FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
「ぃったたたたたたたた‼︎」
楽園の塔崩壊から3日。エーテリオンを含んだ
毒を食べたようなもんだから仕方がない、とは念のためと回復を行ったカイトの言である。寝込むだけで済むのは異常だけど、とも付け加えてはいるが。
同じようにジェラールと対決し、一度は粒子レベルまで分解されたエルザは身体中に傷を負ったが、カイトの治療も受けずに普通に歩けている。ナツはナツで異常だけど、エルザはそれ以上だよね。と思わず口に出したカイトへの制裁が今現在。右腕を4の字固めされ、悶えるカイト。インパクトのある一撃より継続的なこちらの方が折檻に向いているとの判断だ。
そういえばと、楽園の塔で邪魔されたことを思い出し、技の精度がさらに上がる。
「え、エルザ!待って!腕はそっちにまがらなぃいいいい‼︎」
「このっ!お前は邪魔ばかりっ!」
「まぁまぁ、エルザ。カイトも心配してたからやってのことだろうし」
事の端末を聞いたルーシィが何度か止めに入るが、どこ吹く風。敵などに鎧を破壊されたならばいざしらず、仲間内で破壊されたのだ。恨みは相当に深い。
あれでホントに怪我人かよ、とはグレイの言である。
そんなこともありつつ、少ししたのちナツも復活。亡くなったシモンを抜いたウォーリー、ミリアーナ、ショウの3人をフェアリーテイルに呼ぶことをエルザは希望。本人たちも満更ではない様子で、少し早い歓迎会が開かれた。
病み上がりのナツは今まで食い損ねた分を補うように喰らい、グレイが酔った勢いでショウに絡んだり、ハッピーとミリアーナが仲良くなったり、野菜を拒むウォーリーの口にサラダをねじ込むカイトがいたりと、日も高いうちからどんちゃん騒ぎ。
それをエルザは嬉しそうに眺めていた。
◇◆◇◆
ポン、と鼓の音が響けば、暗闇の中で目を覚ます。
一体何が?と現状を把握する間もなく胸部に熱と衝撃が走る。釣られて見れば剣先が胸から生えていた。確認することで現場が把握され、口の端から血が流れる。続け様に生えた剣先が下に振り下ろされ、振り切った先から臓物がまろび出る。
一眼でわかる致命傷。せめて下手人を一目見ようと身体を崩しながらも振り向き、そして鼓の音。
ポン、と音が響けば先ほどと同じような暗闇の中。呆気に取られ、次いで傷跡を確認するが、何もない。しかし、走った痛みは本物だ。
死んだことを思い出して、胃から液がせり上がる。手で口を押さえて堪えようとすれば手先がずるりとずれ落ちる。
「は?」
落ちた手先に釣られて首を下に向ければ、頭がずれた。そのまま落下しながら、また鼓の音がする。
ポン。ポン。ポン。
鼓の音がするたび暗闇の中で目を覚まし、そして殺される。
ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。
逃げ出そうと脚を出せば脚が落ち、剣を握ろうとすれば腕が宙を舞う。
ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。
腕が飛んだ。首が落ちた。胴が泣き別れした。幹竹割りにされた。
ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。ポン。
ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン。
鼓の音が鳴って幾度目か、ようやく剣を握ることに成功する。度重なる死で磨耗した精神は身体に現れ、血走った両の眼で周囲を警戒。そうして暗闇の中で動く影を見た。
発見、そして音もなく接敵。そして剣を突き刺し、これでは足りぬとばかりに剣先に体重を乗せて振り下ろす。
やってやった、と笑みを浮かべ、殺した相手を見遣る。
ーーー自分がいた。
天辺で結んだ桃色の髪、血で汚れて見えづらいが髑髏の描かれた着物、臓物に濡れた高下駄、突然のことで呆気に取られた表情で事切れた顔、どれもこれも自分のものだ。
「ぁ、ぁぁ……」
自分を殺した。
比喩的な表現ではなく、現実としてそれを行えばどうなるか。少なくともほとんどの人間は混乱するだろう。
髪を掻きむしり、叫び声を上げて逃げるようにその場を後にする。三歩目を踏んだ瞬間、胴が飛ぶ。宙を舞いながら下手人を見れば、それも間違いなく自分。吐き気と共に空中で血を吹き出し、そしてまたポン、と鼓の音が鳴る。
◇◆◇◆
「おい‼︎斑鳩‼︎」
自分の名を呼ぶ声がして、斑鳩は目を覚ます。目に映ったのは満点の星空と、それを遮るように鬱蒼と生える木々。同じギルドのヴィダルサス・タカとフクロウ。一瞬のことで頭が困惑し、そして現場が理解できた瞬間に脳裏に浮かぶ殺された出来事。
声にならない叫び声を上げて2人から離れる。そして木を背にしてうずくまる。
「ひぃっ、ひぃっ!」
「おい、どうしたんだよ⁉︎」
「ホーウ。お主が取り乱すとは、ただ事ではない。悪にしてやられたか?」
仲間の心配する声が聞こえる。しかし、ふと顔を上げればまたあの地獄の中にいるような、そんな不安が斑鳩の心を蝕み、拒絶する。
どうすればいいのかわからず、2人が頭を悩ませていれば、そんな空気もお構いなしにとばかりにカラカラと声を上げながらカイトが近づいた。
「おやおや、カッカッカ♪ どうやら幻術が強すぎたみたいだねぇ」
「っ!てめぇ‼︎」
「貴様、悪人の1人、道化か?」
「そういう君は
パチパチと手を鳴らすカイトに、2人の神経は逆撫でされる。会話の中で斑鳩がこのような状態になったのはわかった。しかし、楽園の塔でヴィダルサス・タカはルーシィとジュビアに、フクロウはグレイにやられており装備が手元にない。手が出せない状態だ。
ヒュゥーと、音がした方思えば突如として夜空に煌々と花火が上がる。続くように氷でできた花火に光輝く花火。
フェアリーテイルの加入を辞退したショウたちを見送る花火だ。今頃現場では別れを惜しんでいるころだろう。なぜ来なかったのだと後ほど怒られそうだ、とぼやきながら相手を見る。
「さてさて、君たち3人を助けたのは俺さ。恩義を感じてくれたら嬉しいんだけど?」
「感じるワケねーだろ!頭沸いてンのか⁉︎」
「悪の助力を認めるなど、
「カッカッカ♪ あー、やっぱりかぁ。なーんでこうなるんだろ?」
無論、仲間の1人を廃人の一歩手前にまで追い込んだせいである。だが、カイトはそれに気がつかない。気がつけない。
人との価値観の違う悪魔に人の感情を知れ、というのが土台無理な話ではあるのだが。
まぁ、いいか、と気持ちを切り替え、拳を振り上げ迫るフクロウの攻撃をかわすと足元から伸び出た影がフクロウを拘束。それに抗うフクロウだが、抵抗虚しく後ろ手で拘束されて膝を折る。頭には拷問具である頭蓋骨粉砕器の形をした影が。
「ホ、ホゥ……!」
「フクロウ!」
「おっと、動かない方が身のためだよ?」
刹那、タカの首筋に当てられる二振りの影の刃。途中で交差したそれは薄くタカの首の皮を切り、たらりと細い血を流していた。今まで暗殺を生業としてきたからわかる、少しでも動けば殺されるという感覚。冷や汗ひとつ、生唾ひとつさえ飲み込めない状況。
仲間の姿に悲鳴ひとつあげて蹲る斑鳩。それさえも嗤いながら、ゆっくりとした歩調で近づくカイト。
「さてさて、チェックメイトだよ。合図一つでチェックは決まるけど、そんな君にひとつ問いたい」
蹲る斑鳩の顔を覗き込み、実に最初と変わらぬ笑みを浮かべて問いかける。恐怖に震えていても、答えなければ我が身の安全はないと悟り、一言一言を聞き逃すまいと全神経を耳に集中させる。
「
「は………?」
それは斑鳩からすれば訳の分からない質問。御伽噺でも語られる、誰でも知ってる実在する場所。
年中深い霧が立ち込み、調査しようと王都から人を派遣しても誰も帰ってこなかった魔の谷。いつしかあそこは魔界に繋がっている、悪い子にしていると霧の谷に連れて行かれるぞ、とまことしやかに囁かれる曰付きの場所。
現在は立入禁止区域とされてはいるが好き好んで行くような輩はそうはおらず、だいたいが自殺志望者。行こうと思えばいつだって行ける場所だ。だからこそ質問の意図がわからず斑鳩は間抜けな声をあげる。
「い、いかはればええやろ」
「残念なことに、俺はあの場所を見つけられないんだ。それに言うでしょ、旅は道連れだと。ああ、断っても殺しはしないから安心してね」
殺しは、ね。と含みのある言葉を付け加え、恐怖に震えた斑鳩が首を激しく縦に振る。
満足したようにニコリと笑うと指を鳴らし、タカとフクロウの拘束を解除。それでも尚向かってくるようであれば対処していたが、残念なことに向かってくる様子はない。久方ぶりに
まぁ、案内人ができただけマシだろうと区切りをつけて一先ず3人に必要なものを買いに行かせる。出発は明日の朝だ。
駆けるようにして去る3人の後ろ姿を眺めて、胸元から依頼書を取り出す。何年も前に受注した、擦り切れた依頼書。
(エルザもルーシィも、聞いた話じゃグレイも自分の過去にケリをつけたんだよね)
ならば、次は自分の番だろう。
別に順番などないが、斑鳩が思い出させたのだ。ならば動くしかあるまい。いつまでも見て見ぬ振りはできないのだから。
「おーい、カイトー。どこいったー?」
「また迷子になったのー?」
木々の向こうから自身を呼ぶ声に気がついて依頼書を懐にしまう。
ナツとハッピーが捜索に来たようだ。
いつものように笑顔の仮面を貼り付けて、ここにいるよ、と返事を返す。
何事もなかったかのように。
何事も起きなかったように。
合流後、案の定エルザから制裁を喰らい、いつものように平謝りを繰り返し、そうして翌日の朝、用事があると他のメンバーと別行動。斑鳩たちと合流し、目的の場所を目指すのであった。