FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
さて、ということでエルザを追うため小船ーーー借りるという名の簒奪に近い形で受け取ったものだがーーーを出した一行だが、ここで一つの問題に直面した。
「ぅぷっ……」
追跡の頼みの綱であるナツが早々にリタイアしたのだ。
乗り物に酔うナツに頼ることはできず、他に追跡手段もないためとりあえずの措置として船を前に進ませる。陸地があればそこでナツを回復させ、方角を示してもらうつもりだ。
その船上は静けさが支配しており、重い空気が蔓延っている。
原因はなにかと問われればエルザに関してだ。
グレイは仲間が拐われたことに苛立っており、ルーシィはエルザのことをよく知らなかったと後悔しており、グレイにくっついてくる形で同乗した元幽鬼の支配者のジュビアはグレイに八つ当たりされてしゅんとしていた。
「ってかよォ、てめぇまで何してんだヨ‼︎」
グレイが怒鳴る先にはカイトの姿。
常ならばこのような空気を読まずにヘラヘラとしていそうだが、現在は身体を丸めてコロンと転がっている。影の魔法でオールを漕いでいるのでふざけては居ないのだろうが、人からすれば苛立ちの原因になりかねない。
「元気だねぇ、グレイ。その元気で早く陸地を見つけてね」
「ふざけンな‼︎ 状況わかってンのか⁉︎」
「エルザとハッピーが拐われて、行き先もわからない。そんな中、居心地の悪い海の上で必死でオールを漕いでるよ。実に献身的だとは思わないかい?」
「てめぇっ‼︎」
「ちょっと、グレイ‼︎」
ふざけた調子のカイトの胸ぐらを掴み上げ、船が大きく揺れる。制そうと立ち上がったルーシィがバランスを崩して倒れ込む。あわや海にダイブを決め込みそうになったが、カイトが影の手を伸ばして引き戻す。
「カッカッカ、グレイ。目先の仲間危険に晒しておいて、言葉のひとつもないのかい?………だとしたら君には失望するよ」
「っ‼︎」
いつものカイトとは違う、温度の消えた瞳に怯みその手を離す。そしてバツが悪そうにルーシィに謝罪した。
「………すまねぇ」
「ううん、大丈夫だから。カイトもありがとう」
「カッカッカ♪ どういたしまして♪………あ、ごめん。やっぱ立つとつらい」
「あ!見えました!」
そのまままた膝を抱えて丸くなるカイト。ジュビアが何かを見つけて声を上げるのはほぼ同時だった。
「何アレ………。塔?」
しばらく進み、ようやくその全貌を捉えることのできる距離まで近づいて見えたのは塔。海の真ん中、それもかなり大きめのソレはどう考えても怪しい。
船着場はあるがそこに止める様なことをせず、近場の岩場に隠れるようにして上陸。回復したナツ曰く、匂いはこの塔の中からすることから潜入することを選んだ。
岩肌から塔へと続く階段を覗いてみるが、警備の人間が複数人、等間隔で並んでいる。塔へと続く道のりは長く、呑気にわたればバレるのは間違いないだろう。
「見張りが多いな」
「気にする事ァねえ‼︎突破だ‼︎」
「カッカッカ。元気なのはいいけどダメだよ♪」
「そうよ。下手なことしたらエルザたちが危険になるのよ」
さて、どうしたものかと考えていると、海の方からジュビアが顔を出す。水の魔法を使いこなすジュビアは身体を水にすることができ、水中の活動を得意とすることから索敵をさせていたのだ。
「ジュビアは水中から塔の地下への抜け道を見つけました」
「マジか!でかした」
「褒められました。あなたではなくジュビアが、です」
「はいはい」
グレイに気があるジュビアは恋敵ーーと勘違いしてるーールーシィに自慢げだ。
「水中を10分ほど進みますが、息は大丈夫でしょうか?」
「10分くらいなんともねーよ」
「だな」
「無理に決まってんでしょ‼︎」
「海かぁ。俺は泳げないから陸の方から侵入するよ♪………あれ?縄が」
いつの間にだろうか、カイトの足首に縄がくくりつけてあり、その先はグレイとナツが握っている。解こうにも結び目は難解にしてあり、短時間では無理なことが伺える。
「こちらを。水の中に酸素を閉じ込めたものです」
「ねぇ、ちょっと?」
「よし、行くぞ!」
「待って待って」
「てめぇ、声落とせ。バレたらどうすンだ、クソ炎」
「お願い聞いて?」
「はいはい、ケンカしないで行くわよ」
「ちょっ待っ‼︎ガボッ‼︎」
ザブン、と。
懇願など知ったことか、とばかりに一同海の中に潜る。当然、縄をくくりつけられたカイトも共に。それもジュビアの作った酸素を閉じ込めた水をかぶることなく。
呼吸は必要ないとはいえ、この仕打ちはあんまりではないだろうか。そんなことを思いながらカイトの身体は海の中に沈んで行く。
10分後
「ガフッ‼︎ゲホッゲホッ……‼︎」
「お、目ェ覚ましたか」
ジュビアの案内通り、水中深くにあった横穴は塔の地下へと繋がっており、無事全員がその場にたどり着くことができた。
呼吸の必要ないカイトだが、真似事としての器官は相応にあり、当然口を開けば水も溜まる。それも唐突だったことも災いしてかなりの量を飲み込んでいた。ただでさえ苦手な海、その水を大量に飲み込んだことでコンディションは最悪である。
「し、死ぬかと思った……。君たち、なんで人の話を聞いてくれないのかな?」
「「だって、目ェ離したら迷うだろ」」
グレイとナツ、悪怖れることもなくそう返す2人に返す言葉もない。実際、塔の中で迷子になるのは確実だろう。
それでも胸に残るもやもやを口の中で転がしていると、唐突に声が地下空間に響く。
「なんだ貴様らは‼︎」
声がしたのは頭上。
この空間内を張り巡らされた橋の一部に何人もの兵隊がこちらを見ていた。
「やば」
「カッカッカ♪ さて、どうする?」
「ここまで来たらやるしかねえだろ」
「はい‼︎」
「なんだ貴様らはァ、だと⁉︎上等くれた相手もしらねえのかヨ‼︎」
いち早く動いたのは苛立ちを募らせていたナツ。拳に炎を纏い、近場にあった柱の支柱を殴りつけ橋を破壊。幾人かの兵隊ともども橋が落ちる。
「妖精の尻尾だ、バカヤロウ‼︎」
それを皮切りに、兵隊たちも攻撃を開始する。いち早く狙われたのは女性であり弱そうに見えるルーシィ。だが、侮る事なかれ。フェアリーテイルでは新人の部類とはいえ彼女も最強チームの一角。その柔軟な身体を駆使しながら後退しながら魔法を発動する。
「開け、巨蟹宮の扉‼︎ キャンサー‼︎」
「久しぶりエビ‼︎」
出てきたのは背中に蟹の脚を生やし、両手に散髪用のハサミを持つサングラスの男性。襲ってくる兵隊の髪を悉く根こそぎ刈ってしまう。
次に狙われるのは同じく女性のジュビア。しかし、彼女の身体は水でできており、ただの攻撃では傷一つつかない。
「え?」
「なんだこいつ⁉︎」
「
そうして呆気に取られる敵を高圧水流でなぎ倒す。
受けに甘んじているわけにもいかず、グレイは軽い身のこなしで柱に登るとそこにいた兵士を蹴り倒しそのまま空中に躍り出る。
「アイスメイク、
橋の上にいた数人に加え、その下にいた兵士ごと氷のハンマーが叩き潰し、氷塊の中へと閉じ込める。
「
一瞬、カイトの影が揺らめくと、影が四方に飛び散り周囲の影と混ざり合う。道化の手により支配された
「
文字通り、幾千にも及ぶ拳の数々は味方を攻撃する事なく、全て兵隊へと突き刺さる。しかし、脇の通路からは今までの倍の人数が顔を出す。望むところだ、とばかりに一同は声を上げるのであった。
しばらくして、ようやく敵の増援が収まると上へと続く扉が1人でに開く。
「四角ーーー‼︎どこだーーっ‼︎」
登るや否やナツが怒り心頭をあらわにして辺りを見渡す。
通じていた先は出入り口の先にある広間らしく、周囲はしんとしていた。あれほどの数がいたのだ、おそらく見張りの兵も総動員したのだろう。
「ちょっと‼︎ここは敵の本陣なんだから大声出さないの‼︎」
「下であれだけ派手にやったんだ。今さらこそこそしても仕方ねえだろ」
「それにこの扉、誰かがここから開けたものじゃありませんよ。魔法の力で遠隔操作されています」
「ようするに、既に侵入はバレてるってことだね♪」
敵さんはよっぽどの自信家だねぇ、と笑い周囲を見渡す。石造りの塔の内部に変わった様子は見られない。しかし、嫌な雰囲気をカイトは感じていた。
「………できればさっさと終わらせたいねぇ」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないよグレイ♪それよりルーシィ、その服どうしたの?」
「星霊界の服よ。キャンサーに持ってきてもらったの。水になれるジュビアはさておき、濡れた服をいつまでも着てるのも嫌でしょ?」
「
「あら、ホント⁉︎」
星霊界の服に着替えたルーシィを他所に、男メンツはナツの炎を頼りに服を乾かす。そうしていると、長いしすぎたのだろう、廊下の向こうから兵士の一団が駆けつけてくる。
「いたぞー‼︎侵入者だー‼︎」
「こりねえ奴らだな」
兵士を見るや否や、臨戦態勢を整える一同。だが、その背後から現れた人物が瞬く間に兵士たちを全滅させた。
双剣を持ち、スカートと鎧というどこかミスマッチ感を出しながらも本人の凛とした雰囲気を寧ろ引き立てている、緋色の髪を携えた女性。
「エルザ‼︎」
「よかった‼︎無事だったんだね‼︎」
「カッカッカ♪ これで一安心だねぇ」
「か、かっこいい………」
一団の向こうから現れたエルザはこちらを確認すると驚愕に打ち震える。
「お、おまえたちがなぜ、ここに………」
「なぜもくそもねてんだよ‼︎舐められたまま引っ込んだらフェアリーテイルの名折れだろ‼︎」
あんの四角だけは許しておけねー‼︎と騒ぐナツ。すると見慣れない顔、そして誰なのかに気づいたエルザが少し反応するとジュビアが怯える。
「あの、ジュビアは、その………」
「帰れ」
簡潔に、ただ一言。
拒絶を表したその言葉は、一同の動きを止める。
「ここはおまえたちの来る場所ではない」
「でもね、エルザ………」
「ハッピーまで捕まってるんだ‼︎このまま戻るわけにはいかねー‼︎」
「ハッピーが?まさかミリアーナ……」
「そいつどこだ‼︎」
「さ、さあな」
「よし‼︎わかった‼︎」
「何がわかったんだよ‼︎」
「ハッピーが待ってるって事だ‼︎」
今いくぞ、ハッピー‼︎とだけ言い残し、ナツはその場を去る。
「あのバカ……‼︎」
「カッカッカ♪ 元気なのはいい事だよ♪」
「言ってる場合じゃないでしょ!あたしたちも後を追いかけよっ‼︎」
「ダメだ、帰れ」
ナツを追いかけようと駆け出す3人を、剣で制止させるエルザ。
「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーに危害を加えるとは思えん。ナツとハッピーは私が責任を持って連れ帰る。おまえたちはすぐにここから離れろ」
「そんなのできるわけない‼︎エルザも一緒じゃなきゃイヤだよ‼︎」
「これは私の問題だ。おまえたちを巻き込みたくない」
「もう十分巻き込まれてんだよ。あのナツを見ただろ」
「…………カイト」
「カッカッ、残念ながら承服しかねるよ。それに俺も知りたいんだ。この
「…………」
「らしくねーな、エルザさんよォ。いつもみてーに四の五の言わずついて来いって言えばいーじゃんヨ」
おし黙るエルザに痺れを切らしたのか、グレイが挑発的にものを言う。
「オレたちは力を貸す。お前だってたまには怖えと思う時があってもいいじゃねーか」
それがきっかけだったのだろう。こちらを振り返ったエルザの両目に溢れんばかりの涙が溜まる。その、らしからぬ表情に一同言葉を失い、涙を拭ったエルザが言葉を紡いだ。
「……この戦い、勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消すことになる」
「カッカッ、エルザでも冗談を言うことがーーーわかった。茶化さないからその目はやめて2人とも」
場を和ませようとするカイトの軽口を視線で黙らせ、そして決意を決めたエルザが続けた。
「これは抗うことのできない未来。だから、私が存在しているうちに全てを話しておこう」
そして、エルザの口から語られるこの塔の過去。
塔の名は楽園の塔、別名
幼かったエルザも奴隷の1人として扱われており、同じ房にいた同世代の仲間が今回エルザを攫ったメンツ。
好奇心旺盛な最年少のショウ、ネコが大好きなミリアーナ、普段は煩いがミリアーナにベタ惚れのウォーリー、身体は大きいが引っ込み思案のシモン、そしてみんなのリーダーとして立ち振る舞うジェラール。
エルザを含めた6人はかつて脱走を企て、それがバレた末にエルザを拘束。見せしめとして拷問を受けていたがジェラールがそれを救出。しかし、逆に捕らえられてしまいエルザの代わりに拷問を受けることとなった。
房に戻されたエルザ。このままではダメだと同じ奴隷を鼓舞してジェラールの救出と脱走を決意。行き当たりばったりの作戦とはいえ、魔法教団よりも遥かに多い奴隷の数。数の暴力に加え、途中でエルザの魔法が覚醒。それにより更に指揮を上げた奴隷たちの手を借りてジェラールを救うことも、脱出に使う船を奪うこともできた。
しかしーーー
「もし、人を悪と呼べるなら、私はジェラールをそう呼ぶだろう」
救出されたジェラールは以前と打って変わり、この塔から離れないことを決意。それどころか塔を完成させ、黒魔術の祖とも呼ばれるゼレフを復活させようとしていた。
当然、エルザはそれに反対するがエルザと同じく魔法に目覚めたジェラールに抗う術なく、脱出船を破壊した罪を被せられ追放された。
その後、エルザは楽園の塔に足を運んだことも政府に密告したことはない。近づけば奴隷を殺され、密告しても同じようにされる。
仲間の命を背負い、エルザは仮初の自由を手に入れたのだ。
同じ独房にいた元フェアリーテイルのメンバーのおかげでギルドの存在を知り、その場に足を運べたのは幸運といえよう。
「私は………ジェラールと戦うんだ………」
その頬に複雑な感情が混じった涙が伝っていた。