FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜 作:桜大好き野郎
六魔討伐より先に、ウェンディとハッピーの救出とこととなった一行。
位置情報や各員との連絡の取れる青い天馬のヒビキと戦闘には向かないとのことで残ったルーシィ。そして各々のギルドに別れ樹海の中を捜索する。
無論、カイトが襲われた白衣の男という存在もあり、森の中には他の協力者ないし、傘下のギルドが待ち構えている可能性は存分にありえる。
だが、今回集ったのは各ギルドの精鋭たち。苦戦はするかもしれないが、負けるとは微塵も思っていない。万が一六魔と遭遇した時は撃退はせず、逃走か時間を稼ぐことが推奨されているが、寧ろ返り討ちにしてやると一部は息巻いていたのは当然といえよう。
「さぁ、早く行こう!友よ‼︎」
カイトを先導する一夜。本来であればギルドの仲間と共に行動する予定だったのだが、いかんせんカイトは乱戦となると多くの手札を失うことになる。その点、一夜の香り魔法との相性は良く、戦意喪失の
意気揚々と先頭を走る一夜とは反対に、カイトの気は晴れない。六魔にしてやられたこともそうだが、何より頭痛が酷いのだ。はじめは毒のせいだと思っていたが、時を追うごとに増す痛みに思考を乱され、正直捜索どころではない。
しかし、そうも言ってられないのが現状。動ける人員を動かさなければ事態は好転しない。
(しっかし、気味の悪い森だねぇ)
故郷の霧の谷が先の見えない恐怖を駆り立てるとすれば、ワース樹海は肌に纏わりつくような粘つく恐怖とでも言うのだろうか。もがけばもがくだけ呑み込まれるような底なし沼のような、気持ち悪さがそこにある。
一夜を見るに何の影響も見られないことから、この感覚は己自身しか感じていないのかもしれないと仮説を立てる。では何の影響なのかと考えようとして、また頭痛が疾る。苛立ちのまま小さく舌打ちをすれば、何かを発見した一夜が声を上げる。
「おお!見よ、友よ‼︎」
一夜が指差す先、そこにあるのは黒く染まった一本の樹。明らかに不自然なそれは先端に当たる部分から黒いモヤのようなものが出ており、より一層周囲との違和感を醸し出していた。
モヤの行先は樹々に阻まれて確認できないが、どうやら樹海の奥の方に向かっているようだ。一夜が恐る恐る近づき匂いを嗅げば「メェーン‼︎」と声を上げて顔を顰めていた。
「な、なんという強烈な負の
「一夜、しっかりしておくれ」
あまりの匂いに倒れる一夜を引っ張り起こし、カイトは黒く染まった樹を注視する。見ているだけで不愉快感を抱く樹に生命の気配はなく、かと言って葉や木肌が枯れているわけではない。それこそ、魂だけを抜かれたような状態だ。よくよく見ればその樹木以外にも黒く染まったものがあり、どれも一様に同じような状態である。
六魔の誰かがやった、と考えるのは難しい。樹々の魂を抜いたところで意味を成さないからだ。
では、原因はなんだと痛む頭を無理やり思考させて、仮説を立てる。
「…………一夜、ニルヴァーナについて何か知ってるかい?」
「む?いや、作戦会議でも言った通り、強力な破壊魔法という事しか知らないな」
「そう……」
この地に封印されているニルヴァーナは破壊魔法ということもあり、もしや魂をエネルギーとして貯蔵しているのでは?と考えたが、その線は低いだろう。いくつかある仮説の中では確立の高い方ではあるが、これが正しかったところで対抗策を練ること自体不可能だ。
(あぁ、もう。面倒だなぁ)
できることなら頭を掻き乱して転げ回りたい気分だが、そうしたところで何も成さないと自身の中の冷静な部分がそう告げる。
それに樹木のことも気になるが、まずはウェンディの救出並びにエルザの解毒だ。
「一夜、今はとにかくウェンディちゃんが最優先だよ。エルザが危ない」
「そうだ!こうしてはおれん!うぉおおおお‼︎待っていてくれ、マイハニー、エルザさーーーーん‼︎」
「あ、一夜。そっちは」
カイトの言葉に触発されてか、一夜は走り出す。ご丁寧に自身の速度を上げる俊足の香りの魔法を使って、それこそ風のように走り出す一夜。
しかし、その先にあるのは崖である。
「メェーーーーーーン‼︎⁉︎」
「崖だよ………って遅かったかぁ」
当然、一夜は飛べるはずもなく、カイトが注意を促すよりも早く崖から落ちてしまった。幸い、そこまで高度があるわけでもなく、下も青々とした樹々で埋まっている。怪我はしているだろうが、放っておいても大丈夫だろう。
(…………ん?いやいやいや)
ふと、一夜を見捨てる選択肢が出てきてカイトは頭を振る。確かに死んではいないだろうが、下手をすれば歩けないほどの重傷を負っているかもしれない。それに、数少ない友を見捨てることなどできるはずもない。
助けに行こうとは思っている。心配する気持ちも本物だ。けれど、カイトの身体はそこに縫い付けられたかのように動こうとしない。
(助けに………いや、友達って言っても所詮向こうは人間だし………いやいや、だからこそ助けに行く………価値があるかなぁ)
ぐるぐると思考が巡る。二転三転としても定まらない結論。早く助けねばと叫ぶ良心を封殺する冷徹な心。
頭がガンガン痛み出して、耳鳴りがうるさくて、視線が虚いだして。そうして崖を覗く形で固まっていれば、いつの間にか周囲に人が集まり始める。六魔が妨害のために用意した傘下の闇ギルドだ。
「おいおい、正規ギルドがこんなとこでなぁにしてんだぁ〜?」
「大人しく帰った方がいいんじゃないかなぁ〜?」
「ま、大人しく帰すわけねぇんだけどな‼︎」
ゲラゲラと笑う声が耳障りで、周囲を囲う人の気配が鬱陶しくて、呼吸の音でさえ気に障って。そうして何かがぷつんとカイトの中で何かが切れた。
ぐつぐつと煮えたぎる怒りが身体を駆け巡り、顔から力が抜けて、あれほど痛んだ頭痛が急にクリアになる。
「じゃ、てめぇも落ちなぁ‼︎」
1番近くにいた人間の振り上げた武器がカイト目掛けて振り下ろされる。それが酷くスローモーションに見えてーーー
ふわりと、自然に、
◇◆◇◆
「ぎゃほっ?」
ワース樹海の片隅で、一人の男が目を覚ます。男の名はザトー。六魔の傘下である
なぜこんなことになったのかと思い出せば、脳裏に浮かぶのはナツとグレイの姿。その2人に叩きのめされたことを思い出す。
「くそっ、あのクソガキ共がっ‼︎おい!さっさと起きろ、テメェら‼︎」
たった2人に自らのギルドを壊滅させられたという怒りが湧き、自然と拳が震える。足元に転がるメンバーに蹴りを入れながら起こし、お礼参りの準備を進める。このまま舐められたままでは示しがつかない上、何より六魔将軍の怒りを買ってしまう。そう考えただけでぞくり、と背筋が震えて恐怖に頭が支配される。
「ザトー兄さん、無事か⁉︎」
「ああ、無事だぜ。ガトー兄さん」
「ヨシ‼︎テメェら、早くさっきのガキ共見つけ出すぞ‼︎じゃねえとオレらが殺される‼︎」
「ああ、無事だせ。ガトー兄さん」
「それはさっき言ったぜ、ザトー兄さん」
「ああ、そうかい。ガトー兄さん」
いつも通りの2人のやりとりを挟み、メンバー共々痛む体に鞭打ってすぐさま捜索をば、と動き出そうとした時だった。
「おやおやぁ?まだいたのか」
背の高い樹々に覆われた樹海に響く、呑気な声。だというのにその場にいた全員が身体を震わし、何事かとそちらに視線を向ける。
そこにいたのは吸血鬼と化したカイトの姿。目に見えてわかる異形。芯から凍えるような恐怖の体現者。たった一言だけしか発していないのに、あろうことが全員が怯えて言葉が出せないでいた。
「っぷ……と。流石にもう呑めないしなぁ。さて、どうするか」
「ヒぃっ⁉︎」
「っ⁉︎やれェエ‼︎‼︎」
口を開くたびに匂う、濃厚な血の香り。それが堪らなく恐ろしくて、近くにいた人間が気絶する。それを合図に気を取り戻したガトーの命令に、全員がカイトに襲い掛かる。この恐怖をなんとかせねばと。この不安の種を取り除かねばと。
しかし、対するカイトは構を取ることなく、絶対零度の視線を向ける。それは家畜に反撃されたような煩わしさからくる怒り。敵うはずもないという驕り。生者に対する死者の怨念。
「人間風情が………。生意気だよ」
刹那、カイトの口から発せられたのは言葉にならない異音。ガラスを引っ掻くような、フォークで皿を引っ掻くような、不愉快な音を集めて混ぜたかのような不快な音の集合体。
それだけ、たったそれだけでその場にいた全員が白目を剥いて気絶した。
「魔法のひとつでこの有様だなんて………あー、いやいや、違う違う。何してるんだ、俺は」
頭を振って冷静さを取り戻そうとして、それでも思考がどんどん冷えていくのを感じる。ガトー達を気絶させたのは混沌魔法のうちのひとつ、
それを何の躊躇いもなく使った自分自身の判断が信じられず、正気に戻ろうと頭に腕を突っ込んで脳を掻き回したりするが、それでも思考に熱は戻らない。まるで霧の谷を抜け出した時のようだ、と口の中で転がして、腕を抜く。
見る者全てに憎悪して、恨んで、傷つけていた幼少期の自分が身体を動かしているような違和感、自分で自分を抑えられない無力感が胸の中で渦巻くが、それもすぐに嫌忌の中に飲み込まれる。
ため息ひとつ溢して、カイトは歩き出す。普段であれば彷徨うはずのカイトの足取りは、しっかりと確実に、六魔が仮説拠点としている古代人の集落を目指していた。
◇◆◇◆
どくん、どくん、と心臓が早鐘を打つ音が嫌に耳に響く。
握った拳がわなわなと震え、頭に血が昇る。
口の中がカラカラに乾き、舌が回らない。
けれど、一言。その一言だけがすんなりと音となり、空気を震わす。
「ジェラール………」
ナツとグレイ、シャルルの3名で捜索を行い、途中六魔のひとりレーサーの妨害がありつつも、グレイに任せてやっとウェンディの元にたどり着いたナツとシャルル。
けれど、待ち構えていたのは勝利を確信したようにほくそ笑むブレインに、泣きじゃくるウェンディ、怯えるハッピー。そして、楽園の塔で死んだはずのジェラールの姿。
「ごめん……なさ………この人は私の、恩人………な、の……」
「ウェンディ‼︎あんた治癒の魔法使ったの⁉︎何やってんのよ‼︎その力を無闇に使ったら‼︎」
「ウェンディ‼︎」
涙を流しながら謝罪するウェンディ。それを叱責するシャルルだったが、限界がきたのだろう。気絶してしまったウェンディに駆け寄るハッピー。けれど、ナツの視線はジェラールから離れない。
「な、なんでお前がここに………‼︎」
脳裏に浮かぶは楽園の塔での出来事。ゼレフ復活のためにエルザを悲しませ、シモンを殺した悪行の数々。
「ジェラァァァアアアアアアアアアル‼︎‼︎」
拳が炎に包まれ、何の感情も感じられないジェラールに向かって突進するナツ。けれど、ジェラールが手をかざして撃退しようとした寸前、洞窟の入り口が爆発した。
その音に一瞬全員が止まり、そちらを反射的に振り向く。
「あ、あー………うん。ここで合ってる、よね?」
「カイト………」
そこにいたのは吸血鬼の姿となったカイトの姿。爆発したと思ったのは高高度からの着地の音だったのだろう。洞窟が埋まっているようなことはなく、代わりにその場が陥没していた。
カイトは周囲を見渡し、突然のことで呆けるナツを見ると何かを思い出したように手を叩く。
「そう、君はナツだ。横にいるのがシャルルで、奥にいるのはハッピーとウェンディちゃん。そう、そうだよ、ああ、君たちは味方だったはずだ」
「お前、何言って………」
「ナツ………?」
人知れず様子のおかしいカイトに警戒するナツ。確かにカイトはふざけた事をするし、下手な笑みを浮かべて誤魔化したりもする。けれど、一瞬とは言え仲間に敵意を向けることなどしない。
偽物の可能性を疑うが、ナツの鼻は正確にカイトの匂いを嗅ぎ分けている。間違いなく本物のカイトだ。そうしてジェラールの方に視線を向け頭を捻るカイト。
「ふむ……奥の君たちに見覚えはない。つまりは敵ということか。うんうん、そうだ、そうに違いない。………ああ、ダメだ。ごめん、ナツ、逃げてくれ‼︎」
「おわっ‼︎⁉︎」
突然カイトの姿がブレたかと思うと、次の瞬間にはカイトの爪がナツに襲いかかっていた。間一髪の所で飛び退いて躱すが、困惑は大きい。
「何すンだよっ‼︎」
「ああ、くそ。君誰だっけ?身体が言うこと聞かないんだよ。うるさい、死ね」
支離滅裂な言葉を発しながらカイトの爪に魔力が集まる。そうして横薙ぎに放たれたのは混沌ノ爪。壁に刻まれた爪痕からは手加減した様子など微塵も感じられず、地面を転がって躱したナツの頬を一筋の汗が流れる。
「なんだ、仲間割れか?他所でしてもらいたいものだな」
「ナツ……エルザ………」
「どうした、ジェラール。早くニルヴァーナの封印をーーーなにっ⁉︎」
ナツという単語を聞いてから頭を抱えるジェラール。見かねたブレインが声をかけた瞬間、足場がジェラールの魔法によって崩された。穴に落ちてゆくブレイン、そしてこの場で最も危険だと感じたのだろう。カイトがそちらに意識を向け、一足飛びでジェラールと相対する。
「オイ、カイト‼︎」
「後にしなさい!今はウェンディを連れて帰ることの方が重要でしょ‼︎エルザを助けたいんでしょ‼︎」
「〜〜〜っ‼︎わかってんよ‼︎‼︎ハッピー‼︎」
「あいさー‼︎」
様子のおかしいカイト、そして怨敵とも言えるジェラール。その2人を見逃すことに強い抵抗を覚えるナツだが、シャルルの言も最もである。シャルルがウェンディを、ハッピーがナツを抱えて洞窟を飛び出す。
「………君が誰かはわからない。けれど、どいてくれ」
「カッカッカ♪奇遇だね、俺も君が誰か知らないよ」
ジェラールの掌から放たれた魔力の直撃を受けても、怯むことなく襲い掛かるカイト。繰り出される魔法や物理攻撃を躱すジェラールは流石の一言に尽きる。けれど、相手は人外。その動きは常人のそれではない。
「
「くっ‼︎」
狭い空間を四肢を駆使して駆け巡り、不意を突いたカイトの一撃がジェラールを襲う。だが、それは読まれていた出来事。攻撃の直後で硬直した一瞬。その一瞬の内にジェラールから放たれた濃密な魔力がカイトを襲った。
その一撃はカイトを壁に押しやり、そして天井の一部を破壊してカイトを生き埋めにした。後に残されたジェラールは荒く肩で息をすると、踵を返して外へと足を向ける。
(あぁー、くそ。ダメだね、コレは)
ジェラールが去り、穴に落ちたブレインが這い出してジェラールの後を追い、洞窟内で自身以外の存在を感じなくなったのを確認すると、カイトは必死に積み重なった岩盤から抜け出そうと模索する。
けれど、手足胴体諸共が潰され、顔の半分も地面と同化している中、脱出は至難の技ともいえよう。傷ついたお陰か、それとも死にぞこなっているのが原因かわからないが、思考は嫌にすっきりとしていた。
(さてさて、どうしたものかねぇ)
身動きはとれず、そして脱出してもまた思考がまともな保証もない。第一、捨てた筈の復讐心がまた燃えている原因すらもわからないのだ。
強いて言えば、まるで誰かの怨嗟が流れ込んできたような感覚。外から器の中に水を注がれたかのような、継ぎ足されたような意識。胴が潰れているのに湧き上がる吐き気に辟易しながら、カイトはどうにかならないのかと思考を巡らせるのであった。