FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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知っている人がいたら嬉しいな

知らない人がいたらこれから知って

誰かに必要とされるのなら、私は指をさして笑われる道化になりましょう




序幕〜楽園の塔編
その男の名は


 

 

 

誰かが言った。

 

ーーー奴は危険だ

 

ーーーあいつは悪魔だ、化け物だ

 

ーーー視線が合えば殺される

 

ーーー対面すれば逃げられない

 

別の誰かが言った。

 

ーーー彼は優しい心の持ち主だ

 

ーーー怪我の手当てをしてくれた

 

ーーー畑仕事を手伝ってくれた

 

ーーー少し変わっているがいい奴だ

 

 

ひとりの男に飛び交う噂。

 

両極端な意見の数々。

 

真偽不確かな憶測と推測。

 

総じて人は彼のことをこう呼ぶ。

 

 

道化

 

 

愉快犯であり、心優しき隣人であり、楽観者であり、どこか抜けたところのある彼を、人はそう呼んだ。

 

「カカッ! なんで酷い字名(あざな)なんだろう。 親しみと侮蔑が込められた、とても俺好みの字名だ」

 

「ああ、この作品をご覧の皆さん、どうもこんにちは。 ご紹介に預かり光栄、噂の道化さ。 さっそくだが、誤解しないでほしい点は2つ。ひとつは俺は噂にあるほど大それた人間でもないし、悪人でもない。この世界のどこにでもいる、ごく普通の魔導士ギルドの、ただのしがない魔導士さ」

 

「ふたつめだけど、なに、難しい話じゃないさ。少しばかりメタな発言をしている俺だが、安心してほしい。こんなものは今回だけさ」

 

「これは作者の力量不足でね、こうでもしないと物語が始められないらしいんだ。 やれやれ、困ったものだよ」

 

「まぁ、今回ばかりの特別篇とでもとらえてくれ。今後はない事を願うしか、俺はできないけどね」

 

「さぁ、長々と話してしまったが、物語を始めよう」

 

「これは悲劇でもあり、喜劇でもある。………なんて陳腐な言葉は並べないさ」

 

「悲劇や喜劇なんて誰もが体験するものだし、特別視することでもない。だからこれは君たちの世界とは違う、少し変わった世界でのお話ってだけさ」

 

「え?俺の名前はなんだって? ………あー、そういえば名乗ってなかったね」

 

「それでは舞台役者の如く、声高々に名乗らせてもらおう。俺の名はーーーー」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「オイ、酒だ!酒持ってこい!」

 

とある村の酒場のひとつ。

個人経営にしては小さくもなく、また大して広くもない空間で数十人の男たちがひしめき合いながら乱暴に酒を食らっていた。

彼らの風貌からは暴力の匂いが漂い、そしてそれは事実でもあった。

 

彼らは近場の山を根城とする山賊の一味である。その山の周囲で商人や旅人を襲い、それを日頃の糧としていた。

山から近いこの村は山賊たちが占領しており、生かされた戦う術を持たない村人たちは山賊たちの横暴に耐えるしかない。

少ない金を集めて討伐依頼を出したものの、山賊の規模も大きくなく、それも街から離れた場所にあるためか三ヶ月経った今でも依頼が受理された様子はない。

 

村唯一の酒場から聞こえる山賊たちの笑い声に、村の人々はため息を零す。

 

「オイ!酒が足んねーぞ!」

 

「は、はぃいい!ただいま!」

 

「ガハハ!そういやこの間の商人、覚えてるか?」

 

「覚えてるとも! ションベン撒き散らしながら逃げ出したあいつだろ!あれは笑えた!」

 

「無理もねーだろ! 俺たちは最強の山賊だからな!」

 

口々に叫ぶ男たち。誰もが力を誇示し、そして血生臭い思い出を肴にし、意気揚々と酒を飲む。

この村の酒は知る人ぞ知る特産物らしく、味も喉越しも最高だ。 山賊が村を占領した理由のひとつである。

 

その様子を満足気に眺める男。 他と比べて一回り大きい彼はこの山賊たちの頭領だ。山賊稼業に手を染めて数年、はじめと比べれば規模は大きくなった。

それに感慨深さはあるが、さらに規模を大きくするべきだと彼は考える。そしていずれはこの地域一帯を占めるほどの勢力を持ち、欲望のままに生活する暮らしを夢見ている。

 

しかし、規模を大きくすればするほど、反乱が起きやすくなるのも事実だ。 風体の割に慎重な彼はどうするべきか考え、そして思考を放棄する。

今は楽しい宴会だ。 難しい事は明日に回そうと思い、酒瓶を煽る。

上手い酒だ。村を占領した甲斐があったというものだ。これで部下たちも今まで以上に働いてくれるなら、尚良いものだ。

 

「カッカッカ! いやぁ、美味しいお酒だねぇ。これで肴も美味しければ最高なんだけど、高望みしすぎかな」

 

楽しく、そして騒がしい空気の中、聞きなれない声が聞こえた。

喧騒の中だと言うのにはっきりと聞こえたその声に全員がそちらを向き、度肝を抜かす。

自分たちの輪の中に、突然知らない人間がいれば驚くものだ。 声の主を中心に輪になるように周囲の人々が飛ばのく。

 

「だ、誰だ、てめぇは!」

 

山賊の1人がそう問いかけるが、当の本人は知らん顔。気にする事なく酒を煽り、つまみに手を伸ばす。

それを咀嚼し終えると、ようやく口を開いた。

 

「ゴクン。…………なに、名乗るほどの者じゃないさ。俺はただ道に迷って、楽しそうな雰囲気に釣られたしがない一般人だよ」

 

「「「嘘つけ!」」」

 

山賊だと知らないとはいえ、ガタイのいい男たちに囲まれて平然としている一般人などいるはずもない。

山賊たちから総ツッコミを受けるのも当たり前だ。

 

「そう言われてもねぇ。………あー、つかぬ事を聞きたいんだけど、ここはなんて名前の村だい?」

 

「は?ーーーってとこだが」

 

「おや、律儀にありがとう。良かった、目的地に到着できたみたいだね」

 

それだけ言うとまた食事を再開する。

山賊たちが襲いかからないのは理解が追い付かないのもあるが、一番はその男から発せられる得体の知れない雰囲気だ。

暴力に身を置くからこそわかる、手を出したらヤバイという本能の警鐘。

しかし、ここで好き勝手されてはメンツが丸つぶれだ。緊張から唾を飲み込む頭領はゆっくりと男に近づいて観察する。

 

自身よりも低いとはいえ、一般的に見れば高身長にはいる背丈。黒髪は襟足をうなじで一括りにし、前髪の左を書き上げ右を垂らすという奇抜ともいえる髪型。年齢は十代後半か二十代前半といった辺りだろう。若くも見えるが、実年齢よりも老けているようにも見える。

黒い双眸は食事に向けられており、こちらを気にもしていない。

 

んん、と喉を鳴らしてみるが無反応。 それでも諦めずに喉を数回ならせばようやくこちらを向いた。

 

「何かな?」

 

「アンタ、ここが目的地だと言ったが、もしかして俺たちの仲間になるのが目的か?」

 

頭領の言葉にしばらく考える男。そして合点がいったかのようにああ!と声を漏らした。

 

「もしかして、俺がこの空気に動じてないからそう思ったのかい? 違う違う。むしろ俺は君たちの敵さ」

 

その言葉に全員が一斉に得物を構えようとする。

だが、身動きが取れないことがわかると驚愕の声を上げる。見れば足元から伸びた黒い縄が男たちを拘束していた。

 

一見細く、力づくでもがけば引きちぎれそうな縄だが、見た目に反していくらもがこうと千切れる様子も、解ける様子も見えない。

 

「なんだこりゃ⁉︎」

 

「魔法⁉︎」

 

「魔導士か⁉︎」

 

「その通り♪」

 

パチパチと手を鳴らしながら笑う男は満足したのか、そこらにあったチラシの裏に何かを書くと、近場にいた男の額に貼り付ける。

見れば「ーーー村を占領した山賊たち」と書かれ、その下にはその魔導士が所属しているギルドの紋章が描かれていた。

 

「そのマーク………! フェアリーテイルか⁉︎」

 

「嘘だろ⁉︎ あの問題児だらけのイカレギルド⁉︎」

 

「街のあちこちを破壊して回るっていう、あの頭おかしいとこか⁉︎」

 

「カッカ‼︎ 否定できないのが辛いよねぇ」

 

それはさておき、と戦々恐々とする山賊たちを他所に、男は床に手を添える。 瞬間、床に魔法陣が展開され、それを覆い隠すように遅れて男の足元から闇が広がった。

 

「な、なんだこりゃ⁉︎」

 

「やべぇ、殺される‼︎」

 

「失礼な。殺しやしないよ。ただの転送魔法だって。………誰も聞いてくれないのね」

 

男の声は山賊たちの悲鳴にかき消され、誰一人として聞いてはいない。

まぁ、いいかと半ば諦め適当な椅子に座る。 次第にずぶずふと、まるで沼に飲み込まれていくかのように山賊たちの身体が沈み始めた。

転送先は男のギルドのある街の牢屋の中だ。そこならばスムーズに事を進めてくれるだろう。 後は村長に話をつけて帰るだけである。

 

「オイ」

 

これからの算段を立てていると、山賊の頭領から呼び止められる。

 

「アンタ、名は?」

 

「言ったでしょ、名乗るほどの者じゃない」

 

「後生だ」

 

縄に縛られているとはいえ、そこは山賊たちを統べる頭領と言うべきか、威厳のようなものがある。

真っ直ぐな目で見つめる事数秒、諦めた男が仕方なしとばかりに名を名乗る。

 

「カイト。カイト・オールベルグ。道化なんて呼ばれてるよ」

 

「そうか………。いずれ脱獄したとき、真っ先に復讐してやる。覚えていろ」

 

ほうら、やっぱりこうなったとため息を零す。 この先自分はどれだけの人間に復讐されるのだろうか。

山賊たちが完全に飲み込まれると闇は瞬時にカイトの足元に消えていく。

静まり返った酒場の中で、ギルドまでどうやって帰るか考える。

 

「………徒歩だね」

 

馬車で移動するよりも景色を見ながら歩く方が好みであるカイトはすぐさまその答えを出す。

カイトのギルドからこの村までの距離は徒歩1週間強といったところ。 本人からすれば苦ではない距離だ。

ちなみに、この依頼自体は三ヶ月前に受理しており、急がなくても大丈夫だろうと言った理由で同じように徒歩で移動している。

 

はっきり言えば依頼の受理から三ヶ月間、カイトは迷っていたのだ。 ドのつくほどの方向音痴である。だが、本人は一切それを認めようとはせず、そしてまた同じように迷うと言う悪循環が出来上がっていた。

 

同じギルドのメンバーは「いい加減、馬車でもなんでも使え。頼むから徒歩での移動は考えるな」と毎度のこと釘を刺されているが、今回は大丈夫だという謎の自信が徒歩を優先させている。

 

その後、村長に報告を終えたカイトだが、案の定道に迷い、ギルドにたどり着いたのはそれからひと月後だったという。

 

 

彼の名はカイト。

 

フェアリーテイルの道化。

 

これは彼を主に置いた、ひとつの物語である。

 

 

 

 

 

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