FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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祈って願って

 

 

「ふはははははははっ‼︎ついに………‼︎ついに手に入れたぞ‼︎光を崩す最終兵器、超反転魔法ニルヴァーナ‼︎」

 

 

 樹海全体を揺るがす振動と共に、ブレインの歓喜の声が高らかに響く。

 それも無理はないだろう。なにせ念願であったニルヴァーナを手に入れたのだから。

 

 強力な破壊魔法と言われていたニルヴァーナ。その姿は8本の脚で移動する都市の様な姿。都市が移動するとだけあって、その大きさはかつて攻め込んで来たファントムの移動式ギルドよりも遥かに巨大である。石造りとは到底思えない重厚さに加え、大地より魔力を吸い上げて稼働するため実質エネルギーは無限に等しい。

 それだけでも脅威だが、ニルヴァーナの真価は外見だけではない。その魔法は善と悪を入れ替える反転魔法。それも抵抗すら不可能な反則じみた魔法。肩を抱き合い話し合う友人が、愛を語り合う恋人が、団欒を築く家族が、この魔法にかかれば殺し合うほど互いを憎み合う関係と成り果ててしまうのだ。

 

 ジェラールが記憶喪失でありながら、ニルヴァーナに自律破壊魔法陣を組み込むというアクシデントはあったが、かつて魔法開発局に所属していたブレインならばいくら複雑な魔法陣であろうと、その根本から破壊することができる。

 用済みとなったジェラールの行方など、気にもかけない。最早価値もないからだ。

 

 

「正規ギルド最大の武器である結束や信頼は今!この時をもって無力となる‼︎‼︎」

 

「ついにやったな‼︎ブレイン‼︎すげぇ‼︎これが古代人の遺産………キュベリオス、すげぇぞ、こりゃ」

 

 

 高らかに勝利を確信するブレイン、そして眼下に広がる古代人の都市を眺めるコブラ。移動する城塞都市、それがニルヴァーナの正体である。ブレインたちがいるのはその中心部であり操縦席である塔、通称王の間。離反したホットアイを除けば最早3人となった六魔将軍であるが、些細なこと。ブレインの脳裏には輝かしい未来が描かれていた。

 その時ブレインたちの背後からぱちぱちと、気の抜けたような拍手が鳴る。

 

 

「念願成就おめでとう、と言ったところか?」

 

 

 そこにいたのは白衣の男ベル。苛立ち隠さない表情で、ここまでの足としていたのだろう、腰掛けていた巨大ムカデから降りてブレインに近づく。

 

 

「テメェ、今更なんの用だ?」

 

「黙っていろ、蛇男。僕はブレインに用があるんだ」

 

 

 ブレインの側に控えていたコブラがガンを飛ばして威圧するが、対するベルも絶対零度の視線を向ける。しかし、ブレインが「よい」と指示を出せば、舌打ちひとつ飛ばしてコブラが下がる。

 

 

「して、どうした、ベルよ。我らが祈願は成された筈だ」

 

「そう、貴様たちの目標だ。………なぜあの男、ジェラールを復活させた?封印の解放は僕に任せた筈だろ?」

 

 

 ベルが苛立つ原因は一点、自身に任された筈の仕事を横取りされたからだ。ベルの目的はニルヴァーナの存在の証明、並びに古代人の遺産の調査。故にニルヴァーナの解放は別に六魔将軍でなくともよかったのだ。

 今回は偶然目的が一致しただけであり、六魔に対する仲間意識など持ち合わせていない。だからこそ事前にブレインと魔法契約を交わしている。

 

 内容を要約すれば

 1.互いを害することを禁ずる。

 2.外部からの敵性勢力に対し互いに協力し合う。

 3.契約の完了はベルのニルヴァーナの十分な調査を終えてからとする。

 以上の3つのうちひとつでも違えば契約に判を押したブレインかベルに死の制裁が加わるのだ。

 

 だからこそベルは気に食わない。ブレインの行動は契約に引っかからず、ブレインの描いた絵図の上にいることを。

 

 

「ふっ。知れたこと。万が一に備えての保険だと言った筈だ」

 

「そんな言い訳が通じると思うのか⁉︎」

 

「通じるとも。うぬにはそれしか道がない」

 

 

 ブレインに言われなくともベルもわかっている。癇癪のまま攻撃しても益はなく、それを呑み込むしかないということを。出来ることなら自分の手でニルヴァーナの復活をと目論んでいただけあって、失望と苛立ちがベルの胸の中で渦巻く。

 

 

「それよりも、うぬの仕事はどうした?ニルヴァーナの調査があるのだろう?」

 

「っ‼︎わかっている‼︎だが、これ以上の邪魔は容赦しないからな‼︎」

 

 

 捨て台詞ひとつ飛ばして、ムカデに乗るとそのまま塔を降るベル。

 

 

「チッ!ムカつく野郎だ。ブレイン、なんであんな奴を協力者にしたんだよ?」

 

「ふっ。コブラよ、あやつの魔法を知っているか?」

 

「ああ?確がデッケェ蟲を召喚するんだろ?」

 

「否、それは違う。あやつの魔法は蟲を産み出すのだ」

 

 

 ベルの操る魔法“蠱毒”は蟲を産み出す魔法。通常であれば精々が蝶や蜘蛛など、よく知るサイズのものしか生み出せない戦闘には向かない魔法。けれど、ベルはその魔法を根本から改造したのだ。

 魔法陣の仕組みを書き換え、魔力の流れを新たに作り出し、そして出来上がったのが人のサイズを優に超える毒虫の生成。毒の種類はいくつも有り、何より生半可な魔法では蟲は止められない。そして魔力の続く限り蟲は産み出される凶悪な魔法。

 

 その言葉を聞いてコブラはぞっとする。毒の滅竜魔導士であるコブラならば相性はいいが、しかし物量戦に持ち込まれたらと思うと勝利できるかわからないからだ。

 

 

「ワシから言わせれば、奴は自尊心の高い阿呆よ。しかし、その殲滅能力の高さには目を見張るものがある。それを上手く使えるのであれば使うしかあるまい」

 

「はっ!利用するだけ利用するってことか」

 

「あくまで協力関係であれば後腐れもあるまい。では、光崩しを進めるとしよう」

 

 

 ブレインが杖を一振りすれば展開される数多の魔法陣。それらが連結し、動力部に接続されるとニルヴァーナは動き出す。最初の犠牲者は既に決まっている。目標に向けてブレインはニルヴァーナの歩みを進めさせる。

 

 

「進め‼︎古代都市よ‼︎我が闇を光へと変えて‼︎」

 

 

 高々と声を上げるブレイン。その真上にひとつの影が舞い降りる。

 

 

「オレが止めてやるァアァアァアッ‼︎」

 

 

 炎を吐きながら飛来するナツ。その背中にはハッピーの姿。かくして命運を分ける戦いは始まるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

 ニルヴァーナの一角。外周部に位置するそこでシャルルは荒い息を立てていた。

 

 

「ごめんね、シャルル。無理させちゃって」

 

「私の事はいいの。それよりアンタ、こんなトコまだ来てどうするつもりなの?」

 

 

 側にいるのはウェンディ。戦闘能力はお察しである筈の彼女であるが、それでも無理を言ってここまでシャルルに連れてきてもらったのだ。

 シャルルとしても危険な地面にいるよりはマシだとは思っているが、しかしなぜ頑なにもウェンディがこの場に来たがったのかはわからないでいた。

 

 

「アンタまさか、まだジェラールってのを追って………」

 

違っ‼︎あ、えと………それもちょっとはあるけど………」

 

 

 言い淀んだウェンディを訝しめば、返ってきたのは芯の通った言葉。

 

 

「私、なんとかしてそれを止めなきゃって‼︎私にも何かやれることがあるかもでしょ⁉︎」

 

「………そうね」

 

 

 やる気に満ちた表情でそう言われてしまっては、シャルルとしては言葉を返せない。

 

 

(それに、道化さんならこんな事見過ごさないから)

 

(なんて、考えてるんでしょうね………)

 

 

 ウェンディの憧れである道化ならばこうする、だからそうするという考えはシャルルとしては余り気のいいものではない。それで無茶をされて怪我なんてして欲しくないからだ。いつもなら小言を挟むが、少なくとも落ち込むよりマシだと言い聞かせて眼下に目線を向けた瞬間、ある事に気がつく。

 

 

「ま、まさか………そんな事あるハズ……」

 

「どうしたの、シャルル?」

 

「………この方角、このまま真っ直ぐ進めば、化猫の宿(わたしたちのギルド)があるわ」

 

「え?………きゃあっ‼︎⁉︎」

 

「ウェンディ‼︎⁉︎」

 

 

 ウェンディの顔が驚愕に染まった刹那、闇夜に紛れて足元から現れたムカデがその身に巻きついて拘束する。肌を細かな脚が掴む嫌悪感と突然のことでのパニックにより言葉を失い、そしてキツく締められた胴体から空気が抜ける。

 咄嗟にシャルルがムカデを引き剥がそうとするが、硬質な甲羅はびくりともしない。

 

 

「ふん。これは僥倖と言うべきだろうな」

 

「アンタ‼︎離しなさいよ‼︎」

 

 

 暗闇から現れたのはベル。メガネの位置を直しながら捉えられたウェンディを眺め、そしてシャルルに視線をやる。

 

 

「喋るネコ、か………興味深いな」

 

「聴いてるの⁉︎ウェンディ、しっかりして‼︎」

 

「ぁう……はっ………」

 

 

 軽い酸欠に陥っているウェンディ。けれどベルは拘束を緩めようとしない。どころかその反応を観察する始末である。話が通じないと判断したシャルルがムカデの顔目がけて突撃しようとするが、悠々と躱されるだけである。

 

 

「天空の滅竜魔導士………他の魔導士と比べ、滅竜魔導士は耐久に優れていると聴くが、それはどこまでだ?酸欠からどのくらい耐えられる?毒の耐性はどこまでだ?この拘束から脱出する術はあるのか?」

 

「やめなさいよ‼︎」

 

 

 ムカデの対処は不可能と判断したシャルル。ならば術者をとベルに向かって突撃するが、しかし頭を掴まれて止められてしまう。

 

 

「それにこのネコだ。ネコでありながら二律歩行し、言葉を操り、剰え魔法を使う。これは本当にネコか?ネコに類似した何かの可能性は?中身はどうなっている?………これは論文が捗りそうだ」

 

「む〜っ‼︎むぐ〜っ‼︎」

 

「しゃ………る、る………」

 

 

 酸欠の影響で朧げに映る視界。それでもシャルルが危険な状況だと言うことはわかった。しかし、自身はこの拘束から抜け出せず、また反撃できるような手段も持っていない。

 何もできないこの身がいっそ恨めしいとさえ思ってしまう。それでも何かできないか、何か手段は、と回らない頭を必死に働かせる。けれど思い浮かぶのは走馬灯。ジェラールに助けられ、化猫の宿に拾われ、シャルルと出会った過去の記憶。

 その中で一際強く思い浮かんだのは白い衣に身を包んだ道化の姿。ウェンディの憧れた、弱気を助けるヒーローの様な人。

 

 

た、す……け………

 

 

 人知れず言葉が溢れる。何もできない自分が悔しくて、助けを呼ぶことしかできない自分が恥ずかしくて、失うことが怖くて、大粒の涙を零しながら懇願する。

 

 

助け、て……ど…け、さ………

 

 

 この場にいないはずの人間を呼んでも意味などあるはずもない。苦し紛れに溢れた願い。けれど、思いとは裏腹に、その身体から締め付けられる感覚はなくなり、ふわりと誰かに抱えられた。

 急に入ってきた酸素に咽せ、荒い呼吸のまま朧げな視界で誰なのかを確認する。

 

 

「カイ、ト……さん?」

 

 

 一瞬、ツノのようなものが生えている様に見えたが、瞬きの内に消えてしまう。けれど、ツノの有無に関わらずその表情はどこかぎこちなく、けれどこちらを安心させるように微笑んでいるのであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 助けて、と声が聞こえた

 

 

 無垢なる祈りの声が

 

 

 純粋なる願いの声が

 

 

 救いを求める声が

 

 

 願いを聞くのが神の役目ならば、叶えるのは悪魔(我等)が領分。悪魔(我等)の本懐。悪魔(我等)の使命。

 

 

 ならば、この身は参じねばならない

 

 

 そこに善も悪もなく、請い願う者のために身を焦がす

 

 

 周囲を渦巻く絶望も、怨嗟も、今こそは我が身を動かす燃料に過ぎず

 

 

 悪感情を飲み干して、岩盤を溢れる魔力で破壊し、それをそのまま推進力とする

 

 

 最短距離を、最善策で、最速で駆け抜け、願いの先にいたのは少女の姿

 

 

 それが誰かなど、今は些細なこと

 

 

 拘束する蟲を切り裂き、捕らえられたネコに手を伸ばす

 

 

 腕の中で咳き込む少女

 

 

 苦しげではあるが生きている

 

 

 ………ああ、ようやく

 

 

 ようやく()は誰かを救えたのだ

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「貴様……っ‼︎」

 

 

 怒りに満ちた表情で、侵入者であるカイトを睨むベル。研究対象を奪われたのもあるが、自身の意のままにならない現状に一番腹を立てていた。奥歯を噛み締めて殺意をぶつけるが、当のカイトは何のその。というよりも現状が把握できないでいた。

 

 何か夢を見ていたようだが、それも思い出せず。腕の中で安堵からか涙を零すウェンディと、反対の手で鷲掴みにされてるシャルルの姿、そして敵意を向けるベルがどういう状況なのか説明してくれる。

 なるほど、襲われていたのかと合点していれば、シャルルから嫌味が飛んでくる。

 

 

「ちょっと‼︎いい加減離しなさいよ‼︎」

 

「ああ、うん。ごめんよ」

 

 

 腕の中のウェンディとシャルルを地面に下ろせば、抱き合う2人。よほど切迫した状況だったのだろう。経緯はわからないが、助けられたことには変わらない。人知れず安堵を零し、ベルの方を向く。

 

 

「さぁてさて、このまま回れ右してくれたらこちらとしても助かるんだけどねぇ。どうかな?」

 

「ふざけるな‼︎貴様こそ、その2人を残して消えろ‼︎そいつらは僕の研究対象だ⁉︎」

 

「だよねぇ………はぁ」

 

 

 ベルの手により作り出された新たな巨大ムカデ。それが闇夜に紛れたウェンディたちを奪おうとするが、それよりも早く影の魔法がムカデを捉え、ニルヴァーナの外へと放り出す。

 初戦はエンジェルに意識を向けすぎて不意を突かれたが、手の内が割れた今、その手は通用しない。それがわかったのか更に殺意を強めるベルの手に展開された魔法陣からぞろぞろと数多の蟲が這いずり出す。ムカデやハチ、サソリやクモ。手のひらサイズのものもいれば、見上げんばかりの巨大なものと大きさも様々。共通しているのはそのどれもが毒を持つということ。

 

 

「やだなぁ。嫌いなんだよね、蟲って」

 

 

 軽口ひとつたたいて、その身に魔法を纏う。無数の足や細かい毛の生えた体、無機質な瞳。そのどれもに嫌悪感を抱いてしまう。一匹二匹ならまだしも、視界を覆わんばかりの数を前にして本音を言えば、回れ右してさっさと逃げ出してしまいたい。けれど、そうも言ってられないのだ。

 ちらり、と背後を盗み見て、固まるウェンディとシャルルの姿を確認する。夢は朧げではあるが、しかし確かに聞こえたのだ。

 

 助けて、と。

 

 ならば、手を貸すのも致し方なし。この身はいつだって誰かを笑顔にするために。

 

 

「さぁさ、お立ち会い。これよりは数多の怪物踏み倒し、姫を守る道化の物語………な〜んてね♪」

 

 

 身に纏うは純白は他を拒絶する象徴

 

 黒を穢し、全てを飲み込む表象

 

 誰かが求めた噂話(御伽噺)

 

 

「色々御宅を並べても、結局の所は私怨による復讐劇(リベンジマッチ)なのさ♪」

 

 

 

 混沌ノ道化師(カオス・クラウン)を纏い、仮面の下でカイトは軽快に笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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