FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
がちゃり、とギルドの医務室からエルザが出てくる。それだけだと言うのに皆の視線は一様に注がれ、その一挙手一投足を見逃すまいとギルド内に緊張が走る。そして、皆の前に立ったエルザの言葉を今か今かと待ち構えて、全員が生唾を飲み込む。
「ポーリシュカさんのお陰で一命は取り留めたそうだ。安心してくれ、マスターは無事だ」
その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員が安堵のため息を零して、歓声を上げる。
ラクサスの件から夜が明けた現在、殆どのメンバーが身体のどこかしらには包帯を巻きつつも、疲労を見せないほどの騒ぎっぷりでギルド内は今日も騒がしい。
実を言えばBOF最中、マカロフは持病が悪化して生死の境を彷徨っていたのだ。そこに手を貸してくれたのがマグノリア郊外の森に住む人間嫌いの偏屈婆さんことポーリシュカ。彼女の助けがなければ今頃マカロフは帰らぬ人となっていたことだろう。
「よかったぁ。一時はどうなるかと思ったけど」
「あのじーさんがそう簡単にくたばる訳ねーんだ」
「しかし、マスターもお歳だ。これ以上心労を重ねればまたお身体を悪くする。皆もその事を忘れるな」
いつもならエルザの言葉を聞いて姿勢を正すメンバーも、流石に今回ばかりは喜びが先に出て聞いてはいない。けれど、それもしょうがないとエルザは深く追求しない。斯くいうエルザも喜びに浮き立っているのだから。
「けど、こんな状況で本当にファンタジアやるつもりなのか?」
「カッカッカ♪そりゃごもっともなんだけどさ、エルフマン。マスターの意向なんだよねぇ」
「こんな状況だから、なんじゃないかしら?」
今回、弟のエルフマンの命の危機に瀕した際、それがきっかけでかつての魔法
珍しくボロボロで、カイトに肩を貸してもらって歩いていたりする。ちなみに姉が取られると思ったエルフマンからすぐさまそのポジションは奪われていた。
「ジュビアもファンタジア観るの楽しみです」
「アンタは参加する側よ」
さめざめと扱いの酷さに泣くカイトを他所に、話は進む。本来、ギルド加入歴の浅い新人はファンタジアの見学という名目のもと、夜はフリーであったが、そうはいかなくなったのだ。
ただでさえ怪我人が多い上、街中で乱闘を繰り広げたのがまずかった。流石にラクサスが原因でそこらかしこで乱闘しました、などと近隣住民に発表できる訳もなく、苦肉の策としてファンタジアでの意見が食い違った為の乱闘ということにしたのだ。
その結果として、またかという諦めが7割、いい加減にしろという苦情が3割というものに。少ないとは言え苦情を放置することはできず、お詫びとして例年よりも派手に開催することが決定したのだ。
流石にそのままギルドメンバーに報告することはせず、単純に動けるメンバーが少ないとそれとなく伝えるだけにしているが。
「ふぁがふんごが‼︎おがえかべおごおご‼︎」
「無理だね。参加できる訳ねーだろ、クズが」
「何で通じてるのかしら……」
ちなみに、今回の一番の功労者であるナツとガジル。2人のお陰でラクサスを止めたと言ってもいい活躍を見せたのだが、現在は2人して包帯でぐるぐる巻きにされていた。ナツに至っては口元まで包帯で巻かれている為、喋ることさえままならない。なぜかガジルには通じているようではあるが。
ともあれ、ギルド内のごたごたも一件落着といった様子のギルド内。けれど、そこに水を刺すような影が入り口から現れる。
「ラクサス‼︎」
初めに気づいたのは誰だろうか。その言葉をきっかけに全員がそちらに振り返る。元凶ともいえるラクサスは確かに傷を負っているが、ナツやガジルほどではないようで、威風堂々と歩く姿に翳りはない。
「ジジィは?」
今回の事を悪びれる様子もなく、そう問い出すラクサスに周囲は怒り心頭。口々に怒りをぶつけるメンバーを制したのはエルザだった。
「よさないか」
エルザとラクサス。互いに視線がぶつかり合い、すわ激突かと思われたがエルザは道を譲る。
「奥の医務室だ」
「オイ、エルザ‼︎」
礼もなく、エルザの横を通り過ぎるラクサス。そして我慢できなかったのかナツがラクサスの進路を邪魔すると、言葉にならない言葉で何かを囃し立てる。
ぽかんとする一同であるが、ガジルが親切にも解説してくれた。曰く「二対一でこんなんじゃ話にならねえ。次こそはぜってー負けねえ。いつかもう一度勝負しろ、ラクサス‼︎」とのこと。
確かに、二対一で勝利したとは言え、勝者の方がボロボロでは勝ちとは言えないだろう。負けず嫌いなナツの横を通り過ぎ、呼び止めるナツに右手を上げて応える。その反応が珍しく、包帯の下でナツは喜色に染める。
「さぁ、みんな。ファンタジアの準備をするぞ」
「オイ‼︎いいのかよ‼︎ラクサスをいかせちまって⁉︎」
「大丈夫よ、きっと」
「そうそう♪きっと、おそらく、多分………うん、大丈夫さ♪………メイビー」
「自信なさすぎじゃねえか⁉︎」
「ナツ、おまえラクサスよりひでーケガってどーゆー事よ」
「んがごがー‼︎」
「こんなの何ともねーよ、だとよ」
「ナツー‼︎血ィ‼︎血出てる‼︎」
今日も今日とて騒がしいフェアリーテイル。若干の不安を残しつつも、夜のファンタジアへと向けて準備を進めていくのであった。
◇◆◇◆
日も暮れて、夜の帷が降りた頃。
マカロフに破門を言い渡され、雷神衆に別れを告げたラクサス。1人そっと旅に出ようと足を進めていれば、ふと色鮮やかな光がメインストリートから路地裏へと漏れていることに気がついた。
視線をそちらに向ければ、様々な装飾や魔法で民衆の前を踊り歩くフェアリーテイルの面々。どうやらファンタジアの準備は間に合ったようだ。
安堵のため息ひとつ溢して、自身に見る資格なしとばかりに立ち去ろうとするラクサスの前に、どこから現れたのかカイトが立ち塞がっていた。
「やぁ、ラクサス♪ どこへ行くつもりなのかな?」
「カイト………。なんでここに」
へらへらと笑うカイトを前に困惑するラクサス。闇討ちをするような性格でもないし、嬉々としてファンタジアに参加しているものだと思っていただけに、その困惑も大きい。そうしていれば察したのか、笑いながらカイトはその問いに答える。
「カッカッカ♪まぁ、体調不良でね。魔法がうまく扱えないんだよ♪」
ただでさえ相性の悪いカルディア大聖堂での大立ち回り。それが影響してか、カイトの体調は急降下。ろくに魔法を使うこともできず、できることなら横になりたいのだが、そうはいかない。
くつくつと喉奥で笑いながら、そっとラクサスの後方、ファンタジアの方を指差す。
釣られてそちらを見れば、やはりフェアリーテイルの大舞台、力の入りようが違う。ミス・フェアリーテイルに参加していた女性たちのダンスにグレイとジュビアの水と氷のコンビネーション、エルザの剣舞にボロボロになりながらもフェアリーテイルのロゴを火で作り出すナツなどなど。
それぞれの持ち味を活かして織りなす、魔法の舞台。それが幼き頃に参加したファンタジアと重なって、胸が熱くなるのをラクサスは感じた。
そして、最後尾である大トリはマカロフ。手足をシャカシャカと動かして、非常にコミカルなダンスを見せる姿に、病気に侵されている様子はない。マスターという立場にあるにも関わらず、街の皆に野次を受けて笑われる姿をラクサスは嫌っていた。けれど、今ならばわかる。これは愛されているのだと。
少なくとも、もし仮にラクサスの野望が達成し強いフェアリーテイルを作り上げたとしたら、この様な拝めなかっただろう。
吸い付くようにそれらを眺めるラクサス。そして不意にマカロフが人差し指と親指をを突き立てて、天高々とそれを翳す。それを倣って他の面々も同じようなポーズを取っていた。
それは幼き頃マカロフと約束したサイン。人混みの中でも自身はマカロフを見ているというメッセージ。どれだけ離れても見守っているという表れ。
「カッカッカ♪ なんだかんだ言ってたかもしれないけど、ラクサス。みんな君のことが大好きなんだよ♪だから、辛くなったらいつでもギルドに顔出しなよ。旅先の土産話を待ってるからさ♪」
「あぁ………ああ‼︎」
溢れ出した涙をせめてカイトには見せまいと顔を覆うラクサス。けれどそれで隠せるはずもなく、指の隙間から零れる涙。珍しいものが見れたとご満悦なカイト。そして暫くして涙が収まったラクサスは一息吐くとカイトのほうに向き直る。
「お前にも迷惑かけたな」
「カッカッカ♪何を今さら。お互い様だろう?」
「ふっ、そうだな」
そう言って差し出された手を握るラクサス。それが意外だったらしく、差し出した張本人であるカイトが今度はぽかんとした表情を浮かべていた。
「ん?どうした?」
「いや……。初めて握手に応えてもらえたなぁって」
そうだっただろうか、と頭をひねれば確かに。カイトと手を重ねる事など、それこそ喧嘩の時ぐらいしかなかったことを思い出す。初めて出会ったときでさえだ。
それが可笑しくて少し笑うと、握った手に力を入れる。
「またな」
「カッカッカ♪ ああ、またね」
最後は言葉少なく、互いに別れの言葉を交わしてラクサスはマグノリアの外へと足を運ぶ。その姿が見えなくなるまで見つめると、カイトの顔から笑みが消える。
「さてさて、ドラゴンに育てられた者しか使えない筈の滅竜魔法。それがなぜラクサスが使えるのか………気になるとは思わないかい?ねぇ、ガジル?」
物陰の先、そちらに視線を向ければ観念したようにガジルが姿を表す。身体に包帯は巻いているが、滅竜魔導師の回復力なのか、歩き回れる程度には治ったらしい。
「………いつから気づいてやがった?」
「カッカッカ♪ 内緒さ♪」
胡散臭い笑顔を貼り付けて、人差し指を口元に持ってくるカイトに舌打ちひとつ返して、ガジルは話を進める。
「それで、テメェは知ってンのか?あいつが滅竜魔導師だったってこと」
「まさか。付き合いが長いだけの関係だよ、俺たちは」
まともに話し合うつもりはない。そう察したガジルは踵を返して去ろうとする。しかし、カイトがその背中に待ったをかけた。
「そうそう。彼のことを知りたいのなら父親に尋ねるといい。きっと、真相を知っているはずさ♪」
その言葉に驚き脚を止め、思わずそちらに振り返る。ガジルがラクサスの父親、イワンの元へと向かう事を知っているからだ。誰にも話していない筈のスパイ活動、フェアリーテイルの動向を報告するためだ。
無論、報告するのは虚偽のもの。ガジルはイワンがマスターを務める闇ギルド
「ああ、誤解しないでね。俺はおじいちゃんから君を助けるように言われてるんだ。不足の事態に備えてね♪」
動きを止めたガジルに歩み寄るカイト。情報源ははっきりとして、それもマカロフから頼みだと言うのだから恐る事はない。けれど、ガジルの脚は震え、まるで蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れないでいた。
「ああ、けれど、何の間違いか、手違いか、もし、仮に、万が一、億が一にも、君がフェアリーテイルを裏切る様な真似をしたのなら、その時は………わかっているね?」
そっと肩に手を置いて、ガジルの目を覗くカイト。その瞳に熱はなく、広がるのは全てを飲み込む様な闇のみ。何とか唾を飲み込んで、わかっていると返すと、目を細めてガジルから離れる。
「カッカッカ♪無論、信用はしているよ。さぁ、行くといい。帰ってきたらファンタジアの打ち上げに参加しておくれよ♪腕によりをかけるからさ♪」
こちらを振り返らず、じゃあこれから仕込みがあるからと手を振りながらそう言うカイト。未だ高鳴る心臓を抑えて、夜の闇に消えていくカイトを見てガジルは思う。
「あいつ、どこに行くつもりだ?」
向かう先はギルドとは反対方向。買い出しに行くにしても、ファンタジアでどこも店は閉まっている。ガジルは知らなかったが、カイトの方向音痴が炸裂しているのだ。
案の定、迷ったカイトはその後ファンタジアの打ち上げに間に合わず、いつものことだと誰も探しに来てくれなかったことに1人すすり泣いていたりしていたのだった。