FAIRY TAIL 〜Those called clowns〜   作:桜大好き野郎

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エドラス

 

 

 

 空に浮かぶ大地、見知らぬ植物、見たことのない動物。

 目に映る何もかもが自身の住まう世界には無いものばかりで、エドラスという別の世界に来たのだと実感させられる。

 

 初めは未知に心を躍らせていたガジルも、今や意気消沈。思い足取りで荒野を歩く。緑のない大地は燦々と輝く太陽の熱を反射して、ただそこにいるだけでとめどなく汗が吹き出す。

 額から溢れる汗を腕で拭い、何でこんな目にと半ば現実逃避しながら空を睨んだ。

 

 エドラス世界へと転移したガジル、カイト、ミストガンの3人。しかし、到着後街の方向を示すと「私は先に行って、準備をしておく」とだけ残して1人早々と消えた。

 残された2人は歩き出したのはいいが、予想外の環境に体力を削られ、2日経った今も街の輪郭さえ見えてこない。そも、転移させるなら街の近くにしろよ、と悪態を垂れる。

 

 

「オイ……水………」

 

「カッカッ………もーないよ」

 

 

 同行者のカイトが万が一の為に影の中に保管していた水も等々底をついた。その事実にがくりと項垂れて、ふらふらと足を進める。

 吸血鬼であるカイトは暑さはまだしも、太陽の光で体力をかなり消耗しており、倒れそうになったところを咄嗟にガジルの肩を掴む。ガジルも体力の限界だったのか、支えることも難しく2人揃って倒れてしまった。

 

 しばらく無言でその場から動かない2人。重いと感じたのか、最後の力を振り絞って上に乗るカイトを押しやるガジル。

 仰向けに転がるカイトが反転した世界の中、進路方向に目を向けるがやはり街は見えてこない。

 

 

「カッカッ………」

 

 

 苦し紛れの空笑いしか出てこない、そんな状況。薄らとしか視認できない視界の中、正面から煙を上げて向かってくる何かが見えた気がした。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「グゴッ………あぁ?」

 

 

 いつの間にか寝ていたらしく、いびきをかいていたガジルが目を覚ました。視界に映るのは見知らぬ天井。決して忌々しいまでに澄んだ青空ではない、人工の屋根の下だ。

 決して寂れているわけでもなく、豪華というには見窄らしい至って平凡な造り。そこまで柔らかくないベッドに身を預けて、何があったのか思い出す。

 

 確か、荒野のど真ん中で体力の限界で倒れたはずだ。ならば、誰かに拾われたのか?

 

 まず頭に浮かぶのはカイト。しかし、自身と一緒に倒れた上に極度の方向音痴だ。まずないと考えていい。

 

 次いでミストガン。可能性はあるが、弱い気がする。準備とはそんなに早く終わるものであったのだろうか。

 

 考えても仕方がないと判断したガジルは上体を起こすと、近くに置いてある水をピッチャーごと飲み干す。乾いた身体を潤す水分に一息ついていれば、下からカイトの笑い声が聞こえた。それも、いつもの様な嘘くさい笑い声ではなく、心からの呵呵大笑。

 

 机を叩く音さえ聞こえてきて、なんだなんだと下の階へと。そこにいたのはご満悦の様子のカイトと、自身と瓜二つの顔を持つ男。服装は普段では絶対に着ない、黒いスーツと黒いソフト帽、それにメガネ。違いがあるとすればそれだけだ。

 足音で気がついたのだろう、突然の光景に固まるガジルにカイトが視線をやると、一息ついた筈の笑いが込み上げる。

 

 

「な、なんだ、こりゃア………」

 

「目覚めたんですね。こんにちは、アースランドの僕」

 

「ぶっ!カッカッカッ‼︎」

 

 

 自身とそっくりな顔を持つ人間が、嫌に丁寧な言葉を放つ。それが恐ろしく気味が悪くて皮膚が粟立ち、いまだに笑うカイトに問い詰める。

 

 

「オイ、どうなってンだ、こいつァ⁉︎」

 

「カッカッカ‼︎あ〜、可笑しい♪見ての通り、彼はこの世界の君だよ」

 

「はァ?」

 

「何とな〜く、予想はつくだろう?ミストガンの顔があれだけそっくりなんだ。この世界にはそっくりさんがたくさんいるってことだよ」

 

 

 他人の空似、というにはあまりにも似過ぎていたミストガンとジェラール。ならば、エドラス世界にもそっくりさんはいるのだろうと予想していたカイト。予想はしていたが、いざ事実を目の当たりにすると込み上げるものがあるが、さておき。

 また笑い出すカイトを苦笑いで流し、エドラスのガジルがアースランドのガジルに挨拶する。

 

 

「僕はガジル。お会いできて光栄です」

 

「お、オウ………」

 

 

 同じ顔の人間と握手。妙な気分になりながらちらりとカイトを横目で見る。ひとしきり笑って落ち着いたのか、窓の外の様子を眺めておりこちらに意識すら向けていない。どうやら魔法で作り出したタチの悪いイタズラという線はないだろう。

 

 

「にしても……カッカッカ。魔力が有限という割には、何だか活気のある街だねぇ」

 

 

 皮肉を混えるカイトに釣られてガジルも外を見れば、そこに広がるのはパレードかと見間違うほどの煌びやかな大通り。そこかしこでは魔法を用いたであろう装飾や看板に、魔法を使ってお菓子を作り出す露店。

 街を行き交う人々の表情に翳りはなく、魔力が枯渇性資源として扱われている様には思えない。

 

 

「えぇ……お恥ずかしい話、国王は魔力をこの王国に集中させ、国民の不満を発散させているのです」

 

 

 帽子で顔を隠しながらそう答えるエドラスのガジル。

 独裁国家ということもあり、そういった暴挙に出ても国民は不満は出せても叛逆はそう易々と起こせない。何せ、武力たる魔力は国王が掌握しているのだから、足掻こうにも足掻かないのだ。一応、現王政に反抗する魔導士ギルドもいくつかあるのだが、王国軍に追われる始末。

 王政に対抗するべく、エドラスのガジルはフリーのジャーナリストとして反王政の記事を書いているが、成果は著しくない。

 

 ふーん、と空返事ひとつ。興味がないと視線を窓の外から動かさないカイト。居た堪れない空気が堪えたのか、ガジルが口を開く。

 

 

「アー、そンで。なンでテメェはオレたちの事知ってンだ?」

 

「あぁ、それはですねーーー」

 

「彼が私の協力者だからだ」

 

 

 タイミング良く玄関から現れたのはミストガン。外していた筈の覆面を付け、差し入れなのだろうその手には幾つかの紙袋が握られていた。

 

 

「テメッ、今までどこにいやがった⁉︎」

 

「情報収集の為に、先に王都に。そこで、エドラスの彼に出会ったんだ」

 

「僕もまさか、協力を依頼されるとは思いませんでしたよ」

 

 

 苦笑いひとつ溢すエドラスのガジル。ミストガンからすれば、反王政を掲げる彼は都合が良かったのだろう。まぁ、関係ないか、と心の中でこぼし、見流していた外の景色を一区切り、ミストガンに向き直る。

 

 

「やぁ、ミストガン。早速だけど、いくつか聞きたい事があるんだ」

 

「構わない。答えられる範囲であれば、答えよう」

 

「優しいねぇ。なら、一つ目。こちら側に吸い込まれたみんなの行方は?」

 

 

 指を一本立ててそう問うカイト。その鋭い視線から逃れる様に、視線を逸らしながらミストガンは答える。

 

 

「アニマに吸われたマグノリアは現在、魔水晶となっている。あまり時間をかけすぎると魔力と融合して戻れなくなってしまうから、早めに行動を移したい」

 

「そう。なら、二つ目。戻す方法は?」

 

「この世界では滅竜魔導士の特殊な魔力はさまざまな事に使える。魔水晶を破壊すればいい」

 

 

 カイトの視線がちらりとガジルに向き、その視線に気がついたガジルが任せろとばかりにニヤリと笑う。面倒な事は考えずに魔水晶を破壊、なんともシンプルで自分に適任なんだと。

 

 

「三つ目。みんなを戻したとして、帰る方法は?」

 

「それはこちらで用意している。心配しなくもと大丈夫だ」

 

 

 そ、と軽い承諾をひとつ。他に手段があるなるばまだしも、現状信じて作戦を練るしかないのだ。

 それと、と4本目の指を立てて、予想外だったのか覆面の下でもわかる程怪訝な表情のミストガンに構わず、言葉を続ける。

 

 

「先に来たっていう、ナツたちの行方は?」

 

「…………ナツ、ウェンディ、ルーシィの3人は捉えられ、エクシードの2人は母国に送還された」

 

 

 刹那、溢れんばかりの重圧が部屋を支配した。言葉もなく、魔力を放っているわけでもない。だが、カイトから発せられる見えない筈の怒りがその場の重力が何倍にもなったかのような錯覚を与えているのだ。

 

 

「オ、オイ‼︎落ち着け‼︎」

 

「落ち着く?カッカッカ……そうだね、落ちついているさ。落ち着いているとも。ああ、そういえば。御伽噺で女の子が歌で召喚した魔王が一国を滅ぼした、なんてのがあったねぇ」

 

「オイ、なンで今それを?………やめろよ?ぜってぇだぞ⁉︎」

 

「さて、どうだろうねぇ」

 

 

 ギルドを奪われ、仲間を利用され、カイトの怒りは既に臨界点ギリギリ。その上、仲間が捉えられているとわかった今、御伽噺よろしく魔王にでもなってやろうかとさえカイトは考えていた。

 これは本人さえ理解していないが、実のところカイトの中にはかつて吸血鬼が定めた掟が僅かながらに生きている。その中でも特に重んじているのが「子を傷つけてはならない」というもの。

 

 かつてその掟によって生かされていたこともあってか、カイトは例え人間といえど子供は庇護対象として見ていた。例にも漏れずウェンディの事はその対象として見ており、よく気にかけているのはその為だ。

 

 

「待ってくれ‼︎気持ちはわかる。だが、今だけは堪えてくれ‼︎」

 

「カッカッカ、可笑しなことをいうね、ミストガン。行くよ、ガジル」

 

「行くって、どこにだヨ?」

 

 

 嫌な予感がする、と付き合いの短いガジルでもわかっていた。できれば外れて欲しいと冷や汗が背中を伝う中、カラカラと笑いながらカイトは答える。

 

 

「決まっているだろう?この国、滅ぼすよ」

 

「眠れ‼︎」

 

 

 刹那、ドアに手をかけたカイトが崩れ落ち、床を枕に寝てしまう。下手人であるミストガンを責めることを、ガジルはできない。そも、こんなに過激なやつだっただろうかと疑問に思うばかりだ。

 

 実のところ、カイトが今まで暴れていないのはギルドの立場というものもあるが、マカロフとの契約のお陰だったりする。無闇に人を傷つけてはならない、という契約を結んでいなければそれこそ厄種となっていただろう。

 そのマカロフが現在は生死不明の状態で、契約は白紙に近い状態。ストッパーがなくなったカイトは暴走列車さながら。

 

 

「………本当に任せても大丈夫なんですかね?」

 

 

 エドラスのガジルの言葉に、ミストガンは「信じるしかない」と一抹の不安を抱きながら空を仰ぐのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 エドラス王国王城、その会議室にて。

 捉えられたナツ、ルーシィ、ウェンディの処遇を検討するべくの会議が国王参加の元行われていた。

 

 エドラス国王、ファウスト

 

 幕僚長、バイロ

 

 幕僚長補佐、ココ

 

 第四魔戦部隊隊長、シュガーボーイ

 

 第三魔戦部隊隊長、ヒューズ

 

 第一魔戦部隊隊長、パンサー・リリー

 

 後は第二魔戦部隊隊長のエルザ・ナイトウォーカーがいるのだが、今回は所用によって席を外している。しかし、普段であれば禁止された魔法をいまだに使おうとする魔導士ギルドを取り締まる為に各地を巡る面々が一同に揃うのはそうそうあることではない。

 ポピポピと、不思議な足音を立てながら会議室を走るココを背景に、会議は進む。

 

 

「ぐしゅしゅ………やはり言い伝え通り、地上(アースランド)の魔導士は皆、体内に魔力を持っていることがわかりましたぞ」

 

「んーーー、まるでエクシードのようだなァ」

 

「しかし、その魔力はエクシードの比にはなりましぇん」

 

 

 ポピポピ、ポピポピ。元気に走り回る姿を王は好んでおり咎めを受けることはないが、しかし、側から見れば不敬であると捉えられてもおかしくはない。

 机の周りを走るのが何周目かに入るころ、ココの頭が掴まれた。

 

 

「はうっ‼︎」

 

「ココ、何度も申しているでしょう。場を弁えなさいと」

 

 

 いつのまにそこにいたのだろう。王の斜め後ろに待機していた女中はココをそのまま持ち上げると、その顔の前まで持ち上げる。

 淡白な、いっそ感情を全て拭い取ったかのような無表情は、美麗な顔付もあって作り物のような印象を与えるもので。色も温度もない、短く刈り揃えられた髪と同じ濡羽色の瞳に睨まれるのはそれは恐怖でしかない。

 

 恐怖で震えるココを見かねてか、王が「よい」とだけ告げると、機械的にココを解放する。すぐさま距離を取って王の椅子の影に隠れるココを見つめることもなく、女中は静かにまた王の斜め後ろに待機した。

 

 

「ねぇちゃん⁉︎なんでいるんだよ⁉︎」

 

「職場でねぇちゃんはやめなさい、ヒューズ。給仕に参じたまでよ」

 

 

 よく見れば、確かに。女中の横にはカートが置いてあり、すでに王の前には紅茶が置かれていた。王が何も言わずにそれで喉を潤していれば、言えることなどない。

 弟であるヒューズはできれば姉に仕事姿を見られたくないと思っているが、職場が同じである限り不可能だろう。

 

 

「んーーー、さすがエドラス王国の女中を束ねる鉄の女。仕事が早い」

 

 

 シュガーボーイも出された紅茶に舌鼓を打ちながら、会議は進む。

 ルーシィにも魔力はあるが、エクシードの女王シャゴットより抹殺の命令が出ているため飼殺しにすることはできず、逆にナツとウェンディには何の縛りもないため、魔水晶と共に半永久的に魔力を吸い上げる方針が決定した。

 

 会議も終わり、各々が席を立って魔力を手に入れた後の皮算用に耽る中、ひとりただ静かに座っていたパンサー・リリー。甲冑を身に纏ってはいるが顔は剥き出しで、人というよりも獰猛な猫科そのものの顔は何か言葉を探しているようだ。

 

 

「どうした、リリー」

 

「陛下………最近の軍備強化についてなのですが」

 

 

 王に促され、胸の中の不満を口に出す。けれど、その先を告げるな、という王の視線に何も言えなくなり、「失礼しました」とだけ告げて去ろうとする。

 その際に、ちらりと横目に入った女中の瞳には一瞬だけ嫌悪と侮蔑の混じった物があったような気がして、けれど瞬きの内に消えてしまう。

 

 リリーの外見上、そういった奇異の眼差しで見られることは少なくない。出世も早かった為に嫉妬や妬みと言ったものにも慣れている。今回もまたそう言ったものだろう、と無視して会議室を出る。

 残された王はため息を吐いて背もたれに身体を預けると、近くに寄った女中の話を聞く。

 

 

「王よ、例の作戦はいかがいたしましょう?」

 

「進めておけ………その時にはお主にも働いてもらう事となる。よいな、カイト」

 

「御意」

 

 

 腰を曲げて礼をひとつ。カイト、と呼ばれた女中は機械的に淡々と、命令をこなすのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ざわざわ、と賑やかな声がそこかしこから聞こえる。

 言葉として聞き取れば、誰も彼もが王を称賛し、讃え、幸福な未来がやってくるのだと騒いでいる。

 はん、とひとつ鼻で笑い飛ばす。一体、誰の犠牲の上に成り立つ生活なのかと侮蔑の視線を飛ばしていれば、先行していたガジルから早く来いと促された。

 

 2人が現在いるのは王都のメイン通り。その先にある広場に鎮座する魔水晶を目指してだ。

 どうやら魔水晶は切り出されたものらしく側面に断面が見えており、残りの魔水晶は安全を踏まえ浮島のひとつに補完されているらしい。それがどうしようもなく腹立たしく、衝動的に周囲の破壊を考えるがガジルから睨まれて止める。

 

 今のところ、ガジルとミストガンが最後の心の拠り所だ。その2人から念押しに破壊を禁止されては頷く他あるまい。

 肩を竦めてガジルと並び立つと、魔水晶に集まる民衆に紛れて状況を確認する。

 

 魔水晶を中心に、等間隔で衛兵が並び、一定の範囲には近づかないように牽制している。人数はおおよそ40人前後、といったところだろう。

 国を滅ぼす、と言ったカイトだがさすがにそう易々と事が進むと思っていない。確かにエドラスは魔力が有限ではあるが、だからと言って弱いわけではないのだ。

 

 練度の差はあれど、下手をすれば全国民が魔導士にもなれるエドラスの魔法体系。これは魔導士の適正がなければ魔法を使えないアースランドではまず不可能な事だ。

 

 

「いいか?作戦通り進めろヨ?ぜってぇ余計な事すンなよ⁉︎」

 

「信用ないねぇ。わかってるよ、壊すのは魔水晶だけ。街への被害はなしで、でしょ?」

 

 

 本当にわかっているのか、と不安に思いつつ、ガジルは頷く。そして人混みを掻き分けて前へ進み、最前列まで辿り着くと一気に魔水晶へと走り出す。

 

 

「な、何者だっ‼︎」

 

「敵襲、敵襲‼︎」

 

 

 あっという間に取り囲まれそうになるガジル。けれど、その足は止まらない。一直線に魔水晶へと進むガジルを妨害しようと槍を片手に衛兵が進路を妨害するが、ガジルの背後から現れた黒犬が応戦する。

 

 

「うわっ、なんだこいつら⁉︎」

 

「どこから⁉︎」

 

黒犬(ブラック・ドック)。さぁ、ガジル。景気良くやっちゃえ」

 

「ケッ、わァってるよ‼︎鉄竜棍(てつりゅうこん)‼︎」

 

 

 道が開けた先にある魔水晶へと跳躍。その勢いのまま繰り出された滅竜魔法。この世界で唯一、魔水晶から元の形へと戻すことのできるその魔力は、魔水晶へとヒビを入れ、それが加速的に全体に広がる。

 まさかの事態に民衆も言葉を無くし、一瞬の静寂。そして魔水晶が弾けるように消えるとそこにはエルザとグレイの2人がいた。驚いたのは民衆だ。自分たちの希望の象徴とも言える魔水晶が破壊されたのだ。

 

 テロリストだ、反乱軍だ、と騒ぎながら我先にと逃げ惑い、衛兵たちは突如現れたエルザとグレイに困惑する。

 

 

「なんで、エルザ隊長が………?」

 

「横にいるのはフェアリーテイルのグレイ・ソルージュ‼︎けど、なんで魔水晶に??」

 

「ん………、ここは?」

 

「なんだァ、こりゃ」

 

 

 エルザとグレイの姿を見て、1人ほっと胸を撫で下ろすガジル。暴れ出すかもしれないカイトのストッパーがピンポイントで現れたのだ。柄でもなく両手を高々と上に上げたい衝動を抑え、2人に近づく。

 

 

「詳しい話は後だ‼︎てめぇらはさっさとあの城に向かえ‼︎カイト‼︎」

 

「はいはい、わかってるよ。ほら、2人とも、これ飲んで」

 

 

 わけもわからず困惑する2人にエクスボールを渡し、混乱から立ち直って衛兵たちを黒犬で牽制する。

 

 

「おい、カイト。どうなっているんだ、これは?」

 

「てか、ここドコだよ⁉︎あー、くそっ‼︎わかんねぇことだらけじゃねェか‼︎」

 

「悪いけど、道すがら話すよ。今ちょっと余裕ないから、さ‼︎」

 

 

 黒犬では埒が明かないと、足元の影から巨大な蛇を生み出し道を作る。先行しようとするカイトを、エルザが待ったをかけた。何もわからない、どうすればいいのかわからない状況。だが、これだけは間違いなく正さねばならないと。

 

 

「待て。カイト、お前が先行すれば迷子になる。場所を教えろ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 エドラス王国に捉えられていたナツ、ウェンディ、ルーシィの3人。ナツとウェンディは利用価値と実験があるため万が一も踏まえ地下で監禁され、ルーシィは小高い塔の中にいた。

 

 抹殺命令の下っているルーシィを亡き者にしようと、エドラスのエルザが高所からルーシィを落とすが、寸前のところでエクスタリアから逃げ出したハッピーとウェンディにより救出。

 しかし、ハッピーとウェンディを追うエクスタリア兵と王国軍に挟まれ絶対絶命の危機に陥るが、王国はエクスタリア兵を魔水晶へと変えてしまった。

 

 それは明確な敵対行為。エドラスにおいて天使とも神とも謳われるエクシードへの反乱。無限の魔力を手に入れるため、エクシードと魔水晶を犠牲にするコード-ETD(エクシード・トータル・デストラクション)が国王の手によって発令された。

 

 それには滅竜魔導士の魔力が必要不可欠であり、目下の目標はナツとウェンディの救出。シャルルが騙し得た情報を元に、ルーシィたちはそちらへと向かう。

 

 

「きゃっ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

 

 地下へと向かう階段の中、突如背後から槍が投げられる。躱すことはできたが、尻を強かに打ったルーシィがそちらを睨むと、そこにエドラスのエルザがいた。

 

 

「この先には行かせんぞ」

 

「もう‼︎あたしたちに興味なくしたんじゃないの⁉︎」

 

 

 理不尽さに吠えるルーシィ。星霊魔法は手枷の影響で使えず、使えたとしてもエルザの後ろに控える兵士たちまで相手するとなると難しい。悔しさに歯を噛み締めていれば、投擲された槍が光出す。

 

 

「え⁉︎」

 

 

 爆音、そして衝撃が3人を襲い、地下へと転がる。死んではいないが、それでも身体を動かさない程のダメージを負った3人に悠々と近づくエルザ。その時だった、通路の奥から少女の叫び声が聞こえたのは。

 

 

「ウェンディの声………」

 

 

 長年連れ去ったシャルルが聞き間違えるはずもない。これは自らのパートナーの、悲痛の叫びだと。

 

 

「アンタたち……ウェンディに何してるの……」

 

「コードETDに必要な魔力を奪っているんだ」

 

「や、やめて………やめなさいよ‼︎」

 

 

 未だに続くウェンディの叫び。噛み付くシャルルに槍の穂先が向けられた。

 

 

「気にやむな。どうせ、おまえはここで死ぬ」

 

 

 常であればエクシードに槍を向けるなど、あってはならない。だが、既にエクシードの翼は折れ、王国の未来への糧でしかないのだ。

 

 

「ウェンディはやらせないぞ‼︎‼︎」

 

「ならばお前からだ」

 

 

 痛む身体に鞭打ってハッピーがシャルルの前に立つが、エルザは冷徹に、冷淡に槍を振り上げる。

 

 

「ダメェーーーー‼︎」

 

 

 シャルルの叫びが響き、そしてーーーー

 

 

「なんだ‼︎⁉︎」

 

 

 その穂先がハッピーの直前で止められ、エドラスのエルザが突如爆破でもしたように騒ぎ出す背後を睨む。いっそ面白いように宙を舞う兵士たちの間から現れる3つの影。

 

 

「オイ、コラてめえら。そいつらウチのギルドのモンだと知っててやってんのか?」

 

「ギルドの仲間に手を出した者を、私たちは決して許さんぞ」

 

「カッカッカ………まぁ、許すつもりはないんだけどねぇ。お前たちは全員、フェアリーテイルの敵だよ」

 

 

 砂塵の中から堂々と現れたのはグレイ、エルザ、カイトの3人。まさかの登場に驚くも、頼りになる仲間の姿に安堵してルーシィたちは涙を流すのであった。

 

 

 

 

 

 

 


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