FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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鉄の森

 

 

 

ナツ置いてけぼり事件からややあって、無事合流を果たした一同は鉄の森に占領されたオシバナ駅へと急ぐ。

 

交通の分岐点となっているオシバナの街は大きく、そして人も多い。 もちろんトラブルもその分多々あり、他の街と比べると警備隊やテロ対策による王国兵隊の数も多い。

無論、駅が占領されたとなればこの痴れ者どもめと言わんばかりの勢いで鎮圧を図った。

 

しかし、兵隊に所属するほとんどの人間は魔法を使えない者ばかりだ。

魔法相手に槍や剣などは意味をなさず、突入した全員が返り討ちにあっていた。

死んではいない、だが動けないほどの重傷を負わされ、痛みにうめく声が廊下内に響く様は見ていて気分のいいものではない。

 

見張りの兵を説得という名の肉体言語で通過した一同は怒りに身を震わせる。

そして駅のホームに出た瞬間、元凶である鉄の森の全員がそこで出迎えてくれた。 広いホームの一角を埋めつくさんばかりの人数は圧巻であり、彼我の差は大きい。

 

ちなみに問題のナツは列車、魔導四輪車、人酔いの3コンボでグロッキーとなっており、見つからないカイトは時間がないと捨て置かれていた。

 

「やはり来たな、妖精の尻尾。待ってたぜぇ」

 

「貴様がエリゴールだな」

 

巨大な鎌を肩に、エルザからの視線をものともしないエリゴール。その余裕の中には紛れもない自信が裏付けられていた。

 

「貴様らの目的は何だ? 返答次第ではただでは済まさんぞ」

 

「遊びてぇんだよ。仕事も無ェし、ヒマなモンでよォ」

 

茶化すような返答に、鉄の森の面々が高笑いする。

真面目なエルザには不快だったらしく、奥歯を噛み締めてエリゴールを睨む。 早く話せ、と。

 

「まだわかんねぇのか? 駅には何がある?」

 

ふわりと、足元から風を発生させたエリゴールが飛ぶ。

エリゴールからすれば最大限のヒントだが、何を言いたいのかピンと来た様子はない。

痺れを切らしたエリゴールがコツンと、駅の中の放送機を小突いた。

 

「ララバイを放送するつもりか‼︎⁉︎」

 

「ええ⁉︎」

 

「なんだと⁉︎」

 

「ふはははははっ‼︎」

 

ララバイとはエリゴールの持つ髑髏の掘られた笛の事だ。

笛の音を聞けばそのものに死を齎らす、禁止とされている魔法。 それをエリゴールは手に入れていた。

 

「この駅の周辺には何百、何千もの野次馬どもが集まっている。いや、音量を上げれば町中に響くかな」

 

「大量無差別殺人だと⁉︎」

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに、権利を掲げ生活を保全している愚かな者どもへのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって死神が罰を与えに来た。死という名の罰をな‼︎」

 

「そんなことしたって、権利は戻ってこないのよっ‼︎」

 

「ここまで来たら欲しいのは権利じゃない、権力だ。権力があれば全ての過去を流し、未来を支配することだってできる」

 

「アンタバッカじゃないのっ‼︎」

 

「残念だったな、ハエども。闇の時代を見ることなく死んじまうとは‼︎‼︎」

 

鉄の森でカゲヤマと呼ばれている男が地面に手をつくと、足元の影が伸び、前に出ていたエルザとグレイの間を抜けてルーシィの手前で立体的な腕となる。

人の身よりも大きなその腕は、やすやすと人1人を殺める殺傷能力を秘めている。

 

「きゃあ‼︎」

 

「やっぱりオマエかぁあぁあああ‼︎」

 

間一髪、復活を果たしたナツが炎を纏った拳でその腕を両断する。

列車の中では気分が悪かったために一方的に殴られたが、今度は地上戦だ。 先程の借りは倍にして返すつもりである。

 

「おっと、邪魔するんならこっちにも考えがあるぜ」

 

エリゴールの指示に従い、鉄の森の一部が縦に割れる。 その先にいたのはカイトだ。全身を拘束され、これでもかという程に痛めつけられた、痛々しい姿をしたカイトである。

 

あまりの出来事に息を飲む一同。

人質作戦は効果あり、とエリゴールは笑みを深める。

 

「こいつを無事返してほしけりゃ、その場でじっとしておくことだ。さもねえと、こいつの首が飛ぶぞ?」

 

両サイドから構えられた剣。 指示に従わなければ間違いなくその刃は振り下ろされるだろう。

動揺のためか互いの顔を見ながら動こうとしないエルザたち。抵抗の意思はないようだ。

 

「はっ、いい判断だ。おい、テメェら。そいつらやっちまえ」

 

「いいんですか、エリゴールさん?」

 

「へへ、女2人は美人だな」

 

「やっちまう前に楽しむか?」

 

「男はいらんな」

 

「ああ、いらん」

 

口々に下卑た会話が繰り広げられ、1人、また1人とエルザたちに徐々に近づいていく。

そして互いの距離が当初の半分になったあたりでエルザが待ったをかけた。

 

「待て、ひとつ聴きたい」

 

「ああ? なんだ、命乞いか?」

 

「違う。その人質は誰だ?」

 

何を言っていると鼻で笑おうとした。

これはブラフだと切り捨てようとした。

しかし、エルザの本気で心当たりがないという顔に動揺し、1人が人質を確認する。そして、驚愕のあまり叫んだ。

 

「なっ⁉︎ なぁっ⁉︎」

 

つられるように全員がそちらを向いて確認すれば、そこにカイトの姿はなかった。

代わりに、ボコボコにされ拘束されたギルドの下っ端と身代わりとばかりに入れ替わっている。

 

「な、なにが……」

 

これにはエリゴールも動揺を隠せない。

先程まではたしかにハエの一匹を捉えていたはずだ。

しかし、暴行を受け縛られているのは間違いなく下っ端の1人だ。

 

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騒動の原因がわかったのか、エルザはため息を零すと手の中に木刀をひとつ呼び出す。

そのまま大きく振りかぶって投擲すると、一団の中にいた1人へと直撃した。 フードを目深に被った男は「うげっ」と間抜けな声を上げると痛みに悶絶する。

 

「いつまで遊んでいる。暇はないぞ」

 

「カッカッカ。やだなぁ、俺は鉄の森の一員のーーー」

 

「次は剣でいくぞ?」

 

「はいはい。わかったからそれはやめてね」

 

やれやれ、とばかりにフードを取れば、そこに拘束していたはずのカイトがいた。

周りにいた鉄の森は突然のこととあまりの不気味さに距離を置き、味方であるはずのルーシィも拘束された男とカイトを交互に見て驚きを隠せないでいる。

 

そんな事は関係ないとばかりにまるでモーゼの海渡りのように左右に割れる人波を抜け、悠々とエルザたちと合流を果たすカイト。

その性格を知っているメンバーからすれば呆れてため息しか出てこない。

 

「また遊んでたのか?エルフマンじゃねーけど、男なら正々堂々戦えよ」

 

「手厳しいね、グレイ。 適材適所って言葉があるでしょ?」

 

「間違っても遊びの免罪符にはならんがな」

 

「オッケー。今度からは控えるよ。だからその剣は仕舞おうか。斬られると痛いんだよ、知ってた?」

 

「次は俺と勝負しろよ‼︎」

 

「君はほんとそればかりだねぇ」

 

「ちょ、なんでそんなのんびりなの⁉︎ アレみなさいよ‼︎」

 

ルーシィに指摘されて見てみれば、唖然としていた鉄の森も状況を理解できたのか、口々にカイトに罵声を浴びせる。

中指を立てるのは当たり前、放送禁止用語待った無しの言葉も当然、業火のように燃え上がる怒りも必然的である。

 

しかし、そんなものは気にしないと笑い、更に煽るような仕草をする当の本人である。まったくもって救いようがない。

 

「カッカッカ。さてさて、みんなに問題を出そう。彼らの目的は一体なんでしょうか?」

 

満足したのか、ひとしきり笑いながら煽った後、話題を切り替えるかのようにカイトがそう切り出す。

 

「聞いてなかったのか? ここでララバイを放送するつもりなんだろ?」

 

「それは彼らの言だろう、グレイ。まぁ、彼らが権力を欲しがっているのは間違いないだろうけどね。でも、尚更、こんな事して本当に権力が手に入るのかな?」

 

そう言われて確かに、と頭を悩ます一同。ちなみに寝起きのナツはついていけていないようで質問の冒頭から頭を悩ませていた。

 

チッ、と舌打ちを漏らすエリゴール。

ふわり、と浮かび上がると「てめぇら、そいつら始末しておけ」とだけ残してその場から飛び去ってしまった。

 

「笛を吹きに行く気か‼︎ナツ‼︎グレイ‼︎2人で奴を追うんだ‼︎」

 

「「む」」

 

「おまえたち2人が力を合わせれば、エリゴールにだって負けるはずがない」

 

「「むむ………」」

 

「ここは私とルーシィでなんとかする」

 

「なんとかって、あの数を女子2人で⁉︎」

 

「あれ、俺頭数に入れられてないの?」

 

「エリゴールにララバイを使わせるわけにはいかない………聴いているのかっ‼︎‼︎」

 

「「も、もちろん‼︎」」

 

「行け‼︎」

 

「「あいさー‼︎」」

 

納得がいかないと睨み合っていた2人だが、エルザには逆らえない。仲良く肩を組むとエリゴールが逃げた方向へと走っていった。

 

「二人逃げた」

 

「エリゴールさんを追う気か?」

 

「任せな、オレが仕留めてくる‼︎」

 

「こっちも‼︎あの桜頭だけは許せねえ‼︎‼︎」

 

一人は5指につけた指輪から伸びる帯を駆使して、一人は影に潜って2人を追う。

それを差し引いても鉄の森の数の有利は動かない。

普通であれば袋にされるのがオチだろう。 しかし、エルザたちに怯えはない。この程度の山場はいくつも超えてきた。

 

「先陣は私が切る。カイト、残りは任せたぞ」

 

「ああ、よかった。忘れられてなかったんだね。オーライオーライ、いつも通りやればいいんだね」

 

「いくぞ」

 

それだけ言うと手の中に剣を呼び出して敵陣へと前進する。魔法で武器を呼び出すことは珍しくもなく、探せばごまんといるオーソドックスな魔法だ。

現に鉄の森の中にも魔法剣士はいるらしく、自信満々に応戦しようと次々に武器を取り出している。

 

しかし、エルザには遠く及ばない。敵陣に突っ込むエルザはまるで弾丸。驚異的なスピードで突っ込むと縦横無尽に的を切りつける。

敵が距離を置こうとも、その手に持つ剣をしまい槍に持ち替えることだ対応してしまう。

 

槍を持ったかと思えば次は双剣、気づけば斧へと次々に状況に応じた武器へと変化していった。

 

「カッカッカ、相変わらずエゲツない換装の速さだねぇ」

 

「換装?」

 

「おや、ルーシィは魔法剣の原理を知らないのかい? ハッピーでも知ってるのに?」

 

「ウソ⁉︎」

 

「あい! 魔法剣はルーシィの星霊に似てて、別空間にストックされてる武器を呼び出すっていう原理なんだ。その武器を持ち換えることを換装っていうんだ」

 

「説明ありがとう、ハッピー。いい子にはお魚をあげよう」

 

「サカナー‼︎」

 

戦闘中だというのにどこかのんびりとした2人。どこからか取り出した魚を嬉しそうに頬張るハッピー。間違いなく場違いである。

ルーシィは知識でネコ(ハッピー)に負けていたのがショックらしく、ツッコむ余裕がないようだ。

 

「まぁ、でも、エルザの凄いところはここからだよ♪」

 

カイトの言葉通り、数の多さに焦れたエルザの鎧がひとりでに剥がれていく。

 

「魔法剣士は通常、武器を換装しながら戦うけど、エルザは自分の能力を高める魔法の鎧にも換装しながら戦うんだよ。それがエルザの魔法“騎士(ザ・ナイト)

 

新たに現れたエルザの鎧は背中に2対の羽を生やした白銀の鎧。背後にはいくつかの魔法剣が指示を待つように浮かんでいる。

 

「舞え、剣たちよ。“循環の剣(サークルソード)”‼︎」

 

瞬きの間に剣が煌めき、周囲を回転しながら敵を斬りつける。エルザに見惚れていた者たちは例外なく床へと伏すこととなった。

 

「ま、間違いねえっ‼︎コイツぁ妖精の尻尾最強の女、妖精女王(ティターニア)のエルザだっ‼︎」

 

「マジか、アレが妖精のバケモン女か‼︎」

 

「ひとりで山みてぇなバケモン倒したっていう、あの‼︎」

 

「ちくしょう、だったらあっちだ‼︎」

 

エルザには敵わないと見たのか、ルーシィたちへと標的を変えた残りはすぐさま行動に移す。

迫り来るエルザの猛攻をくぐり抜け、人質を取らんとルーシィへと飛びかかった。 敵と同じくエルザに見惚れていたルーシィは突然のことで動けない。

 

「ひっ‼︎」

 

「おやおや、やっぱり俺のこと忘れられてるよねぇ」

 

お気楽そうな、飽きれたようなカイトの声が聞こえたかと思うと、刹那飛びかかった男が文字通り足元から伸びる影に殴られた。

拳を象った影。それもひとつではない。

 

気がつけば殴られ、気づかなくても殴られ、唖然とするうちに殴られ、呆然とするうちに殴られる。

 

「気をつけろ! 奴の魔法だ!」

 

「もう遅いよ。影絵(シャドー・ピクチャー)ーーー影拳(シャドー・ナックル)

 

パチン、と指が鳴らされるのを合図に、カイトの足元から影が広がりそこから伸びる影が次々と鉄の森を攻撃する。

あっという間に半数に減った鉄の森を牽制するかの如く、伸びた影の拳がゆらゆらと揺れている。その中心で佇むカイトははっきり言えば不気味だ。本人が加虐的に笑みを深めていることが尚更それを色濃く写す。

 

「さぁ、幕は開かれた。悲劇の幕開けだ。無様に踊ってくれ。豚のような悲鳴を上げろ。輝く栄光を夢見て膝から崩れて落ちてしまえ。山場を迎えるために、せいぜい前座で盛り上げてくれたまえ‼︎」

 

カッカッカ、と笑うカイトはどこからどう見ても悪役にしか見えない。というよりか悪役だ。 哀れな市民を甚振る悪魔にしか見えない。

そんな突然の豹変に思わずルーシィが震える。

 

「な、なにあれ………。あんな怖い人だっけ?」

 

「無駄に脅してるだけだよ」

 

「あれのどこが⁉︎」

 

いまだ魚を頬張るハッピーの言葉に思わずツッコむ。

しかし、言われてみれば言葉の割に敵を追おうとはせず、一定の距離を保ったまま牽制しているだけだ。

 

「ああやって牽制して抵抗する気力をなくさせるんだって」

 

「言葉にするとエグいわね、それ」

 

改めてカイトを見る。

列車の中で語ってくれたように、確かに相手側からすればトラウマに残るような戦法だ。だが、これだけなのだろうか?

影を操る魔法ならば珍しくはあるが探せばいる程度の数はあるし、何より説明は容易い。カイトの魔法の全貌がこれだけとはどうしても思えなかった。

 

「どけっ‼︎ オレがやる‼︎」

 

「「ビアードさん‼︎」」

 

ビアードと呼ばれた鉄の森の中でも指折りの実力者は剣を握ると揺蕩う影の中へと飛びかかった。

その自信は本物のようで、伸びる影拳を時に掻い潜り、時に切り払ってカイトとの距離を詰めていく。 だんだんと距離を詰めるビアードに焦ったのか、カイトの表情から笑みが消え、真剣な目つきとなっていくつもの影絵が襲いかかる。

 

「ウォおおお‼︎」

 

気合い一閃。

いくつもの拳を切り抜けたビアードの剣がカイトの首を切り裂く。

 

鮮血を待って宙を舞うカイトの首。

鉄の森からは歓声が上がり、ルーシィはあまりの光景に悲鳴をあげた。

だが、その異変にビアードが気づく。

 

おかしい、と。

手から伝わったのは空を切るような感触。肉や骨を断った感触がどこにもないと。

はじめ疑ったのは幻覚だ。 仲間を袋にしたときのように幻覚を使ったのかと。しかし、手に持つ剣の感触も、拳が当たった脇腹の痛みも全て本物だ。

だとしたら()()はなんだ? 本物そっくりのハリボテか?

 

「意外と鋭いねぇ、君」

 

すぐそばで聞こえた声にぞくり、と皮膚が粟立つ。

 

後ろを振り返る。ーーー仲間たちが歓声を上げている。

 

前を見る。ーーールーシィが口元を押さえて泣き声を漏らさないようにしている。

 

左右を見渡す。ーーーエルザにやられる仲間たちが見える。

 

では、声はどこから聞こえた?

 

「こっちだよ、こっち」

 

今度こそ声の発生源を捉えたビアードが下を見る。ーーーいた。

影に潜って顔の半分だけを出したカイトがそこにいた。

反射的に剣を突き立てようとするが、それよりも早く影から飛び出したカイトのアッパーカットがビアードの顎を突き上げた。

 

「あ、よいしょお‼︎」

 

「ガッ⁉︎」

 

そのまま脳を揺らされ暗闇へと落ちるビアード。

最後に見たのは変質したーーーまるで悪魔からもぎ取ったかのような禍々しいカイトの右腕だった。

 

「え?生きて………うぇえ⁉︎何よあれ⁉︎」

 

「泣いたり驚いたり、ルーシィは騒がしいね」

 

「うるさい‼︎ それよりなによ、あれ⁉︎」

 

「カイトの魔法だよ。カイトの魔法は失われた魔法(ロスト・マジック)の一種、混沌魔法。2種類の属性を宿す魔法なんだ」

 

「混沌魔法? それも2種類?」

 

「うん。それも相反するはずの光魔法と闇魔法。普段は分解して使ってるけど、あれが本来の使い方なんだよ」

 

聞いたこともない、見たこともない魔法だ。それも相反する属性を宿すことなど不可能だ。 ナツとグレイがいい例だろう。 あの2人(炎と氷)が仲良く手を繋ぐことなど、あり得るはずもない。

 

しかし現実に事は起こっている。

ハッピー曰く、カイトの右腕は混沌魔法を纏った形だと説明を受けたが、あれ程禍々しいと思える魔法など初めて見る。

悪魔や化け物の腕を取り付けた、と言った方が正しい気がする。

 

鋭い鉤爪や側面から生える棘、赤と黒でグラデーションされた色彩。そのどれもが見るものを不安にさせ、恐怖で身体を震え上がらせていた。

 

「カイト?それにあの魔法………」

 

集団の後ろで観察に徹していた太めの男、カラッカが呟く。 人一倍臆病な彼だが、その分人一倍の知識を蓄えてきた。

それにより幹部の位置に座する彼が脳みそをフル回転させて、敵の正体を暴こうとするが、時すでに遅し。 例えその答えが出ようと結末は変わりない。

 

混沌ノ鎧(カオス・メイル)………。さて、前座の終わりは少しばかり派手に行こうか‼︎」

 

カイトの腕に魔法陣が展開され、その腕に白と黒の光が宿る。炎のようにのたうつ光は次第に収縮していき、その爪先へと集まる。大きく払った腕の軌道にはまるで空間を引き裂いたかのような跡が残り、それが鉄の森へと容赦なく飛来していく。

 

混沌ノ爪(カオス・クロー)‼︎」

 

一撃。

たった一撃で残る敵は全て吹き飛ばされ、床へと伏す。 残されたのは後方で遠距離魔法を飛ばしていた数人とカラッカだけ。

残った数人もエルザの剣の一振りで倒されると、「ひぃっ」と悲鳴を上げたカラッカが通路の奥へと逃げ出す。

 

「エリゴールの所に向かうかもしれん。ルーシィ、追うんだ‼︎」

 

「えーーーっ‼︎⁉︎あたしがっ‼︎⁉︎」

 

「頼む‼︎」

 

「はいぃっ‼︎」

 

最初は難を示していたルーシィだが、エルザのお願いと言う名の脅迫には敵わない。 ハッピーを連れて駆け出してしまった。

残された2人は魔法を解くと、ため息を零す。 エルザは疲れから、カイトは区切りをつけるためだ。

 

「それでエルザ、どうするの? エリゴールの目的はこの駅とは限らないけど」

 

「わかっている。だが、例え嘘だろうと真実である可能性がある限り無視はできん」

 

大量虐殺=権力の会得に結びつく何かが思い浮かび上がらない限り、例えブラフだろうと、それに乗るしかないとエルザは考えていた。

もしかすれば大量虐殺で権力を会得できると本気で考えている可能性もある。 無視できないのは当然だ。

 

「とりあえずは外の野次馬を避難させようと思う。 できるか?」

 

「10人とかならまだしも、あんまり多いと難しいよ。それより警告して自分たちの脚で逃げてもらった方が早い」

 

肩をすくめるカイトにそれもそうかと零し、この場で待機しておくように命じる。 走り出したエルザが向かうのは駅の出入口だ。そこで集まる野次馬に警告を出すつもりらしい。

 

残ったカイトは足元に転がる鉄の森の団員を見る。

一人一人顔を覗き、起きているのはいないのかと確かめていると、小声で何かを指示する音が聞こえた。

見てみれば脳震盪で倒れたはずのビアードだ。 相手はすでに逃げ出したのかどこにもいない。 感じ慣れない魔力を追えば、どうやら壁の中を進んでいるようだ。

 

追いかけるものか、と考えたがやめた。どうせ1人しかいないのだ。なにができるわけでもあるまい。

それよりも、と考えて起きているビアードを影で拘束する。

 

「なっ、てめっ‼︎」

 

「やぁやぁ、おはよう。よく眠れたかな? さて、君たちの目的がはっきりとわからない以上、吐いてもらうしかないんだけど…………まずは聞いておこう。素直に話してくれるかな?」

 

「へっ、誰が」

 

「そう言ってくれると思ったよ。まぁ、ある程度の仮説は立ててるんだけどね」

 

そんな筈はない、とビアードは鼻で笑う。

念には念を入れてカイトの前でさえ目的を話していないのだ。 誰もエリゴールの描いた絵図に気付くはずがない、と。

 

「この先のクローバーにいるギルドマスター達の暗殺………ってところでしょ?」

 

「なっ⁉︎」

 

計画の核心部を言われて思わず声が漏れる。慌てて口を紡ぐが目の前のカイトは狙い通りとばかりに笑みを深める。

 

クローバーにはこの地域周辺のギルドマスター達が定例会を開いてる、極力邪魔が入らないよう渓谷の向こう側に作られた町だから交通手段はこの列車だけだ。 列車を抑えて仕舞えば追手など気にせず、不意打ちで笛の音色を聴かせるだけだ。

強力な魔力を持つギルドマスター達と言えど、聴覚を完全に遮断することなど不可能である。

 

ここオシバナ駅で妖精の尻尾を待ち構えていたのは邪魔をされないために閉じ込めるためだ。 今頃はエリゴールの魔風壁により駅周辺を風の壁が覆っている筈だ。 外から中には入れるが、中から外には出られない一方通行の壁を無理に通ろうとすれば風に切り刻まれる。

 

エリゴールは飛べるため、渓谷など気にせずクローバーへと向かい、復讐を果たすという筋書きである。

聞いた時は誰もが完璧だと思った。 誰もオレたちの復讐を邪魔できない、と。

 

だが目の前の男の笑みを見ていると、どうしようもなく不安になる。もしかすれば、という気持ちが湧き上がる。

第一印象はヘラヘラしている、バカ丸出しのハエだと思っていた。だが違う。 笑顔の奥でこいつはこちらの作戦を見通していたのだ。

 

ふと、思い出した。

誰かが言っていたはずだ。妖精(ハエ)の中にやばいのがいると。

 

曰く、闇ギルドを潰して周る者

 

曰く、総てを嘲笑う悪夢

 

曰く、どこからともなく現れる悪魔

 

「ど、道化………」

 

「おや、知られてたみたいだね。 抑止力として名を売ったかいがあるよ」

 

まぁ、表では売れてないけどね、と笑うカイトの瞳は全く笑っていない。

仮面でもつけているのか、と疑いたくなるほどの温度差だ。

 

「さて、君たちの目的はわかった。けど、だからといって俺たちの(マスター)を狙った君たちを許すつもりはない。だからといって殺しはしないよ。 私刑は禁じられてるからね」

 

パチン、と指が鳴らされるとそれが合図のようにカイトの足元から影が広がる。それは駅のホームいっぱいに広がると、その場に横たわる鉄の森のメンバーはもちろん、モニュメントや時刻表、範囲内にあるものを総て呑み込むように沈めていく。

 

「殺しはしない。けど、君たちには恐怖を刻んであげよう。 夜を迎える度に思い起こすような、日陰を見るたびに逃げ出すような、闇に怯える(トラウマ)を刻んであげよう」

 

ぞくり、と背筋が凍る。これは誇張でも比喩でもない、あるがままの事実を話してるだけだと直感で理解する。

 

やめろ、と叫ぼうとした。

 

助けてくれ、と懇願しようとした。

 

けれどすでに口元まで影の中に仕舞われており、声を上げることさえできない。

 

「良い旅を、諸君。 君たちの旅に不幸があらんことを」

 

ようやく心から楽しそうに笑うカイト。

それがまるで悪魔のようで、慈悲の欠片も篭ってないことがわかって、この先に起こることを本能的に理解するのであった。

 

 

 

 

 

 

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