FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
エルザ・スカーレットという人物から見て、カイトという人物を一言で表すのなら「胡散臭い」というのがピッタリであろう。
初めはギルドに加入してから少しして。まだエルザがギルドに慣れず、周りと壁を作って依頼のないときは隅のテーブルでぽつんと1人で過ごしていた時のことである。
「やぁ、君が噂の新人さんだね♪」
テーブルの木目を数えんばかりに俯くエルザの眼前にひょっこりと、無理やり貼り付けたような笑みを添えて現れたのが初の接触だ。
思わず背中から転び、背中をさするエルザの前に手を差し出して、こちらの困惑も意を返さずに自己紹介を連ねるカイトに怯えたのは、後にも先にもこの時だけだ。
「俺の名前はカイト。君よりも少しばかり先に加入した、まぁ先輩だね♪」
「おい、何やってンだよ⁉︎」
「ああ。こっちはグレイ。君よりも歳は下だけど、実力は………どうだろ?もしかすれば君の方が上かもしれないねぇ♪」
「そこはオレの方が上って言っとけよ⁉︎」
「あいたっ‼︎ やれやれ、グレイ。君は少しは先輩を敬ってくれてもいいんじゃないかな?」
「知るか‼︎ それより、ビビらせてどうすンだよ‼︎」
「なぁに。ファーストコンタクト、というのは大事だろう?これで彼女とは忘れられない思い出ができたさ♪」
「トラウマの間違いだろうが‼︎」
そう言ってカイトをどつくグレイに助けられていたのは、今はもう懐かしい。それからと言うもの、カイトは事あるごとにエルザに絡んだり、後から入って来たナツやミラジェーン達にもファーストコンタクトという名の最悪な印象を植え付けていたのだ。
人となりを知っている今でこそ信頼はしているが、やはりあの第一印象は忘れられず、そして歳を重ねるごとに飄々とした笑みを深めることから信用はしていなかった。
それはカイトも理解しているだろうに、落ち込んだ時や疲れた時には、いつもいつも顔を覗いてくるのだ。あの胡散臭いが、どこか安心する笑みを添えて。
「やぁ、エルザ。元気してる?」
「まったく………お前と言うやつはーーー」
吸血鬼だろうと関係なく、やはり彼はギルドの仲間であるカイトなのだと、改めて思い知らされる。
相も変わらずこちらに内心を悟らせないように笑みを浮かべて、のしかかる巨大な脚を背中で受ける、腹に腕ひとつは易々と入るであろう穴を開けたカイトの姿がそこにあった。
◇◆◇◆
無くなった右腕と半分になった頭部を回復させながら、レプスはその光景に歯噛みをする。
空中で戦っていた筈の2人だが、アトラスの姿と闘うエルザを見た瞬間、カイトは隙を見せた。そこを突いて腹に風穴を開けたのは良いものの、自傷を省みず脇腹をそのまま抉り、時間稼ぎのつもりなのかレプスに少しの攻撃を与えるとカイトは止めを刺さんとされているエルザの元へと一目散に向かったのだ。
吸血鬼の決闘を受けておいて他所に注意を向けられるなど屈辱でしかなく、何よりも人間を優先したことが何よりもレプスの心を苛立たせていた。
「そんなにニンゲンが好きなら、仲良く潰れてなさいな‼︎アトラスッ‼︎」
命令を受けたアトラスは脚にかける力をより一層込めて、2人まとめて踏み潰さんとする。けれど、死に体の吸血鬼のどこにそんな力があるというのか、一向に潰れる様子はない。
ならばと下へと急降下し、カイトを攻撃しようと魔法を放つ。しかし、遠距離の魔法は全て影や障壁に阻まれ効果を得ない。舌打ちひとつこぼして接近戦へと持ち込む。一直線に進む進路を妨害されるが、そんな悪あがきなど意味をなさない。
「さぁ、フィナーレよぉ‼︎」
爪を振り上げ、牙を剥き出しにして吠えるレプス。そしてその爪が射程範囲に届いた瞬間、全身を襲う寒気。吸血鬼たるレプスは知る由もないが、それは恐怖。死にながら生きることに麻痺した本能による最後の警鐘。
羽と身体を無理やり駆使してブレーキをかけるが、遅かった。
驚くほど軽く、まるで張り詰めた糸を切るかのような音が、レプスの耳に聞こえた。次いで感じる左腕と顔の熱。今まで感じてきたものとは違う、身が焦げるような痛み。
「浅かったか」
いつの間に換装したのか、さらしと袴を纏うエルザが持つ銀剣と、ぼとりと目の前に落ちた左腕を見て斬られたのだと理解する。遅れてやってくる、身を滅ぼさんばかりの灼熱の痛みがレプスを襲った。
「ァァアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛‼︎ 」
追撃を振るうエルザだが、痛みに狂乱しながらもそれを躱したレプスは空へと舞い上がり、一向に再生する兆しの見えない顔の傷を抑えながら冷静さを取り戻そうとする。
「くそっ、なんなのよぉ‼︎」
満身創痍だったはずだ。アトラスの直撃を受けて無事で済むはずがない。だからこそ邪魔はないはずだ考えていた。2人纏めて潰せる筈だと思っていた。
だというのに、件のエルザは肩で息をしているとはいえ、動けないほどの疲労は溜まっておらず、傷もまた動きに支障が出るようなものはない。
初め考えたのはエルザ自身による回復魔法。けれど、エルザの魔法は鎧や剣を換装させるもの。別の魔法を使ったとは考え難い。
次に自己治癒を促す鎧、もしくは剣を身につけた。だが、それにしては回復が継続する様子はない。
ならばカイトが回復させたのか?しかし、防衛に手一杯だったカイトにそちらに回す魔力が残っているとは考えられない。
ではなぜ?と考えたところで、アトラスの足からチラリと覗いたカイトが目に入る。その視線に気がついたのかこちらに笑みを見せ、牙を舌で舐めながらニヤリと笑う。
「ど、こ、ま、で、もぉ、苛立たせてくれるわねぇえ‼︎」
エルザが動けた理由はカイトが回復させたのだと確信する。では、その魔力はどこから来たのか?それは吸血による回復。吸った血を魔力へと変換させたのだ。
「
レプスの左腕から流れる血が右手に集まるのを確認すると、カイトは上に乗っかるアトラスの脚を脛から切り落とす。分厚い肉に守られていたはずの脚はまるで豆腐の様に切り裂かれ、バランスを崩したアトラスがその巨大を沈める。巻き上がる砂塵で視界が塞がれるが、そのくらいレプスには関係ない。右手に完成した紅い槍を投擲しようと構えるが、それよりも前に飛んでくるアトラスの脚。鬱陶しいとばかりにそれを一振りで彼方に追いやれば、自身の上に落ちる影。
「
ぱちんと、まるで蚊を叩くかのようにレプスをはたき落とし、カイトはそれを追う。去り際にエルザに目配せすると、その意を汲んだように頷き返す。エルザが銀剣の代わりに手にしているのは黒い二振の刀。カイトが渡した
◇◆◇◆
衝突
衝突
衝突に次ぐ衝突
炎と鮮血が宙を舞い続ける
エルザたちから離れた場所にいるナツとレプスの分身体による空中戦は衝突の連続であった。
近接戦では分が悪いと判断した分身体は霧の中へと逃げ込み、姿が見えない中で魔法を放っていた。掠りでもすれば勝負がつく筈の一戦。だというのに、ナツは迫り来る魔法の数々を自らの炎を纏った拳で防ぎ切っていた。
それも全てというわけではなく、周囲を押しつぶす様な魔法や破壊に難しい魔法は背中のハッピーが理解して的確に躱しているのだ。まるでナツにそのまま羽が生えているかの様な違和感のなさ。吸血鬼が苦手とする連携を駆使した戦いに分身体は困惑していた。
「見つけたァア‼︎」
そして、何より厄介なのは姿が見えない筈の分身体を的確に発見してくることだ。鼻が効いていないはずのナツではあるが、積み上げてきた戦闘による勘を十分に働かせているのだ。飛んできたナツの拳を降下して躱し、森の中を経由してまた姿を隠す。
種族的な差で言うのなら、明らかに吸血鬼である分身体の方に軍配が上がるだろう。その差を埋めているのは経験の差。今まで自身に有利な森に閉じこもり、入って来た人間を襲う吸血鬼と、数々の依頼をこなし、強敵を倒して来たナツ。
強敵を倒すためのプロセスを組み上げ、それを行使する実行力。そして予想外の事態が起きても対処できる判断力。それが2人の差を埋めていた。
「ッ‼︎本当は、使いたくないんだけどぉ‼︎」
このままではまずいと判断した分身体は自らを構成する血液を大地へと流し、周囲の樹木へと吸収させる。そしてそのまま樹木全体の水分を支配。根を操り近場の樹木へと突き刺してそれも支配。そして限界まで支配した血液を一気に手元に集める。当然、水分を抜かれた樹木は全て干上がり、そして砂の様に散っていく。
「なんだ⁉︎」
「ナツ、あれ‼︎」
突如として周囲が砂漠化する様子に追跡に来たナツが驚愕して、背中のハッピーが警鐘を鳴らすがもう遅い。
「
手のひらサイズに圧縮された水分を地面に叩きつけて一気に解放。まるで間欠泉のように噴き上がる真っ赤な水はその質量を余すことなく周囲に叩きつけ、そして内部に秘されてある血の針が瀑布を免れた木々にいくつもの風穴を開ける。
威力もさることながら、少なくない血液を使用するこの魔法。血液で構成された分身体からすれば諸刃の剣。しかし、目の前にいるのは獲物ではなく敵と定めたナツだ。この魔法を使用するに十分値する。
天高く打ち上げられた激流が収まり、隠せない疲労をあらわにする分身体。そして打ち上げられた水が細かい粒子となり紅い霧として周囲に漂う中、拳に炎を纏うナツが突撃をかます姿を見て舌打ちを溢す。
「オォオオオ‼︎火竜の鉄拳‼︎」
確かに分身体の技を食らったのか、その身体は傷つき少なくない血が流れている。背中に張り付いていたはずのハッピーはいない。寸前のところでナツが庇ったのだ。ハッピーは無傷ではあるが、さすがに魔力を使い果たし、草陰でダウンしている。
飛行手段を無くし、体力も残り少ないと言うのに、そんなことはお構いなしに繰り出した攻撃は疲労故に躱すことの出来なかった分身体の頬を捉えた。
「ッ‼︎イッタイわねぇ‼︎」
爪先に血を纏い、お返しとばかりに切りつけるが結果は防御に回した腕を傷つける程度。しかし、それこそが分身体の狙い。確実に相手の傷に自信の血を混ぜることはできた。これで優位性はこちらのものだとほくそ笑んだところでナツの炎を纏う脚が分身体の腹に突き刺さる。
「火竜の鉤爪‼︎」
「ぐっ‼︎」
ダメージに後退しながらも、分身体はナツから視線を外さない。さぁ、ここから反撃だとナツの腕を操ろうとして、その腕が操れないことに気がつく。
驚愕する間も無く、両手を組んで炎を宿すナツが魔法を放つ。
「
全身を痛ぶる炎。至近距離で攻撃を浴びた分身体は空中に放り投げられながら、体勢を立て直しそのまま滞空する。
何故か自身の攻撃が効かず、そして確実に大ダメージを与えてくるナツ。相性が悪い、どころではない。こんなもの最早天敵である。
「なんなのよ、あなたはぁ‼︎‼︎」
「決まってンだろ‼︎オレたちはフェアリーテイルだ‼︎」
跳躍し、拳を振るうナツ。しかし、その程度であれば分身体は躱せる。
(フェアリーテイル………あの半端者が所属していたギルド)
くだらない、と腹の中で一蹴。半端者とはいえ誇りある吸血鬼が
「あなたも不憫ねぇ。あの吸血鬼のなり損ないに振り回されてこんなトコにまで脚を運ぶだなんてぇ。笑っちゃうくらいに哀れだわぁ」
「うるせぇ‼︎」
明確なカイトへの侮辱に、ナツは全身から炎を激らせ怒りを露わにする。
「あいつが吸血鬼だろーが関係ねェ‼︎ あいつはカイトだ、フェアリーテイルの仲間だ‼︎」
ナツは知っている。カイトが人との距離を置いていることを。人との距離を詰めてくる癖にして自ら距離を取っていることを。飄々とした笑みの下で、誰よりも臆病なカイト。その上で誰よりも人の事が好きなカイトを、ナツは嫌いではなかった。
だからこそ許せないのだ。その苦悩も知らず、ただただ表面上の出来事だけ見てそれを嘲笑う分身体の存在が。
「フェアリーテイルは仲間を見捨てねェ‼︎人じゃなかろうと、心が通じ合えば仲間なンだよ‼︎」
「くっだらなぁい‼︎」
自身を構成する血液のほとんどを使って作り出したのは赤い投擲槍。それを大きく振りかぶり、狙いをナツへと定める。
「仲間仲間仲間………あなた達がそう思ってるだけでしょう‼︎」
「だとしても、それで十分なンだよ‼︎」
「話にならないわぁ‼︎」
投擲槍を握る手に力を込め、体勢を整える。放つのは文字通り全身全霊をかけた一撃。そしてナツもそれを察し、魔力を解放する。
「全魔力解放‼︎滅竜魔法奥義、
「此れなるは不滅にして必滅の一撃‼︎」
分身体とはいえ吸血鬼。その身に宿る膂力は人外のそれ。放たれた槍のスピードは音速を超え、回避不可、威力絶大を併せ持つ必殺の技。
迎え撃つナツは溢れる魔力を足裏から噴出。スピードは及ばずとも破壊を司る炎を見に纏い、一直線に飛び立つ姿はさながら竜の如く。
互いの技が空中でぶつかり、嵐のような暴風が木々を揺らす。拮抗する両者の魔法。負けてたまるかと互いに魔力を振り絞る。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎」
「くっ、ァァアアアアアアアアア‼︎」
永遠に続かれるかと思われる拮抗。しかし、それは唐突に終わりを告げた。
「あっ………」
自身の魔法だから、それとも単なる偶然なのか。それに気がついたのは分身体だった。己が魔法に小さなヒビが入り、それが加速的に広がる光景が、嫌にはっきりと分身体の目に映る。
そこからはあっという間に魔法は甲高い音を立てて砕け、一直線に飛んでくるナツ。
「ドラ、ゴン………?」
そんな筈はないというのに、分身体の目に映るのは赤い鱗の竜の姿。こちらを飲み込まんとばかりに口を開け、威風堂々とした姿で飛ぶ火竜。その恐ろしさのあまり身が竦み、
後に残るは身体を貫かれ身体を維持することもできなくなった分身体。そして全気力を使い果たして力なく落下するナツ。
「ナツーー‼︎」
頭から落下するナツを受け止めたのはルーシィだった。横合いから抱きつくように受け止めたルーシィはそのままゴロゴロと転がり、そしてようやく止まったところで下に敷いたナツの無事を確認する。
「もう、無茶ばっかりするんだから」
「でも、助けてくれただろ?」
そう言って笑うナツに釣られてルーシィも笑う。
「………お邪魔だったかしら?」
「あい」
少し離れた場所でそんな事をぼやくグレイを運ぶ少女と回収されたハッピーは2人の間に割って入ることを躊躇うのであった。