FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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ニルヴァーナ編
連合


 

 

 

 さんさんと辺りを照らす陽の光

 

 心地よく揺れる馬車

 

 青々と萌ゆる樹々

 

 おおよそ、馬車旅をするにはうってつけの気候の中、カイトはなんとも場にそぐわない憂鬱な気持ちを抱えていた。

 出したくなるため息をグッと堪えて、下がりそうになる口元に力を入れて、笑顔を貼り付ける。いかにも馬車旅を楽しんでます、とばかりの表情を作り、馬車窓から流れる景色を楽しむふりをする。

 そうして時折、自身の正面に座る少女を横目で見やる。

 

 年端もいかない、それこそまだ10代に差し掛かって少ししか経っていないであろう少女はこちらをちろちろと、恥ずかしげに視線をやって目が合いそうになる度に視線を逸らす。

 

 その妙な空気が心地悪く、余計にげんなりとした気持ちを抱えるカイト。なぜこんなことに、と考えて数日前の事を思い出す。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「何ですか、これ?」

 

 

 ファンタジアも終わり、街並みもすっかり修復された頃、ギルドの壁に描かれた絵図を見てルーシィは疑問の声をあげる。

 大きな丸の中に三つの丸があり、そこから枝分かれするように複数の丸。そして端の方に独立した丸。ぱっと見何が書いてあるのかわからないそれ。その疑問に答えたのはミラジェーンだ。

 

 

「闇ギルドの組織図を書いてみたの」

 

「どうしてまた?」

 

「近頃動きが活性化してるみたいだからね。ギルド同士の連携を強固にしないといけないのよ」

 

 

 ファントムとフェアリーテイルは特殊な例として、普段であればそれなりに交流のあるギルド間。それこそ実力者になればなるほど、ギルド同士の交流会などに顔を出すようになるのだ。

 ギルドの力の誇示、という面もあるが、1番は自身の手札を見せることによって相手を害するつもりはないというアピールの面もあるのだが、それはさておき。

 

 闇ギルドはそれこそ正規ギルド以上の数があり、その対処が追いつかなくなっている。それこそ、つい最近には闇ギルドのひとつが銀行を襲う事件があり、ルーシィがそれを解決したのはいいのだが、一歩間違えれば豊富な資金を闇ギルドが手に入れていたかもしれないのだ。

 それが末端のギルドならまだしも、組織だったものの場合、いちギルドでは対処しきれない。そのため、今回ギルド同士の連携を深める話になったのだ。

 

 

「教えてあげよう、ルーシィ。あの大きなくくりで囲まれた3つの丸はバラム同盟。闇ギルドを纏める最大にして三大勢力。それぞれがいくつかの直属ギルドを持ってるんだよ♪」

 

 

 ここぞとばかりに意気揚々と説明するのはカイト。ご丁寧にメガネと指示棒片手にしながら、あれこれと説明を続ける。

 

 

「バラム同盟は六魔将軍(オラシオンセイス)悪魔の心臓(グリモアハート)冥府の門(タルタロス)の3つから成っているのさ♪ 大体の闇ギルドはこのいずれかに所属しなきゃやってけないんだけど、例外としてあるのがこの端の大鴉の尻尾(レイヴンテイル)。他のギルドより動きも少ないし、目立った活動はしてないけど、評議員に認可されてないから分類としては闇ギルドなんだよね♪」

 

 

「あ‼︎鉄の森(アイゼンヴァルト)って‼︎」

 

「そうだ。あのエリゴールがいたギルドだ」

 

「あれは六魔将軍ってギルドの傘下だったのか」

 

「あれ?聞いてない感じ⁉︎」

 

 

 カイトを蚊帳の外に、わいわいと、戦々恐々としながら盛り上がるメンバーたち。道化として闇ギルドを潰していた身として、この話題には滅法強いのだが。さめざめと泣くカイトの肩にミラジェーンがぽんと手を置く。

 

 

「私は聞いてるわよ、カイト」

 

「ミラちゃんだけが味方だよぅ‼︎」

 

「姉ちゃんに近づくな‼︎」

 

 

 ミラジェーンのあまりの優しさに抱きつこうとした瞬間、間に割って入るエルフマン。その強靭な肉体を抱き締め、まぁこれでもいいかとそのまま涙でエルフマンの学ランを濡らし嫌がられる外で、話題は進む。

 

 

「そういや、六魔将軍って6人しかいねーって聞いたぜ」

 

「どんだけ小せェギルドだよ」

 

「たった6人で最大勢力を担ってるのよ」

 

「「う‼︎」」

 

「その六魔将軍じゃがな、ワシらが討つ事になった‼︎」

 

「「「‼︎⁉︎」」」

 

「おや、おかえりおじいちゃん♪」

 

「違うでしょ⁉︎」

 

 

 定例会から帰ってきたマカロフの突然の発言に、一部を除いて驚愕に顔を染める。動じていないのは話を聞いていないナツに、呑気なミラジェーン、そして泣いていたのが嘘の様にすっきりとした表情のカイト。

 ふざけたことを曰うカイトに制裁の一撃を加えて、エルザがマカロフに問う。

 

 

「マスター、一体………どういうことですか?」

 

 

 エルザがそういうのも可笑しくはない。闇ギルド、それも三大勢力の一角を討つなど並大抵の事ではない。

 話を聞けばここ最近、件の六魔将軍に怪しい動きがあったとのこと。これは見過ごせないとなったのだが、いかんせん相手が相手。どこかの一ギルドが相手をしてバラム同盟全体から睨まれたらたまったものではない。

 

 故に、今回は4つのギルドが各々メンバーを選出して討伐に挑む、連合を組む事になったのだ。

 参加ギルドは妖精の尻尾、青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)化猫の宿(ケットシェルター)。異例にして異常の事態にギルド内は騒然となり、誰が行くのかと騒ぎ出す。

 しかし、人選は既に決まっているらしく、エルザ、ルーシィ、グレイ、ナツ、ハッピー、カイトの最凶チームが選ばれたのだ。

 

 

 そして当日、作戦説明のため集合場所となっている青い天馬の別荘まで馬車が出ることとなったのだが、その馬車が4人乗り。ハッピーは誰かの膝の上に乗せるとなっても1人余る事に。

 幸い、化猫の宿からの馬車が途中通過するらしく、じゃんけんの結果カイトが乗り合わせすることとなったのだ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

(下手すれば簀巻きにされて荷台に乗せられる所だったから、感謝はするけど………)

 

 

 なぜ、自分がこんな目にと思わずにはいられない。

 これがただの人であればカイトも今まで培ったスキルを駆使して、目的地まで盛り上げようとしただろう。しかし、目の前の少女が纏う雰囲気は凡人のそれではない。

 

 

(滅竜魔導士、かな?)

 

 

 元より、滅竜魔導士のナツやガジルに対して、カイトは他の一般人に対するような嫌悪感はない。どこか人とは乖離した、どこか親しみを覚えるような独特の雰囲気があるのだ。

 しかし、だからと言って気安く話しかけられるわけではない。むしろ予想だにしない出来事に困惑していた。稀少であるはずの滅竜魔導士の知り合いが3人目。なんともまぁ、我ながら不思議な縁を持ったものだと感嘆を。

 

 けれど、このままでは埒が開かないと心の中でため息ひとつ。笑顔の仮面をかぶって少女の方を向く。

 

 

「やあ、こんにちは♪化猫の宿の人だね♪お名前はなんていうのかな?」

 

「は、はい!わ、わわ、わわわ‼︎」

 

 

 突然話しかけられたことに驚いたのか、ワタワタと慌て出す少女。なぜこんな子1人で連合に参加したのだろうと不思議で堪らない。呆れる声を抑え、少しでもリラックスさせようと思い、こちらから名乗りをあげる。

 

 

「ああ、申し遅れたね♪俺はカイト。よろしくね♪」

 

「あ!う、ウェンディです!よろしくお願いします‼︎」

 

 

 差し出された手を握る事なく、綺麗なお辞儀を見せるウェンディ。出した手を引っ込めてから笑いを零し、話を続ける。

 

 

「そう畏まらなくても大丈夫だよ♪俺たちは今回、同じ目的を持つ仲間なんだ。気楽に行こうよ♪」

 

 

「そ、そんな!あのフェアリーテイルの人に、そんな事‼︎」

 

「………どんな悪名を聞いてるんだい?」

 

「そんな!悪名だなんて‼︎むしろ、大ファンなんです‼︎」

 

 

 先ほどとは打って変わって、鼻息を荒くするウェンディ。()()()()()()()()()()、と言われて警戒したが、どうやら別の意味で緊張していたようだと一安心。大方、ギルド内でも人気の高いミラジェーンやエルザのファンなのだろうとたかを括り、見てくださいと渡された雑誌を流しみる。

 刹那、見なければよかったと後悔した。

 

 

「あのっ!私、フェアリーテイルの方の中でも道化さんが特に大好きで!すごく憧れてるんです!」

 

 

 雑誌に掲載されていたのは、いつの日かの道化(自身)の写真。【激写‼︎噂の道化‼︎】という見出しと一緒に月明かりに照らされた一枚。それだけならばまだ飲み込めただろう。続いて出されたノートには雑誌の切り抜きがずらりと。無論、自身以外の写真も多々あるが、先程の雑誌を見た後だと否が応でも目立ってしまう。

 いつの間にすっぱ抜かれたのだろうと言う後悔半分、饒舌にフェアリーテイルの良いところを話し出すウェンディの変貌に驚き半分と言った調子で思わず笑顔が固まってしまう。

 

 延々と、それこそ嬉々として語るウェンディの言葉を右から左へと流していれば、ようやく目的地についた馬車が停まる。

 鬱蒼と茂る森の中、窓枠や壁など目立つところにハートを散りばめた屋敷に悪趣味だと思いつつも、そちらへ促す。

 

 

「あ、あー。ほら、ウェンディちゃん。到着したみたいだよ?だから、サインはまた今度ね?」

 

 

 ちょうど記念にサインを、と強請られていただけに安堵の気持ちが強い。少し残念そうに返事をするウェンディを先に降りると、ふと荷台でゴソゴソと動く白い塊。それが何なのかはわからないが、取り敢えずの害はないだろうとそっぽを向いて屋敷に入る。

 

 

「やぁ、皆さん♪お揃いでぶぁ⁉︎」

 

「遅い‼︎」

 

 

 先程の鬱屈を発散させようと、少しでも明るく登場してみれば返ってきたのは拳。言うまでもなくエルザである。殴られた顔が凹んでないか触って確認していれば、仁王立ちのエルザがカイトを睨む。

 

 

「まったく、どこでほっつき歩いていた?」

 

「いや、普通に馬車に乗ってきたよ?化猫の宿と一緒なんだから遅くなるに決まってるじゃないか」

 

「言い訳するんじゃない」

 

 

 思わず「酷くない⁉︎」と叫びたいが、言っても無駄だろうと諦めてため息を溢す。エルザの気が悪いのは恐らく、彼のせいだろうと視線をそちらに向ける。

 見た目は悪趣味だが、内装は反して豪華絢爛。敷き詰められた絨毯は柔く、備えられたテーブルや椅子は職人の手によって作られたオーダーメイド。用意してある飲み物も水で薄めたようなものではない。そんな空間の中、良くも悪くも異彩を放つものが1人。

 

 堀が深い大きな顔が目立ち、そのせいかただでさえ低い身長がより小さく見える、お世辞にも整っているとは言い難い体型の持ち主。

 来ているスーツは一級品だが、その側にある3人のタイプの違うイケメンに囲まれていると、体型も相まって服に着られている感の強い男性。

 彼こそ青い天馬のエース、一夜。カイトの数少ない、ギルド外の友人である。

 

 以前ギルド交友会で出会った時からエルザはあまり好意を抱いておらず、身代わりにと差し出された結果、仲を深めたのだ。

 人の美醜に疎いカイトではあるが、確かに一夜は見てくれは醜いのであろうとはわかる。けれど、それを補って有り余る実力と心の持ち主であり、そこがカイトは気に入っていた。

 

 

「やぁ、一夜♪元気だった?」

 

「おお!我が友よ!無論、元気だとも!君も元気そうでなにより」

 

「それで、化猫の宿からは君か」

 

「は、はい!ウェンディです!」

 

「あ。ほっとくのね……」

 

「関わりたくねぇんだろーな……気持ちはわかるが」

 

 

 カイトと一夜の再会を捨て置いて、後から入ってきたウェンディに注目するエルザ。ルーシィとグレイの辛辣な言葉はさておき、まさかこの様な大掛かりな作戦に年端も行かない子供1人が参加とは思っておらず、周囲は騒つく。

 

 

「こんなお子様1人よこすなんて、化猫の宿はどういうおつもりですの?」

 

「あら、1人じゃないわよ。ケバイお姉さん」

 

 

 思わずと言った調子で蛇姫の鱗からの参加者であるシェリーが苦言を漏らせば、そこに差す影一つ。現れたのは可愛らしい服に身を包んだ白い猫。言葉を発する点もそうだが、二律歩行している、鋭い視線を張り巡らせる猫。

 

 

「シャルル!ついてきたの⁉︎」

 

「当然よ。アナタ1人じゃ不安でしょうがないもの」

 

 

 鋭い表情に似合った、鋭いセリフ。どうやらウェンディの仲間らしい。同族なのだろうか、とちらりとハッピーを覗けば、どうやら一目惚れでもしたらしく、熱い視線を送っていた。白い猫、シャルルの方はそんな気は微塵もなく無視されているが、どうやら気にしてはいないらしい。

 

 

「ウェンディ………」

 

「おや?見覚えでもあるのかい、ナツ?」

 

「どこかで聞いたことあるような、ないような………」

 

 

 珍しく頭を悩ませるナツ。暫くうんうんと唸るが、諦めたらしくカイトに助言を乞う。

 

 

「思い出してくれねーか?」

 

「カッカッカ♪君のそういうとこ、好きだよ♪」

 

 

 当然ながら、他人の記憶など思い出せるわけもない。ひとしきり笑った後、ちらりと集まったメンツに目を向ける。

 

 蛇姫の鱗からは先程の苦言を漏らしていたシェリー。かつてグレイと同じ師の元で魔法を学んだリオン。聖十大魔道の称号の最近下賜された岩鉄のジュラ。

 

 青い天馬からは一夜を始め、爽やかな印象のヒビキ、幼さを残すイヴ、浅黒い肌に切れ目のレン。誰もがギルド内ではトップの実力派である。

 

 化猫の宿からはウェンディにシャルル。シャルルは兎も角、ウェンディの実力は未知数。本人曰く、攻撃魔法よりもサポートの魔法が得意とのこと。

 

 そして、フェアリーテイルからはナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、ハッピーに自身を加えたご存じ最凶チーム。

 

 これはどうなることやら、と内心期待しながら、トイレから帰ってきた一夜から今作戦の説明を受ける。

 

 

「ここから北に行くとワース樹海が広がっている。古代人たちはその樹海に強大な魔法を封印した。その名はニルヴァーナ」

 

「ニルヴァーナ?」

 

「聞かぬ魔法だ」

 

「ジュラ様は?」

 

「いや、知らんな」

 

 

 誰もその魔法を知らず、そして青い天馬もその全貌は掴めていない。ただ、強力な破壊魔法ということしか判明していないのだ。けれど、六魔将軍がその地に集結したのは十中八九その魔法を手に入れる為。それを阻止、そして討伐するのが今作戦の概要である。

 

 

「こっちは13人、敵は6人。だけど、あなどっちゃいけない。この6人がまたとんでもなく強いんだ」

 

 

 ヒビキの解説と共に中空に現れた6枚の画面。それぞれに人物が写っており、それが今回のターゲットだということが伺える。

 

 

「毒蛇を使う魔導士コブラ。その名からしてスピード系の魔法を使うと思われるレーサー。天眼のホットアイ。心を覗けるという女エンジェル。名前しか情報が掴めなかったミッドナイト。そして奴等の指令等ブレイン」

 

 

 それぞれが1人でギルドのひとつくらいは潰せるほどの実力を持っており、少なくとも一対一で戦わず、数の利を活かした戦闘をしなくてはいけないのだ。

 戦闘が苦手な面々がいるが、しかし今作戦の要は戦闘だけにあらず。まだ補足はされていないが、樹海には仮設拠点があると推測されており、可能な限りの敵をそこに集めてしまえばいい。

 

 その後は青い天馬が誇る魔導爆撃艇クリスティーナによる空中爆撃で決着をつけるのだ。主に戦争に用いられる爆撃艇を一ギルドに使うのは異例中の異例。けれど、そこまでしなくてはならない相手だということなのだ。

 

 

「おしっ‼︎燃えてきたぞ‼︎6人まとめてオレが相手してやるァー‼︎‼︎」

 

 

 作戦を聞いて顔が青褪めるルーシィはさておき、テンションの上がったナツが全く作戦を聞いていないようなセリフを吐きながらいの1番に樹海へと向かう。それに続くように各メンバーも足早にその場を後にして、残るのはジュラと一夜、カイトの3人。

 

 

「やれやれ」

 

「メェーン」

 

「カッカッカ♪いやぁ、何はともあれ作戦開始だねぇ♪」

 

「そうだな。我々も行くとしよう」

 

「そうだね♪その前にーーー」

 

 

 ジュラが脚を踏み出した瞬間、両腕に混沌ノ鎧を展開したカイト。刹那、背後にいた一夜に拳の一撃を食らわせる。

 

 

「カイト殿⁉︎なにを⁉︎」

 

「カッカッカ♪まぁ、見てなよ」

 

 

 カイトの奇怪な行動に思わず戦闘態勢に入るジュラだが、吹き飛ばされた一夜の姿を見て固まる。床に転がる一夜が淡く光ったかと思うと、その姿が一転、2体のぬいぐるみのような姿へと変化した。

 

「なっ⁉︎」

 

「あーあ、バレちゃったゾ」

 

 

 ジュラの驚愕を他所に、緊張感を感じさせない声で、仕方がないという感情がない音で、1人の女性が階段から降りてくる。見間違うはずもない、先程紹介されたエンジェルがそこにいた。

 

「バレちゃったね」

 

「ねー」

 

「はいはい、お喋りはそこまで。それにしても、何でバレちゃったんだゾ?ジェミニのコピーは完璧なはずだゾ」

 

「カッカッカ♪星霊の気配には敏感でね♪」

 

 

 吸血鬼性が上がったせいなのか、星霊の気配というものをカイトは感じられるようになっていた。気配、というよりも匂いに近い。嫌悪感を抱くような、酷い匂いを。

 幸い、ルーシィの持つ星霊に対しては抑えられているが、やはりそれ以外となると顔を顰めたくなるほどだ。

 

 答えを聞いたエンジェルは興味なさげに「ふーん」と応えると、そばにいた星霊を閉門する。続け様に星霊を召喚する様子はなく、かといって投降する様子もない。

 

 

「おや、観念するつもりかな?」

 

「油断するな、カイト殿。何か隠しているやもしれん」

 

 

 カイト、ジュラがそれぞれ戦闘態勢を整えるが、エンジェルの余裕の表情に翳りなし。何か奥の手があるのやもと2人ともより一層エンジェルに注視する。

 

 

「そんなに睨んでも、何も怖くないんだゾ。それに、ジェミニのコピーでアナタたちの作戦は丸わかりなんだゾ」

 

「カッカッカ♪だからと言って逃すわけないだろう?」

 

「逃げる必要なんてないんだゾ。だってアナタたち」

 

 

 

 

 

 

 

「もう終わってるんだゾ」

 

 

 

 

 

 何を、と二の句を告げる前に感じる脇腹からの灼熱。実際に熱されたわけではなく、丸太のような赤黒い甲羅と多数の節と足を持つ何かがカイトの腹を貫き、そして背後のジュラを拘束していた。

 

 

「ぐぉおおっ‼︎」

 

 

 骨が折れる音がして、気を失うジュラ。エンジェルが動いた様子はない。伏兵が潜んでいたことに今更気づき、せめて六魔の一角に一矢報いようと腕を振り上げるが、背後から飛んできた何かがその腕を引きちぎる。

 視界に入った事でようやくその姿を視認できたのはムカデ。しかし、大きさは規格外であり、どう少なく見積もってもその全長は人の身を軽々と越している。

 

 

「はぁ……。人使いの荒い連中だ、まったく」

 

「そう邪険しないで欲しいゾ。働いた分、報酬は出すんだゾ」

 

「それは何より」

 

 

 階段から悠々と現れたのは紫色の髪を乱雑に纏め、少し黄ばんだ白衣に身を包む男性。だらしのない服装に反した淡麗顔つきは心底面倒だと言わんばかりに歪められており、メガネの位置を直しながらも嫌悪感を隠そうともしない。

 カイトの腕を貪るムカデをひと撫でし、倒れ伏すジュラとカイトを一瞥する。まるで観察するかのような、何の感情も秘められていないその視線はすぐさま興味が失せたとばかりに外され、エンジェルに向けられる。

 

 

「ここでの仕事は終わりだろう?さっさと僕本来の仕事に戻らせてもらう」

 

「はいはい、わかってるゾ。まったく、態度が大きすぎるゾ」

 

「ふん。僕は君たちの傘下ではなく、あくまで協力者だ。媚びへつらうつもりはないと言った筈だ」

 

 

 最早こちらのことなど眼中にないとばかりに交わされる会話。その隙を突こうにも、カイトの視界は二重三重に振れており、末端が痺れて酷い脂汗が流れる。

 

 

(くそっ、毒か……っ!)

 

 

 吸血鬼の回復能力は万全ではあるが、しかし万能ではない。あくまで身体の傷を回復させるだけであり、毒のように体内に残留するものには効果がないのだ。

 対処としては解毒魔法を使うか、耐性が出来るまで死に続けるかの2択。解毒魔法はカイトに使えず、取れる手段は耐性ができるのを待つしかない。完全に詰みである。

 

 

「邪魔はさせないゾ、光の子たち。邪魔する子は天使(エンジェル)が裁くゾ」

 

 

 最後にエンジェルの言葉を聴いて、カイトは倒れ伏すのであった。

 

 

 

 

 

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