FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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さぁ、踊ろう。

愉快な音楽に乗せて

さぁ、歌おう。

あなたのステキな声を響かせて

私はそれに合わせて踊りましょう。

面白おかしく、あなたを笑顔にできるように



緋色の戦乙女

 

 

ふと、目を覚ます。

寝ぼけ眼であたりを見回せば森の中。 少し外れたところに整地されていない街道が見える。

上を見上げれば暖かな木漏れ日が、俺を優しく照らしてくれる。そこから覗く太陽が、昼を過ぎたことを教えてくれる。

 

どうやら寝ていたようだ。

凝り固まった身体をほぐすように背筋を伸ばすと、小気味のいい音がなって全身に血が巡るのを感じる。 そこでようやくなぜ寝ていたのかを思い出した。

 

道に迷い疲れ、天気もいいから昼寝でもしようと、そんなありふれた理由で眠ったのだった。

景色はいいとはいえ、歩き詰めはさすがに疲れた。 一体いつになったらギルドにつくのだろうか。 久々に一杯やりたいものだ。

 

そんな事を考えていると、不意に街道のほうからガタガタと、重い荷物を運ぶ荷馬車の音が聞こえた。

見れば二頭の馬が巨大なツノのようなものを牽引している。 業者の格好を見る限り、どうやら配達員のようだ。

 

巨大なツノには模様のようなものが彫られており、なんとも言えない悪趣味なアンティーク感を醸し出している。

質量を考えれば馬二頭で引けるはずもないが、軽量化の魔法でもかけられているのだろう。 軽量化できる限界はあれど、それであれば馬二頭で十分な重さなはず。

 

まぁ、ツノの事などどうでもいい。問題はあの荷馬車に乗せてもらえるか、だ。 といっても馬車は俺の目の前をすでに通りすぎているし、別に業者に断りを入れるつもりはない。無賃乗車するつもり満々である。

 

世の中バレなければ犯罪ではない、ではないが、少しばかり街へ連れて行ってもらっても罰は与えられまい。………まぁ、バレたらついでとばかりに荷台に乗っている顔なじみに殺されるかもしれないが。

 

しかし、これは僥倖。彼女についていけばギルドまで運んでくれるだろう。 街の中でまで迷子にはなりたくないからね。それに、登場の演出にもなる。やはりここは派手にいこう。楽しさはなによりも優先されてしかるべきだ。

 

そうと決めた俺は足を数回ふみ鳴らすと、ドプンと音を立てて身体が影の中に沈み込む。後はこれで追いついて、影の中で待機しておけばいい。

 

影移動(シャドー・ドライブ)

 

森の木々の影を転々として、馬車と影が重なった瞬間に潜り込む。

さて、このまま運んでもらうとしよう。ついたら起こしてね、と聞こえるはずのない声を出して、俺はまた眠りにつくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

フィオーレ王国の街のひとつであるマグノリア。

その街の一角に構えてある、ほかの家よりも一回り大きなギルドこそマグノリアを代表する魔導士ギルド、フェアリーテイルだ。

 

街の酒場としても知られているこのギルドは昼夜構わずどんちゃん騒ぎが繰り広げられており、その喧騒が止むことは少ない。

街の住人からは呆れ半分、慣れが半分といった感じで認められており、もはや苦情を出すことすらバカバカしいとまで言われている。

 

そんな愛され方をしているギルドだが、この日は珍しく喧騒が止んだ。

そのかわり、ずしぃん、ずしぃんと重たい足音だけが聞こえている。

 

その正体は身の丈を優に超えるツノを携えた、甲冑に身を包んだ女性だった。 その細腕のどこにそんな力があるのか、手荷物を重たそうにするそぶりすら見せない。

彼女の名はエルザ・スカーレット。 ギルドの上位実力者であり、フェアリーテイルの風紀員。一部では緋色の悪魔などとも言われている。

規律に反するものは鉄拳制裁、殴られたら10倍にして殴り返す、ある意味暴力装置である。

 

「今戻った。マスターはおられるか?」

 

凛とした態度に相応しく、良く通る声だ。

ギルドの受付嬢、ミラジェーンからその不在を聴くと、問題を起こすギルドメンバーたちに注意を促す。

 

先日ギルドに加入したルーシィも、いつもの自由奔放さはどこにいったのかと戸惑うばかりだ。

 

「ところでナツとグレイはいるか?」

 

「あい」

 

エルザの質問に羽根の生えた青い猫、ハッピーが指を差す。

ギルドの仲の悪いランキングトップのナツとグレイ。些細なことで殴り合いの喧嘩に発展する2人だが、エルザの前では借りてきた猫に等しい。

 

「や……やぁ、エルザ……。オ、オレたち今日も仲良し……よく………や、やってるぜぃ」

 

「あ゛い」

 

ガッツリと肩を組んで握手を交わす2人。表情が強張り、恐怖から身体が震え、身体中から冷や汗が流れているが、エルザの目には仲良くしているように見えるのだろう。 よしよし、とばかりに頷く。

 

「そうか。親友なら時には喧嘩もするだろう。しかし私は、そうやって仲良くしてるところを見るのが好きだぞ」

 

「あ、いや……いつも言ってっけど、親友って訳じゃ……」

 

「あい」

 

「こんなナツ見たことないわっ‼︎‼︎」

 

多少なりとも付き合いのあるルーシィだ。自由奔放、大胆不敵といったイメージの強いナツだったが、この日を境にイメージが変わったことは言うまでもない。

 

「カッカッカ‼︎ いやはや、毎度毎度のことだけど笑えるねぇ」

 

不意にパチパチと、この場に不釣り合いな拍手と笑い声がギルドに響く。音の発生源を辿れば、エルザの持ってきたツノの上に誰かが座っている。初対面のルーシィはそれが誰なのかしらないが、他の面々が笑顔で迎え入れてくれた。

 

「おお!カイトじゃねぇか!」

 

「いつの間に帰ってきたんだよ!」

 

「今度はどこまで迷ったんだ!?」

 

「カッカッカ、歓迎ありがとう♪」

 

「カイトォオオオ‼︎」

 

次の瞬間、グレイと肩を組んでいたはずのナツが拳に炎をまとい突っ込んでいた。

 

「勝負だあ‼︎」

 

「元気だねぇ、ナツ。けど、や〜だよ♪」

 

そのままナツの拳が直撃するかと思いきや、瞬きの間にカイトの姿が消える。 大きく空振ったナツはバランスを崩し、机や椅子を巻き込んで派手に倒れた。 当然、巻き込まれた人は多々おり、何をしてんだ、やんのかこらとばかりに喧嘩に発展しているが、当の本人は知らぬ存ぜぬ。

消えたはずのカイトはいつの間にかカウンターに座っており、ミラジェーンと談笑を交わしている。

 

「ただいま、ミラちゃん♪」

 

「おかえり。今回はどこまで行ったの?」

 

「さぁ? 気づけば山の上だったり湖のほとりだったりで場所はわからないよ」

 

「相変わらずの方向音痴ね」

 

「ああ、でも王都には行ったよ。あそこはやっぱり賑やかだね♪」

 

「目的地と反対方向よ、それ」

 

「それ、方向音痴で済むんですか?てかミラさん、この人は?」

 

ルーシィに指摘されて紹介がまだだった事を思い出す。

 

「そういえばルーシィは初めてだったわね。この人はカイト、基本迷ってるか、厨房で料理してるわ」

 

「ミラちゃん、もう少しまともな紹介はなかったのかい? まぁ、よろしく。一応このギルドの魔導士のカイトだよ♪」

 

「こちらはルーシィ。この間加入したばっかりだけど、すごいのよ。傭兵ギルド南の狼の2人とゴリラメイドを片手で倒しちゃうんだから」

 

「わぉ、見た目によらずパワフルだね♪」

 

「それ全部ナツだし………事実と異なってるし………」

 

そんなルーシィの反論も、ギルドの喧騒の中に消えていく。

見ればナツに巻き込まれていない、関係のない人たちまで巻き込んでの大騒ぎにまで発展していた。

どうしたものかとため息を吐くエルザが、責めるような目でカイトを見た。

 

「お前のせいだぞ、カイト」

 

「相変わらず手厳しいね、エルザ。 元凶はナツだよ?」

 

「ハッピー」

 

「あい!カイトが悪いと思います」

 

「即答は悲しいよ、ハッピー。 いや、わかるけどさ。絶対殴ってでも俺が悪いって言わす気満々だったもんね。………あー、わかったわかった。ちゃんと止めるから。止めるから拳を握るのはやめようね。 甲冑で殴られるのは痛いんだよ、知ってた?」

 

まったく怖い怖い、とぼやくと喉を鳴らす。そして、喧騒の中でも響くように声を張り上げた。

 

「みんなー、それ以上暴れるとエルザの制裁が始まるよー!」

 

たった一言。何の変哲もない一言。しかし、その効果は凄まじかった。

喧嘩していた連中はバツが悪いとばかりに手を止め、それぞれいつも通りの日常に戻る。

魔法でも使ったのか、と疑いたくなるような光景だが、これも日常茶飯事である。 どうだ、とばかりに自慢げな表情のカイトに鉄拳が落とされるのも、これまた同じく日常である。

 

「痛いよエルザ」

 

「人をダシに使うな」

 

「だって事実ーーーオッケー、黙っておくよ。だから殴らな〜い、拳は引っ込めよ〜」

 

降参降参と零しながら両手をあげるカイト。あいも変わらない様子にため息を零し、そう言えばと用事を思い出す。

 

「カイト、明日は暇か?」

 

「ん〜? 厨房でお仕事しようと思ってたけど」

 

「ならちょうどいい。それにグレイにナツ、お前たちに頼みたいことがある。仕事先でやっかいな話を耳にしてな。本来ならマスターの判断を仰ぐトコなんだが、早期解決が望ましいと私は判断した。力を貸してくれるな?」

 

「え⁉︎」

 

「はい⁉︎」

 

「わぉ。大変だね、2人とも。あ、ミラちゃん、手伝うよ」

 

1人鉄拳制裁を食らうも、ギルドの中は驚きに満ちる。今までほとんどソロで活動していたエルザが人手を募るのだ。 本人の実力を以ってしてもこなせない、難易度の高い任務であることが予想される。

 

「これってフェアリーテイル最強チームかも……」

 

と零すミラ。

毎回、必ずと言っていいほど町の一部を破壊するナツ。すぐに服を脱ぐグレイ。 怒ると見境ないエルザ。それを煽るカイト。

間違いなく最強だろう。被害額的な意味で、だが。

ナツとグレイは嫌だ嫌だと嘆いているが、行かなければ後が怖い。渋々とそれを承諾していた。

 

そして明朝。

マグノリア駅の一角ではナツとグレイが早速とばかりに喧嘩していた。

 

「なんでエルザみてーなバケモンがオレたちの力借りてえんだよ」

 

「知らねえよ。つーか、助けならオレ一人で十分なんだよ」

 

「じゃあオマエ行けよっ‼︎オレは行きたくねえ‼︎」

 

「じゃあ来んなよ‼︎後でエルザに殺されちまえ‼︎」

 

「迷惑だからやめなさいっ‼︎‼︎」

 

周囲を巻き込む喧嘩にいてもたってもいられず2人の間に割って入るルーシィ。

ミラに仲を取り持ってくれと頼まれたのはいいが、とんだ貧乏くじだと思ってしまう。 仲を取り持つならカイトがいいのではないか、と提案してみたが、むしろそれを煽ると言われ納得してしまったのは内緒である。

 

意識を少し外に向けているとまた喧嘩を始めようとするナツとグレイ。

 

「あ‼︎エルザさん‼︎」

 

「今日も仲良くいってみよー」

 

「あいさー」

 

にらみ合いから瞬時に肩を組んで誤魔化す2人。

2人にとってエルザはどんな存在なんだ、と思いつつもあまりの変わりように腹を抱えて笑った。

そうこうしているうちに件のエルザが姿を現した。

 

「待たせたな」

 

「荷物多っ‼︎」

 

開口一番、ルーシィのツッコミが飛ぶ。

エルザが引っ張る台車の上にはこれでもかとばかりに山積みにされたバッグの山。人よりも頭一つ分高いバッグの山を軽々しく引いているところを見ると、あながち化け物という評価は外れてないんじゃないかと思ってしまう。

 

「これで全員だな」

 

「いや、カイトがいねえぞ」

 

「つーか、あいつ来れるのか?」

 

「安心しろ。荷物に括り付けてある」

 

エルザが指差す先、荷物の後ろを見るとカイトがいた。それも縄で縛られた状態で。

この状態のまま引きずられたのか、身体中既に傷だらけだが、当の本人は呑気なものでぐっすりと眠っている。

 

「扱い雑すぎない⁉︎ ちょっと、大丈夫なの⁉︎」

 

「んあ………。おや、おはよう、ルーシィ」

 

「呑気すぎない⁉︎今解いてあげるから‼︎」

 

「カッカッカ、優しいねぇ。ギルドじゃ恒例だからスルーされてるのにねぇ。………ぐぇ‼︎」

 

縄を解こうとするルーシィだが、あろうかとか縄は余計に絡まりカイトの首を締めていた。 それもかなりキツめに。

これは予想外だったらしく、手足をばたつかせて助けを求めるカイト。

 

「エグいな、ルーシィ。流石にオレたちもそこまでしねえぞ」

 

「ほぼ初対面の相手の首を締めるとか……」

 

「ルーシィ、こわーい」

 

「見てないで助けなさいよ‼︎」

 

ナツ、グレイ、ハッピーが引いている間にも顔色が青から白へと変わっていくカイト。 ただ1人、エルザは「カイトをあそこまで追い詰めるとは………」などと呑気なことを考えながら一人戦慄していた。

 

 

閑話休題

 

 

「改めてはじめまして。ルーシィです。ミラさんに言われてお手伝いに来ました」

 

駅で一悶着あったが、列車に乗った一同は改めて自己紹介をする。特にエルザは初見なので、礼儀正しく頭を伏せる。

ちなみに席順は右にカイト、エルザ。左にナツ、グレイ、ルーシィが対面する形である。ハッピーはルーシィの膝の上だ。

 

「エルザだ。君のことは噂で聞いている。なんでも傭兵ゴリラを片手で2人も倒したとか」

 

「尾ひれつきすぎ………」

 

「カッカッカ! 噂なんてそんなものだよ♪ それより、ナツ。大丈夫かい?」

 

「ぉ……ぉぉぅ」

 

普段やかましい程に元気なナツだが、乗り物になると喋れなくなるほど酔うという体質を持っている。 列車もダメなら馬車もダメ、とにかく乗り物は全てアウトだ。

 

グレイがうぜー、と喧嘩を売っているがそれを買う気力さえない。

見兼ねたエルザがナツを隣に座らせて窓際に座らせる。手のかかる弟を見るような、そんな慈愛に満ちた視線から刹那、容赦なく腹を殴って気絶させた。

 

痛みを感じさせないだけ慈悲があるとは本人談。やられた本人はたまったものではないが。

その姿を見てルーシィはもちろん、グレイまでエルザの恐ろしさを再認識したのはいうまでもない。

 

「そ、それより、エルザさんの魔法ってどんな魔法なんですか?」

 

「そう畏まらなくていい。エルザと呼んでくれ」

 

「エルザの魔法はキレイなんだよ!血がいっぱい舞って!」

 

話題を切り替えようとしたが、どうやら失敗したらしい。ハッピーのお陰で血生臭くなってしまった。

 

「私はグレイの方がキレイだと思うが」

 

「そうかぁ?」

 

渋々、といった感じで左手を右手の上で握るグレイ。 拳を開けばそこには氷でできた妖精の尻尾の紋章が浮かんでいた。

 

「わあっ‼︎」

 

「顔に似合わずキザだよねぇ」

 

「るせぇ」

 

「じゃあ、カイトさんは?」

 

「こそばゆいからさん付けはやめて、ルーシィ。俺の魔法はねぇ………んー」

 

「カイトの魔法か……」

 

「あー……」

 

途端に口をふさぐ3人。

もしかして触れてはいけなかったのか、とルーシィが慌て始めたところでようやく3人が口を開いた。

 

「説明が難しいね♪」

 

「基本、影を使うな」

 

「トラウマに残るな」

 

「どんな魔法なの⁉︎」

 

「まぁ、なんつーか………戦ったらひたすらアウトレンジで攻められて、こっちの攻撃は当たらねぇ」

 

「その前に距離を詰めればいいだろう?」

 

「それができンのはエルザだけだ」

 

「いや〜、アレは恐怖だよ。あんな悪魔も裸足で逃げるような怖い顔で迫られたら誰だって戦意喪失するよ」

 

余計な一言でカイトが殴られる。それも顔面を。

本人は痛いの一言で済ましているが、普通は鎧で殴られればそれだけで済むはずがない。 それも魔法なのか、とルーシィが訝しんだところでグレイが今回の依頼内容の説明を求める。

 

今回の依頼はどうやら闇ギルドーーー非公認、又は解散命令を無視して活動するギルドーーーが起因しているらしい。

エルザがギルドに帰宅する途中、立ち寄った酒場で聞こえた“ララバイ”、そして“封印”、“エリゴール”という3つの単語。

 

エリゴールといえば闇ギルド“鉄の森(アイゼンヴァルト)”のエースであり、暗殺系の依頼を好んで遂行することから死神の異名で呼ばれている者だ。

 

そんな単語が出て何も起こらないわけがない。

その場で話をしていた連中を捉えて仕舞えばよかったが、エリゴールという名に気づいたのはかなり後。下手をすれば一ギルド丸々相手にしなければならない。

今回はその応援が依頼、というわけだ。

 

「で、最後に見たこのオニバスで聞き込み、か」

 

「そうだ」

 

「帰りたい……」

 

駅を降りた一同。 ルーシィが未練がましく列車を眺めているが、それはさておき、依頼の開始だというところで何かを思い出したようにルーシィがあっ!と声を上げた。

 

「ナツ、列車の中に忘れて来ちゃった……」

 

「なに⁉︎」

 

「つーか、カイトもいねぇぞ⁉︎」

 

「あい。カイトなら列車の中でトイレに行ってくるって言ってそれっきりだよ」

 

「また迷子かよ‼︎」

 

「列車の中で⁉︎」

 

「そういう訳だ‼︎ 列車を止める‼︎」

 

「どういう訳⁉︎」

 

エルザの無茶ぶりに困惑する駅員。頭をかかえるグレイに突然の事でついていけないルーシィ。なかなかに混沌とした状況である。

唯一の頼みの綱もハッピーだけである。 青い喋るネコは珍しいとはいえ、この場では役に立たない。

 

結局、魔導四輪ーーー使用者の魔力をエネルギーに運転する車のようなものーーーをレンタルし列車を追う事となるという、出だしから波乱に揉まれる一同であった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

「ふぅ、間に合った間に合った」

 

便座に座りながら一息ついて用を済ますカイト。

その外では今まさに鉄の森による列車の乗っ取りが行われているが、本人の知るよしもない。

今の今までトイレトイレと列車の中を彷徨っていた身としては些細な事だ。

 

用を足し、奇跡的に元の席に戻るとあらまびっくり。

壁に大穴が開いているやら、知らない人間が周囲を占拠しているやら、両耳を押さえて悶絶する人がいるやら。どうやら席を間違えたらしいと踵を返そうにも、その場にいた全員の視線はカイトに注がれていた。

 

「あぁん? 誰だ、テメェ」

 

「カッカッカ。いやぁ、席を間違えちゃった、ただの一般人さ。さぁ、俺は俺の席に戻らせてもらうよ」

 

「エリゴールさん!こいつ、妖精の尻尾(ハエ)の一匹だ!」

 

誤魔化そうにも、どうやら紋章を見られてしまったらしい。

エリゴールと呼ばれた男性がニヤリと笑うと周囲の部下にカイトを拘束するように命じる。 ホールドアップしていたカイトは無抵抗のまま周囲の人間に押しつぶされるように捕らえられた。

 

「どうします、エリゴールさん」

 

「決まってる。オレたちの計画を邪魔しようとするハエ共は駆除しなけりゃならねぇ」

 

邪悪な笑みを深め、先端に髑髏が貼られた木製の笛を肩に置きながら命令する。

 

「嬲れ。殺しはするなよ」

 

待ってました、とばかりに取り押さえられたカイトへ暴力が振るわれる。

殴り、蹴り、魔法、刃物なんでもござれの暴力の嵐。

数分後には小さなうめき声を漏らす、赤黒い肉塊一歩手前の物体がそこに転がっていた。

 

「ぅぅ……ェリ、ゴール……ざ」

 

「気安くオレの名を呼ぶな。ハエが」

 

エリゴールの蹴りがとどめとなり、うめき声が止む。死んだか?と疑ったが、浅く呼吸しているようだ。

 

これはメッセンジャーだ。この先にあるクローバー駅で見せしめとして殺さなければならない。それまで生きて欲しいものだ。

まぁ、死んだら死んだで構わないが。

 

冷徹なことを考えながらこれから行われる自らの計画の成功を夢見て、エリゴールは手の中で笛を転がすのであった。

 

 

 

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