FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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vs.エルザ

 

 

 

 

 

 どちゃり、と。

 

 エルザとカイト、2人の拳と剣がぶつかった瞬間、音を立ててカイトの姿が泥のように崩れる。

 ハッと次に来る攻撃を察したエルザが後退した同じタイミングで泥が意思を持つかのように鋭く尖り、四方八方へとそのトゲを伸ばした。そのうち迫りくる何本かを難なく切り落とし、本体はどこにいったのかと周囲を見渡すエルザ。そして、着地した刹那床が盛り上がる。

 

「くっ‼︎」

 

 盛り上がったのは床ではなく影。その形は拳を握っており、攻撃というよりは足場を崩すために作られたもの。意図的ならばまだしも、突然空中に浮いたエルザに硬直が生まれる。

 

「君と正面切って戦えるわけないでしょ、エルザ」

 

 どこからともなく聞こえるカイトの声。その声に反応して壁や天井、床から生えた影の拳がエルザへと殺到する。

 

「千影万雷」

 

循環の剣(サークルソード)‼︎」

 

 エルザが手持ちの剣を振るうと、それに追随するかのように展開された剣が全ての影を切り落とし、なんとか無傷で着地。

 しかし、油断はできない。ギリッと奥歯を噛み締めて次に来るカイトの攻撃に備える。

 

 力対力の勝負では、間違いなくエルザが勝利するだろう。しかし、手札の多さではカイトには及ばない。カイトの戦法は搦手による奇策が主体だ。時間をかければかけるほど、勝利への道は閉ざされる。

 

 だからといって正面突破ができるかと言われれば不可能だ。闇雲に戦えば相手の思う壺。まな板の上の魚ばりに簡単に調理されるだろう。

 しかし、勝機はある。

 姿の見えないカイトだが、必ずこの空間にいることは確かだ。影の中に潜んで攻撃、というのは理想だが、魔法はそこまで万能ではない。影の中での魔法は影の中でしか行えず、干渉することは不可能だからだ。例外があるとすれば影を中継しての攻撃。だが、こちらも身体を外に出さなければ発動しないのだ。

 

(攻撃の瞬間、必ず外にいるはず。そこを叩くしかない)

 

 対処法を絞ったエルザが構え、それをまっていたカイトの次の攻撃が始まった。

 

「さっすがエルザ。ではでは、序章は終了、第二幕の開演だ♪」

 

 ぱちん、と鳴らした指の音を合図に通路の奥から2つの刃が伸びる。左右に広がるソレは偽・仏斬大鋏(ぶつぎりおおばさみ)。ゼレフ者の悪魔であるララバイの腕を易々と切った実績を持つ魔法。

 

「換装、黒羽の鎧‼︎」

 

 一撃の威力を上げる魔法に切り替え、刃を叩き壊す。切断能力の高い魔法だが、それは刃が交差した時の話。出現した瞬間を叩くことなどエルザには簡単なことだ。しかし、それがいけなかった。

 

「一撃の威力が上がる鎧だけど、反面、隙が大きくなるのは弱点だよねぇ」

 

 エルザの隣に現れたカイト。反応して斬りかかるよりも早くカイトの回し蹴りが横腹を叩く。

 普段ならば軽く流せる一撃。しかし、今回の回し蹴りはエルザを吹き飛ばし壁へと激突させた。

 

混沌ノ一撃(カオス・インパクト)。俺にしては珍しい近接型の魔法さ♪………まぁ、効いてないみたいだけどね」

 

 砂煙が晴れ、両肩に身を覆うような盾を装備した鎧に身を包まれたエルザが姿を表す。防御面を重視した金剛の鎧だ。その重さ故に素早い動きはできないが、その分防御性能は高く生半可な攻撃では傷一つつくことはない。

 

「換装、飛翔の鎧‼︎」

 

 姿を見せた今が好機と見たのか、素早さを上昇させる鎧へと換装する。壁や床、天井を利用し速度で翻弄した動きを見せ、両手に換装した双剣を振るう。

 

「飛翔・音速の爪(ソニッククロウ)‼︎」

 

混沌ノ爪(カオス・クロウ)‼︎」

 

 それに合わせるかのようにカイトの魔法がエルザの双剣とぶつかり、生まれた衝撃波が2人の距離を離す。

 互いに傷は少ないとはいえ、エルザは体力を、カイトは魔力を消耗している。しかし、疲弊を見せないようにカイトは笑みを浮かべエルザを見据える。肩で大きく息をするエルザ。このままいけばギリギリ勝てるだろう、そう目安をつけたカイトは攻撃を開始しようとしてその瞳に気がつく。

 

 疲弊しているにも関わらず、死ぬことのない真っ直ぐな瞳。退くことを知らない負けず嫌いともいえる瞳。

 カイトの好きな人間の表情だ。

 

「ねぇ、エルザ。まだやるの?」

 

「貴様が邪魔をするなら、いくらでもやるつもりだ」

 

 わかってはいたが、こうも即答されると面白くない。つい、人間風情が、と思ってしまうがその思考を追い払うように頭を振り、再度警告する。

 

「別に君がやらなくてもいいでしょ?後始末はエーテリオン、それでみんな生きて帰れるなら万々歳。ジェラールとか言うやつにこだわる必要はないはずだよ?」

 

「ダメだ。ジェラールと私は決着をつけなければならない」

 

「………はぁ、意固地だなぁ」

 

「貴様こそ、なぜ私の邪魔をする。こういった時、折れるのは貴様のはずだろう」

 

「カッカッカ♪ そりゃどうでもいいことならね♪………けど、流石に覚悟もなにも決まってない仲間を死地に追いやるほど、薄情でもないよ」

 

「覚悟、だと?何をいう‼︎ 私はとうに覚悟などーーー」

 

「ああ、決まってるだろうさ。けどエルザ、今の君を上にやってもジェラールに利用されるだけだ」

 

 心外だ、と激怒するエルザに動じず、カイトは冷静に言葉を下す。

 

「君の決めてる覚悟はジェラールを救おうとする覚悟だけだ。そこに自分の安否なんて入っちゃいない。そんなことされるくらいなら、俺は君を止めるよ」

 

「それのどこが悪い‼︎私はジェラールを野放しにした責任を取らなければいけないんだ‼︎」

 

「傲慢だね、エルザ。別にジェラールも血乳飲み子ってわけじゃないんでしょ?責任くらいそいつ自身にとらせなよ」

 

「っ‼︎なぜ、わかってくれないんだ‼︎」

 

「俺たちが君を心配してることをわかってくれないからだよ」

 

 指を鳴らせば通路いっぱいに広がる影の数々。拳を握り、武器を握り、狙いをエルザへ向けて放たれる。

 

「タイムリミットだ。エーテリオンまで残り10分。死に体になってでも引きずって帰るからね」

 

 迫りくる魔法の数々。エルザは本気で相手せねばならないと苦悶の声を上げながら鎧を換装する。

 瞬間、通路全体を破壊するような爆風。実際に床が抉れ、壁の一部が崩壊し、危険を感じたカイトが後退した。

 

 現れたエルザが見に纏うは黒く禍々しい鎧。この姿を見て立っていた者はいないと言わしめる最強の鎧。

 

「煉獄の鎧、初めて見るよ。まさか剣の一振りでここまでなるとはね」

 

 エルザの持つ大剣の一振りでカイトの魔法は消滅し、強制的に開かれた距離は十数メートル。床も壁もここまで破壊されれば修復は不可能だろう。おかげで仕込んでいた罠がいくつか潰れたと内心ため息を吐く。

 

「貴様を倒して、私は進む」

 

 それははっきりとした敵対の表明。砕かれた足元をさらに踏み砕き、跳躍して大剣を振り下ろそうと構える。

 脳裏に浮かぶのはこれまでカイトと過ごした日々。うざい、と思う時もあったが、カイトはずっと仲間のために動いていた。信用できないが、信頼はできる仲間。

 

 思えば、ギルドに入って最初に声をかけてきたのはカイトだった。今よりもずっと下手くそな笑みでこちらを笑わせようとしていた姿。すぐさまグレイが引きずり離したのと鮮明に覚えている。

 

 そんな仲間を倒そうとしていることに良心が叫ぶ。それをかき消すくらいの大声をあげながらエルザは大剣を振り下ろした。

 

「だからいったでしょ。閉幕の時間だって」

 

 刹那、床を打ち抜く勢いで身の丈を超える巨大な拳がエルザを打ち上げる。そのまま天井をいくつか貫き、そうして下からの圧力がなくなると今度は上から同じ圧力が加わる。今度は下に急降下、そしてカイトのいるフロアまでたどり着くと圧力は消え、床に叩きつけられる。最強の鎧は破壊され、叩きつけられた衝撃で口から血を吐く。

 

偽・魔王ノ御手(デーモン・ハンド)。俺もここまでしたくはなかったよ」

 

 少し先で床に投げ出されたエルザを見て、そう呟くカイト。この魔法はあくまで保険。それまでに決着をつけようとしていたのだ。さすがにフェアリーテイル最強の女を相手取るには難しいか、と自嘲しながらエルザに近づく。

 

「聞こえてるかわからないけど、エルザ。俺はこれでも本当に心配してるんだ。人の親切は素直に受け取るものだよ」

 

 足元に転がるエルザに手をかけようとして、一閃。カイトの頬に一筋の血が流れる。反射的に後退すると、息も絶え絶えの様子でエルザは換装した刀を杖代わりにしてまで立ち上がる。そうしてしっかりと二本足で立つと刀の鋒をカイトに向けた。

 

「言った、はずだ………。私は……進む……」

 

「まだ、やる気か……」

 

 混沌ノ鎧を両腕に纏い、体勢を整える。頬を流れる血が一向に止まらず、エルザの持つ刀が只者ではないと当たりをつける。しかし、反面、サラシを巻いたその姿からはなにも魔力を感じない。刀の換装に魔力を使いすぎたのだろう。

 

 確かに、刀は厄介だが、それを持つエルザはすでに満身創痍。すれ違いざまに攻撃すれば倒れるだろう。遠距離が確実だが、散らした影を回収するのに手間取っている上、これ以上の魔法の酷使は封印の方に影響を及ぼす。

 

 そうして2人が互いを睨み、そして息を合わせたように交差する。

 

 刀が煌めき、爪が薙ぎ、着地した2人のしばしの静寂。

 

「くっ‼︎」

 

 ぶしゅっ、と音を立ててエルザの右肩から血が吹き出し、苦痛に顔をしかめる。

 それを視界の端で確認したカイトは魔法を解き、心底仕方がないといった調子で言葉を紡いだ。

 

「………はぁ。ちゃんと帰ってきなよ」

 

 その言葉を最後に、逆袈裟に斬られたカイトの傷が開き、大量の血潮を床にぶちまける。

 どさり、と大の字になって倒れるカイト。

 

「………わかっている」

 

 それを視界の端で確認したエルザは砕かれた天井を足がかりに上の階へと登っていく。

 

「カッカッカ………嘘つきめ」

 

 戻って来る気のないエルザに悪態を吐き、出血から来る脱力感に身を任せるのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 鼻につく匂いに釣られて、沈んだ意識が覚醒する。

 目を開けば辺り一帯水晶のような鉱物に覆われた空間。その水晶ひとつひとつから香る濃厚な魔力に、反射的にかぶりつき、いくつかの水晶を咀嚼する。

 ごりごりと、咀嚼する内に理性を取り戻し、口内に残っていたモノを飲み込んで辺りを見渡す。

 

 気絶する前とは全く違う空間。寝ている間に移動した、という線を除けば楽園の塔が様変わりしたということだろう。

 魔力の篭った水晶を再び咀嚼しながら、なるほどと理解する。いくつもの魔力が込められたコレの正体はエーテリオンなのだろうと。

 

 衛星上からの超破壊魔法をひとつの場所に留めて置けるか、と問われれば不可能だと言える。しかし、自然界でここまで濃密な魔力は発生せず、尚且ついくつもの魔力が込められているものの方があり得ない。現に目の前に存在する限り、前者の考えを否定する他あるまい。

 

(まぁ、そんなに長くはないだろうけどねぇ)

 

 エーテリオンをひとつの場所に留めたのは確かだろう。しかし、それを維持できるかと言われれば話は別だ。この塔はガラスの瓶、エーテリオンは爆竹と考えればいいだろうか。ガラス瓶に入った爆竹は器を壊し、そして被害を外に向ける。これほどの魔力が暴発すれば少なくともアカネビーチは無事ではすむまい。この場にいる者など影も形も残らないだろう。

 

「できれば脱出したいところだねぇ。………ん?」

 

 ふといつもよりも身体が楽になっていることに気がつき、側頭部を触る。手に返ってくるのは硬質な感触。濃密な魔力を摂取したことにより身体が活性化したようだ。

 傷を見れば傷跡が残るくらいで、既に出血は止まっている。吸血鬼の身体に傷を残す時点で異例であり、それだけエルザの刀の威力が思い知らされる。銀製や祝福されたものでなかったことが幸いである。

 

 しかし、本来の姿ならば僥倖。影を広げて下のフロアを飲み込み、生き残りがいないか確認する。微かに息をしている2名を確保、しかしどちらも見知らぬ人だ。それ以外に反応はなく、まぁいいかとそのまま影の中へと収納。どうやら上に登ったエルザ、ジェラール、そしてなぜかナツの3人を除き他は逃げたか死んだのだろう。グレイとジュビアはともかくルーシィは死んでそうだ、とぼやきながら周囲の水晶を喰らう。

 

 混じり気のない純粋な魔力は悪魔にとってご馳走だ。一番は人の血であるが、これもなかなかと喰らい、注意を上のフロアへと向ける。

 この不安定な魔力の中、上の2人を避難させるにはどうすればいいか考えて、不可能だと諦めをつける。エルザは言わずもがな、ナツも相当の頑固者だ。実力行使しようにもさすがにこの姿で人前に出ることは出来ず、また封印した状態で2人を引きずって帰れるかと言われればNoである。

 

 バゴン、一際大きな破壊音と衝撃が塔全体を揺るがしたかと思うと、続くように音を立てて周囲が崩れ、固体のはずの水晶が流動体になったかのように唸り出す。

 タイムリミットだ。この場はすぐさま崩壊する。

 

「2人とも無事だといいんだけどねぇ」

 

 さすがにこれほどの魔力が爆発すればカイト自身も無事ではすまない。どころか、崩壊の余波は周囲一帯を飲み込むだろう。しかし、それを抑える術を持たないカイトは既に諦めムード。どうにかしてやろう、という気持ちは湧き上がらず、最初からそのような感情を持ち合わせたいない身は散り際くらい人の姿でいたいと、本来の姿を封じる。

 

 そうして、爆発。

 上も下もわからなくなるような衝撃がカイトを襲い、空中に投げ出される。ふわり、と感じる浮遊感。そしてすぐに重力に引かれて下へと落ちる。

 

(ヒトはこういう時、走馬灯を見るのだろうか)

 

 びゅうびゅうと風が身体を叩き、にべにもなくそんなことを考える。いくら頭を捻ってもそのようなモノは見えず、やはりヒトは不思議なものだと諦めをつける。

 

 そして地面にぶつけられる衝撃。四肢が弾け、内臓が内からまろび出る。しかし、悪魔であるカイトがこのくらいで死ぬはずもなく、体内に存在する魔力が瞬時に再生させる。

 1箇所ならばまだしも、ほぼほぼ蘇生に近い再生はかなりの魔力を喰らい、急激な魔力の消費に目眩がする。次いで死ななかった事に対する落胆。思っていたよりも爆発の威力が少なく、こうして無様にも生き残ってしまった。

 

「うおっ⁉︎ カイト、生きてたか‼︎」

 

 唐突に声がして、ゆっくりと身体を起こせばグレイ。その少し向こうではエルザに抱きつくルーシィにハッピー、その奥で照れ臭そうにするナツ。どうやら生き残っていたようだ。

 安堵のため息を溢し、グレイの手を借りて起き上がる。

 

 なぜ生き延びたのか、どうやって脱出したのか、ジェラールはどうなったのか、など聞きたいことは山ほどあるが、ひとまずは全員生還の喜びを分かち合うのであった。

 

 

 

 


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