FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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マスターゼロ

 

 

 

「カイトさん‼︎」

 

 

 ぽろぽろと、空中で崩れニルヴァーナの上に降る塵芥。離れた場所へ転移したものだから最初は見失ったウェンディだが、空へ舞うカイトの姿を見てからは一目散にそちらへと駆けていた。

 けれども、時既に遅く。ウェンディがたどり着いた頃にはカイトの姿はなく、代わりに塵の一部が山になっているだけで。その光景を見た瞬間、ウェンディは頬に涙を伝わせながら膝から崩れ落ちる。自身が助けを求めたせいだと自責の念に囚われれば、涙の量が増えてしまう。

 

 遅れて到着したエルザやジェラールも絶句し、同時にこれでは復活は不可能だと直感する。ジェラールが震える肩にそっと手を置こうとするが、何を言って慰めるべきかわからず、その手は置き場所を探すばかり。流石のシャルルも今回ばかりは檄を飛ばせず、心配そうに見つめることしかできない。

 

 

「私が……私の、せいで……っ‼︎」

 

「ウェンディ……」

 

「おやおや?なんで泣いてるのかな?」

 

「泣くな、という方が無理だろう。かく言う私も、胸にくるものはある」

 

「カッカッカ♪エルザがそんなとこを言うなんて、明日は槍でも降りそうだ♪」

 

「ちゃかすな。そして生きているなら早く出てこい!」

 

 

 いつの間にいたのやら、エルザの隣にいたカイト。からからと笑いながらエルザを茶化せば、お決まりの如くエルザの拳が顎を貫いた。

 

 

「カイトさん⁉︎」

 

 

 大の字で倒れるカイトに近づき、しっかりと生きていることを確かめるウェンディ。そうして安堵した途端にまた涙が溢れ出し、カイトに抱きついて感謝と感動を表す。困惑するのはカイトの方で、どうすればいいかわからず助けを求めて辺りを見渡せば、エルザは責めるような視線でこちらを睨み、ジェラールは困惑したような視線を寄越し、シャルルは汚物でも見るかのような絶対零度の視線を向けていた。

 なるほど、味方はいないようだと納得すると、上半身を起こして泣きじゃくるウェンディの頭に手を置いて慰めるように優しく撫でる。

 

 

「おーいてて。エルザ、アッパーカットは酷いよ。顎が砕けるかと思ったよ?」

 

「知るか。笑えない事をした罰だ」

 

 

 そう言われてしまってはぐうの音も出ない。痛む顎をさすりながら、ちらりとジェラールに視線を向ける。他の面々に比べ、カイトは別にジェラールに対して恨み辛みを抱いているわけではない。ただ、危険だと思っていた人物がやはり危険人物だった、というだけだ。

 楽園の塔の一件で特に何かされたわけでもなく、結果論としてフェアリーテイルの面々は無事だったからだ。これが癒えない傷を負わせたなどであれば、視界に入れ次第、即刻魔法を放っているのだが、それはさておき。

 

 記憶を失っているせいなのか、以前ほどの覇気も危険も感じず、どころか明らかに弱体化しているジェラールを見て、思うことはない。放って置いても害はないだろう、と放置を決める。

 

 

「それで?どうやってあの状態から回復したんだ?」

 

 

 エルザが指差すのは塵芥の山。それを見てどこか言いづらそうにあー、と言葉を濁せば、早く話せとエルザが睨む。これを無視すれば次は拳が飛んでくると確信したカイトは諦めて事情を説明した。

 

 

「いや、あの状態からの回復は流石に無理だよ?だから、毒が回りきる前に、そのぅ………首をね、切って、ね?」

 

「ウェンディの前で何言ってるのよ‼︎」

 

「理不尽‼︎」

 

 

 あまりにもあんまりな回答にシャルルの飛び蹴りがカイトの顔面にクリティカルヒット。ウェンディが咎めるように声を上げるが、シャルルは悪びれる様子はない。

 再び大の字で倒れるカイトだが、突如今まで揺れていたニルヴァーナがその脚を止める。ニルヴァーナは目的地である化猫の宿に脚を進めていた。それが止まったということはーーー

 

 

「あ、やば」

 

 

 今までの振動とは別に、大地が小刻みに揺れ始める。それはニルヴァーナ正面に付属してある魔導収束砲ジュピター。しかしそのサイズは他よりも一線を期しており、山のひとつやふたつを飲み込むニルヴァーナの隠し玉のひとつ。

 カイトの緊張感のない声と共に、ジュピターは発射される。眩い極太の光が化猫の宿に直撃する直前、ニルヴァーナ後方の脚に衝撃が走り、その軌道が上に逸らされる。

 

 ニルヴァーナごと大きく揺れたそれ。なんとか転げ落ちないように各自足場を確保しながら、上を向く。

 

 

「あれば……魔導爆撃艇、天馬(クリスティーナ)‼︎」

 

 

 そこにあったのは、破壊されたはずのクリスティーナの姿。ぼろぼろの状態ではあり、辛うじて飛んでいるに等しいそれから、砲撃の後だろう、砲門からは煙が吹き出している。

 

 

『聞こえるかい⁉︎誰か、無事なら返事をしてくれ‼︎』

 

 

 突如として頭の中に響く声。その声に当たりをつけたエルザが声を上げる。

 

 

「ヒビキか?」

 

「わぁ!」

 

『エルザさん?ウェンディちゃんも無事なんだね』

 

『私も一応無事だぞ』

 

「カッカッカ♪お互い悪運が強いねぇ、一夜」

 

『先輩‼︎よかった‼︎』

 

「あれ、無視された?」

 

 

 密かに心配していた一夜の安否にほっと胸を撫で下ろして声を上げれば、まさかの無視である。ヒビキとしては憧れの一夜の無事が知れたことに喜びが大きく、気がつかなかっただけなのだがそれはさておき。

 

 

「どうなっている?クリスティーナは撃墜されて」

 

『壊れた翼をリオンくんの魔法で補い、シェリーさんの人形撃とレンの空気魔法で浮かしているんだ。さっきの魔法はイヴの雪魔法さ」

 

「あんたたち………」

 

『クリスティーナの本来持ってる魔導弾と融合させたんだよ……。だけど、脚の一本すら壊せないや。それに、今ので………もう………魔力が………』

 

 

 頭の中に響く声がどんどんと小さくなっていく。彼らも樹海で戦い少なくない傷を負っているのだ。だというのに、ニルヴァーナの封印が解かれた後、身体に鞭を打って駆けつけたのだ。

 

 

「ありがとう、みんな………」

 

 

 自然とウェンディから感謝の言葉が溢れる。けれど、無茶の代償というべきか、徐々にクリスティーナの高度が保てなくなり、ふらふらと蛇行し始める。

 

 

「ッ‼︎カイト‼︎」

 

「流石に射程外だよ」

 

 

 カイトの影で救出を目論むが、流石に魔法の射程圏外。受け止めることは不可能。それがわかっているというのに、ヒビキは更に声を上げる。

 

 

『僕たちの事はいい‼︎最後にこれだけ聞いてくれ‼︎時間がかかったけど、ようやく古文書(アーカイブ)の中から見つけたんだ‼︎ニルヴァーナを止める方法を‼︎』

 

「本当か⁉︎」

 

 

 それは誰もが待ち望んだ情報。食い気味に聴くエルザに、ヒビキは本当だと返す。

 

 

『ニルヴァーナの足のようなものが8本……いや、今は7本か。その足、実は大地から魔力を吸収しているパイプのようになっているんだ。その魔力供給を制御する魔水晶が各足の付け根付近にある。それらを同時に破壊する事でニルヴァーナの全機能が停止する』

 

「同時に?一個ずつじゃあダメなのかい?」

 

『それはダメだ。破損箇所を他の魔水晶が修復してしまう。唯一、カイトくんがしたように根本から切り落とせば回復しないようだけど………アレを何度も放てるかい?』

 

「あー、無理だね。流石に魔力が足りないよ」

 

 

 戦闘前ならいざ知らず、あれほど溢れんばかりに滾っていた魔力は既に量が減り、現在は通常よりもやや使い過ぎた程度の魔力しか残っていない。もう一戦行うならギリギリだが、大技を何度も繰り出せと言われると流石に不可能。

 もし無理やり実行しようとすればそれこそ、この場の何人かの血を吸い尽くさねばならないだろう。

 

 ヒビキも期待はしていなかったのか、『そうだよね………』とどこか悔いの残るような声でそう呟き、説明を続ける。

 

 

『君たちの頭にタイミングをアップロードした。次の砲撃の装填完了する直前だよ』

 

「20分?」

 

「思っていたより短いな」

 

 

 ヒビキの言葉通り、それぞれの頭の中にニルヴァーナの構図、魔水晶の場所、そして時間が流れ込んでくる。エルザの言葉は尤もで、時間的には難しいものがある。けれど、無茶だ無謀だと声を上げる者はいなかった。

 

 

『無駄なことを……』

 

 

 その時だった。不意に頭の中に聞こえる男の声。それは六魔将軍のブレインに似ている。だが、念話越しでも感じる、底冷えするような恐ろしさが含まれていた。

 

 

『オレはゼロ。六魔将軍のマスター、ゼロだ』

 

 

 それはブレインがあまりの凶暴性故に封印した別人格。六魔それぞれに生体リンク魔法を施し、決して表に出ないようにしていた裏の顔。全てを無に帰す破壊の権化。

 六魔全員が倒れ復活を果たしたゼロは悠々と言の葉を紡ぐ。

 

 

『聞くがいい、光の魔導士よ‼︎オレはこれより全てのものを破壊する‼︎手始めに仲間を3人破壊した。滅竜魔導士に、氷の造形魔導士、星霊魔導士………それとネコもか』

 

『ナツくんたちが………?』

 

「そんなのウソよ‼︎」

 

 

 ウェンディの必死の反論だが、今の今までナツたちが反応しない事を見ると納得がいってしまう。エルザが唇を噛み締め、カイトが小さく舌打ちをするが、ゼロは続ける。

 

 

『てめえらは魔水晶を同時に破壊するとか言ったなァ?オレは今、その7つの魔水晶のどれか一つの前にいる‼︎ワハハハハ‼︎オレがいる限り同時に壊す事は不可能だ‼︎』

 

 

 それだけを言うと、一方的にゼロとの念話は途切れる。ゼロに当たる確率は7分の1。しかも、ジェラールやウェンディが当たってしまえば勝負にはならないのは明白。それ以前に、魔水晶を壊せる魔導士の人数が足りないのだ。

 

 

「あーあー、敵さんは勝ちに酔っていて、こっちはこっちで人数不足。念のため聞くけど、ウェンディちゃん。破壊の魔法は使えるかい?」

 

「ご、ごめんなさい……私、使えなくて………」

 

「あー、責めてるわけじゃないよ?仕方がないさ」

 

「カイト、お前は分身を作れた筈だよな?」

 

「できるけど、分身は魔法を使えないよ。さて、残り4人か……」

 

『友よ、何を嘆く。私がいるではないか』

 

 

 頭を悩ませるカイトに、一夜の頼もしい声が聞こえて顔を綻ばせる。一夜本人は現在縛られて身動きが取りづらい状況であるが、そんな事は口にしない。ここで弱音を吐くなど、イケメンではないからだ。

 

 

「あと3人だ‼︎誰か返事をしろ‼︎」

 

 

 そう叫ぶエルザだが、叫んだ本人がもう頼るべき人間が他にいないことを知っている。先程、ゼロに倒されたというナツ、グレイ、ルーシィ。その3人に立ち上がってもらう他ないのだと。

 厳しい事を言っている自覚はある。けれど、ここで立ち上がらなければ化猫の宿が、ひいては王国が、大陸全土がニルヴァーナに呑まれてしまう。それがわかっているのだろう。自然と、祈りに似た、けれども確信を秘めた言葉が口から溢れる。

 

 

『グレイ……立ち上がれ………。お前は誇り高きウルの弟子だ……。こんな奴等に負けるんじゃない』

 

『私、ルーシィなんて大嫌い………ちょっとかわいいからって調子にのっちゃってさ………。バカでドジで弱っちいくせに………。いつも………いつも一生懸命になっちゃってさ………。死んだら嫌いになれませんわ。後味悪いから返事しなさいよ』

 

「ナツさん………」

 

「オスネコ………」

 

「ナツ………」

 

「ナツ………」

 

『ナツくん………僕たちの……声が……』

 

 

 

 

 

「聞こえてる‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 その後、なんとか立ち上がったナツたち。意識朦朧としながらも作戦は聞こえていたのか、各々が各脚に割り振られた番号を目指す。

 そして、1番を宣言をしたナツ。足元もふらふらで、息も絶え絶えで、けれども倒れるそぶりは見せずに魔水晶へと続く通路を進む。

 

 この先にゼロがいるということを、ナツは匂いで確信している。確かに先程は負けた。けれど、まだ五体満足で、息をして、心臓は鼓動し、心は燃えている。ならば、挑むしかない。そして勝つ他ないのだ。

 早く行かねばと使命感を燃やし、焦燥感に駆られていれば不意に、背後から足音がした。そして背後から香る匂いに、振り返らずとも察する。

 

 

「カイト………」

 

「やぁ、ナツ♪ふらふらだねぇ♪」

 

 

 ひらひらと、手を振りながら笑みを浮かべるカイト。割り振られた番号は7番。ナツが目指す1番とは反対方向だ。ヒビキが残した地図がインプットされていることから、迷ったとは考えづらい。では、何をしに来たかと言えば間違いなく横取りだろう。

 

 

「どけ。アイツはオレがやる」

 

 

 疲労からか、言葉少なくその場を後にしようとするナツ。仕方がない、と肩をすくめたカイトがピッと人差し指を立てて、御高説を垂れる。

 

 

「そうそう、ナツ。知っているかい?俺の魔法、影法師(シャドーマン)はただの分身を作り出す魔法なんだけどさ。実はある応用にも使えるんだよ♪」

 

 

 無視して前を進むナツを他所に、カイトは笑みを深めると、軽い足取りで近づき、その肩に触れる。

 

 

「それはね、対象を入れ替えるマーカーの役割さ♪」

 

 

 瞬間、手を振り解こうとしたナツが肩を振るが、それが虚しく空を切る。そして、いつの間にやらカイトが消えていた。否、匂いが遠のいたことから、転移させられたのだと悟る。脳内マップを参照すれば案の定、カイトが向かうはずだった7番の魔水晶の通路。ここから身体に鞭打って走っても、恐らく時間には間に合わない。

 愚痴をひとつこぼして、気力を失ったナツは壁にもたれかかりながらずるずると腰を下ろす。

 

 

「くそっ………。ぜってぇ………殴って……や……る………」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ニルヴァーナの動力源たる巨大な魔水晶を背に、ゼロはほくそ笑む。

 通路の奥から聞こえて来る足音は規則的で、どうやら先程倒した3人ではない事を確認する。本音を言えば壊しがいのあるナツが来て欲しかったところではあるが、新たな人間を破壊するのもまた一興。

 

 ゼロにとって、形あるものはそれが例え人間であろうと破壊の対象である。破壊し、破壊して、破壊を重ねて、その存在が消えるまで破壊し尽くす。そうして覚えるのは絶頂にも似た高揚感。

 ブレインはニルヴァーナを使い、自らを王に仕立てようとしていたが、ゼロは違う。玉座に魅力を感じず、ただただ破壊の限りを尽くせればいいのだ。

 

 そんなゼロの前に現れたカイト。いつものように笑みを浮かべ、どこか軽い足取りでゼロと相対する。

 

 

「よォやく来たか。待ちくたびれたぜ」

 

「カッカッカ♪そりゃごめんよ♪けど、余生を噛み締める時間には充分だろう?」

 

「ほう?勝てるつもりでいるのか?」

 

「いやいや、勝算なんてものはないよ。けどねぇ、これだけは言いたかったんだ♪」

 

 

 皆纏うは純白の衣、道化の様な衣装。マスクの下に隠されたいつもの様な白々しい笑みは一転、その顔から表情が消える。

 

 

「俺はね、怒っているんだ」

 

「家族が傷付けられたことに」

 

「誰かの涙が流れたことに」

 

「何より、俺自身が家族に手を出したことに‼︎」

 

 

 脳裏に浮かぶはワース樹海での一件。正気ではなかったとは言え、それで納得できるほど大人ではない。これは間違いなく八つ当たりだと、カイト自身理解している。仲間のためだとか、どんなに御題目を立てようと、結局のところ自身の感情の問題なのだ。

 自己中だろうと、自分本位だろうと、何と言われようと、この怒りにケリをつけなければ次は進めない。

 

 背後に浮かぶのは一対の巨大な影の腕。拳を握りしめて、まるで鎌首を持ち上げた蛇の様にゼロへと狙いを定める。

 

 

「さて、滅ぶ覚悟はいいかい、人間」

 

 

 対するゼロは笑みを深める。ただでさえ壊しがいのあるやつが来たと思えば、その正体は噂に名高い道化。まるでおもちゃを与えられた幼子のように喜色満面の声をあげる。

 

 

「クハハハハッ‼︎何だっていい‼︎かかってこい‼︎」

 

 

 その言葉を合図に、決戦の火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

 

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