FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

40 / 77

推奨挿入曲:おどりゃんせ/ユリイ・カノン



混沌魔槍

 

 

 

 番号を割り振り、それぞれが担当する場所に向かう中、一足先に担当箇所は向かったカイトを見送ったエルザはぼそりと言葉を溢す。

 

 

「………キレてるな、あいつ」

 

「え?カイトさん、怒ってるんですか?」

 

 

 小声だったはずの言葉は、しかし耳のいいウェンディには聞こえていたらしく、声を返される。聞こえてしまったものは仕方がないと、エルザは続ける。

 

 

「ああ。あれは相当キレてるな」

 

「で、でも、笑ってましたよ?」

 

「わざとらしかったけどね」

 

「シャルルっ‼︎」

 

 

 どうにもカイトに好感を持てないシャルルの毒舌はさておき、別れ際に確かにカイトはいつもの様に、胡散臭い笑みを浮かべていた。いつもの様に、変わらず、努めて笑顔を作って。それを思い出して頭が痛いとばかりにエルザが患部を抑える。

 

 

「あいつの悪癖だ。何でも笑って誤魔化そうとする。そして、そういう時は大抵何か隠している時だ」

 

 

 恐らく、ナツたちが倒された辺りで怒りが湧いたのだろうとエルザは推測する。舌打ちを溢したのが何よりの証拠だ。何をするつもりなのかはわからないが、ロクでもないことだろうとはわかる。

 

 

「えっと、それって追いかけた方がいいんですか?」

 

「いや、大丈夫だろう。フェアリーテイルの名に泥を塗る様なマネはしないだろう」

 

「それって、あいつ自身の尊厳はどうでもいいってこと?」

 

「あいつの尊厳など既にないだろう?」

 

「それもそうね」

 

「2人とも‼︎………あれ?ジェラール?」

 

 

 ウェンディがあまりにもあんまりな2人を咎めていれば、隣にいたはずのジェラールがいつの間にか後ろで頭を抑えている。すわ何事かと近づけば、何やら呼吸も荒い。

 

 

「フェアリー……テイル………ッ‼︎」

 

「ジェラール?どうしたの?」

 

「………いや、なんでもない。それより、オレたちも早く向かおう」

 

 

 明らかに何でもない、ということはないであろうが、既に呼吸や頭痛は落ち着いたようで、エルザたちに背を向けて歩き出す。それに不信感を覚えるエルザだが、今は何より時間がない。

 心配事が増える一方ではあるが、エルザは振り分けられた5番へと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

偽・魔王ノ双腕(ツイン・アーム)

 

 

 抑揚のない、酷く冷たい声で繰り出された、カイトの背後に控えていた一対の巨腕。片方が大きく振りかぶり、そして拳を嬉々として迫るゼロに振り下ろされる。衝撃により舞う砂塵、そこから飛ぶように後退するゼロが現れる。

 

 やはり、簡単には接近を許さないかと、一筋縄でいかない喜びに満ち溢れていれば、ゼロを追う様にもう片方の拳が砂塵を突き抜けて迫り来る。

 

 

常闇奇想曲(ダークカプリチオ)

 

 

 合わせる様に放たれたのは一本の魔力の線に追随するように螺旋を描く魔力を纏う魔法。貫通性の高いその魔法は眼前の拳を貫き、そしてその先にいるカイトを襲う。

 そして互いの魔法が互いを襲い、ゼロは反対側の壁へと押しやられ、カイトは左肩口を負傷する。

 

 

「くっ!」

 

「ハハハッ!」

 

 

 口の端から血を流しながら、不敵に笑うゼロが指揮者のように指を振るう。それに合わせて先程放った魔法が壁の中を潜り、今度は地面から現れてカイトの右太腿を貫いた。

 本来であるならば直線でしか進まないこの魔法。けれど、卓越した術者であるゼロはその軌道を自在に操れるのだ。力が入らずに倒れ込むカイトだが、寸前のところでなんとか膝を立てて転倒を防ぐ。

 

 しかし、それこそゼロの狙い。機動力が削がれ、注意も逸されたこの瞬間に一気に距離を詰める。

 

 

「ぶっ壊れろォ‼︎」

 

 

 掌に込めた魔力を直接ぶつける。それだけで下手な物ならば形さえ残らない。身動きの取れないカイトに直撃するはずだった攻撃、しかし攻撃が当たる直前にその姿が掻き消える。

 

 

「なにっ⁉︎くっ‼︎」

 

 

 代わりとばかりに残っていた巨腕がゼロを空中へと打ち上げる。両腕でガードしてダメージを減らすが、しかし、今の一撃の目的はゼロを空中に浮かす事。思ったよりも威力のない攻撃に肩透かしを食らったゼロにカイトの攻撃が殺到する。

 

 

武影百般(ぶえいひゃっぱん)

 

「ヌォオオオ‼︎」

 

 

 ゼロの真下から伸びる、影でできた刃の数々。躱しきれないと察したゼロは掌から魔力弾を放ちその数を減らす。しかし、数が多すぎた。破壊しても破壊しても次から次へと湧き出る刃に呑まれ、その姿が影に覆われる。

 

 魔水晶の影からそれを見届けたカイトは一息つく。傷はすでに塞がってはいるが、魔力の消費が激しいのかその溜息は重く深い。短期決戦を目論んでの戦闘、けれどやはりというべきか、六魔のマスターを名乗るだけあり一筋縄ではいかないようだ。

 

 

「ハッハァ‼︎」

 

 

 全身から魔力を放ち、周囲の影を消し飛ばすゼロ。カイトが素早く片手に魔力を溜めるが、ゼロの方が速い。着地と同時にスタートを切ったゼロは妨害の影の壁を突き破り、最短距離でカイトに肉薄する。

 そのまま繰り出された拳は的確にカイトの頬を捉え、地面を転がるカイトを逃すものかと蹴りを入れて追撃を加えた。面白い様に転がるカイトは爪を立てて、なんとか態勢を立て直す。そうして、ゼロの膝がカイトの顔面を捉えた。

 

 

「最ッ高じゃねェか、壊れねェおもちゃなんてよォ‼︎常闇回旋曲(ダークロンド)‼︎」

 

 

 壁に追い詰められたカイトの傷が修復される様を見て、ゼロは吠え叫ぶ。息を吐く間も無く、怨念のような魔力の塊が雨の様にカイトに降り注いだ。

 飛ぶ鮮血、宙を舞う手足、抉れる胴体。けれど、その度にカイトの身体は修復し、そしてその度に破壊される。意識を繋ぐ事でさえ必死になる中、ゼロの高笑いとは別の、聞こえないはずの声が聞こえた。

 

 

「そこまでだ‼︎」

 

 

 瞬間、ゼロに飛ぶ魔法。けれど、あまりにも稚拙なそれは腕の一振りで霧散してしまう。水を差されたゼロが忌々しげにそちらを見遣れば、そこにはここまで走ってきたのだろう、肩で息をするジェラールがいた。

 

 

「誰かと思えば………何のつもりだ、ジェラール?」

 

「はぁ……はぁ………これ以上、好きにはさせない」

 

「ハッ!なんだ、今頃正義にでも目覚めたのか?」

 

「そんなものじゃないさ。ただ、全てを破壊されるのは困るだけだ」

 

「それでオレを止めると?ハハハッ!かつてのテメェならまだしも、記憶をなくしたテメェなんざ、前座にすらなりゃしねェンだよ!」

 

「いや……思い出したんだ。フェアリーテイルという名の希望を」

 

「なに?」

 

 

 薄く笑ったジェラールの隣に、カイトが並び立つ。回復が追いついていないのか、その姿はボロボロではあるが、けれどその瞳は死んでいない。喉が潰れたのか、何度か咳払いをして調子を戻すと、視線をゼロから外さずに問う。

 

 

「あ゛ーー………んんっ!記憶は戻ったのかい、ジェラール?」

 

「完全に、とはいかないが………オレの罪は覚えているさ」

 

「そう」

 

 

 短くそう返し、ゼロの動きを観察するが、動く気配はない。寧ろ、何か出来るものならやってみろ、という余裕さえある。事実、記憶を取り戻したばかりで魔力の覚束ないジェラールと、瀕死に等しいカイト。2人がかりでかかっても勝機はない。

 どうしたものか、と頭を回転させるカイトの目の前にジェラールの腕が出される。

 

 

「カイト、呑んでくれ」

 

「……いいのかい?」

 

 

 願ってもいない血と魔力の補給の機会。全開とまではいかずとも、それに近いくらいの回復は期待できる魔力をジェラールは有している。しかし疲労もあり、いつもなら出来る吸血の調整が危うい状態。誤って全てを吸い尽くす可能性さえあるのだ。

 そんな思いが込められた一言を察してか、ジェラールは薄く笑う。

 

 

「こんな事で、オレが犯した罪が消えるとは思わない。だが、オレはエルザが信じる君を……フェアリーテイルを信じている」

 

「カッカッカ♪………負けられないねぇ、これは」

 

 

 ジェラールの腕に噛みつき、その血を啜る。苦痛に歪めるジェラールが膝から崩れ落ち、意識が遠くなるのを感じる。最後に「勝ってくれ……」と言葉を溢して、瞳を閉じた。

 それを確認したカイトは口元の血を拭い、冷徹な視線をゼロに向ける。

 

 

「ああ、無論だとも」

 

 

 吸血で高揚した身体は一気に本来の姿を取り戻す。吸血鬼と化したカイトだが、その意志が周囲の怨念に呑まれることはなく、羽を広げてゼロを威嚇した。

 

 

「クハハハハッ!なるほど、吸血鬼か!どおりで壊れねェはずだ‼︎」

 

 

 そう言ってゼロが後退すれば、次の瞬間にはカイトの爪が地面を抉る。その隙をついて攻撃に転じようとした瞬間、ゼロの足首にカイトの尾が巻き付いた。

 

 

「ウオッ‼︎」

 

 

 足首を引っ張られ、仰向けに倒れそうになるゼロ。しかし、空中で反転し、バク転の要領で両手でその衝撃を受け止めて転倒を防ぐ。不敵に笑うゼロの眼前に、カイトの拳が迫っていた。

 

 

混沌ノ一撃(カオス・インパクト)

 

 

 両腕に魔力を纏い、なんとか防ぐが、ゼロの身体は大きく後退する。確かに、カイトが全力を出せるようになり、戦況は五分五分といったところ。けれど、優位性が消えたからと言ってゼロに焦りはない。寧ろ、壊しがいのある相手に興奮していた。

 

 

「クハハハハッ‼︎いいじゃねェか‼︎もっとだ、もっと来いッ‼︎」

 

 

 両腕から発動する常闇奇想曲(ダークロンド)。それを鞭のようにしならせて、周囲ごとゼロは攻撃する。それを躱すカイトだが、何度か攻撃を喰らい、そして回復する。それで消費される魔力を感じながら舌打ちを溢すカイト。

 魔力は回復できたが、だからといって無闇に消費できるものではない。瓦礫を投げて牽制するが、やはりというべきか、全て破壊されてしまう。

 

 

「ダークグラビティ‼︎」

 

「ぐぉっ‼︎」

 

 

 そうしているうちに逃げ場を失ったカイト。周囲の床ごと下の階層に落とされる。飛行能力を駆使して地面との衝突を避けるが、片方の羽が魔法で貫かれ、地面を滑った。

 

 

「そンなモンかよ、吸血鬼‼︎御伽噺に出てくるテメェの力は、こンなモンじゃねェだろ‼︎」

 

 

 追いついたゼロの蹴りがカイトを宙へ浮かし、その顔めがけて拳が放たれる。しかし、それを両手で掴むと、口内に溜めた魔力を放出した。

 

 

混沌ノ息吹(カオス・ワッタス)‼︎」

 

「ぐぬぅおおおお‼︎」

 

 

 全身に魔法を浴びたゼロは大きく後退。カイトも疲労からか追撃を加える余裕さえない。それはゼロも同じようで、受けたダメージが大きいのか肩で大きく息をしている。

 

 

「はぁ……はぁ……‼︎最高だな、壊れ辛いおもちゃってのは‼︎」

 

「ふぅ……ふぅ………うるさいよ、人間。お前を喜ばせる趣味はない」

 

「つれねェじゃねェか。だが、これで終わりだ」

 

 

 ゼロの両手に魔力が集い、円を描くように回転させる。そうして出来上がる魔法陣の向こうから聞こえる、嘆くような、怨むような、呪うような、怨嗟の音。

 

 

「我が前にて歴史は終わり、無の創世記が幕を開ける。開け、鬼哭の門‼︎ジェネシス・ゼロ‼︎」

 

 

 現れたのは、それこそ数えるのさえバカに思えるほどの魂の波。それぞれが無念を残し、未練を残し、同族を作り出そうとする怨霊の群れ。囚われた者はその記憶から魂にいたる全てを世界から抹消される、破滅の魔法。

 

 

「消えろ‼︎ゼロの名の元に‼︎」

 

 

 カイトを取り囲む怨念の群れ。対処しようにも消費を考えると残り大技一発程度。大きく息を吐いたカイトは足場を踏み込み、さらに下の階層へと落ちる。

 

 

「無駄だァ‼︎」

 

 

 その言葉の通り、怨霊たちは下の階層に逃れようとするカイトを追う。だが、カイトの行動は逃げるために在らず。手には魔法によって作り出した一本の槍。柄から白と黒の螺旋が描かれ、二又の穂先がそれぞれの色で別れたそれを空中で構え、ゼロに狙いを定める。当然、そのような隙を怨霊たちが逃すはずもなく、カイトに噛み付いて喰らいつく。

 

 

「怨霊風情が………」

 

 

 瞬間、カイトから発せられる圧。死した魂たちには無縁のはずの、死をも予感させるプレッシャーに怯え、震え、恐怖に呑まれる。

 

 

 

退け

 

 

 

 一言。地の底から響くような、魂の芯まで凍るような、悍ましい一言で怨霊たちはカイトの気分を害さないように、視線を向けられないように道を開ける。驚いたのはゼロだ。魔法の制御を奪われたならまだ理解できる。だが、今起こっているのは魔力によって導かれた怨霊たちの弾圧。それもただの言葉でだ。

 動揺するゼロに向けて、開かれた道を進むようにカイトの魔法が放たれる。

 

 

 

混沌魔槍(カオス・フォルカス)

 

 

「ヌッ、ォオオオオオオ‼︎」

 

 

 踏ん張りの効かない空中で放たれたそれは音速とまではいかずとも、瞬きの内にゼロを捉える。穂先の間に挟まれたゼロはそれを振り解こうとするが、急な加速により視界はブラックアウトし、強力なGに身体が付いていかない。

 そして、天井を破り、その先にある魔水晶をも貫いた。ただでさえ巨大な魔水晶の内部は大地から魔力を吸い上げるシステムにより、膨大な魔力が渦巻いている。人1人がそれに呑まれるなど、自殺行為に等しい。

 

 ゼロが魔水晶諸共破壊されると同時に、ニルヴァーナ各所から破壊の音が上がる。作戦は成功したようだと、無様に地面に転がりながら笑みを浮かべるカイト。魔力は精々が封印に回す分しか残っておらず、疲労から身体も動きそうにない。

 動力源を失ったニルヴァーナが崩壊する中、ふと、耳元で感謝の言葉が聞こえた。それはニルヴァーナに染み付いた怨念のたちの声。依代が無くなったことにより解放されたのだ。

 

 

「カッカッ………」

 

 

 やはり、感謝されるのはこそばゆいと顔を顰める。崩壊により落ちてくる瓦礫を避ける体力もなく、生き埋めは嫌だなぁ、という何処か他人事のような事を思い浮かべながら、崩落の波に呑まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。