょう?」
龍門渕グループには数多くの敵がおり、次期リーダーである透華を妨害する輩が内外問わず居ることも知っている。
だがハギヨシは否定する。
「そうではないようです。どうも異界に誤って進入したようでして」
「まぁ! それは大変……。ですがお待ちなさい。それなのに無事で、異界を破壊したと言うことは……」
「異能者に覚醒しています。実際遠くからアナライズをかけたところ電撃系の魔法を取得していることが確認できました」
「異能者とはいえ成り立てが一人で異界は破壊できないでしょう? ということはサマナーになった可能性もありますわね」
サマナーが異界で死に、後から紛れ込んだ一般人が異能者に覚醒し悪魔召喚プログラムを手に入れ悪魔と戦う力を得るという話はよく聞く話だ。
「そうですわね。明日接触いたしましょう! 麻雀部部員なら放課後部室まで行けばお会いできるはずですわっ」
龍門渕透華は知らない。
この会話をしているこの時、龍門渕高校に京太郎が居ることを。
龍門渕透華は知らない。
京太郎は放課後部室に姿を現さないことを。
龍門渕透華は知らない。
これらの情報をハギヨシは既に握っており黙っていることを……。
『ふむ。私に問いませんか……ならばこれも、修行のひとつですよ。お嬢様』
才ある未熟な未来のリーダーである主を鍛えるのも、龍門渕に仕えるハギヨシが任された仕事の一つだった。
*** ***
「須賀さん! 来てもらってありがとうっす!」
「いやいや。こちらこそ呼んでくれてありがとな。でも大丈夫だったのか? 女子校だろ?」
「大丈夫っす! 先輩がむしろ呼べって勧めてくれたぐらいっすよ!」
桃子と出会ってから数日後。桃子から鶴賀学園に来ないかと誘いを受け実際に訪れたのが県大会から一週間後の月曜日の話だ。
鶴賀学園に姿を現した京太郎を桃子が暖かく迎えた。
本来他校の生徒、それも男が足を踏み込むのは問題がある。
だが学園側も桃子の状況は把握しており、彼女を普通に認知可能な男子生徒が居ると聞きなぜ認識できるのか知りたがった。
それは大体桃子のためであるが、彼女の担任や授業を務める教師たちのためでもある。
一週間に一度ぐらいの頻度で出席確認にて桃子の存在を気づかないで欠席にするという問題が発生してしまうのだ。
上記に付け加え桃子の先輩である加治木ゆみが、京太郎の監視を申し出たことも京太郎の来校の許可を後押しした。
笑顔で出迎えた桃子を見て驚いたのは鶴賀学園麻雀部の面々だ。
今日に関してはいつもより気配が濃く感じるがそれでも油断すると桃子を見失ってしまう。
にも関わらず桃子をすぐに見つけることができる京太郎は確かに桃子を見つける能力があると証明した。
「須賀さん。私の先輩たちを紹介するっすよ!」
桃子の視線の先にいる二人には京太郎も覚えがあった。
それも当然で二人とも一週間前に行われた県大会の決勝に参加した面々だったからだ。
はじめに一歩進み出たのは宮永咲と大将卓で戦った少女だ。
「加治木ゆみという。驚いたよ、本当にモモが見えるんだな」
「どうっすか先輩! 信じてくれたっすか?」
「信じたよ。信じなくて悪かった……須賀くんだったな、短い間かもしれないがよろしく頼む」
「はい」
次は二人と違い髪が短いのが特徴の少女だ。
中堅を努め竹井久と打ち合っていたと思うのだが京太郎の印象にはあまり残っていない。
「蒲原智美だ。よろしく頼むぞ須賀くん」
先程他の面々と比べた髪の長さを特徴としたが前言撤回。本当の特徴はこの『ワハハ』という笑い方だ。
「さて、これからどうするかな。学園を案内するのも違うだろ?」
「決まってるぞーユミちん。確か須賀くんも麻雀部だったなー?」
「え? あ、はい。休部中ですし初心者なんで強くないですよ!!」
「ふむ。なるほどな……よし、打とうか。ちょうど四人いるし決勝で敗れたとはいえ私たちでも教えれることはあるだろう」
「あ、はい」
京太郎の打ちたくないという思いはどうやら『初心者だから遠慮している』と取られたらしい。
智美は「気にすることないぞー」と京太郎の遠慮を取ろうとしている。
桃子に至っては「須賀さんにいいとこ見せるっす」とやる気満々だ。
麻雀部を辞め、麻雀からも卒業しようとしていた京太郎は後ろめたさによる罪悪感から従うしかないのだった。
だが忘れないでほしい。京太郎の運の良さは既に一般人を遥かに超えたものになっていることを。
「ちゅ、九蓮宝燈なんて始めて見たっす……」
「ワハハ。……えっと須賀くん明日死なないよな?」
「迷信だ迷信。だがこれは……」
麻雀部の時とは違い真面目に打った結果がこれである。
初心者なりに河を見ながら打ちそして顔をひきつらせながら完成した役だ。
「確か須賀くんは初戦敗退だったな?」
「はい」
「……女子のほうが麻雀は強いというが嘘なのか? まさか噂通り本当に強い男性雀士は裏にしかいない?」
「さ、さぁどうでしょう?」
「男子高校生が皆覚醒してれば化物だらけだぞ」とは流石に言わず、引きつった笑みを浮かべることしか出来ない。
「でもでも須賀さんすごかったっすよ。私が気配を消しても振り込まないっすもん!」
「……気配消してたんだ」
ぼそっと呟いた京太郎の言葉を聞き、ゆみは意を決したようにうなずいた。
「なぁ須賀くん」
「はい」
「なんで君がモモを見失わないのか、その理由は本当にわからないか?」
「えっと……」
「蒲原とそちらに居る原村和は例外として」
「ひどいぞユミちん~」
「匂いで判別なぞできるか! 話は戻すがモモの体質を私はどうにかしてやりたいと思っているんだ」
「少しですけど話は聞いてます。だからその思いは理解できるつもりです」
「……ありがとう」
親からも認識されず、友達ができて近くにいても気づかれないなんてどんな気持ちなのだろうか。
そんな桃子がネット麻雀に逃げ込むのは当然で、ゆみが現実で桃子を見つけることができたときの思い出は桃子にとってかけがえのない思い出のはずだ。
そんな大切な先輩でさえ時々見失うことの悲しみは桃子もだが、ゆみも感じているはずだ。
そんな状況で苦もなく桃子を見つけることができる京太郎は、彼女たちにとってとても貴重な存在だ。
「君の存在が唯一の手がかりなんだ。私はなんとしてもその理由を知りたい」
「ワハハ。今なんでもって言ったかー? ユミちん」
「うぇ!? なんでもとは言ったが流石に体とかは……いやだがモモのためなら」
「待ってほしいっす! ストップっす先輩! それは流石に駄目というか、須賀さんだって止めるっすよ!」
「……ふっ」
「ワハハ! 思春期の男子を舐めちゃいけないと思うぞ~」
「須賀さん!」
「いやいや流石にそんな馬鹿なことは言わないですって、ちょっとノッただけです」
桃子はその言葉に「そうっすよね!」とホッとしていた。
「うーん意外に硬派だな須賀くん」
「ちなみにこの髪は自毛なんで染めてないですよ」
「おっそうなのか? 色眼鏡で見てごめんなー?」
「いえいえ慣れてますから」
羞恥から、俯き体を震わせていたゆみが顔をあげると麻雀部の面々でさえ見たことのないとても良い笑顔で言った。
「蒲原、明日は暇だな?」
「ワハハ。当然だぞー……ってえっと、ユミちん?」
「確か英語と数学が危ないと言っていたな? 分かった。教えてやろう……一日中しっかりとな」
「えっと、拒否権を求め……」
「ん?」
「はい。わかりました」
怒り心頭のゆみとしょぼんとする蒲原を桃子は珍しいものを見るかのような目で見ていた。
「私あんな先輩初めてみたっす」
「まぁ、やりすぎたな。うん」
桃子の体質をどうにかしたい。それは京太郎も同じ気持ちだが、京太郎が桃子を認識できるのはやはり異能者だからだ。
だが京太郎には可能性が見えている。
先日出会った狂人がその可能性だ。
気配が消える体質なんて聞いたことがない。なら原因はオカルトに由来する可能性が高い。
京太郎は裏の世界に足を踏み入れて一週間ほどしか経っていない。だが、あの狂人であれば……。
狂人に借りを作るのは恐ろしいが話をするぐらいはできるか。
そう結論づけ、京太郎はゆみに声をかけた。
「正直俺がなんで桃子を見失わないのか分かりません。俺からすれば確かに気配は薄く感じるけどそれだけですから」
「……そう、か。そうだよな」
「でも、桃子の体質はオカルトに由来する気がします」
「オカルトか。決勝までは信じる気になれなかったが、天江衣と君のところの大将を見せられれば、信じてもいいと思えるよ」
「それでそのオカルトに詳しい人がいるんです。なんとかできるか分かりませんが、可能性はあるかもしれません」
「ほ、本当か!?」
「ただ可能性です。その、ぬか喜びさせてしまうかも」
「いや」
ゆみは首を振った。
「私たちでは可能性すら見いだせなかった。感謝こそすれば恨むことなんて絶対にしないさ」
「そうっす! でも須賀さん無理してないっすか? 少し考え込んでたっす……須賀さんが無理をするのは私いやっすよ?」
「大丈夫。きっと! うん多分……」
「ほ、本当に大丈夫っすか!?」
「ハハハ、冗談冗談! とにかく明日の学校帰りにその人に会ってきます。本当は今日行きたいんですけど、ちょっと前に帰りが遅くなった罰で早く帰らなきゃいけなくて」
「全然問題ないっすよ」
「モモの言うとおりだ。桃子は大事だがそのために君が無理をするのはよくないからな……ん?」
ゆみは周りを見渡すと首を傾げていた。
桃子たちは理解できていないようだが、京太郎は違った。
「今揺れましたよね」
「君も感じたか?」
「蒲原元部長は気づいたっすか?」
「ワハハ全然気づ」
その瞬間この場にいる全員が立っていられないほどの振動が発生し、京太郎たちはなんとかテーブルや椅子にもたれるも、それでも危険だと判断し体を伏せた。
「な、なんすかこれ!?」
「東海地震がついに来たのか……?」
「そんなことどうでもいい。みんな机の下に隠れるぞ!」
伏せた状態で四人はなんとか机の下に避難した。
京太郎は胸ポケットにあるスマホから音が出ていることに気づき取り出して確認をした。
そこにはピクシーからのメッセージが刻まれており内容は京太郎の想像を超える出来事を示唆していた。
『サマナー、気をつけて! 異界ができるよ!』
ピクシーからの警告文を見た京太郎は地震の恐怖で震える三人を守るために、咄嗟に仲魔たちを召喚しそこで意識を失った。