FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
収穫祭
「暗殺ギルド髑髏会、三羽烏出頭‼︎」
「国王、城下町を視察」
「彼氏にしたい魔導師ランキング発表」
「魔導師ギルド
様々な見出しに彩られた新聞。情報とはかくも貴重なものであり、大なり小なり意味を持っている。それこそ、くだらないと一笑するような話が、実は後々重大な意味を持ったり、小さな町工場の倒産が大企業の株を下げたりと、様々な影響を与える。
大見出しひとつ、小見出しひとつ、付属の4コマひとつ舐める様に眺め、そして次を読もうとページを捲ればひらりと一枚のチラシが床に落ちる。
そう大きく記載された宣伝チラシ。年に一度の、街を上げてのお祭りが開催されるのだとそう宣言する紙を拾い、カイトはにやりと笑う。
街が主催というだけあり、その規模は大きい。そしてそれに乗じて商店街やレストランなども集客を目的とした参加するのだ。当然、フェアリーテイルもギルドとして毎年参加しており、魔導師ならではの見せ物などで稼ぎ、ギルドの維持費に充てている。特に最終日に行われる大パレードファンタンジアは大陸に誇る華やかさを誇り、毎年毎年頭を捻ってどう言う事をするのかと議論をしていたりする。
それはさておき、今年もこの季節がやってきたのだとカイトは高鳴る胸を抑え、ひとり暗闇で声を殺して笑う。
さぁ、喜劇の幕を開こう。
笑い、笑われ、狂うくらいの
喝采の止まないアンコールを
「カカ……カッカッカ………カァッカッカッカッ‼︎」
「うるさい‼︎」
エルザの鉄拳が突き刺さり、カイトの頭が比喩なく地面に突き刺さる。現在は収穫祭の一週間前。霧の谷から帰ってきてまだ1日である。
土木作業着に換装しているエルザは呆れた様にため息を零し、ファンタジアに使われる山車を作るギルドの面々はまたエルザがお怒りだと、その逆鱗に触れない様そそくさと自身に割り振られた作業に戻る。
「まったく、誰のせいで作業が遅れていると……」
「カッカッ………それを言われると弱いよ」
本来であれば終盤に差し掛かる祭りの準備も、現在は手をつけたばかり。それもこれもカイトのせいである。実は今回の準備の実行委員長はカイトだったりする。誰が何をするのか、どういった山車を使うのか、どのスケジュールで回すのか、それらを統括せねばならない立場であるのだ。
だというのに、霧の谷への移動に加え、提案されている物を全て突っ込もうとする暴挙。さらに甘いスケジュールの管理。それらのお陰で準備が遅々として進んでいないのだ。
先ほどの笑いも楽しみ半分、そして空笑い半分といった調子であり、リーダーとはうまくいかないものだと少しばかり反省する。
ひらり、と舞い落ちたチラシを取り、内容を確認するエルザ。何かの間違いで開催日が変更してないかと淡い期待を寄せるが、残念ながらそんなことはなかった。ため息をひとつ更にこぼして、そう言えばとチラシの隅ではあるが注目を集める見出しをカイトに向ける。
「このミス・フェアリーテイルとはなんだ?」
「ああ、それ?パレードの山車に提案者の周りに女の子を侍らすっていうのがあってね。その代替え案だよ♪」
「…………ちなみに、どのくらい同じ案があったんだ?」
「聞きたい?」
「………いや、やめておこう」
頭が痛いとばかりに手で押さえるエルザ。実際、ギルドの三分の一が同じように複数の異性と組みたいというものだったのだから、カイトとしても驚きである。流石に苦笑いしか出ず、しかしこれほどの提案者がいるのならそれもいいのではないかと言うマカロフの提案もあり実行されたこの企画。
参加者は無論、フェアリーテイル所属の女性限定ではあるが、順位は審査員制ではなく観客からのポイント制。観客へのアピールが重要となるのだ。ちなみにポイントであるが、一枚100
ただでさえ問題を起こして金が飛んでいくフェアリーテイル。是が非でも成功してもらいたいものだと内心溢す。
余談ではあるが、この事を知ったチームシャドウギアのジェット、ドロイは既に100枚ずつ購入することを決意しており、同じチームの出場者レビィにポイントを入れることにしているらしい。
流石にそんなことをされれば公平な結果とは言えないので、購入は1人一枚を絶対としようと算段を立てる。
「それにしても、カイト。こう言った物作りはお前の魔法が適役じゃないのか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけどねぇ」
指示を出すばかりで動こうとしないカイトに苦言を漏らすエルザ。確かに、カイトの影魔法を使えば作業は格段に進みだろう。しかし、カイトは試しに足元から影を出すが、現れた影の腕は造形がぐちゃぐちゃで、とても木材を運んだりできそうにない。
「この通り、魔法の調子が良くなくてね。手伝おうにも、といった感じなのさ」
「珍しいな。どうした?」
魔法の調子が悪くなるのは、魔導師にとってはままある事である。主に体調が悪いときがそうだろう。しかし、現在のカイトの不調は違う。それは霧の谷で吸血鬼の血を吸ったことによる反動だ。
吸血鬼の血を吸うことでカイト自身の魔力は跳ね上がったが、同時にその吸血鬼としての力も増大させることとなったのだ。そのため封印に使う魔力の増大に加え、魔力が身体に馴染んでいないのだ。
周りの目もあるので「まぁ、ちょっとね」と言葉を濁し、カイトはファンタジアの山車の順番を割り振る作業に戻る。地味かもしれないが、どうすれば観客の目を惹くのか、楽しめるかなどを考えないといけないため、重要な仕事だったりする。
これ以上は話しても無駄だろうと諦め、エルザは自身の作業に戻る。だがその途中ふと、あることを思い出す。あのメンツは参加しないのだろうか、と。
例年行われるファンタジアであるが、参加しないメンツもいるのだ。最たる例はギルド最強候補に唄われるミストガン。だが、彼は強力な睡眠魔法を振り撒き、その姿はギルドメンバーさえ知らない謎の男。
そしてエルザ自身は彼こそがギルド最強だと認めているギルダーツ。しかし彼はここ数年、とある依頼を受けて帰還していないのが現状。
そして、エルザが一番気がかりに思っているのはマカロフの実孫にして別ベクトルでの問題児。
(ラクサス………)
思い返せばエルザがギルドに加入した頃からラクサスはファンタジアに参加した試しがない。苦手ではあるが、だからと言って参加して欲しくない訳ではない。
できれば今年こそは、と口の中で転がしながら今度こそ作業に戻る。
◇◆◇◆
ーーー迎えた感謝祭当日。
その日のマグノリアはいつもよりも大盛況。右を見れば人を呼び込む出店が、左を見れば路上パフォーマンスが、路地裏を覗けば愛を語るカップルがと大賑わい。その中でも特に人が集まっているのは間違いなくフェアリーテイルのギルドだろう。
目的は当然、ミス・フェアリーテイル。
それを見に来た人々はその時を今か今かと待ち侘びながら、ギルド内で販売している焼きそばやイカ焼きなど、出店の定番品を片手にステージに注意を向ける。
その民衆を横目に、まさかここまで集客があるとはと嬉しい誤算と悲鳴にご満悦のカイト。毎度毎度、ギルドメンバーが酒を飲んで暴れてその修繕費などで利益は雀の涙ほどであったが、今年は余裕ができそうだと鼻歌混じりに料理を作る。
(ミラちゃんに出場をお願いした甲斐があったねぇ♪)
流石はフェアリーテイルの看板娘だ。
そうでなくとも優勝者には50万Jの賞金が出るため、参加者は思いの外多い。ギルドを知らない人からすればどんな子がいるのか、メンバーからすれば誰が優勝するのかとわいわい騒ぐ声が厨房まで聴こえてくる。
そうこうしている内に垂幕が開き、歓声と共にミス・フェアリーテイルが開催された。MCはギルドで購買を営んでいるマックス。得意の砂魔法を駆使して観客を楽しませながら進行させる姿は、初めてとは思えない堂の入ったもの。挨拶もそこそこに、早速進めていく。
「エントリーNo.1!異次元の胃袋を持つエキゾチックビューティー‼︎カナ・アルベローナ‼︎」
コンテストが始まったことにより客足が途絶えた厨房。予想以上の売り上げに大喜びのカイト。この後はコンテストの投票用紙の振り上げ作業、そしてファンタジアに向けての最終調整の仕事が入っている。
一見地味で活躍の場は少ないが、しかしこう言った裏方作業の重要性は理解しており、何よりこういったものの方が得意である。過去の従者経験がこんなところで発揮されていた。
さて、ではコンテスト終了までどうするか、と考えた所で厨房内から裏口へと続くドアの開閉音が聞こえた。ともすれば歓声に飲まれそうな小さな音。聞き違いかもしれないと一蹴すればいいのかもしれない。
けれど、その後に続く足音が気のせいではないと示しており、ため息を溢す。出番はちょうどミラジェーンが出てきた頃合い。流石は週ソラでグラビアを飾っただけはあり、ギルド内が揺れるほどの期待に満ちた歓声。それを見逃すことに無念を覚えながら、カイトは裏方に戻る。
「さて、どちら様かな?迷ったお客さんならご愛嬌、迷惑なクレーマーならお帰りを願うんだけどねぇ」
クレーマー然り、無謀な挑戦者然り、ストーカー然り、毎年必ずいるのだ。今回もその類だろうとたかを括り、キッチン台やコンロなどが並べられた厨房内を散策する。広くない空間、けれど人影は見えず、ならば食糧庫の方かと足を進めれば、入口から正面に積まれた小麦の山の裏手から人影が現れる。
魔法が上手く使えないながらも、臨戦体制を整え構えるカイト。だが、その姿を見た瞬間、構えを解いた。
「なんだ、フリードか」
そこにいたのは長髪の美形、フリード。フェアリーテイル謎の男ランキングがあれば必ず上位に食い込むほど交友関係が少なく、またギルドに帰ってくることも少ない。カイトも再開は半年ぶりなのだ。
「久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」
「………」
「無視は悲しいよ♪」
どう話しかけても対話に応えず、こちらを敵意に満ちた瞳で射抜くフリード。ため息ひとつ零し、とりあえず話はここから出てからにしようと持ちかけようとしたとき、フリードがようやく口を開く。
「………俺はお前が憎い」
「……………はい?」
憎いとは、これまた御大層な宣言だと、怒りより疑問が浮かぶ。混乱するカイトを他所に、堰を切ったように敵意が憤怒に染まり、拳をあらんかぎりの力で握りしめる。
「あいつに認められているお前が………だというのに飄々としているお前が、心底憎い」
怒号は飛ばさず、けれど怒りに満ちた静かな声。
あいつ、と言われてもそれが誰なのか、と考えて、ラクサスのことかとあたりをつける。フリードの数少ない交友関係、その中でもトップクラスに仲がいいーーーというわけではなく、特に慕っているのがラクサスだ。自らがラクサス親衛隊、通称雷神衆のリーダーを名乗り、ラクサスのためなら例え火の中水の中森の中。ラクサスのためならば自らの命さえ厭わないフリード。
けれど、ラクサスから認められた覚えなどカイトにはない。確かに同世代の中では一番付き合いが長いが、顔を合わせれば憎まれ口を叩く間柄。何かの間違いだろう。
「あー、フリード?何のことかわからないけど、とりあえず外に出ようか。まずはお祭りを楽しんで、そこからにしよう」
そう言って一歩を踏み出した瞬間、カイトの周囲が文字に囲まれる。
(術式⁉︎)
フリードの操る魔法“術式”。描いた文字に魔力を付与し、行動を制限する結界系の魔法。そのためクイックリーな戦闘には向かないが、反面トラップとしての効果は絶大。その効果は術者の力量次第では聖十魔導師にでさえ脱出は不可能。そして目の前のフリードはそれを可能とする実力を持っている。
「何のつもりだい?」
「この先の展開に、お前は必要ない。そこで大人しくしていろ」
「カッカッカ♪ジョーダンじゃない」
両手に不完全ながら混沌ノ鎧を纏い、肉弾戦で仕留めようと距離を詰める。けれどどうしたことか、踏み出した足はそれ以上進まず、身体が止まる。釣られて下を見れば、下半身がゆっくりと石になっていくのが見えた。
「【この空間で魔法を使った者は石となる】。それが掟だ」
舌打ちひとつ零し、己の過ちに気づく。フリードは確かに実力者だ。けれど対象を束縛する術式まで使えるとは思わなかったのだ。半年前よりも確実に上がっている実力を認識していなかった事に後悔し、せめて一矢報いようと魔法を放とうと右手を上げるが、そちらも既に石となっていた。
「お前はそこでラクサスが勝利する姿を見ることもなく、ひとり孤独に震えていろ」
「くそっ‼︎」
後悔しても既に遅い。暗くなる視界の中、満足そうにこちらを一瞥して立ち去るフリードの姿が嫌に鮮明に残っていた。
◇◆◇◆
「どういうつもりだ、フリード‼︎」
怒号、そして衝撃。ラクサスの繰り出した前蹴りがフリードの腹を捉え、地面に転がる。
場所はカルディア大聖堂。マグノリアで一番の大きさを誇るその建築物の中に、ラクサスたちはいた。
事は少し前、ミス・フェアリーテイルのコンテストを利用し
そして今まさにギルドメンバーたちの同士討ちが行われている中、ラクサスはフリードに怒りをぶつける。
「てめぇ、なぜ勝手にあいつを行動不能にした⁉︎」
「ゴホッ……それは………」
BOFが始まって早々、街を奔走するメンバーの中にカイトがいないことに気がついたラクサス。問い詰めて見れば案の定、フリードの仕業だったのだ。
そしてフリードはその理由を言えるわけがなかった。この期に及んで唯の私怨なのだと、そう言えるわけがないのだ。しかし、この場で何も話さないことはもっとまずい。ぐっと歯を噛み締め、喉から迫り上がるものを抑え込んでフリードはヨロヨロと立ち上がり、ラクサスを見据える。
「あいつに拘る必要はない。オレはただ、お前のことを思ってーーー」
「オレがあいつに負けるとでも思ってンのか‼︎」
再び怒号と衝撃。今度の前蹴りはフリードを壁へと押しやり、血反吐を吐く。咳き込むフリードに舌打ちひとつ。これ以上傷つけてBOFに支障が出ても面白くない。フリードに背を向け苛立ち隠さずに言葉をぶつける。
「チッ!フリード、てめぇもさっさと行け。エバもビックスローもそろそろ動き出す頃だ」
「あぁ……」
そう了解を示すと、フリードの身体は文字となりその場から姿を消す。それを確認したラクサスは近くにあった柱に拳をぶつけると悔しさから奥歯を噛み締める。
「クソが……っ‼︎てめぇは、オレの手で………っ‼︎‼︎」
誰にも聞こえない独白。脳裏に蘇るのは幼き頃、まだマカロフをじーじと呼び親しんでいた時代、出会ったばかりで笑顔どころか無表情のカイトの姿。
初めは自身の肉親がそちらに気にかけてばかりでつまらなく、幼子ながらの考えで懲らしめてやろうとしたのがきっかけだ。初めはこちらが返り討ちに遭い、次戦に挑めばこちらが勝利、そして挑まれた次戦で敗北。それが延々と繰り返している内に、気づけば今の関係だ。
勝負を挑み挑まれていたのも随分昔。今や互いに手を出す事は稀で、顔を合わせても憎まれ口を叩き合うだけ。
今回のBOFで完全に決着をつけてやると意気込んでいたというのにこの結果。行き場のない怒りを手当たり次第のモノにぶつけて晴らそうとするが、胸の中のモヤモヤは一向に取り除かれない。
「クソッ、どうにかしてあいつを………いや、今はそれどころじゃねェ」
胸の中の怒りはまだあるが、だからと言って目的を忘れたわけではない。
現マスターである祖父マカロフからその座を奪い、誰にも嘗められない最強のギルドとして再興する。それが本来の目的だ。カイトと雌雄を結するのはその後でも十分に間に合う。
深呼吸ひとつ、そして目を閉じて6秒経過し怒りをなんとか抑えると、そこに先ほどのラクサスはいない。冷静、冷徹、冷淡。ギルドメンバーが同士討ちでくたばろうが知った事ではないと絶対零度の視線で目の前に挙げられる街の現状を把握する。
「妖精の共喰いにどこまで耐えられるかな?ジジィ」
雷帝は大聖堂の中で、静かにその時を待つ事にしたのだった。