FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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オリジナル編
霧の谷


 

 

 

 ざわざわ、と木々が騒ぐ。

 

 まるで歓喜するかのように。

 

 バタバタ、と複数の人が走る。

 

 まるで逃げるかのように。

 

 ピチャピチャ、と水音が聞こえる。

 

 まるで逃げ惑う人を追いかけるように。

 

「ぎゃあ!」

 

 深い霧の中、誰かの断末魔が聞こえ、そして何かを啜る音が聞こえる。

 

 周囲の人々はそれに恐怖を煽られて、逃げる足をさらに早める。

 我先に、我先にと進んで、そして背後から迫る影に捕まった。

 

「いやや……」

 

 着物を崩し、裸足が傷つくことも省みず斑鳩は走る。

 アカネビーチからここまでカイトを案内した斑鳩。その入口で待ち受けていたのは髑髏会のメンバーたち。ひっそりと連絡していたタカが集めていたのだ。

 斑鳩は反対したが、他のメンバーの勢いに負けてなすがままに逃げるカイトを追っていた。暫くすれば誰かの断末魔。それに怯えて逃げ出したのが功を奏したのか、次々と襲われるメンバーたち。

 

 仲間意識など持ち合わせていない、見捨てることに後悔はない。

 息を乱し、髪を乱し、なりふり構わず走っても未だ見えない出口。絶望を覚えながらも走り続けていれば、誰かの呼ぶ声。

 

「ホウ、こっちだ」

 

 ふと、声を頼りにそちらへ進路を変えれば見えてきたのはフクロウの姿。同じように逃げてきたのかタカの姿もそこにあった。

 

「フクロウ!それに斑鳩!無事だったか!」

 

「はぁ……はぁ………なんとか、やけどね。捨て駒がぎょうさんおって助かったわ」

 

「俺も似たようなもんだ。………フクロウ、この霧の中でも見通せるか?」

 

 フクロウの名に恥じることなく、その目は闇もを見通す。それを頼りにタカは声をかけるが、しかしフクロウからの返答はなかった。

 

「ホウ、こっちだ」

 

「………おい、フクロウ?」

 

「ホウ、こっちだ」

 

「………どうしたんどすか?」

 

「ホウ、こっち、こっち、こここここここここここここここここここここここここここここここここ」

 

 明らかな異常。壊れたようにその言葉だけしか繰り返さないフクロウに恐怖を覚え、そして同時に罠に嵌ったのだと悟った。

 舌打ちひとつ残して走り出そうとすればフクロウがタカを地面に押し倒す。

 

「ぐっ!てめっ!」

 

「こ、ここここここここここここここっちこっちこっち」

 

「ひぃっ!」

 

 タカを見捨て、一目散に逃げようとする斑鳩。しかし、木々を突き破る音と共にその肩が掴まれた。

 

「捕まえた♡」

 

 耳横で囁かれる声に戦慄し、あまりの恐怖に意識を手放す。最後に見えたのは羽を広げる悪魔の姿であった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「う〜ん」

 

 フェアリーテイルのギルドにて。

 アカネビーチから帰ってきたルーシィは新しくなったギルドのカウンターで頭を悩ませる。

 

「あら、どうしたの?」

 

「ミラさん」

 

 見かねたミラジェーンがお皿を拭きながらそう尋ねてきた。

 

「いや、最近カイトの姿見えないなぁって」

 

「あら、ルーシィはナツに気があるんじゃなかったの?」

 

「ないです‼︎なんであんなやつと!」

 

 悩みをぶつけてみれば返ってきたのはとんでもない発言。ちらりと後ろを見ればいつものようにグレイと喧嘩するナツの姿。周囲も止めようとせずに煽るばかり。

 先日発売された週刊ソーサラで悪名が広がったというのに、呑気なものである。名誉回復する余地はなさそうだ。

 

「はぁ……でも、不思議なんですよね。いつも勝手にふら〜ってどっかいっちゃうし、何してるのかなぁって。昔からああなんですか?」

 

「そうね。昔からあんな感じよ、あの人は」

 

「うぇぇ……やっぱりカイトが道化ってイメージは結びつかないなぁ」

 

 ギルド加入前から尊敬の念を送っていた人があんなチャランポランだったとは、と思い返してへこむルーシィ。

 あの義憤に燃え、弱き人々を憂い、悪を許さない高潔な道化と人を煽り、いつもどこか軽薄に笑い、エルザにボコボコにされているカイト。どう頑張っても同一人物だとは思えない。

 ちなみに、道化のことをフェアリーテイルのメンバーに告げればそれはないだろう、と満場一致の返答がきた。どうせ道すがら厄介ごとに巻き込まれたのだと、真実を突きつけらた過去がルーシィにはあった。

 

「ねぇねぇ、ルーシィ。カイトが人気ってホントなの?」

 

「カイトがっていうより、道化がって感じだけどね。てか、ナツもそうだけど、アンタたちよく知らないわね」

 

 カウンターに座ってナツたちの喧嘩を眺めながら魚を頬張るハッピーにそう返せば、いつも通り「あい!」という返事が返ってきた。

 ギルド自体、周りからなんと言われようが知るか、という風潮があるためルーシィもそこまでは言わないが、少しは名誉回復の機会を自ら作って欲しいものだと心の底から思う。

 

「でも、信じられないなぁ。カイトが人気なんて」

 

「まぁ、本当の事(ギルドでの姿)知っちゃったらね」

 

「あら、私は面白いから好きよ」

 

「ミラさんの感覚がよくわからない……」

 

 その言葉でさえ、いつもと同じ微笑みを持ってすればどこまで本気なのやら。考えることに疲れたルーシィがだらっとカウンターでうつ伏せで倒れる。

 

「オイラもカイトのこと好きだよ。サカナくれるし」

 

「あんたのそれは餌付けでしょ」

 

「そーゆールーシィはカイトのこと嫌いなの?」

 

「うーん………嫌い、じゃないんだけど………なんていうか、胡散臭い?」

 

「あー」

 

 こればかりはハッピーもフォローはできない。あのいつものようにカラカラと笑う表情は確かに胡散臭い。本人は上手く笑えているつもりだから厄介だ。

 

「あれでも昔よりはマシになった方なのよ」

 

「昔はあれ以上に酷かったんですか?」

 

「酷い、というよりはぎこちなかったわね」

 

 ふと、ミラジェーンは昔のことを思い出す。カイトと初めて出会ったときのことを。彼女たち兄弟姉妹に関わってきたことを。

 思えばあの頃からいろいろと変わってしまった。自身はもちろん、ギルドも何もかも。変化は楽しい反面、後悔も少なからずある。そうして思い出していくうちに、一枚の依頼書のことを思い出す。珍しくマカロフに頼み込んで受注した、調査依頼書。それを思い出してミラジェーンの中に不安が溢れた。

 

「そういえば、別れるときカイトなんか変だったよね」

 

「そう?いつもと同じじゃなかった?」

 

「なんか、覚悟を決めてたっていうか」

 

「どうせ、エルザに怒られる覚悟でしょ」

 

 現に別れる際、当然の如くエルザからのお叱りは受けている。本人曰く必要な制裁らしいが、さすがにチョークスリーパーはやりすぎだろうと少し同情する。

 

「でも、カイト笑ってなかったよ?」

 

「首しめられた後はさすがに笑えないんでしょ」

 

「ハッピー、それ本当?」

 

 嫌な予感。

 言葉にしてしまえばその程度だが、ミラジェーンはその予感に従って問い詰める。カイトがいつも手にしている依頼書の件が頭から離れない。

 

「あい。珍しかったからオイラ覚えてるよ!」

 

 決まりである。

 いつも笑ってばかりいるカイトだが、その件の時ばかりは笑顔がなりを潜める。貼り付けている笑顔の仮面を取り繕う余裕がなくなるのだ。

 

「マスター!」

 

 慌てた様子で少し離れた場所で酒を飲むマカロウに相談するミラジェーン。その様子があまりにも鬼気迫っていて、いつものミラさんはどこにいったのだ、と呆気にとられるルーシィ。

 

「………ミラさん、あんな顔するんだ」

 

「あい!珍しいけどね」

 

 そんなに大変なことなのだろうか、と他人事として考えていればふと、喧騒が止んでいることに気がつく。

 振り返ってみれば、男女問わず暴れていたフェアリーテイルのメンバーたちは全員のされており、一人だけその中心で怒りに肩を震わせていた。

 緋色の悪魔と名高いエルザである。足元には破られたお皿に、潰れたケーキ。喧騒に巻き込まれて落としてしまったのだろう。怒りに震えていたかと思いきや、膝から崩れ落ち悲しみを堪えている。本日最後のケーキの恨みは恐ろしい。

 

「エルザぁ!オレはまだ負けてーーーぎゃぴっ‼︎」

 

 立ち上がって特攻をしかけるナツは哀れ床に突き刺さり、今度こそ完全にKO。修羅も真っ青になる表情で、静かに怒りを燃やすエルザははっきり言って怖い。今しばらくは触れない方がいいだろうと判断を下す。

 

「エルザ、ちと話がってなんじゃこりゃあ‼︎⁉︎」

 

「マスター、何かご用ですか?」

 

「う、うむ」

 

 ミラジェーンとの話が終わったのか、エルザへと話しかけるマカロフ。その光景を見て驚愕するが、エルザの有無を言わせない表情に怯え、注意することなく咳払いひとつして要件を伝える。

 

「こほん。実は頼みがあっての。カイトを連れ戻してきて欲しいんじゃ」

 

「カイトを?しかし、あいつの居場所は掴めませんが」

 

「普段はそうなんじゃが、今回ばかりは心当たりがある」

 

「心当たり?」

 

 普段は所在が掴めず、ふらふらとしているカイト。その所在を心当たりとはいえ掴めていることに素直に驚く。

 

「場所は霧の谷(ミストバレー)。そこにあやつがいなければそれで良い。確認だけしてもらえるかの?」

 

「それは構いませんが……」

 

 お使いのような頼み事。確かに、霧の谷といえば自殺の名所。不確定要素の高い任務にS級魔導師(エルザ)を派遣することは間違ってはいない。だが、エルザはマカロフが何かを隠していることを直感していた。

 その懐疑の視線に気がついてか、マカロフは居心地の悪そうに咳払いをし、頼んだぞとだけ告げてギルドの奥へと引っ込んでしまった。

 問いただそうにも掛け合ってはくれそうにない。そう判断したエルザはため息を溢し、グレイとナツに視線をやる。

 

「話は聞いていたな。出発は明朝、今のうちに身支度を整えておけ」

 

「無茶すぎない⁉︎」

 

 ナツとグレイは目を回して話を聞いていたかどうかも怪しい。そんなことは知るかとばかりのエルザの言葉に思わず突っ込んでしまった。

 身支度を整えるたまにエルザは帰宅。残されたルーシィはナツとグレイを介抱した後事情を説明し、自身の準備を急ぐのであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

「ここが霧の谷……」

 

 ギルドを出て汽車や馬車を乗り継いで5日。ようやく目的地についたルーシィは圧巻されるように呟く。

 話に聞いていた通り、深い霧に囲まれた谷はまるでこの世とあの世の境目のようであり、見ているだけで恐怖心が煽られる。切り立った岩肌が恐ろしい怪物の牙のようで、これが自然の産物だというのが信じられない光景だ。

 

「ったく、なんでオレらがお使いなんか」

 

「あいつは放っておいても帰ってくるだろうに」

 

「なんだ?マスターからの使いが不満か?」

 

「「いえ、全然!」」

 

 不満を零すナツとグレイはエルザの鶴の一声で前言撤回。しかし、ルーシィとしてはこの恐怖心に従うまま帰りたい気持ちでいっぱいだ。

 

「ね、ねぇ!この辺りにカイトはいないみたいだし、もう任務は達成したんじゃない?」

 

「あら、ダメよ。依頼じゃなくても、ちゃんとお使いはこなさなくちゃ」

 

「そうだぞ、ルーシィ。ミラの言う通りだ」

 

「はぁ、わかりました………ってミラさん‼︎⁉︎」

 

 ルーシィの言葉にようやく周囲もそれを認識したのか、ミラジェーンを中心に輪を開く。当の本人は呑気なもので、いつものようにニコニコと笑みを浮かべて手を振っていた。

 

「ミラちゃん、なんでここに⁉︎」

 

「私だってカイトが心配だもの。ついてきちゃった♪」

 

「そんな軽いノリで⁉︎」

 

 危険度は少ないとは言え、何が起こるかわからない。そんな中、戦闘能力の低いミラジェーンの同行は正直に言えば足手まとい。そんなことはミラジェーン自身も理解しているが、それだけカイトのことを心配している証である。

 

「はぁ、付いてきたものは仕方がない。ミラ、極力私たちから離れないように」

 

「わかってるわ。それよりナツ、カイトの匂いはする?」

 

「よくわかんねエ」

 

「どういうこと?」

 

「よくわかんねェんだよ。なんつーか、匂いが混ざりすぎ?」

 

 地面に鼻をつけて匂いを嗅ぐナツの感想。犬よりも鋭い嗅覚を持つナツが追えないとなると手段が限られる。

 人海戦術を使おうにも人手が足りず、個別に別れて探そうにも深い霧の中再び合流するのは難しい。取れる手段としては地道に歩き回るしかない。

 

「ったく、肝心な時に役に立たねェな」

 

「ああ⁉︎ンだとォ⁉︎」

 

「事実だろォが‼︎」

 

「はいはい。喧嘩しないで行くわよ」

 

 喧嘩に発展しそうな2人を抑え、一同は進む。

 もし、この光景を見たカイトがいればこういうだろう。

 

 

 幕は開かれた

 

 

 復讐の幕が

 

 

 悲劇の幕が

 

 

 不条理の幕が

 

 

 さあさ、諸人よ。集いて歌え

 

 

 これは人外が送る、人外による、人外のための幕間劇。

 

 

 タイトルをつけるのならば、そう。

 

 

 

 

 

  Vampiro che desidera morte(死を願う吸血鬼)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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