FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
推奨BGM:バッド・ダンス・ホール/ぱなまん
轟々と、燃え盛る火があった。
誰かを暖める優しいものではなく、全てを燃やし尽くさんとする貪欲な炎。
己が内で音を立てて燃え盛る炎。
人を呪い、世を呪い、呪詛を吐き続ける炎。
四肢を巡り、我が身を復讐へと駆り立てる怨嗟の炎があった。
炎は我が身を駆り、復讐を成す。
それが正しいのだと、正当なのだと叫び、
燃やして燃やして、稀に種火を与え、さらに炎は燃え上がる。
そうして、ふと対岸に自身より小さな火があることに気がつく。
本質は自身と同じであるというのに、弱々しく、ちろちろと燃えるそれに集う薪達。しかし、火は薪に燃え移ることなく、細々とか細く燃えてばかり。
炎は吠える。なぜそれらを喰わないのかと。火としての矜持はないのかと。
けれど、火は応えずにただただそこに在るばかり。
炎々と燃ゆる炎。
消えぬ復讐、尽きぬ怨嗟、底しれない憤怒。
それらを飲み込んで、炎は更に燃えてゆく。
◇◆◇◆
「ッ………」
カイトに吹き飛ばされたレプスは頭を振りかぶり、意識をはっきりとさせる。今しがた何か頭の中に浮かんだ気がしたが、もはやそれも思い出せない。それよりもここはどこだと辺りを見回すが、鬱蒼とした樹々で阻まれて遠くまで見渡せない。兎にも角にも動かなければと左手を地面につけようとして、そこに在るはずのないものが無いことに気がつく。
「くっ………」
銀で焼かれた腕は再生する予兆さえ見えず、ただ煙をあげてばかり。人間に傷つけられ、無様な姿を晒すことに憤りを覚え苛立ちのまま翼を広げて浮かび上がり、人間に然るべき報いをと飛び上ろうとした瞬間、木々から飛び出した影がレプスを掴み、地面に叩きつける。
「行かせないよ」
離れた位置にある影が盛り上がると、そこからカイトが現れる。吸血鬼としての矜持も誇りもない、血を裏切る半端者。
「裏切り者がぁ‼︎」
烈火の如く燃ゆる怒りのまま飛びかかろうとするが、行手を阻むように頭上の木陰から幾つもの影の武器がレプスを地面に縫い付けた。
ダメージは微小。だが、物理的に縫い付けられたことにより一瞬の硬直が生まれる。その隙を逃さず、四方八方から躍り出る影の魔法の数々。拳や剣、幾多もの刃物でさながら袋叩きのようにされるレプスを見ながら、カイトは沈んだ声を出す。
「君には申し訳ないと、本当に思うよ。吸血鬼として間違った事をしているとも」
本音を言えば、生き残りの同族がいることがわかった瞬間、歓喜を覚えた。自分は1人ではないのだと、安堵した。それを否定するかの如く攻撃を加える事に後ろめたさも、かつて仕えた相手を殺そうとしている事に罪悪感もある。
いっそ、この身が何の感情もない虚であればとこの短い期間に何度思ったことか。
けれど、ここで手を抜けば待っているのはこの場にある悉くを血の海に沈める
一撃目が入った瞬間から魔法を各所に展開し、この場はすでにカイトの掌の上。ひとつひとつのダメージは少なくとも、数さえ積めばそれは無視できないものになる。
「ぐっ………がぁああああ‼︎」
それでも、予想外というものは起きてしまう。攻撃の雨に打たれながらレプスは立ち上がり、戦血を以って周囲の木々ごと魔法を破壊する。幸いカイトのところまで届きはしなかったが、攻撃の手を止めてしまった。
しかし、対するレプスも限界は近い。最早再生に回せる魔力さえ少なく、その身は自身の血に濡れていた。けれど、鋭い眼光はそのままに、怨敵で在るかの如くカイトを睨む。
「人間人間人間人間ッ‼︎ なぜそんなにも人間を庇うの‼︎ 我らを滅ぼした所業を‼︎我らが受けた苦痛を‼︎その全てを忘れたというの‼︎⁉︎」
「忘れちゃいないさ。人間は愚かで、醜いことだって知ってる」
「だったらーーー‼︎」
「そしてそれと同じくらい、素敵なところも、俺は知ってるよ」
フェアリーテイルに加入して様々な依頼をこなしてきたカイト。確かに自身の欲のままに動き、他者を貶め辱め、己というものを主張する生き物は他にはいないだろう。その様な人間を見るたびに心がささくれ立つのを覚えている。
だが、それが人の全てではない。他者を尊重し、地を這う者に手を差し伸べ、友と肩を並べて笑い合う、そんな人間もいたのだ。
「俺は人間が好きだよ。誰かのために怒ってくれる人間が、誰かのために泣いてくれる人間が、誰かのために戦う人間が、誰かのために寄り添ってくれる人間が」
脳裏に浮かぶのはフェアリーテイルの面々。ギルドのために怒るナツ、敵にさえ発破をかけるグレイ、厳しくも優しいエルザ、人一倍仲間思いなルーシィ、魚が大好きなハッピー。そしてーーー
「そして、吸血鬼だと知りながらも手を差し伸べてくれる人間が、俺は大好きなんだよ」
初めはマカロフ、そしてミラジェーンが思い浮かび、胸の奥が熱くなっていくのを実感する。吸血鬼だろうが関係ないと言ってくれたマカロフ。ああ、確かにその通りだったのだと独りごちる。吸血鬼であろうと関係なく手を差し伸べてくれる人間は確かにいるのだ。
両手に混沌ノ鎧を纏い、その爪をレプスに向けて声高らかに宣言する。
「だからこそ、俺は君の前に立ちはだかるよ。俺の大好きな人間を、これ以上傷つけさせないためにも」
「………そうなのねぇ」
カイトの確かな決別の言葉を聞き、どこか寂しそうにそう呟く。そして絶対零度の視線を向け、レプスの右手に流れ出した血液が右手に集結する。
「最早、言葉は不要。この一投、離別として受け取りなさい」
現れたのは禍々しい装飾の槍。それは分身体がナツに向けて放った
それは吸血鬼としての最終手段。血液と共に飲み込んだ魂の解放。全ての生命を呪う悪霊の群れ。
その魔法はレプスの手を離れた刹那、回避することさえ許さない速度でカイトの腹を貫通する。音を置き去りにする速度は衝撃波を生み五体を引き裂き、そして追随する怨霊が生きとし生ける者全てを塵芥へと還す。地も木々も、その直線上の何もかもを飲み込み消して行く。
もはや再生する肉体や魂さえ塵へと還されれば吸血鬼としても終わりである。
凶悪な魔法であるが、その分代償も大きく、レプスは全身の力が抜けていくのを実感する。吸血鬼としての力は既に今までよりも遥かに落ちており、傷の再生すらままならない。けれど、残る人間を始末するには充分だと疲労で震える脚に喝を入れる。穴の空いた羽では飛ぶことは出来ず、仕方なく徒歩でこの森を抜けるしかないと一歩を踏み出す。
「なっ⁉︎」
そんな声が聞こえたかと同時に首筋に感じる灼熱と共に抜け出す自身の力。それでも必死にそちらに視線に向ければそこに殺した筈のカイトがいた。
抵抗しようとするが、ただでさえ力を使い果たした身。それに加えて吸血されることにより腕さえ上がらない状態。それでも頭に浮かんだ疑問は音となり、掠れた声で紡がれる。
「どう、して………」
「
会敵した時から既に魔法は発動されており、本体は囮とは反対側に隠れていたのだ。囮は魔法を操ることが出来ないが、本体が動きに合わせて操れば早々見破れない。この魔法と追撃で既に魔力を使い果たしており、この機を逃せば後はない。
故にその肩に置いた両手に力を込め、在らん限りの力を持ってして吸血を続ける。
「ぐぅっ‼︎」
このまま大人しく吸血されるレプスではない。せめて一矢報いようと自らの生命力を振り絞って血に魔力を送り、カイトの内から殺そうと目論みる。
けれど、首筋に落ちた一滴の水滴がレプスの気を惹き、それを視線で辿る。辿って、しまった。
(なみ、だ?)
視線の先、カイトの両目からは止め処なく涙が溢れていた。吸血鬼にとって涙は恥辱の証。それを惜しげもなく流し出すカイトを見て、レプスの身体から力が抜ける。
(なんて顔して血を吸ってるのよぉ……)
敵である自身に同情をしているのか?初めはそう思ったがそれは違うのだと直感する。
(寂しいのねぇ……)
「………いいわぁ。存分に吸いなさい」
そっとカイトの頭に手を置いて、吸血を促す。それに応える様に自身の身体から急速に力が抜かれていくのを感じる。死ぬことに対して、抵抗はないと言えば嘘になる。
けれど、ここから逆転する手札も最早なし。ここで生き足掻いても無様な姿を晒すだけ。ならばこのまま潔く死にに行こう。
(それに、ねぇ)
この魂がカイトの中で生き続けられるというのなら、少しは寂しさも紛れるではないだろうか。
今際の際に脳裏に浮かぶのは、朽ちた館に独り取り残された日々のこと。側に誰もおらず、誰も助けてはくれない、闇に残された絶望。人が1人で生きてはいけないように、化物も1人では生きていけないのだ。いや、吸血を必要とする分、吸血鬼は誰よりも人に依存している。
そう思えば、吸血鬼とはなんとも脆い生き物なのかと自嘲する。
「おやすみなさぁい、
最後にそう言い残し、添えられた手が力なく落ちる。そしてその身体も魂も全てを飲み干したカイトの両目からは涙が未だに流れ、けれど穏やかな表情で胸を撫で下ろす。
「あぁ。おやすみ、レプスお嬢様」
胸の内にレプスの魂を感じる。けれどそれに意思はなく、ただただそこに在るだけのもの。それが堪らなく悲しく、何かが抜けたかの様な喪失感がカイトを襲い、それを飲み込む様に空を見上げる。
そこには相も変わらず空を遮る、霧の幕が掛かっていたのだった。
「お!カイト!」
ふと、声をかけられてそちらを振り向けば、ナツがそこにいた。肩には気絶したグレイを担いでおり、その後ろからは疲労困憊のルーシィとハッピー。誰もが怪我を負っているが、誰もが無事だ。
それに胸を撫で下ろし、そして声を返そうとして、その後ろから着いて来た人物を見て固まる。
美しい銀髪をたなびかせ、淡麗な顔つきをどこか後ろめたさを秘めた、年端もいかない、在りし日の少女。
「レプス……?」
先程呑み込んだ筈の吸血、幼い頃のレプスがそこにいた。