FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
ふと、空を見上げる。
太陽の見えない、まるで牢獄の様な空。
子供の頃は息苦しさを覚えていたソレも、今は懐かしさを覚える。
(懐かしい?………カカ)
悪魔である自身は人の感情はある程度理解できる。だが、理解できるだけだ。本心から同情することもないし、心の底から喜ぶようなこともしない。あったとしてもそれは負の感情のみ。
憎しみ、恨み、怒り、など。到底人の社会に溶け込むには不必要なもの。
だからこそ笑顔の仮面を貼り付けて、その場に合わせた表情に付け替える。ここを出てからはそう生きてきた。
そんな自分にそんな感情があったことに素直に驚きつつ、今更懐かしんだところでと自嘲する。
ああ、今日も今日とて嫌な空だ。あの陽の下をもう一度歩けるのなら、どんなに喜ばしいことか。
そう考えて、またも自嘲。
今日の自分はどうやら相当まいっているらしい。
腹に巻かれた包帯を盗み見る。
一部の隙間なく真っ赤に染まった包帯を見なければよかったと後悔して、重たい腰をあげる。この場に長居しすぎても相手の思う壺。せめてもう少し時間を稼げるようにとふらつく脚を動かしたところで、霧の向こうで蠢く影を見てすぐに止まる。
「カッカッカ、あーもう」
悪態を吐きながら少ない魔力を腕に回す。
複数の影が地面を蹴り、低い草を突き切ってこちらに向かってくる姿を確認する。
数秒後、宙を舞う鮮血が霧の中に消えていく。
◇◆◇◆
10メートル先の視界も確保できないほどの濃霧の中、フェアリーテイルの面々は離れないように気をつけながら先へと進む。
「おーい、カイトー」
「どこー?」
「今ならアレやられることはないぞー」
「いや、出てこようがアレはするぞ」
「そこは嘘でもしないって言っておきましょうよ」
「だからアレってなに⁉︎」
そんなこの場には似つかわしくない愉快な会話をしながら。
深い霧は平衡感覚を惑わし、少しでも逸れたら合流できない恐怖。なにより、陽の光が遮られた環境は心に影響を与え、進むにしても戻るにしても歩みを遅くするはずである。
だというのに彼らはそこが自身のホームグラウンドであるかの如く、迷いなく歩く。先頭をナツとエルザ、真ん中にミラジェーンとハッピー、後方にルーシィとグレイという布陣。さすがは依頼の場数を踏んでいるだけはあり、何が起きてもすぐに対処できるような陣形である。
とはいえ、いくら陣形を整えてもそこは人というべきか、薄暗い雰囲気にルーシィが押され何度か歩みを止めており、進行速度はそこまで早くない。
「ひっ⁉︎」
ばさばさと、茂みから飛び立つ鳥に驚きルーシィが身構える。それを見て笑うのはナツとハッピーだ。
「なんだよ、ルーシィ。びびってンのか?」
「ビビりのルーシィ。略してビリーだね」
「うっさい!アンタたちがガンガン進みすぎなのよ‼︎ひゃっ⁉︎」
今度は風で揺れる木陰の音に驚き、ついにはその場に座り込む。
「もうやだぁ。なんでカイトはこんなとこにいるのよぉ」
「確かにな。こんな辛気臭ェとこ、あいつが好んでくるか?」
「私に聞くな。マスターから可能性が高いと言われたまでだ」
軽く泣きが入るルーシィに賛同するグレイ。
迷い込んだ、と言われたらそこまでだが、あのカイトの行動を予測できるはずがない。何かしら理由があるのかもしれないが、その理由をエルザは知らない。
確認するようにミラジェーンにも視線を向けるが、首を横に振るだけだ。
「はぁ……。しかし、これだけ探したのだ。ここにはいないと判断する他ないだろう」
「それもそうだな。オイ、クソ炎。帰り道はどっちだよ」
「あぁん⁉︎なんでオレが知ってるんだよ⁉︎」
「てめぇの鼻で探せばいいだろうが‼︎」
「ンな事できるかァ‼︎」
「はいはい、ケンカはやめて」
メンチを切り合うナツとグレイの間にミラジェーンが割り込み、なんとか触発することを防ぐ。しかし、別の問題が上がったのは明らかだ。
「な、なな、なななナツ?もしかして、帰り道わかんないの?」
「オレはエルザについてきただけだぞ」
震える声でルーシィがそう問えば、返ってきたのはいっそ清々しいほどの絶望的な返事。
「は、ハッピー!空飛んで探すのよ!」
「オイラ、戻ってこれる自信ないよ」
深い霧の中、例えハッピーが上空から出口を探してもそれを案内できる保証はなく、また合流できる自信もない。
すがるようにエルザとグレイを見れば、頭を横に振る。ミラジェーンも困ったように苦笑いするだけだ。
「ど、どーすんのよ⁉︎あたし達、完全に迷子じゃない‼︎」
そう、ルーシィの言う通り完全に迷子である。
深い霧の中無闇矢鱈に歩き回ろうにも体力の無駄。帰り道を探そうにも方向感覚はとうに狂っている。
水も食料も少なく、ふとルーシィの頭によぎるよは「死」という一文字。
「ど、どど、どうしよう⁉︎どうするの⁉︎どうするべきなの⁉︎⁉︎」
「落ち着け、ルーシィ。こういう時は慌てず、助けが来ることを待てばいい」
「そんな悠長な‼︎」
エルザにまで噛みつくあたり、相当のテンパりようである。エルザもまさか噛みつかれるとは思わず、たじろくばかり。
「ったく、てめぇがちゃんと道覚えてりゃア」
「ああ⁉︎オレのせいだってのか⁉︎」
「2人ともやめてよー」
ケンカをまた再開するナツとグレイを止めようとハッピーが奮闘するが焼け石に水。
その場にいる誰もが不安に押しつぶされそうで、恐怖を忘れようと苛立ち、抑える理性も怒りの中に消える。
そんな状況の中、平静を保っていたのはミラジェーンだった。
「みんな、静かに‼︎」
ミラジェーンの珍しい一言に皆が一瞬にして静まり返り、そして耳に手を当てたミラジェーンが何かを捉える。
「………やっぱり。人の声がするわ」
「え?」
言われて耳を澄ませば、確かに。
微かに霧の向こうから子供の笑い声が聞こえる。人がいることに喜びつつも、しかし疑問が残る。
「こんなところに、子供?」
「ミラ、この辺りに村はあったか?」
「ない、はずよ」
ミラジェーンの言葉に警戒を強める一同。
なにせここは人が寄り付かないはずの霧の谷。村があるとは到底考えられない。人の声を真似して巣穴に誘い込むモンスターもいることから、その類ではないか、といつでも戦闘に入れるように態勢を整える。
そうしているうちにも声はどんどんと近づき、そして霧の向こうに影が見える。影の数は3つ。いずれも小さい。
ごくり、と翼を飲み込み、ルーシィはフィジカルの高いタウロスを召喚できるように構える。
ナツは拳に炎を灯し、グレイは両手を合わせて造形の準備を整え、エルザは剣を換装し、ミラジェーンとハッピーは戦える4人の後ろに隠れる。
そして、目視できる距離まで近づいた瞬間ーーー
「ははは!こっちこっち!」
「ま、待ってよぉ」
「遅いわ遅いわ遅いわ!今日は、今日こそは霧の向こうにーーーあら?」
霧の向こうから現れたのは3人の子供。いずれも十代に差し掛かるかかからないかぐらいの見た目。先頭を走っていた少女がルーシィたちに気がつくと、残る2人の少年も気がついて立ち止まる。
突然のことに驚き言葉を失う少年少女に、警戒を強めていた一同は意表を突かれて言葉を発せない。
しばし互いに睨み合い、そして少女が口を開く。
「えっと………もしかして、霧の向こうからいらしたのかしら?」
◇◆◇◆
渇く
喉が渇く
喉を掻き毟りたくなるような渇きが自身を襲う
ああ、水が欲しい
命の源となる水が
この渇きを潤すものが欲しい
ああ、渇く渇く渇く
自らの腕を引っ掻いて、そこから流れる水を飲むが所詮は一時凌ぎ
この渇きは未だ癒されない
ああ、水を
早く水を
この乾いた喉に癒しをおくれ
◇◆◇◆
少年少女とであったフェアリーテイルの面々。
警戒しつつも話を聞けば、彼らはこの近くにある村から来たそうだ。もしかすればカイトの情報、ないし帰り道がわかるかもしれないと案内をお願いした。
3人のうち1人は大人達に旨を知らせてくると先に戻り、残りの2人が案内してくれることに。
少年の方はこちらを警戒しているのか、少し離れた先を歩き、逆に少女は外から来た人間が珍しいのか、一番話しやすいルーシィに懐いていた。
「まぁ!お姉さんたちは魔導士なのね!」
「そうよ。あたしは星霊魔導士って言って、星霊たちと契約してるのよ」
「すごい、すごいわ!」
きゃっきゃっと喜ぶ少女に警戒心は薄れ、ルーシィは己の魔法を得意げに語る。いい気になったルーシィはそのまま腰のホルダーから鍵をひとつ取り出し、実演してみせた。
「開け、子犬座の星霊!ニコラ!」
「ぷ〜」
現れたのは子犬とは名ばかりの、白い二足歩行するナニカ。鼻はニンジンのように尖っており、耳もないつるつるの頭はどこからどうみても子犬ではない。ぷるぷると震える体は頼りなく戦闘すらできないが、星霊魔導士の間では愛玩用として人気の高い星霊ニコラ。
ルーシィは彼、もしくは彼女にプルーと名をつけ可愛がっていた。
「この子はプルー。れっきとした星霊よ!」
「まあ!可愛らしいわ!こんにちは、おちびさん」
「ぷーん」
「きゃー!抱きしめたいくらいにかわいいわ!お姉さん、どうしましょう⁉︎」
「もちろん、いいわよ」
「きゃー!」
「ぷぷーん⁉︎」
許可を得るや否や、少女はプルーを抱きしめて撫で回す。あまりの激しさにプルーが戸惑っているが、そんなことは少女の知ったことではない。今は己の感情に任せて愛でるだけだ。
「うわぁ、ルーシィが調子に乗ってる」
「転ばねえよう見張ってろよ、ハッピー」
「迷子になるかもしれねえから手ェつないでやれよ」
「何か失くしたりしてないか?」
「足元に気をつけてね」
「そんなに言われるほど⁉︎きゃっ⁉︎」
メンバーのいいようにそう返したと思えば、足を滑らせて思い切り尻餅をつくルーシィ。
「言った通りじゃねぇか」
「うっさい‼︎もう、なんなのよ………」
痛む尻を刺さりながら足元にあったものが目に入る。
ゴミのように見えるが、妙に生々しい感触のソレ。蛇の脱皮した皮のように思えるがそれにしては大きい。興味本位で手に取ろうとした瞬間、前方をあるく少年から声がかかる。
「見えたよ」
言われてそちらを振り向いて、少年が霧の向こうに消える。それを追いかけれた瞬間、今までが嘘だったかのように霧が晴れた。
長い時間歩いていたのだろう、空はすでに茜色に染まり、しばらくすれば夜の帳が降りることが伺える。後ろを見ればすぐそこに霧が壁のように待ち構えているが、まるでこちら側には近づけないように周囲を取り囲んでいるだけ。ここだけが霧の影響を受けないようだ。
「ここが僕たちの村だよ」
「ようこそ、お姉さんたち」
少年少女は村だというが、村というよりは集落の方が近いだろう。
見渡した限りでも家屋は数えても十数個に満たず、転々としているだけで他は畑。家屋も一般的な石やレンガではなく、木材で作られていた。
道の向こうでは住人であろう、幾人かの大人がこちらの様子を伺っていた。すぐそばには伝言を伝えてくると別れた少年の姿。
まさかこんなとこに人が住んでおるとは思わず、また霧の中にこのような環境があるとは思わず唖然としていれば、大人たちの中から1人の老人が先頭に立つ。
「いらっしゃいませ、お客人。ワシはここの長を務めさせていただいております。さて、長旅疲れたでしょう。今宵は宴、あなた方を歓迎いたしましょう」
フェアリーテイルの面々を置いて、村の面々はワッと盛り上がるのであった。